弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主          文
 一 原告の請求をいずれも棄却する。
 二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告が原告に対して平成13年12月25日付けでした、別表1記載の源泉徴収に係る所得税の各納税告
知処分及び各不納付加算税賦課決定処分を取り消す。
第二 事案の概要
 一 事案の骨子
本件は、銀行業を営む原告が、日本国内に本店を有する17の会社との間で、原告が各会社の債務の履
行を引き受けることなどを内容とする契約を締結し、当該契約に基づき、各会社から金員を受領し、相当な期
間経過後の約定に係る支払日に、各会社に代わって支払を行ったところ、被告が、原告に対し、原告が各会
社に代わって支払った金員から原告が各会社から受領した金員を控除した差額が、所得税法212条3項所
定の「利子等」に当たるとして、源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分をするとともに、不納付加算税の各
賦課決定処分をしたため、原告が、被告に対し、上記差額は所得税法212条3項所定の「利子等」に当たら
ず、また、上記差額の支払は同項にいう「国内において」支払われたものではないなどと主張して、上記の源
泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分の取消しを求める事案であ
る。
二 関係法令の定め
1 内国法人に対する支払に係る源泉徴収義務
(一) 所得税法5条3項は、「内国法人は、国内において第174条各号(内国法人に係る所得税の課税標
準)に掲げる利子等、配当等、給付補てん金、利息、利益、差益、利益の分配又は賞金の支払を受けるとき
は、この法律により、所得税を納める義務がある。」と規定する。
所得税法2条1項6号によると、「内国法人」とは、「国内に本店又は主たる事務所を有する法人」をい
い、同項1号によると、「国内」とは、「この法律の施行地」をいう。
(二) 所得税法6条は、「第28条第1項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者その他第4編第1
章から第6章まで(源泉徴収)に規定する支払をする者は、この法律により、その支払に係る金額につき源泉
徴収をする義務がある。」と規定する。
所得税法第4編第5章中にある同法212条3項は、「内国法人に対し国内において第174条各号(内
国法人に係る所得税の課税標準)に掲げる利子等、配当等、給付補てん金、利息、利益、差益、利益の分配
又は賞金(…(中略)…)の支払をする者は、その支払の際、当該利子等、配当等、給付補てん金、利息、利
益、差益、利益の分配又は賞金について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、こ
れを国に納付しなければならない。」と規定する。
2 内国法人が所得税を課される利子所得
(一) 所得税法174条1号は、内国法人に対して課する所得税の課税標準として、内国法人が国内にお
いて支払を受けるべき同法23条1項(利子所得)に規定する利子等の額を挙げる。
(二) 所得税法23条1項によると、利子所得とは、「公社債及び預貯金の利子(…(中略)…)並びに合同
運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配(…(中略)…)に係る所得」をい
い、同法2条1項10号によると、預貯金とは、「預金及び貯金(これらに準ずるものとして政令で定めるものを含
む。)」をいう。
  所得税法施行令2条は、所得税法2条1項10号に定める預貯金とは、「銀行その他の金融機関に対
する預金及び貯金のほか、次に掲げるものとする。」と規定し、「次に掲げるもの」として、労働基準法18条の
規定により管理される労働者の貯蓄金等を挙げている。
三 前提事実
  本件の前提となる事実は、次のとおりである。なお、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることので
きる事実並びに当裁判所に顕著な事実は、その旨付記しており、それ以外の事実は、当事者間に争いのな
い事実である。
1 当事者等
(一) 原告は、旧商号を株式会社日本長期信用銀行といい、銀行業を営む者である。
(二) 石川島播磨重工業株式会社、沖縄電力株式会社、九州電力株式会社、東京電力株式会社、関西
電力株式会社、四国電力株式会社、大日本インキ化学工業株式会社、中部電力株式会社、中国電力株式
会社、東海旅客鉄道株式会社、東邦瓦斯株式会社、東北電力株式会社、阪急電鉄株式会社、北海道電力
株式会社、北陸電力株式会社、株式会社マルナカ、三菱地所株式会社(以下、これらの会社を総称して「本
件各社債等発行会社」という。)は、いずれも日本国内に本店を有する法人である。
2 事案の経緯
(一) 原告は、平成6年9月20日から平成10年3月27日までの間に、別表3記載のとおり、本件各社債等
発行会社との間で、本件各社債等発行会社が発行した社債等の債務の元利金の一部又は全部の支払債務
(以下「原債務」という。)の履行を原告が引き受けること等を内容とする契約(以下「本件各履行引受契約」と
いう。)を締結した(甲4の1から37まで)。なお、本件各履行引受契約についての原告の取扱店は、英国に所
在する原告ロンドン支店とされた。
(二) 原告は、本件各履行引受契約に基づき本件各社債等発行会社から原告に交付することとされてい
た、本件各履行引受契約所定の金員(以下「A金員」という。別表3の「受入金額(A金員)」欄記載の金員であ
る。)を、本件各社債等発行会社からそれぞれ受領した。
(三) 原告は、相当な期間経過後の本件各履行引受契約所定の各支払日(以下「各支払日」という。)
に、原債務の履行として、本件各社債等発行会社に代わって、本件各履行引受契約所定の各金員(以下「B
金員」という。その各合計額が別表3の「支払総額(B金員総額)」欄記載の金員である。)を、各原債務に係る
各契約(以下「原契約」という。)に定められた支払相手先である原債務の支払代理人等に支払った。
(四) 原告は、平成11年1月27日付けで、本件各社債等発行会社との間で、本件各履行引受契約につ
いての原告の取扱店を、同日から、英国領ケイマン諸島に所在する原告ケイマン支店に変更する旨の契約
(以下「本件各変更契約」という。)を締結した(甲5の1から34まで、36及び37)。
(五) 原告は、平成11年1月27日以降も、各支払日に、各原債務の履行として、本件各社債等発行会社
に代わって、B金員を、原契約に定められた各支払相手先に支払った。
3 課税の経緯等
(一) 本件における異議申立て等の経緯は、別表2記載のとおりである。
(二) 被告は、平成13年12月25日付けで、別表1記載のとおり、平成11年1月分ないし平成13年10月
分の源泉徴収すべき所得税に係る各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)及び不納付加算
税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分及び本件各賦課決定処分
を合わせて、以下「本件各処分」という。)を行った(甲1)。
(三) 原告は、平成14年2月22日、本件各処分を不服として、被告に異議申立てをした。これに対して、
被告は、平成14年7月9日付けで、異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。(甲2)
(四) 原告は、上記決定を不服として、国税不服審判所長に対し、平成14年8月9日、審査請求をした。
これに対し、国税不服審判所長は、平成15年10月16日付けで、審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし
た。(甲3)
(五) 原告は、平成16年1月14日、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。
四 被告が主張する原告の所得税額等
被告が本訴において主張する原告の源泉徴収に係る所得税及び不納付加算税の算出過程、算出根拠
等は、以下のとおりである。原告は、このうち、各B金員の額から各A金員の額を控除した金額(以下「本件金
員」という。)の支払について源泉徴収に係る所得税の支払義務があること及びこれを前提とする部分につい
て争うものであり、上記各税のその余の算出根拠及び計算関係については争っていない。
1 各源泉徴収に係る所得税
(一) 各月の利子の金額   別表4の「本件金員(利子)①」欄の各月分として記載の各金額
上記金額は、原告が、平成11年1月から平成13年10月までの各月(平成11年1月については、同月
27日以降に限る。)において、本件各履行引受契約に基づき、原契約所定の支払相手先に支払った金員の
うち、本件金員相当額の各合計額である。
(二) 各納付すべき税額   別表4の「源泉徴収税額(①×15%)」欄に各月分として記載された各金額
(なお、別表5の「本訴において主張する納付すべき税額」欄記載の各金額も同じである。)
上記金額は、上記(一)の各月の利子の金額に所得税法213条2項1号により100分の15をそれぞれ
乗じて計算した金額である。
(三) 本件各納税告知処分の適法性
本件各納税告知処分における納付すべき税額は、別表5の「本件納税告知処分の納付すべき税額」
欄記載の各金額である。これらの金額は、いずれも上記(二)の各納付すべき税額と同額か、又はそれを下回
るから、本件各納税告知処分は適法である。
2 各不納付加算税
被告は、本件各納税告知処分に係る平成11年2月分から平成13年10月分までの各月分の源泉徴収
に係る所得税の額(国税通則法118条3項により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に国税通則法67
条1項により100分の10をそれぞれ乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を各賦課決定した(本件各
賦課決定処分)。
五 争点
1 利子等該当性
本件金員は、所得税法212条3項所定の「利子等」に当たるか。
2 国内における支払該当性
本件金員の支払は、所得税法212条3項所定の「国内において」支払われたものということができるか。
3 国税通則法67条1項ただし書の適用の可否
原告が本件金員について所得税を納付しなかったことにつき、国税通則法67条1項ただし書所定の
「正当な理由」があると認められるか。
六 争点に関する当事者の主張の要旨
1 争点1(利子等該当性)について
(一) 被告の主張
(1)ア 本件で問題となるのは、本件金員が「預貯金の利子」に当たるか否かであるところ、「預金」の意
義については、明確に定めた規定はないから、預金の用語の一般的な理解を基に解釈するほかない。
預金契約の法的性質は、一般に、銀行等に対してされる金銭消費寄託契約とされている。もっと
も、預金には預金者の様々なニーズに応じた多様な種類があり、また、銀行は、法令に抵触しない限り、いか
なる種類の預金等の受入れをすることも差し支えない。例えば、当座預金勘定契約は、金銭消費寄託契約と
委任(準委任)契約とが複合した契約であると考えられているように、預金は、必ずしも純粋な金銭消費寄託
契約でなくてもよい。
また、預金の経済的な意義としては、銀行が資金を運用して収益を上げるために受け入れた金銭
であり、銀行は、預金を自ら運用することにより収益を上げることの対価として、当座預金を除き、預金者に利
子を支払うのが通常である。
イ 本件各履行引受契約においては、本件各社債等発行会社は、原告に対してA金員を預託し、原
告は、各支払日に本件各社債等発行会社に代わって、原契約に定められた支払の相手方に本件各履行引
受契約所定のB金員を支払う義務を負う。
そうすると、本件各履行引受契約は、原告が、各支払日を返還期限として、A金員の寄託を受けた
上、各支払日に、寄託を受けた各期間に係る利子である本件金員をA金員に加算した額をB金員として返還
するという金銭消費寄託契約と、原告に対して預託されたA金員及びその利子を原資として、各支払日に本
件各社債等発行会社に代わって約定の相手方にB金員を支払うことを委任するという委任契約とが複合した
契約であるということができる。
原告は、A金員を受領した後、それを運用し、受け入れたA金員に本件金員を上乗せした額を支
払っており、実態的にも他の預金と同様と解される。
したがって、A金員は、本件各社債等発行会社が銀行である原告に消費寄託した金員、すなわ
ち、預金であり、本件金員は、その利子に該当するということができる。
ウ 原告自身も、A金員を「定期預金」、本件金員を「定期預金利息」としてそれぞれ会計処理していた
ほか、本件各履行引受契約の契約書の中にも「預金」と記載されているものがあり、本件各社債等発行会社
及び原告においても「預金」であることは認識していたはずである。
これに対し、原告は、当時、銀行会計における勘定科目が大蔵省令により制約されていたことや大
蔵省銀行局の指導があったことにより、上記のような会計処理をせざるを得なかった旨主張するが、A金員を
「その他負債」勘定にすることも可能であったし、預金とするとしても「定期預金」として処理する理由も不明で
ある。大蔵省銀行局の指導があったとすれば、むしろ大蔵省銀行局もA金員の法的性質を預金と考えていた
ことを示すものである。さらに、「定期預金」とする会計処理の内容を契約書の記載に反映させる必要はないは
ずである。
(2)ア 本件各履行引受契約においては、原告が受領したA金員の使途が限定されているが、預金者
が、銀行に対して、預金を第三者に支払うことを指図、委任することは何ら不自然なことではないから、A金員
の使途の限定があるからといって、A金員が預金でないとはいえない。
イ 本件各履行引受契約において、本件各社債等発行会社はA金員の返還を受けることができないこ
ととされている。しかし、本件各社債等発行会社がA金員の返還を受けることができないのは、A金員が原債
務の支払の原資となることが予定されており、その支払が行われるまでの間に払戻しがされれば、原告が原債
務の支払代理人等に対する支払を行うことが不可能になるため、預金者である本件各社債等発行会社が自
ら払戻しを受けることが制限されているからにすぎない。このことによって、A金員が預金であることが否定され
るものではない。
ウ 本件各履行引受契約において、原告の支払は、本件各社債等発行会社に対して行われるのでは
なく、第三者である原債務の支払代理人等に対して行われることとなっているが、預金の返還は、預金者に金
銭で交付する形式によるものとは限らず、預金者の委任、指図によって預金の元利金を第三者に送金するこ
とも預金の返還にほかならない。
エ 原告は、本件金員の算出方法は「利子」と異なるのであって、本件金員は、「割引料」に相当し、税
法所定の「償還差益」と同一の法的性質を有する旨主張する。
しかし、一般に「割引料」とは、手形、債権等を弁済期日前に買い取ってもらう場合において、手形
の額面金額、債権金額から差し引かれる金利相当分をいうのであって、本件金員は、一般的な「割引料」の意
義から外れている。
また、本件取引は、社債の割引発行に該当する事例ではなく、本件金員は、税法に規定する割引
債の償還金額がその発行価額を超える場合におけるその差益としての「償還差益」に該当するものではな
い。
オ 本件各履行引受契約のようないわゆるデット・アサンプション取引は、銀行と将来の金利負担の軽
減等のニーズを有する不特定多数の企業とが締結する可能性を有する取引形態であって、不特定多数の者
から受け入れた金銭であるという預金の性質に反するものではない。
(3)ア 原告は、本件各履行引受契約はいわゆるデット・アサンプション取引のために締結されたもので
あって、本件各履行引受契約は社債等支払債務の支払事務の委任を目的とした単純な委任契約であり、A
金員は委任事務処理費用等であると主張する。
しかし、本件各履行引受契約がデット・アサンプション取引のために締結されたものであったからと
いって、そのことから、A金員が単なる委任事務処理費用等であるということはできない。
また、原告の主張するA金員の性質は不明であって、仮に、本件各履行引受契約を単なる事務委
任契約であると解すれば、受任者である原告は、報酬を得るどころか、自らの負担においてB金員の総額とA
金員との差額(本件金員)を支払うことになるが、この点について、合理的な説明ができていない。
イ 原告は、本件各社債等発行会社において、原債務と預託金とを相殺した後の勘定残高を償還差
損として処理し、表示するというオフバランス処理をしていたのであって、A金員を預金とは認識していなかっ
た旨主張する。
しかし、このような会計処理は、会計上、繰上償還と同様の効果をもたらすものではあっても、法的
には原債務が消滅したことにはならない。いかなる会計処理を行うべきかということと、法的に預金であるか否
かということとは別次元の問題である。
ウ さらに、原告は、源泉徴収の前提として、本件各社債等発行会社に、納税義務がなければならな
いが、本件各社債等発行会社は、税法上の計算を行うに当たっても、A金員を「預金」と認識しておらず、利
子所得発生の認識も有していないから、本件各社債等発行会社については納税義務がなく、原告が源泉徴
収義務を負うことはあり得ない旨主張する。
しかし、源泉徴収に係る所得税の納税義務の存否や源泉徴収義務の存否の判断に当たっては、
支払の時点において、ある支払が源泉徴収の対象になる所得に該当するか否かが判断され、当該支払が源
泉徴収の対象となれば、支払者の源泉徴収義務と同時に所得者の納税義務が生ずることとなるというべきで
ある。源泉徴収義務者の支払の後に支払を受けた者が支払について行った会計処理の内容や、支払を受け
た者の認識内容いかんによって、源泉所得税の納税義務や源泉徴収義務の存否が影響を受けることはない
のであって、原告の主張は源泉徴収制度を正解していない。
(二) 原告の主張
(1)ア 「預金」とは、銀行その他の金融機関を受寄者とする金銭の消費寄託契約ないしその預けられた
金員をいうところ、預金に当たるか否かは、当事者がその意思を有していたか否かによって判断されるべきで
ある。
イ 本件各履行引受契約は、デット・アサンプション取引のために締結されたものである。
  デット・アサンプション取引とは、企業が有する社債等の元利金の支払につき、銀行等の金融機関
との間で債務履行引受契約を締結し、その履行を銀行等が引き受けると同時に、銀行等に対してその履行に
要する費用等を前払し、企業がその会計処理において元利金の支払債務の履行を行ったものとの評価を受
けることのできる取引をいう。デット・アサンプション取引を行った社債等発行会社においては、その決算にお
いて、社債等の元利金の支払債務等をオフバランス化し、当該債務を繰上償還したものとして取り扱い、貸借
対照表の負債の部からその社債債務等の帳簿価格を消去することができ、かかる処理は、会計基準において
公正妥当な会計処理として認められている。
ウ 本件各履行引受契約は、デット・アサンプション取引のために締結されたものであり、取引の内容
をみれば、当事者である本件各社債等発行会社及び原告に、これを預金とする意思がなかったことは明らか
である。
  本件各履行引受契約は、原告が本件各社債等発行会社から委任事務処理費用等を受領し、本件
各社債等発行会社に代わって社債等の支払代理人等に対する社債等の元利金の支払事務を行うことを内
容とする契約であり、債務の弁済事務を委託することを内容とする委任契約である。本件各社債等発行会社
が原告に支払ったA金員は、社債等の元利金の支払に充当されるべきであり、委任事務処理費用と委任事
務の報酬の前払分として支払われたものである。
エ 税法上の損益計算は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとさ
れている(法人税法22条4項)。本件各社債等発行会社は、税法上の計算を行うに当たっても、前記委任事
務処理費用等を「預金」とは認識しておらず、「預金」の払戻しの認識も、「利子所得」発生の認識も持ってい
ない。源泉徴収税は、支払の受領者に対する課税であるから、その前提として、本件各社債等発行会社に、
所得税法174条所定の納税義務がなければならないところ、本件各社債等発行会社には納税義務がないか
ら、原告が源泉徴収義務を負うことはあり得ない。
さらに、原告による原債務の支払代理人等に対するB金員の支払は、本件各社債等発行会社に対
する金銭の支払ではないから、所得税法212条3項が規定する内国法人に対する「支払」がなく、また、本件
各社債等発行会社の「所得」もないから、源泉徴収義務の前提を欠く。
(2)ア 本件各履行引受契約において、A金員は社債等の元利金の支払のために前払されるものである
旨が明示されているが、消費寄託契約である預金契約にはこのような使途の限定は付されていないのが通常
である。
イ 本件各履行引受契約においては、本件各社債等発行会社が前記委任事務処理費用等の返還を
受けることができないものと規定されているが、預金契約であれば、主として預け主の便宜のためにされるもの
であるから、預金者はいつでも払戻しを求めることが可能なはずである。
ウ 本件各履行引受契約においては、原告による支払は、本件各社債等発行会社に対して行われる
のではなく、第三者である原債務の支払代理人等に対して行われることとなっているが、預金契約であれば、
預金者が寄託した金銭は、預金者に返還されることとされるのが通常である。預金者が第三者への送金を指
示することもあるが、あくまでも、預金の払戻しごとに預金者が銀行に対して支払先を指示することが想定され
ている。
エ 本件各社債等発行会社は、A金員の支払を行うことにより、社債等の元利金の支払債務をオフバ
ランス化して当該債務を繰上償還したものとして取り扱い、社債等の償還差損を計上した上で、貸借対照表
の負債の部からその社債等の債務の帳簿価格を消去するという処理を行っている。このような本件各社債等
発行会社の会計処理は、預金の場合と異なる。
オ 預金は銀行等の金融機関が不特定多数の相手方から預託を受けた金銭であるところ、本件各履
行引受契約所定のA金員は、特定少数の者からそれぞれ異なる条件で受け入れた金銭であるから、預金とは
いえない。
カ 本件各履行引受契約においては、原告が各支払日に支払うべき各社債等の利息及び各社債等
の償還日に支払うべき元本の償還金額がまず定められ、その支払額を原告所定の割引率(ただし、割引率の
算定に際しては、デット・アサンプション取引を行うに際しての原告の報酬・手数料が加味されている。)で割り
引いた金額が、委任事務処理費用等として本件各社債等発行会社から原告に支払われる金額とされている。
これは、まず、預金の額が決まり、それに適用される利率を乗じて利子の額が決まり、それらを合わせて払戻
額が決まるという順序で計算される通常の利子計算とは異なるのであって、本件金員は、利子ではなく割引料
としての性質を有している。
  所得税法上、社債の券面額に利率を乗じて求められる「利子」と、社債の券面額を一定の割引率
で割り引いて購入額を決めた場合の社債の購入額と償還額の差額である「償還差益」とは異なるものとして取
り扱われており、後者は所得税法の源泉徴収に関する規定は適用されないために、特別の源泉徴収に関す
る規定が置かれている。本件金員は、後者と同一の法的性質を有する。
(3) 被告は、原告がA金員を自由に運用することができることをA金員が預金である理由として挙げる
が、これはたまたま金銭の支払を受けた原告が銀行であったからに他ならない。また、委任契約においても、
受任者の注意義務の内容として、委任事務処理費用の前払として受領した金銭を銀行等に預金して利殖を
図る義務がある。
(4) 被告は、原告自身がA金員を「定期預金」とし、本件金員を「定期預金利息」として会計処理してい
たことから、原告自身もA金員を預金として受け入れる意思があった旨主張する。
  しかし、このような処理は、当時、銀行会計における勘定科目が大蔵省令により制約されていたこと
や大蔵省銀行局の指導があったことから、「定期預金」として会計処理せざるを得なかったものにすぎない。
2 争点2(国内における支払該当性)について
(一) 被告の主張
(1)ア 所得税法17条は、利子等の支払をする者の源泉徴収をすべき所得税の納税地は、その者の事
務所、事業所その他これらに準ずるものでその支払事務を取り扱うもののその支払の日における所在地とす
ると規定する。
  そうすると、所得税法212条3項所定の内国法人に対する利子等が源泉徴収の対象となる「国内に
おいて」支払われる場合に当たるか否かについても、その支払の日における支払事務(支出額の計算、支出
の決定、支払資金の準備等)が取り扱われる事務所等の所在地により判断するのが相当である。
イ 本件の取引では、本件各変更契約により、平成11年1月27日以降、本件各履行引受契約の取扱
店を原告ケイマン支店に変更することとされたが、そもそも、原告ケイマン支店には現地の物的施設及び現地
で勤務する支店役職員のいずれも存在せず、同日以降、本件の取引に関する原告への通知は、すべて原告
本店金融開発部金融商品開発室あてにすることとされ、原告ケイマン支店の事務も、原告本店のマーケット管
理部内のケイマン支店担当者が行っていた。
  したがって、本件金員の支払事務は、国内に所在する原告本店において取り扱われたのであり、
本件金員は、所得税法212条3項所定の「国内において」支払われたものということができる。
(2) 原告は、支払地の判断について、物理的な支払がどこで行われたかを重視すべきであり、現金又
は小切手等の支払手段が債権者に提供された場所を基準とすべきであり、銀行業務においては、海外支店
名義の支払口座から支払われるものを国外払いとして扱われているから、支払口座を基準とすべきである旨
主張する。
  しかし、仮に、支払地の判断について、支払手段が債権者に提供された場所を基準とするのであれ
ば、原告が払い出した口座ではなく、当該債務の債権者が現金等の支払手段の提供を受けた場所となるは
ずである。
  また、原告ケイマン支店には、現地の物的施設及び現地で勤務する支店役職員のいずれも存在し
ないのであるから、本件金員の物理的な支払についても、原告ケイマン支店が支払地であるということはでき
ないはずである。
(二) 原告の主張
(1) 支払が日本国内、日本国外のいずれの場所において行われたかについては、文字どおり物理的
な支払がどこで行われたかを重視し、その支払の原因となった債務の本旨に従い、どこでその弁済の提供が
行われたのか、すなわち、現金又は小切手の支払手段が債権者に提供された場所を基準に判断すべきであ
って、支払の準備がどこで行われたかは支払地の判断と関係しない。
  銀行業務の常識では、国内外にわたる口座間の資金移動による支払の場所は、その支払口座を有
する支店の所在地であり、銀行においては海外支店名義の支払口座から支払われるものを国外払いとして扱
っている。
  そこで、「国内において」支払われたか否かは、支払口座が国内にあるか国外にあるかによって決す
べきである。
  本件金員の支払は、原告ケイマン支店の支払口座から行われているのであるから、その支払は国外
において行われたものと認めるべきである。
(2) 被告は、支払者側における支払のための準備等の事務がどこで行われたかを基準にしているが、
支払の準備行為は、2か所以上の場所で分散して行われる可能性がある。支払の準備がどこで行われたかを
基準として支払地を決めることになると、支払行為が主として行われた場所というようなあいまいな基準を用い
ることになり、これは、源泉徴収の必要の有無といった本来機械的に定めるべき判断の基準としては不適当で
ある。
(3) 原告ロンドン支店から原債務の履行として支払が行われていた時期と原告ケイマン支店から原債務
の履行として支払が行われるようになって以降との間では、事務処理の過程にほとんど変化はない。したがっ
て、原告ケイマン支店から行われた支払も、原告ロンドン支店から行われた支払と同様に、国内において支払
われたものではないと認めるべきである。
(4) 被告は、支払をする者が国内にいる場合には、対象となる所得が国内で支払われたものとして、当
該所得が源泉徴収の対象となるというが、所得税法212条2項の例にあるように、源泉徴収の対象となる所得
が国内で支払われない場合であっても、必ずしも支払をする者が国内にいないとは限らない。
3 争点3(国税通則法67条1項ただし書の適用の可否)について
(一) 原告の主張
(1)ア 本件各履行引受契約に係る取引のようなデット・アサンプション取引に関しては、原債務の支払
に充てられた金銭と本件各履行引受契約に基づいて銀行に交付された金銭との差額が預貯金の利子等に
該当する旨を明らかにした法令及び通達等は存在せず、社会通念上、上記に該当することが明らかであると
いう確たる証拠も存しない。
イ 利子等が「国内において」支払われたか否かについても、法令及び通達その他の公開された基準
は存在しない。原告は、従来の税実務において、国外支店において勘定を管理する金銭消費貸借契約に関
する支払については支払指図の作成等単純な事務作業を国内の事務担当者に行わせていたとしても国外
払いとして取り扱われていたという慣例に従って、源泉徴収を行わなかったにすぎない。
ウ 従前の税実務に従った原告に不納付の責めを帰するのは酷であり、原告には、国税通則法67条
1項ただし書の「正当な理由」がある。
(2) 被告は、原告自身がA金員を「定期預金」とし、本件金員を「定期預金利息」として会計処理してい
たことから、原告自身もA金員を預金として受け入れる意思があった旨主張する。
  しかし、これは、銀行会計における勘定科目が当時大蔵省令により制約されていたことや大蔵省銀
行局の指導があったことから、「定期預金」として会計処理せざるを得なかったものにすぎない。
(二) 被告の主張
(1) 国税通則法67条1項ただし書所定の「正当な理由」があると認められる場合とは、法定納期限まで
に納付しなかったことについて源泉徴収義務者の責めに帰すべき事由がなく、不納付加算税を課することが
不当若しくは酷とされるような場合をいい、税法の不知、誤解又は事実誤認に基づく場合はこれに当たらな
い。原告が主張するように、単に取扱いを明らかにした基準等が存在しないことをもって、「正当な理由」があ
ると認めることはできない。
(2) 原告自身も、A金員を「定期預金」とし、本件金員を「定期預金利息」として会計処理していたのであ
って、原告のいう基準が存在しなくても、原告自身が本件金員が「利子等」に該当することを前提とする処理を
していたといえる。
第三 争点に対する判断
一 認定事実
  前記前提事実に加え、証拠(甲4の1から37まで並びに甲5の1から34まで、36及び37)及び弁論の全
趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。
1 本件各履行引受契約の契約書の文言は必ずしも同一ではないが、その要旨は、いずれも以下のとおり
である。
(一) 原告は、本件各社債等発行会社の原債務の履行を引き受ける。
(二) 本件各社債等発行会社は、原告に、A金員を交付する。
(三) 本件各履行引受契約は、原契約に規定する本件各社債等発行会社の債権者に対して原告が債務
を負担し、又は保証人となる趣旨ではなく、原契約の権利義務関係に影響を及ぼさない。
(四) 原告は、各支払日に、原債務の履行として、本件各社債等発行会社に代わって、B金員を原契約
に定められた支払相手先に支払う。
(五) 本件各社債等発行会社は、原告に対して、A金員の返還を請求しない。
(六) 原告が、上記(四)記載のとおり、支払相手先に対する支払をすべて完了した場合は、原告の本件
各社債等発行会社に対する一切の債務は消滅する。
(七) 本件各履行引受契約についての原告の取扱店は、英国に所在する原告ロンドン支店とし、本件各
社債等発行会社から原告に対する通知も原告ロンドン支店に対して行うものとする。
2 本件各履行引受契約において、本件各社債等発行会社が原告に交付するA金員は、各支払日ごとの
B金員の支払額を、原告所定の一定の割引率により、A金員を交付する時点の現在価値に割り戻した金額を
基にして決定されていた。
3 本件各変更契約の契約書の文言は必ずしも同一ではないが、その要旨は、いずれも以下のとおりであ
る。
(一) 本件各履行引受契約の取扱店を原告ケイマン支店に変更する。
(二) 本件各社債等発行会社から原告への通知のあて先を原告本店金融開発部金融開発室とする。
(三) 本件各履行引受契約の契約書に定める各約款は、本件各変更契約書に基づいて特段の変更がさ
れたものを除き、その効力を保持する。
4 原告は、本件各社債等発行会社から受領したA金員を「定期預金」として管理し、各支払日に、原契約
に定められた支払相手先に、B金員を支払った。
5 原告は、本件各変更契約に基づき、平成11年1月27日時点の本件各履行引受契約に係るA金員の
原告ロンドン支店における残高を、本件各履行引受契約に係る原告ケイマン支店の「定期預金」として移管処
理した。
6 原告は、平成11年1月27日以降、各支払日に、別表3記載のとおり、原契約に定められた支払相手先
に、B金員を支払った。
原告は、本件各履行引受契約に基づき各支払日に支払ったB金員に含まれる本件金員を、各支払日
において、「定期預金利息」として会計処理した。
7 原告は、本件各社債等発行会社からA金員の交付を受けた後、各支払日に支払相手先にB金員を支
払うまでの間、A金員をそれぞれ運用していた。
8 原告ケイマン支店には、現地の物的施設及び現地で勤務する支店役職員のいずれもが存在しない。
原告ケイマン支店の事務は、原告本店のマーケット管理部内のケイマン支店担当者が行っていた。
二 争点1(利子等該当性)について
1 本件においては、本件金員が源泉徴収による納付義務を定める所得税法212条3項にいう「利子等」、
すなわち、「第174条各号(内国法人に係る所得税の課税標準)に掲げる利子等」に該当するか否かが問題と
なっている。
  そこで、「利子」についての所得税法の定めを見ると、所得税法174条1号は、内国法人に対して課す
る所得税の課税標準として、内国法人が国内において支払を受けるべき同法23条1項(利子所得)に規定す
る利子等の額を挙げている。そして、同項は、「利子所得とは、公社債及び預貯金の利子(…(中略)…)並び
に合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配(…(中略)…)に係る所
得をいう。」と規定している。
  本件金員は、公社債の利子並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託
の収益の分配ではないから、結局、本件金員が所得税法23条1項所定の「預貯金の利子」、とりわけ、預金の
利子に該当するか否かが問題となる。
  「預貯金」ないし預金についての所得税法の定めを見ると、所得税法2条1項10号は、預貯金とは、「預
金及び貯金(これらに準ずるものとして政令で定めるものを含む。)」をいうと規定している。これを受けて、所
得税法施行令2条は、所得税法2条1項10号の預貯金とは、「銀行その他の金融機関に対する預金及び貯
金のほか、次に掲げるものとする。」と規定し、「次に掲げるもの」として、労働基準法18条の規定により管理さ
れる労働者の貯蓄金等を挙げている。しかし、「預金」の定義については、明示的に規定しておらず、「預金」
の意義については、一般的な用語の意味を基に考えざるを得ない。
2(一) まず、預金の法的性質について検討する。
   預金とは、典型的には定期預金、普通預金及び当座預金において見られるように、通常、銀行その
他金融機関が不特定多数の相手方、すなわち預金者に対し返還を約して預託を受けた金銭をいうと解され
る。この場合、金融機関においては、受け入れた金銭自体をそのまま保管するのではなく、これを消費するこ
とができ、預金者に対しては約定した額の金銭を返還すれば足りるのであるから、預金は、民法666条所定の
消費寄託の性質を有するものと解することができる。
   もっとも、預金といっても、経済上の需要に従って様々な種類が存在し、具体的な契約内容が預金の
種類によって様々であることは公知の事実であり、預金が必ずしも民法上の典型契約である消費寄託契約に
限られると断ずることはできない。たとえば、主として企業の決済口座として利用される当座預金は、小切手や
手形をもって引出しがされる。当座預金勘定契約においては、銀行は、金銭を管理するほか、預金者の諸支
払を行っていることから、当座預金勘定契約は、金銭消費寄託契約と委任契約が複合した混合契約であると
解すべきである。また、普通預金契約においても、現在は、種々の支払や送金等の代行がされることがあり、
やはり混合契約の実体を有していることが多いというべきである。
そうすると、その具体的な契約内容が民法上の消費寄託契約のみではなく、他の様々な約定も存在
するものであっても、銀行その他の金融機関を受寄者として消費寄託された金銭としての性質を有するものに
ついては、原則として預金であるということができるものと解するのが相当である。
(二) 次に、いわゆる経済現象としての預金について検討する。
  まず、銀行法2条1項及び2項によると、預金の代表的な受入先である銀行とは、「預金又は定期積金
の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ行うこと」又は「為替取引を行うこと」のいずれかを行う営業
(銀行業)を営む者とされている。このように預金の受入れは、貸付けのための資金を得るための銀行の中心
的業務であり、銀行における中心的な資金の運用である貸付けと相まって、銀行はこれらによる利益を得てい
るものということができる。
  他方、預金者は、当座預金の場合を除き、通常、預金の返還時に、一定の割合の金員(利子)を得る
ことができる。
  そうすると、預金の経済的な意義としては、銀行等の金融機関が、預託を受けた金銭を一定期間運用
して利益を上げる一方、通常、預金者に対しては、預金を自ら運用することにより収益を上げることの対価とし
て、当座預金を除き、一定の割合の金員(利子)を支払うものであるということができる。
3 本件金員が「預貯金の利子」に当たるか否かについても、まず、上記の観点から本件各社債等発行会
社から原告に交付されたA金員が「預金」に当たるか否かを検討すべきである。
(一) 前記前提事実及び前記認定事実を総合すると、①本件各履行引受契約においては、本件各社債
等発行会社は、銀行である原告に対して、A金員を交付し、原告は、本件各社債等発行会社の原債務の履
行として、本件各社債等発行会社に代わって、各支払日に、原契約で定める支払相手先に、本件各履行引
受契約所定のB金員を支払う義務を負うこと、②B金員の各総額はこれに対応するA金員の額を超過するこ
と、③A金員の額は、各支払日ごとの支払額(B金員)を、一定の割引率により、A金員を交付する時点の現在
価値に割り戻した金額を基にして決定されたものであること、④本件各履行引受契約により、原告は、原契約
の相手方に対して債務を負うものではなく、本件各社債等発行会社に対して、本件各社債等発行会社の負う
債務の履行としてB金員を原契約の相手方に支払う義務を負うにすぎないこと、⑤原告は、本件各社債等発
行会社からA金員の交付を受けた後、各支払日に支払相手先にB金員を支払うまで、これらを運用していたこ
とを認めることができる。
(二) 上記認定判断によると、本件各履行引受契約においては、本件各社債等発行会社からA金員の預
託を受けた銀行である原告が、各支払日において、A金員の額にその利子を加えたものに当たるB金員を、
本件各社債等発行会社自身に返還するのに代えて、原契約の定める支払相手先に、支払う義務を、本件各
社債等発行会社に対して負っているものと評価することができる。
そうすると、本件各履行引受契約は、原告が、各支払日に、本件各社債等発行会社の原債務の履行
として、B金員を支払相手先に支払うという委任契約の性質を有するとともに、この委任契約の基盤になるもの
として、銀行である原告が、A金員の寄託を受け、それを原資として、約定に係る相当な期間経過後の各支払
日に、B金員を返還するという金銭消費寄託契約の性質をも有するというべきである。
(三) 他方、経済的に見れば、本件各履行引受契約により、原告は、利益を上げるため、交付を受けたA
金員を自由に運用する一方、A金員を交付した本件各社債等発行会社は、A金員の額を上回るB金員の支
払を自己に代わってしてもらうわけであるから、少なくとも、その差額については、金銭を一定期間寄託したこ
とにより得られる金員である利子の支払を原告から受けたものと評価すべきである。本件各社債等発行会社
は、直接には、原告から利子の支払を受けていないが、本件各社債等発行会社は、A金員を預託することに
より、これを上回るB金員の支払をさせ、B金員の総額に当たる原債務の支払を免れているのであるから、預金
者である本件各社債等発行会社は、A金員とB金員の差額に当たる利子分の利益を得ており、間接的に利子
の支払いを受けているということができるのである。
(四) 以上によれば、本件各履行引受契約に基づいて本件各社債等発行会社から原告に交付されたA
金員は、「預金」の一般的用語の意味に該当するのであって、所得税法2条1項10号にいう「預金」に当たり、
したがって、同法23条1項にいう「預貯金」に当たるというべきである。
そして、既に判示したところによると、本件金員は、A金員の預託を受けた原告が、一定期間これを運
用する対価として、預金者に対して支払う金銭と認めることができるから、預金の利子に該当し、同項にいう
「預貯金の利子」に当たるということができる。
(五) なお、原告のA金員についての会計処理も、A金員が「預金」であることを裏付けるものというべきで
ある。すなわち、A金員が「預金」であるからこそ、原告は、A金員を「定期預金」とし、本件各履行引受契約に
基づき各支払日に支払ったB金員に含まれる本件金員を「定期預金利息」として、会計処理することが可能で
あったということができる。
4 これに対し、原告は、以下の点を指摘して、本件各履行引受契約が預金契約でないと主張するが、以
下述べるように、いずれも失当というべきである。
(一) 原告は、本件各履行引受契約においては、A金員は原債務の支払のために前払されたものである
旨が明示されているが、金銭消費寄託契約である預金契約の場合には、このような使途の限定はされていな
い旨主張する。
  しかし、A金員については、前記のとおり、支払を受けた後、B金員の支払をするまでの間、原告がこ
れを運用することができたのであり、最終的な使途が限定されているのは、本件各履行引受契約が金銭消費
寄託契約と支払の委任契約とが複合した混合契約であるからにすぎない。また、預金者が、銀行に対し、預
金を原資として第三者への支払を行うことを指図、委任することは何ら不自然なことではないのであるから、本
件各履行引受契約において、A金員が原債務の支払のために前払されたものであることが明示されていたと
しても、A金員が預金であることが否定されるものではない。
(二) 原告は、本件各履行引受契約においては、本件各社債等発行会社がA金員の返還を受けることが
できない旨が明示されているが、預金は一般に預け主の便宜のためにされるから、預金者はいつでも払戻し
を求めることが可能なはずである旨主張する。
  しかし、A金員は、原告が受任した原債務の支払の原資となることが予定されているところ、その支払
が行われるまでの間に払戻しがされれば、原告が原債務の支払代理人等に対する支払を行うことが不可能と
なるから、預金者である本件各社債等発行会社が自ら払戻しを受けることが制限されているにすぎないという
べきである。すなわち、本件各履行引受契約において、本件各社債等発行会社は、A金員及びその利子に
ついて返還請求権を有しているものの、本件各履行引受契約が原告に原債務の支払を委任する内容を含ん
でいることから、その支払を行うまでの期間は、返還請求権の行使が制限されているにすぎないと解すべきで
ある。なお、一般的な定期預金契約の場合も、一定期間、預金者は自ら払戻しを受けることが制限されている
のであるから、結局、本件各履行引受契約も、この点変わるところはないというべきである。
(三) 原告は、本件各履行引受契約においては、B金員の支払は、本件各社債等発行会社に対して行
われるのではなく、第三者である原債務の支払代理人等に対して行われるが、これは通常の預金の取引形態
とは異なる旨主張する。
  しかしながら、銀行による預金の返還債務の履行は、預金者に金銭で交付する形式によるものだけで
はなく、小切手の振出し・交付、口座振替等によっても行い得ることはいうまでもないところである。本件のよう
に、預金者との合意によって、預金の元利金が第三者に送金されることも、預金の返還に他ならないというべ
きである。
  また、原告は、預金者が第三者への送金による預金の払戻しを指示することもあるとしても、それは預
金の払戻しごとに預金者が銀行に対して支払先を指示することが想定されている旨主張する。しかし、払戻し
ごとに第三者への送金を指示するのと、あらかじめ契約により第三者への送金を合意しておくのとで、預金で
あるか否かの判断に差異があるとはいえないと考えるべきである。通常の普通預金であっても、あらかじめ一
定額を第三者に定期的に送金する合意が行われることがあるが、本件各履行引受契約も、基本的にこれと異
なるものではないということができる。
(四) 原告は、本件各履行引受契約においては、原告が各支払日に支払うべき本件各社債等発行会社
の各社債等の利息及び各社債等の償還日に支払うべき元本の償還金額がまず定められ、その支払額を原
告所定の割引率で割り引いた金額が本件各社債等発行会社から原告に支払われる金額とされているところ、
このような計算方法は、預金の額が決まった後、それに適用される利率に乗じて利子の額が決まり、それを合
わせて払戻額が決まるという順序で計算される通常の利子計算とは異なるのであって、本件金員は利子では
なく割引料の性質を有している旨主張する。さらに、原告は、所得税法上、社債の券面額に利率を乗じて求
められる利子と、社債の券面額を一定の割引率で割り引いて購入額を決めた場合の社債の購入額と償還額
の差額である「償還差益」とは異なるものと取り扱われており、後者は所得税法の源泉徴収に関する規定は適
用されないために、特別の源泉徴収に関する規定が置かれており、本件では、後者と同一の法的性質を有す
る旨主張する。
しかし、金融機関による払戻額をあらかじめ設定しておき、そのために幾らを預金しておけばよいかを
一定の割合を基にして計算した場合であっても、預金者がある一定期間金融機関に金銭を預託することの対
価として、金融機関が一定の割合で支払う金銭は、利子であるということができる。本件金員は、本件各社債
等発行会社がある一定期間原告に金銭を預託することの対価として、原告が一定の割合で支払った金銭で
あるということができるから、利子に当たるというべきである。
また、一般に「割引料」とは、手形、債権等を弁済期日前に買い取ってもらう場合において、手形の額
面金額、債権金額から差し引かれる金利相当分をいうところ、本件各履行引受契約においては、原告は社債
等の原債務を買い取ったわけではないから、原告が本件各社債等発行会社から交付を受けた金員と原告が
支払代理人等に支払う金員の差額を割引料ということはできない。
さらに、税法上、「償還差益」とは、割引発行された社債について、償還金額(買入消却が行われる場
合には、その買入価額)がその発行価額を超える場合における差益をいうから、本件金員は「償還差益」に当
たらない。
したがって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。
(五) 原告は、源泉徴収税は、支払の受領者に対する課税であるから、原告に源泉徴収義務が課される
ことの前提として、本件各社債等発行会社に、納税義務がなければならないところ、本件各社債等発行会社
は、税法上の計算を行うに当たっても、A金員を「預金」とは認識しておらず、「預金」の払戻しの認識も利子所
得発生の認識も有していないから、本件各社債等発行会社については納税義務がなく、したがって、原告が
源泉徴収義務を負うことはあり得ない旨主張する。
しかし、所得税法5条3項によると、内国法人は、国内において同法174条各号に掲げる利子等、配
当等、給付補てん金、利息、利益、差益、利益の分配又は賞金の支払を受けるときは、所得税を納める義務
を有する一方、同法212条3項によると、内国法人に対し国内において同法174条各号に掲げる利子等の支
払をする者は、その支払の際、当該利子等について所得税を徴収し、これを国に納付しなければならないこと
とされている。また、国税通則法15条2項2号は、源泉徴収による所得税の納税義務は、利子、配当、給与、
報酬、料金その他源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時に成立すると規定し、同条3項2号は、
源泉徴収による国税は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定すると規定
している。
そうすると、源泉徴収に係る所得税の納税義務の存否や源泉徴収義務の存否の判断に当たっては、
支払の時点において、ある支払が源泉徴収の対象になる所得に該当するか否かが判断されるべきであり、当
該支払が源泉徴収の対象となるのであれば、支払者の源泉徴収義務と同時に所得者の納税義務が生じるこ
とになるということができる。したがって、支払を受けた者が支払について行った経理処理の内容や支払を受
けた者の認識内容によって、源泉徴収に係る所得税の納税義務や源泉徴収義務の存否が影響を受けること
はないというべきである。
なお、原告は、B金員の各支払は、本件各社債等発行会社に対する金銭の支払ではないから、所得
税法212条3項が規定する内国法人に対する「支払」がなく、また、本件各社債等発行会社の「所得」もない
から、源泉徴収義務の前提を欠く旨主張する。
しかし、原告は、本件各履行引受契約により定められた義務の履行として、本件各社債等発行会社に
預金の払戻しをする代わりに、原債務の支払代理人等に預金の払戻しを行っているのであるから、本件各社
債等発行会社に対する「支払」があったと評価すべきである。また、本件各社債等発行会社は、原告にA金員
を預託し、その後、原告が支払代理人等に支払をすることにより、B金員の総額に当たる社債等の元利金の
支払債務を免れているのであるから、本件各社債等発行会社は、利子分の「所得」を得ているということができ
る。そうすると、この点についての原告の主張にも理由がない。
(六) 原告は、預金は銀行等の金融機関が不特定多数の相手方から預託を受けた金銭であるところ、本
件各履行引受契約所定のA金員は、特定少数の者からそれぞれ異なる条件で受け入れた金銭であるから、
預金とはいえない旨主張する。
しかし、そもそも銀行等の金融機関は、法令に反しない限り、いかなる種類の預金も受け入れることが
可能なのであるから、特定少数からそれぞれ異なる条件で受け入れた金銭であったとしても、預金といい得る
ものというべきである。預金が不特定多数の者から受け入れた金銭であるということは、金融機関が不特定多
数の預金者から金銭の預託を受け、それを用いて貸付業務を行っていることを意味し、預金の種類によって
は、預金者が特定少数の者であり、条件が異なることもあり得るのであって、原告の主張は失当である。
(七) 原告は、原告が交付を受けた金銭(A金員)を自由に運用することができることをもって預金に該当
すると主張するのは失当である旨主張する。すなわち、委任契約においても、受任者の注意義務の内容とし
て、委任事務処理費用の前払として受領した金銭を銀行等へ預金して利殖を図る義務があり、また、原告が
A金員を運用することができたのは、たまたま金銭の支払を受けた原告が不特定多数の者より金銭の預入れ
を受ける銀行であったからに他ならない旨主張する。
しかし、仮に、委任契約上の義務として、受任者に、委任事務処理を行うために前払を受けた金銭を
銀行等へ預金して利殖を図る義務があったとしても、受任者は前払を受けた金銭を自由に運用することがで
きることを意味するものではない。そして、既に述べたように、銀行に対して金銭を預託し、その銀行において
当該金銭を運用し、利子を含めて預金者に払い戻すことは、消費寄託契約に他ならないということができる。
また、上記のとおり、預金は、通常、金融機関が預金者から預託を受けた金銭をいうのであって、正に
原告が銀行という金融機関であるからこそ、本件各履行引受契約により原告に預託されたA金員が預金とさ
れるということができる。
原告の上記主張は、いずれも採用することができない。
5(一) 原告は、預金に該当するか否かは、当事者がその意思を有していたか否かによって判断されるべき
ところ、本件各履行引受契約の当事者の意思としては、いわゆるデット・アサンプション取引を行うことを企図し
て締結されたものであり、金銭の保管を目的とするものではないから、社債等の元利金支払事務の委託を目
的とした単純な委任契約にすぎない旨主張する。すなわち、原告の主張によれば、デット・アサンプション取
引とは、企業が有する社債等の元利金の支払債務につき、銀行等の金融機関との間で債務履行引受契約を
締結する取引であり、企業の会計上、債務の履行を銀行が引き受けると同時に、企業は元利金の支払債務の
履行を行ったものと処理することができる(債務のオフバランス化)とすることに意義があるとする。その上で、
原告は、A金員は、委任事務処理費用及び委任事務の報酬の前払分であると主張する。
しかし、本件各履行引受契約がいわゆるデット・アサンプション取引として締結されたものであったとし
ても、そのことから、A金員が預金でないということはできない。本件各履行引受契約を子細に検討すれば、前
記のとおり、委任契約の性質を有するのみならず、消費寄託契約の性質をも有するというべきである。
さらに、前記認定事実によれば、本件各履行引受契約において、原告が原債務の支払代理人等に支
払ったB金員の各総額はこれに対応するA金員の額を上回っているのであるから、A金員とB金員の各総額と
の差額が委任事務の報酬であると解する余地はない。原告は、報酬を得るどころか、自らの負担においてB
金員の総額とA金員との差額を支払うこととなっているのである。ところが、委任契約では、委任者は受任者に
対して経済的負担をかけないのが通常であり、受任者は、費用前払請求権及び費用償還請求権を有し(民
法649条、650条)、委任事務を処理するために必要な費用は、本来、委任者が全額を負担すべきものとされ
ているのである。そうすると、本件各履行引受契約を単なる委任契約と解することはできない。
なお、原告は、本件各履行引受契約を締結した当事者には「預金」を行う意思がなかったと主張する
が、契約内容を分析的に解釈すれば、前記のように、法的性質としても経済的意義としても「預金」に当たると
いうことができるのであるから、原告の上記主張は、採用することができない。
(二) また、原告は、本件各社債等発行会社は、原告に支払ったA金員を預金として認識せず、社債又
は借入金である原債務の償還に当てられたものと認識していることから、オフバランス処理を行い、貸借対照
表に資産として計上していないのであって、仮に、A金員が「預金」であるとすれば、デット・アサンプション取
引を行う各当事者の目的を達成することができない旨主張する。
しかし、仮に、本件各社債等発行会社において、原告が原債務の履行を引き受けた時点で、原債務
の履行を行ったものとするオフバランス処理をしていたとしても、このような会計上の処理を理由に、A金員が
法的に預金でないということはできない。
しかも、前記認定事実によると、法的には、本件各履行引受契約締結後も本件各社債等発行会社は
原債務を負っていると認めることができる。したがって、オフバランス処理をするという会計上の処理は、法的
効果と食い違っている。そうすると、このような法的効果と食い違う会計上の処理を理由に、法的処理を論ずる
ことは適切でない。
したがって、原告の上記主張も、採用することができない。
6 以上のとおり、本件各履行引受契約に基づいて、原告に交付されたA金員は、所得税法2条1項10号
にいう「預金」及び同法23条1項にいう「預貯金」に該当し、本件金員は、同項、同法174条1号及び212条3
項にいう「利子」に該当するということができる。
三 争点2(国内における支払該当性)について
1 所得税法212条3項によると、内国法人に対する利子等の支払に係る所得税の源泉徴収は、その対象
となる所得が「国内において」支払われる場合に行われるのであるから、本件金員の支払が同項所定の「国内
において」支払われたものといえるか否かが問題となる。
2 そこで検討するに、前記前提事実及び前記認定事実によると、①原告と本件各社債等発行会社は、平
成11年1月27日付けで、本件各履行引受契約の取扱店を、同日以降、原告ロンドン支店から原告ケイマン
支店に変更するとともに、本件各履行引受契約に関する原告への通知を、同日から、すべて原告本店金融開
発部金融商品開発室あてに変更する旨の契約を締結したこと、②原告ケイマン支店には、現地の物的施設
及び現地で勤務する支店役職員のいずれもが存在しないこと、③原告ケイマン支店の事務は、原告本店のマ
ーケット管理部内のケイマン支店担当者が行っていたことが認められる。
そうすると、平成11年1月27日以降、本件金員の支払、具体的には、各支払日におけるB金員の支払
事務と、当該支払に対応した額のA金員残高からの控除は、国内に所在する原告本店において取り扱われ
ていたと認めるのが相当である。
3(一) これに対し、原告は、支払地の判断については、物理的な支払がどこで行われたかを重視し、弁済
の提供の場所、すなわち現金又は小切手等の支払手段が債権者に提供された場所を基準にすべきであり、
銀行業務においては、海外支店名義の支払口座から支払われるものは国外払いとして取り扱われているとこ
ろ、原告によるB金員の各支払は、原告ケイマン支店の支払口座から行われているから、その支払は国外に
おいて行われたものである旨主張する。
しかし、仮に、支払地について、債権者に現金等が提供された場所を基準として判断し、かつ、それが
支払のされた預金口座の設けられた支店の所在地と一致することが多いとしても、本件では、前記認定事実
によると、原告ケイマン支店には現地の物的施設及び現地で勤務する支店役職員のいずれも存在しないの
であるから、原告ケイマン支店は真正な海外の支店ということができないといわざるを得ない。そうすると、物理
的な支払を基準としたとしても、本件金員が海外で支払われたと認める余地はない。
(二) また、原告は、支払のための準備等の事務がどこで行われたかを基準に判断すると、支払の準備
行為が2か所以上の場所で行われる可能性があり、また、あいまいな基準を用いることになってしまい、基準と
して不適切である旨主張する。
しかし、前記前提事実及び前記認定事実を総合すると、本件では、支出額の決定、支出の決定、支
払資金の準備、送金、記帳等の支払事務すべてが前述した原告本店のマーケット管理部で行われていたと
推認することができる。したがって、原告の非難は的を得ないものというべきである。
(三) さらに、原告は、原告ロンドン支店で事務処理が行われていたときと、原告ケイマン支店で事務処理
が行われていたときとで、事務処理の過程はほとんど変化がない旨主張するが、もしそのとおりであるならば、
むしろ、原告ロンドン支店担当の時期についても、海外で支払われたといえるか否か疑義が生ずるだけであ
り、既に判示したところが左右されることはないというべきである。
(四) また、原告は、所得税法212条2項を挙げ、対象となる所得が国内で支払われない場合であって
も、必ずしも支払をする者が国内にいないとは限らない旨主張する。
しかし、所得税法212条2項の趣旨は、非居住者又は外国法人に対して源泉徴収の対象となる所得
の支払が国外において行われる場合には、支払をする者が国内にいないために源泉徴収義務の履行を求め
ることはできないことになるところ、この場合であっても、その支払をする者が国内に住所、事務所、事業所等
を有するときは、その支払は国内で行われたものとみなして所得税の源泉徴収を行わなければならないとする
ものである。これは、本来は、支払をする者が国内におらず、源泉徴収の対象とならないことを前提に、ある一
定の場合に限り、国内で支払われたものとみなして源泉徴収の対象としたものであるから、本件とは何ら関係
がないというべきである。
(五) そうすると、原告の前記各主張は、いずれも採用することができない。
4 以上によれば、本件金員は、所得税法212条3項所定の「国内において」支払われたものということがで
きる。
四 小括
以上を総合すると、被告は、本件金員の支払が国内における利子等の支払として源泉徴収義務の対象と
なることを前提として税額を計算した上で本件各納税告知処分を行ったものであること、上記計算の基となっ
た算出根拠、計算過程等については、被告の主張のとおりであって、原告の源泉徴収に係る所得税の各納
付すべき税額(別表5の「本訴において主張する納付すべき税額」欄記載の各金額)は、本件各納税告知処
分の納付すべき税額(別表5の「本件納税告知処分の納付すべき税額」欄記載の各金額)と同額か又はこれ
を上回ることが認められる。
そうすると、本件各納税告知処分は、適法である。
五 争点3(国税通則法67条1項ただし書の適用の可否)について
1 原告は、本件各履行引受契約のようなデット・アサンプション取引においては、本件各社債等発行会社
から原告に支払われたA金員と原告から各支払日に支払相手先に支払われたB金員の総額との差額が「利
子等」に該当する旨を明らかにした法令及び通達等は存在せず、また、日本国内における支払か日本国外
における支払かについても明らかにした法令及び通達等の基準は存在しないし、さらに、国外支店において
勘定を管理する金銭の支払については、支払指図の作成の作業を国内の事務担当者に行わせていたとして
も国外払いとして取り扱われていたという税実務の慣例に従って源泉徴収を行わなかったにすぎず、原告に
不納付の責めを帰するのは酷であり、原告が源泉徴収に係る所得税を納付しなかったことについては、国税
通則法67条1項ただし書の「正当な理由」がある旨主張する。
2 そこで、検討すると、まず、原告は、国外支店において勘定を管理する金銭の支払については、支払指
図の作成の作業を国内の事務担当者に行わせていたとしても国外払いとして取り扱われていたという税実務
の慣例があったとするが、国外支店において勘定を管理する金銭の支払について、所得税法上国内におけ
る支払としていなかったとする税法上の慣行があったことを認めるに足りる証拠はなく、この点についての原告
の主張は、その前提を欠く。しかも、前述したところからすると、原告ケイマン支店は、名目上のものにすぎず、
これを原告の国外支店と評価することはできない。
そして、その他に原告が主張するところは、要するに、単に、ある取引やある取扱について、税法の解釈
を明らかにした法令及び通達等の基準がなかったことをいうのみであって、このような事情が、国税通則法67
条1項ただし書の「正当な理由」があると認められる場合に当たらないことは明らかである。
3 その他、本件全証拠によるも、原告が本件の源泉徴収に係る所得税を納付しなかったことにつき、「正
当な理由」があると認めるに足りる的確な証拠はない。
4 したがって、本件各賦課決定処分は、適法というべきである。
六 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行
政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官  菅  野  博  之
裁判官  小  田  靖  子
裁判官  近  道  暁  郎

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