弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成15年(行ケ)第570号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 平成17年1月17日
判       決
原      告    東芝テック株式会社
訴訟代理人弁理士    鈴江武彦
同           河野哲
同          中村誠
同          峰隆司
同     幸長保次郎
被      告    特許庁長官 小川洋
指定代理人    石川好文
同     田中秀夫
同     小曳満昭
同     涌井幸一
同     川向和実
同     宮下正之
主       文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1)特許庁が異議2002-71955号事件について平成15年10月23
日にした決定中「特許第3255559号の請求項1に係る特許を取り消す。」と
の部分を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  原告は,発明の名称を「椅子式エアーマッサージ機」とする特許第3255
559号の特許(平成7年6月28日出願,平成13年11月30日設定登録。以
下「本件特許」という。請求項の数は2である。)の特許権者である。
  平成14年8月9日,本件特許の請求項1について特許異議の申立てがなさ
れ,特許庁は,これを異議2002-71955号事件として審理した。原告は,
審理の過程で,平成15年5月23日,請求項1の特許請求の範囲の文言の訂正を
含む訂正を請求した(以下,この請求に係る訂正を「本件訂正」といい,本件訂正
による訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成
15年10月23日,本件訂正を認めた上で,「特許第3255559号の請求項
1に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年11月17日,その謄本を原告に
送達した。
2 本件訂正による訂正後の請求項1の特許請求の範囲
 「座部を有する椅子本体と,
  前記座部に上下方向に回動可能に設けた脚載置台と,
  前記座部と前記脚載置台の少なくともいずれかに配設されたマッサージ用袋
体と,
  前記脚載置台の裏側に配設されこの脚載置台を上下方向に回動させる駆動用
袋体と,
  エアー分配器を介して前記マッサージ用袋体および前記駆動用袋体にエアー
を供給するエアー供給装置と,
  このエアー供給装置および前記エアー分配器を制御する制御手段とを具備
し,
  前記制御手段で制御される前記エアー分配器によって,前記駆動用袋体を膨
縮させて前記脚載置台を上下方向に回動させ,この駆動用袋体の膨張状態を前記脚
載置台が所望の高さ位置に保持されるように維持した状態で前記マッサージ用袋体
が膨縮されることを特徴とする椅子式エアーマッサージ機」
(以下「本件発明」という。)
3 決定の理由
  別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,特開平7-12
4214号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下,決定と同
じく「引用発明1」という。)並びに特公平3-15910号公報(以下「刊行物
2」という。),特開平7-39571号公報(以下「刊行物3」という。),実
公平6-14595号公報(以下「刊行物4」という。)及び特開平2-2670
35号公報(以下「刊行物5」という。)に記載された事項に基づき,当業者が容
易に発明をすることができたものであるとするものである。
4 決定が認定した,引用発明1の内容,本件発明との一致点・相違点
(1)引用発明1の内容
 「座部11と背もたれ部14とを有するマッサージ椅子10と,下肢マッサ
ージ器20と,前記下肢マッサージ器20に配設された空気袋23a,23bと,
首マッサージ部50の可動板60を駆動する空気袋64と,分配切換器43を介し
て前記空気袋23a,23bおよび前記空気袋64に空気を供給するエアコンプレ
ッサ41と,このエアコンプレッサ41および前記分配切換器43を制御する制御
回路44とを具備し,前記制御回路44で制御される前記分配切換器43によっ
て,前記空気袋23a,23bおよび前記空気袋64が膨張・収縮されるエアマッ
サージ装置。」(決定書5頁)
(2)本件発明と引用発明1との一致点
 「座部を有する椅子本体と,脚載置台と,前記座部と前記脚載置台の少なく
ともいずれかに配設されたマッサージ用袋体と,駆動用袋体と,エアー分配器を介
して前記マッサージ用袋体および前記駆動用袋体にエアーを供給するエアー供給装
置と,このエアー供給装置および前記エアー分配器を制御する制御手段とを具備
し,前記制御手段で制御される前記エアー分配器によって,前記マッサージ用袋体
が膨縮される椅子式エアーマッサージ機」(同8頁)である点。
(3)本件発明と引用発明1との相違点
 「[相違点1]
  本件発明は,脚載置台が「座部に上下方向に回動可能に設けた」ものであ
り,駆動用袋体が「脚載置台の裏側に配設されこの脚載置台を上下方向に回動させ
る」ものであるのに対し,引用発明1は,脚載置台が座部の前側に単に配置された
ものであり,駆動用袋体は首マッサージ部の可動板を駆動するものである点。
  [相違点2]
  本件発明は,「駆動用袋体を膨縮させて脚載置台を上下方向に回動させ,
この駆動用袋体の膨縮状態を前記脚載置台が所望の高さ位置に保持されるように維
持した状態で」マッサージ用袋体が膨縮されるのに対し,引用発明1は,かかる関
係を有していない点。」
(以下,それぞれ「相違点1」,「相違点2」という。)
第3 原告の主張
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り,本件発明との一致点の認定の誤り・
相違点の看過)
(1)決定は,引用発明1の空気袋64を,本件発明における駆動用袋体と捉え
ることができる,としている。しかし,以下に述べるとおり,この空気袋64は,
マッサージ用袋体と認識されるべきものであって,駆動用袋体ではない。
  引用発明1は,使用者の首部が空気袋55a,55b間に位置した状態
で,空気袋55a,55bに空気を供給して膨張させることにより掴み揉みを行
い,その空気袋55a,55bを膨張させた状態のまま空気袋64を膨張させて,
空気袋55a,55bを引込溝に引き込むことにより引き揉みを行うという,人手
による挟み揉みのような,一連のマッサージ動作を実現している。空気袋64は,
このような一連の挟み揉みマッサージ動作のためのものであるから,本件発明の駆
動用袋体とは異なるマッサージ用袋体と捉えるべきものである。
  また,引用発明1が駆動用袋体を備えていない以上,それが,「エアー分
配器を介して前記マッサージ用袋体および前記駆動用袋体にエアーを供給するエア
ー供給装置」(以下「構成要件E」という。)を備えているとする一致点の認定
も,誤っている。
  以上のとおり,決定は,引用発明1の認定を誤った結果,一致点の認定を
誤り,相違点を看過している。
(2)被告が主張するように,一致点の認定を,ある程度抽象的に行うことが許
されるとしても,適切なレベルでなされなけれはならないことは当然である。
  前記のとおり,引用発明1の空気袋64はマッサージ用のものであり,本
件発明の駆動用袋体はマッサージ機能に直接関与しないものである。これらを,
「駆動用」という抽象度で捉えることは適切でない。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り)
(1)刊行物1ないし5のどれにも,構成要件Eは開示されておらず(前記のと
おり,引用発明1が駆動用袋体を備えているという認定は誤っている。),まして
や,「このエアー供給装置および前記エアー分配器を制御する制御手段とを具備
し」(以下「構成要件F」という。)の「制御手段」によって,「この駆動用袋体
の膨張状態を前記脚載置台が所望の高さ位置に保持されるように維持した状態で前
記マッサージ用袋体が膨縮されること」(以下「構成要件H」という。)について
は何ら開示されていない。
  したがって,引用発明1並びに刊行物2ないし5に基づき,本件発明を容
易に推考できるとした決定の判断は,誤っている。
(2)刊行物4及び5に開示されているのは,車両用シートに関するものであっ
て,マッサージ装置とは技術分野が異なる。駆動用袋体を用いることが車両用シー
トの分野での周知技術であったとしても,それを,技術分野が異なる引用発明1に
採用することは容易に推考できない。
  仮に採用することができたとしても,マッサージ用袋体と駆動用袋体とい
う異なる種類の袋体を,共通の空気供給装置及び分配器によって制御して,快適な
マッサージを得るという,本件発明の特徴的な構成・効果に至ることはできない。
(3)乙第1号証の車両用シートの拘束用空気袋と疲労緩和用空気袋は,前者が
身体を拘束して一定の時間が経過した場合などに,後者を動作させて乗員の疲労を
軽減する,というものであって,両者は関連して動作するものであり,本件発明の
ように,マッサージ用袋体と駆動用袋体を無関係に動作させる,というものではな
い。
  乙第2号証では,すべての空気袋が同じ機能(乗員の姿勢変更のサポー
ト)を有するものであり,異なる機能を持つ袋体を開示していないし,一方の膨縮
状態とは無関係に他方の袋体の膨張状態を維持するというものでもない。
(4)本件発明は,座部に対して上下方向に回動可能な脚載置台を無段階に位置
決めできるものであり,使用者は,自己の所望する高さ位置に正確かつ容易に脚載
置台を位置決めできる。また,駆動用袋体の膨縮とマッサージ用袋体の膨縮に,エ
アー供給装置を共用するものであるから,構成が簡単で組み立てが容易であり,故
障の発生も少ないという効果をも奏することができる。
第4 被告の主張
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り,本件発明との一致点・相違点の認定
の誤り)に対して
(1)進歩性が問題となる場合における一致点の認定は,相違点の認定のための
前提作業であり,それが正しく行える範囲で,共通する部分を抽象化して一致点と
認定することは許されるし,また,どの程度の抽象度で一致点の認定を行うかも,
適宜なし得るところである。
  「駆動」とは,「動力を与えて動かす」という意味であり(広辞苑参
照),「駆動」という言葉自体に,「脚載置台を所望の高さ位置に保持する」とい
った意味があるわけではない。
  引用発明1の空気袋64が,マッサージ用袋体であるとしても,これと,
本件発明の駆動用袋体とは,いずれも,「使用者に直接押圧力を加えるものではな
く,他の装置構成部材に動力を与えてそれを動かすもの」という点で共通してい
る。決定は,この点を一致点と捉えた上で,「駆動用袋体」という言葉をもって表
現したものであり,何ら誤りはない。そして,引用発明1の空気袋64が,脚載置
台を駆動し所望の高さ位置に保持する機能を有していない点は,相違点1及び2で
抽出している。
(2)引用発明1は駆動用袋体を備えているものであり,したがって,構成要件
Eも備えている,といえる。
  決定の一致点の認定に誤りはなく,相違点の看過もない。
2 取消事由2(進歩性判断の誤り)に対して
(1)制御手段によって,「駆動用袋体の膨張状態を維持した状態で前記マッサ
ージ用袋体が膨縮されること」が,刊行物1ないし5に開示されていないことは,
原告が主張するとおりである。
  しかし,決定は,そのことが,刊行物1ないし5に開示されていると認定
しているものではなく,刊行物2及び3に開示されている周知技術と,刊行物4及
び5に開示されている周知技術から容易に推考できる構成であるとしているのであ
る。
  この点は,決定の論理構成とは異なるものの,次のように説明することも
できる。つまり,引用発明1は,下肢マッサージ器20(脚載置台)を備えるもの
であり,それに,刊行物2及び3記載の周知技術を適用して,脚載置台を上下方向
に回動させること及びそれを所望の高さ位置に保持するようにすることは当業者が
容易に推考できることであり,さらに,そのための機構として,刊行物4及び5
(これらと刊行物1とは,脚載置台付き椅子という共通の技術分野に関するもので
ある。)記載の,上下方向に回動させるようにした脚載置台の裏側に駆動用袋体を
配設し,それに空気を供給して膨縮させる機構を採用しつつ,その空気供給の制御
を,引用発明1がもともと備えている制御回路44に行わせることは,当業者にと
って容易に推考できることなのである。
(2)互いに異なるタイミングで膨縮させられるべき複数の空気袋の一部のもの
が,膨張状態や収縮状態を維持させられるべきものである場合に,共通の空気供給
装置及び分配器で制御を行うことは,周知技術である(乙第1号証及び第2号
証)。また,装置の簡略化(すなわち共通化)は,あらゆる装置において望まれる
ことである。
  以上からも,共通の空気供給装置及び分配器によって制御するという構成
は,当業者が当然に採用する構成である,といえる。
(3)原告の主張する効果は,いずれも,刊行物1ないし5に開示されているも
のか,これらを組み合せた構成が当然有する効果に過ぎず,進歩性を基礎付けるも
のではない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り,本件発明との一致点の認定の誤り・
相違点の看過)について
(1)本件発明の「駆動用袋体」は,特許請求の範囲の記載にあるとおり,脚載
置台の裏側に配置され,膨縮させられることにより脚載置台を回動させるものであ
り,これにより,使用者が自己のマッサージに最も適した位置に脚載置台を位置決
めできるようにするものであって(別紙1参照),人体のマッサージに直接関与す
るものではない。
(2)これに対し,引用発明1の空気袋は,刊行物1の次の記載から,人体に接
触するものではないものの,人体に対する押圧作用を制御し,マッサージに直接関
与するものであると認めることができる。
「【0029】・・・首マッサージを選択する。この操作により,分配切換
器43が制御されてホース45に圧縮空気が供給されて図6に示すように空気袋5
5a,55bが膨張されていく。
 【0030】この空気袋55a,55bは,凹部52の相対向する側面5
2a,52bが壁となることにより,首のツボの天柱が挟み込まれて掴み揉みする
状態となる。
 【0031】そして,空気袋55a,55bが充分に膨張されると,ホー
ス45への圧縮空気の供給が停止される。そして,ホース46に圧縮空気が供給さ
れて空気袋64,64が膨張されていく。空気袋64,64の膨張により,可動板
60がスプリングに抗して後方へ移動していく。可動板60の後方への移動によ
り,図7に示すように,空気袋55a,55bは首を挟みながら引込溝54に引込
まれていく。
 【0032】この引き込みにより,空気袋55a,55bは首のツボの天
柱を引き揉みマッサージしていくことになる。」(甲第3号証3頁4欄)
「【0034】これら動作が繰り返し行われることにより,首部が掴み揉み
と引き揉みによりマッサージされていくこととなり,人手によるような充分な挟み
揉み効果を得ることができる。」(同号証3頁4欄~4頁5欄)(別紙2参照)
(3)以上からは,本件発明の駆動用袋体と引用発明1の空気袋64とは,前者
が人体のマッサージに直接関与しないのに対し,後者は関与するという点で異なる
と認められる。
  また,本件発明に係る請求項1においては,「前記座部と前記脚載置台の
少なくともいずれかに配設されたマッサージ用袋体」及び「前記脚載置台の裏側に
配設されこの脚載置台を上下方向に回動させる駆動用袋体」のように,「マッサー
ジ用袋体」と「脚載置台を上下方向に回動させる駆動用袋体」とを対比した記載が
なされている。
  これらからは,本件発明の「駆動用袋体」の技術的意味内容は,①「駆動
用袋体」が「駆動手段」としての機能しかもたないものであり(マッサージ機能に
直接関与しない),②「脚載置台を上下方向に回動させる駆動用袋体」なる一連の
ものとして把握すべきものである,といえる。この点で,決定が,一致点の認定に
おいて,本件発明の駆動用袋体と引用発明1の空気袋64とを,共に「駆動用袋
体」との言葉で表現したことは,適切さにやや欠けるものであった,という余地は
ある。
  しかし,(2)で摘示した記載から明らかなとおり,引用発明1の空気袋64
は,可動板60,さらには空気袋55a,55bという,他の部材を駆動するもの
でもあり,この点に着目して,「駆動用袋体」と表現することが誤りとまではいえ
ない。
  また,相違点1及び2において,本件発明における「駆動用袋体」が脚載
置台の上下方向への回動を行うものであるのに対して,引用発明1における「駆動
用袋体」では「首マッサージ部の可動板を駆動するもの」である点で相違すること
が摘示され,引用発明1の空気袋64が,マッサージに直接関与するものであるこ
と,脚載置台の上下方向への回動を行わないものであることも抽出されており,両
者の機能が異なることについては,相違点として適切に認定されているのである。
  したがって,この点に関する決定の引用発明1の認定及び一致点の認定に
誤りはなく,相違点を看過した誤りがあるとも認められない。
(4)また,刊行物1の実施例において,空気袋64,首部のマッサージ機能を
担当する空気袋55a,55bと下肢マッサージ機能を担当する空気袋23a,2
3bの全てに対するエアー供給が,唯一の分配切換器43から行われていることは
明らかである(甲第3号証3頁4欄~4頁5欄,図5)。したがって,引用発明1
は,構成要件Eを備えている,といえる。
(5)以上のとおりであるから,取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り)について
(1)原告は,刊行物1ないし5のいずれにも,本件発明の構成要件E「エアー
分配器を介して前記マッサージ用袋体および前記駆動用袋体にエアーを供給するエ
アー供給装置」が開示されているとはいえないし,ましてや,構成要件Fの「制御
手段」によって,構成要件Hの「この駆動用袋体の膨張状態を前記脚載置台が所望
の高さ位置に保持されるように維持した状態で前記マッサージ用袋体が膨縮される
こと」については何ら開示されておらず,引用発明1並びに刊行物2ないし5に基
づいて本件発明を容易に推考することはできない,と主張する。
  しかし,刊行物1には「駆動用袋体」が開示されており,それに対するエ
アー供給が,マッサージ機能を担当する空気袋に対するものと共通するエアー供給
装置及び分配切換器により行われるものであり,構成要件Eが刊行物1に開示され
ているといえることは,前記のとおりである。
  そこで,相違点1及び2に係る構成,すなわち,①脚載置台の裏側に配設
された駆動用袋体(マッサージに直接関与しないもの。以下同じ。)を膨縮させる
ことにより,脚載置台を上下方向に回動可能とする構成(相違点1に係る構成),
②共通のエアー供給装置及び分配器によって制御して,脚載置台が所望の高さ位置
に保持されるように駆動用袋体の膨張状態を維持した状態で,マッサージ用袋体を
膨縮させる構成(相違点2に係る構成)の容易推考性について検討する。
(2)「駆動用袋体により脚載置台を上下方向に回動可能とすること」について
ア 刊行物2には,「・・・本発明は,少なくとも背部に施療手段を備えて
いる椅子の座部に,上面が足載面とされている足載台を連結したマツサージ機であ
つて,椅子に対して足載台を回動自在且つ任意角度で固定自在とする第1の連結部
材と・・・」(甲第4号証2頁3欄),「・・・固定板材43とガイド部材4との
連結部には,ガイド部材4を任意角度で固定できるようにするためのブレーキ機構
5を設けてある。」(同号証3頁5欄)との記載がある(別紙3参照)。
  刊行物3には,「【0017】この実施例においては,オットマン3及
び背もたれ1は図7に示されるようなリフトユニット40にて動作させられるよう
になっている。リフトユニット40はウォームホイール41が収納配置されたケー
シング42より筒体43を突設して主体が構成されており,筒体43内には主軸4
4が回転自在に内装されている。・・・
 【0018】しかして,モータ45が回転されてウォームギア46が回転
駆動させられるとウォームホイール41が回転駆動し,ウォームホイール41の回
転に伴って主軸44が回転駆動し,主軸44の回転によって送りナット48が主軸
44の長手方向に移動し,筒状体50と共にブラケット51が筒体43より突出し
たり,筒体43内に収納されたりするものであり,このブラケット51の移動によ
ってオットマン3の出し入れまたは背もたれ1が起倒させられるようになってい
る。」(甲第5号証4頁5欄)との記載がある(別紙4及び5参照)。
  これらの記載からは,刊行物2及び3には,「脚載置台を所望の高さ位
置に保持した状態でマッサージを受けられるように,脚載置台を上下方向に回動さ
せる」技術が開示されている,と認められる。
  これらの技術は,「足載台に楽な姿勢で足を載せることができる」(甲
第4号証2頁3欄),「足載台の上面の傾斜角度を使用者は体格や好みに応じたも
のとすることができ,」(同号証4頁8欄),「短時間で良好なマッサージ姿勢を
選択することができる。」(甲第5号証2頁2欄),という効果を持つものである
から,これを同じく椅子式エアーマッサージ機である引用発明1に適用すること
は,当業者が当然なすことである。
イ 刊行物4には,「【請求項1】上下動および前後動が自動操作可能なサ
イサポート部を備えた車輌用シートにおいて,該サイサポート部は座部内に前後動
可能に配された押出し部の前端に設けられて座部前方に前後進可能に備えられ,サ
イサポート部のサイサポート板とサイサポート部底面とにわたり,サイサポート板
を上下動せしめる伸縮体を配設すると共に,上記押出部はその後端と座部後壁とに
わたり上記押出部を前後動せしめる伸縮体を配設し,前記各伸縮体がエアー供給装
置と連絡した複数のエアーバック体を重ね合わせると共に,これらを連通状に接合
して構成され,かつ夫々別個に作動することを特徴とする車輌用シート。
 【考案の詳細な説明】
 (産業上の利用分野)
  本考案は,車輌用シート,詳しくは座部前方に備えられるサイサポート
部(ふくらはぎのせ部)を各使用者の体型,好みの体勢等に合わせて調整する自動
調整機構を備えた車輌用シートの改良に関する。」(甲第6号証1頁1欄~2
欄),「・・・伸縮体(6)の伸長量に応じて,座部上下動用のサポート板(8)
が軸着部(8’)を支点として上方へ持ち上げられ座部(3)のシート面(3’)
が膨張し,あるいは,サイサポート板(2b”)が軸着部(2c)を支点として上
方へ持ち上げられ最適位置にきたときに操作ボタン(18a)あるいは(18b)
を閉弁位置に切換えて空気の供給を停止する。
 ・・・サイサポート部(2)を前後動せしめるにあっては,前記上下作動
時における操作同様,前後動用の操作ボタン(18c)を別操作することにより伸
縮体(6)を膨張せしめて押出部(2a)を前進させ,あるいは収縮せしめて後進
させ適宜位置でその供給及び排出を停止して最適位置を確保する。」(同号証3頁
6欄)との記載がある(別紙6参照)。
  刊行物5には,「2.特許請求の範囲
 1.座部(1)から前方に突出することによって足の膝の裏側を支える支
持部(14)を,座部(1)に面して設けたヒンジ部(9)を中心にして上下方向
へ傾動可能に設けたことを特徴とする自動車の座席における足の姿勢補助装置。
 2.支持部(14)を空気袋(15)により支持するとともに,空気袋
(15)への空気供給量を調節することにより支持部(14)の突出角度(B)を
調節可能にしたことを特徴とする請求項1記載の自動車の座席における足の姿勢補
助装置。」(甲第7号証1枚目1頁),「・・・本発明は使用時足の膝の裏側を支
える自動車の座席用補助装置に係り,特に,オートマチック車の運転者用座席に設
けることにより,運転中使わない左足を支えて運転者の姿勢を楽にするための自動
車の座席用補助装置に関するものである。」(1頁~2頁),「・・・座席に補助
装置を取付けて使用する場合に,座部1に座った運転者が調節ねじ18を閉めた状
態でポンプ16を操作すると,空気袋15に空気が管17を通して供給され,第1
図に示すように支持部14は膨らんだ空気袋15に押し上げられて上方へ傾動す
る。又,この場合,空気袋15へ供給する空気量をポンプ16及び調節ねじ18に
より加減することによって支持部14を好みの突出角度Bに保つことができる。そ
して,運転者が座部1に座ると,支持部14により運転者の足を膝の裏側から支え
ることができる。」(同号証2枚目6頁~3枚目7頁)との記載がある(別紙7参
照)。
  以上から,刊行物4及び5には,「車両の座席において,脚載置台の上
下方向の位置を変更維持するにおいて,脚載置台の裏側に配設した駆動用袋体の膨
縮によりこれを行う」技術思想が開示されている,と認められる。
  刊行物4及び5に記載されている発明は,車両用の座席であるものの,
「脚載置台付き椅子」であるという点で,引用発明1並びに刊行物2及び3記載の
発明と共通する。そして,当業者が,椅子型のマッサージ機をよりよいものにする
ため,分野が具体的には多少異なるとはいえ,同じく使用者に好みの,あるいは安
楽な姿勢を取らせる機能を持つ椅子(車両用シート)に関する技術を参酌すること
は当然であるから,これら車両用シートに関する技術を,椅子型のマッサージ機に
適用することは自然なことである,と認めることができる。このことは,例えば,
乙第2号証(特開平4-5916号公報)に,その実施例として,車両用シートに
係る技術が開示されており,それは,「・・・座面形状の変更を一旦オーバーシュ
ートさせて変更するようにしたため,乗員に対し疲労軽減のための血行や新陳代謝
を促す効果的な刺激を与えると共に,フィーリングに違和感のない疲労軽減のため
の刺激を与えることができ,疲労軽減をより効果的に行うことができる」(同号証
4枚目13頁)ものであり,「なお,この発明のシートは車両以外,例えば船舶,
航空機等のシート,一般のシート等にも応用することができる」(同12頁)もの
とされていることからも裏づけられるところである。
  そして,刊行物4及び5に記載されている脚載置台の構成において意図
される機能は,使用者にとって最適な,あるいは安楽な着座姿勢が得られるように
脚載置台の上下方向への回動と位置の固定を行うというものであって,これは,引
用発明1,あるいは刊行物2及び3記載のマッサージ機にとっても,好ましい技術
であることは明らかである(そのような着座姿勢を使用者が取るのを可能にするこ
とは,マッサージをより効果的にするための,最も基本的な要請の一つであること
は論を待たない。)。
  そうすると,引用発明1において,刊行物2及び3の,椅子型マッサー
ジ装置において脚載置台の上下方向の位置を適宜に設定する機能を採用し,それに
際し,刊行物4及び5の,空気袋の膨縮によりこれを行う技術を採用することは,
当業者が容易にできることであると認めることができる。むしろ,引用発明1が,
マッサージ作用に空気袋,空気給排気装置等を用いていることからは,同じく空気
袋等を用いる刊行物4及び5の技術を適用することは,駆動機構を共通化できる
(このことは,一般的に製造コストやメンテナンス上有利であるといえる。)とい
う観点から,積極的な動機付けがあるともいえるのである。
(3)「共通のエアー供給装置及びエアー分配器によって制御して,駆動用袋体
の膨張状態を維持した状態でマッサージ用袋体を膨縮させること」について
ア 刊行物1には,「【0024】エア給排気装置40は,図5に示すよう
に,圧縮空気を生成するエアコンプレッサ41と,圧縮空気を浄化して貯えるフィ
ルタータンク42と,フィルタタンク内の圧縮空気を所定の空気袋55a,55
b,64,23a,23bに供給する分配切換器43と,操作パネル16の操作ス
イッチ(図示せず)の操作によってエアコンプレッサ41と分配切換器43を制御
する制御回路44とを備えている。・・・
【0026】分配切換器43は,各ホース45~47に圧縮空気を供給して
各空気袋55a,55b,64,23a,23bを膨張させたり,各ホース45~
47を外気と連通させて各空気袋55a,55b,64,23a,23bの排気を
行なわせたりするものである。これら圧縮空気の供給や外気との連通などは,例え
ば複数の電磁切換弁を使用して行う。・・・
【0031】そして,空気袋55a,55bが充分に膨張されると,ホース
45への圧縮空気の供給が停止される。そして,ホース46に圧縮空気が供給され
て空気袋64,64が膨張されていく。空気袋64,64の膨張により,可動板6
0がスプリングに抗して後方へ移動していく。可動板60の後方への移動により,
図7に示すように,空気袋55a,55bは首を挟みながら引込溝54に引き込ま
れていく。
【0032】この引き込みにより,空気袋55a,55bは首のツボの天柱
を引き揉みマッサージしていくことになる。・・・
【0037】空気袋23a,23bが充分に膨張されると,ホース47への
圧縮空気の供給が停止されるとともにホース47が外気と連通され,空気袋23
a,23bの排気が行われて空気袋23a,23bが収縮していく。
【0038】これら動作が繰り返し行われることにより,ふくらはぎが掴み
揉みされてマッサージされていくこととなり・・・
【0039】上記実施例では,首のマッサージとふくらはぎのマッサージは
別々に行うようになっているが,同時に行えるようにしてもよい。・・・」(甲第
3号証3頁3欄~4頁5欄)との記載がある。
イ 以上からは,引用発明1は,もともと,首部及びふくらはぎ部のマッサ
ージを行う複数の空気袋へのエアー供給の制御を,共通のエアー供給制御手段によ
り行うことと,そのうちの一部(55a,55b)の膨張状態を保ちつつ,それと
は無関係に他の空気袋(23a,23b)を膨縮させる構成を含むものである。
  そうすると,引用発明1において,使用者の体格や好みに適した着座姿
勢を保つ機能を実現すべく,脚載置台の上下位置を変更し維持するための空気袋を
採用するについて,もともと引用発明1が備えている,複数の空気袋を制御する共
通のエアー供給・制御手段を生かして,脚載置台の上下位置を決め,維持する空気
袋については一定の膨張状態を保ちつつ,人体のマッサージに直接関与する空気袋
は膨縮を繰り返させる構成を採用することは,当業者が容易になし得ることであ
る,ということができる。
  したがって,取消事由2も理由がない。
(4)以上からすれば,本件発明は,引用発明1及び刊行物2ないし5の技術か
ら,当業者が容易に発明をすることができたものである,と認めることができる。
  なお,原告の主張する本件発明の効果は,容易に推考できるその構成に当
然伴われるものに過ぎず,本件発明の進歩性を基礎付けるものとは認められない。
3 結論
  以上のとおり,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,その他,決定
には,これを取り消すべき誤りは認められない。
  よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行
政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所知的財産第3部
 裁判長裁判官     佐  藤  久  夫
 裁判官     若  林  辰  繁
 裁判官     高  瀬  順  久
(別紙)
別紙1別紙2別紙3別紙4別紙5別紙6別紙7

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛