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平成27年1月28日判決言渡
平成26年(行ケ)第10068号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成26年12月4日
判決
原告セントラル硝子株式会社
訴訟代理人弁護士本多広和
同中村閑
訴訟代理人弁理士古橋伸茂
同岩田耕一
被告ゾルファイフルーオルゲゼルシャフト
ミットベシュレンクテルハフツング
訴訟代理人弁理士実広信哉
同堀江健太郎
主文
1特許庁が無効2010-800040号事件について平成26年2月12日
にした審決のうち,「2請求人の請求のうち,特許第3949889号の請
求項1~4(訂正前の請求項11,12,15及び20)に係る発明について
の請求は,成り立たない。」との部分及び「4審判の総費用は,これを16
分し,その4を請求人の負担とし,その余を被請求人の負担とする。」との部
分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め
る。
事実及び理由
第1請求の趣旨
主文と同旨
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等(甲18,21,22の1及び2,25,27,
乙2,3の1及び2,4,並びに弁論の全趣旨により認められる。)
被告は,発明の名称を「ポリウレタンフォームおよび発泡された熱可塑性プ
ラスチックの製造」とする特許第3949889号(平成11年5月15日国
際出願(パリ条約による優先権主張平成10年5月22日),平成19年4
月27日設定登録。以下「本件特許」という。設定登録時の請求項の数は20
であった。)の特許権者である。
原告は,平成22年3月8日,特許庁に対し,本件特許の請求項1ないし1
2,14ないし16,19及び20に係る発明についての特許を無効とするこ
とを求めて審判の請求をし,特許庁は,この審判請求を無効2010-800
040号事件(以下「本件審判請求事件」という。)として審理した。その過
程で,原告は,同年4月1日付け手続補正により,無効審判請求に係る請求項
を,本件特許の請求項1,2,4ないし12,14ないし16,19及び20
と補正し,被告は,同年7月8日,本件特許の特許請求の範囲の減縮を目的と
する訂正の請求を行った(これに係る訂正を,以下「第1次訂正」といい,こ
れにより訂正された本件特許の特許請求の範囲に係る発明を,以下「第1次訂
正発明」という。)。
特許庁は,平成23年5月6日,本件審判請求事件について,「訂正を認め
る。本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」
との審決(以下「第1次審決」という。)をし,同審決の謄本を,同月17日,
原告に送達した。
原告は,同年6月15日,知的財産高等裁判所に対し,第1次審決の取消し
を求める訴えを提起し,同裁判所は,これを平成23年(行ケ)第10191
号審決取消請求事件として審理した上,平成24年2月28日,第1次審決を
取り消す旨の判決(以下「第1次取消判決」という。)を言い渡し,同判決は,
その後,確定した。
特許庁は,本件審判請求事件についてさらに審理した上,平成25年1月1
6日,「訂正を認める。なお,特許第3949889号の請求項3,13及び
17に係る訂正については,平成23年5月6日付けの審決の送達によって,
既に確定している。特許第3949889号の請求項1,2,5ないし12,
14ないし16,19及び20に係る発明についての特許を無効とする。特許
第3949889号の請求項4に係る発明についての審判請求は,成り立たな
い。審判費用は,その16分の1を請求人の負担とし,16分の15を被請求
人の負担とする。」との審決(以下「第2次審決」という。)をし,同審決の
謄本を,平成25年1月30日,被告に送達した。
被告は,同年5月29日,知的財産高等裁判所に対し,第2次審決のうち
「特許第3949889号の請求項1,2,5ないし12,14ないし16,
19及び20に係る発明についての特許を無効とする。」との部分の取消しを
求める訴えを提起するとともに,特許庁に対し,同年8月26日,本件特許の
特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正審判を請求
した(訂正2013-390122号事件。これに係る訂正を,以下「本件訂
正」という。)。
知的財産高等裁判所は,上記訴えを平成25年(行ケ)第10152号審決
取消請求事件として審理した上,平成25年10月15日,平成23年法律第
63号による改正前の特許法181条2項に基づき,「1特許庁が無効20
10-800040号事件について平成25年1月16日にした審決のうち,
「特許第3949889号の請求項1,2,5ないし12,14ないし16,
19及び20に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
2訴訟費用は原告の負担とする。」との決定をし,同決定は,その後,確定
した。
特許庁は,本件審判請求事件について,上記訂正審判請求に係る請求書に添
付された明細書を援用する訂正の請求がされたとみなした上,さらに審理をし,
平成26年2月12日,「1訂正を認める。2請求人の請求のうち,特許
第3949889号の請求項1~4(訂正前の請求項11,12,15及び2
0)に係る発明についての請求は,成り立たない。3請求人のその余の請求
(訂正前の請求項1,2,5~10,14,16及び19に係る発明について
の請求)を却下する。4審判の総費用は,これを16分し,その4を請求人
の負担とし,その余を被請求人の負担とする。」との審決(以下「本件審決」
という。)をし,同審決の謄本を,同月20日,原告に送達した。
原告は,同年3月19日,本件審決につき,前記第1「請求の趣旨」に記載
の裁判を求めて本件訴えを提起した。
2特許請求の範囲
本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲2
2の2。以下,これらの請求項に係る発明を,請求項の番号に従い,順次「本
件訂正発明1」,「本件訂正発明2」などといい,これらの発明を総称して,
「本件訂正発明」という。また,本件訂正後の本件特許の明細書を,以下「本
件明細書」という。)。
【請求項1】a)1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン(HFC-3
65mfc)30質量%以下および
b)1,1,1,3,3-ペンタフルオルプロパン(HFC-245fa)
を含有するかまたは該a)およびb)から成る発泡剤組成物(但し,HFC-
134a又はHCFC-141bを含まない)。
【請求項2】HFC-365mfc5~30質量%以下を含有する,請求
項1記載の発泡剤組成物。
【請求項3】液化されたCO22~50質量%を含有する,請求項1記載
の発泡剤組成物。
【請求項4】1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン1~30質量%以
下および
1,1,1,3,3-ペンタフルオルプロパン50質量%超~99質量%
を含有するかまたはこれらのものから成る,低い温度での熱伝導性に関連して
改善された性質を有するPU硬質発泡材料の製造に使用可能な発泡剤混合物
(但し,HFC-134a又はHCFC-141bを含まない)。
3本件審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件訂正発明は,“AStatus
ReportontheDevelopmentofHFCBlowingAgentforRigid
PolyurethaneFoams”(POLYURETHANESWORLDCONGRESS1997,p.514-523)
(以下「甲1文献」という。)に記載の発明及び欧州特許出願公開第074
2250号明細書(以下「甲4文献」という。)に記載の発明のいずれを主
たる引用発明としても,当該発明から当業者が容易に発明をすることができ
たということはできないというものである。
本件審決が,上記結論を導くに当たり認定した,甲1文献に記載の発明
(以下「甲1発明」という。)及び甲4文献に記載の発明(以下「甲4発
明」という。)の内容,本件訂正発明1と甲1発明ないし甲4発明との一致
点及び相違点は,次のとおりである。
ア甲1発明との対比
甲1発明の内容
「HFC-245fa及びHFC-365mfcのHCFC-141b
に対する放散を比較調査するために用いられる,硬質ポリウレタンフォ
ームの製造に使用可能な発泡剤としての混合物ないしは組成物であり,
HCFC-141b,HFC-245fa及びHFC-365mfcを
含む発泡剤混合物ないしは発泡剤組成物」。
一致点
「1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン(HFC-365mf
c)及び1,1,1,3,3-ペンタフルオルプロパン(HFC-24
5fa)を含有する発泡剤組成物」である点。
相違点
a相違点1
HFC-365mfcの含有割合について,本件訂正発明1は「3
0質量%以下」と特定するのに対し,甲1発明はかかる特定事項を有
しない点。
b相違点2
本件訂正発明1は「(但し,HFC-134a又はHCFC-14
1bを含まない)」との特定事項を有しているのに対し,甲1発明は
HCFC-141bを含む旨を特定している点。
イ甲4発明との対比
甲4発明の内容
「HFC-134aを50~95重量部,HFC-365mfcを5~
50重量部含む軟質ポリウレタンフォームの製造に使用可能な発泡剤組
成物」。
一致点
「1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン(HFC-365mf
c)を含有する発泡剤組成物」である点。
相違点
a相違点5
HFC-365mfcの含有割合について,本件訂正発明1は「3
0質量%以下」と特定するのに対し,甲4発明は「5~50重量部」
と特定する点。
b相違点6
本件訂正発明1は「(但し,HFC-134a又はHCFC-14
1bを含まない)」との特定事項を有しているのに対し,甲4発明は
HFC-134aを50~95重量部含む旨を特定している点。
c相違点7
本件訂正発明1は「1,1,1,3,3-ペンタフルオルプロパン
(HFC-245fa)」を含有してなる旨を特定するのに対し,甲
4発明はかかる特定事項を有しない点。
第3原告の主張
本件審決には,①第1次取消判決の拘束力に抵触する判断をした誤り(取消
事由1),②相違点2に係る本件訂正発明の構成の容易想到性についての判断
の誤り(取消事由2),及び③いわゆる「除くクレーム」の構成に係る相違点
に関する容易想到性についての判断の誤り(取消事由3)があり,これらの誤
りはいずれも本件審決の結論に影響を及ぼすものであるから,本件審決は,原
告が本件訴えにおいて請求する限度で取り消されるべきである。
1取消事由1(第1次取消判決の拘束力に抵触する判断をした誤り)
本件審決は,相違点2に関して,甲1発明は,硬質ポリウレタンフォーム
の製造に使用可能な発泡剤組成物に係るものであり,HFC-245fa及
びHFC-365mfcのHCFC-141bに対する放散を比較調査する
ために用いられるものであるところ,このような甲1発明からHCFC-1
41bを除去すると,もはや上記比較調査ができなくなってしまうため,甲
1発明からHCFC-141bを除去し,その代替物としてHFC-245
faないしHFC-365mfcを使用することは,当業者が容易に想到し
得ることではなく,甲1発明からHCFC-141bを除去することには,
阻害事由があると判断した。
しかしながら,第1次取消判決は,(a)甲1発明に係る発泡剤組成物が
放散比較調査に用いられることを認定した上で,(b-1)甲1文献にはH
CFC-141bの代替物質としてHFC-245fa及びHFC-365
mfcを発泡剤として使用することが提案され,(b-2)HCFC-14
1bを熱的性能,防火性能を理由に依然として含有させるべきであるとの見
解が示されているわけではないから,(c)甲1発明において,混合気体か
らHCFC-141bを除去し,その代替物質としてHFC-245faな
いしHFC-365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に
予測できないとした第1次審決は誤っている,と判断した。
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が
確定したときは,当該審判事件についての再度の審理,審決には,行政事件
訴訟法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘
束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる
ものであるから,審判官は,取消判決の認定判断に抵触する判断をすること
は許されない。
本件審決と第1次取消判決とでは,同一の先行文献(甲1文献)が引用さ
れ,本件訂正発明1と対比された当該先行文献中の発泡剤組成物も同一であ
る。そして,第1次取消判決は,(a)甲1発明に係る発泡剤組成物が放散
比較調査に用いられるものであることも認定した上で,前記(b-1)及び
(b-2)の理由に基づき,(c)甲1発明において,混合気体からHCF
C-141bを除去し,その代替物質としてHFC-245faないしHF
C-365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測でき
ないとした第1次審決は誤っている,と判断している。
しかるに,本件審決は,第1次取消判決の拘束力の及ぶ範囲を,前記(b
-1)及び(b-2)に限定し,その他の認定・判断事項を拘束力の及ぶ範
囲から恣意的に排除した結果,前記(a)の認定から,前記(c)の判断と
正反対の結論を導き出したものである。
そうすると,相違点2に係る本件訂正発明1の構成の容易想到性に関する
本件審決の判断は,第1次取消判決の判断に抵触するものであり,同判決の
拘束力に違反する。同様の理由で,本件訂正発明2ないし4の容易想到性に
ついての本件審決の判断にも誤りがあるから,本件審決は,これらの誤りの
存する限度で取り消されるべきである。
2取消事由2(相違点2に係る本件訂正発明の構成の容易想到性についての判
断の誤り)
甲1文献は,オゾン層に悪影響を与えるHCFC-141bの代替物質とし
てHFC-245fa及びHFC-365mfcの発泡剤としての使用を提案
するものであるから,甲1文献に記載のHCFC-141b,HFC-245
fa及びHFC-365mfcを含む発泡剤組成物が,たとえ放散を比較調査
する目的のために用いられるものであったとしても,オゾン層に悪影響を与え
るため代替物質が検討されているHCFC-141bを用いないようにしよう
と動機付けられること,すなわち,当該発泡剤組成物からHCFC-141b
を除去しようと動機付けられることは明らかである。
また,甲1文献には,HCFC-141bの代替物質の中でも,硬質ポリウ
レタンフォーム用発泡剤としての性能のみならず,製造の容易さも考慮すると,
HFC-245fa及びHFC-365mfcが最も有望であるということが
開示されている。したがって,甲1文献の当該開示に接した当業者であれば,
硬質ポリウレタンフォーム用の発泡剤組成物として,HFC-245faとH
FC-365mfcとの組合せを用いることに全く困難性はない。
よって,仮に,相違点2についての本件審決の判断に第1次取消判決の拘束
力が及ばないとしても,相違点2に係る本件訂正発明1の構成の容易想到性に
関する本件審決の判断には誤りがあり,同様の理由で,本件訂正発明2ないし
4の容易想到性についての本件審決の判断にも誤りがあるから,本件審決は,
これらの誤りの存する限度で取り消されるべきである。
なお,HFC-245fa及びHFC-365mfcを含む発泡剤組成物に
おいて,HFC-365mfcの含有割合を30質量%以下とすること,すな
わち,相違点1に係る本件訂正発明1の構成に至ることは,①当業者は,発泡
剤使用時の火災防止の観点から,他の発泡剤と異なり引火点を有するHFC-
365mfcの使用量を減らそうと動機付けられること,②少なくとも熱伝導
率等の特性については,HFC-245faはHFC-365mfcよりも良
好な特性を与えると解されるから,良好な断熱特性を与えるHFC-245f
aの配合割合を増やし,これに伴いHFC-365mfcの含有量を減らす動
機付けが存在すること,③本件明細書や追加実験データをみても,HFC-3
65mfcの含有量を30質量%以下にすることに臨界的意義を見出すことが
できないこと,からすれば,当業者が容易に想到し得ることである。
3取消事由3(いわゆる「除くクレーム」の構成に係る相違点に関する容易想
到性についての判断の誤り)
たとえ,甲1発明においてはHCFC-141bが,甲4発明においてはH
FC-134aが,課題解決のための必須成分であったとしても,当該必須成
分をピンポイントで除く,いわゆる「除くクレーム」の構成とすることで,新
規性ばかりか,直ちに進歩性まで認められることとなるのは,本来進歩性が認
められないような発明にまで特許による保護を与えるという不合理な結果を招
くものであり,不当である。
「除くクレーム」の手法が用いられた発明においても,通常の発明と同様に
進歩性が判断されることは当然であり,その特許性については,「除いた」部
分のみに着目するのではなく,これと隣接する部分を含む「残った部分の発
明」自体が先行技術に対して進歩性を有するかどうかを適切に判断しなければ
ならない。
それにもかかわらず,本件審決は,甲1発明や甲4発明からみて,本来進歩
性を有さなかった本件訂正発明について,「(但し,HFC-134a又はH
CFC-141bを含まない)」との「除くクレーム」の構成が加えられた点
だけに着目し,「除いた部分の発明(先行発明)」に隣接する部分が先行発明
に対して容易に想到できるか否かについての判断を無視しており,重大な誤り
を含んでいる。
第4被告の主張
1取消事由1について
本件審決中の相違点2に関する認定判断は,第1次取消判決の認定判断と抵
触するものではなく,同判決の拘束力に違反するものではない。このことは,
本件訂正発明1についての認定判断だけでなく,本件訂正発明2ないし4につ
いての認定判断も同様である。
第1次取消判決は,第1次審決が甲1発明を具体的に認定していないこと
を前提に,甲1文献をごく一般的に眺めた結果に基づき,同文献の記載内容
を認定したにとどまり,また,HCFC-141bと他の発泡剤(第1次取
消判決は,これがHFC-245fa及びHFC-365mfcであるとは
述べていない。)を含む「混合気体」を想定した場合に,熱的性能及び防火
性能を理由として,HCFC-141bを依然として含有させるべきである
との見解は示されていないと指摘するにとどまる。
そうすると,第1次取消判決においては,具体的に認定された甲1発明と,
本件審決で認定された本件訂正発明との間の相違点の認定及び当該相違点に
ついての判断に関する具体的な議論は行われていない。すなわち,第1次取
消判決自体,「甲1に記載された混合気体」が「HFC-365mfc,H
FC-245fa及びHCFC-141bを含む発泡剤組成物」であると認
定しているものではない。
一方,本件審決は,第1次審決とは異なり,甲1文献に基づいて甲1発明
を具体的に認定した上,当該認定に基づいて,甲1発明と本件訂正発明との
相違点を認定し,相違点に係る構成の容易想到性を議論している。
そして,第1次取消判決には,「差し戻した後に再開される審判過程にお
いて,引用例記載の発明の認定及び本件訂正発明と引用例記載の発明との相
違点等について,別途の主張ないし認定がされた場合には,その認定結果を
前提として,改めて,相違点に係る容易想到性の有無の判断をした上で,結
論を導く必要が生じることになる旨付言する。」とあるとおり,甲1発明を
新たに認定し,かつ,甲1発明と本件訂正発明との相違点2を新たに認定し,
甲1発明の目的を踏まえて相違点2についての判断を新たに示している本件
審決中の相違点2に関する認定判断に,第1次取消判決の拘束力は及ばない。
第1次審決及びこれを取り消した第1次取消判決は,第1次訂正により訂
正された第1次訂正発明を前提としたものであるのに対し,本件審決は,本
件訂正により訂正された本件訂正発明を前提としたものである。
そして,第1次訂正発明と本件訂正発明とは,①前者では方法発明に係る
請求項が存在するのに対し,後者では存在しない点,②発泡剤組成物中のH
FC-365mfcの配合量上限が,前者では50質量%未満であるのに対
し,後者では30質量%以下である点,③HFC-365mfcと組み合わ
されるべき他の発泡剤が,前者ではHFC-245faに限定されていない
のに対し,後者ではHFC-245faに限定されている点,において,大
きく異なる。
よって,本件訂正発明を前提とする本件審決の相違点2に関する認定判断
は,本件訂正発明とは異なる第1次訂正発明を前提とする第1次取消判決の
拘束力に抵触しない。
第1次取消判決は,HCFC-141bと他の発泡剤とを含む「混合気
体」において,HCFC-141bの優れた熱的性能及び防火性能を理由と
しては,上記混合気体からHCFC-141bを除去できないとはいえない
と述べるにとどまり,HCFC-141bの優れた熱的性能及び防火性能以
外を根拠とする場合を含めて説示するものではない。
この観点からすると,本件審決の認定した甲1発明は,HFC-245f
a及びHFC-365mfcのHCFC-141bに対する放散を比較調査
するために用いられることを前提としており,甲1発明の目的達成のために
は,甲1発明からHCFC-141bを完全に除去することはできない。そ
して,甲1発明からHCFC-141bを完全に除去できない理由は,甲1
発明が目的とする放散比較調査の実施のためであって,HCFC-141b
の優れた熱的性能及び防火性能を根拠とするものではない。
このような点に照らしても,本件審決中の相違点2に関する認定判断は,
第1次取消判決の拘束力に抵触しない。
2取消事由2について
甲1文献には,オゾン層に悪影響を与えるHCFC-141bの代替物質と
してHFC-245fa及びHFC-365mfcの発泡剤としての使用が提
案されているが,この提案は,あくまでオゾン層への悪影響に基づく一般論に
すぎない。
一方,甲1発明は,上記一般論とは離れて,HFC-245fa及びHFC
-365mfcの性能をHCFC-141bの性能と比較調査することを目的
として調製された,HCFC-141b,HFC-245fa及びHFC-3
65mfcを特定の割合で含む具体的な組成物である。そして,上記の比較調
査では,HCFC-141bの放散速度と,HFC-245faやHFC-3
65mfcの放散速度の相対比較を科学的に正確に行うために,HCFC-1
41bと,HFC-245faやHFC-365mfcとを混合して使用する
ことが必須である。
このように,甲1発明は科学的に意味のある比較調査を実施するためにHC
FC-141bを含むことを前提としている以上,上記一般論を踏まえても,
甲1発明からHCFC-141bを除去する動機付けは存在しない。
これに対し,甲1発明からHCFC-141bを除去する動機付けがあると
する原告の主張は,かかる甲1発明そのものの目的を無視した議論であり不合
理である。
また,硬質ポリウレタンフォーム用の発泡剤組成物として,HFC-245
faとHFC-365mfcとの組合せを用いることに全く困難性はないとの
原告の主張は,相違点2に関しては,甲1発明からHCFC-141bを完全
に除去することの容易想到性が議論されるべきであり,HFC-245faと
HFC-365mfcとの組合せの容易想到性は,相違点2とは無関係である
ことからすると,失当である。
なお,甲1文献には,HFC-245faがHFC-365mfcより優れ
ているとの開示は存在しないし,HFC-365mfcをHFC-245fa
と混合する場合に,低温での熱伝導性が改善された発泡材料を製造するために
HFC-365mfcの量を30質量%以下とし,その一方で,例えば,HF
C-245faの量を50質量%超とすべきであることは記載も示唆もされて
いない。よって,甲1文献から相違点1に係る本件訂正発明1の構成に至るこ
とが容易想到であるとはいえない。
3取消事由3について
本件訂正発明の技術思想は,30質量%以下の比較的少量のHFC-365
mfc及びHFC-245faの組合せを使用することによって,低温での熱
伝導性が改善された発泡材料を製造するというものである。
一方,甲1発明は,あくまで,HFC-245fa及びHFC-365mf
cのHCFC-141bに対する放散を比較調査するために用いられる,発泡
剤の混合物又は組成物であり,上記のとおりの本件訂正発明の技術思想を開示
ないし示唆するものではない。
また,甲4発明は,HFC-134aはフッ素化クロロ炭化水素と同様にジ
イソシアネート及びポリイソシアネートをベースとするフォームを発泡させる
のに好適であるとの知見に基づく発明であって,HFC-134aの使用を前
提としており,また,それ自体が甲4発明の本質(技術思想)である。そして,
甲4発明も,上記のとおりの本件訂正発明の技術思想を開示ないし示唆するも
のではない。
そこで,本件訂正発明では,いわゆる「除くクレーム」を用いて,本件訂正
発明がたまたま有していた甲1発明及び甲4発明との重なりを排除し,本件訂
正発明が甲1発明や甲4発明とは本来的に全く異なるものであることを明瞭に
しているのであり,このように,先行技術と技術思想が大きく異なり,本来的
に進歩性を有する発明については,「除くクレーム」を使用することで特許を
受けることが可能であることは容認されているところである。
原告は,「除くクレーム」の形式によって,新規性ばかりか直ちに進歩性ま
で認められることとなるのは,不当であると主張する。しかしながら,本件訂
正発明は,「除くクレーム」の形式を採用したこと自体によって進歩性が直ち
に認められたわけではなく,「除くクレーム」により除かれた部分(先行技
術)の目的を踏まえた本件審決の相違点についての合理的な議論の結果,その
進歩性が認められたものであるから,原告の上記主張は誤りである。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,本件審決には,第1次取消判決の拘束力に抵触する判断をした
誤り(取消事由1)及び相違点2に係る本件訂正発明の構成の容易想到性につ
いての判断の誤り(取消事由2)があり,これらの誤りはいずれも審決の結論
に影響を及ぼすものであるから,その余の取消事由について判断するまでもな
く,本件審決は取消しを免れないと判断する。
その理由は次のとおりである。
1取消事由1(第1次取消判決の拘束力に抵触する判断をした誤り)について
審決取消判決の拘束力について
特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が
確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件に
ついて更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件
訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の
規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主
文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,
審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されな
い。したがって,再度の審判手続において,審判官は,取消判決の拘束力の
及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張
を繰り返すこと,あるいはかかる主張を裏付けるための新たな立証をするこ
とを許すべきではなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,そ
の限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とする
ことができないのは当然である(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決
・民集46巻4号245頁)。
本件審決は,本件審判請求事件の第1次審決が第1次取消判決によって取
り消された後に,本件審判請求事件について更に行われたものである。
そこで,本件審決において,第1次取消判決の拘束力に抵触する認定判断
がされているか否かについて,検討する。
第1次審決,第1次取消判決及び本件審決の判断内容について
第1次審決,第1次取消判決及び本件審決は,甲1文献に記載された事項
ないしは甲1文献に記載された発明から,本件特許に係る発明に想到するこ
とが容易であるか否かに関して,それぞれ次のとおりの認定判断を行った
(これらの審決や判決において,「甲第1号証」あるいは「甲1」とあるの
は,いずれも甲1文献を指す。)。
ア第1次審決(乙2)
第1次審決は,「請求人は,無効理由1として,本件訂正発明(判決注
・第1次訂正発明を指す。第1次取消判決における文言を含め,以下,同
じ。)1,2,4~12,14~16,19及び20は,甲第1号証に記
載された発明,甲第1号証および甲第12号証に記載された発明,または
甲第1号証および甲第3号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に
発明をすることができたものである旨主張している。」(審決書14頁3
0行目ないし同頁34行目)とした上で,甲1文献等の記載内容を摘記し
た(審決書15頁2行目ないし同16頁下から3行目)。
そして,第1次審決は,これに続いて,第1次訂正後の本件特許の請求
項1,2,4ないし12,14ないし16及び19が,少なくとも,
「a)1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン50質量%未満(HF
C-365mfc)および
b)…;ペンタフルオルプロパン;…を含む群から選ばれた少なくとも
1つの他の発泡剤
を含有するかまたは該発泡剤から成る発泡剤組成物(但し,HFC-13
4a又はHCFC-141bを含まない)」
との事項(以下「発泡剤成分事項1」という。)を発明特定事項として備
えること,また,同請求項20が,少なくとも,
「1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン1~50質量%未満および
1,1,1,3,3-ペンタフルオルプロパン,…からなる群から選択さ
れる弗素化炭化水素少なくとも1つ50質量%超~99質量%
を含有するかまたはこれらのものから成る発泡剤混合物(但し,HFC-
134a又はHCFC-141bを含まない)」
との事項(以下「発泡剤成分事項2」という。)を発明特定事項として備
えるものであると認定した上で(審決書18頁8行目ないし29行目),
次のとおり判断した。
「これらの発明特定事項1または2(判決注・「発泡剤成分事項1または
2」の誤記と解される。)が,甲第1号証…に記載された発明に基いて当
業者が容易に想到できるか否かについて以下に検討する。
甲1号証には,…硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤として用いられる
HCFC-141bは熱的性能,防火性能に優れているが,オゾンを破壊
するため,今後徐々に使用が制限されること…,この代替物質としてHF
C-245fa,HFC-365mfcなどが有望であること…が記載さ
れており,確かに,硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤を,HCFC-1
41bから,HFC-245fa,HFC-365mfcなどに代替して
いく方向性は示されているといえる。
しかしながら,このような方向性を踏まえたものとして,具体的に示さ
れている発泡剤は,空気,CO2,HFC-245fa,HCFC-14
1b及びHFC-365mfcの初期体積分率(%)が,それぞれ,1.
5,38.5,22.4,16.8及び20.8である混合気体(摘示1
-4(判決注・甲1文献の表6を指す。その
おりである。))…であって,「HCFC-141b」を成分として含有
する点で,本件訂正発明1,2,4~12,14~16及び19が発明特
定事項として備える発泡剤成分事項1または本件訂正発明20が発明特定
事項として備える発泡剤成分事項2を備えていない。

これについて,請求人は,「甲第1号証には,硬質ウレタンフォームに
用いる発泡剤として,オゾン層破壊効果の高いHCFC-141bの使用
を積極的に中止することを促している開示があるので,HFC-245f
a,HCFC-141bおよびHFC-365mfcを用いたサンプル1
発泡剤から,HCFC-141bを除去すること(用いないこと)は,当
業者であれば容易に想到し得ることである。」旨主張している。…
しかしながら,上述のように,甲第1号証には,確かに,硬質ポリウレ
タンフォーム用発泡剤を,HCFC-141bから,HFC-245fa,
HFC-365mfcなどに代替していく方向性は示されているといえる
が,このような方向性を踏まえたものとして,具体的に示されている発泡
剤組成物は,その成分として,代替物である「HFC-245fa」及び
「HFC-365mfc」とともに「HCFC-141b」を依然として
含有するものであって,この発泡剤組成物から,さらに熱的性能,防火性
能に優れる「HCFC-141b」を完全に除去することは,当業者が予
測できるとはいえない。」(審決書18頁29行目ないし同19頁34行
目)
以上を踏まえ,第1次審決は,「甲第1号証に記載された混合気体(摘
示1-4)」から,発泡剤成分事項1又は2を,当業者といえども容易に
想到できるとはいえないと結論付けた。
イ第1次取消判決(甲21)
これに対し,第1次取消判決は,第1次審決を取り消すに当たり,まず,
「…原告は,①「HCFC-141bが有する熱的性能および防火性能を
犠牲にしてもオゾン層の破壊を最小限に防ぐ」という甲1記載の発明の解
決課題を誤解し,「HCFC-141b」の熱的性能,防火性能に優れる
との点を過大に評価して,本件訂正発明に想到することは容易でないとし
た審決の判断,②「HCFC-141bの代替物として作用する発泡剤組
成物」が得られるかについて当業者は予測できないとした審決の判断,…
は,いずれも誤りである旨主張する。以下,この点について検討する。」
(判決書26頁11行目ないし同頁19行目)と述べた。続いて,甲1文
献の記載内容を摘記したが,その内容は,甲1文献の表6にその組成が示
された混合気体の試料が,放散比較調査に用いられたことや,その調査結
果について記載された,同文献の「ゼロODP「液状」発泡剤―放散比較
ものであった。
その上で,同判決は,次のとおり説示した。
「上記認定の事実(判決注・甲1文献の記載内容を指す。)によれば,
甲1には,HCFC-141bは高い熱的性能及び防火性能を有するが
(ア),HCFC-141b等のHCFC類(HydroChloroFluoro
Carbon)(水素と塩素とフッ素と炭素を含む化合物)はオゾン層に悪影響
を与えるという深刻な欠点を有しており,米国やEUではHCFC-14
1b等のHCFC類の廃止スケジュールが定められており(イ,ウ),H
CFC類の代替物質としては,HFC-245fa及びHFC-365m
fcが最も有望であること(エないしキ)が開示されているといえる。
また,上記エには,HCFC-141bの全ての用途において置き換
えが可能となる分子の候補として,HFC-365mfc,HFC-24
5fa等があり,発泡試験の結果,HFC-245faは,調査した熱伝
導率,圧縮永久歪み及び連続気泡率の分野において良好な特性があり,H
FC-365mfcは,従来の発泡剤よりわずかに劣るものの,より適し
た界面活性剤を使用すれば結果は向上すると考えられること,同オ,カに
は,この2種類のHFC類(HFC-365mfc,HFC-245f
a)のいずれかを用いて発泡させたポリウレタンフォームは,HCFC-
141bを用いたものより熟成が遅い(熟成後の熱伝導率がより高い)と
期待でき,放散比較調査から,HFC-245faないしHFC-365
mfcで発泡させたフォームの長期熱熟成は,HCFC-141bで発泡
させたフォームと少なくとも同程度に良好なはずであることが記載されて
いる。
以上の記載によれば,甲1(甲6-2)には,オゾン層に悪影響を与え
るHCFC-141bの代替物質としてHFC-245fa及びHFC-
365mfc(特に,HFC-365mfc)を発泡剤としての使用が提
案されていることが認められる。なお,HCFC-141bを,その熱的
性能,防火性能を理由として,依然として含有させるべきであるとの見解
が示されているわけではないと解される。そうすると,甲1(甲6-2)
において,HCFC-141bの代替物質としてHFC-245fa及び
HFC-365mfcが好ましいとの記載から,混合気体からHCFC-
141bを除去し,その代替物としてHFC-245faないしHFC-
365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できな
いとした審決の判断は,合理的な理由に基づかないものと解される。
したがって,原告の上記①及び②の主張は理由があり,…甲1に記載さ
れた混合気体から,本件訂正発明1,2,4ないし12,14ないし16,
19が備える発泡剤成分事項1又は本件訂正発明20が備える発泡剤成分
事項2を,当業者といえども容易に想到できないとした審決の判断は誤り
である。」(判決書30頁3行目ないし同31頁9行目)
ウ本件審決
本件審決は,第1次取消判決による甲1文献の引用箇所とほぼ同じ箇所
を引用した上,同文献の表6に「ポリウレタンフォームを調製するために
用いられるHCFC-141b/HFC-245fa/HFC-365m
fcを含む混合物」が記載されており,当該混合物を用いて調製されたポ
リウレタンフォームは,HFC-245fa及びHFC-365mfcに
ついて,HCFC-141bに対する放散を比較調査するために調製され
たものであるなどとして,甲1発明の内容を,
り認定するとともに,本件訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点を,
述べ,次のとおり判断した。
「上記2の記載(判決注・甲1文献の記載内容を指す。)によれば,
甲1(甲6-2)には,オゾン層に悪影響を与えるHCFC-141bの
代替物質として,HFC-245fa及びHFC-365mfc(特に,
HFC-365mfc)の発泡剤としての使用が提案されていること,ま
た,HCFC-141bを,その熱的性能,防火性能を理由として,依然
として含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないことが
認められる(上記取消判決の拘束力)。
ところで,甲1に記載されているHCFC-141b,HFC-24
5fa及びHFC-365mfcを含む混合気体(例えば,表6に記載さ
れているもの。)すなわち甲1発明は,上記2で認定のとおり,硬質
ポリウレタンフォームの製造に使用可能な発泡剤組成物ではあるが,HF
C-245fa及びHFC-365mfcのHCFC-141bに対する
放散を比較調査するために用いられるものである。
そうすると,甲1発明がHCFC-141b,HFC-245fa及
びHFC-365mfcを含む単なる発泡剤組成物(混合気体)であれば
格別,甲1発明はHFC-245fa及びHFC-365mfcのHCF
C-141bに対する放散を比較調査する目的のために用いられるもので
あるから,このような甲1発明からHCFC-141bを除去するとか,
その代替物としてHFC-245faないしHFC-365mfcを使用
することが当業者に想到容易であるとはいえない。なぜなら,甲1発明に
おいて,HCFC-141bは,HCFC-141b/HFC-245f
aおよびHCFC-141b/HFC-365mfcの体積分率の比を測
定することで,HFC-245fa及びHFC-365mfcに対する放
散を比較調査するために含有されたものであり,HCFC-141bを除
去すると,もはや上記比較調査ができなくなってしまうからである。
…甲1発明は,相違点2に係る構成に格別の技術的意義を見いだすこと
はできないものの,甲1発明からHCFC-141bを除去することには,
阻害事由があるというべきである。」(審決書22頁31行目ないし同2
3頁20行目)
以上を踏まえ,本件審決は,「相違点1について検討するまでもなく,
本件訂正発明1は,甲1発明を主たる引用発明として,当該発明から当業
者が容易に発明できたものであるということはできない。」と結論付ける
とともに,本件訂正発明1の構成を含む本件訂正発明2及び3,甲1発明
との間に相違点1と同様の相違点を有する本件訂正発明4についても,こ
れと同旨の判断をした。
検討
アの説示に照らせば,同審決は,甲1文献
の表6中の試料1の記載内容を根拠として,甲1文献において「具体的に
示されている発泡剤は,空気,CO2,HFC-245fa,HCFC-
141b及びHFC-365mfcの初期体積分率(%)が,それぞれ,
1.5,38.5,22.4,16.8及び20.8である混合気体」
(以下「甲1混合気体」という。)であるとした上で,「(甲1文献に)
具体的に示されている発泡剤組成物は,その成分として,代替物である
「HFC-245fa」及び「HFC-365mfc」とともに「HCF
C-141b」を依然として含有するものであって,この発泡剤組成物か
ら,さらに熱的性能,防火性能に優れる「HCFC-141b」を完全に
除去することは,当業者が予測できるとはいえない。」と結論付けたもの
である。
甲1文献には「オ
ゾン層に悪影響を与えるHCFC-141bの代替物質としてHFC-2
45fa及びHFC-365mfc(特に,HFC-365mfc)を発
泡剤としての使用が提案されていることが認められる」こと,これに対し,
「HCFC-141bを,その熱的性能,防火性能を理由として,依然と
して含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないと解され
る」ことからすると,甲1文献の「HCFC-141bの代替物質として
HFC-245fa及びHFC-365mfcが好ましいとの記載から,
混合気体からHCFC-141bを除去し,その代替物としてHFC-2
45faないしHFC-365mfcを使用した発泡剤組成物を得ること
が,当業者に予測できないとした審決の判断は,合理的な理由に基づかな
いものと解される」として,「甲1に記載された混合気体から,…発泡剤
成分事項1又は…2を,当業者といえども容易に想到できないとした審決
の判断は誤りである」と結論付けたものである。
そうすると,第1次取消判決は,要するに,第1次審決が,甲1文献に
示されているとする甲1混合気体からHCFC-141bを完全に除去す
ることは,当業者が予測できるとはいえないと判断したのに対し,甲1文
献に,HCFC-141bの代替物質としてHFC-245fa及びHF
C-365mfcが好ましいとの記載があること,HCFC-141bを
熱的性能,防火性能を理由に依然として含ませるべきとの見解は示されて
いないことを理由に,甲1混合気体からHCFC-141bを完全に除去
することは当業者が予測できないとの第1次審決の判断は合理的理由に基
づくものではなく,誤りであるとしたものであり,かかる認定判断部分が,
同判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を成す
ものであるということができる。
よって,この認定判断部分が,第1次取消判決の拘束力の及ぶ判決理由
中の認定判断に当たり,審判官は,再度の審判手続において,この取消判
決の拘束力の及ぶ認定判断に抵触する認定判断をすることが許されないと
いうべきである。
イこれを踏まえて本件審決について検討すると,同審決は,甲1発明とし
て,第1次審決が甲1混合気体の認定に用いたのと同じ甲1文献の表6か
ら,HCFC-141b,HFC-245fa及びHFC-365mfc
を含む点で甲1混合気体と共通し,これと実質的に同一というべき混合物
ないし組成物を認定するとともに,これに「HFC-245fa及びHF
C-365mfcのHCFC-141bに対する放散を比較調査するため
に用いられる」との事項を付け加え,かかる放散比較調査の目的に照らす
と,上記混合物からHCFC-141bを除去すると,もはや放散比較調
査ができなくなるとして,このような甲1発明からHCFC-141bを
除去することは当事者に想到容易であるとはいえず,阻害事由があると判
断したということができる。
しかるに,第1次取消判決の認定判断は,第1次審決が特にその使用目
的を限定することなく甲1文献に開示されているとした甲1混合気体につ
いて,これが放散比較調査に用いられた旨の甲1文献の記載内容を踏まえ
た上で,同混合気体からHCFC-141bを完全に除去することは当業
者が予測できるとはいえないとの第1次審決の判断が誤りであるというも
のである。なお,第1次審決は,甲1混合気体の使用目的については特に
認定していないものの,甲1文献の記載内容に照らして,これが放散比較
調査に用いるためのものであることは明らかであり,同審決が,かかる使
用目的を甲1混合気体の使用目的から積極的に排斥する趣旨であったとは
認め難い。
そうすると,第1次審決取消後の新たな審判手続において,第1次取消
判決が引用したのとほぼ同じ甲1文献の記載内容から,甲1発明として,
HCFC-141b,HFC-245fa及びHFC-365mfcとい
う3つの組成物を含む点で甲1混合気体と実質的に同一の混合物を認定し
ただけでなく,第1次審決や第1次取消判決の認定と異なり,その使用目
的を新たに認定し,この使用目的に照らして,同混合物からHCFC-1
41bを除去することに当業者が容易に想到し得ないと判断することは,
第1次取消判決の上記認定判断に抵触するものというべきである。
よって,本件審決には,第1次取消判決の拘束力に抵触する認定判断を
行った誤りがあり,この誤りは本件審決の結論に影響するものであるから,
本件審決は取消しを免れないといわざるを得ない。
被告の主張について
ア被告は,第1次取消判決の判断は,第1次審決が甲1発明を具体的に認
定していないことを前提に,甲1文献の記載内容を認定したにとどまり,
本件審決が,甲1発明の内容及び同発明と本件訂正発明との相違点2を新
たに認定し,同相違点についての判断を新たに示した点に,第1次取消判
しかしながら,第1次審決は,発泡剤成分事項1又は2が「甲第1号証
…に記載された発明に基いて当業者が容易に想到できるか否かについて以
下に検討する。」と述べた上で,甲1文献に具体的に示されている発泡剤
は甲1混合気体であるとし,第1次取消判決も,かかる第1次審決によっ
て示された甲1混合気体を判断の前提としている。すなわち,同判決書3
1頁1行目の「混合気体」及び同頁6行目の「甲1に記載された混合気
体」が,同26頁7行目の「甲1に記載された混合気体」,つまり,第1
次審決における甲1混合気体を指すことは,明らかである。
そうすると,第1次審決及び第1次取消判決は,甲1混合気体を引用発
明として認定した旨を明示してはいないものの,実質的にはこれを甲1文
献に記載された発明として,第1次訂正発明との比較の対象としたという
べきである。そして,甲1混合気体が,HCFC-141b,HFC-2
45fa及びHFC-365mfcという3つの組成物を含む点で,甲1
発明に係る混合物と実質的に同一であることは,前記のとおりである。
また,第1次審決は,甲1混合気体と,発泡剤成分事項1及び2とが,
前者がHCFC-141bを含むのに対し後者がこれを含まない点で相違
することを前提に,甲1混合気体からHCFC-141bを完全に除去し
て発泡剤成分事項1及び2の構成に至ることの容易想到性について判断し
たのであり,第1次取消判決も,同審決のかかる判断の当否を検討したも
のである。そうすると,第1次審決及び第1次取消判決が容易想到性の判
断の対象とした甲1混合気体と第1次訂正発明の構成との相違点は,本件
審決が判断の対象として認定した相違点2と実質的に同一であるというこ
とができる。
なお,第1次取消判決は,「付言」として,「差し戻した後に再開され
る審判過程において,引用例記載の発明の認定及び本件訂正発明と引用例
記載の発明との相違点等について,別途の主張ないし認定がされた場合に
は,その認定結果を前提として,改めて,相違点に係る容易想到性の有無
を判断した上で,結論を導く必要が生じることになる旨付言する。」と判
示する(判決書33頁25行目ないし34頁3行目)。しかるに,この判
示は,第1次審決取消後の本件審判請求事件の審理の結果,甲1文献から
第1次審決が把握したのとは全く別個の引用発明を認定した場合や,第1
次審決が容易想到性の判断の対象とした甲1混合気体と第1次訂正発明の
構成との相違点(HCFC-141bを含むか否か)とは別の新たな相違
点を認定した場合等には,改めて容易想到性についての判断をして結論を
導く必要があることを述べたにすぎず,本件審決のように,第1次審決と,
放散比較調査の目的の点(前記のとおり,その認定は第1次取消判決の認
定判断に抵触する。)を除くほかは実質的に同一の引用発明を前提に,実
質的に同一の相違点に関して進歩性の有無を判断した場合であっても,第
1次取消判決の拘束力が及ばないことを意味するものではない。
以上によれば,本件審決が甲1文献に記載の発明や同発明と本件訂正発
明との相違点を新たに認定したとして,同審決の判断に第1次取消判決の
拘束力が及ばないとの被告の上記主張は,採用することができない。
イ被告は,第1次審決及び第1次取消判決が前提とした第1次訂正発明は,
本件審決が前提とした本件訂正発明とは異なるから,本件訂正発明を前提
とする本件審決の相違点2に関する認定判断は,第1次訂正発明を前提と
この点,本件訂正発明1に係る本件訂正後の本件特許の請求項1は,本
件特許の設定登録時の請求項11について,いったん第1次訂正に係る訂
正請求が行われた後,本件訂正により,前記第2の2の【請求項1】のと
おりとなったものであり,第1次訂正後の本件特許の請求項11(これに
係る発明を,以下「第1次訂正発明11」という。)の記載は,次のとお
りである(甲22の1,乙3の1及び2)。
【請求項11】a)1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン50質
量%未満(HFC-365mfc)および
b)ジフルオルメタン(HFC-32);ジフルオルエタン;1,1,2,
2-テトラフルオルエタン(HFC-134);ペンタフルオルプロパ
ン;ヘキサフルオルプロパン;およびヘプタフルオルプロパンを含む群か
ら選ばれた少なくとも1つの他の発泡剤
を含有するかまたは該a)およびb)から成る発泡剤組成物(但し,HF
C-134a又はHCFC-141bを含まない)。
そうすると,本件訂正発明1は,第1次訂正発明11について,a)の
1,1,1,3,3-ペンタフルオルブタン(HFC-365mfc)の
含有量を「50質量%未満」から「30質量%以下」に限定するとともに,
b)に係る物質を,ペンタフルオルプロパンに属する1,1,1,3,3
-ペンタフルオルプロパン(HFC-245fa)に限定し,もって,特
許請求の範囲を減縮したものであり,「(但し,HFC-134a又はH
CFC-141bを含まない)」との記載については,全く相違がない。
なお,本件訂正発明2とこれに対応する第1次訂正後の請求項12の発
明,本件訂正発明3とこれに対応する第1次訂正後の請求項15の発明,
本件訂正発明4とこれに対応する第1次訂正後の請求項20の発明の関係
についても,前者が後者の特許請求の範囲を減縮したものであり,「(但
し,HFC-134a又はHCFC-141bを含まない)」との点に相
違がないことは,本件訂正発明1と同様である(甲22の1,乙3の1及
び2)。
よって,第1次審決が判断の対象とした発明は,本件審決が判断の対象
とした発明を包含しており,いずれもHCFC-141bを含まない点で
甲1混合気体ないし甲1発明と相違することは共通するから,かかる相違
点についての判断に関する第1次取消判決は,本件訂正発明を対象とする
審判官の判断を拘束するというべきである。
よって,被告の上記主張は,採用することができない。
ウ被告は,本件審決が甲1発明からHCFC-141bを完全に除去でき
ないとした根拠は,放散比較調査の実施のためであって,第1次取消判決
が排斥したHCFC-141bの優れた熱的性能及び防火性能を根拠とす
るものではないから,本件審決中の相違点2に関する認定判断は,第1次
しかしながら,第1次取消判決の認定とは異なり,甲1混合気体と実質
的に同一の混合物につき,その使用目的を新たに認定し,この使用目的に
照らして同混合物からHCFC-141bを除去することに当業者が容易
に想到し得ないと判断することが,第1次取消判決の認定判断に抵触する
ことは前のとおりであり,被告の上記主張は,採用することができ
ない。
2取消事由2(相違点2に係る本件訂正発明の構成の容易想到性についての判
断の誤り)について
前記1のとおり,本件訂正発明が甲1発明から当業者が容易に発明をするこ
とができないとの審決の判断は,第1次取消判決の拘束力に抵触すると認めら
れるものの,原告は,仮に,相違点2についての本件審決の判断に第1次取消
判決の拘束力が及ばないとしても,相違点2に係る本件訂正発明1の構成の容
易想到性に関する本件審決の判断には誤りがあり,同様の理由で,本件訂正発
明2ないし4の容易想到性についての本件審決の判断にも誤りがあると主張す
る。
そこで,念のため,相違点2に係る本件訂正発明の構成が当業者にとって容
易想到であるか否かについて検討することとする。
甲1文献の記載内容
甲1文献(甲1)は,「硬質ポリウレタンフォーム用HFC発泡剤の開発
に関する現状報告」と題する論文であり,同文献には,次の記載がある(な
お,翻訳文(甲6-2)の記載内容を示す。掲記した頁数及び行数は,同翻
訳文のそれである。)
「概要
近年,硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤の分野に大きな変化が起こって
いる。当初,CFC-11が,実使用されている唯一の発泡剤だったが,
様々な代替物質が登場するようになった。その中でも,HCFC-141b
は,高い熱的性能および防火性能が求められる場合に選択される製品になっ
ている。しかし,オゾン層に影響を与えないと考えられる新世代の発泡剤を
検討する時期がすでにやって来ている。
本稿では,ゼロODPの高性能代替物質を開発することにより将来に備え
るElfAtochem(硬質ポリウレタンフォーム市場にFORANE
(登録商標)141bを供給する大手供給業者)の最新の取組みについて述
べる。
本稿は,硬質ポリウレタンフォームにおける発泡剤としての,液状および
気体状HFC類(HFC-134a,HFC-245fa,HFC-365
mfc,HFC-245eb,HFC-245ca,およびHFC-236
ea)の評価に関する我々の最新の検査結果の提示も含む。また,フォーム
製造業者または原料供給業者が行った,異なる用途におけるHFC-365
mfcおよびHFC-134aの評価結果も示される。」(1頁4行目ない
し同頁16行目)
「オゾン破壊物質に関する現行規制
…ポリウレタンフォーム中に発泡剤として使用される製品に関しては,モ
ントリオール議定書に基づき,1996年1月1日以降,先進国におけるC
FC類の製造が禁止された。「5条国」に関しては,2010年までに製造
を終了しなければならない。HCFC類もこれに含まれており,先進国にお
ける2020年の廃止スケジュール(2004年から2020年にかけて段
階的に削減),5条国における2040年の廃止スケジュール(2016年
から2040年にかけて段階的に削減)が決まっている。
この議定書の枠組みの中で,米国や欧州連合(EU)などの幾つかの国は,
すべてのオゾン破壊物質の全廃に向けてさらに前進することを決定した。例
えば,米国は,2003年までにHCFC-141bを段階的に廃止しなけ
ればならないことを決定した。…EUにおいては,HCFC類は2014年
までに廃止されるであろう。」(1頁17行目ないし同頁35行目)
「ゼロODP気体状発泡剤
…HFC類の中では,気体状および液状のものを区別することができる。
気体は特別な取扱手順や圧力容器を必要とし,使用するとある程度の泡立ち
を生じさせる場合もあるため,ポリウレタンフォームの膨張に用いるには好
ましくない選択肢である。しかしながら,既に利用可能な気体状HFC類も
あるため,ゼロODPの不燃性発泡剤を今すぐ使用したい者にとってはこれ
らが適切な解決策となり得る。HFC-134aは,…これが第1選択肢と
なることは見た目にも明らかである。」(4頁1行目ないし同頁15行目)
「ゼロODP「液状」発泡剤―発泡試験
…HCFC-141bのすべての用途において置き換えが可能となる真の
意味での「液状」HFC代替物質が依然として求められている。その候補は
既に幾つか現れている。この候補の一覧をその主要な物性と一緒に表4(判
決注・省略)に示す。その中には,ペンタフルオロプロパンの3種の異性体,
HFC-365mfc,HFC-236ea,およびHFE-236(これ
は実際,麻酔剤として使用される市販の分子である)がある。
これらの分子をいずれも発泡剤として用いて同一条件下で試験した。…こ
れらの結果から,以下の傾向を略述することができる。
・3種のペンタフルオロプロパン異性体,すなわちHFC-245ca,H
FC-245eb,およびHFC-245faは,調査したすべての分野,
すなわち熱伝導率(初期および熟成後の両方),圧縮永久歪み,および連続
気泡率において良好な特性を与える。
・この最適化されていない処方に関しては,HFC-365mfcは,従来
の発泡剤よりわずかに劣っている。より適した界面活性剤…を使用すれば,
結果は間違いなく向上するであろう。」(5頁12行目ないし同頁31行
目)


(9頁)
「ゼロODP「液状」発泡剤―放散比較調査
上記液状HFC類を用いて発泡させたポリウレタンフォームの長期熱特性
を評価できることは,HCFC-141b代替物質に関する他の大きな関心
事である。この問題に対応する1つの方法は,フォームの熱伝導率の劣化を
観察することである。…ポリウレタンフォームの気相組成を観測し,これら
の発泡剤がポリウレタンフォームから放散される速度を分析することもでき
る(独立気泡硬質ポリウレタンフォームの長期熱効率…は,発泡剤のフォー
ム外への放散に非常に依存することが見出された。)。」(11頁1行目な
いし同頁7行目)
「最も有望な数種の代替物質の放散を比較調査するための最初のステップと
して,HCFC-141b/HFC-245fa/HFC-365mfcの
混合物を用いて2種類のポリウレタンフォームを調製した。上述の手順に従
い分析した2種類のポリウレタン試料の初期の気泡に含有される気体を表6
に示す。
この分析の後,一方の試料を室温で熟成させ,他方を70℃で熟成させた。
このケースでは,我々は,HCFC-141b/HFC-245faおよ
びHCFC-141b/HFC-365mfcの体積分率の比を測定した。
実際,HFC-245faの体積分率に対するHCFC-141b体積分率
は,単純に,気相中に存在するHFC-245faの量に対する同じ気相中
のHCFC-141bの量の比率である。空気またはCO2の量に依存する
全体の体積は,もはや無関係である。
より詳しくは,気相中の物理的発泡剤(HCFC-141b,HFC-2
45fa,またはHFC-365mfc)の量は,幾つかの機構,すなわち
発泡剤のフォーム外への放散,ポリマーマトリックス内への溶解,または気
泡内部における凝縮によってのみ減少する。発泡剤の量の増加が観察される
唯一の可能性は,マトリックスから気相中への脱着により起こるものであろ
う。通常の環境下では,このようなことが起こるとは考えにくい。
例えば,HCFC-141b/HFC-245faの体積分率の比が増加
している場合は,気相中のHFC-245faの量がHCFC-141bよ
りも速く減少していることを意味している。一方,この比が低下した場合は,
HCFC-141bの量がHFC-245faよりも速く減少したことを意
味している。
図8(判決注・省略)に,室温で熟成させたポリウレタン試料のHCFC
-141b/HFC-245faおよびHCFC-141b/HFC-36
5mfcの体積分率の放出比を示す。図9(同上)に,70℃で熟成させた
場合の同様の情報を示す。
室温での最初の放出を分析する。いずれの場合も,HCFC-141b/
HFC-245faおよびHCFC-141b/HFC-365mfcの体
積分率の比は時間とともに低下する。これは,HCFC-141bがフォー
ムの気相からHFC-245faおよびHFC-365mfcよりも速く消
失することを意味している。したがって,この2種類のHFC類のいずれか
を用いて発泡させたポリウレタンフォームは,HCFC-141bを用いた
ものよりも熟成が遅い(熟成後の熱伝導率がより高い)と期待できる。7
0℃における放出の場合,この比は最初に著しく低下した後,一定になる。
この放散比較調査から,HFC-245faおよびHFC-365mfcの
いずれかで発泡させたフォームの長期熱熟成は,HCFC-141bで発泡
させたフォームと少なくとも同程度に良好なはずであるといえる。」(11
頁18行目ないし同頁43行目)
「我々の得た結果は,効率の高いゼロODPのHCFC-141b代替物質
が確かに存在することを示している。これらの中でも,硬質ポリウレタンフ
ォーム用の発泡剤としての性能だけでなく製造の容易さも考慮する場合は,
HFC-245faおよびHFC-365mfcが最も有望なようであ
る。」(11頁44行目ないし同頁46行目)
「ゼロODP「液状」発泡剤―HFC-365mfcの顧客による評価
上述したあらゆる事実に基づき,ElfAtochemは,すぐにPUR
フォーム製造業者または原料供給業者数社と共同して,HFC-365mf
cの評価を推し進めた。…
やはりこれらの結果も,HFC-365mfcの硬質ポリウレタンフォー
ム用発泡剤としての可能性をはっきりと示す非常に希望的なものである。
…」(12頁3行目ないし同頁14行目)
甲1文献に開示された事項
のとおり,甲1文献は,硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤として
用いられるHCFC-141bに代替される新世代の発泡剤開発への取り組
みについて報告する文献であり,最も有望な候補とされるHFC類の発泡剤
としての評価の開示を含むものである。
すなわち,甲1文献は,HCFC-141bは高い熱的性能,防火性能を
有するものの,オゾン層を破壊する作用を有するため,その段階的な廃止が
取り決められていることを前提に,HCFC-141bの全ての用途におい
て置き換えが可能となる真の意味での「液状」HFC代替物質の候補として,
ODP(オゾン層破壊係数)がゼロである,HFC-245fa及びHFC
-365mfcを含む幾つかのHFC類を提示する。
そして,これらのHFC類を対象に発泡試験を行ったところ,HFC-2
45fa及びその異性体は,調査したすべての分野すなわち熱伝導率(初期
および熟成後の両方),圧縮永久歪み,及び連続気泡率において良好な特性
を与えるとし,また,HFC-365mfcは,最適化されていない処方に
関しては従来の発泡剤よりわずかに劣っているものの,より適した界面活性
剤を使用すれば,結果は間違いなく向上すると分析して,HFC-245f
a及びHFC-365mfcのフォーム特性が良好であることを開示する。
さらに,甲1文献は,硬質ポリウレタンフォームの長期熱効率は,フォー
ム外への発泡剤の放散に強く依存し,発泡剤の放散が少ないほどフォームの
熱伝導率の経時的劣化が少ないと評価されることを前提に,HCFC-14
1bとHFC-245fa,及びHCFC-141bとHFC-365mf
cのそれぞれの放散の度合いを比較するための放散比較調査を行い,甲1発
明に係る混合物を用いて調製したポリウレタンフォーム試料中のHCFC-
141b/HFC-245faの体積分率及びHCFC-141b/HFC
-365mfcの体積分率の変化を測定したところ,HFC-245fa及
びHFC-365mfcはHCFC-141bよりも放散が遅かったとする。
これを踏まえ,甲1文献は,HFC-245fa及びHFC-365mf
cのいずれかを用いた発泡フォームの長期熱効率は,HCFC-141bを
用いたものと少なくとも同程度に良好なはずであり,発泡剤としての性能だ
けでなく製造の容易さも考慮すると,HCFC-141bの代替物質として
HFC-245fa及びHFC-365mfcが最も有望であると考察して
いる。
検討
甲1発明は,HCFC-141bの代替物質の候補であるHFC-245
fa及びHFC-365mfcの放散を,HCFC-141bの放散と比較
調査するための発泡剤組成物であり,当該発泡剤組成物から比較の対象とな
っているHCFC-141bを除去することは,このような調査の目的それ
自体には反するものであるということができる。
オゾン層を破壊する作用のため段階的に廃止される予定であることを踏まえ,
HCFC-141bの代替物質の開発への取り組みを報告するというもので
あり,このような甲1文献全体の趣旨からみれば,実際の発泡剤組成物には
HCFC-141bを配合すべきでないことが容易に理解されるところであ
る。
そして,甲1文献においては,発泡試験や放散比較調査の結果に加え,製
造の容易さをも考慮すると,HFC-245fa及びHFC-365mfc
が最も有望なHCFC-141bの代替物質であるとされているのであるか
ら,甲1文献に接した当業者であれば,上記のような調査の目的はさておき,
新たな発泡剤組成物を開発するに当たり,甲1発明に係る発泡剤組成物を,
HCFC-141bの代替物質として最も有望なHFC類とされるHFC-
245fa及びHFC-365mfcのみを含有する発泡剤組成物とするた
めに,当該発泡剤組成物からHCFC-141bを除去すること,すなわち,
相違点2に係る本件訂正発明1の構成に至ることに,容易に想到するものと
認められる。すなわち,甲1発明における放散比較調査の目的は,当業者が,
新たな発泡剤組成物を開発するに当たり,甲1発明から本件訂正発明1に想
到することを阻害する事情とはならないというべきである。
そうすると,本件審決の相違点2に関する判断には誤りがあり,かかる判
断を前提に,あるいはかかる判断と同旨の判断の下に,相違点1に関する判
断を何らすることなく,本件訂正発明が全体として当業者が容易に発明をす
ることができたものではないとした本件審決の判断にも誤りがある。そして,
この判断の誤りは,本件審決の結論に影響するものであるから,本件審決は
違法として取消しを免れないといわざるを得ない。
被告は,甲1発明における放散比較調査の目的に照らすと,当該調査の実
施のためHCFC-141bを含むことを必須の前提とする甲1発明から,
HCFC-141bを除去する動機付けは存在しないと主張する(前記第4
の2)。しかしながら,甲1文献中の記載の全趣旨を踏まえると,甲1発明
からHCFC-141bを除去する動機付けが認められることは,前記説示
のとおりであり,被告の上記主張は,採用することができない。
3結論
以上のとおりであり,原告の主張する取消事由1及び2はいずれも理由があ
り,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取消しを免れ
ない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官石井忠雄
裁判官田中正哉
裁判官神谷厚毅

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