弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主    文
 被告人を死刑に処する。
押収してある別紙還付物目録1記載の各物を判示罪となるべき事実第1の1記
載の強盗殺人の被害者であるAの相続人に還付する。
押収してある別紙還付物目録2記載の各物を判示罪となるべき事実第3の1記
載の強盗殺人の被害者であるCの相続人に還付する。
理    由
(罪となるべき事実)
第1 Aに関する強盗殺人,有印私文書偽造,同行使,詐欺,死体遺棄事件(以下上記
各事件を併せて「A事件」という。)
1 被告人は,Bと共謀の上,A(昭和32年10月4日生)をけん銃で殺害して金品を
強取しようと企て,平成6年7月19日午後1時ころ,三重県鈴鹿市a町b番地のc所
在の甲工業株式会社鈴鹿工場産業廃棄物最終処分場(以下「最終処分場」とい
う。)に同人を呼び出した上,普通乗用自動車(BMW)を運転して同所に到着した
AをBが同所に駐車した普通乗用自動車(クラウン)の後部座席に招き入れて雑談
をしている間に,被告人が同車に近付き,同車後部座席助手席側窓から右腕を入
れるなどして所持していた回転弾倉式けん銃でAの頭部を3回撃っていずれも命中
させ,即時同所において,A(当時36歳)を左前額部射創により死亡させて殺害し
た上,被告人がA所有にかかる普通預金通帳,印鑑,クレジットカード,小切手等
在中のアタッシュケース1個等を積載したA管理にかかる上記普通乗用自動車1台
(BMW,時価約400万円相当)をその場から運転して強取した。
2 被告人は,Bと共謀の上,上記強取したA名義の普通預金通帳及び印鑑を利用し
て,預金払戻し名下に金員を騙取しようと企て,平成6年7月19日午後2時55分こ
ろ,三重県津市a町所在の株式会社B銀行津支店において,行使の目的をもって
欲しいままに,被告人が同店舗備付けの払戻請求書のおなまえ欄に「A」,金額欄
に「10000000」などとボールペンで各記入し,お届け印欄に「A」と刻印した印鑑
を押捺し,A名義の払戻請求書1枚を偽造し,即時同所において,同支店行員Hに
対し,これを真正に成立したもののように装って上記普通預金通帳とともに提出行
使して,現金1000万円の払戻しを請求し,Hをして上記払戻請求書が真正に成立
したものであって,被告人が正当な払戻請求権者であると誤信させ,よって,そのこ
ろ,同所において,Hから現金1000万円の交付を受けてこれを騙取した。
3 被告人は,Bと共謀の上,上記Aに対する強盗殺人の発覚を免れるため,同人の
死体を遺棄しようと企て,死体が人目に付かないようにするため,平成6年7月19
日午後1時過ぎころ,BがAの死体を積載したクラウンを運転し,同人の死体を最
終処分場から三重県津市b町所在のD方駐車場,同市c町所在のE所有の月極駐
車場,同町所在の乙ビレッジ西側立体駐車場1階等に順次移動させるなどした上,
同月21日午前6時20分ころ,被告人が上記クラウンを運転し,Bが同乗して三重
県久居市a町所在の造成地(以下「久居造成地」という。)までAの死体を搬送し,そ
のころ同所において,あらかじめ被告人が情を知らないFに掘削機を用いて掘らせ
ていた穴に,被告人及びBがAの死体を投棄した上,その穴を被告人が掘削機を
操作して埋め,もって,死体を遺棄した。
第2 Gに対する恐喝事件(以下「G事件」という。)
被告人は,Bと共謀の上,丙産業の屋号で金融業を営むG(昭和20年11月15
日生)に回転式けん銃様のものを突き付けて金員を奪おうと企て,平成6年10月2
7日午前8時35分ころ,三重県津市d町所在の市営住宅z団地1棟8号所在の丙
産業事務所兼G方(以下「G事務所」という。)において,被告人が同事務所入り口
付近に立ち,所持していた回転式けん銃様のものを同事務所内にいるG(当時49
歳)に突き付けて金員を出すよう要求し,BがGの前のイスに腰掛け,けん銃は本
物で,ピストルを持った男は,自分が組長から借りた金を返すことができないため
に追込みをかけに来ているその組の人間であり,同人に金を渡さないと帰れないな
どと述べ,更に被告人も外に仲間2人が見張っている,金庫の鍵を出せなどと申し
向けて,金員を交付するよう要求し,その要求に応じなければ,いかなる危害をも
加えかねない気勢を示してGを畏怖させ,よって,同日午前11時14分ころ,応接
室において,Bが約束手形を差し入れるのと引き替えに,Gから現金100万円の交
付を受けてこれを喝取した。
第3 Cに関する強盗殺人,死体遺棄,有印私文書偽造,同行使,詐欺,窃盗事件(以
下上記各事件を併せて「C事件」という。)
 1 被告人は,B,Iと共謀の上,C(昭和6年9月9日生,以下「C」という。)を殺害して
同人から金品を強取しようと企て,平成6年11月20日午後8時ころ,同人をIが三
重県伊勢市a町所在の丙倉庫敷地内までおびき出し,同所において,被告人とBと
がC(当時63歳)の左胸部を蹴りつけ,ガムテープでその両手を後ろ手に緊縛し,
顔面を含む頭部にガムテープを巻き付けるなどした上,同所に駐車中の普通乗用
自動車(トヨタ・カリブ,以下「カリブ」という。)の後部座席に押し込み,被告人が持っ
ていた上記第1の1記載の回転弾倉式けん銃でCの頭部を1回撃って命中させ,即
時同所において同人を左後頭下部射創により死亡させて殺害し,そのころ,同所に
おいて,被告人が,Cが携行していた定期預金通帳等在中の手提げ鞄等を持ち出
して強取し,引続きそのころから翌21日午前3時ころまでの間,被告人が同県度会
郡小俣町a町所在のC方において,同人所有又は管理に係る半円真珠等を持ち出
して強取し,同日午前3時ころ,被告人ら3名が,同町所在の月極駐車場におい
て,C管理に係る普通乗用自動車(BMW紺色)1台を被告人が運転して強取し,同
日午後8時ころ,上記月極駐車場において,被告人が,情を知らないJに,C所有に
係る普通乗用自動車(トヨタ・クラウン白色)1台を譲り渡すと言って,上記Jに引き
渡し,同人にこれを運転させて強取した。
 2 被告人は,B及びIと共謀の上,上記Cに対する強盗殺人の発覚を免れるため,Bと
Iが,同月20日午後8時過ぎころ,D倉庫敷地からCの死体を積んだままの上記第
3の1記載の普通乗用自動車(トヨタ・カリブ)を運転し,同死体をD方駐車場,三重
県津市e町所在の喫茶E駐車場,上記第1の3記載のE所有の月極駐車場に順次
搬送した上,更にBが,上記車両を同県松阪市a町所在の丁企画駐車場に移動し
て保管隠匿し,同月22日午前9時30分ころ,BとIが,上記車両でCの死体を久居
造成地に搬送した上,同日午後3時30分ころから4時ころまでの間に,同所におい
て,被告人が情を知らないKに掘削機を用いて掘らせた穴にCの死体を投棄し,そ
の穴を被告人が同掘削機を操作して埋め,もって,死体を遺棄した。
 3 被告人は,Bと共謀の上,上記第3の1記載のとおりCを殺害して強取した同人名
義の普通預金通帳1通及び同通帳の届出印鑑1個を利用して,預金払戻し名下に
金員を騙取しようと企て,平成6年11月21日午後2時5分ころ,三重県津市f町所
在の株式会社C銀行津支店において,行使の目的をもってほしいままに,被告人
が,同店備付けの預金払戻(兼当座貸越)請求書用紙の年月日欄に「6 11 2
1」,店番欄に「620」,口座番号欄に「129195」,金額欄に「¥2270000」,おな
まえ欄に「C」等とボールペンで各冒書し,お届印欄に「C」と刻した上記印鑑を冒捺
し,もってC作成名義の227万円の預金払戻(兼当座貸越)請求書1枚(同押号の
198)の偽造を遂げ,即時同所において,同支店行員Lに対し,上記偽造に係る預
金払戻(兼当座貸越)請求書を真正に成立したもののように装い,上記強取に係る
普通預金通帳とともに提出行使して,現金227万円の払戻しを請求し,同行員をし
て上記請求書が真正に作成され,被告人が正当な払戻し又は貸越請求権者であ
ると誤信させ,よって,即時同所において,同行員から現金227万円の交付を受け
てこれを騙取した。
 4 被告人は,Cを殺害して強取した株式会社Gカード発行に係る同人名義のGカード
を使用して,商品購入名下に物品を騙取したり,現金自動預払機から現金を窃取
等しようと企て,
  (1)平成6年11月21日午前11時49分ころ,三重県津市g町所在のH株式会社に
おいて,同店店員Mに対し,同カードの会員であるCになりすまし,同カードの使
用に伴う代金支払いの意思がないのにあるかのように装って同カードを呈示して
ガソリンの購入方と被告人運転の普通乗用自動車(上記BMW紺色)の洗車方
を申し込み,上記Mをして被告人が同カードの正当な利用権限を有するCであ
り,後日同カードシステム所定の支払方法により確実に代金の支払いが受けら
れるものと誤信させ,よって,そのころ,同所において,上記Mからガソリン63リ
ットル(時価8190円相当)の交付を受けてこれを騙取するとともに,同人をして
同車の洗車をさせ,もって,洗車料金1600円相当の財産上の不法の利益を
得,
  (2)同日午後1時56分ころ,同市所在のI店において,同店店員Nに対し,上記(1)
同様に装って,メガネ(サングラス,レノマ製)1個の購入方を申し込み,上記Nを
して被告人が同カードの正当な利用権限を有するCであり,後日同カードシステ
ム所定の支払方法により確実に代金の支払いが受けられるものと誤信させ,よ
って,そのころ,同所において,上記Nから上記メガネ1個(時価1万6100円相
当)の交付を受けてこれを騙取し,
  (3)同日午後4時54分ころ,同県松阪市b町所在のJ店6階家電売場において,同
店店員Oに対し,上記(1)同様に装って,ワープロとコピー機各1台,ホットカー
ペット1枚の購入方を申し込み,上記Oをして被告人が同カードの正当な利用権
限を有するCであり,後日同カードシステム所定の支払方法により確実に代金の
支払いが受けられるものと誤信させ,よって,そのころ,同所において,上記Oか
ら上記ワープロ1台外2点(時価合計26万8600円相当)の交付を受けてこれを
騙取し,
  (4)同日午後5時3分ころ,上記(3)記載のJ店1階貴金属・時計売場において,同
店店員Pに対し,上記(1)同様に装って,腕時計(ダンヒル製,男物)1個の購入
方を申し込み,上記Pをして被告人が同カードの正当な利用権限を有するCであ
り,後日同カードシステム所定の支払方法により確実に代金の支払いが受けら
れるものと誤信させ,よって,そのころ,同所において,上記Pから上記腕時計1
個(時価28万8000円相当)の交付を受けてこれを騙取し,
  (5)同月22日午後4時28分ころ,同県津市i町所在のK信用金庫Na支店において,
上記Gカードを使用して,同所に設置された現金自動預入支払機から,同支店
支店長Q管理に係る現金20万円を引き出して窃取し,
  (6)同月23日午後1時7分ころ,同県伊勢市b町所在のL店において,同店店員Rに
対し,上記(1)同様に装って,浄水器,電話機,電子計算機各1台,セラミックヒ
ーター2台外8点の購入方を申し込み,上記Rをして被告人が同カードの正当な
利用権限を有するCであり,後日同カードシステム所定の支払方法により確実に
代金の支払いが受けられるものと誤信させ,よってそのころ同所において,上記
Rから上記浄水器等合計13点(時価合計18万2530円相当)の交付を受けて
これを騙取した。
 5 被告人は,Sと共謀の上,
  (1)Cを殺害して強取した同人名義の印鑑登録証1通と印鑑1個(平成8年押第66
号の227)を利用して,同人名義の印鑑登録証明書10通を不正に入手しようと
企て,平成6年11月22日午後零時10分ころ,三重県度会郡小俣町a町所在の
小俣町役場住民課窓口において,行使の目的をもってほしいままに,Sが,同窓
口備付けの印鑑登録証明書交付申請用紙の年月日欄に「6 11 22」,①窓口
にきた人の住所欄に「小俣町a町325-1」,同氏名欄に「C」,②だれのものが
必要ですか欄の印鑑登録証の番号欄に「109600」,同住所欄に「a町325-
1」,同氏名欄に「C」,③必要枚数欄に「10」とボールペンで各冒書し,右①欄の
氏名欄の「C」の名下に上記印鑑を冒捺し,もって,C作成名義の印鑑登録証明
書交付申請書1通の偽造を遂げ,即時同所において,上記窓口係員のTに対
し,上記偽造に係る上記請求書を真正に成立したもののように装い,上記印鑑
登録証とともに提出行使し,
  (2)Cを殺害して強取した同人名義の定期積金通帳1通及び同通帳の届出印鑑1個
を利用し,同定期積金口座を不正に解約して同人名義の普通預金口座に移転し
ようと企て,同月24日午後1時15分ころ,同県多気郡明野町G町所在の飲食
店「Yo」において,行使の目的をもってほしいままに,被告人が,Sの持参してい
た委任状用紙の代理人欄に「伊セ市宮川2ノ6ノ29 S」,委任事項欄に「C銀行
に対する預金一切の権限を委任する。」年月日欄に「平成六 十一 二十四」,
委任者住所氏名欄に「小俣町a町三二五ノ一 C」等とボールペンで各冒書し,そ
の名下に上記届出印鑑を冒捺し,もって,C作成名義の委任状1通の偽造を遂
げ,同日午後1時55分ころ,同県度会郡小俣町b町所在の株式会社C銀行In支
店において,Sが,同支店次長Vほか1名に対し,上記偽造に係る委任状を真正
に成立したもののように装い,上記定期積金預金通帳等とともに提出行使した。
(事実認定の補足説明)
第1 A事件について
 弁護人は,判示第1のA事件について,被告人は無罪であると主張し,被告人も
これに沿う供述をする。そこで以下証拠により認定できる事実並びに弁護人の主張
及び被告人の供述について順次検討する。
1 上掲判示第1の各罪に関する各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)けん銃の入手について
 ア Wは,平成5年9月23日,所属する暴力団5代目Ya組Yk組内「Ok組」のO
k組長とともに恐喝事件を起こし,その翌日,Ok組長が逮捕されたことなどか
ら,自己も警察に出頭することとしたが,かねてから愛知県犬山市の実家にコ
ルト社製38口径回転弾倉式けん銃1丁及び実包4発を保管しており,そのま
ま出頭すれば,上記恐喝事件で自宅に捜索差押えがなされた際,けん銃の所
持が発覚し,それについても刑事責任を問われかねないと考えたことから,同
けん銃等を上記Yk組本部長のYに預けた上で出頭することを考えた。しかし,
上記恐喝事件で自分に対する逮捕状が発付されているとの情報を得ていたこ
とから,上記けん銃を自ら三重県松阪市に居住するYの所に持参すれば,逮
捕され,上記けん銃等も摘発されてしまうかもしれないと考え,第三者にけん
銃等を預け,Yに届けてもらうこととした。しかし,当時,上記Ok組の実質的な
構成員はOk組長とWしかおらず,同組の構成員らにけん銃を届けるように依
頼することは無理だったため,Wは,自らが親しく交際していた上,YやOk組
長とも知り合いであると聞いていた被告人に上記依頼をすることとし,同年10
月6日ころ,名古屋市内のWの潜伏先で被告人と落ち合った上,同市千種区
所在のガソリンスタンド「SI店」において,手でけん銃の形を作りながら,「トラ
ンクの中にこれが積んである。」「これYさんに渡しといて。」と言って,上記けん
銃1丁及び実包4発を入れた白地に赤い模様のある布製巾着袋をトランクに
積んだ自動車を被告人に渡し,被告人と別れた後の同日昼ころ,Yに電話をし
て,これから警察に出頭することを告げるとともに,「被告人に品物預けました
でよろしく頼みます。」と伝えた。Wは,Yに対し,被告人に預けた物が具体的
に何であるかは伝えなかったが,Yは,Wが出頭の直前にわざわざ電話をし,
あえて「品物」という言葉を使って,被告人に物を届けさせると伝えてきたこと
や,Wが過去に暴力団同士の抗争において,けん銃を発砲したことがあり,同
人がけん銃を所持しているのではないかと推測したことなどから,Wが,被告
人を介し,けん銃を自己に預けようとしていると察知した。
イ 被告人は,上記のとおり,Wからけん銃1丁及び実包4発を積んだ車両を引
き渡されたが,上記けん銃1丁及び実包4発は,Yに渡さずに自ら保管しようと
考え,同日夕方ころ,Yに電話をし,Wの出頭を報告した際,Yから「W,何か
品物のこと言うてへんだか。」と聞かれたのに対し,「私が預かっときますわ。
Wさん帰ってきたらWさんに渡しますわ。」と答え,Yから上記けん銃等を自己
の手元に置くことの了承を得た。
ウ その後,被告人は,上記けん銃等を自ら保管していたが,平成5年11月こ
ろ,親交のあったFに,Wから預かった物であることを打ち明けた上で,上記巾
着袋入りのけん銃等を預けた。しかし,Fは,平成6年2月上旬ころ,自己が保
険金詐欺事件で逮捕されるおそれがあるとの情報を得たため,上記けん銃等
をさらに友人のA1に預けたが,自己が同月9日に同事件で逮捕された後,警
察官にけん銃のことを何度も聞かれたことから,A1にけん銃等を預けたまま
では,自分がA1にけん銃を預けたことが発覚し,自己が検挙されるおそれが
あると考え,けん銃等を被告人に返すこととし,同年3月8日に上記事件で保
釈された数日後,A1とともに被告人の経営する三重県松阪市k町所在のゲー
ム喫茶「喫茶Q」に行って上記けん銃等が入った巾着袋を被告人に返還した。
その上で,被告人及びFは,A1にけん銃等を預けていたことを隠ぺいするた
め,その数日後,被告人が用意した黒色回転式けん銃型エアーガン及びプラ
スチック玉をA1に渡すとともに,同人に対し,警察からけん銃の保管について
事情を聞かれたら,預かっていたのはそのエアーガンと玉であると説明するよ
う指示した。
エ 被告人は,A事件を起こす前,Bと誰か人を襲って金品を強奪しようなどとい
う話をしていた際,同人に対し,上記けん銃を見せ,Wから預かったものであ
ると説明した。
(2)被告人,B,Aの関係等について
 ア Bは,ゲーム喫茶を経営していたが,平成5年秋ころ,被告人が経営する喫茶
Qが繁盛していると聞き,経営の参考にしようと同店を訪れたことから被告人
と面識を有するに至り,その後,自らが多額の金員を貸し付けていたC3が,
同年12月末ころに行方不明になった際,それまで同人が喫茶Qに出入りし,
Bに支払う借金の利息を被告人に借りるなどしていたことから,被告人なら上
記C3の行方を知っているかもしれないと考え,喫茶Qを何度か訪れ,被告人
に上記C3の行方を聞くなどしているうちに被告人と親しくなった。さらに,B
は,平成6年1月ころ,被告人に借金を申し込んだところ,それまで取引関係
がなかったにもかかわらず,被告人が130万円を貸してくれたことから,一層
被告人に親近感を抱くようになった。他方,被告人も,その後Bが上記130万
円の借り入れを全額返済したことに感心し,同年5月ころ,被告人が手がけて
いた墓地開発・販売事業が成功すれば,Bに対し,1000万円を融資すると言
った。このようなことから被告人とBは,より親密になっていった。
イ Bは,平成5年6月ころ,保険代理店を営むAから,融資を依頼され,自ら金
を貸すのではなく,知人のE1にAへの500万円の貸し付けをさせ,自らはそ
の際の保証人となった。また,平成6年初めころにも,Aから小切手4通を担保
とする借金の申し入れを受け,その小切手で資金調達すれば,半分は自分で
使うことができるという考えもあって,金融業者から上記小切手を担保として1
0日ごとに1割の利息を支払う約束で600万円を借り入れ,そのうち300万円
をAに渡し,300万円を自ら費消するなどした。しかし,Aが同年6月以降上記
各借金の利息を払わなくなったため,Bはその肩代わりをせざるを得なくなり,
他にも野球賭博での負け分が3000万円位に達するなど多額の借金があっ
たことから,それらの返済に窮することとなった。
(3)Aに対する強盗殺人の謀議及び実行の状況について
 ア Bは,平成6年7月中旬ころ,Aが上記利息の支払いもしないのに新車のBM
Wを乗り回している上,新たな借金を申し入れてきたことから,同人に文句を
言ったところ,同人が「いつでも集金の金が2000万くらいはあるから返せる。
だから何とか金貸してくれ。」と答えたばかりか,さらに「あんたの女と俺の女を
取替えようか。」などと言い出したことから激怒し,同人に対して殺意を抱くに
至り,そのころ,被告人に対し,上記Aの言動を伝え,被告人とともにAを被告
人が所持するけん銃を用いて殺害し,金品を強取することを企てた。
イ 被告人は,平成6年7月18日,Bに電話をかけ,「いつならAを呼び出せる
か。」などと犯行実行日について相談したところ,Bが「いつでも連絡が取れ
る。」旨答えたことから,同人と翌19日に犯行を決行することとした。被告人
は,同月19日朝,前日の約束通り,Bと落ち合うため,ファミリアを運転してD
方に向かい,同日午前8時49分及び午前9時12分,それぞれBのポケットベ
ルに連絡するなどした上,同日午前9時半ころ,D方前駐車場でBと落ち合
い,同所で当時Bが使用していたパールホワイトのクラウンに乗り換え,Bの
運転で三重県鈴鹿市b町所在のA保険事務所や同市t町所在のDP401号室
の同人の自宅マンション(以下「A方マンション」という。)がある同市内に向か
って出発した。その車中,被告人とBは,BがAに,被告人を保険の客だと偽っ
て紹介し,両名でA方マンションに上がり込み,同所でAを殺害する旨の謀議
をした。Bは,上記謀議に従い,同日午前10時56分,被告人から借りた携帯
電話でA方マンションに架電し,面談の約束を取り付けようとしたが,Aが電話
に出なかったことから,続けて同日午前10時57分,同携帯電話からA保険事
務所に架電し,電話を受けた同事務所従業員のV1に対し,Aに被告人の携
帯電話に連絡するよう伝えることを依頼した。するとAから被告人の携帯電話
に連絡があったので,Bは被告人が保険加入を希望していると伝え,A方マン
ションで会う約束をした。
ウ 同日午前11時ころ,被告人とBは,A方マンション応接室でAと面談したが,
Bは,いつ被告人がAを殺害するのか分からず落ち着かなかったことや自分
の目の前でAが殺害されるのは見たくなかったことから,覚せい剤を使用する
ため同マンションの洗面所に行ったところ,Aが覚せい剤に興味を示し,洗面
所まで付いてきてしまったので,同人にも覚せい剤を分け与えるなどし,同日
午前11時30分ころ,上記応接室に戻った。そのころ,Aに電話があり,Aに来
客があることが分かり,被告人とBは,同所でAを殺害するのを断念したが,A
から同日昼ころに一緒に食事をしようと誘われたことから,同日午後零時こ
ろ,三重県鈴鹿市i町所在のSaホテルのレストランでAと食事をする約束をし,
その際,Aは,被告人の携帯電話番号を紙片に書き記すなどした。その後,B
と被告人は,Saホテル前駐車場に移動し,同所でAが来るのを待っていたが,
約束した同日午後零時を過ぎてもAが同所に現れず,同人からの連絡もなか
ったため,同日午後零時30分ころ,一旦同所を離れ,Aを殺害するのに適当
な場所を探しに行くこととし,同日午後零時34分,Bが被告人の携帯電話でA
の携帯電話に電話し,「被告人が物件を見たいと言っているため他の場所に
行ってくる。ホテルに着いたら連絡して欲しい。」と伝えた上,Bが運転する上
記クラウンで,Saホテル付近においてAの殺害に適当な場所を探し,最終処
分場前まで行ったところで被告人が車を下り,最終処分場の様子を見た上で,
Bに同所を殺害場所にすることを提案し,同人は,これに同意し,同所にクラ
ウンを乗り入れた。同日午後1時前ころ,Aから被告人の携帯電話にSaホテ
ルに到着したとの電話があったが,被告人及びBは,未だAの具体的な殺害
方法等を決めていなかったため,Bは,すぐ連絡するからと言って一旦電話を
切った上,被告人とAの殺害方法を相談し,BがAを車中に誘い込み,被告人
が車外からけん銃で射殺し,Aの普通乗用自動車(BMW)は被告人が乗って
いくことに決め,その上で,同日午後零時57分,Bが被告人の携帯電話から
Aの携帯電話に架電して最終処分場の場所を知らせ,同所で落ち合うこととし
た。
エ Aは,同日午後1時ころ,BMWを運転し,最終処分場に到着した。Bは,あら
かじめ打ち合わせていたとおり,クラウンの運転席横に立って待機し,BMW
から下りてきたAをクラウンの後部座席に招き入れ,自らは同車運転席に乗り
込み,Aに被告人の動きを悟られないようにするため,運転席から身体を後ろ
に向け,後部座席の真ん中に座ったAに顔を近付けて同人と雑談を始めた。
他方,被告人は,Aが同所に到着した際は,けん銃入りの鞄を持ってクラウン
の外に出て,書類を広げ物件を調べているように装っていたが,Aがクラウン
に乗り込んだのを見て,クラウンの後部左側に近付き,同車後部座席左側の
窓からけん銃を持った右腕を入れ,車内でBと会話していたAの背後から,そ
の左後頭下部に銃弾1発を発射し,次いで同人の左顔面付近に向けて2発目
を発射し,さらに,同人の左前額部に向けて3発目を発射し,これらをいずれも
同人に命中させて同人を殺害した。被告人は,Aを殺害した後,同人が運転し
てきたBMWを同車に積まれていた預金通帳等が入ったアタッシュケースとと
もに強取し,同車を運転して同所を離れた。
(4)A名義の預金の騙取及び同人の死体の遺棄の状況並びにA名義のカードの使
用状況等について
ア Bは,同月19日,被告人がBMWを運転して最終処分場を離れた後,Aの死
体を隠すため,Aの死体が積載されたクラウンを運転して同所を離れたが,先
行して同所を離れた被告人の姿がなかったことから,同日被告人と落ち合っ
たD方前駐車場に向かうこととし,同日午後2時ころ,D方前駐車場に戻った。
他方,被告人は,知人のR2から売却先の紹介を依頼され,現場を見に行った
ことがある同女が管理する久居造成地なら,穴を掘って埋める方法で死体を
遺棄すればAの死体が発見されることはないだろうと考え,同日午後2時18
分,穴掘りを依頼するため知人のFに電話をした。しかし,同人がパチンコをし
ている最中だったため,先にアタッシュケースに在中していたA名義の普通預
金通帳等を用いて預金の払戻し等を行うこととし,同日午後2時30分ころ,上
記BMWを運転してD方前駐車場に戻り,同車内でBに対し,Aのアタッシュケ
ースに入っていた預金残高1000万円余のA名義のB銀行の普通預金通帳
や印鑑等を見せ,銀行の窓口業務終了まで時間がないのですぐ同銀行津支
店に行って同預金を払戻して来ると告げた上,同所にBを残し,B銀行津支店
に向かい,同日午後2時50分ころ,同店において,A名義の預金の払戻請求
書を偽造した上,同払戻請求書を提出行使するなどして,同行行員から現金
1000万円の払戻しを受けてこれを騙取した。その上で,被告人は,同日午後
3時過ぎころ,D方前駐車場に戻り,Bに対し,現金1000万円を見せ,そのう
ち500万円を分け前として同人に渡した。その後,被告人は,BMWを同所に
駐車し,同日朝,同所に来るのに使用したファミリアに乗って同所を離れ,同
日夕方,Fがいる三重県津市所在のパチンコ店に行き,Fに対し,ユンボを使
って穴を掘って欲しいと頼み,その承諾を得た。
イ 被告人は,同日夜,Bと三重県久居市所在の伊勢自動車道久居インターで
落ち合うことになっていたが,BMWがD方前駐車場に置いたままだったの
で,同車を被告人が経営する三重県松阪市k町所在の株式会社W事務所に
運んでおこうと考え,同日午後7時59分及び午後8時29分ころ,友人のG1に
電話し,上記BMWをW事務所に運ぶよう依頼し,さらに自らはファミリアを運
転し,愛人であるD1の運転する別の自動車とともに三重県津市j町所在の上
記G1方に赴き,G1に対し,再度上記依頼をした。これを承諾したG1は,同所
からD1が運転する車に乗ってD方前駐車場に行き,同所から上記BMWをW
事務所に搬送した。
 被告人は,G1方で同人及びD1と別れた後,伊勢自動車道久居インターに
行き,同所でBと落ち合ったが,その際,同人からAの死体を処分するよう迫ら
れ,Fが久居造成地に穴を掘るまでの間,死体を積んだクラウンを隠匿する場
所として,喫茶Qが入居する三重県松阪市所在のウィークリーマンション「SH
学園前」を運営するX1が津市内で運営するウィークリーマンション乙ビレッジ
の地下駐車場なら,外部から見えにくいから適当であると考え,同所にAの死
体を積んだクラウンを隠匿することとし,Bとともに同マンションに向かった。し
かし,X1あるいはその妻のK1と連絡が付かなかったことから,上記クラウン
を一旦同マンション前の月極駐車場に駐車した上で,A保険事務所で金品を
物色するためBとともに同事務所に行き,Aを殺害した直後に強取した同事務
所の鍵を使って同事務所に侵入し,室内を物色し,Aの預金通帳を見付けた
が,残高が少なかったことから,何も取らずに同所を出た。その後,上記月極
駐車場に戻ったところ,Bが同所にAの死体を積んだクラウンを駐車しておくこ
とに反対したため,同クラウンを久居造成地に移動させ,Bに対し,「ここは10
年くらいは何も建たへんし,大丈夫や。自分が知っている大阪の右翼関係の
人間が持っとるもんで,何かするときは分かる。」,「ここへ死体を置いておく。
明日になったら埋めてくれる者がいる。」などと言ってAの死体を同所に放置す
ることを提案した。しかし,これもBに反対されたため,Aの死体を積んだまま
のクラウンでCに戻ったが,この時点までには,K1と連絡が取れ,同女が上
記地下駐車場に車を置くことを了承したので,被告人らは,クラウンを同所に
駐車した上,同所にあったシュラフをAの死体に掛けて隠すなどした。
ウ 被告人は,同月20日午前10時30分ころ,三重県一志郡三雲町所在のK
r株式会社松阪営業所を訪れ,YS建設の名でバケットの大きさが0.45立方
メートルの大型掘削機(以下「ユンボ」という。)を1日借り受け,同日午後4時
までに久居造成地にユンボを搬送するよう指示し,その代金5万5620円を支
払った。また,被告人は,そのころ,改めてFに電話をし,久居造成地にユンボ
を用意しているので,同所に穴を掘っておいて欲しい旨依頼し,Fは,これを受
け,同日夕方,久居造成地に行って既に業者によって搬送されていたユンボ
を用い,同所に穴を掘った。
エ 同日午後2時ころ,被告人は,当時の妻のS1(現姓D1)とともにC付近まで
BMWで移動し,同所で落ち合った友人のZに対し,A等名義の小切手6枚(額
面合計491万4360円)を渡し,それらの小切手は,借金のかたに押さえたも
のであるが,自分の会社の口座が使えないから,それを換金して欲しいと依
頼した。被告人は,その際,ZにAの運転免許証を見せたり,換金の謝礼とし
て,A名義のクレジットカード1枚(N信販株式会社発行)を渡すなどし,さらに,
小切手が現金化できれば,その1割も謝礼として渡す旨の約束をした。Zは,
同日午後2時6分,上記被告人から譲り受けたクレジットカードを使って津市k
町のガソリンスタンドで給油した上,被告人からの上記依頼に従い,MI信用金
庫津中支店に赴き,同所において,同金庫職員に上記小切手の換金を依頼
し,うち5通分の485万円が後日Zの銀行口座に振り込まれた(なお,上記5
通の小切手は,後に不渡りとなり,取消手続きがなされたが,Zはそれまでに
上記振込額のうち50万円を費消している。)。また,Zは,同月20日午後4時
6分から同月22日午後3時30分にかけて,上記A名義のクレジットカード(N
信販株式会社発行)を使用し,別紙A名義のカード使用事実一覧表(以下「別
紙一覧表」という。)記載の②ないし⑤,⑦,⑱及び⑲のとおり,7回にわたって
商品12点(代金合計36万314円)を購入した。
被告人は,小切手の換金のため銀行に向かったZと別れた後,Aから強取
したBMWを運転し,妻のS1とともに静岡県富士市方面に向かい,Aが使用し
ていた携帯電話の番号が異なる区域使用番号を表示するようにして,Aが未
だ存命しており,東京方面に向かっているかのように工作したほか,同日午後
7時57分ころには,Aから強取したクレジットカード(DCカード)を用い,上記富
士市内の店舗で商品11点(代金合計3万3310円)を購入した。
オ 被告人は,富士市方面から三重県内に戻った後の同月21日午前5時8分こ
ろ,D方にいたBに電話し,久居造成地にAの死体を遺棄しに行くことを伝え,
BMWを運転してC地下駐車場に向かい,途中,D方でBを同車に同乗させた
上,同日午前5時30分ころ,乙ビレッジ地下駐車場に到着した。しかし,同所
への進入路を同所に隣接するL1方の駐車車両が塞いでおり,同駐車場から
クラウンを出すことができなかったため,L1方を訪れ,同人に上記駐車車両を
移動してもらった。しかし,クラウンのバッテリーが放電しており,エンジンが始
動しなかったことから,同日午前5時46分ころ,Fに架電し,ブースターケーブ
ルを持っていないか尋ねたが,同人も同ケーブルを持っていなかったので,針
金様のものでBMWとクラウンのバッテリーをつなぐなどしてエンジンを掛けよ
うとしていたところ,それを見かねたL1がブースターケーブルを貸してくれたの
で,被告人らは,これを用いてクラウンのエンジンを始動させ,同所を離れ,B
MWを付近に駐車しておきクラウンに同乗して,久居造成地に向かった。被告
人とBは,同日午前6時20分ころ,久居造成地に到着し,被告人がAの死体
をクラウンの後部座席から引きずり出し,Bとともに前日Fが掘った長方形の
穴に投げ入れた。その際,被告人は,Aの腕からロレックスの時計を外して取
ろうとしたが外れなかったためこれを諦めた。その後,被告人は,同日午前6
時23分ころ,携帯電話でFに電話をかけ,同人から約5分51秒にわたってユ
ンボの操作方法を教わり,自らユンボを操作してAの死体を投棄した穴に土を
埋め戻した。
カ Aの死体を遺棄した二,三日後,被告人とBは,Aが他に財産を持っているの
ではないかなどと考え,強取してあったA方マンションの鍵を使って同所に侵
入し,殺害前に訪問した際に同所に残した被告人の名刺及び被告人の携帯
電話番号が記載されたメモを回収し,同所洗面台の指紋を拭き取ったり,金品
を物色するなどした。
キ 被告人は,Aから強取したクレジットカードで買物をしようと考え,同月21日
午後2時29分から47分にかけて,株式会社DF,TKカードサービス株式会
社,DSカードサービス株式会社,株式会社HGDカード,株式会社OC及び株
式会社CSに架電し,Aから強取した同人名義の上記各社発行にかかるクレジ
ットカードが使用可能であることを確認した上,同日午後3時58分以降同日午
後7時45分までの間,別紙一覧表記載の⑧ないし⑬のとおり,名古屋市内の
4店舗において,D1とともにA名義のクレジットカード3枚(株式会社KS,株式
会社Dカード及び株式会社H銀行発行のもの)を使用し,商品17点を購入し
(代金合計84万68円),同⑭のとおり,同日午後9時55分,三重県津市h町
所在のホテルで上記株式会社Dカード発行のクレジットカードを使用して飲食
代金を支払った(代金合計1万4332円)。なお,被告人は,同月22日午後零
時21分から35分にかけても,株式会社J,株式会社Mi銀カード及び株式会
社Mカードサービスの各事務所に,A名義の上記各社のクレジットカードが使
用できることを確認している。また,被告人は,同月25日までに,知人のB1
に対し,「持ち主がどこか遠いところにいて使っても構わないものだ。」と言って
Aから強取した同人名義のクレジットカード3枚(株式会社Dカード,株式会社
DO及び株式会社MCサービス発行のもの)を交付し,その際,B1がAの住所
等を覚えるためということで同人名義の運転免許証1枚をB1に渡した。B1
は,上記一覧表の・ないし・記載のとおり,平成6年7月25日から同年8月20
日にかけて,上記クレジットカード3枚を単独又は友人の岡金宏とともに使用
し,電子手帳等多数の商品(代金合計53万6472円)を購入した。
ク 被告人は,その後,平成6年8月ころになって,三重県度会郡玉城町所在の
Y方を訪れ,同人に対し,「人から頼まれたんだけど,38の玉ないかなあ。3個
ばかり。」と38口径のけん銃の弾の入手を依頼したが,Yに適当にあしらわれ
た。しかし,被告人は,その数日後にもY方を訪れ,同人に対し,再度けん銃
の弾の入手を依頼したが,同人に「馬鹿なことを言ってはいけない。」と断られ
た。
 2 被告人のけん銃所持に関する弁護人の主張に対する判断
 弁護人は,被告人はけん銃を所持していたことはなく,A事件やC事件は,Bが自
分で所有するけん銃を使って引き起こしたものであると主張し,被告人も,自分は
Wからけん銃を預かったことはなく,他にけん銃を所持していたこともない旨の供述
をする。
(1)しかしながら,被告人がWからけん銃を預かり,これをそのまま所持していた経
緯は上記1の(1)に述べたとおりであって,このことは,上記認定に沿い内容面
で互いに合致しているWやYの各検察官調書により明らかである。
 ところで,同人等と被告人との関係であるが,Wは,平成4年3月ころ,行きつ
けのスナックに被告人も客として出入りしていたことから被告人と知り合い,所属
していた草野球のチームに被告人も入っていたことなどから,被告人と親しく付
き合うようになり,喫茶Qに頻繁に出入りし,被告人やその妻S1と飲食をともに
するなど被告人と懇意にしていた者,Yは,平成4年4月ころ,Wから,被告人を
紹介され,以後,喫茶Qに出入りしたり,妻と一緒に被告人やS1と飲食をともに
するなどし,被告人からは,「おとうさん」と呼ばれて慕われ,親密な付き合いをし
ていた者であって,W及びYには,ともに被告人に不利益な事実を殊更作り上げ
て虚偽の供述をするような事情はうかがわれないから,上記各供述の信用性は
高い。
 もっとも,Wは,公判廷では,平成5年10月6日,被告人にけん銃を預けたか
どうかは分からない,取調官に対し,どのような供述をしたかは覚えていないな
どと証言している。しかしながら,同人は,そのような曖昧な供述をする理由につ
いて,「今になって言いたくないのは自分も不利になるし,被告人も不利になるか
ら。」,「一切言わないという信念を持ってきた。」と述べるだけであって,被告人
にけん銃を渡したこと及び検察官の取調べでこれを認めたことを積極的に否定
するまではしていない。そして,上記のとおり,同人と被告人が親しく交際してい
たこと,公判廷において,証言を求められている内容は,Wが所持していたけん
銃に関するものであることをも考慮すれば,同人は,けん銃の所持に関する自己
の刑事責任の追及を避けるため,あるいは被告人に不利益な供述をしたくない
という心境から,殊更上記曖昧な公判供述を行っているに過ぎないと推量され,
同人の同公判供述は信用できない。
 また,Yも,公判廷において,Wが出頭する際,同人からけん銃の保管を依頼さ
れたかどうかという弁護人からの質問に対し,「Wも,そんなもん,頼まれへんや
ろ。」とけん銃保管の依頼を否定する趣旨の証言をしている。しかしながら,Y
は,同公判における検察官の質問に対しては,Wからけん銃の預かりを依頼さ
れたことや被告人がそれを預かることになったことを積極的に否定しなかったば
かりか,Wがけん銃を被告人に預けたかどうか,Wが自分にけん銃を預けようと
していると判断した理由などにつき,捜査段階における調書に書かれている内容
に間違いはない旨述べているのであって,上記弁護人からの質問に至って供述
を変遷させた理由についても何ら説明していない。そして,上記のとおりのYと被
告人との関係をも併せ見れば,結局,Yは,被告人に不利益な供述をしたくない
という心境から,やはり殊更上記曖昧な供述を行っているものと推量され,上記
けん銃の保管依頼を否定するYの公判供述は信用できない。
 さらに,被告人は,上記第1の1(4)ク認定のとおり,平成6年8月ころ,Yに38
口径のけん銃の弾丸の入手を依頼した事実や,C事件に関する判断において後
述するように,警察に出頭する前に,Yと電話で話した際,「Wから預かっている
物について,ちゃんとしてある。」と伝えた事実が認められるが,このことも被告
人がWからけん銃を預かっていたことの裏付けということができる。
(2)のみならず,B1は,平成5年6月ころ,被告人から赤色のビニール製で漫画の
プリントがされた巾着袋を見せられ,「(中身は)チャカや」と言われた,その所有
者について,被告人は,Y又はWと言っていたと(第45回公判),C1は,Wが逮
捕されてからしばらくして,被告人が「Wは恐喝にけん銃を使ったが,それは自分
に預け,出頭の際は,おもちゃの銃を持って行った。」と話していたと,Fは,日付
は自信がないものの平成5年11月ころ,被告人から,Wからの預かり物だという
ことで,馬の絵が描かれた回転式のけん銃と金色の弾丸5発位を預かった,上
記けん銃はコブラという名のもので赤っぽい布製巾着袋に入っていた,上記けん
銃等を預かった後,油紙に包み,自宅や職場の机に保管していたが,その後,
自分に保険金詐欺の容疑が掛かったので上記けん銃等を友人のA1に預け,同
事件で保釈された後の平成6年3月10日ころ,被告人に返した,その際,被告
人と相談してけん銃所持が発覚した場合の替え玉としてモデルガンを用意する
こととし,その数日後,被告人からモデルガンを受け取り,それをさらにA1に預
けた旨を,A1は,平成6年初めころ,Fからチャカかピストルであると言われ赤か
ピンク色の布に巻かれたピストルのような形をした包みを預かったが,Fが保釈
された後,同人とともに喫茶Qに行き,同人がその包みを持って同店内に入り,1
0分か15分ほどして手ぶらで出てきた,その際,被告人も一緒に出てきて,自分
に「すまなんだな。」と言った,数日後,被告人からモデルガンを渡され,「誰かに
聞かれたらこれしか預かっていないと言って欲しい。」と言われた旨を,Kは,Fか
ら,同人の逮捕前,油紙に包んだ回転式けん銃を預かるよう頼まれたが断った,
後に,Fから,そのけん銃はA1に預けたと聞いたが,その際,Fは,自分に何か
あったらA1には,けん銃を被告人に渡すよう言っておいて欲しいと頼まれた旨
を,それぞれ供述しており,実際にA1はその供述に沿うエアーガン及びプラスチ
ック玉を任意提出している。
これらの者の供述内容はいずれも上記認定及びWやYの検察官調書の内容
に沿うものである。また,B1は,平成4年秋ころ,野球チームの飲み会で被告人
と知り合い,以後,喫茶Qに出入りするようになり,平成6年春ころからは,W事
務所の一部を間借りし,自己の事務所を開いたり,後述するとおり,被告人がC
事件の直後に出頭する際には,同人から強取したBMWやクレジットカードを用
いて購入した電化製品等の処分を依頼された関係にある者,Fは,平成5年七,
八月ころ,勤務先の同僚に紹介されて被告人と知り合い,同年,当時の勤務先
の社長の指示で,保険金を詐取するため会社の車を海に沈めるという詐欺未遂
事件を起こした際には,被告人とともに車を沈める場所を探すなどしており,その
後も,知人のR2に土地の販売先を探して欲しいと頼まれて同女に被告人を紹介
したり,上記1の(4)ア,ウ,カに記載のとおり,被告人から依頼され,造成地の
穴掘りをしたり,Aの死体を積んだ車のエンジンを掛けようとした被告人から,ブ
ースターケーブルがないか尋ねられるなど被告人と親密な付き合いをしていた
者,A1は,Fの友人で被告人とは顔見知り程度の関係であった者,Kは,平成6
年5月ころ,被告人と知り合い,以後,同人に飲みに連れて行ってもらうなど付き
合いを深め,被告人が経営していた喫茶Qを引き継ぎ,同年6月ころから「Da」の
名前で喫茶店の営業を行い,その後,テレホンクラブの営業を始める際にも被告
人の助力を受け,後述のとおりCの遺体を遺棄しようと考えた被告人から依頼を
受け,久居造成地に事情を知らないで穴を掘るなどした者であって,いずれも被
告人に不利益な事実を殊更作り上げて虚偽の供述をするような事情はうかがわ
れないから,同人らの上記各供述は信用できる。また,上記C1は,被告人と性
関係を持ったことがあり,また,就職先の相談などに乗ってもらったことがある者
であるが,その一方でBとの付き合いがあった可能性もあり,被告人とは車の取
引をめぐってトラブルを生じたりもしたから,その証言の信用性の判断は,慎重
になされるべきであるけれども,その証言内容は,上記のとおり信用できるB1ら
の証言と符合しており,やはり信用できる。
 もっとも,Fは,公判廷において,弁護人からの質問に対し,「けん銃は本物か
どうかは,使ってもおらんし,分からんから,何とも言えない。」,「Wから預かった
ものか,はっきりした自信はない。」など,被告人からWのけん銃を預かったこと
を否定するともとれる曖昧な供述をしている。しかしながら,Fは,供述を変遷さ
せた理由につき,合理的な説明はしていないのであって,親しく交際していた被
告人をかばうなどの趣旨から,あえて上記曖昧な供述をしているものと推量さ
れ,Fの上記供述部分は信用できない。
なお弁護人は,Fの供述を論難して,①被告人が,当時さほど親しくなかったF
にけん銃を託したというのは不自然であるし,②喫茶Qは平成5年9月21日廃
業しているのに,Fは,平成6年3月8日に保釈されてから,喫茶Qでけん銃を返
したと証言しており,同人の供述は信用できないと主張する。しかしながら,①に
ついては,Fは平成5年中に発生した上記詐欺未遂事件において,被告人ととも
にセルシオを捨てる場所を探すなどしているのであって,同人が被告人と親しく
なかったとは言えず,Fにけん銃を預けることが格別不合理とは言えないし,②
については,なるほど被告人は,平成5年9月21日,喫茶Qに置いてあったゲー
ム機を処分し同年末ころ同店を閉店したと思われるが,その後も,同店を封鎖せ
ず,喫茶店の什器,備品,内装等はそのままにした状態で,「Fu商会」という看板
を付け,平成6年6月ころ,いわゆる居抜きで同店をKに引き渡すまで事務所とし
て使用し続けており,その間なじみ客も訪れることがあったというのであり,Fも,
けん銃を返却した際,同店舗で喫茶店の営業が行われていたとまでは述べてお
らず,あくまで,同店舗に入ると被告人が1人でいたが,同店が営業していたか
どうかは分からないと述べているのであるから,Fの供述内容が客観的な事実に
矛盾しているとは言えず,弁護人の主張は前提を欠いており,いずれも採用でき
ない。
(3)さらに,Bは,A事件を起こす少し前,W事務所において,被告人に対し,自分
はタイタンという25口径の自動装てん式けん銃を持っているという話をしたとこ
ろ,被告人は,自分もYk組のWから預かったけん銃を持っていると言って,巾着
袋かビニール袋に入った回転弾倉式けん銃を出してきた,被告人は,Wが事件
を起こした際使ったけん銃であるが,けん銃を出せないから,そのまま預かって
いると言っていた,自分は被告人とともにこのけん銃を使用してA事件,G事件,
C事件を次々に惹起した,C事件後,D1から衣装ケースを預かり,その中を見た
ら銀色のビニール製の三角形の入れ物に入ったけん銃があり,この衣装ケース
ごと友人のE1に預けた旨証言するところ,Xは,平成6年8月,自宅マンションの
部屋で,Bから被告人のものということで回転式けん銃を見せられ,弾の入手を
依頼されたと,E1は,平成6年12月上旬ころ,Bから被告人がCやAを殺害する
のに使用したものであるとして衣装ケースに入っていたけん銃を見せられたが,
それは,銀色の扇形をしたケースに入っていた旨を,それぞれ供述している。
 Bは被告人と共犯関係にあり,また,XはBが所属した暴力団の後輩で,同人
の運転手も務めていた者,E1は,昭和52年,高校1年生のころにBと知り合
い,同人と家族ぐるみの親しい付き合いをし,同人に2500万円以上の融資をす
るなどしてきた者であり,いずれもBの刑責を軽減させるために殊更被告人に不
利益な供述をする可能性があり,同人らの供述の信用性は慎重に吟味すべきで
はあるが,これらの供述は詳細で具体的であるばかりでなく,上記W,Y,その他
(2)に挙示したB1以下の信用できる供述とも一致しているところからすれば,被
告人のけん銃所持に関し,同人等の供述も信用することができる。
 もっとも,弁護人は,各供述の内容を子細に見ると,けん銃が入っていた容器
についてE1らの供述には他の供述に対し相違があり,信用できないと主張す
る。そこで検討するに,Wが所持し,被告人に預け,さらに被告人がFに,FがA1
に預けた時のけん銃の入れ物について,Wは,白地に赤い巾着袋に入っていた
と,Fは,布製の赤っぽい色のケースに入っていたと,A1は,けん銃は風呂敷の
ような赤色かピンクの色の布にくるまれていたと,B1は,けん銃はビニール様の
ものと二重になった漫画のプリントがされた赤色の巾着袋に入っていたとそれぞ
れ述べており,各供述の内容は,けん銃の入れ物の形状,色などにつき大筋一
致している。ただ,E1によれば,けん銃は銀色の扇形をしたケースに入っていた
というのであり,この点は,他の供述と相違している。しかしながら,Bによれば,
最初に被告人から,けん銃を見せられたときはビニール袋か巾着袋のようなか
わいらしい袋に入っていたが,同年11月に衣装ケースに入っていたけん銃を見
ると,最初見た袋と異なるホックかファスナーが付いているビニール製かシルバ
ーのような色の三角形の入れ物に入っていたと述べているのであって,被告人
がけん銃を保管中,衣装ケースに入れて隠匿するまでに容器を変えたと考えら
れるから,けん銃の容器に関する幾分の相違点は,BやE1の供述の信用性を
減殺するものとはいえない。
(4)弁護人は,A事件やC事件は,Bが自分で所有するけん銃を使って引き起こし
たものであるとも主張する。
 被告人及びBの友人であるZ1は,Bが常時けん銃を所持しており,そのけん
銃を見せられ,買手を見付けて欲しいという依頼を受けたことがある,けん銃の
種類は,コルト38口径のコブラと聞いている,平成6年1月ころ,鈴鹿インター付
近で会った際も,Bが鞄にそのけん銃を入れているのを見たと証言し,また,被
告人及びBの知人であるA2も,平成6年,Bから一度黒っぽい普通の回転弾倉
式のけん銃を見せてもらったことがあるが,Bは,弾が入っているから危ないと言
ってすぐに引っ込めたと証言する。
 しかしながら,Bは,かつて自分でも25口径のタイタンという小さい自動式けん
銃を所有していたことを自供しているが,それは弾がないのでN1に譲り渡した,
Aを殺害するのに使用したけん銃は被告人が所持していたものである,ただ,被
告人から「持って帰れないから。」ということで,そのけん銃を二,三回位預かった
ことがある,その期間は長くて1週間程度であるとも証言している。そして,上記
1の(1)及び(4)ク記載のとおり,被告人がWからコルト社製の38口径回転弾
倉式けん銃を預かって手元に保管し,平成6年8月ころには,Yに対し,その弾丸
の入手を依頼したこと,被告人は,同年12月25日,警察に出頭する際,同けん
銃を衣装ケース内に隠匿してD1に託したこと,その前後,Yに出頭をすることを
報告した際,同人にWから預かったけん銃は隠匿した旨を伝えたことが認められ
るのであって,これらによれば,Bが所持していたけん銃は25口径のタイタンで
あって,同人が一時所持していた38口径のコブラというけん銃は被告人がBに
預けたに過ぎず,上記被告人の行動等をも考慮するとBが自己の所有するけん
銃や被告人から預かったけん銃でC事件及びA事件を起こした可能性は認めら
れないから,弁護人の上記主張は理由がない。
(5)なお,後述のC事件について述べるとおり,本件けん銃は,被告人が警察に出
頭する前に衣装ケースに隠匿してD1に預けたところ,この衣装ケースの処置に
窮したD1が更にBに預け,Bは更にE1方に持ち込んだまま,結局発見されてい
ない。しかしながら,このことは,これも後述のC事件について述べるとおり,E1
が第三者をかばい,あるいは憚るなどして,その処分先を明らかにしていないこ
とによると思われるのであって,本件けん銃が未だ発見されていないことが,直
ちに被告人がこれを所持していたことに疑いを生じさせる理由となるものではな
い。
 以上検討したところによれば,被告人の供述は信用できず,弁護人の主張も採用
できないのであって,被告人が本件当時,Wから預かった回転弾倉式けん銃1丁と
実包4発を所持していたことは明らかである。
 3 A事件に関する弁護人及び被告人の主張や弁解に対する判断
   弁護人及び被告人は,上記1で認定した各事実につき,以下のとおりの主張ないし
弁解をするので個別に検討する。
  (1)BからA保険事務所等への架電について
   ア 被告人は,Aとは全く面識がなく,名前も聞いたことがない,被告人の携帯電話
の平成6年7月19日の架電記録には午前10時56分のA方,同日午前10時
57分のA保険事務所,同日午後零時34分及び57分のAの携帯電話への発
信の事実があるが,これを自分で掛けた覚えはない,上記架電のうちA方及
びA保険事務所に対するものは,多分自分のポケットベルに連絡が入ったの
で折り返し電話をしたのだと思う,Aの携帯電話への2度の架電は,Bが電話
に出た覚えがあるから,同人がAの携帯電話を使っていたのだと思うと弁解す
る。
しかしながら,まず被告人の携帯電話からのA方とA保険事務所に対する
発信の事実について検討すると,同日午前10時56分23秒にA方マンション
への架電がなされ(通話時間約19秒),同架電が終了した僅か22秒後の同
日午前10時57分4秒に続けてA保険事務所に電話がなされており,しかも,
その通話時間は約34秒にも及んでいることが認められる。被告人はこの事実
につき,結局上記の供述の他にまともな説明ができていないが,架電記録上
からは,当時被告人が携帯電話を他人に貸していたとはうかがわれないので
あって,被告人がA事件の関係者と行動を共にしており,その携帯電話をこの
同行者に使用させたとするのが自然な解釈である。そして,この解釈は,B及
びV1の各証言と一致する。
なお,第三者が被告人のポケットベルにA方マンション及びA保険事務所の
電話番号を送信したというのは,誰が何のためそのようなことを行うのか目
的,趣旨,必要性が明らかでなく上記被告人の弁解は合理性に欠けている。
次に,被告人の携帯電話からのAの携帯電話に対する発信の事実につい
て検討すると,被告人がAの携帯電話に架電したのは,同月19日午後零時3
4分と57分の2回のみであって,その他にBと連絡を取る場合は,D方やBの
ポケットベル及び携帯電話に連絡していることが認められる(発信記録を見る
と,被告人は,同月18日,Bの携帯電話に6回,同人のポケットベルに1回連
絡をし,また,翌19日にも,Bのポケットベルに3回,D方に2回連絡をしてい
る。)。そうすると,仮に被告人が言うとおりAの携帯電話に発信したところ,B
が出たというのであれば,当時BがAの携帯電話を使用していたことになる
が,この発信の時以外には,被告人はそのAの携帯電話を使ってBに連絡を
取ろうとせず,ポケットベルを用いるなど迂遠な方法を採っていることになるか
ら不自然である。この発信の事実も,Bが言うとおり,被告人が当時Bと行動を
共にしており,Aに連絡を取ろうとしていたものと考えれば,容易に説明ができ
ることである。
以上によれば,被告人の上記弁解は,到底信用できない。
イ なお,弁護人は,Bあるいは真犯人のうちの何者かが,本件犯行が発覚した
場合に,被告人に責任を転嫁することを意図し,被告人のポケットベルにAの
自宅や事務所や携帯電話の番号をメッセージとして入れたとも主張する。しか
しながら,上記被告人の携帯電話からの発信は,未だAと面談の約束を取り
付ける前の段階であることはV1の供述からも明らかであるから,Bや真犯人
が,既に自己又は共犯者に嫌疑がかかることを懸念し,身代わりあるいは責
任転嫁を図る相手として,被告人に電話をするというのは,極めて不自然であ
る。しかも,Bは,顔見知りのV1に対し,同女も知っているBの変名であるA1
と名乗るなど,自己の関与を隠そうとしていないのである。そうしてみると,弁
護人の上記主張も到底採用できない。
また,弁護人は,平成6年7月19日にBからの架電を受けたV1は,当初,
出勤して間もなくBから架電があり,これをすぐにAに電話連絡したのが同日
午前9時30分頃から午前10時頃までの間であると供述していたことや,Aの
姉であるA子が,同月21日,V1から電話で,「7月19日午前9時40分にA1
から事務所に電話があったので,Aのマンションに電話をしてA1に電話をする
ように伝えた。」旨聞き,その旨のメモを残していることなどを根拠とし,Bが同
月19日にA保険事務所等に架電したのは午前9時30分頃から午前10時頃
までの間であって,この架電は被告人の携帯電話の発信記録に見当たらない
から,同日,自分の携帯電話を忘れたため,被告人の携帯電話を借りてA保
険事務所やAの携帯電話に電話をしたとのBの証言(上記1の(3)イ)は信用
できないとも主張する。
しかしながら,A子は,V1から「平成6年7月19日午前9時40分,A1から
事務所に電話があった。」等の話を聞いたのは,Aが失踪してから約1年後の
平成7年7月22日ころであるとし,Aの失踪直後のV1からの電話では,Aが
平成6年7月19日に銀行で1070万円を引き出した後,同人が行方不明にな
ったと聞いたと述べているに過ぎない。また,V1が取調官に対し,同日午前9
時30分頃から午前10時頃までの間にBから電話があったと供述したのが平
成7年7月17日であり,同女は,同月22日,A子にもその旨を伝えた後,同年
10月27日,取調官に対し,Bから架電があった時刻は,平成6年7月19日午
前10時57分ころであると述べるに至ったと考えられ,同女は,このようにその
架電時刻を午前10時57分ころと特定した理由について,当日,午前9時30
分ころ出勤し,掃除等をした後,伝票整理の最中に電話があったので,午前1
0時57分ころで間違いないと思うと具体的な根拠を示して説明している。以上
に加えて,被告人の携帯電話からA保険事務所に対する平成6年7月19日午
前10時57分の発信の事実があり,被告人の供述ではこの事実について説
明が付かないことを総合すれば,Bが被告人の携帯電話を借りてそのころA保
険事務所に架電した事実は優に認めることができるから,上記弁護人の主張
も採用できない。
  (2)殺害場所の選択について
 弁護人は,Aを殺害したとされる最終処分場付近の道路は,交通量が相当多
いし,同処分場奥には種々の工場が存在し,大型ダンプ等が頻繁に出入りする
状況にあるから,けん銃で人を射殺しようと考えている者がそのような場所を選
ぶというのは不自然であると主張する。
 しかしながら,被告人とBは,平成6年7月19日午後零時にSaホテルで待ち合
わせをしていたAが同所に到着するまでに,殺害場所を選び,そこにAを呼び出
す必要があったのだから,ホテルからあまり離れた場所を選ぶのは難しく,ま
た,殺害場所を選り好みする時間もなかったと考えられる。かつ最終処分場付近
の道路は交通量があるとしても,道路から門扉を開けないと入ることができず,
その門扉から奥に入ると内部は広く,人目に付かないから,殺害場所として不自
然とは言えない。そうしてみると,弁護人の上記主張は採用できない。
(3)殺害時の状況について
  弁護人は,Aを殺害した状況についてBは詳細に述べているが,その内容が客
観的な創傷の態様や当時の状況に符合しないと主張する。
 Bは,Aを殺害した状況について,自分がクラウンの運転席に座り,同車後部
座席に座ったAと雑談をして気をそらし,被告人がAを殺害するのを待っていた,
すると被告人が後部左側の窓から右手を伸ばし,まずAの左側頭部左耳付近約
20センチメートルの距離から同人を撃ったところ,弾丸がAの左耳の横辺りに当
たったが,同人は絶命せず,「頭が変や。何か飛んだんかな。」と唸りながら,左
手で左耳の下付近を押さえた,すると,被告人は,再度後部左側の窓から右手
を伸ばし,Aから見て斜め後方か横から,そのこめかみ付近に2発目を発射した
が,それは1発目の弾丸よりちょっと上に当たった,Aは,一旦倒れたが起きあが
り,携帯電話を取り出したので,「どこに掛けるのか。」と聞いたところ,「おっかあ
と待ち合わせしているもんで,もうそこに行けへんもんで,おっかあに迎えにきて
もらう。」など話した,そこで,「何でや,別れたんと違うか。」と聞いたところ,「ヨリ
が戻って,今夜食事をする約束をしているが,これでは駄目だから迎えに来ても
らおうと思う。」と答えた,気が動転したことや同人が哀れに思ったことから,「俺
が掛けてやるで電話番号を言え。」とAに言ったところ,同人が電話番号を言った
ので,クラウンの外に出て,同人から携帯電話を受け取ってその番号に電話を
掛けた,しかし,呼び出し音が5回ほど鳴ったところで,まずいと思って電話を切
った,その後被告人が3発目を撃った際は,車外で被告人の後ろにいたのでどこ
に当たったか見ていないと証言する。
 しかるに,死体検案書,実況見分調書,鑑定書,法医学者であるH1の証言に
よれば,Aの死体には,(a)左後頭下部,(b)左頬部,(c)左前額部の3か所に銃
弾により生じた射創があること,(a)左後頭下部の射創は,Aのほぼ後から前に
向かって弾子が射入し,頭蓋内に入ることなく,皮下に止まった深さ約1センチメ
ートルのものであって致命傷ではないこと,(b)左頬部の射創は,Aの前やや左
上から後やや右下に向かって左眼窩外側壁の1.5センチメートル後ろから射入
し,左頬骨弓,左上顎骨を貫通し,左蝶形骨翼状突起及び同外側板を損傷し,
咽頭左側壁から咽頭内に入り食道内に弾丸が止まった深さ約9センチメートルも
ので,左上顎骨の貫通は,Aが口を開けた状態でなされており,その力で顎関節
左側を脱臼させたものであるが,やはり致命傷ではないこと,(c)左前額部の射
創は,左前やや上から右後下に向かってやや左前頭骨の眼窩上縁の3センチメ
ートル上から射入し,同頭骨及び硬膜を貫き,右小脳天幕のほぼ中心を破裂さ
せ,右後頭葉に達する深さ約16.5センチメートルのものであり,致命傷であり,
この受傷直後に死に至ったことが認められる。
 そうすると,Bの証言による「1発目のAの左耳の横辺りに当たった」射創と「1
発目の弾よりちょっと上に当たった」射創とは,上記(a)左後頭下部,(b)左頬部
の射創のいずれかに該当することになるが,とりわけ(b)左頬部の射創は顎関
節左側を脱臼させるなどしているので,B証言に言う1発目が命中した後のAの
様子と乖離するから,(a)左後頭下部の射創が1発目の射創であり,(b)左頬部
の射創が2発目の射創である可能性が高い。なお,Bは被告人が3発目をどの
ように発射したのかを見ていないが,(c)左前額部の射創が致命傷で,Aを即死
に近い状態で死亡させたと認められるから,これがBが言う3発目の射創に該当
することは明らかであって,(c)左前額部の射創が1発目あるいは2発目の射創
であるとは考え難い。
しかし,仮に(a)左後頭下部の射創が1発目の射創であったとすると,Bの証
言に言う命中部位と差異があることは否めないのであって,Bは,弾丸の命中部
位を,真実は1発目は左後頭下部に命中したものであるのに左耳の横辺りに命
中したと,2発目は左頬部に命中したものであるのに1発目の弾よりちょっと上に
命中したと,それぞれ誤認していることは認めざるを得ない。
 上記のようにBが命中部位を誤認した理由は明らかではないが,同人は車内
でAと向かい合って会話をしているときに被告人が側面から忍び寄り,けん銃を
発砲したものであるから,Bが被告人とAとを終始同時に見つめていたとは限ら
ない上,Bのごく至近距離で発砲されたのであるから,発砲・命中の瞬間を見て
いなくてもあながち不自然とまでは言えない。また,命中個所については,Aが手
で押さえたところから血が流れていたことから,その個所を推定して述べている
に過ぎないものでもあるし,B自身,Aの殺害当時かなり緊張・興奮していた様子
もうかがわれる。そして,3発の弾丸が当たった各部位について,Bが虚偽の事
実を作り上げたとしても,それによって,B自身の刑責が軽減したり,被告人に責
任転嫁ができるわけではないから,そのような虚偽の供述をねつ造する動機は
ないのであって,Bが上記のとおり証言するところの弾丸が命中した部位等に関
する客観的な事実との齟齬は,同人の誤認あるいは記憶違いによるものと推量
される。
 なお,Aは,2発目の(b)左頬部射創により,客観的には左頬骨弓,左上顎骨,
左蝶形骨翼状突起及び同外側板損傷,咽頭に達する傷害を負っているにもか
かわらず,Bの供述によれば,その直後「おっかあに電話する。」等と述べたこと
になり,弁護人も不自然であると主張する。
 上記H1証人は,「左頬部の射創を受けた後は,顎,咽頭に強い力が加わって
ショック状態に陥り,その痛みとショックによって会話をするという可能性は極め
て低い。」旨証言するものの,同証人は,「こういう損傷を受けた後の行為能力
は,一般的に推測される域を超えることが非常に多い。そういう発言があったとし
ても,私としては,その可能性を完全に否定するということはできない。」とし,顎
関節左側が脱臼した場合の言語能力は,「声門等は損傷しておらず,顎関節が
外れていても,明瞭ではないにしても,会話が可能である。歯医者で治療中に顎
が外れた人がしゃべる内容を聞いていると,何を言っているか大体分かるが言
葉がはっきりしない,その程度の不明瞭さである。」とも証言している。また,同じ
く法医学者であるI1証人は,「左後頭下部の受傷によって脳震盪を起こして意識
を失うことはなく,また,左頬部の受傷によって,意識を失わせる程度の重度の
ショック状態に陥るということはなく,一定の言動に及ぶことは可能である。」と
し,顎関節左側が脱臼した場合の言語能力は,上記H1証言と大体近いと思うと
証言している。そうすると,2発目の弾丸によって上記傷害を負ったとしても,Aが
上記Bの証言するような言動に及ぶ可能性が完全に否定されるものではない。
 のみならず,仮にBが殊更上記Aの言動やそれに対する自分自身の言動を作
り上げたとしても,それによって,B自身の刑責が軽減したり,被告人に責任転嫁
がなされるわけではなく,あえて上記のような供述をねつ造する動機に欠けてい
ることは上記と同様である。また,同人の証言内容は,具体的かつ臨場感があ
り,捜査官が誘導して作り上げられるような内容ではない。
 そうすると,2発目の射創を負ったAに真実B証言のような言動があったのか,
あるいはこのことはBの記憶違いであるのかは不明であるにしても,このような
供述内容があるからといって,Bの証言の信用性が直ちに大きく減殺されること
にはならないというべきである。よって,弁護人の主張は採用できない。
(4)殺害時刻前後の架電について
弁護人は,Aを殺害したとされる時間やその前後,被告人は,実家やFに電話
をしているが,これは殺人を行う,又は,行った者の行動としては不自然であると
主張するところ,被告人の携帯電話の架電記録によれば,被告人は,Fの勤務
先であるMb建工に平成6年7月19日午後1時4分(通話時間14秒),Fの携帯
電話に同日午後1時31分(同15秒)及び35分(同18秒),父親のC2に同日午
後1時10分(同13秒),19分(同2分25秒)及び29分(同1分20秒)それぞれ
電話していることが認められる。
しかしながら,被告人は,上記のとおり,Fに対し,同日中に久居造成地で死
体を遺棄するための穴掘りを依頼しており,上記各Fの携帯電話及び同人の勤
務先に対する架電は,むしろ同人に穴掘りの依頼をしようとしたものと考えられ
ること,被告人充賢に対する架電の用件,会話内容は不明であるため,それら
から同架電の必要性等について判断することはできないが,被告人は,Aを殺害
した後,直ちに現場を立ち去っており,殺害後の被告人の行動からは,上記電話
をすることは可能である上,その通話時間が短いことを考慮すれば,上記架電
履歴の存在が,同日午後1時ころ,被告人がAを殺害したとの認定に疑いを生じ
させる事実であるとは認められない。
(5)留守番伝言サービスについて
 A保険事務所に務める事務員であったV1は,平成6年7月19日午後3時こ
ろ,NTT留守番電話サービスからA保険事務所に「AからV1に対する『今から東
京に行く』との電話があった。」と連絡してきたと供述している。これに関し,弁護
人は,Bの供述によれば,上記架電は被告人がしたA殺害後の偽装工作の一環
としか考えられないところ,V1は,平成6年7月19日朝から午後3時までの間,
A保険事務所にいたから,その間,同事務所が不在中に掛かってきた電話に対
してなされる同サービスを利用する状況にはなく,したがって,同伝言は,同サー
ビスの開始時刻である平成6年7月19日午前9時からV1が出勤する午前9時3
0分の間か同月18日以前になされたということになるが,Bの証言によっても被
告人が電話を掛ける工作をしたということは認められないし,被告人の携帯電話
の発信履歴にもA保険事務所に架電した記録はない,そもそもAについて何の
知識もなく,当然A保険事務所が同サービスの契約をしていることも知らない被
告人がそのような工作をできるはずもない旨主張する。
 しかしながら,V1は,上記3の(1)イ記載のとおり,同月19日午前10時57分
のBからの電話を受け,Aに連絡を取っているから,その時点でAが生存してい
たのは明らかであり,上記架電がBの証言するようにAが殺害された事実等を隠
ぺいするためのものであるなら,殺害前にそのような工作を行うとは考え難く,A
が殺害された同日午後1時以降になされたものと推測される。
そして,V1が出勤した後,何らかの用事で同事務所から外出し,その間に同
事務所に電話が掛かってきたため,上記伝言サービスに取り次がれた可能性は
否定できないこと,被告人の携帯電話から同事務所に対する同日中の架電は,
同月19日午前10時57分以外にはないとしても,被告人が自己の携帯電話以
外の電話を使って同事務所に電話をすることは可能であり,殊に被告人は,Aを
殺害した後,同人から強取した携帯電話を所持していたこと,仮に被告人が同事
務所が伝言サービスの契約をしていることを知らなかったとしても,Aが東京方
面に向かっているとの虚偽の情報をV1に伝えることでAが生存しているかのよう
に仮装するという工作を行うため,被告人あるいは被告人が依頼した他の人間
がA保険事務所に電話をしたところ,V1が電話に出なかったため伝言サービス
につながり,その時点で,同サービスを利用してAの生存を偽装しようと考えた可
能性もあることを考慮すると,弁護人の上記主張は採用できない。
(6)預金引出しについて
 弁護人は,被告人がA名義の1000万円の預金を払戻した事実(上記1の(4)
ア)は認めるが,これは,平成6年7月19日午後,Bから,借金の担保に預かっ
たものだと言われて預金の払戻しを依頼されて行ったもので,当時被告人はBを
信用していたので,強取されたものであるとは全く思わず,それを引き受けたに
過ぎないと主張する。また,被告人は,捜査段階の当初はこの事実を否認してい
たが,その後は,Bから債務者から取り上げてきたものだ,自分は尾鷲から来る
予定の人を待たなければならないから行けないので,代わりに払戻して欲しい等
として預金の払戻しを依頼された,自分は当時Bの言うことを信じていたので,怪
しいものだとは思わなかった,その際,Bから同預金の払戻請求書も預かった
が,その氏名や金額等必要事項の記載は既になされ押印もあったなどと上記主
張に沿う供述をする。
 被告人は,捜査当初の取調べにおいて,上記のとおり,A名義の預金1000万
円を払戻した覚えはないと述べていたものであるが,同預金払戻しの経緯が被
告人が弁解するようなものであるのなら,自己に掛けられたAの殺害及び死体遺
棄の嫌疑を払拭するため,何ら情を知らず,払戻しを手伝ったに過ぎない被告人
としては,A事件の取調べ前に行われたC事件の取調べにおいて,C名義の預
金の払戻しを認めた上で,Bからの依頼に基づくと主張したように,A名義の10
00万円の預金を払戻した事実を認めて上記弁解のとおりの経緯をそのまま述
べれば良いはずである。それにもかかわらず,1000万円の払戻しにつき全く身
に覚えがない旨弁解していたことについて合理的な説明はなされていない。
その上,A名義の1000万円の預金を払戻した事実を認めた公判段階の被告
人の供述は,1000万円もの大金の払戻しを,Bが来客があるというだけで被告
人に任せたというのであって,それ自体不自然であるし,仮に被告人の言うとお
りであるとするならば,被告人がBから聞いた内容は,同人から金銭を借り受け
た債務者が自己名義の多額の預金を借金の返済に充てることを承諾していると
いうものであるから,当該名義人本人が払戻し手続きを行えば足りるはずである
のに,わざわざBに対し通帳等を交付して払戻しを委ねたことになり,この点も不
自然である。
しかも,被告人はBから予備のものを含めて,あらかじめ所定事項が記入さ
れ,名義人の署名,押印もある払戻請求書三,四通(予備の分も含む)やAの印
鑑を受け取って払戻しに赴いたと述べているが,本件で使用された払戻請求書
の筆跡鑑定の結果によれば,筆跡は被告人のものと推定されるというものであ
り,実際に,銀行内での被告人の様子を撮影した写真には,あたかも備付けの
払戻請求書に記入しているかのような状況も撮影されている。
以上のように,被告人の上記供述には不自然な点が多く,客観的な資料とも
一致していないから,およそ信用することはできない。
(7)AのBMW及び同人名義のクレジットカード等の使用について
 弁護人は,被告人がA管理のBMWを乗用したり,同人名義のクレジットカード
で買物をした事実は認めるが,これらはBに融資してやったことの担保として受
領したものであり,Bから当分の間BMWを使用したり,クレジットカードを使用す
ることの承諾を得ていたからだと主張し,被告人も,平成6年7月19日夜,W事
務所において,Bから同人が借金のかたに押さえたという小切手数枚とカード
七,八枚を担保に100万円を貸してくれないかと依頼され,小切手は現金化が
可能か分からないと断ったところ,Bは,さらにD方前駐車場に停めてあるBMW
も担保とする旨申し出たので,同人に60万円を貸し付け,それと引き替えに,上
記小切手及びクレジットカードを受け取り,BMWは友人のG1やD1に頼んで取
ってきてもらった等と,上記主張に沿う供述をする。
しかしながら,上記のとおり被告人がBに貸し付けたという60万円の債権が
存在していたことを示す客観的な証拠はないのみならず,Bは,同日夜被告人に
対する借財の申し込みをしたことも,被告人が言うような担保の提供を申し出た
ことも否定しており,これらの物品は被告人とBとがAから強取してきたものであ
ると供述している。
しかも,被告人の供述によれば,被告人は前述のとおり,同年日午後2時30
分ころにはBから借金の担保として預かったというA名義の預金の払戻しを依頼
され,同日午後3時過ぎころ,1000万円を引き出して全額をBに交付したところ
であるのに,さらに同日夜,同人はA名義のクレジットカード多数,小切手6枚
(額面合計491万4360円),さらに高級乗用車まで担保として差し出し,Aの運
転免許証も提示して,融資を依頼してきたというのである。このように,先に多額
の預金がある預金通帳に加えて,今度は多数のクレジットカード等をBが債務者
から取り上げてきたことが判明したのにもかかわらず,これらが違法に取得され
たものではないかとの疑いを持たなかったことや,名義人(A)がクレジットカード
多数を有しているのに,自らキャッシングをしてBに返済せず,自己の運転免許
証やクレジットカード等を交付するようなことは通常考え難いのに,被告人が疑
念を抱かなかったことが不自然であることも,先に(6)について述べたとおりであ
る。
のみならず,被告人の供述によれば,Bの依頼により同日午後,何の報酬も
受け取ることなく1000万円の預金払戻手続きをしてやったのに,更に,この10
00万円を全て取得した(ただし,Bの供述によれば同人の取り分は500万円で
ある。)はずのBは,同日夜,被告人に100万円もの借用の申し入れをし,その
際,担保として,クレジットカード多数(少なくとも6枚は使用可能なもので,同カ
ードでAの死亡後,合計約215万円の商品購入等がなされている。上記1の(4)
エ,キ),額面合計約491万円の小切手6枚,高価な普通乗用自動車1台(BM
W320i,時価約400万円)を提供することを申し出てきたということになるし,仮
にBが1000万円を取得しても,同日中に被告人に借金を申し込むほど困窮し
ているのであるなら,自ら上記クレジットカードを使用したり,BMWや小切手を
換金処分する方が多額の金員を取得できるはずであるから,この被告人の供述
内容は,不自然不合理である。
また,被告人とは幼なじみで自動車の板金工として稼働していたJは,被告人
から同月19日から21日にかけて,BMWの名義を変更できないかとか,自動車
の登録番号を変更する方法がないかと聞かれた旨証言しており,また,Zも,同
月27日ころ,被告人から「名義は変えられないが,借金のかたに押さえたA所有
のBMWを150万円位で買う人はいないか。」と相談され,被告人との間で同車
の売却話を進めたと述べている。Jは,被告人とは遠戚にあたり,幼なじみで互
いの実家も近く,被告人が実家の電気屋の手伝いをしていたころから,ともに飲
みに行くなど親しく付き合い,被告人が三重県松阪市に転居した後も付き合いが
続いていた者,また,Zと被告人との関係は,上記のとおりであって,いずれも殊
更被告人にとって不利益な虚偽の事実を供述するような事情はうかがわれず,
いずれも信用すべきものであるところ,上記J及びZの上記各供述によれば,被
告人が担保として受け取ったはずのAのBMWの換金処分を目論んでいたこと
が認められる。
のみならず,被告人は,A名義の小切手やクレジットカードを受領したとする日
の翌日には小切手の換金を目論んでいた上(上記1の(4)エ),B1,Z及びJの
各証言等によれば,被告人は,クレジットカードについても,Aが殺害されてから
同月21日までの僅か3日間のうちに,合計8回にわたり,90万円近い商品を購
入しているばかりでなく,クレジットカードの一部を自由に使ってよいとしてZやB
1に交付してもおり,その際,同人らには,同カードの名義人は「逃げている。」あ
るいは「遠いところに行っている。」と説明しているのである。
なお,被告人は,別紙一覧表⑥,⑧ないし⑭のうち,同⑥(株式会社Dカー
ド),⑩(株式会社CS発行)記載のカードの使用は否定するが,同月21日午後2
時41分及び47分,株式会社HGDカード及び株式会社CS等に電話し,上記各
社発行のA名義のクレジットカードが使用可能かを発行会社に確認しているこ
と,静岡県富士市内において同月20日に使用されたクレジットカード(同一覧表
⑥)は,被告人がその翌日に使用していること(同一覧表⑨),同一覧表⑩は,同
月21日午後7時28分,名古屋市中区錦所在の店舗で商品を購入したものであ
るが,被告人は,その前後同市内の上記店舗と近接した場所で他のA名義のク
レジットカードを使用したことを認めていること(同一覧表⑨及び⑪,同日午後5
時43分の同市中村区t町所在の店舗及び同日午後7時32分の同市中区所在
の店舗での各商品購入),B1やZが上記一覧表⑥及び⑩記載のカードを使用し
た形跡はないことから見て,同一覧表⑥及び⑩も被告人の意思の下で使用され
たものと推認される。
これらの一連の被告人の行動は,クレジットカードや小切手,BMWについ
て,自己が自由に処分できると思っていたことを前提とするものであるから,担保
として預かったとの弁解と明らかに矛盾する。
また,被告人は,捜査段階において,平成6年7月19日,Bと別れた夜,同人
から電話があり,BMWは金融物なのであまり乗り回さないで欲しいと言われ
た,そのBMWはその日よりも前にBの仲間のD3とかN1とかいう者が気に入っ
たら買って欲しいと言ってW事務所に持ち込んだものであると供述していたもの
であるが,供述を変遷させたことにつき,合理的な説明をしていない。
以上によれば,被告人の上記弁解は信用できないし,弁護人の主張も採用で
きない。
(8)クラウンの隠匿等について
 Aの死体を乙ビレッジ地下駐車場に駐車したクラウンに積載したまま隠匿等し
た点について,弁護人は,被告人はBに金融物の車を置く場所として乙ビレッジ
の駐車場を紹介してやったことはあるが,地下駐車場に止めることを許可したこ
とはなく,地下駐車場に車を駐車したのはB側の錯誤に出たものである,これは
Aの死体遺棄に関するものとは全く関係がなかったと主張し,被告人もこれに沿
う供述をする。
ア しかしながら,被告人がA殺害に関与していたことが認められ,かつクラウン
車内で殺害が行われているから,同車は重要な証拠物件であって,これを隠
匿することはA殺害に関与した犯人らにとって重要事項であったことは明らか
であるから,この前提に反する弁護人の主張や被告人の弁解は既に失当で
ある。
イ なお,実況見分調書,写真撮影報告書及びK1及びL1の各証言によれば,
乙ビレッジの地下駐車場は,自動車3台が駐車できる程度の空間はあるが,
乙ビレッジの敷地外から同所につながる通路が狭く,隣家のL1方の敷地を通
らないと車で出入りできないし,同地下駐車場の車の出入口のところにL1方
の車庫があり,同人が同車庫に自動車を停める場合,車庫に目一杯まで引き
込めて停めないと上記地下駐車場から自動車が出せなくなる構造であり,乙
ビレッジには,同所の他にその近辺及び敷地内に駐車場があるため,上記地
下駐車場は,荷物を搬送するなどの場合を除いては,駐車場として利用され
ていなかったこと,同地下駐車場は,外からは見通すことが難しいため人目に
付きにくいこと,被告人は,上記マンション近辺及び敷地内にある乙ビレッジの
駐車場を利用したことがあり,また,K1の夫であるX1に依頼され,同地下駐
車場に荷物を運び込んだことがあったため,これらの状況を知っていたことが
認められるから,被告人がAの死体を積んだクラウンを,出入りしにくいが人
目にも付きにくい同所に駐車することとしたことは明らかである。
ウ 弁護人は,Bが,平成6年7月20日未明,乙ビレッジ地下駐車場への駐車
許可が取れず,Aの死体を久居造成地に運んだものの,自分が同所に死体を
放置することに反対したため,乙ビレッジに戻ったが,そのころまでに乙ビレッ
ジ地下駐車場への駐車許可が取れたと証言するのに対し,被告人の携帯電
話の同月19日夜から翌日未明の架電履歴には該当する架電記録はない等
として,上記Bの証言は信用できないと主張する。
しかしながら,上記のとおり,被告人が自己の携帯電話以外から架電した
可能性は否定できないこと,殊に被告人は当時Aから強取した携帯電話を所
持していたため,それを使用することは可能であったこと,K1は,時期は特定
できないものの,被告人から夜間,地下駐車場に車を駐車させることの許可を
求める電話があったので承諾した,その後,地下駐車場に車が停められてい
たので,それは被告人が駐車した車だろうと考えたことを証言しており,同女
は同女の夫がW事務所があるウィークリーマンション(SH学園前)を経営して
いた関係で被告人と知り合ったもので,上記供述をねつ造するような事情はう
かがわれず,証言内容はBの上記証言内容と符合しており,信用できる。よっ
て,弁護人の上記主張は採用できない。
(9)久居造成地に穴を掘らせたことについて
 弁護人は,被告人がFに依頼して久居造成地に穴を掘らせたことは認めるが,
これはB又はその周辺者からの依頼によるもので,被告人はその穴にAの死体
が遺棄されることは知らなかった,被告人は,その余のAの死体遺棄には関与し
ていないと主張し,被告人も,久居造成地での穴掘りは,B又は同人の取り巻き
の人間からバッタ商品を捨てるための手配を依頼されたことから,久居造成地を
紹介するとともに,同所の穴掘りをFに依頼し,Fが指定した形式のユンボをKrで
借り受けて久居造成地に搬送してもらったに過ぎない旨,上記主張に沿う弁解を
する。
ア しかしながら,被告人がAの殺害に関与していたと見られることは上記認定
のとおりであるから,弁護人の主張や被告人の弁解は既に前提事実において
疑問があるし,被告人が述べるところは,Bが,被告人から「ここは10年くらい
は何も建たへんし,大丈夫や。自分が知っている大阪の右翼関係の人間が持
っとるもんで,何かするときは分かる。」旨説明を受けて久居造成地にAの死
体を遺棄することを提案され,結局同所にAの死体を遺棄した旨の証言(Fの
証言内容や久居造成地の状況とも符合し,またBがあらかじめ久居造成地の
ことを知っていたとも思われないから,この証言には信用性がある。)と異なっ
ている。
また,被告人がFに対し久居造成地に穴を掘ることを依頼した動機につい
て,被告人はB又はその周辺者からの上記弁解のような依頼があったことを
あげているが,そもそも,Bが産業廃棄物やバッタ商品を扱っていたというの
は,被告人が述べているだけで,Bは,そのような証言はしていないし,同人
の運転手役であったXは,そのようなことはなかったと述べているのであって,
他に被告人の供述を裏付けるに足りる証拠もない。また,Fも,バッタ商品等を
捨てるために穴を掘ったという点については特に記憶がない旨証言している
のである(ちなみに,同人は「看板か電柱でも建てるのかと思っていた。」と述
べている。)。のみならず,所有者や管理者から承諾を得ていないのに,知人
の土地に穴を掘ってバッタ商品や産業廃棄物を捨てることを,被告人からB等
に提案したとすること自体が不自然であることも明らかである。
イ 次に被告人は,ユンボをレンタルするに当たり,あらかじめレンタル代金等5
万5620円を支払っているが,被告人自身,前日には,60万円を貸すだけで
も,わざわざBに担保を提供するよう要求し,BMWはその担保の一つとして
受領したと供述しているのであるから,そのような被告人がBから明確に返済
を約束してもらったわけでもないのに,同人から頼まれたというだけで,上記代
金を支払ったというのは不自然である。
また,被告人は,Krにおいて,YS建設と名乗ってユンボのレンタルを注文し
たが,わざわざYS建設名を名乗った点も的確な説明はないし,被告人は注文
の際,久居造成地付近の地図を見ながら,MK集会所手前右側の広場を指
し,「ここに番線が張ってある広場があるので,ユンボを置いてください。」「誰
もいないのでこの辺に停めてください。」と説明し,同地図に「誰もいないのでこ
の辺に止めておいてください。」と書き込ませており,搬入時刻を午後4時ころ
と指定するなどしているが,これらは,被告人が自己の判断でユンボの搬入
時刻等を決め,かつ,その時点で同所に誰もいないことを当然の前提として話
をしていることになる。このことはB又は同人側の人間から「明日整地をするの
でユンボを久居造成地に搬入してくれ。」と頼まれただけであるとの被告人の
上記供述と符合しない。
ウ そして,被告人は,捜査段階において,当初はBMWに乗ったBの連れの斉
藤とかN1とかいう2人連れの男から,Bの車を置く場所を世話して欲しいと依
頼を受けたので,久居造成地に置くことを承諾したところ,整地のためのユン
ボかブルドーザーを運んで欲しいとの依頼を受け,自分でユンボの大きさを指
定して,それをレンタルし,造成地に運ばせたが,自分は造成地に行っておら
ず,人に穴を掘ってもらってもないと供述していたのが,その後,B側のD3か
N1と名乗る男から,金融物の車を置く場所が欲しいというのでa町の造成地
を教えてやったところ,さらに,同所がデコボコなので整地するためにユンボか
ブルドーザーを頼んで欲しいと頼まれたとも述べ,さらに,公判廷においては,
B又は同人の取り巻きの人間から,倒産品等の産業廃棄物を捨てるためユン
ボの手配と穴掘り要員の手配の双方を依頼され,Fに造成地での穴掘りを依
頼し,また,同人に,どのようなユンボが必要かを確認した上で,自らがユンボ
の手配を行ったと供述するに至っている。
仮に被告人が供述するとおり,B(側)から,産業廃棄物を捨てるための穴
掘り等を依頼され,それに従っただけであるなら,自己に強盗殺人及び死体
遺棄の嫌疑が掛けられている以上,被告人は,その嫌疑を払拭するため,公
判廷でるる弁解するところの上記経緯をそのまま述べれば良いはずであり,
被告人がFに穴掘りを依頼したことや同人が久居造成地に穴を掘ったことを秘
匿する必要は全くない。被告人は,捜査段階で上記のような供述をしていたの
は,Fの名を出すと同人に迷惑がかかるからかばってやったのだとも説明する
が,Fは被告人の依頼に基づき,産業廃棄物を捨てるための穴を掘ってもらっ
たに過ぎないのであるから,殊更同人をかばう理由も必要性もない。結局,被
告人は,上記のとおり,被告人がFにけん銃を一時預けたり(上記1の(1)
ウ),久居造成地にAの死体を埋めるに際し,同人に電話をかけてユンボの操
作方法を教わるなどしている(同(4)オ)ことから,Fの存在や役割を明らかに
すれば,そこから自己のA事件への関与が明るみに出るおそれがあると考
え,上記捜査段階の供述をしたものと考えるほかはない。
以上によれば,被告人の上記の弁解は信用できないし,弁護人の主張も採
用できない。
(10)Aの死体を久居造成地に遺棄したこと等について
弁護人は,平成6年7月21日早朝,被告人がBとともに,乙ビレッジ地下駐車
場からクラウンを運転して久居造成地に赴き,Fが同所に掘った穴にAの死体を
遺棄した事実はないと主張し,被告人は,同日,乙ビレッジ地下駐車場に行った
ことは認めるものの,上記弁護人の主張に沿う供述をしている。
ア しかしながら,被告人は同日早朝,乙ビレッジにBMWに乗ってBとともに現
れ,Aの死体が後部座席に積載されていたまま同所に駐車されていたクラウ
ンのバッテリーが上がっていたため,これを始動しようと苦心した挙げ句,隣家
の住人のL1にブースターケーブルを借りて始動し,そのままBと,BMWとクラ
ウンとに分乗して立ち去ったことは,BのみならずL1の証言から明らかであ
る。
これに対し,弁護人は,仮に当時クラウンの後部座席にAの死体が積んで
あったのならば,BらがL1にバッテリーの接続等を頼んだ際,L1がAの死体
に気が付かなかったはずはなく,このときL1がAの死体があることに気が付
かなかったのは,Aの死体が積載されていなかったことの証左であると主張す
るが,検証調書,実況見分調書及びL1証言によれば,L1とクラウンの位置
関係等からすれば,クラウンのボンネットが上がっていれば,L1がいた位置
からその後部座席は見えにくい上,同車の窓ガラスには濃い色のスモークシ
ールドが貼られていたから,外部から車両内部は容易に見通すことはできな
かったこと,その上Aの死体にはシュラフ等がかぶせられていたから,更に死
体は見えにくかったことが認められる。以上によれば,L1がクラウンに積んで
あったAの死体に気が付かなかったとしても不自然とは言えず,弁護人の上
記主張は採用できない。
イ 被告人は,平成6年7月21日早朝,乙ビレッジ地下駐車場に駐車したクラウ
ンを動かしたのは,同日早朝,Bから,Xらと早朝野球に行くのに,隣家の車両
が進路を塞いで出られず,また,クラウンのバッテリーが上がって困っている
から乙ビレッジに来て欲しいと言われたためであり,クラウンを動かした後,B
とは,同所で別れていると弁解する。
しかし,乙ビレッジ(三重県津市c町所在)のそばには,D方(同市b町所在)
があるし,Bは同日午前5時ころ,当時Bの運転手役をしていたX(同市居住)
に電話させて起こさせているのであって,仮に被告人の述べるとおり,BがXと
早朝野球をするのなら,XやDを呼び出し,その場所まで送らせるなどの方法
を取れば済み,あえて三重県松阪市s町に居住する被告人に,早朝連絡して
協力を求める必要は全くない。被告人が呼ばれたのは,車を出すのに,これら
の者でなく,被告人でなければならない事情があったためと考えることが相当
である。のみならず,すぐにBと別れたとの被告人の上記弁解は,被告人が造
成地において,Fから電話で説明を受けながら,ユンボを操作し,穴を埋め戻
していること(上記1の(4)オ)と符合しない。
ちなみに,被告人は,同月21日早朝,乙ビレッジでクラウンを移動させたこ
とにつき,捜査段階においては,取調官の「Bにクラウンのバッテリーが上がっ
たということで呼ばれていないか。」,「隣の人を起こしに行っていないか。その
人からブースターケーブルを借りていないか。」,「クラウンのエンジンが掛かっ
てからBとどこに行ったのか。」との質問に対し,それぞれ「そのようなことがあ
ったと思います。よく思い出してみます。」,「思い出せないのでよく考えてみま
す。」,「よく思い出してみます。」と答え,「他にも質問があると思いますが,私
としても当時の細かな出来事は,手元に資料もありませんし,弁護士に相談し
てお話したいと思います。」旨供述していたにもかかわらず,公判廷において
は,詳細かつ具体的に供述している。捜査段階において,それらの事項につ
き,取調官から具体的に質問を受けていたこと,それらの質問は被告人が何
らかの資料を見なければ記憶を喚起できないような内容ではなかったことを考
えると,上記取調べの時点で,上記事項につき,失念していたとは容易に考え
難く,事実の一部又は全部を殊更隠す意図に出たものと考えられる。
しかしながら,被告人が公判廷において述べるように,野球に行こうとする
Bからクラウンのバッテリーが放電してしまった等の理由で呼び出され,同車
を動かすのを手伝い,その場でBと別れたに過ぎないのなら,被告人はそれを
殊更隠す必要はない。自己に強盗殺人及び死体遺棄の嫌疑が掛けられてい
る以上,それを払拭するため,そのままを述べれば良いはずである。もっとも,
被告人は,その点につき,公判廷において,捜査段階でも同様の弁解をした
が,警察官がFの供述と食い違うとして聞き入れず,いつまでもそのような弁
解をしていたら,Fが仕事をできないようにするぞと脅されるなどしたため,何
も言えなくなったとも主張するが,被告人が,A,G及びC各事件の取調べにお
いて,自己の言い分や弁解を主張としてはっきり述べ,それらが供述調書に
録取されていることは明らかであって,上記主張は到底信用できない。
以上のような諸事実を併せ考えると,被告人がCに現れる等したことに関す
る被告人の弁解は信用できない。
ウ 次に,被告人がFからユンボの操作方法を教わって,自らユンボを操作して
死体を埋没した点については,Bが供述しているのみならず,Fは,同月21日
午前6時23分ころ,被告人から電話があり,ユンボの動かし方を聞かれたの
で教えたと,Xは,Bから,「ユンボで掘ったところに死体を埋めに行った,その
深さは5メートルくらいで,水が溜まっていた,穴を掘ったのは被告人サイド
だ。」と聞いたと,それぞれ上記Bの供述に沿った証言をしている。また,被告
人の携帯電話の通話記録には同日午前6時23分に,Fと約5分51秒にわた
って通話した記録が残されており,これはFの証言内容に合致する。Fが殊更
被告人に不利益な虚偽の事実を供述するような事情がうかがわれないのは,
既に述べたとおりであり,上記各証言は信用できる。
これに対し,被告人は,同日午前6時23分のFへの電話は,先にクラウンを
乙ビレッジ地下駐車場から出すときに,Fにブースターケーブルがないか電話
したことを詫び,ついでにFの勤務先の社長の女性問題等について雑談した
に過ぎないと弁解する。しかしながら,早朝電話を掛けたことを詫びるために,
それから僅か40分後に再び電話を掛け,5分51秒にもわたって他人の女性
問題等についての雑談をしたというのは不自然であって到底信用できない。
のみならず,その電話を受けたFは,その電話で,被告人から早朝の電話に
ついて謝罪を受けたり,勤務先の社長の女性関係などの雑談をした記憶はな
いと述べているが,同人がこの点について,あえて虚偽の供述をする理由は
全くない。以上によれば,上記被告人の弁解は信用できない。
エ なお,弁護人は,Bが,Aの死体遺棄の状況に関し,「被告人は,久居造成地
から誰かに携帯電話で電話をし,ユンボの操作を教えてもらった。」と証言す
るのに対し,当時の久居造成地は携帯電話のサービスエリア外だったから,
そのような通話はできないはずであるとも主張する。
しかしながら,被告人が当時使用していた携帯電話はNI株式会社のもので
あるが,平成11年3月24日の時点では,久居造成地でNI株式会社の携帯電
話は通話可能であったことが確認されているところ,同所付近では,平成3年
12月以降,平成11年3月末まで基地局の増設がなく,基地局の設置状態は
平成6年7月21日当時と平成11年3月24日当時で変わりがないし,電波の
特性上,基地局がないサービスエリア外であっても,他の基地局の電波を受
信することもあるというのであって,現にFは,同日早朝,被告人から電話があ
って,ユンボの操作方法を教えたことを証言している。これらから見て,平成6
年7月21日当時,久居造成地で携帯電話の通話が不可能だったとは認めら
れないから,弁護人の上記主張は前提を欠いており,採用できない。
オ 弁護人は,Aの死体を久居造成地に遺棄した日について,Bは,それが平成
6年7月21日であるとし,そう特定する根拠の一つとして,Aの死体を遺棄す
る前日,A2から頼まれた自動車(プレジデント)の搬送をXに手伝わせた際,
同人に明朝午前5時に起こすよう依頼したことをあげるが,A2は,N1が使用
していた手帳の平成6年7月28日の欄に「A2150プレジ」と記載されているこ
とから,Xと一緒にプレジデントをN1の所に搬送し,同車を担保として同人か
ら150万円を借りたのは同日であると具体的根拠を示して日付を特定してお
り,その供述は信用性が認められるから,Aの死体が遺棄されたのは,Bが証
言する同月21日以外の日である可能性が高く,Bの供述には客観的な事実
との間に齟齬があり,信用し難いと主張する。
しかしながら,Bが同月21日早朝,乙ビレッジに被告人とともに行き,クラウ
ンを地下駐車場から出したことは,被告人,B及びL1の供述が一致していると
ころである。また,Xは,Bから朝5時ころ起こしてくれと頼まれ,そのとおり同
人に電話をして起こしたことがあるが,それは7月21日であるとし,その根拠
については,「天皇陛下が三重県に来ておった日で,白バイとか,パトカーと
か,そういう取締りがあった日ですから記憶がある。」と,Fは,同日早朝,被告
人から電話でブースターケーブルの有無を尋ねられたと(このことは,被告人
の架電記録からも裏付けられる。),それぞれ証言しているのであって,以上
は上記Bの証言の裏付けとなっている。したがって,BがAの死体を久居造成
地に遺棄した日を7月21日と特定したことには十分な根拠があるから,上記
プレジデントを搬送した事が平成6年7月28日の欄に記載されている原因は
明らかではなく,また,仮に手帳の記載が真実であったとすると,Bがプレジデ
ントを搬送した事実とAの死体を久居造成地に遺棄した日とを関連付けて述
べた点は客観的に誤っていることになるが,そうであってもBらがAの死体を遺
棄した日を7月28日であると認めることはできず,これを前提とする弁護人の
主張には理由がない。
(11)Bの証言の信用性について
弁護人は,B証言について,既に述べた諸点を指摘するなどした上,同人の
証言は客観的事実と符合しないし,同人が証言するところの同人及び被告人の
行動には,あまりに不審な点が多いのであって,Bは,真実の共犯者をかばう目
的で,当該共犯者と被告人とをすり替えて供述している可能性が非常に高く,同
人の証言の信用性はないと主張する。
これまで述べたとおり,Bは,A事件を起こしたことを自供するとともに,同事件
への被告人の関与や役割を詳細に述べているが,弁護人の指摘のとおり,Bが
自己の刑事責任を軽減するため,あるいは,犯行に関与した他の者をかばうた
め,罪のない第三者に責任を被せたり,責任を転嫁しようとする可能性は否定で
きず,殊にA事件において,被告人がAを殺害したこと及びその状況について,
直接供述しているのは,同人だけなのであるから,同人の供述の信用性の吟味
が慎重になされなくてはならないのはいうまでもない。
しかしながら,被告人が捜査段階及び公判廷において,るる述べるところは,
既に述べたとおり客観的に認定される事実と明らかに符合せず,不自然である
上,被告人は,客観的に認定される自己の本件各犯行への関与を表す各行為
を行った理由,動機等につき,何ら合理的な説明ができておらず,その供述は信
用できないのに対し,Bの証言は,上記のとおり,大筋において,信用できる各
関係者らの証言又は供述に一致しているし,被告人のけん銃の所持や,同人に
よるA名義の預金の引き出し及びAの自動車やクレジットカード等の所持・使用,
久居造成地における穴掘りのための機材や人材の確保及びその実行といった
上記認定される客観的事実とも符合する。そうしてみると,A事件を被告人ととも
に行ったとのBの証言は,上記のとおり,Aを殺害した際の射創が生じた順序部
位等につき,客観的な事実との齟齬があったとしても,なお,その骨子において,
十分な信用性が認められ,上記弁護人の主張は採用できない。
4 アリバイ主張等に対する判断
 弁護人は,被告人にはAが殺害されたとされる平成6年7月19日のアリバイが成
立すると主張する。すなわち,被告人の公判供述によれば,被告人は,当日午前
中に知人のD2の依頼により三重県松阪市o町所在の株式会社OSに行って製造
の指導を行っており,その後,三重県松阪市m町所在の自動車整備業「有限会社
N商会」から,被告人が修理を依頼していた普通乗用自動車(トヨタソアラ)のマフラ
ーが入荷したとの連絡が入ったので,同日昼過ぎころ,N商会に赴き,同所で上記
ソアラの修理をしてもらい,それが終わるまで小1時間同所で待ち,修理終了後,
その修理代金等7万5000円を支払ったが,そのころ,Bから呼び出しがあったの
で,それに応じて,トヨタソアラで三重県津市b町のD方に赴いたところ,BからA名
義の預金1000万円の払戻しを依頼されたというのであるから,A方を訪問した平
成6年7月19日午前にも,同人が殺害されたとされる平成6年7月19日午後1時
前後にも,その自宅や殺害現場とされる三重県鈴鹿市s町所在の最終処分場に行
っていたことはあり得ず,被告人にはアリバイが成立するというのである。そこで,
以下検討する。
(1)まず,被告人が当日午前中にOSに出向いていたとする点について検討する
と,なるほど被告人の携帯電話からは,同日午前10時3分,OS経営者のD2あ
てに架電がなされている(通話時間1分41秒)が,被告人の供述以外に,同日,
被告人が上記OSに行っていたことを裏付ける証拠はない。また,被告人は,同
日上記OSに立ち寄った旨の主張を捜査段階ではしていなかったものであり,そ
の理由についても合理的な説明をしていないから,公判供述を容易に信用する
ことはできない。以上によれば,被告人が当日午前中にOSに出向いていたこと
を認めるに足りないから,この点のアリバイ主張は成り立たない。
(2)次に,被告人がその後,「N商会」でソアラの修理をしてもらっていたとする点に
ついて検討する。
 まずこの点に関する関係証拠によれば,①被告人は当時中古車販売仲介業を
行っていたが,本件当時,D1の妹であるE2の夫に売却したトヨタソアラのマフラ
ー修理をN商会に依頼していたこと,②N商会が株式会社Fu宛てに発行した平
成6年7月19日付け領収書が存在し,これには「㈱Fu殿 金額75000円,但
し,マフラー修理ほか,上記金額正に受領致しました。」との記載があること,③
N商会の平成6年の総勘定元帳には「7.19 売上高75,000 ㈱Fu」との記載
があること,④N商会の経営者G2の妻F2は,被告人から自動車のマフラーが
壊れたから修理して欲しいと依頼され,その部品を注文していたが,平成6年7
月19日,部品が入荷したので,被告人にその旨連絡したところ,被告人が同日
午後1時から3時ころまでの間に,N商会に自動車(ソアラ)を持ってきたので,夫
のG2が同車を修理した上,自分が被告人から修理代金を受け取り,上記領収
書を書いて渡した,交換したマフラーは,特殊な部品なので,当日「部品が入っ
たから,来てください。」と連絡した,修理時間は,夫が「このマフラー取替えに要
する時間というのは,1時間も掛からないけど,それぐらいだろうな。」と言ってい
た,修理の間,被告人が工場の近くで待っていてくれたというのは,主人が記憶
しているみたいである旨を証言していることが認められる。
 以上の各証拠及び認定事実,とりわけ②の領収書は,後述するように被告人
がC事件後,警察に出頭するのに先立ちD1に預け,その後,Bを介してE1に渡
った衣装ケース内にあったと思われ,被告人らによるねつ造や改ざんの可能性
はごく低いと評価されること,③の総勘定元帳は,通常の業務の過程で作成され
る文書であり,その後N商会が倒産したため破産管財人の管理下にあったことを
考慮すれば,やはり被告人らによるねつ造や改ざんの可能性は低いと評価され
ることからすれば,後述するように,F2の証言内容に全く問題がないわけではな
いにせよ,平成6年7月19日,被告人がN商会においてソアラのマフラーの修理
を受け,その修理費用を支払った可能性を直ちに排除することはできないという
べきである。
 もっとも,検察官は,上記②の領収書のただし書きには,「マフラー修理ほか」
とあり,マフラーの修理代金以外の支払いもなされていることになるが,このよう
にマフラー修理とは別の取引の代金を一括して領収していることからすれば,被
告人が同日N商会を訪れたとしても,それまでの未払金の支払をするためであっ
たことも十分考えられ,現にF2は,検察官の反対尋問に対し,「当日修理したか
どうかは,主人に聞いてもらわないと,私が修理したのではないので分からな
い。先に修理して後払いということはある。」旨の証言もしており,そうしてみる
と,平成6年7月19日以前にマフラーの修理がなされ,同日は,代金の支払いだ
けが行われた可能性があると主張する。
 しかし,上記領収書に「マフラー修理ほか」との記載があることが同日以外に修
理がなされたとの事実に直結するわけでないことはいうまでもなく,むしろF2は,
「交換したマフラーは,特殊な部品なので,当日,入荷したから来てくださいと連
絡したと思う。その日に,被告人の車の修理をして代金の支払いを受けた。領収
書は,自分が同日書いた。」旨の証言をしており,その証言内容は,証人が当日
マフラーの修理がなされたことを推認する根拠としてそれなりに合理的なものと
いうべきであって,同証人が検察官に対して述べるところは,証人が直接修理し
たわけではないから,厳密な意味で当日修理したかどうかまでは分からない旨を
述べたのに過ぎないと認められ,上記検察官の主張は採用できない。
(3)そこで,更に進んで被告人が当日N商会を訪れた時刻について検討する。
 F2は,被告人が車を持ち込んだ時間帯について,被告人が車を持ち込んだ
際,自分と一緒にN商会の事務所にいたH2がお茶を入れて出しているが,自分
が事務所と同じ敷地にある住居から事務所に行くのが早いときで午前10時位で
午前11時を過ぎるときもあり,また,お昼時であれば,従業員全員が事務所内
で食事をしているから,同日午前中やお昼時と言うことはない,また,H2の勤務
時間は午後4時までであるし,同日,自分は上記総勘定元帳に記載があるよう
にN商会から車で5分ないし10分の場所にあるB銀行Ha支店やN商会と同H
a支店の中間ぐらいでN商会から車で5分位の距離にあるMI信用金庫Na支店に
行って,それぞれ当座預金口座に入金をしている,それらの入金をした時刻は,
銀行が閉まる午後3時前であるから,被告人がN商会に来たのは午後3時過ぎ
でもない,したがって,被告人がN商会を訪れた時間は,同日午後1時から3時く
らいの間であると述べている。
 しかしながら,F2が,同日午後1時から3時の間に被告人がN商会を訪れ,修
理を受けたとする根拠は,何か特定の事件があったり時計を見た記憶があるか
らではなく,上記のとおり,同女や事務員が会社にいた時間帯等から推定してい
るのに過ぎないのであって,F2が同日午前10時ないし午前11時過ぎまでに事
務所に出て,そこから従業員らが昼食をとる時までに,被告人が同所を訪れた
可能性も完全には否定できないし(ただし,この場合は被告人がBと同伴してA
方を訪れることは不可能である。),また,仮に同女が同日午後3時,銀行が閉
店する直前に銀行で入金を済ませてN商会にそのまま戻れば,未だH2がN商
会に残っている時間である同日午後3時5分ないし10分ころにN商会に到着す
ることになるから,そのころ被告人が訪問していたとしてもおかしくないことにな
る。したがって,同女の供述中,時刻の特定に関する部分は,具体的な根拠に
欠けると言わざるを得ない。
 もっとも,F2は,当日被告人がアイスクリームを手土産に持ってきてくれた記憶
もあるので,被告人が訪れた時刻は昼過ぎと思うとも述べている。しかしながら,
被告人はN商会には中古自動車の販売や修理の関係で付き合いがあり,逮捕
されるまでに何度か訪れており,手土産を持参することもあった上,同女はその
ころの他の取引関係についてはさほど詳細な記憶がないのにもかかわらず,当
日被告人がN商会を訪れた時刻,同人が手土産のアイスクリームを持参したこ
と,H2がお茶を入れたこと等の事実について,同日から約4年10か月が経過し
た平成11年5月19日の公判廷において,詳細かつ断定的に述べているのであ
る。この点に関する同女の証言が直ちに信用できるものとは言えない。
 なお,被告人も,OSの近くにあるアイスクリーム屋でアイスクリームを買って持
参した旨F2の証言に符合する供述をしているが,この部分については先にF2
の証言について述べたことがそのまま当てはまる上,被告人は,捜査段階にお
いて,A事件当日にN商会に立ち寄った旨の主張をしていなかったにもかかわら
ず,公判廷において詳細な供述を始めたものであって,にわかに措信できない。
被告人はこの点について,捜査段階の当初,N商会に立ち寄ったことを思い出
すことができなかったものの,取調べ時,取調室の隅にE1方からの押収品が入
った段ボール箱が置いてあったので,それを自分で机の上に上げて,ごそごそ
見ていたら上記領収書を発見し,それを見て,N商会に立ち寄ったことを思い出
したので,取調官にその旨話したが,取調官からは,言いたいことがあったら法
廷で話すよう言われて録取してもらえなかった旨弁解する。しかし,被告人がA,
G及びC各事件の取調べの中で,いずれの事件も否認し,それらに関する自己
の主張や弁解を述べ,それらが供述調書に録取されているのは被告人の各供
述調書を見れば明らかであって,上記N商会の立ち寄りの主張についてのみ,
取調官が取り上げず,被告人も「言いたいことがあったら法廷で話すよう」にとの
取調官の指示を受け,公判廷まで,上記主張を差し控え,そのため供述調書も
作成されなかったというのは信用し難い上,取調室で被告人が押収品を自分で
机の上に上げて見ていたということ自体が極めて不自然である。のみならず,被
告人は,平成7年10月24日の取調べの時から,A名義の預金1000万円の払
戻しに関わったことを自供しているが,被告人の弁解によれば,同日,被告人
は,N商会におけるマフラーの修理が終わるころ,Bから電話で呼び出され,同
人に依頼された上記1000万円の払戻しをしたことになるところ,面識のない他
人名義の預金1000万円を払戻すという印象的であるはずの出来事と同日にな
されたN商会への立ち寄りと同所での車のマフラーを交換した記憶はなかったと
いうのも不自然である。
 また,子細に見れば,被告人は,マフラーの交換には1時間弱かかったが,そ
の間は,F2と雑談しながらN商会の事務所で待ったと述べているのに対し,F2
は,マフラーの修理に要した時間は,夫であるG2が「このマフラー取替えに要す
る時間というのは,1時間も掛からないけど,それぐらいだろうな。」と言っていた
からそれぐらいであると思う,修理の間,被告人がN商会の工場の近くで待って
いてくれたというのは,夫が記憶しているみたいであると述べており,被告人の
公判供述とF2の供述とは完全に符合しているというわけでもない。
(4)してみると,被告人が平成6年7月19日にN商会を訪れてマフラーの修理を受
けた事実が存在すると仮定したとしても,被告人が,同日午前9時30分ころ,三
重県津市所在のD方でBと落ち合い,同人とともにAを殺害するため三重県鈴鹿
市所在のA方マンションに向かい(以上,上記1の(3)イ),同日午前11時ころ,
A方マンションで同人と会い(同ウ),その後,同市所在のSaホテル前駐車場で
待機した上(同ウ),同日午後1時ころ,同市所在の最終処分場でAを殺害し(同
エ),同日午後2時50分過ぎ,三重県津市a町所在のB銀行津支店を訪れてA名
義の預金1000万円を引き出し,それを同日午後3時過ぎ,同市b町456番地の
2所在のD方でBに渡した(以上,上記1の(4)ア)後の被告人の行動は,同日夕
方,三重県津市j所在のパチンコ店でFと会う(前同)まで明らかとなっておらず,
その間,D方を離れた際に使用していたファミリアをソアラに乗り換えた上,N商
会を同日午後3時10分から15分以降午後4時までの間に訪れ,自動車の修理
を依頼することは十分可能であって,F2の上記証言等によってもその可能性を
排除することはできない。そうすると,被告人にはアリバイは成立しないから,弁
護人の主張は採用できない。
(5)仮に被告人にアリバイが成立しないとしても,被告人はAを殺害した直後にソア
ラの修理に赴いたことにならざるを得ないが,そのときAの死体はD方前駐車場
に駐車したクラウンに積んだままで,同車を隠ぺいする場所の確保や久居造成
地での穴掘りの手配はできていないし,A保険事務所を物色したり,同所に残さ
れた被告人の指紋や名刺の処分も未だ行っていない時間帯であったから,これ
らを処理しないまま車の修理を受けたというのは不自然でないかとの疑念も生じ
うる。
 しかしながら,上記1の各認定事実を前提とするならば,被告人は,同日午後3
時過ぎころの時点で既にA名義の預金1000万円を払戻してBと分配し,死体を
埋めるための穴掘りを依頼する相手であるFとは一応連絡が取れて同人が津市
内のパチンコ店にて遊興中であることを確認しており,Aの死体についても,D方
駐車場に駐車中のクラウンに積んだままBが監視している状態であり,また,A
保険事務所に残された被告人の指紋や名刺の処分は人目に付かない翌20日
午前零時過ぎころ行っていることからすれば,A事件に関連して,直ちに何かを
行わなければならないような立場にあったわけではなく,そのような状況下で,被
告人がN商会に立ち寄り自動車の修理をしてもらうというのは,必ずしもあり得な
いわけではない。
5 弁護人,被告人は,その他るる主張するがいずれも理由がない。
第2 G事件について
   弁護人は,判示第2のG事件について,被告人は全く関与しておらず,無罪である
旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。そこで以下証拠により認定できる事実
並びに弁護人の主張及び被告人の供述について順次検討する。
1 上掲判示第2の罪に関する各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)Bは,A事件の後,Aから強取した金員を,N1ら債権者に対する債務の返済
や,愛人のDに渡す生活費等に充てたが,なお多額の借金が残っており,その
返済などに苦慮していたところ,金融業を営んでおり,Bの債権者でもあるGなら
ば,その事務所にまとまった額の金品を置いているだろうから,同人を襲い殺害
するなどして金品を奪おうと企て,被告人を誘った上,同人とともにGを襲撃する
計画を立てていたが,Gが居留守を使うなどしてBに会おうとしないため,Gの襲
撃方法につき頭を悩ませていた。Gから多額の金員を借り入れていたN1は,B
から上記計画を聞き及び,Gが殺害されれば,自分の同人に対する借金も返済
しないで済むだろうなどと考え,平成6年10月26日夕方又は夜ころ,自己が経
営する丁企画事務所において,Bに対し,GがBと会おうとしないのなら,自分が
同月27日午前8時30分ころGとG事務所で会う約束をしているから,自分が同
事務所に入った後,何か口実を設けて同事務所を退出するので,それと入れ替
わりであれば,鍵が開いていて同事務所に押し入ることが可能ではないかと助
言した。Bは,これを受け,N1の示唆した方法でG事務所に押し入ることとし,被
告人にもその旨伝え,同人と同日午前8時30分頃,G事務所がある三重県津市
d町所在の市営住宅z団地付近で落ち合ってG事務所に行くことに決めた。
(2)被告人は,同日朝,Bと落ち合うため,普通乗用自動車(ファミリア)で上記z団
地に向かい,その途中の同日午前8時29分及び同32分,Bと携帯電話で連絡
を取るなどして,そのころ同人と上記z団地付近で落ち合い,同団地先の道路に
被告人が運転してきた自動車を駐車した上,Bの運転する普通乗用自動車でG
事務所がある上記団地1棟まで行った。
(3)一方,N1は,同日午前8時30分ころ,G事務所に行き,同事務所内でGと手
形の割引などについて話をしていたが,同日午前8時35分ころ,事前にBと計画
したとおり,乗ってきた自動車に置き忘れた手形を取ってくるとの口実で同所を
退出した。
(4)被告人とBは,N1がG事務所から出たのを見て,入れ違いに同事務所に入る
べく,同事務所に向かい,その途中でN1とすれ違った上,同人が退出した後,
施錠がされないままとなっていた同事務所玄関から,まずBが,続けて被告人が
入った。なお,その際,被告人は,それまでGとは面識がなかったが,同人に顔
を見られることで自己の犯行が発覚するのを防ぐため,黒色のサングラスや帽
子を着用し,また,着ていたアルマーニのジャンバーのポケットにGに突き付ける
ためのけん銃様のものを隠し持っていた。Bは,G事務所に入った後,まずBがG
のいる同所南側事務室まで行き,Gの前のイスに座ったところ,Gは,顔見知りだ
ったBに対し,「何だ,お前は。N1はどうした。」などと話しかけたが,その時,B
に少し遅れ,被告人も同室内に入ってきて,Gの面前約1メートル位の場所に立
ち,上記けん銃様のものを同人に突き付けるようにして構え,金銭を出すよう脅
迫した。これを見たGが,慌ててBに対し,怯えた様子でどういうことかと聞いたの
を見て,Bは,これなら同人から恐喝ができると考え,暗に被告人とその意を通じ
て恐喝をすることとした。Bは,自分は暴力団のIj一家に1000万円を借りて追い
込みをかけられており,その若い衆が3人泊まり込みに来ているので,同人らに
金を渡さないと帰れない,ピストルを持った男はIj一家の人間だなどと答えた。ま
た,被告人は,上記けん銃様のものの弾倉を回しながら「外にも仲間が2人い
る。金庫の鍵を出せ。」等と申し向けた。Gは,Bの上記説明を信じ,最低でも10
0万円は払わないと,この場を逃れることはできないと考え,Bに対し,100万円
を渡すと言ったところ,Bは,その代わりにBuの手形が三重県尾鷲市に置いてあ
るから,それを担保として渡す旨述べた。Bは,Gが金銭を渡す約束をしたことか
ら,同日午前9時15分前ころ,被告人をG事務所から退出させた。Bは,その後
の同日午前9時15分ころ,同事務所内の電話から,三重県尾鷲市に住む愛人
のO2に架電し,三重県津市の伊勢自動車道津インターチェンジまで,上記手形
を持参するよう指示し,その後,同事務所の応接室において,Gと100万円の受
け渡しなどにつき話を詰めていたが,同日午前10時40分ころ,Bの携帯電話に
上記愛人から上記津インターチェンジに着いたとの電話が入ったため,Bは,G
事務所を出て津インターチェンジに行き,同所で同女から上記手形を受け取った
上で,再びG事務所に戻り,Gとの間で,手形の売買契約書を作成し,上記手形
に裏書した上,同手形と交換でGから現金100万円の交付を受け,同日午前11
時15分ころ,G事務所を立ち去った。その直後,N1がBの手引きをしたと考え憤
っていたGは,N1の携帯電話に架電し,「何で戻ってこんだんや,お前もBとグ
ルか。」と文句を言った。
(5)他方,G事務所を出た後被告人は,手引き役を務めたN1に礼を言おうと考え,
同日午前9時35分,N1の携帯電話に架電し,同人に対し,「Bに頼まれた者で
すが,N1さんに迷惑を掛けました。関係がないことを伝えてくれと頼まれまし
た。」と話した。
(6)その後,被告人は,G事件の被疑者として勾留されることとなったが,その勾留
中,上記架電につきN1と口裏合わせをしておかなければ,架電記録から,G事
件への関与が明らかになってしまうと考え,書籍に「9時35分の件ですが,あな
たが警察に疑われていますので,誰か声に覚えのない人間から,私のベルが鳴
ってきたので電話したのですが,A1さん見えませんかなどと一方的に電話してき
て,切ってしまいましたということを言ったら大丈夫です。」と書き込み,N1の電
話番号及び同人に会って上記記載を見せて欲しいとの妻のS1に対する伝言も
書き添えた上,平成7年1月末ころ,面会に来たS1に対し,「その中を見ろ。」と
言って同書籍を渡した。上記記載を見たS1は,平成7年2月初旬ころ,N1に上
記記載のコピーを渡した。それを見たN1は,自己のG事件への嫌疑を避ける意
味もあって,被告人からの依頼に従い,平成7年6月27日の第6回公判におい
て,「(上記架電は)知らぬ人からの電話で,A1さん見えますかとかいうことでし
た。」旨上記記載に沿った証言をしたが,後にこの証言はS1から渡されたコピー
に基づく偽証であることを認めるに至った。
以上の事実によれば,被告人がG事件を犯したことは明らかである。
 2 弁護人及び被告人の主張や弁解に対する判断
  (1)これに対し,弁護人は,被告人はGなる人物のことは知らないし,G事件当日もG
事務所には行っていないから,G事件は無罪である旨主張する。
しかしながら,関係各証拠によれば,G事件においては,Bの他にサングラス
をかけてけん銃様の物を突き付けた共犯者がいたことが明らかとなっているとこ
ろ,Bは,被告人がその共犯者であると供述している。また,被害者であるGは,
Bと一緒に事務所に入って来て,自分にけん銃を突き付けたサングラスの男は
被告人であると供述している。そこで,これらの供述の信用性が問題となるが,G
は,共犯者の男は帽子や黒色のサングラスを着用していたものの,1メートル位
の至近距離にいたので十分観察することができた上,途中で1回か2回,目にゴ
ミか虫が入ったのか,サングラスを取って目をかいており,また,その横顔も見て
いたから,同人が被告人であることは識別できると明確に供述している。Gがサ
ングラスの男は被告人である旨認識し,警察官に申告するに至った経緯は,警
察から被告人が敢行した有印私文書偽造・同行使,詐欺被疑事件(判示第3の
3)に関し,共犯者Bの交友者として,平成6年12月4日,事情聴取を受けた際,
十四,五枚の顔写真を示され,その中の被告人の写真を見て,同人がサングラ
スの男であると気付いたものの,自分でサングラスの男を探し出して仕返しをし
ようと考えていたため,当初は警察官に対し,本件恐喝の被害にあったことを申
告せずにいたが,警察官から,被告人は伊勢署で身柄拘束されていると聞かさ
れたことから,自分で同人を探し出して仕返しすることは困難であると考えるに至
り,恐喝事件の被害にあったことを申告し,同年12月28日,Bとの関係等につ
いての事情聴取のため伊勢署に呼ばれ,やはり被告人の写真を含めた14枚程
度の顔写真を示された際,その中から被告人の写真を判別し,同人がサングラ
スの男であることを供述したというものであることを認めることができる。以上の
経過や,Gには被告人に対し特段不利益な供述をする理由などはないことから
すれば,その供述の信用性は高い。Bの供述についても,Gの供述と符合する
上,上記のとおり被告人と共謀してA事件を惹起するなどしていたことからすれ
ば,被告人をG事件の共犯者として選んだことは不自然とは言えず,信用でき
る。もっとも,Bは,被告人がサングラスを取ったところは見ていないとも供述して
いるが,Bとしても,Gを恐喝するため同事務所を訪れ,同人に金員を交付させよ
うとしていたものであって,被告人の顔を間断なく見ていたわけではなく,被告人
がサングラスを取ったところを見落としたことも十分に考えられるから,Bがこの
ように供述しているからといって,GやBの供述の信用性が減殺されるものとは
いえない。
他方,被告人は,上記のとおり,Gなる人物のことは知らないし,G事件当日も
G事務所には行っていないと主張するが,被告人の携帯電話から平成6年10月
21日午後2時46分(通話時間54秒)及び同日午後3時4分(同36秒)の2回に
わたってG事務所に電話が掛けられている事実があり,これについて合理的な
説明はない。のみならず,被告人がG事件当時使用していた新携帯情報ツール
には,Gの氏名,住所が登録されており,かつ,その登録は,暗証番号を入力し
なければ,閲覧,入力及び変更ができないものである。この点についても,被告
人は合理的な説明をしていない。のみならず,被告人の上記主張は,上記1の
(5)及び(6)のとおりG事件の当日の午前9時35分にN1の携帯電話に電話し
(通話時間2分24秒),手引き役をしたことについて礼を言っていることや,その
後N1に対し,上記架電につき口裏合わせを図っていることと明らかに矛盾す
る。
 (2)被告人は,上記N1に対する午前9時35分の架電について,N1は顔を見たこと
がある程度で交際はなく,同人に上記架電をした記憶はない,同架電記録は,
自分の携帯電話あるいはポケットベルにBから電話が入ったので,折り返し連絡
したところ,それがN1の携帯電話だった可能性があるなどと供述する。
しかしながら,そのときBはG事務所でGを恐喝しており,その場にはN1はい
なかったし,その時BがN1の携帯電話を使用していた事実もないし,Bが恐喝事
件の途中で被告人に架電するような用件があったとも思われないから,被告人
が言うような状態があったとは考え難い。また,Bは,自分の携帯電話を所有し
ており,G事件当日もそれを携行,所持していたのに,わざわざN1の携帯電話
で被告人の携帯電話やポケットベルに連絡し,折り返し電話を受けたということ
や,被告人がBへの連絡に折り返し連絡をしたところ,交際はないN1が出たに
過ぎないのに,通話時間が2分24秒間に及んでいるというのは不自然である。
ちなみに,N1は,検察官に対しては上記1の(5)記載の認定に沿う供述をし
ているところであるが,当初は,上記架電は思い当たるところはないとか,被告
人とは会ったことはないし,面識もなく,G事件当日,同人から電話はあったが,
その内容はBがいるか問い合わせる内容であったなどと被告人の上記弁解に沿
う供述をしていたし,上記検察官に対する供述調書作成後の第40回公判にお
いても,上記架電の内容は今は覚えていない,S1から被告人の伝言が記載さ
れたメモを渡されたことがあるが,その内容も今は記憶にないなど曖昧な証言に
終始している。しかしながら,上記N1の検察官に対する供述は,Gの面割り供述
やBの供述に符合しているし,N1は,少なくとも上記第40回公判期日において
も,「上記架電及びメモの内容について,捜査段階で述べたことに間違いはな
い。」旨述べているのであって,同人が上記捜査段階及び第6回公判廷における
供述を変遷させたのは,真実を話すと,自分も事件に関わった共犯として逮捕さ
れると思い,S1を介して被告人から渡されたメモのとおり,虚偽の証言をしたと
述べるところも,不合理とは言えず,これらを併せ考慮すれば,N1の上記第40
回公判における曖昧な証言は,時間の経過による記憶の減退や被告人への遠
慮あるいは自己に対する刑事責任の追求の回避によるものと考えられ,これら
はN1の上記検察官に対する供述の信用性に疑いを生じさせる事情とはいえな
い。
ちなみに,Bは,N1から同人がG事件の直後被告人からの架電を受けて「あ
んたのことは何にも言っとうへんでな。」と言われた,被告人の妻からのメモを見
せられて最初の証人出廷の時には偽証した旨聞いたと供述しており,これらの
供述は,上記N1の検察官に対する供述を裏付けている。
のみならず,被告人は,上記1の(6)記載のとおり,G事件で勾留された後,
宅下げの本を用いて,N1に対する口裏合わせの工作を行っており,このこと自
体は妻S1やN1のみならず被告人も自認しているが,仮に被告人が供述すると
おり,何者かからの電話連絡に対し,折り返し架電をしたに過ぎないのなら,妻
のS1を介し,宅下げの書籍を使って,わざわざN1に口裏合わせを依頼する必
要はないはずである。また,被告人は,捜査段階において,自宅を出る際,携帯
電話からBの連絡先の一つと聞いていたN1の携帯電話に電話をしたが,N1に
Bはいないと言われたとか,同年10月27日午前9時ころW事務所を出て自宅に
帰り,妻と食事をした後,N1に架電したが,話したのはN1ではなかったなどと供
述していたものであって,供述を変遷させたことについて合理的な説明をしてい
ない。これらを併せ考えると,被告人の上記供述は採用できない。
3 アリバイ主張に対する判断
(1)弁護人は,被告人はG事件があった平成6年10月27日には,①午前9時ころ,
自宅の固定電話に保険代理店のI2から,加入していた自動車保険の掛金の徴
収に伺いたい旨の連絡を受け,同日昼前ころ同人がW事務所に来たので,同人
に保険料を支払い,以後同人と昼過ぎまで雑談をしたり,食事をとっていた,②
また,午前9時ころ,やはり被告人方に,被告人の祖母であるJ2からも電話があ
り,同女から,三重県度会郡南勢町所在の町立NS病院に被告人の叔父である
K2が骨折で入院しており,その隣室には,被告人が高校時代世話になった人物
が入院しているから,見舞いに来て欲しいと頼まれたので,同日昼過ぎから同病
院を訪れたという事実があり,いずれの電話もG事件が行われたとされる時間内
に自宅で受けているのであるから,被告人にはアリバイが成立すると主張し,被
告人も公判廷でこれに沿った供述をする。
(2)上記①の主張について
  まず,I2からの架電について見ると,被告人の携帯電話の架電記録等によれ
ば,被告人が同日午前9時55分ころ,I2のポケットベルに連絡して被告人が契
約している保険の掛金の払込みをするため同人にW事務所に来てもらう時刻を
伝えたことが認められるから,I2からこれに先立って被告人に対する連絡があっ
たと推認される。I2は,当日ポケットベルに被告人から連絡を受ける前に,被告
人に電話をし,月別の保険料の徴収に行くために被告人の都合を聞いた旨供述
し,その架電の時刻について,当日の架電時刻は覚えていないものの,「私の今
までの(従前被告人から保険料を徴収した際の)パターンで申し上げますと,(午
前)9時を挟んだ30分前後じゃないかと思います。」と述べている。また,I2は,
被告人から,その携帯電話やポケットベルの番号もあらかじめ知らされており,
平素被告人と連絡を取る際には,それらやW事務所に連絡を入れていたという
のであって,G事件の当日だけこれと異なり被告人の自宅に架電したという理由
は見当たらないから,本件当日自宅でI2からの電話を受けたという被告人の供
述は疑わしく,I2は被告人の携帯電話に架電したものと認められる。そうすると,
上記1の(4)記載のとおり,被告人は,同日午前9時15分になる前に,G事務所
を退出しているから,退出後,I2からの電話連絡を受けることは十分可能である
と認められ,I2からの電話を受けたことは被告人のアリバイとはならない。
 次ぎに,I2のW事務所への来訪時刻について見ると,第9回公判調書中のI2
助之の供述によれば,I2が,W事務所を訪れたのは同日午前11時ころであると
認められる。なお,被告人は公判廷ではI2は当日午前10時ころ来訪したと述べ
ていたが,捜査段階では,架電記録を参照しながら,同日午前9時55分ころ,事
務所からI2に連絡を取った上,同日午後零時少し前に事務所を訪れた同人と一
緒に同所で食事を取った,I2が来たとき,I2の食事も追加で出前を注文したが,
自分たちが出前を注文するのは,午後零時前後だから,I2が来たのもその前後
だと思うと具体的な根拠を示しつつ,I2が来訪した時刻を詳細に供述していた
し,公判段階でこれを変遷させた理由について十分な説明をしていないから,被
告人の上記公判供述は確かな記憶に基づくものであるかどうかは極めて疑わし
く,信用できない。そして,I2がW事務所を同日午前11時ころ訪れたとすれば,
上記1の(4)記載のとおり,被告人は同日午前9時15分ころには,G事務所を退
出しており,G事務所とW事務所は,自動車を使用すると約40分ないし42分の
距離であるから,G事件を起こした後I2が来訪するまでに被告人がW事務所に
戻ることは十分可能なのであって,この点も被告人のアリバイとはならない。
(3)上記②の主張について
 J2は,平成7年10月24日の第10回公判において,大筋弁護人の上記②の
主張に沿った証言をしているところ,同女がつけていた日誌帳には,平成6年10
月27日の欄に「おぢさんが足を折ったので朝被告人に電話をした高こう時代に
大事にして下さった五ヶ所のパン屋のおばさんがとなりの部屋に入院して居るか
ら来たら見舞いにいきなさいと言って被告人とS1が見舞いによった」との同女の
証言を裏付けるような記載がなされている。また,当時被告人の妻であったS1
も,日時は覚えていないが,J2から自宅に電話があり,同日中に被告人とともに
南勢町の病院に見舞いに行った旨供述している。
しかしながら,J2は被告人の祖母であり,また,S1は被告人の当時の妻であ
るから,両名の供述の信用性は慎重に判断されるべきであるが,J2及びS1は,
被告人がNS病院に見舞いに赴いたのは1回だけである旨明言しているところ,
上記日誌帳には,同年11月1日の欄にも「被告人とS1が勇の見舞に来た」との
記載がなされている上,同年10月27日の欄の被告人の行動に関する記載は,
後から付記したかのような体裁となっている。J2は,これについて,同年11月1
日は,寺に健康診断に行っていたので,被告人とは会わなかったものの,家人
から被告人らが上記病院に来たと聞いて,そのように書いたものであるなどと弁
解するが,この説明は上記日誌帳の同年11月1日欄の「健康診断がお寺であっ
たが欠席す」との記載と明らかに矛盾する。そして,同女が公判廷において,上
記供述をしたのは,G事件から約1年が経過した後であるが,同女は,同年10
月27日の被告人らの見舞いに関しては明確かつ断定的に述べているのに,上
記日誌帳に記載された同日ころの他の行動について,ほとんど説明できていな
い。また,S1は,平成10年5月20日の第43回公判期日において,午前8時か
午前9時ころ,J2から電話があってNS病院に見舞いに行ったことがあると証言
しているが,その月日は何ら特定できていない上,同女は捜査段階で上記見舞
いについて何ら触れていなかったのに,上記公判期日になって,初めて上記供
述をするに至ったもので,かつ,その理由について「今,(尋問で)南勢町の話を
していて思い出した。」と述べるに止まっており,これは合理的な説明とは言い難
く,その供述自体信用性は低い。その上,J2及びS1の各供述は,上記のとお
り,信用できるGの面割り供述や上記認定される事実,殊に被告人が手引き役
を務めたN1に対し御礼の電話をしたり,その後の同人に口裏合わせ工作をして
いることと符合しないことをも考慮すれば,同女らは,被告人の刑事責任を免れ
させるため,殊更上記各供述をしているに過ぎないと判断され,信用できない。
また,被告人も,捜査段階において,上記弁解をしていなかった。
この点につき,被告人は,公判で初めて上記主張をしたのは,携帯電話の履
歴を見て,同日午後は履歴がないことから,自分は,携帯電話の届かないとこ
ろ,つまり南勢町に帰っていたことを思い出したためであるなどと主張する。
しかしながら,被告人は,上記(2)認定のとおり,捜査の早期段階から,自己
の携帯電話の履歴を見ながら,G事件当日の自己の行動を詳細かつ具体的に
説明していたのであって,同日午後の架電記録がないことをもって,公判に至り
初めて病院へ見舞いに行ったことを思い出したというのは,不自然というほかな
いし,数時間にわたり発信がない日は,上記11月1日をはじめ他にも存在する。
被告人の上記弁解が信用できるGの面割り供述や上記認定される事実,殊に被
告人が手引き役を務めたN1に対し御礼の電話をしたり,その後の同人に口裏
合わせ工作をしていることと符合しないのは,上記(2)の場合と同様であって,
被告人の上記②の弁解も信用できない。
4 弁護人,被告人は,その他るる主張するがいずれも理由がない。
第3 C事件について
 1 弁護人は,判示第3のC事件について,被告人は無罪であると主張し,被告人もこ
れに沿う供述をする。そこで以下検討するが,上掲判示第3の各罪に関する各証
拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)Cに対する強盗殺人の謀議及び同人の殺害状況について
 ア Bは,被告人と共謀して,A事件,G事件を惹起したにもかかわらず,やはり多
額の借財を抱えて返済金に窮していたため,金品を強取することを考えてい
たが,喫茶Eの経営状態が良くなかったIから,これまでCに貸したり出資したり
した金銭の取立てを依頼されたことがあり,その際Cが少なくとも五,六千万円
の金を持っていると聞かされたことから,Cを殺害するなどしてその金品を強
取することを企てた。そこで,Bは,その旨をIと被告人とに個別に持ちかけ,Iと
被告人は,平成6年11月中旬ころ,それぞれBの企てに賛同した。なお,被告
人は,Bから,この企てにはIも関与することを聞かされていたが,同人と顔見
知りであったことなどから,同人に自己の正体を明かさないようBに口止めをし
ておいた。
イ BからCに連絡を取るよう指示されていたIは,平成6年11月19日ころ,Cに
連絡して同人と翌20日に会う約束をし,これをBに伝え,さらに同人は被告人
にその旨を伝えた。その際,BとI,Bと被告人との間で順次,同月20日にCを
殺害してその金品を強取することの共謀が成立した。また,BとIは,IがCをお
びき出し,C方に侵入,物色して金品を奪う役割を,Bと被告人がCに暴行を加
えるなどし,必要であれば被告人がCを殺害する役割を,それぞれ分担するこ
ととし,Bはその旨被告人に伝え,その了承を得た。
ウ Bは,同月20日午後4時ころ,Iに貸していたカリブでD方まで迎えに来てもら
い,同人の案内で,Cの自宅や同人が管理又は所有するBMW紺色とクラウ
ン白色を駐車している判示第3の1記載の度会郡小俣町a町所在の月極駐車
場を下見するなどしていたが,同日午後6時から松阪市内で開催された知人
の誕生会に出席し,その後,同日午後7時ころ,同会を中座し,シビックを運転
する被告人に迎えに来てもらい,同人と改めてC方付近に赴いて下見をした
上,同日午後7時30分ころ,Iとの待ち合わせ場所である国道23号線の近く
にあるD倉庫付近で同人と落ち合った。なお,このとき,被告人は,サングラス
と黒色帽子で変装し,G事件のとき着用していた紺色ジャンバーを着ていた。
 BからCを呼び出して上記待ち合わせ場所に連れてくるよう指示されたIがカ
リブで同所を立ち去った後,被告人とBは,Cを殺害する場所について相談し,
その結果,Iとの待ち合わせ場所付近にあり,内部に進入すると建物の死角と
なって外部から見えず,近くに人家がないD倉庫の敷地をCの殺害場所とする
ことを決めた。
エ Iは,Cに対し,「会わせたい人がいる。」旨虚言を弄して同人をカリブに同乗
させ,同日午後8時前ころ,上記ウ記載の待ち合わせ場所に到着し,被告人と
Bとは,シビックでI運転のカリブを先導してD倉庫の敷地内に入った。
D倉庫の敷地内に両車が停車すると,被告人とBは,同車から降り,まずB
が,以前Cと象牙の取引をして損をしたことがあったことから,「Cさん,久しぶ
りだな。覚えとるかな。」などと声をかけたが,Cから「どちらさんでしたかね。」
などと返答されたため立腹し,カリブの運転席にいたIをシビック内に移動さ
せ,被告人とともに,下車したCに対し,こもごもその顔面を手拳で殴打した
り,左胸部を膝蹴りするなどの激しい暴行を加え,さらに,その場に倒れたC
の両腕をつかんで背中に回して後ろ手にし,Bがカリブの車内に置いてあった
ガムテープでCの両手首付近を緊縛し,顔面にもガムテープを巻き付けた後,
Cをカリブの後部左側ドアから後部座席に押し込んだ。その上で,被告人が同
車の開放された後部左側ドアから半身を入れ,持っていた判示第1の1記載
の回転弾倉式けん銃でCの頭部を1回撃って,これを命中させて同人を殺害し
た。
(2)Cの金品の強取及び同人の死体の運搬状況について
ア C殺害の直後,被告人は,カリブの助手席ドア付近の地面に落ちていたCの
預金通帳等在中の手提げ鞄を拾い上げるとともに,事前の計画では,IがC方
を物色することになっていたのに,自らがC方を物色すると言い出し,BからC
のポケットに入っていた鍵を受け取ると,そのままシビックに乗り込み発進して
C方に行き,同人方内部を物色し,判示半円真珠等を持ち出し,これらの金品
を強取した。
イ D倉庫の敷地に残されたBとIは,Iが運転するCの死体を載せたままのカリブ
で同所を離れ,同月20日午後9時ころ,D方前駐車場に到着し,BがD方から
引っ越し用の段ボール箱を持ち出して組み立て,これをCの死体を積んだカリ
ブの後部座席に並べてCの死体が外から見えないようにした。その後,Iがカリ
ブを,BがD使用のセンティアを運転して,喫茶Eに赴き,カリブは同店駐車場
に止めた。Bは,被告人となかなか連絡がつかなかったことから,1人でセンテ
ィアを運転してW事務所に行った。
ウ 他方,被告人は,C方から強取した半円真珠等多数の物品をシビックに積ん
でW事務所に戻り,同所に来ていたBと落ち合い,強取品を被告人が管理す
るSH学園前の2階の部屋に運び込み,それらを確認したところ,強取品の中
にCら名義の預金通帳,印鑑,印鑑登録証,エンジンキー等があった。そこ
で,被告人とBとは,預金を払い戻すこと,不動産を処分するために必要な印
鑑登録証明書を入手すること,預金通帳とともに袋に入っていた鍵は,貸金庫
の鍵である可能性があったため,委任状を偽造して貸金庫内の金品を奪うこ
と,車のエンジンキーもあったことから,Cが使用している車を強取すること,C
の死体を乗せたカリブを喫茶Eの駐車場から移動させることなどを相談した。
そこで,被告人とBは改めてIに架電し,同人を三重県一志郡三雲町所在のゲ
ームセンター「La」付近に呼び出し,次いでIが運転してきたCの死体を乗せた
カリブを津市c所在の月極駐車場に駐車させて隠匿し,更に被告人ら3名は,
シビック又はセンティアに同乗して,C方付近に向かい,同日午前3時ころまで
にCの車が駐車されていた上記(1)ウ記載の度会郡小俣町a町所在の月極駐
車場に行き,被告人がC管理のBMW紺色に乗車して発進させ,これを強取し
た。BとIは,更にC方を物色することとし,IがC方に侵入して物色したが,強取
すべき物がなく,また室内が気味悪かったのでそれ以上物色することを諦め,
BがIを喫茶Eまで送り,同月21日午前4時ころ,同所で両名は別れた。その
後,BはN1の承諾を得て,同月22日朝までにカリブを上記津市c所在の月極
駐車場から,塀があって内部が周りから見えない丁企画駐車場に移動させ
た。
エ 被告人は,上記のとおりCのBMWを強取した際,同所にCのクラウン白色も
止められていたことや,強取品の中にそのエンジンキーと思われるものがあっ
たことから,平成6年2月に被告人が逮捕された保険金詐欺事件に関して迷
惑をかけたJに上記クラウンを与えようと考え,同年11月21日午後4時23分
ころ,携帯電話でJに連絡を取り,クラウンをやる旨伝えた。そして,同日午後
8時ころから午後9時ころまでの間に,情を知らないJを上記(1)ウ記載の度
会郡小俣町a町所在の月極駐車場に連れ出し,同人に上記クラウンのキーを
渡し,同所に駐車中のC所有のクラウンを運転させて同所を出発させ,もって
同車を強取した。
(3)金品の騙取及び窃取状況並びにCの死体遺棄の準備状況等について
ア 被告人は,同月21日,前日強取したCの預金通帳及び印鑑を使用して預金
払戻名下に金員を騙取することをBと共謀し,そのために必要な津市内の銀
行の案内や預金の残高確認及び払戻手続をZにさせることとし,同日昼ころZ
と連絡を取り,同人と津市内で落ち合うこととしたが,Zと落ち合うまでに,強取
したCの妻C子名義のクレジットカード(Gカード)の残高照会をし,判示第3の
4(1)記載のとおり,同日午前11時49分ころ,C名義のクレジットカードを使
用してBMW紺色にガソリンを給油してもらい,これを騙取するとともに,同車
を洗車してもらって代金相当額の不法の利益を得た。
  その後,Zと落ち合った被告人は,同日午後1時56分ころ,判示第3の4(2)
記載のとおり,メガネ1個を騙し取り,さらに同人と津市内の銀行を回り,同人
にC名義の預金通帳数通を順次記帳させ,残高を確かめるなどしたところ,C
銀行In支店に開設したC名義の総合預金口座に300万円程の残高があるこ
とが分かったため,Zに同支店で同預金の払戻等の手続をするよう依頼した。
しかし,同人に拒否されたことから,これを自ら実行することとし,判示第3の3
記載のとおり,同日午後2時5分ころ,C銀行津支店において,当初金300万
円の預金払戻し(兼当座貸越)請求書を利用して,C名義の同文書を偽造,行
使し,同金額の払戻等を請求したが,記帳されていた定期預金の一部がその
後取り消されていたため,結局,払戻金と貸付金の合計で現金227万円の交
付を受けて,これを騙し取った。その後,被告人は,D方において,Bに上記現
金227万円の約半分を交付し,その際,Bと相談して,Cの死体を遺棄するた
めのユンボのレンタル代や穴掘りを依頼する相手への謝礼は被告人が負担
し,Iへの分け前はBが負担することとした。
イ 被告人は,同日午後5時ころ,判示第3の4(3)及び(4)記載のとおり,C名
義のGカードを使用して松阪市内で家電製品等の詐欺に及んだ上,翌22日,
翌々23日にも,判示第3の4(5)及び(6)記載のとおり,同種の詐欺や窃盗
に及んだ。
ウ 他方,Bは,同月21日午後,Iとともに上記SH学園前2階の空室に赴き,強
取した真珠等を同人に見せたところ,金になるのはマベ貝という変形真珠で,
他はイミテーション等で価値がないと言われたため,Iに変形真珠の処分を頼
んだところ断られたので,Bは,真珠も扱っているN1方にIとともに赴き,N1に
上記変形真珠を預けた。
これとは別に,被告人は,同月24日,上記真珠等が運び込まれていたSH
学園前2階の空室において,知人のR1に半円真珠等の鑑定をしてもらったと
ころ,大部分は偽物であったが,一連のネックレスだけが本物らしかったの
で,その売却を依頼して,同人にこれを預けた。
エ 被告人は,同月21日,Cの死体を埋める穴を掘削する掘削機を借りるため,
A事件の際に利用したKr株式会社松阪営業所を訪れ,前回同様,YS建設の
偽名を使って掘削機(ユンボ)借り受けの申し込みをし,代金5万9740円を現
金で前払いし,翌22日午前中に久居造成地に搬入するよう依頼した。
 被告人は,友人のKが重機を運転できたことから同人にCの死体を埋めるた
めの穴掘り作業を依頼することとし,同年11月21日午後6時17分ころ,同人
の内妻の実家である中谷忠司方に電話をかけたが,Kが不在であったため,
同人への依頼は翌日にすることとし,Bには,翌日Cの死体を処分する旨伝え
ておいた。そこで,Bは,同月22日朝Cの死体をIとともに久居造成地まで運ぶ
こととし,同月22日午前8時ころ,知人の村上健一から軽トラックを借り受けた
上,同トラックを運転してIを迎えに行き,同人とともにCの死体が乗せてあるカ
リブを駐車していた丁企画の駐車場に移動し,Bがカリブを,Iが軽トラックをそ
れぞれ運転して同所を離れ,同日午前10時過ぎころ,久居造成地に到着し
た。しかし,同所に被告人はいなかったし,掘削機もなかったため,同所で待っ
ていると,同日午前11時20分ころ,Krからのユンボが搬入されたが,搬入し
た人が同所にユンボを置くと,そのまま引き上げようとしていたので,同人にB
が「作業してくれへんのか。」と聞いたが,次の仕事が入っていると言われて断
られた。その後も被告人が現れないため,Bは,同日午後2時ころ,同所付近
に設置された公衆電話から被告人の携帯電話に電話し,被告人に対し,ユン
ボを操作してCの死体を埋める手配はどうなっているのかなどと言ったところ,
被告人が,「すぐに着く,(カリブを)置いて帰っていい。」旨答えたことから,C
の死体を積載したカリブを久居造成地に残したまま,Iとともに軽トラックで同所
を離れた。
(4)平成6年11月22日のSとの有印私文書偽造,同行使等の状況について
ア 被告人は,C名義の定期積金の解約手続等をとったり,本人になりすまして
印鑑登録証明書の交付を受けるため,同月21日午後6時30分ころ,Sに手
伝って欲しい仕事がある旨電話で連絡して,翌22日午前11時30分ころ,W
事務所に来たSとともにファミリアに乗って小俣町役場に向かった。その途中,
被告人はSに対し,車の名義変更や不動産売買に必要なので,Cになりすま
して印鑑登録証明書を10通くらい取って欲しいと依頼したところ,Sは,「すぐ
に取れないかもしれない。」と言ったものの,被告人からCの了解を得ていると
言われたことや手伝えば被告人に謝礼をもらったり,将来仕事を回してもらえ
るかもしれないとの期待から,これを引き受けた。
被告人は,途中,H銀行宮川支店に立ち寄り,SにC名義の同銀行通 帳に
記帳してもらうなどした後,小俣町役場に到着し,同所において,Sと共謀の
上,同人に判示第3の5(1)記載のとおりC名義の印鑑登録証明書交付申請
書1通を偽造させたり,これをCになりすましたSに同役場の窓口係員に提出
させるなどし,Cの印鑑登録証明書10通を不正に入手した。
イ 被告人は,上記印鑑登録証明書の交付を受けた後,更に用事があるとして
SとともにC銀行In支店に向かい,その車内において,Sに対し,C名義の定期
積金を解約して普通預金口座に振替えることを依頼した。Sは,そのような振
替えは難しいだろうと思ったものの,被告人から「できるだけやってくれ。」と言
われ,同日午後1時24分ころ,1人で同支店に入り,窓口に預金通帳等を出
して,定期積金の解約等を申し入れたが,同支店支店長代理らから怪しまれ
るなどした。そのため,Sは,自らをCの会社の社員と偽り,Cは関東方面に行
って連絡が取れないが,同人から解約手続を任されているなどと嘘を言い,解
約手続をとるよう迫った。しかし,銀行側は本人の意思の確認がないとできな
いなどとして応じなかった。
ウ 被告人は,同支店横の駐車場でSが出てくるのを待っていたが,Sがなかな
か同支店から出てこなかったため,車を降り,同支店内の様子をうかがった
り,2度にわたって同支店に電話をかけて,Sに対し,時間がないから,時間が
かかるようだったら打ち切って帰るよう指示した。その後も,Sはしばらく交渉を
続けたが,銀行側が応じなかったことから,同日午後2時36分ころ,同支店を
退出した。
エ 同支店前駐車場に停車させたファミリア内で待機していた被告人は,Sが同
支店から出て来るや,同人を同乗させて直ちに同所を出発し,途中,三重県
松阪市s町にある自宅に立ち寄り,駐車場に駐車してあったBMWから背広を
取り出した後,W事務所前でSを降ろし,謝礼として1万1000円位を渡して別
れ,直ちにファミリアを運転して久居造成地に向かった。
(5)Cの死体の遺棄状況について
ア Cの死体を埋めるための穴堀りをKに依頼することを考えていた被告人は,
同月22日,Sと小俣町役場に赴く前ころに,W事務所から上記中谷方に電話
を掛け,同所にいるKに対し,ユンボで穴を掘ることを依頼して同人から了承
を得ていたが,さらに,Sが定期積金の振替手続等を終えるのを待っている間
の同日午後2時26分ころ,C銀行In支店前駐車場において,携帯電話でKの
ポケットベルに連絡を入れ,折り返し電話を掛けてきた同人に対し,穴を掘る
場所が,久居造成地であることを伝え,同所での待ち合わせ時間を午後3時
ころとした。
イ Kは,同日午後3時ころ,久居造成地に到着し,被告人の姿は見えなかった
ものの,同所にカリブと思われる乗用車が止まっていたし,ユンボも既に搬送
されていたことから,乗ってきた車の中で被告人の到着を待っていたところ,同
日午後3時30分過ぎころ,被告人が同所に到着した。Kは,同所付近に地面
が少しへこんだところがあったため,同所に穴を掘ろうとしたところ,同所がA
の死体を遺棄した場所であることを知っていた被告人から「ちょっと待って。こ
こちゃうんやわ,向こう。」などと別の場所を掘るよう指示された。そのため,K
は,被告人が指示した場所に1メートル四方,深さ1メートルくらいの穴を堀っ
たが,被告人から「もっと目一杯掘ってくれ。」と指示され,結局,ユンボのアー
ムが届く限界の横約1.5メートル,縦約2メートル,深さ約3メートルから4メー
トル近くの穴を掘った。Kは,穴を掘った後,それを自分が埋め戻すのかと考
え,そのままユンボの運転席に座っていたが,被告人は穴の埋め戻しをKに
依頼せず,同人に帰ってよい旨伝え,穴を掘った報酬として5万円を交付する
とともに,穴を掘ったことを口止めした。
ウ 被告人は,Kが帰った後,直ちにカリブからCの死体を運び出し,Kが掘った
穴に投げ入れ,自らユンボを運転してその穴を埋め戻し,その上で,同日午後
3時59分ころ,D方に電話をし,Bに対し,Cの死体を埋め終わったと報告し,
カリブの回収を依頼し,カリブを造成地脇の道路上に移動して同所を立ち去っ
た(判示第3の2)。
一方,Bは,被告人から上記連絡を受けた後の同日夜,愛人のDに頼んで
久居造成地まで乗用車で送ってもらい,止めてあったカリブを引き上げた。な
お,被告人が警察に出頭した後,Bは証拠が残ることをおそれて,知人のV新
吾らに指示して,カリブを関町所在の解体屋に持ち込ませて解体処分しようと
したが,同車の後部座席には多量の血痕が残っていたことから,依頼を受け
た解体業者がカリブを解体処分することを躊躇したため,カリブは後に廃車置
場から発見されている。
(6)平成6年11月24日のC銀行In支店での偽造有印私文書行使等の状況につ
いて
 ア 被告人は,同年11月23日,上記(4)イ記載の定期積金の解約手続をするた
め,Sと連絡を取り,翌24日に被告人がSの通院先に迎えに行く旨の約束を
し,同月24日午後零時ころ,MS病院にSを迎えに行き,同人とC銀行In支店
に赴いた。
被告人は,同支店に赴く途中,Bと電話で話し,Sの声がCに似ているかど
うか等を確認した上,同日午後1時2分ころ及び同日午後1時3分ころの2回
にわたり,同支店に電話をかけ,Sをして,Cになりすまして,応対した行員に
対し,これから代理の者が行って定期積金解約手続をとるからなどと申し入れ
させたが,交信状態が悪く,すぐに電話が切れてしまった。また,被告人は同
支店に向かう途中,Sに対し,Cを拉致しているから心配ないなどと言って安心
させた。
イ 被告人らは,C銀行In支店に赴く途中,昼食を取るため,三重県多気郡明和
町の飲食店「Ys」に立ち寄った際,判示第3の5(2)記載のとおり,Sが仕事用
に携帯していた委任状用紙を取り出し,被告人がCの住所・氏名等を記入し,
強取したCの印鑑を押捺し,更に収入印紙を貼付するなどして,C作成名義の
委任状を偽造した。
ウ 被告人は,同日午後1時50分ころ,SとともにC銀行In支店に到着し,同人
に対し,Cから強取した同人の印鑑等3個及び通帳並びに上記偽造した委任
状等を手渡した。Sは,それらを持って,1人で同支店に入り,同日午後1時5
5分ころ,上記通帳等と委任状を同支店窓口係員や同支店次長らに提示し,
定期積金の解約手続を依頼したが,行員らに拒まれ,間もなく,行員らの通報
により臨場した警察官に任意同行を求められ,同日逮捕された。
被告人は,同支店の様子がおかしいと感じたことから,同所を離れ,同日午
後2時30分ころ,一旦三重県伊勢市o町所在の愛人D1が経営していた「W
M」事務所に行った。しかし,Sのことが気になったことから,同支店に様子を
見に戻ろうと考えたが,先ほど同支店付近に赴いた際に使用していた車両の
ままでは怪しまれると思い,D1が使用する車両に車を換え,同女の運転で同
支店隣の駐車場まで戻り,そこから同支店及びその付近の様子をうかがっ
た。すると,付近で警戒中の警察官らしき者の姿を認めたことから,再び同所
を離れてWM事務所に戻り,D1に対し,人から預かったカードで金を下ろそう
としたら,警察がいて一緒に行ってもらった人が捕まった旨話した。
(7)被告人が逮捕されるまでの罪証隠滅行為等について
 ア 被告人は,犯行に使用したけん銃やCから強取した預金通帳等をD1に預け
ることとし,ジッパーが付いた扇形の銀色ケースに入れた上記けん銃やCの銀
行預金通帳等・キャッシュカード類,印鑑、土地権利証を,被告人がG事件及
びC事件時に着用していた背中に「GIORGIO ARMANI」という刺繍がなさ
れた濃紺色のジャンバー,被告人の印鑑・印鑑登録証明書・自動車運転免許
証・現金20万円位が入った財布・新情報携帯ツール,自己又は妻S1名義の
普通預金通帳等・キャッシュカード・住民票等とともに,半透明のプラスチック
製衣装ケース(以下「衣装ケース」という。)に入れ,上記WM事務所内に運び
込んだ上,Bに電話をして,Sが捕まったことや,これから警察に出頭すること
などを伝えるとともに,同月24日午後5時ころ,外出先から上記事務所に戻っ
たD1に対し,「絶対見やんといて。誰にも分からんようにして。」と言って衣装
ケースを預かるよう依頼した。D1は,これを承諾し,被告人が「誰にも分から
んようにして。」と言っていたことから,衣装ケースにガムテープを巻き付け,外
からはその中身が見えにくくするとともに,衣装ケースを同事務所に隠してい
ては警察の捜索で発見されてしまうと考え,その保管を上記WMの従業員F1
に依頼した。F1は,これを承諾し,同日帰宅する際,衣装ケースを自宅に運び
込んだ。その後,後述するとおり,上記衣装ケースは,Bへ,次いでその知人
のE1へと順次移転され,在中品の一部やジャンバーはE1方の捜索において
発見されている。
イ 次いで,被告人は,B1が使用し,W事務所前の駐車場に駐車していた自動
車にCから強取した真珠が入ったビニール袋や同人のクレジットカードを用い
て騙取した電化製品等を積んだままにしていたし,Cから強取したBMW紺色
を被告人方付近に駐車していたことから,これらも隠ぺいしようと企て,同月2
5日午後10時7分,B1に電話し,同人に対し,「他には言わんといて。」と言っ
て上記電化製品等及びBMW紺色の預かり並びに真珠が入ったビニール袋
の廃棄を依頼した上,更に,上記1の(2)エ記載のとおり,Cから強取したクラ
ウン白色をJに無償で譲渡していたことから,同車も隠ぺいしておこうと考え,
同日午後10時11分,Jに架電し,同車を隠すよう依頼した。
ウ B1は,被告人の依頼を引き受け,同日中に上記BMW紺色を知人のX2が
借りている三重県松阪市h町所在の駐車場に移動するとともに被告人の弟で
あるQ1に被告人からBMW紺色を預かったことを電話で伝え,上記真珠が入
ったビニール袋を投棄して処分したが,上記電化製品等は,上記自動車に積
んだままにしていたことから,同電化製品等はその状態で警察に発見押収さ
れた。
被告人からクラウンを隠すように依頼されていたJは,過去に被告人から事
故で海に落ちた自動車を引き上げて欲しいと頼まれ,同車の引き上げを行っ
たところ,それが詐欺事件に関連していたということで警察の取調べを受けた
ことなどから,上記クラウン白色も被告人が何らかの犯罪行為によって手に入
れたのではないかと不安になり,事件と関わり合いを持つことを避けようと考
え,後にQ1に上記クラウンの引き取りを依頼した。
Q1は,上記のとおり,被告人からBMW紺色を預かっているとB1から聞い
ていたことから,上記クラウン白色も預かるよう同人に依頼し,これを引き受け
たB1は,上記JがQ1に電話をした数日後,Q1とともに三重県度会郡南勢町
所在のJ方に赴いて同車を引き上げ,W事務所付近の店舗の駐車場に駐車し
て一時保管していた。しかし,B1は,平成6年12月4日,被告人の事件に関
連して警察の捜索を受けるなどしたことから,Q1及びD1と相談した上,上記
クラウン白色及びBMW紺色を遺棄することを決め,同月8日夜,上記各車両
の登録番号票を外し,車体についた指紋を拭き取るなどした上,三重県多気
郡所在の伊勢自動車道玉城インターチェンジ付近の空地まで移動させ,同所
に放置した。しかし,D1やQ1との間で,同所では上記伊勢自動車道から見え
てしまうという話になったため,翌日,上記各車両をさらに三重県多気郡玉城
町所在のNs商会自動車解体作業所兼廃車置場に移動させ,同所に遺棄し
た。これらの車両は,後に,上記廃車置場に放置されていたり,Ns商会の従
業員が勝手に乗り回したりしているのを発見された。
エ 被告人は,上記のような罪証隠滅行為を遂げた後,平成6年11月24日午
後11時過ぎころ,伊勢警察署へ出頭し,翌25日午前1時33分ころ,C銀行
津支店における227万円の詐欺事件等で通常逮捕された。
  (8)衣装ケースの保管,移転状況について
   ア 上記(7)エ記載のとおり被告人が逮捕された後,D1は,被告人の愛人である
自分にも捜査が及ぶ可能性があるが,そうなれば衣装ケースを預かっている
F1にも警察の取調べがなされるなどして迷惑が掛かるから,他の者に衣装ケ
ースを預けようと考えた。そして,被告人が,出頭前,Bに電話をして,Sが逮
捕されたなどと話をしていたことから,Bも被告人の事件に関与していると推測
し,同人に衣装ケースを預けることとし,同年11月下旬ころ,Bに電話し,「自
分も監視されており,いつ家宅捜索があるか分からないので,被告人から預
かっている物を預かって欲しい,伊勢のブティックの地図をファックスするの
で,同所に取りに行って欲しい。」と伝えるとともに,同ブティックの地図をD方
にファックス送信した上,同月末日ころ,F1に指示して,衣装ケースを同女の
同級生で三重県伊勢市駅前のブティックに勤務するN2に預けさせた。Bは,
D1から上記連絡を受け,愛人のO2に上記ブティックから衣装ケースを取って
こさせた上,当時Bの運転手役をしていたX方において,その中にCから強取
した預金通帳等やC及びAを殺害するのに使用したけん銃など上記1の(7)ア
記載の金品が入っているのを確認した。なお,F1は,その後,衣装ケースを
預かったことにつき,警察の取調べを受けた際,D1から「知らないと言った方
がよい。」と言われていたことから,当初,預かりを否定したものの,後にこれ
を認めるに至った。
   イ 一方,被告人は,上記(7)エ記載のとおり平成6年11月25日に逮捕された
後,取調官に対し,Sが使用しようとしたC名義の定期積立金通帳等は,Bか
ら払戻しを依頼され預かったもので,Bが不正に入手したとは思っていなかっ
たなどと弁解していたが,その点についてBと口裏合わせをしておこうと考え,
当時,接見等禁止決定がなされていたことから,接見に来た当時の弁護人で
あるP2弁護士を介し,D1を通じてBに口裏合わせの内容を伝えることを企て
た。そして,被告人は,同年12月3日ころ,接見に来た上記弁護士に対し,「B
は,Cに数百万円の貸金があり,同人名義の預金通帳等は,BがS2という男
を介し,Cから回収してきたものである,被告人は,自動車の中でBからその
払戻しを依頼され,その際,Bに対し,その通帳が誰の通帳か聞いたが,同車
助手席に乗っていた男から,それは正当なものだから心配しないよう言われた
ため,その通帳を使ってC名義の預金を払い戻した。」旨の上記取調官に対す
る弁解に沿った虚偽の筋書きを伝えた。それとともに,被告人は,同弁護士に
対し,その筋書きをメモしたものをD1に渡すこと,同女には,その内容をBに
伝えるよう伝言することを依頼した。同弁護士は,被告人の指示通り,D1に被
告人の伝言を伝え,同メモを渡し,また,D1も,被告人からの伝言に従い,同
月3日午後2時17分ころ,同メモをBにファックス送信した。後にこのファックス
受信用紙はD方から発見,押収されている。
   ウ ところが,Bは,上記ファックスを見て,被告人が自己に責任転嫁しようとしてい
ると考え立腹するとともに,今後,自分にも捜査が及ぶと考え,その前にけん
銃やC名義の預金通帳等が入った衣装ケースを知人のE1に預けようと考え,
同年12月上旬ころ,衣装ケースをE1に預けるため,Xが運転する自動車で名
古屋市中区所在のE1方に赴いた。しかし,Xが衣装ケースを同車に積み込む
のを忘れていたため,愛人のO2の弟であるQ2に連絡し,衣装ケースを上記
E1方まで届けさせ,その上で,E1方室内において,同人の面前で衣装ケー
スを開け,中身を取り出しながら,お金になりそうなものがないか確認するなど
した。また,Bは,この衣装ケースに入っていた扇形の銀色ケースから取り出
したけん銃やジャンバーをE1に示し,「自分が全部犯行を犯したことになって
いる。これには被告人の指紋が付いている。これが証拠になるから。」とか,
「ジャンバーは硝煙反応が出るから,証拠になる。」と説明するなどした上,
「俺の話は,正直,在日朝鮮人だから,警察も聞いてくれんもんで,そういうと
きは,お前弁護士とか頼むぞ。」「警察が来たら(けん銃等を)ちゃんと出してく
れよ。」と言って,衣装ケースやけん銃等の預かりをE1に依頼した。
   エ E1は,Bから預かった衣装ケースをE1方に保管していたが,その後,けん銃
は名古屋市瑞穂区の同人の実家に移し,平成7年9月25日,けん銃を預かっ
たということで証拠隠滅等の容疑で逮捕され,取調べを受けた際にも,実家に
けん銃を保管していることを秘し,Bから預かったけん銃は,自宅マンションの
ゴミ集積所に捨てた旨虚偽の供述をした。しかし,実際には同人は,Bが大G
方面に逃げた後も同人と連絡を取り,同人から預けた物の一部を処分してよ
いと言われたとして,衣装ケースの在中品の一部をゴミとして捨てるなどしたも
のの,ジャンバーや被告人の鞄,C名義の預金通帳等は保管を続け,それら
はE1方の捜索時に発見,押収されたが,上記けん銃は,現在に至るまで発
見されていない。
   オ ところで,被告人は,D1から衣装ケースをBに渡したと聞き,その中に入ってい
たCから強取した金品やけん銃の行方が心配になったことから,平成7年8月
24日ころと同年9月ころに2回にわたって,接見に来たD1に対し,衣装ケース
は,Bが借りていたSH学園前の部屋にあったことにするよう指示し,その後
も,同女に対し,「どのようにしてBに衣装ケースを渡したのか,詳しい事情を
聞きたい。」という手紙を出すなどした。
  (9)逮捕後の被告人のその他の罪証隠滅行為等について
   ア 被告人は,Kにユンボで久居造成地に穴を掘るよう依頼したことの発覚を免れ
るため,同所の管理人であるR2との間で,Kに久居造成地の穴掘りを依頼し
たのは,同女である旨口裏合わせをしてもらおうと思ったが,当時,勾留中で
かつ接見等が禁止されていたことから,上記(8)アと同様,接見に来たP2弁
護士及びD1を介し,R2に口裏合わせの内容を伝えることとし,平成6年12
月7日,接見に来たP2弁護士に対し,「久居造成地の整地をKに依頼したの
はR2薫である旨同女に伝えて欲しい。」とD1に伝言するよう依頼した。同伝
言を同弁護士から聞いたD1は,R2と面識のあったQ1に頼んで,同伝言をR
2に電話で伝えてもらったが,R2は,同伝言の意味や趣旨を理解できず,D1
から直接事情を聞くなどした。しかし,D1も被告人からの指示に従って上記伝
言をしただけで,やはり伝言の意味等を理解していなかったので,R2が理解
できるだけの説明をすることができず,同女から,伝言に名前があったKに事
情を確認するよう指示されたこともあって,Kに電話をしたり,Q1及びB1とと
もに直接Kに会うなどして,同人から事情を聞くとともに,被告人からの指示通
り,久居造成地での工事を依頼したのは,被告人ではなく,R2ということにし
て欲しいとの被告人の伝言を伝えるなどした。Kは,久居造成地で穴を掘った
際,被告人から口止めされていたことから,D1らに対しても,当初,何も知ら
ないと答えたが,その後,B1に対し,被告人の依頼で久居造成地に穴を掘っ
たことを認めるに至り,その話を聞き及んだD1は,Kにその件は第三者に口
外しないよう口止めした。しかし,D1は,Kが結局は誰かに口外してしまうので
はないか不安に思ったため,Yに対してもKに口止めをするよう依頼した。Yは
これを受け,同年12月中旬ころ,B1を通じて呼び出したKに対し,「警察に言
うたらあかん,知らんで通せよ。」などと口止めをするとともに,何か困ったこと
があったら自分のところに連絡するよう指示した。Kは,平成7年5月,久居造
成地に穴を掘ったことに関し,警察から呼び出しを受けたため,Yに相談したと
ころ,同人から再度口止めを受け,同年7月4日の警察での事情聴取におい
ては,造成地での穴掘りなどは知らないと述べたが,その後,久居造成地から
C及びAの死体が発見され,Yからも,ここまでくれば正直に話すようにと言わ
れたこともあって,同年10月,警察に対し,久居造成地での穴掘りを認めるに
至った。
   イ 被告人は,Cから強取した真珠の一部をR1に預けたことについても,同人に口
止めをし,真珠を回収しておかなければならないと考え,平成6年12月中旬こ
ろ,接見に来たD1に対し,「R1さんとこに行って,渡してあるものを預かり,被
告人から預かったことは口外しないように伝えてくれ。」と真珠の引き取り及び
同人への口止めを依頼した。D1は,被告人の依頼を受け,そのころ,R1方を
訪れ,同人に対し,被告人から真珠を預かったことを口外しないよう口止めす
るとともに,同人から真珠を回収し,後に廃棄した。
 以上の各認定事実によれば,被告人が判示第3の各犯行を行ったことは明らか
である。
 2 弁護人及び被告人の主張や弁解に対する判断
   弁護人及び被告人は,上記1で認定した各事実につき,以下のとおりの主張ないし
弁解をするので個別に検討する。
(1)カリブから発見された弾丸の証拠価値について
弁護人は,カリブ内から発見されたCを殺害したとされる弾丸は,捜査機関が
A事件の際に使用された弾丸の内の1個を流用し,それがカリブ内から発見され
たかのように偽装工作されたものに過ぎない疑いがあるばかりか,その発見経
緯が不自然であって,同弾丸の証拠価値はないと主張する。
 カリブ車内から発見された弾丸は,38口径程度の回転弾倉式けん銃用の実
包の弾頭部分であって,A事件に使用された弾丸と同種のものであり,かつ同一
のけん銃から発射されたものである。
 ところで,A事件において,Aの死体には,頭部に3か所の射創があり,かつ頭
部内等から複数の金属片が発見されているところ,鑑定書によれば,①左後頭
下部皮下から発見された金属片は,3.7センチメートル×幅最大2.0センチメ
ートルのもの(重量3.85グラム),3.2センチメートル×最大幅1.4センチメー
トルのもの(重量4.10グラム),2.1センチメートル×最大幅1.8センチメート
ルのもの(重量1.67グラム)の3片であり,その重量合計は9.62グラムとなる
こと,②小脳天幕上に発見された金属片は,1.6センチメートル×直径約0.9
センチメートル大で,重量は9.6グラムであること,③第9胸椎の左側の胸膜下
で発見された金属片は,黒色で一部金色の光沢を持ち,条痕を伴う直径約0.9
センチメートルの円柱状のものであり,その重量は9.85グラムであること,①な
いし③の金属片は,いずれも弾丸であることが認められる。
 したがって,A事件で使用された弾丸は,いずれも,同人の頭部等から発見さ
れているといえ,平成7年10月15日,Bが引き当たり捜査中にカリブ内部に入
り,後部座席付近の床上から発見した弾丸が,A殺害に使用された弾丸ではな
いことは明らかである。また,上記のとおり,上記弾丸は,Aの頭部等から発見さ
れた弾丸(片)と同一のけん銃から発射されたものであるが,同けん銃は未だ発
見されていないのであって,捜査機関が同けん銃を使用し,C事件で使用された
弾丸をねつ造する余地はない。そうしてみると,同弾丸の鑑定嘱託書の作成日
付及び同記載の弾丸の発見日時の誤りも,同嘱託書作成者と作成を依頼した
者との意思疎通が不十分なために発生した誤記と認めるのが相当であり,他に
上記弾丸の証拠価値に疑いを生じさせるほどのものはうかがえず,弁護人の上
記主張は理由がない。
  (2)平成6年11月20日午後11時ころ,被告人と被告人のマンションで出会ったなど
とのBの証言について
 弁護人は,Bは,平成6年11月20日午後11時ころ,シビックに乗って帰ってき
た被告人と被告人のマンションで出会い,シビックの荷物の品定めをした旨の証
言をしているが,同証言は,被告人を共犯者として巻き込むための虚偽の供述
であると主張する。
 IとBは,C殺害後の行動について,サングラスの男(ただし,Bはサングラスの
男は被告人と証言する)は,C殺害後,殺害現場からCの鞄を持ってシビックに
乗って立ち去ったこと,その後IとBはカリブに乗りD方に戻ったこと,D方でBが
段ボール箱を数個カリブの後部座席のCの死体の上に乗せたこと,Iはカリブで
喫茶Eに戻ったこと,Iは,Bに電話を掛け,喫茶Eに駐車中のカリブの置き場所
について問い合わせをしたこと,そして三雲のゲームセンター裏(Iの証言)又は
三雲のレーシング場のようなところ(Bの証言)で落ち合ったこと,Iがサングラス
の男についてBについて尋ねたところBは被告人である旨答えたこと,I,B及び
サングラスの男の3名でCの借りていた月極駐車場に行き,サングラスの男がB
MWに乗って立ち去ったこと,IがC方に侵入するためにC方に行ったことなどに
ついて一致する供述をしている。また,Bは,被告人がシビックに乗り込みD倉庫
から出て行く際,被告人はバックして戻ってきて鍵ないかと言い出したので,Bが
Cのポケットから鍵を見付けて被告人に渡した旨供述しているが,Iは,この点に
ついても,サングラスの男は,シビックに乗り一旦発進した後,また止め,Bが渡
した物を受け取り走り去った旨上記Bの供述に沿った証言をしている。
 これに対し,弁護人は,Cの月極駐車場にCの車を取りに行くときに使用した車
両についてIとBではその供述が完全に食い違っていると主張する。
 確かに,Iは,B運転のセンティアで3人がCの月極駐車場へ向かったと供述す
るが,他方でBは,シビックに3人が乗ってCの駐車場へ行ったと思うと供述して
おり,乗っていった車について供述が異なっている。しかしながら,Bは,自分が
センティアでIの後を付いて喫茶Eに行ったか記憶が抜けている,調書のときもそ
の辺の記憶が曖昧である,Iがカリブに乗ってきたか記憶が曖昧であるなどと自
己の記憶が曖昧であることを認める供述をし,さらに,Cの月極駐車場に行った
際のことに関しては,「どの車で三人乗っていったかという問題とか,僕は,あの
日に,Iはシビックに乗って帰ったという記憶がものすごくあったもんで,それを前
提として,その時点で,被告人君がシビックに乗ってこんことには,Iはシビックに
乗って帰れんわけです。だから,それまでは,死体の置いた車,それと,もう一つ
は,僕としては,カリブの置いた場所は,その当時どうしても,僕の記憶の中で
は,ダンボとしか思えんわけです。だから,I君は,そこから動けんわけでしょう。
だから,僕がI君を迎えにいって,ということで,僕は,そういうこととか考えなが
ら,自分の一番納得する方法を,細かい部分に対しては,しました。」と供述して
いる。そうしてみると,弁護人指摘の上記供述の食い違いは,Bの記憶違いによ
るものと判断される上,被告人がC殺害後,D倉庫敷地から,立ち去る際,Cの
鞄やC方の鍵と思われる鍵をBから受け取って立ち去っていること,同月21日及
び22日には,C方にあった半円真珠等の被害品が,SH学園前マンションに運
び込まれているのが確認されていることからすれば,Bが,C殺害現場からD方
に戻り,同所からセンティアで被告人事務所に行ったところ,被告人がいなかっ
たので,しばらく待っていると被告人が段ボール箱を一杯積んだシビックで戻っ
てきので,二人でシビックの荷物を運び入れ,荷物を調べた旨の供述は信用で
きる。よって,弁護人の上記主張は採用できない。
(3)C名義の預金通帳やクレジットカード等の使用について
 ア 被告人は,上記1の(3)の行為について,C名義の預金通帳やクレジットカー
ドは,Bから,債務者の同意のもと取り上げてきたものであると聞かされたこと
から,それを信じ,B又はその代理人の依頼又は承諾に基づき使用したに過
ぎず,いずれにおいても詐欺や窃盗の故意はなかったと主張する。すなわち,
被告人は,①平成6年11月21日,BにC名義の預金口座からの払戻金227
万円を交付する以前に,同人名義のクレジットカードを使用したり,その後もC
やC保子名義の預貯金口座の残高を確認したり,記帳するなどしたのは,上
記のとおり,平成6年11月20日夜,Bから,それらが使用できるかどうかを確
かめて欲しいとの依頼を受け,それらを預かったからである,②C名義の預金
口座から227万円を払い戻したのは,同月21日昼ころ三重県津市のMk前で
会ったBの代理人と称するS2なる人物から依頼されたからである,③上記の
とおり,227万円を払い戻した後,さらにC名義のクレジットカードを使用した
のは,Bから,用を足したことの謝礼やそれまでの借金の利息等の趣旨ある
いは後述のB1に対する慰謝の趣旨で使ってもよいと言われたからであると供
述している。
イ しかしながら,上記①の弁解について,上記2の(2)で述べたとおり,平成6
年11月20日夜,Bが被告人に上記預金通帳やクレジットカード等を預けた旨
の供述には裏付けがない上,仮にBが債務を返済しない債務者から預金通帳
やクレジットカード等を同人の同意のもと取り上げてきて被告人に預けたもの
とするならば,その銀行預金口座に多額の残高があったり,クレジットカードに
より多額の物品を購入することが可能な状態であるということは容易に説明が
つかない。にもかかわらず,被告人はこのことに何らの疑問を抱いた形跡はな
く,この点も,先にA事件において触れたのと同じく,不自然である。
のみならず,仮に被告人が言うとおり,当初はBからクレジットカードが使用
できるか否かの確認をするためにクレジットカードを預かったものとすると,上
記1の(3)アのように,これらを実際に使用して物品を購入等する必要までは
ないはずである。この点につき,被告人は,上記③のとおりの弁解をするが,
Bから,用を足したことの謝礼やそれまでの借金の利息等の趣旨あるいは後
述のB1に対する慰謝の趣旨で使ってもよいと言われたとしても,被告人は,
同月21日以降3日間にクレジットカードを使用して,物品を合計約76万円も
購入しており(他に,洗車費用1600円,キャッシングによる20万円があ
る。),ごく短期間の間に,クレジットカードの使用限度額に近い多額の買物を
し,そればかりか,多額の残高があったC銀行In支店の普通預金口座から
は,やはり預金通帳を入手した翌日に,定期預金担保の貸越分も含めて,限
度額一杯の払戻しを行っているのであって,その使用状況自体不自然である
上,上記Bの用を足してやったことの謝礼や,本件当時,被告人がBに対して
有していたという100万円近い債権の利息としても上記クレジットカードの使
用額は明らかに過大である。
また,上記③に関し,被告人は,C名義のクレジットカードを使用したのは,
BがB1名義で借りていたレンタカーをなかなか返さず,延滞料金がかさんで
いたので,B1に代わってBにその支払いを催促していたところ,同人が「この
Cのカードで勘弁してくれ。」と言って同カードを渡してきたからであるとも弁解
するが,慰謝料を受け取るべきはB1であって,被告人ではないからその説明
自体不自然である上,クレジットカードを用いて高級腕時計を購入して(判示
第3の3(4))B1ではなく弟にプレゼントしたり,金20万円をキャッシングして
取得した(同第3の3(5))ことはB1の慰謝料を受け取る趣旨で行ったもので
ないことは明らかである。
さらに,これらのクレジットカードや預金通帳類等は,Sが逮捕時に所持して
いたものを除いて,被告人が警察に出頭する直前まで所持した上,他の色々
な物と一緒に衣装ケースに入れ,D1に「絶対見やんといて。誰にも分からん
ようにして。」と言って預け,その後,E1方から発見押収されたものであるが,
被告人は,出頭直前まで上記クレジットカードや預金通帳等を所持していたこ
とにつき,CやC子名義の通帳類は,Bからカードや通帳類を記帳するために
一旦預かったが,用が済んだ後にBに返却し,その後再び預かっていたもの
であると説明する。しかし,このように残高が少ない通帳多数をBが被告人に
預けることは,不自然である。
上記②の弁解についても,被告人がMk前で会ってC銀行In支店の普通預
金口座からの払戻しを依頼されたと供述する人物について,被告人は,その
供述を,捜査段階において幾度となく変転させており,その供述が変転した理
由の説明も納得できるものではなく,上記普通預金口座からの払戻しを依頼
された旨の被告人の供述は到底信用できない。
ウ 以上によれば,被告人がこのような行為に及んだのは,Cを殺害して手に入
れた同人名義のGカードやC銀行In支店の普通預金について,被害届等が提
出されて使用不能に陥る前にできるだけ多く換金しておこうと考えたからであ
ると認められ,上記被告人の弁解は到底採用できない。
(4)死体遺棄について
 ア 被告人は,①平成6年11月22日,Krに電話し,ユンボのレンタルの依頼を
し,それをすぐに久居造成地へ運ぶよう指示した上,同日代金5万9740円を
支払ったが,それは,その前日,Bから,同年7月のときと同様,ユンボのレン
タルの手続をすることを頼まれ,翌22日午前11時ころにも,松阪市のFXホテ
ルに呼び出され,再度上記依頼をされたので,同人がバッタ商品か産業廃棄
物を久居造成地に投棄するのにユンボが必要なのだろうと考えたからに過ぎ
ない,②同日,C銀行In支店でSを待っている間,Bから電話でユンボのオペ
レーターの手配を頼まれたことから,Kに電話を掛け,オペレーターの手配を
依頼し,その後Kから穴を掘ったとの連絡があったので,その旨Bに電話をし
て報告したことはあるが,同日,久居造成地には行っておらず,同所で落ち合
ったKに穴を掘らせ,Cの死体を遺棄したようなこともないと弁解する。
イ しかしながら,Bがバッタ商品や産業廃棄物を久居造成地に投棄するために
ユンボのレンタルを依頼したとする被告人の上記①の弁解は,A事件につい
て述べたのと同じく,Bがバッタ商品や産業廃棄物を扱っていたことや同人か
らユンボのレンタルの依頼を受けたことの裏付けがない上,知人の土地であ
る久居造成地に許可を得ることなくバッタ商品や産業廃棄物を投棄する内容
であって,それ自体不自然である。また,被告人は,Krにユンボのレンタルを
正式に依頼する旨架電した後の同月22日昼ころ,Sをファミリアに同乗させ,
Krへ行き,レンタル代金5万円余りを支払ったと供述するが,被告人がKr松
阪営業所にユンボ借り受けの申し込み手続をして代金を支払ったのは,被告
人がいう同年11月22日ではなく,同月21日であるし,被告人と一緒に行った
はずのSは,同日三雲のKrに被告人と行った旨の供述をしていない。被告人
が同月22日午前11時ころ,松阪FXホテルでBと会ったという点についても,
上記のとおり,Bは同日午前8時前ころからIとともにカリブを久居造成地に搬
送し,ユンボの到着を待っていたのであるから,同月22日午前11時ころに,
Bが被告人とFXホテルで会えるはずはない。
ウ 上記②の弁解についても,Kは,被告人からオペレーターの手配を依頼され
たというようなことは述べておらず,かえって,被告人からユンボを操作して穴
を掘ることを依頼され,久居造成地に赴いたところ,やや遅れて被告人が現
れ,同人の指図でユンボを久居造成地に進入させ,その能力一杯の穴を掘ら
された,その後,被告人から,穴を掘った報酬として5万円をもらったが,その
際,穴を掘ったことを口止めされたと供述している。Kと被告人の関係は,上記
第1の2(2)で述べたとおりであって,同人が殊更被告人にとって不利な虚偽
の事実を作り出さなければならないような事情はうかがわれない。さらに,Kに
穴を掘った報酬として5万円を与えたり,穴を掘ったことを口止めしたという被
告人の行動は,オペレーターの手配を依頼しただけであるとする上記の被告
人の弁解②とも符合しない。
のみならず,被告人は,捜査段階において,当初,ユンボの手配をしてやっ
ただけであると述べていたが,その後,Bから依頼されて,Kに穴を掘らせた,
自分も久居造成地に行ったことを自供するに至っている。
被告人は,上記自供をした理由について,警察官から,Kは,被告人と久居
造成地で落ち合い,同人の依頼で同所にユンボで穴を掘ったと供述している
が,Kがうそを言っているのか,(被告人が久居造成地でKに穴を掘らせたこと
を否認するのなら),Kをぱくったろうかなどと言われたことから,「そんな事実
無視するんやったら,好きに書けばええやないか。」と言ったため,上記調書
が作成されてしまったに過ぎない旨述べる。
しかしながら,Kは,C事件には全く関与しておらず,久居造成地に穴を掘る
目的も知らされていなかったものであり,被告人が自己に強盗殺人及び死体
遺棄の嫌疑が掛けられているにもかかわらず,久居造成地に行ったことを認
めないとKを逮捕すると言われただけで,上記捜査段階の供述を行ったという
のは甚だ不自然である。被告人が,A,G及びC各事件をいずれも否認し,取
調べの中でそれらに関する自己の主張や弁解を述べ,それらが供述調書に
録取されていることは明らかである。また,弁護人の平成8年8月28日付け冒
頭陳述においても,被告人は,Kと久居造成地で落ち合い,同人に穴を掘らせ
たとされている。
そうしてみると,Bから依頼されてKに穴を掘らせた,自分も久居造成地に
行った旨の被告人の供述調書の作成経緯に関する被告人の上記主張は到
底採用できない。
エ さらに,被告人は逮捕後,当時の弁護人であったP2弁護士を通じて「Kに対
して穴を掘るよう指示したのはR2である。」旨をD1を通じてR2に伝言させて
いる(上記1の(9)ア)。被告人がいうように久居造成地にBが産業廃棄物等
を無断で投棄したのであれば,その管理人であるR2に産業廃棄物等を不法
投棄した事実が発覚する端緒を与えるものであるから,産業廃棄物等を投棄
するために久居造成地に穴を掘った旨の被告人の供述は信用できない。
 もっとも,この点について被告人は,Kに「あの造成地にごみとかほるのに穴
を掘らせたけど,もう穴がそのままになっていて,R2から,もししかられたら,
おれがやったと言っておけ。」と伝えるよう同弁護人に頼んだら,同弁護士が
その趣旨を理解せず,勘違いした内容を勝手にD1に伝えたため,D1が趣旨
を誤解し,罪証隠滅と疑われる行為をしたのだと思うと弁解する。しかしなが
ら,被告人がKに伝えようとした内容が被告人の弁解のような単純な内容な
ら,同弁護士がその趣旨を誤解したり,伝言役の者や伝言相手を間違えると
は考えにくい。のみならず,D1は,P2弁護士から「久居の造成地の整地をK
に依頼したのはR2である旨同女に伝えて欲しいと被告人が言っている。」旨
聞き,R2と面識があったQ1に電話で同伝言を同女に伝えてもらい,さらに自
分がR2と直接会って話をするなどしたが,自分だけでなくQ1及びR2も被告
人の伝言を理解できず,また,同弁護士も分かっていない様子だった旨を,Q
1も,D1から頼まれて,久居造成地の工事はR2が頼んだことにして欲しいと
の趣旨の被告人からの伝言をR2に電話で伝えた旨を,Kは,Q1かD1,おそ
らくはQ1から,造成地の工事はR2から依頼されたことにしてくれないかとの
被告人の弁護人からの伝言を聞いたが,被告人に穴掘りについて口止めされ
ていたので身に覚えがないととぼけた旨を,B1は,Yから今井を呼んでくれと
言われて呼んだことがあるが,後でKはYから口止めされたと話していた旨を,
それぞれ具体的に供述しており,これらは大筋において相互に矛盾がない。
被告人とD1,Q1,K及びB1との関係から見て同人らが殊更被告人に不利益
な虚偽の事実を作り上げるような事情がうかがわれないのは既に述べたとお
りであって,上記1の(7)ないし(9)記載のとおり,被告人がD1やQ1を介する
などしてC事件に関連した種々の罪証隠滅行為を行っていることと対比し,上
記D1らの各証言等は信用できる。
  以上の各証言等の内容を総合すれば,P2弁護士,D1,Q1,R2のいずれも
が伝言の意味や趣旨をよく理解できなかったにもかかわらず,「久居の造成地
の整地をKに依頼したのはR2である。」という内容の伝言がD1を介し,真っ
先にR2に伝えられているのであって,被告人がP2弁護士に伝えた内容が誤
伝したとは到底考えられない。
そして,被告人の上記弁解は,上記信用できるD1らの証言に反しているば
かりか,被告人は,捜査段階において,Q1に対し,「R2の土地を勝手に使っ
ていたので,元のとおりになっているかどうか,Kにおいて見てきて欲しい。」と
Kに伝言するよう言ったと述べていたのであって,この供述を変遷させたことに
つき何ら説明はない。
オ 以上によれば,被告人の上記アの弁解①②はいずれも採用できない。
(5)印鑑登録証明書の取得及びC名義の委任状の偽造等について
ア 被告人は,小俣町役場で印鑑登録証明書10通を取得したのは,Bから依頼
を受け,同人の説明を信じ,事情を知らず行ったに過ぎない,C銀行In支店を
訪れて積金預金の解約等をしようとしたのは,Sが暴走し勝手に行ったに過ぎ
ず,その際,C名義の委任状を偽造したのも,SがCの代理で来たことを銀行
に信じ込ませようとして行ったものである旨弁解する。
すなわち,被告人は,上記のように平成6年11月22日午前11時頃,Bか
ら松阪のFXホテルに呼び出された際,C銀行In支店にあるC名義の貸金庫か
ら書類を引き出すこと,Cの印鑑登録証明書10通を役場から取得することを
依頼され,これらを承諾し,預金通帳,貸金庫の鍵,印鑑,印鑑登録カード等
在中の黒色バッグを預かった,その際Bから,Cには貸金があるなどと,BがC
銀行In支店にあるC名義の貸金庫から書類を引き出すこと等に正当な権限が
あるかのような説明を受けた,Bと別れた後,同人に依頼されたことを実行し
ようとしたが,前日Sから仕事の世話をして欲しいという依頼を受けていたこ
と,印鑑登録証明書を取得するにはCと同年配であるSの方が都合がよいな
どと考えたことから,SをW事務所に呼び寄せ,小俣町役場で印鑑登録証明
書10通の交付を受け,C銀行In支店を訪れてSに手続をとらせた,しかし,S
からC本人の了解が必要であると報告され,やむなく出直すことにした,同日
夜友人らと松阪市内で飲食中,Bと会ったので,C銀行In支店での状況を報告
するなどしたところ,同人から再度同支店に行くときに必要な貸金庫の鍵,通
帳,印鑑を預かった,同月24日,再びSとともに同支店に向かった,同月22
日のような失敗を避けるため,BにC本人から同支店に連絡を入れるよう依頼
してあったので,同支店に向かう途中,Bに電話をし,Sがその件をBに直接確
認したところ,Cと連絡が取れてないことが分かったので,SがCになりすまし,
同支店に電話を入れることになった,Sは,同月24日午後1時ころ,同支店に
架電し,今から代理の者を行かせる等と連絡したが,昼食中,Cの委任状も作
成しておいた方がよいと言い出したので,Sが持っていた委任状用紙に被告
人が記入等して委任状を作成した(判示第3の5(2))旨供述している。
イ しかしながら,小俣町役場のような公務所に対して,請求者の身分を偽り,印
鑑登録証明書のような権利関係の得喪に必要不可欠な書類を,一度に10通
も取得することや,Bの説明を被告人が何ら疑わず,そのような行為に問題は
ないと考えたというのは不自然である上,C銀行In支店において,C名義の偽
造委任状を行使したり,替え玉による内容虚偽の電話連絡を入れてまで積金
預金口座を解約しようとしたことは,権利者でもないBの依頼によるとか,勝手
に話を進めたSに引きずられたというのでは説明として納得できるものではな
い。また,被告人は,同月24日,C銀行In支店に向かう車内において,Sに対
し,Cは拉致しているから心配ない旨説明しているが,この点は,被告人が当
時,C銀行In支店の積金預金口座を勝手に解約することは違法であるもの
の,そのようなことをしても後日Cから抗議を受けることはあり得ないと考えて
いたことの表れである。
ウ なお,被告人は,以上のような一連の行為は,仕事がなく生活保護を受けて
ようやく生活していたSが,被告人にいいところを見せて仕事にありつこうとし
て勝手に暴走したものであり,被告人も一部それに引きずられてしまった結果
によるなどと弁解するが,Sは,公判廷において,小俣町役場で印鑑登録証明
書10通を取得したり,C銀行In支店を訪れて積金預金の解約等をしようとした
ことには積極的ではなく,躊躇したり,「こういう難しい話はすぐにはできませ
ん。」と被告人に言った旨述べている上,Sは,公判廷で証言したときは,判示
第3の5の犯行について起訴猶予処分を受けていたのであるから,殊更被告
人に不利益な供述をする必要性はない。のみならず,被告人は,C銀行In支
店に赴くSに対し,貸金庫の鍵だけでなく,C名義の通帳や印鑑をも渡してお
り,これは,同人には,貸金庫を開けることを頼んだとの上記被告人の供述と
明らかに符合しない。のみならず,被告人は,捜査段階において,Bから定期
積金の振替えも依頼され,Sにその手続も頼んだ旨述べていたのであって,供
述を変遷させたことにつき,合理的な説明はない。
したがって,これらによれば被告人の上記弁解は採用できない。
(6)D1への衣装ケースの預託について
 ア 被告人は,衣装ケースをD1に預けたのは事実であるが,これは身の回りの
物が入っていたに過ぎず,けん銃やC名義の銀行預金通帳,印鑑等を衣装ケ
ースに入れたようなことはない,また,このような行為に及んだのは,自分が
逮捕された後,携帯電話販売の顧客名簿などが警察に押収されると顧客らに
取調べがなされるなどして迷惑が掛かるから,それを避けるため,衣装ケース
に携帯電話の顧客名簿を入れて渡したに過ぎないなどと弁解する。また,弁
護人は,E1が被告人が使用したけん銃を預かったとしていることには裏付け
がなく,BやE1の供述は,被告人に罪をなすりつけるために行われた虚偽の
ものであると主張する。
イ しかしながら,E1方からは実際に被告人の預金通帳や関係書類の他,C名
義の預金通帳等Cから強取された多数の物品が発見されているところ,Bは,
公判廷において,「(衣装ケースの中には)A,G及びC各事件で使ったけん銃
やジャンバー,Cの書類関係みたいな物が入っていた。」,「けん銃は,一番最
初に被告人から見せられた巾着の袋ではなく,ビニール製の三角定規の入れ
物のような銀色の物に入っていた。ジャンバーは,法廷で見たアルマーニのジ
ャンバーであった。」「E1に対し,靴とジャンバーとけん銃は,さあとなったとき
には,出さないかんで,絶対に残しておいてくれと言った。」旨証言している。ま
た,E1は,平成6年11月終わりか12月初め,Bが名古屋市中区所在の自宅
マンションに来て,しばらく雑談をしていたところ,XかQ2が乳白色でガムテー
プがロックの所に貼ってある衣装ケースを届けてきた,Bは,衣装ケースの中
からC名義の銀行通帳等の書類を出し,担保となるものはないか聞いてきた,
衣装ケースには,ジャンバーやカーナビ及び扇形をした銀色ケースが入って
いた,ジャンバーやカーナビは被告人が以前使っていたのを見たことがある,
Bは,手袋を着用し上記銀色ケースから回転式けん銃を取り出し,「自分が全
部犯行をしたことになっているから,これに,それこそ,被告人さんの指紋が付
いているんだ,これが証拠になるから。」と話し,さらに「俺の話は,正直,在日
朝鮮人だから,警察も聞いてくれんもんで,そういうときは,お前弁護士とか頼
むぞ。」,「警察が来たらちゃんと出してくれよ。」とか,ジャンバーは「硝煙反応
が出るから,これも証拠なんだと。」などと言っていたと上記Bの証言に沿った
証言をしているのであって,これらは具体的で詳細であるばかりでなく,上記
被告人の弁解とは明らかに相反する。
 そこで,上記B及びE1の各証言の信用性が問題となるが,上記のとおり,B
は,被告人とともにA事件,C事件を敢行したことを自認しているとはいえ,被
告人が所持していたけん銃でA及びCを殺害したとも述べており,自己の刑事
責任を軽減したり,第三者の関与を隠ぺいするため,被告人に責任を転嫁し
ようと虚偽の供述をするおそれは否定できず,また,E1とBの関係は上記の
とおりであり,やはり,Bをかばうなどして,虚偽の供述を行うおそれが認めら
れるから,上記B及びE1の各証言の信用性は慎重に吟味されなくてはならな
い。
しかしながら,Bは,上記のとおり,D1からのファックスを受信した結果,被
告人が自分に全ての罪をなすりつけようとしているものと考え,不信感を抱
き,Bが在日朝鮮人であることから,万一自分に嫌疑が及んだ場合には警察
が言い分を十分取り上げてくれないのではないかとおそれて,証拠品が入っ
た衣装ケースをE1に預けたというのであって,このことは,上記ファックス受信
紙が当時Bが居住していたD方から発見されていること(Bは,被告人が自分
に罪を被せようとしていることの証左として,わざと捜索に来た警察官に見え
るところに置いていたと述べている。)や,その記載内容と符合する。また,仮
に衣装ケースの中身が被告人の上記弁解のとおり身の回りの物や営業書類
であるのならば,これを預かったBが上記のようにわざわざE1に預ける必要
性そのものが乏しいと考えられる上,仮に警察に押収されてもD1や被告人に
さしたる不利益はないから,その保管状況をあえて偽る必要はない。にもかか
わらず,被告人は,接見に来たD1に対し,衣装ケースは,Bが借りていたSH
学園前の部屋にあったことにするよう2回にわたって念押ししたり,同女に対
し,「どのようにしてBに衣装ケースを渡したのか,詳しい事情を聞きたい。」と
いう手紙を出しているのであって,これら被告人の行動は,上記被告人の弁
解内容に照らすと極めて不自然である。
ウ また,被告人がこの衣装ケースをD1に預けた状況について,D1は,平成6
年11月24日,WMの事務所で仕事をしていると,被告人が慌てた様子で事
務所に入ってきて,BKの駐車場まで車を出すよう頼んできた,事務所まで自
分の車(ファミリア)で来ているのに,何故私の車で送らせるのか不思議に感
じ,被告人にその理由を聞いたが,被告人は,まあええ,とにかく行ってくれな
どと言うばかりであった,車(プレセア)を出し,上記駐車場まで行ったが,被告
人は,きょろきょろ銀行の方を見るなどしていた,同所付近に警察官らしき者も
いたことから,被告人が何か事件に関わっているのだと思った,事務所に戻っ
てから,一旦外出し,再度事務所に戻ったところ,被告人は,Bに電話で「銀行
に行ったらSさんが捕まったんや。わしも警察に行ってくるぞ。」と話していた,
その後,被告人に付いて同事務所の応接室に行くと,見慣れない半透明の衣
装ケースが置いてあったので,被告人に「何これ。」と尋ねたところ,被告人は
中身のことは答えず,「絶対見やんといて。誰にも分からんようにして。」と言っ
た,そこで,同ケースには,Sが捕まった事件に関係する警察に露見するとま
ずい重要な物が入っていると思い,衣装ケースにガムテープを巻き付けた旨
述べている(同女は被告人の愛人であったから,被告人に殊更不利益な供述
をする理由はなく,この供述部分の信用性は高い。)ことからすれば,かなり緊
迫したものであったことがうかがわれ,実際に,同ケースには,被告人の運転
免許証や現金約20万円までもが入れられていたのであって,被告人が慌た
だしく,衣装ケースに入れるものを十分選別しないで詰め込んだことを裏付け
ている。
エ 以上を総合すると,この衣装ケース内には,A事件やC事件に関し,重要な
証拠となる物が隠匿されていたと考えるのが自然であるし,前述のとおり,E1
方から,C名義の預金通帳やクレジットカード等が多数発見されていることは
その裏付けとなる。
そして,上記第1の1(1)で認定したとおり,被告人は,Wからコルト社製38
口径回転弾倉式けん銃をYに渡すよう託された際,Yの了承を得た上で,それ
を手元において保管し,平成6年8月ころには,その弾丸の入手を試みるなど
しているが,そのけん銃が本件各犯行で使用されたけん銃でないとすればそ
の処分先は明らかになっていないこと,上記第1の2(1)で認定したとおり,被
告人は,警察に出頭する直前,Yに電話で「Wから預かっている物について,
ちゃんとしてある。」とWから預かったけん銃が警察に発見されないように隠ぺ
いした旨伝えていること,Cから強取した他の物品についても上記1の(7)な
いし(9)記載のとおりの隠ぺい工作を行っていること,上記のB及びE1の各
証言は詳細かつ具体的であって,衣装ケースに入っていた金品等の内容やけ
ん銃を入れていたケースの形状等につき相互に矛盾がないことをも併せ考慮
すれば,本件衣装ケース内にけん銃を含む,C事件の証拠となるべき物品が
隠匿されていたとする上記B及びE1の各証言の信用性は高いと言える。
オ なお,Bは,捜査段階において,G事件に使用したけん銃は,自分で所持し
ていた25口径の自動式けん銃であり,それは,津の港に行き,堤防から投げ
捨てたとか,衣装ケースをE1に預けた際,同人にけん銃は見せていないなど
上記公判証言と齟齬する供述をしていたことがある。しかしながら,同人は捜
査段階の供述を変遷させた理由につき,G事件で使用したけん銃について追
求を受けたものの,その時点でA事件とC事件は明るみに出ていなかったの
で,上記各事件で使用し,被告人から預かったけん銃のことは隠し通せると思
って嘘を付いたが,(警察から)それでは,津港に潜ってけん銃を探さなくては
ならないと言われ,本当のことを話した,E1にけん銃を見せたかどうかについ
ては,E1がけん銃の預かりを否認しており,自分が同人の所に持ち込んだけ
ん銃等の件で同人に迷惑を掛けるわけにいかないから,同人の調書に沿うよ
うに供述したと説明しているのであって,これらはそれなりに首肯できる説明で
あるから,同人が上記のとおり捜査段階において公判供述とは異なる内容の
供述をしていることが,同人の公判供述の信用性を減殺するものとはいえな
い。 
 また,E1が預かったとされるけん銃は,平成7年9月22日のE1方での捜索
差押えにおいて発見されておらず,その後も未発見のままとなっているとこ
ろ,同人は,平成6年12月末の大掃除の際,けん銃をビニール袋に入れ,マ
ンションのゴミ集積所に捨てたと述べたり,名古屋市瑞穂区の実家に移して保
管していたが,平成7年10月14日に釈放されて1週間位して,伊良湖の方の
海に捨てたと述べたり,このことは嘘で,やはり前の供述が正しいと述べたりし
て,言を左右にしており,このように供述を変遷させた理由についても納得で
きる説明をしていないが,これらの証言態度や内容,同人が暴力団とつながり
を持つ者であること等を考慮すると,結局,同人は,上記けん銃を遺棄せず,
第三者に譲渡したり預けるなどした可能性が高いと考えられ,その事実を秘
すため,不自然に供述を変遷させたり,曖昧な証言を繰り返しているものと推
量される。そうしてみると,E1の供述に上記のとおりの変遷があるとしても,そ
のことから直ちに同人がBからけん銃を預かったことが否定されるわけではな
い。
その他,弁護人は,上記B及びE1の各証言の信用性について,細部で両
者の証言内容に齟齬が見られることや,E1がBから被告人がC事件に関与し
たことを示す重要な証拠としてけん銃等を預かったとしているのに,それらの
扱いがぞんざいであることなどを指摘して,上記B及びE1の各証言の信用性
には疑問がある等と主張するが,これらは単なる記憶違いや両名の証拠に対
する意識の差に起因するものと認められるのであるし,むしろ両名の供述は
大筋においては一致していると認められるから,弁護人指摘の事由があるか
らといって,両名の証言全体の信用性までが大幅に減殺されるとはいえない。
カ 以上によれば,衣装ケースに関する被告人の上記弁解は到底信用できない
し,弁護人の主張も採用できない。
(7)Cから強取した車両の隠ぺい工作について
 ア 被告人は,上記1の(7)イ記載の事実につき,①BMW紺色の保管ないし処
分をB1に依頼したことはなく,同人が借りたレンタカーをBが使用し,返還しな
いと聞いたことから,B1に対し,Bが関係するBMWであるが,同人と交渉し
て,BMWと引き替えにレンタカーの返却を受けてはどうかと言ったことがある
に過ぎない,②クラウン白色についても,Jに同車を保管しておくよう伝えたの
は事実であるが,これは,金融物で名義が変えられるというクラウンをBから
無償で譲り受け,それをさらにJに譲り渡していたところ,出頭の際,同車もB
が起こした何らかの事件に関連したものであるかもしれないと考え,事情がは
っきりするまで人に預けておかないとやばいと思い,Q1に対し,事情が分かる
まで同車を保管するようJに伝えて欲しいと頼んだに過ぎないと弁解する。
イ しかしながら,B1やJは被告人から,上記1の(7)イの内容の連絡を受けた
だけであって,その他にBMW紺色がBのものであるとか,クラウン白色は事
情が明らかになるまで保管しておいて欲しいなどと言われたことはないという
のであり,同人らと被告人との関係からすれば,同人らが被告人に故意に不
利益な供述をするとは考えられない。のみならず,仮に被告人の弁解のとおり
であったとすれば,現にBMW紺色を預かったB1や,Jからクラウン白色を引
き取ったQ1が,D1とともに,これらの車両を,ナンバーを取り外すなどした上
で深夜ひそかに廃車置場に隠匿放置した事実は説明できない。よって,被告
人の弁解は採用できない。
(8)ファックスによるBへの口裏合わせについて
 ア 被告人は,上記1の(8)イ記載の事実につき,D1がBに送信したファックス用
紙に記載されたような話をP2弁護士にしたのは事実であるが,それをD1やB
に伝えるように同弁護士に依頼したことはなく,同弁護士が,勘違いするかな
にかで書き取りをD1に渡し,結果的に,同女が自己の判断で罪証隠滅と疑わ
れるような行為に及んでしまったのに過ぎないと弁解する。
イ しかしながら,D1は,被告人と接見したP2弁護士が被告人の供述内容とし
てメモを示し,その内容を被告人がA1(B)に伝えて欲しいと言っていると述べ
た,同弁護士はその内容が分かっていなかったようであった,自分もメモを見
たが,被告人が何を言いたいのか分からなかった,しかし,被告人を助けたい
一心でメモの内容をBに伝えなければと考え,確実にメモの内容をBに伝える
ためファックス送信したと供述しており,この供述はQ1の証言により裏付けら
れている。上記D1とQ1の供述内容は具体的である上,相互に矛盾がなく,
同人らが殊更被告人に不利益な事実を作り上げて虚偽の供述をするような事
情がうかがわれないし,弁護人が被告人から聴取した内容を書き記したもの
を第三者に伝えるよう勘違いするということは通常考えられないこと等を併せ
考えると,上記D1及びQ1の証言等は信用できる。また,上記ファックスを見
たBが,被告人がC名義の預金引き下ろしの実際の経緯と全く異なる筋書きを
作っており,自分に責任転嫁をしようとしているとして腹を立てたことは多数の
関係者の一致した供述により裏付けられているのであるから,Bは,C名義の
預金引き下ろしの経緯等につき,上記メモに記載された被告人の筋書きのよ
うな認識を持っていなかったことは明らかである。ちなみに,上記ファックスに
は,CからBの貸金を回収した者としてS2の名が見られるが,被告人はC事
件における預金引き下ろしはS2から頼まれたとも供述しているところ,S2と
いう男から依頼されたことの裏付けはなく,かつ,Bは,「被告人は,出頭する
前,誰か逃げていなくなった人はいないか,と聞いてきたので,金を借りたまま
逃げていなくなったS2稔という者の名を教えた。」旨の証言をしていることから
すれば,被告人は,Bから失踪者や行方不明者の氏名を聞き出し,その人物
がC名義の預金引き出しの関係者であるとして,同人物に責任転嫁をしようと
したこと及びその口裏合わせをBに対して図ったことが推量される。
ウ 以上を総合すると被告人は自己の罪を免れるため,虚偽の筋書きをBに伝
え,口裏合わせを図ったものと認められるから,被告人の上記の弁解は採用
できない。
(9)R1への口止め工作について
 ア 被告人は,上記1の(9)イ記載の事実につき,D1に対し,R1への伝言を依
頼したことはあるが,それは,同人に対し,Bが持ち込んだバッタ商品を見せ
たことがあったので,その件で同人に迷惑が掛かるといけないと考え,忘れる
ようにとの伝言を依頼したに過ぎない,などと弁解する。
イ しかしながら,D1は,被告人と接見した際,同人が立会の警察官の目を盗んで
途切れ途切れに,R1のところに行って,渡してあるものを預かり,同人に口止め
して欲しいと頼んできたので,R1から真珠のネックレス未完成品10本位を受け
取り,それらは後にゴミとして処分した旨述べているところ,R1も,公判廷におい
て,上記D1供述に沿った証言をしている。D1とR1の上記各証言は相互に矛盾
がないし,被告人とD1との関係は既に述べたとおりのもの,R1と被告人の関係
は,平成6年春ころ,不動産取引に関連して知り合ってから同郷だったこともあっ
て,以後親しく付き合うようになっていたものであって,現に被告人から真珠の鑑
定及び売却を依頼されるなどしていたのであるから,いずれにおいても殊更被告
人に不利益な虚偽の事実をねつ造するような事情はうかがわれない。そして,上
記のとおり,被告人は,警察に出頭する際,B1にCから強取した真珠の廃棄を
依頼しているほか,種々の罪証隠滅行為を行っていることをも併せ見れば,上記
D1証言は信用できる。
ウ なお,D1は,公判廷において,今思えば,R1に口止めしたのは自分の判断
であるとも証言しているが,被告人からR1に対する口止めを依頼されたことを
認めている同女の捜査段階における供述があり,この供述を変遷させた理由
について十分な説明がないことを併せ考えると,同女の上記公判証言は被告
人をかばうためになされたものに過ぎないと思料され,信用できない。
エ してみると,被告人の上記弁解は,上記信用できるD1の証言に反している
こと,Bがバッタ商品を扱っていたというのは被告人だけが供述しており,Bの
関係者らは,そのような供述はしていないし,そもそもバッタ商品を見せたこと
があるだけなら,勾留中にD1を介し,わざわざR1に伝言する必要はないこと
から見て,被告人の上記弁解は信用できない。
(10)B及びIの各証言の信用性について
ア 弁護人は,B証言について,既に述べた諸点を指摘するなどした上,同人の
証言は客観的事実と符合しないし,同人が証言するところの同人及び被告人
の行動には,あまりに不審な点が多いのであって,Bは,真実の共犯者をか
ばう目的で,当該共犯者と被告人とをすり替えて供述している可能性が非常
に高く,同人の証言の信用性はない,BからC事件をともに起こしたサングラス
の男は,被告人であると聞いた旨のI証言についても,Bは,真実の共犯者を
かばうため,あえて被告人の名前を出し,責任転嫁を図ったに過ぎず,上記I
証言があるからといって,被告人の犯人性が認められるわけではないと主張
する。
これまで述べたとおり,Bは,C事件を起こしたことを自供するとともに,同事
件への被告人の関与や役割を詳細に述べているが,弁護人の指摘のとおり,
Bが自己の刑事責任を軽減するため,あるいは,犯行に関与した他の者をか
ばうため,罪のない第三者に責任を被せたり,責任を転嫁しようとする可能性
は否定できないから,同人の供述の信用性の吟味が慎重になされなくてはな
らないのはいうまでもない。
しかしながら,被告人が捜査段階及び公判廷において,るる述べるところ
は,既に述べたとおり客観的に認定される事実と明らかに符合せず,不自然
である上,被告人は,客観的に認定される自己の本件各犯行への関与を表す
各行為を行った理由,動機等につき,何ら合理的な説明ができておらず,その
供述に信用性が認められない一方,Bの証言は,上記のとおり,大筋におい
て,信用できる各関係者らの証言供述に一致しているし,被告人のけん銃の
所持や,同人によるC名義の預金の引き出しや文書の偽造,Cの自動車やク
レジットカード等の所持・使用,久居造成地における穴掘りのための機材や人
材の確保及びその実行といった上記認定される客観的事実とも符合する。
イ また,Iは,平成4年か5年ころ,ゲームソフトを海外に輸出しようと考えていた
際,その仕入れ先として被告人を紹介されたが,輸出の話が立ち消えとなった
ため,その後,被告人とは,レストラン等で見かけた際,挨拶を交わした位で,
特に交際はなかった者で,かつ,C事件においても,C方を被告人らに案内
し,Cをおびき出し,その死体を運搬したり,同人使用にかかる車の強取に同
道するなどの役割を果たしているが,同人に対する暴行,殺害行為は行って
いないし,財物強取行為もほとんど関与しておらず,また,平成11年5月19
日以降行われたIに対する証人尋問の際,同人に対する強盗殺人,死体遺棄
等の刑は,既に確定していたのであって,同人が殊更,虚偽の供述をして,被
告人をC事件に巻き込んだり,責任転嫁を図るような事情はうかがわれない。
そして,Iは,当初,サングラスを着用した男が被告人であったと気付いてい
なかったが,サングラスの男とBMWを奪うため月極駐車場に向かった際,サ
ングラスの男が誰だか気になっていたことから,Bに同人が誰なのかを聞いた
ところ,Bから「あれ,ふくろうの(被告人)ちゃんやないか。」と言われた,すぐ
に答えが返ってきた,お前知らなかったのかというニュアンスだった,後ろ姿を
見た感じと,私の知っているふくろうの被告人さんとで,別に違和感はなかった
旨証言しているところ,Bも,被告人は,自己がC事件に関与していることはIに
気付かせまいと考え,Iとの直接の接触を避け,同人の面前ではサングラスを
着用して人相を隠すなどしていたが,C殺害後,Iに「(サングラスの男が)誰
か。」と聞かれ,「(被告人)ちゃんだ。」という言い方で答えた,Iの反応は,「別
に驚きも。どっちかと言えば,ああ,やっぱりそうかと。要するに確認したという
ふうな,否定が何もなかった。ええっとか,本当かとか,そういうことは絶対に
ない。」というものであったと,上記I証言と符合する証言をしている。
また,Bは,平成6年11月22日,IとともにカリブでCの死体を久居造成地
に運搬し,同所でユンボや被告人の到着を待つ間,Iに対し,「実は,前にも同
じような事件があったんだ,そのときも,あいつ(被告人)は,いきなり撃ち殺し
たんだ。」「(久居造成地で,他と地面の色が違うところを指して)これ,色が違
うだろう,ここへAさんの事件のときに埋めたんだぞ。」と話した旨の証言をす
るところ,Iも,同日,久居造成地で,ユンボや被告人の到着を待つ間にBか
ら,「以前にもう一人殺している,それも,ここに埋まっている。」と言われ,埋ま
っているところへ歩いて行って,「大体この辺だ。」と聞いたと上記Bの証言に
沿った供述をしている。また,Iは,そのころ,Bから「Cさんの場合は身体が小
さいので1発でいったけど,前のときは,身体が大きかったので,確か,3発と
言ったと思うんですけど,1発ではいかなかった。」とか,Cの自動車を強取し
た後の車内かどこかで,Bから,「被告人が昔,自衛隊のレンジャー部隊にい
た経験があり,前に鈴鹿で事件を起こして,そのときも被告人が撃った。」と聞
いた旨も証言している。
以上によれば,Cを殺害した後,Bは,Iに対し,サングラスの男が被告人で
あること,被告人とともにA事件を起こしてその死体を同じ久居造成地に埋め
ていることを告げたことが認められる。
しかるに,C事件の嫌疑が掛かる前どころか,Cをおびき出す前の段階か
ら,被告人以外の第三者の共犯者に嫌疑がかかることを懸念して,被告人を
その身代わりとすることとし,共犯者にサングラスを着用させ,Iに人相が分か
らないようにするということは,それ自体不自然である。また,未だA事件もC
の殺害等も全く発覚しておらず,これから久居造成地にCの死体を遺棄,隠ぺ
いしようという段階で,A及びC事件が発覚した場合に備え,BがIからサングラ
スの男が誰か尋ねられた際,躊躇することなく,被告人である旨答え,しかも,
Iが知らなかったA事件及び同事件に対する自己の関与をIに打ち明け,自己
の刑事責任を重くしてまで,C事件ばかりかA事件に関しても,被告人以外の
共犯者をかばったと解することは困難である。しかも,Iにサングラスの男が被
告人であると告げた際,Bは,久居造成地で共犯者にCの死体を引き渡し,こ
れを遺棄してもらおうと考え,同所でユンボやその共犯者の到着を待っていた
のであって,そのような段階で,共犯者をかばうためIにサングラスの男は被告
人であると告げてしまえば,その後,Iがサングラスの男が被告人ではないこと
に気が付きかねず,これもやはり不自然である。
とすると,Bが被告人とともにA事件を起こし,またサングラスの男が被告人
であったからこそ,Iに対し,上記のような会話をしたと認められる。
ウ そうしてみると,C事件を被告人とともに行ったとのB及びIの各証言は,上記
のような,C事件の際,移動に用いた自動車の種類等に関し,供述の齟齬が
あったとしても,なお,その骨子において,十分な信用性が認められる。
3 アリバイ主張に対する判断
(1)犯行当日夕方,被告人は知人らと会っていたとの主張について
  弁護人は,平成6年11月20日夕方ころ,知人のT2とU2がW事務所に遊びに
来たので,被告人が同人らと事務所にいたところ,同日午後6時以降になって,
同所をBが訪れ,債務者から取り上げてきたものであるとして,C名義の通帳類
の記帳やカード類が使えるかどうかの確認及び,BMWを一時保管することの依
頼をされた,また,被告人は,平成6年11月20日深夜からは,松阪市内のうど
ん店で知人のV2と新しく開店するゲームセンター「Pd」の打ち合わせなどをして
いたから,被告人にはCを殺害等したとされる当夜のアリバイが成立する旨主張
し,被告人もこれに沿う供述をする(ただし,捜査段階の調書には,単にBが訪れ
た旨しか記載がない。)。
 確かに,T2とU2は,同月ころに被告人の事務所を訪れたことがあり,被告人
の事務所に午後7時から9時までの間に訪れ,1時間程度いて退去した旨供述
する。そうすると,被告人が供述する,Bが訪問したとする午後8時ころにはT2
やU2がW事務所にいたとしても必ずしもおかしくない。しかし,C殺害の時刻が
午後8時ころであることは,B及びIの供述等によって明らかである上,BはC殺
害後もIと喫茶Eまで行動を共にしていたのであるから,Bが,T2やU2がW事務
所にいる時間帯に,同事務所を訪問することはできない。その上,T2やU2が,
上記のとおり,同事務所を訪問した日が,同月20日であったことを認める証拠
はないから,同人らが同事務所を訪問したことは,同日の被告人のアリバイとは
ならない。また,被告人は,同日の夜,V2と打ち合わせをした旨供述するが,こ
れを裏付ける証拠はない。したがって,この点でも,被告人には当夜のアリバイ
は成立しない。
 なお,仮に,被告人がBの訪問を受けた時刻に関する記憶等を誤っていて,B
はもっと後に被告人の事務所を訪問したものと仮定した場合,上記認定のとお
り,Cを殺害した後,BとIは一旦D方に戻るなどしているから,Bが被告人の事務
所を訪れることができるのは同日深夜になってしまい,被告人の供述に反する
し,T2やU2が事務所にいる時刻にBが訪れることは困難である。
(2)久居造成地での死体遺棄行為の可能性について
  弁護人は,W事務所から久居造成地までの所要時間や,ユンボでの穴掘り及
び埋め戻し作業に要する時間を考慮すれば,被告人が平成6年11月22日午後
2時四十五,六分ころ,C銀行In支店を出てきたSを車に乗せて,被告人の自宅
に行き,同所に駐車した自動車から被告人の上着を取り出すなどしてから,W事
務所に行き,同所でSにたこ焼きを買って与えた上,Bに架電した同日午後3時5
9分ころ,あるいはユンボが久居造成地から引き上げられた同日午後4時10分
ころまでの間に,久居造成地に行って同所でKにユンボで穴を掘らせた上,その
穴に死体を遺棄し,埋め戻すという作業を行うのは時間的に不可能であるか極
めて困難であるから,Kが供述するように「被告人と同日午後3時に久居造成地
で待ち合わせをし,同日午後3時前,同所に赴き,その5分か10分後に同所に
現れた被告人から指示され,同所にユンボで穴を掘った」ことはありえず,仮にK
が穴を掘ったのが事実であるとしても,それは被告人以外の者の指示により行っ
たというほかないのであって,Kの上記供述は信用できないと主張する。そこで
以下検討する。
 ア まず,Sは,同日午後2時36分,同支店において,応接室を退出し,同支店
出入口方向に向かっているところを撮影されており,また,被告人は,Sが中
京同支店において,Cの定期預金の解約の申し出をしている間,Sがなかなか
出てこないため同支店に電話をし,電話に出たSに対し,「時間がないから,
後日にして,打ち切ってくれ。」などと指示するなど,急いでいた様子がうかが
われるから,被告人は,Sが同支店を出た同日午後2時36分の直後,同人と
ともに同支店を出発し,W事務所に向かい,途中自宅に立ち寄り,自宅前駐
車場に止めてあったBMW紺色から背広を取り出し,W事務所でSに報酬を与
えて分かれ,直ちに久居造成地に向かったものと考えられる。そうすると,C銀
行In支店からW事務所までの所要時間は約20分(ただし自宅に立ち寄る時
間は含まないが,自宅へは経路を僅かにそれるだけであるから,合計数分程
度しか余計にかからない。),W事務所から久居造成地までの所要時間は約
27分から40分(ただし,最短所要時間の経路は伊勢自動車道を経由するも
ので,松阪市から久居市へ行くのに迂回コースとなり,一般的とはいえないか
ら,これを除外するならば最短所要時間は約35分となる。)であるから,被告
人は久居造成地に同日午後3時30分過ぎころに着くことができる。
また,Kが掘削した穴の大きさは横1.5メートル,縦2メートル,深さ4メート
ル近くというのであるが,検察官がした実験の結果では,本件造成地の近傍
地において幅2.1メートル,長さ3.8メートル,深さ3.7メートル(最深部)の
大きさの穴を,本件と同型ではないが同規格のユンボを用いて専門家ではな
いオペレーターが操作して掘削するのに要した時間は,掘削するのに約13分
30秒,埋め戻すのに約13分を要したものとされる。したがって,その半分にも
満たない程度の土砂量を掘削したり埋め戻したと認められる本件では,Kが
掘削し,A事件の際ユンボを操作した経験を有するだけの被告人でも埋め戻
すのに検察官の実験で必要とした時間よりも短時間で済んだものと考えられ
る。そうすると,被告人がBに架電した時刻である同日午後3時59分ころには
Cの死体を埋没し終わり,ユンボが引き上げられた同日午後4時10分ころま
でに,久居造成地から立ち去ることは可能である。
イ ところで,弁護人は,被告人はW事務所に着いてからSにたこ焼きを食べさ
せてやったから,更に数分程度余計にかかっていると主張する。また,Sは,
公判廷において,被告人がW事務所に行く途中,どこかの建物に立ち寄り,B
MWから上着を取った際,建物の中に入っていないかとの弁護人からの尋問
に対し,「建物に入ったような気がします。(建物の中にいた時間は)ものの
五,六分くらいでしょう。」と証言している。
しかし,Sは,建物の中に被告人が五,六分入っていたことも公判における
反対尋問において,初めて述べたもので,かつ,上記弁護人の質問の直前
に,弁護人が同様の質問をした際でさえも,被告人が建物に入ったことを否定
していた。また,W事務所についてからたこ焼きを食べたことは,Sが公判廷に
おける反対尋問において初めて述べたことであって,捜査段階における同人
はその旨の供述をしていないし,当時の捜査官がSから聞き落としたとは考え
られない。
被告人も捜査段階において,たこ焼きをSに食べさせた旨の供述をしていな
かったのに,Sは上記のとおり,事件から3年近く経った平成10年9月30日の
公判において突然供述したものである。そうしてみると,これらのSの供述部
分は信用できない。
ウ 以上によれば,Kが真実は被告人と久居造成地で出会っていないのに出会
ったと記憶違いをしていたとは考えられないし,上記のとおりのKと被告人との
関係を考慮すれば,Kが,故意に被告人に不利益な供述をしたとは考えられ
ないから,Kが久居造成地で被告人の指示を受けて穴を掘ったという供述が
虚偽であるとの弁護人の主張は採用できない。
4 弁護人,被告人は,その他るる主張するがいずれも理由がない。
(法令の適用)
(以下「刑法」は,いずれも「平成7年法律第91号による改正前の刑法」を指す。)
 罰条
  判示第1の1及び第3の1の各所為 いずれも刑法60条,240条後段
  判示第1の2及び第3の3の各所為 
    各有印私文書偽造の点 いずれも刑法60条,159条1項
    各偽造有印私文書行使の点 
             いずれも同60条,161条1項,159条1項
    各詐欺の点    いずれも同法60条,246条1項
  判示第1の3及び第3の2の各所為 いずれも刑法60条,190条
判示第2の所為 刑法60条,249条1項
判示第3の4(1)の所為 刑法246条
判示第3の4(2)ないし(4)及び(6)の各所為 いずれも刑法246条1項
判示第3の4(5)の所為 刑法235条
判示第3の5の各所為 
    各有印私文書偽造の点 いずれも刑法60条,159条1項
    各偽造有印私文書行使の点 
             いずれも同60条,161条1項,159条1項
 科刑上一罪の処理
  判示第1の2及び第3の3の各罪につき
            いずれも刑法54条1項後段,10条(各有印私文書偽造,各同行
使,各詐欺との間にはそれぞれ手段結果の関係があるの
で,いずれも1罪として最も重い詐欺罪の刑で処断,ただ
し,いずれも短期は偽造有印私文書行使罪の刑のそれに
よる。)
  判示第3の5の各罪につき
            いずれも刑法54条1項後段,10条(各有印私文書偽造,各同行使
との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,いずれ
も1罪として犯情の重い偽造有印私文書行使罪の刑で処
断。)
 刑種の選択      判示第1の1及び第3の1の各罪につき,いずれも死刑を選択
 併合罪加重      刑法45条前段,46条1項本文,10条(刑及び犯情の最も重い
判示第1の1の罪につき,被告人を死刑に処し,他の刑を
科さない。)
 押収してある別紙還付物目録1記載の物の還付
いずれも刑訴法347条1項(いずれも判示第1の1の罪の
賍物)
 押収してある別紙還付物目録2記載の物の還付  
            いずれも刑訴法347条1項(いずれも判示第3の1の罪の賍物)
訴訟費用の不負担  刑訴法181条1項ただし書
(法令の適用に関する補足説明)
 上記罪となるべき事実の第3の4(1)の事実につき,検察官は,同記載のガソリンスタ
ンドにおいて,ガソリンを騙取した点は1項詐欺罪に該当するもの(平成7年12月19日
付起訴状記載の第二の一の別表番号一の公訴事実),同ガソリンスタンドにおいて,洗
車サービスを受けた点は2項詐欺罪に該当するもの(上記起訴状記載の第二の二の公
訴事実)とし,以上を併合罪として起訴しているが,被告人は,上記ガソリンスタンドを訪
れた日の同時刻ころ,C本人を装って,ガソリンの購入と洗車の申し込みをしたものであ
るから,一個の故意に基づくものと評価されるし,伝票がガソリン購入と洗車サービスと
の2通に分かれているのは,ガソリンスタンド側の事務取扱上の理由に基づくものと思
われるから,以上の被告人の行為は,全体として刑法246条に該当し,同条の詐欺罪
1罪が成立するにとどまるものと解するのが相当である。
(量刑の理由)
1 本件各犯行は,わずか4か月程の間に,金を得るために落ち度のない被害者2名を
射殺して,かけがえのない生命を次々に奪った上,予定どおり金品を強取した強盗殺
人2件,その死体を隠ぺい,遺棄した死体遺棄2件,強取品を用いるなどして私文書
を偽造したり,それらを用いて金品を詐取あるいは窃取した有印私文書偽造・同行
使・詐欺2件,詐欺5件,窃盗1件,有印私文書偽造・同行使2件,上記2件の強盗殺
人の間にけん銃様のものを用いて行った恐喝1件の事案である。
2 被告人の経歴等について 
被告人は,昭和35年4月10日,三重県度会郡において,C2とW2の長男として出
生し,地元の高校を卒業した後の昭和54年4月から昭和57年4月まで自衛官として
勤務し,その後,家業の家電製品製造業を手伝う傍ら,ゲームソフトの販売店や喫茶
店の経営に携わっており,昭和62年,D1S1と婚姻し,平成2年,同女とともに三重
県松阪市に転居してからは,家業の家電製品製造業から離れ,平成5年6月には,
被告人の住居地に転居し,以後,同所で妻S1とともに生活し,平成5年9月ころか
ら,墓地分譲販売を手がけ,また,平成6年3月には「株式会社Fu」を設立し,以後,
その経営状態は必ずしも明らかではないものの,実弟のQ1とともにあるいは単独で
ゲームソフトの販売,ゲームセンターの経営,ビル不動産の管理等も行っていたが,
Bらと共謀するなどして,平成6年7月A事件を,同年10月G事件を,同年11月C事
件を起こしたものである。
3(1)A事件について
 被告人は,共犯者とともに,被告人が預かっていた殺傷能力の極めて高いけん
銃を使用してAを殺害し,金品を強取することを企て,Aの注意をそらすためにBと
雑談させ,その隙に,被告人がAに近付き,至近距離からいきなりその頭部目掛け
てけん銃を発射して左後頭下部に命中させ,それでも同人が死亡しないと見るや,
ためらいもなく同人が死亡するまでその頭部を狙って,2発目,3発目を発射してい
ずれも命中させ,同人を殺害している。被告人は,A殺害後,同人が目の前で死ん
でいったのを見ながら,動じることもなく,直ちにその現場でBMWを同車に積まれ
ていた預金通帳等が入ったアタッシュケースとともに強取し,死体を埋没させて遺
棄するための穴掘りを依頼するために知人に電話をしたところ,相手の都合が付
かなかったことから,直ちに強取した通帳等を利用して銀行から1000万円を詐取
し,その後被告人が掘削機を手配して情を知らない知人に穴を掘らせて判示のと
おりAの死体を埋没させて遺棄した。
 このように,殺害方法は,誠に冷酷かつ残虐であって執拗である。
 また,被告人らは,Aが2000万円位の金を持っている等のBの情報を基に,Aに
対する強盗殺人を企て,保険代理店を営むAの営業成績を被告人が確認するなど
した上,Aと顔見知りであるBが被告人を保険契約加入希望者であると偽ってAに
紹介し,同人方マンションに入り込み,同所で同人を殺害しようとしたが,同人に来
客があることを知ったことから,同所での殺害は断念したものの,同人に対する強
盗殺人自体は諦めず,同人から会食を提案されたのを奇貨とし,他所で同人を殺
害することとし,同人を待つ間に探し出した本件殺害現場まで同人をおびき出し,
計画どおり,BがAを同所に駐車した自動車内に連れ込んで雑談をし,その気を逸
らしている隙に,同所で不動産を見分しているように装っていた被告人がAに気付
かれないようにその背後から近付き,いきなり同人を射殺しているのであって,上
記犯行は,巧妙かつ計画的でもある。
(2)C事件について
 被告人及びBは,G事件から1か月も経過していないのに,IからCが五,六千万
円位持っているのではないかと聞き及んだことなどから,Cを良く知るIを共犯とし
て,A事件で使用したけん銃を使用してCを殺害し,金品を強取することを企て,Iを
案内役としてC方に赴き,殺害後の金品強取の下調べをしたり,Cのおびき出し
役,襲撃役,射殺役,同人方の物色役等の役割を分担し,緊縛に用いるガムテー
プを準備した上,あらかじめ探しておいた人目に付かない殺害現場にIがCをおびき
出し,残っていた1発の弾丸でCを確実に殺害するために,事前の計画どおり,被
告人とBがCに強度の暴行を加え,ガムテープをその頭部に何重にも巻き付けて口
を塞ぎ,両手を後ろ手に縛り,抵抗を完全に封じた上,同人を自動車に押し込み,
被告人が至近距離からCの頭部目掛けてけん銃を発射して命中させ,同人を射殺
している。そして,同人の死体を遺棄するため,A事件と同様に被告人が掘削機を
手配して情を知らない知人に穴を掘らせて判示のとおりCの死体を埋没させて遺棄
した。
 このように,C事件も,巧妙かつ計画的な犯行であって,殺害方法は,誠に冷酷
かつ残虐である。
 また,被告人は,Cを殺害後,直ちに同人の鞄や鍵を持って同人方に行って室内
を物色し,真珠等を強取し,翌日にはCの使用していた普通乗用自動車であるBM
Wやトヨタクラウンを強取している。さらに,被告人は,強取した預金通帳等を使用
して,C名義の預金227万円を引き出し,クレジットカードをほぼ使用限度額まで使
うなど短期間に徹底した領得行為を行ったばかりか,同人の定期積金の解約を目
論み,印鑑登録証明書を10通も取得し,さらなる領得行為を画策していたことがう
かがえ,誠に貪欲かつ悪らつである。
(3)これらの行為からすれば,各強盗殺人事件における被告人らの確定的かつ強固
な犯意が認められ,上記各犯行は,偶発的な事情から予期に反して殺害するに至
った事案とは全く異質の残忍かつ無慈悲な凶行である。
(4)各死体遺棄の態様としても,当面開発予定がなく,人目に付きにくい久居造成地
を死体の遺棄場所として選び,掘削機及び穴掘り要員を準備,確保し,久居造成
地に地中深く掘らせた穴に各死体を投げ棄てた上,埋め戻し,そのまま放置したと
いう大がかりなものであって,死体を完全に隠滅し,A事件及びC事件を完全犯罪
とすることを目論んでおり,非情であって,巧妙かつ悪質である。
(5)G事件について
 被告人らは,A事件によって,多額の現金等を得たのに,それから3か月余りで,
さらにGから金を得ようと考え,GがBを避け,会おうとしないことから,Bの知人のN
1がG事務所を訪れる予定であったことを利用し,同人を手引き役としてG事務所に
入り込むことを企て,その計画通りに被告人とBが同事務所に押し入り,暴力団構
成員を装った被告人がGに対し,有無を言わさず,いきなりけん銃様のものを突き
付け,Bとともに仲間が事務所外に待機しているなどと脅迫し,同人から100万円
を喝取したというもので,やはり巧妙かつ計画的な犯行である。
4 被告人の果たした役割について 
 被告人は,各強盗殺人及び死体遺棄事件において,自ら預かっていたけん銃を使
用して被害者を殺害することをBに提案し,実際に,被告人が被害者2名を射殺し,各
被害者の死体の遺棄場所を提案し,死体遺棄用の掘削機や穴掘り要員を確保した
上,造成地に穴を掘らせ,それの埋め戻しを行っているのであって,積極的かつ意欲
的に必要不可欠な役割を果たしている。
 さらに,被告人は,BやIとの犯行とは別に,Cから強取したクレジットカードや預金通
帳等を利用して,単独あるいは被告人が誘い入れたSとともに詐欺,窃盗及び有印私
文書偽造,同行使等の犯行にも積極的に及んでいる。また,G事件においても,被告
人は,Gに対してけん銃様のものを突き付けるなどの実行行為を行っている。
 なお,被告人は,いずれの犯行においても,Bからの誘いを受けて犯行に加わって
おり,各犯行の発端をBが作ったことは否定できないが,被告人は,上記のとおり,積
極的かつ意欲的に各犯行における重要な役割を分担し,殺害方法やその場所,死体
遺棄の方法の決定等,重要な局面における意思決定を主導して行い,判示各犯行に
おいて,銀行から詐取した金員及びGから喝取した金員はBとほぼ均等の分配を受
けているし,その余の各犯行により取得した金品に至っては,専ら被告人が使用,費
消しているのである。
 そうしてみると,被告人がBに対し,従属的役割にあったなどとは到底言えず,各犯
行の実行の場面を中心として,被告人が主導的な立場にあったと認められ,A事件及
びC事件において,最も重要で不可欠である殺害行為を被告人が自ら名乗り出て行
っていることからみても,上記各犯行は,被告人なくしては不可能であったと評価でき
る。
 そして,被告人は,このように主導的な役割を果たす一方,C事件においては,共犯
者であるIにも自己の氏名が伝わらないようBに口止めをし,Iの前ではサングラスを着
用するなどして人相を隠すなどし,また,Aの小切手を換金したり,C名義の預金の引
き出しを試みた際には,ZやSに手続を行わせて同人らを前面に立て,自己の犯行へ
の関与が発覚しないよう注意を払っており,悪らつである。
5 犯行後の行状について 
 被告人は,C事件後,警察に出頭する際,A及びC事件における強取品・詐取品等
の隠ぺいや遺棄を次々と知人らに指示して実行させ,自らもA及びC事件で使用した
けん銃や強取品の一部を隠ぺいするなど罪証隠滅行為を行っている。そればかり
か,被告人は,詐欺罪等で逮捕された後も,接見に訪れた当時の愛人や妻及び情を
知らない弁護人を利用し,接見等禁止の規制をかいくぐるなどして,数々の口裏合わ
せや罪証隠滅工作を行っている。そうしてみると,被告人の犯行後の行状も極めて悪
い。
6 各犯行の結果について  
 本件各強盗殺人の凶行により,落ち度のない被害者2人の生命が奪われた結果は
いうまでもなく誠に重大である。その各被害者は,知人であるBあるいはIにおびき出
され,何が起こっているのかも理解できないまま,惨殺されており,3発もの弾丸を順
次頭部に打ち込まれて殺害されたAや,強度の暴行を受けた上,ガムテープで身体
の自由や視界を奪われ,声を出すことすら封じられたまま殺害されたCの肉体的苦痛
や恐怖,無念さは計り知れない。なお,Aは,Bへの債務の返済を滞らせており,ま
た,Cは,象牙の取引に関し,Bに少なからぬ損失を生じさせたり,Iに対する債務の
返済を滞らせていた事実が認められるが,これらは被告人とは無関係であるし,その
ような事実があるからといって,上記各被害者らが,本件のような甚大な被害を被る
いわれがないのは言うまでもない。Gについても,いきなりけん銃様のものを突き付け
られ,100万円もの金員を喝取された恐怖感は多大であり,その被害感情は厳しい。
 
 死亡した各被害者の遺族らは,突然行方不明となった後,1年を経て,腐敗あるい
は白蝋化し,生前の面影を一切残さない変わり果てた姿で発見された各被害者の遺
体と対面することとなり,その悲嘆や衝撃は極めて大きく,遺族らの処罰感情は峻烈
を極めており,いずれの遺族も被告人の極刑を希求しており,Aの実父が公判廷にお
いて,「虫を捕まえてひねり殺すようなことをする被告人は死刑にして欲しい。」と述べ
る程である。また,本件各犯行による財産的被害の総額は,合計2100万円を超えて
おり,極めて多額であるし,その他にも被告人がAから強取した同人名義のクレジット
カードを使用したことによる損害も生じている。Aの実姉は,上記精神的苦痛に加え,
被告人らが銀行から引き出したA名義の預金のうち約715万円をAが代理店契約を
結んでいた保険会社に補填せざるを得なかったため,間接的に同額分の財産的損失
を受けている。
 それにもかかわらず,被告人は,自己の刑事責任を免れるため,客観的証拠関係
から事実は明らかであるのに,全ての犯行を否認し,自己に都合良く虚構の事実をね
つ造し,客観的証拠等から,その矛盾を追及されると,新たな弁解を作り上げるなど
不合理な弁解に終始しており,本件各被害者あるいはその遺族らに対し,被害弁償
や慰謝の措置は一切とっておらず,2人の尊い人命を奪うなどの重大事件を起こした
ことに対する反省の情が微塵も感じられない。
 そもそも,被告人は,本件各強盗殺人事件において殺害された各被害者との間に
個人的な関係はなく,恨みや憤りもなかったものである。にもかかわらず被告人は,
私利私欲のため,まさにAの実父が公判廷で述べたように,「虫をひねり殺す」かのよ
うに極めて安易に本件各強盗殺人に及んでいるのであって,その手口たるや,到底
人間の所業とは思われない残酷,無慈悲,凶悪なものである。
そして,被告人が,わずか4か月程の間に強盗殺人2件を含んだ判示各犯行に及
んだことをも考慮すれば,被告人には,人命を自らの手で奪うことに対する抵抗感や
良心の呵責が感じられず,目的のためには手段を選ばず,かけがえのない人命を犠
牲に供することも辞さない極めて自己中心的な性格がうかがわれると言わざるを得な
い。
 また,けん銃を使用した強盗殺人2件を含んだ本件各犯行が,短期間に連続して敢
行されたことにより,社会に与えた衝撃や不安の大きさにも甚だしいものがある。
7 結論
 以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重大であって,被告人には矯正教育の
可能性はうかがえないから,これまで業務上過失傷害による罰金前科1件以外には
前科がないなどの上記被告人の経歴等や本件各犯行の発端はBが作っていることな
ど記録に現れた被告人に有利な事情を十分に斟酌し,また,死刑という極刑を選択
するについては,特に慎重でなければならず,その罪責の重大性,罪刑の均衡及び
一般予防の見地からもやむを得ないと認められる場合でなければならないことを念頭
においたとしても,上記のとおり本件に顕れた一切の情状を総合して勘案すれば,被
告人に対しては,極刑をもって臨むほかないと思料する。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑ー死刑)
 平成14年12月18日
   津地方裁判所刑事部
      裁判長裁判官  天 野 登喜治
          裁判官  増 田 周 三
          裁判官  見 宮 大 介

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