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裁判例


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○ 主文
原告らの請求を棄却する。
但し、昭和五八年一二月一八日に行われた衆議院議貝総選挙の千葉県第四区におけ
る選挙は違法である。
訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 各当事者の求める裁判
〔原告ら〕
(一) 昭和五八年一二月一八日に行われた衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」
という。)の千葉県第四区(以下単に「千葉四区」という。その他の選挙区につい
てもこれに準ずる。)における選挙を無効とする。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
〔被告〕
(一) (本案前の答弁)
(1) 本件訴えを却下する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
(二) (本案の答弁)
(1) 原告らの請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 各当事者の主張
〔原告A、B、C〕
一 原告らは、本件選挙の千葉四区における選挙人である。
二 本件選挙は、昭和五〇年法律第六三号によつて改正されたのちの公職選挙法
(以下「公選法」という。一 一三条、別表第一及び同法附則七ないし九項(以下
これら規定を「議員定数配分規定」と総称する。)に基づいて施行されたものであ
る。
三 本件選挙において、原告らは、なんらの正当な理由もなく、単に前記選挙区に
居住していることによつて、その投票の価値につき次のとおり重大な差別を受け
た。
(一) 昭和五五年国勢調査の結果によると、千葉四区の人口は一四九万九二九〇
人であり、同選挙区で選出すべき議員数は三人であるから、議員一人当たり人口は
四九万九七六三人である。他方、右国勢調査の結果によると、兵庫五区の人口は三
三万〇一五二人であり、同選挙区で選出すべき議員数は三人であるから、議員一人
当たり人口は一一万〇〇五一人に過ぎない。したがつて、千葉四区においては、各
選挙人の投票は、議員一人を当選させるについて、兵庫五区の選挙人の投票のわず
か四・五四分の一の価値しか有しないことになる。現行の議員定数五一一人を前提
として人口に比例して各選挙区に議員定数を配分するとすれば、千葉四区において
選出すべき議員数は七人となるべきである。
(二) また、昭和五八年九月二日現在の選挙人名簿登録者数をもつて千葉四区と
兵庫五区を比較すると、前者の議員一人当たり選挙人数は三五万九四九二人、後者
のそれは八万二〇一五人であつて、千葉四区の選挙人の投票価値は兵庫五区の選挙
人の投票価値の四・三八分の一である。
(三) 昭和五五年国勢調査による人口でみると、衆議院議員一人当たり人口の全
国平均は二二万九〇八一人であり、一人が実質的に二票を持つことにならない投票
価値の較差の範囲、すなわち右平均人口から上下各三分の一の許容限度(上限三〇
万五四四一人、下限一五万二七二一人)を超える選挙区は四五もあり、これは全国
の選挙区一三〇の三四・六パーセントに当たる。また、千葉四区からみて、人口は
少ないのに逆に選出すべき議員数は多いという、いわゆる逆転区は六八に達し、こ
れは全選挙区一三〇の五二・三パーセントに当たる。
四 憲法一四条一項は一般的に法の下の平等を定め、更に同法一五条一項、三項、
四四条但書等は特に選挙における平等を定めており、これらの規定による平等の保
障は投票の結果価値の平等にも及ぶものであるから、上述のような投票価値の甚し
い較差は明らかに上記諸規定に違反するものである。すなわち、選挙権は今日一定
の年齢に達した者の人格に属する権利と考えられ、代議制の中での代議員は対等、
同質の個人を代表する者として位置づけられる。それ故に、選挙権の平等の一内容
たる投票の結果価値の平等は個人の頭数である人口を基準として考えられるべきで
あり、人口以外の要素は人口比例の原則を侵すだけの価値をもちえないのであつ
て、公選法別表第一の末尾において衆議院議員の選挙区及び定数配分を定めた同表
の更正につき国勢調査の結果によるべきものとしているのも、右のような考え方に
基づくものである。また、国会議員は「全国民を代表する」(憲法四三条)のであ
つて、地域利益の代表ではないから、人口以外の地域的要素を過大に考慮すべきで
はなく、いわんや選挙区の土地の広さなどが選出すべき議員の数を決める一要因に
なるとは考えられない。
したがつて、本件議員定数配分規定は憲法の選挙権平等の要求に適合しないもので
ある。
五 最高裁判所昭和五八年一一月七日判決は、議員一人当たり選挙人数につき最大
一対三・九四の較差のあつた昭和五五年六月二二日の前回総選挙(以下「前回選
挙」という。)に関しで、一対三・九四という較差そのものは違憲であるとしつ
つ、右総選挙当時前回の議員定数配分規定の改正以後更に改正のための合理的期間
が経過していなかつたものと判断して右規定を一応合憲とした。
しかし、右判決の多数意見の末尾で指摘されているとおり、昭和五〇年の法改正後
約七年(施行から)ないし約八年(公布から)経過した本件選挙の段階では再改正
のための憲法上要求される合理的期間が経過していたことは明らかであり、この間
の二度(昭和五〇年及び五五年)の国勢調査の結果が議員定数配分規定の内容に反
映されていないことをも併せ考えれば、当然今回の選挙を行う前に再改正を行い、
投票価値の不平等状態を是正してから総選挙を行うべきであつた。衆議院議員の任
期が満了するのは昭和五九年六月二一日であつたから、それまでに議員定数配分規
定の改正を行うことは十分に可能であつた。
しかるに、政府及び国会は、前記最高裁判所判決があつたにもかかわらず、これを
無視し、違憲の規定による選挙となることを認識しながら衆議院を解散するという
挙に出たものであり、右は解散権の濫用である。この点につき、被告は内閣の解散
権の行使があたかも超憲法的な裁量権であるかのように主張するが、右解散権の行
使が憲法の制約下にあることは、憲法九八条、九九条に照らしても明らかである。
六 以上のとおり、本件選挙は違憲の議員定数配分規定によるものであるから、原
告らは、公選法二〇四条の規定に基づき、本件選挙の千葉四区における選挙を無効
とする旨の判決を求める。なお、議員定数配分規定は不可分一体のものとみるべき
ではなく、そのうち投票価値の不平等による違憲の瑕疵の存する選挙区に関する部
分のみが違憲無効とされるものと解すべきである。
〔原告D〕
一 原告は、本件選挙の千葉四区における選挙人である。
二 本件選挙は、昭和五〇年法律第六三号によつて改正されたのちの議員定数配分
規定に基づいて施行されたものである。
三 本件選挙の直前に行われた衆議院議員総選挙は、昭和五五年六月二二日施行の
前回選挙であり、右選挙も前記法改正後の議員定数配分規定に基づいて行われた
が、その際の各選挙区の選挙人数・選出すべき議員数・議員一人当たり選挙人数、
全国平均の議員一人当たり選挙人数に対する各選挙区のそれの比率は、別紙(一)
記載のとおりであるところ、これについて最高裁判所昭和五八年一一月七日大法廷
判決は、当時における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の較差は憲法上の選挙
権の平等の要求に反する程度に至つていたものと認めている。
四 ところで、本件選挙時における各選挙区の選挙人数・選出すべき議員数・議員
一人当たり選挙人数、全国平均の議員一人当たり選挙人数に対する各選挙区のそれ
の比率は、別紙(二)記載のとおりであり、選挙区間の議員一人当たりの選挙人数
の較差は概して前回選挙時より更に拡大している。原告の所属する千葉四区は選挙
人数一〇八万二六六九人、選出すべき議員三名であつたが、これに対し兵庫五区は
選挙人数二四万五五八〇人、選出すべき議員数三名であつた。
右のとおり、本件選挙に際しては選挙区間で投票価値に著しい不平等があり、か
つ、前記のとおり議員定数配分規定が現行のものに改正されてから本件選挙までに
約八年半の歳月が経過しているのであるから、右規定は本件選挙当時既に違憲であ
つたといわなければならない。
五 よつて、原告は、公選法二〇四条の規定に基づき、本件選挙の千葉四区におけ
る選挙を無効とする旨の判決を求める。
〔被告〕
一 本案前の主張
本件の訴えは、次の理由により、不適法な訴えとして却下を免れないものである。
1 公選法上の選挙訴訟の法的性格
公選法二〇三条ないし二〇五条の規定による選挙の効力に関する訴訟は、具体的権
利義務に関するいわゆる法律上の争訟ではないから、それ自体当然に司法権の範囲
に属するものではなく、選挙の管理執行機関の公職選挙法規に適合しない行為の是
正を目的として法律により特に裁判所の権限に属せしめられた、いわゆる民衆訴訟
の典型的なものであり(行政事件訴訟法五条参照)、法律に定める場合において法
律に定める者に限り提起することができる(同法四二条)特別の訴訟である。この
ような訴訟の性格上、これに関する裁判所の権限も、一般の民事、刑事、行政事件
訴訟に関する司法本来の裁判権に比較して特に狭く限定されているものである。
2 本件訴訟の公選法上の問題点
(一) 公選法の予定する衆議院議員の選挙の効力に関する訴訟は、同法二〇四条
の規定による場合のみであるが、その訴訟においても、裁判所は、同法二〇五条に
よつて、当該選挙が「選挙の規定に違反」し(ここでいう選挙の無効原因である
「選挙の規定違反」とは、選挙の管理執行に関する手続規定に違反した場合のほ
か、明文の規定に違反しなくても、選挙の自由公正が著しく阻害された場合をも含
むとされている。)、かつ「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り」選挙
の全部又は一部を無効とする判決をすることができるにすぎない。
(二) しかも、現行法の予定する訴訟は、民衆訴訟としての本質(行政事件訴訟
法五条)及び公選法の規定(一〇九条)の解釈からして、選挙法規及びこれに基づ
く選挙の当然無効を確定する趣旨のものではなく、選挙管理委員会が法規に適合し
ない行為をした場合にその是正のため当該選挙の効力を失わせ、改めて再選挙を行
うことを義務づけるところにその本旨があり、したがつて、右訴訟で争いうる「選
挙の規定違反」も、当該選挙区の選挙管理委員会が、選挙法規を正当に適用するこ
とにより、その違法を是正し適法な再選挙を行いうるもの、すなわち当該選挙管理
委員会の権限に属する事項についての規定違反に限られるのである。それゆえ、選
挙管理委員会においてこれを是正し適法な再選挙を実施することができない議員定
数配分規定自体の違憲を主張して選挙の効力を争うことは、到底許されないものと
いうべきである。
(三) また、公選法別表第一が違憲だとすれば、それに基づく選挙は当然全選挙
区にわたり無効と解すべき筋合のものである。したがつて、右違憲を選挙の効力に
関する訴訟において無効事由として主張しうるとすれば、かかる無効の選挙によつ
て選出された議員はすべて議員としての資格を失い、法改正を行うべき衆議院議員
は存在しないという異常事態に陥つてしまうが、公選法はかかる事態の発生を予想
しているものとは考えられない。
(四) 仮に、選挙が無効とされるのは選挙無効訴訟が提起された選挙区に限られ
るとの解釈論に立脚するとしても、公選法二〇四条の訴訟によつて選挙が無効とさ
れた場合の再選挙は、これを行うべき事由が生じた日から四〇日以内に行わなけれ
ばならず(公選法一〇九条四号、三四条一項)、しかも、再選挙の期日は少なくと
も一五日前に告示しなければならない(同法三四条六項三号)のであるが、議員定
数配分規定の違憲を理由に選挙が無効とされて再選挙を行う場合には、違憲無効と
された議員定数配分規定に基づいて再選挙を行うことは許されないので、まず右配
分規定の改正を行わなければならないことになる。しかし、議員定数の配分の是正
は種々の政治的利害の対立を伴う極めて困難な問題であるため、わずか二五日間で
その改正を行うことは事実上不可能であり、選挙管理委員会としては右配分規定が
立法府において改正されるまで再選挙を延期せざるをえないこととなる。
すなわち、選挙管理委員会は、右配分規定を違憲無効とする判決の拘束力に従う限
り再選挙の時期に関する公選法三四条一項の規定に違反せざるをえず、他方、右規
定に従おうとするときは、違憲無効な配分規定に基づいて再選挙を行うことを余儀
なくされ、判決の拘束力を無視せざるをえないというジレンマに陥ることとなるの
である。この場合、違憲無効とされた配分規定に基づいて再選挙を行うことは無意
味であるから、結局配分規定が憲法に適合するように改正されるまで再選挙を延期
せざるをえないことになると思われるが、その場合には、その間国権の最高機関た
る国会の正常な運営が著しく阻害されることとなる。
そのうえ、選挙の効力を争う訴訟の起こされた選挙区における選挙のみを無効とし
た場合には、そこへの定数配分が平等原同に反するとされる当該選挙区の議員を欠
いたまま議員定数配分規定の改正が議せられるという不合理を新たに生じさせるこ
とになるのである。
(五) 以上(一)ないし(四)において検討した本件訴訟に関する公選法上の諸
々の問題点は、究極のところ、現行公選法が本件のような訴訟を予定していないと
ころから生じてくるのであり、結局、議員定数配分規定自体の違憲、無効を主張す
る訴訟は、現行法体系における各規定の内容及び民衆訴訟としての選挙訴訟の本質
からいつて、公選法上許容されないものというべきである。
3 公選法二〇四条の拡張解釈の可否
(一) ところで、本件のような訴えは、本来公選法二〇四条の訴えに該当しない
が、国権行為により侵害された国民の政治的権利の回復を求めているものであるか
ら、基本的人権にかかわる問題として極力その救済を図るべきであり、他に適当な
救済方法が見当たらない現状においては右二〇四条を拡張解釈してこれを司法判断
の対象とすべきであるとの見解が存在する。しかしながら、憲法は、その四三条、
四四条及び四七条において国会議員の定数、選挙人及び被選挙人の資格、選挙区及
び投票の方法等選挙制度に関することはすべて法律の定めによるとし、また、選挙
人及び被選挙人の資格につき人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又
は収入によつて差別してはならない旨規定しているにとどまり、選挙権の内容につ
いて特段の定めをしていない。
このような憲法の規定の仕方からすると、国会両議院の議員定数を各選挙区の選挙
人の人数に比例して配分すべきことは、憲法一四条の趣旨からいつて望ましいこと
であるというにとどまり、憲法そのものの直接要請するところではないと解すべき
である。したがつて、前記のような見解により、前述のように法の特別の定めによ
つて初めてその提起が認められる民衆訴訟の対象をみだりに拡張すべきではない。
(二) 更に、本件のように議員定数配分規定が違憲、無効とされる事態は公選法
の立法当時予想されていなかつたから、適当な救済立法がされていない現状の下で
は同法二〇四条を拡張解釈することが許されるという見解がある。しかしながら、
立法当時救済の必要の生ずることが予測されていたかどうかは、法の規定をもつて
初めてその提起が可能となる民衆訴訟の許否には全く無縁なことであり、むしろ、
本件のような場合につき救済制度が存在しないのは、選挙権の内容は選挙区、議員
定数等の選挙制度のあり方によつて左右されるところ、右制度のいかんは現在及び
将来の国政に重大な影響を及ぼすものであり、政局の安定を図りながらしかも少数
意見をも国政に適正に反映せしめうるような代表制度を確立することは立法府の裁
量権限に委ねるのを相当とし、具体的な権利義務の紛争の解決を目的とする司法審
査の対象とするには本質的に適しないが故であるといわなければならない。すなわ
ち、議員定数配分の問題は、元来、高度の政治的、技術的要素が絡むものであり、
しかもその違憲性の有無の判断については依拠すべき明確な基準がなく、そのうえ
違憲性を認めて選挙を無効としたところで、新たな立法措置が講じられない限りそ
の是正は不可能であつて、本来的に立法による解決が期待され、司法の自己抑制の
強く働くべき分野である。このことと、わが国における伝統的な司法制度のあり方
及び現在の裁判所の権限から考えて、法律は裁判所がこの問題に立ち入ることを回
避すべきであるととしたものと解される。この点について更に附言すると、西ドイ
ツの連邦選挙法、更にはアメリカにおいては、議員定数配分規定の違憲無効を理由
とする選挙訴訟が認められ、裁判所も憲法判断を行つている。しかし、以下のとお
りこれら諸外国の選挙訴訟制度は、わが国のそれとは根本的に異なるのであるか
ら、これらの国において是認されているとの理由によつて、直ちにわが国の裁判制
度においてもこの種の訴訟が是認されて然るべきであるということにはならないの
である。すなわち、わが国における選挙訴訟は既に施行された選挙の効力を争い、
再選挙の実施を求めるものであつて、裁判所の権限も無効を宣言するにとどまるも
のであるのに対し、
(イ) まずアメリカにおいては、いわゆる配分法(議員定数、選挙区割等を定め
ている。)の効力を裁判所において争うことができるが、この場合、出訴者たる原
告は、具体的な選挙と関係なく配分法の規定自体の合憲、違憲を争うことができ、
このため、裁判所は、いわゆる職務執行命令や差止命令等の衡平法上の救済権限を
与えられている。したがつて出訴者は当該配分法によつて行われた選挙の効力を争
うのではなく、配分法自体の無効宣言とその定めに従つて行われる次の選挙を阻止
するための差止命令を訴求するのが通常である。しかもその救済方法は極めて弾力
的であつて、例えば、現行の議員定数配分を違憲と判断した場合においても、その
定数配分によつて選出され現に議員である者の地位を奪うことはほとんどなく、違
憲とされた当該定数配分によつて次の選挙が行われることを禁止するにとどまる。
そして、仮に次の選挙が差し迫つているときは、違憲とされた定数配分による選挙
を許すとともに、違憲とされる選挙によつて選出された議員の任期を制限し、更に
はそれら議員による議会の権限を定数配分のための立法措置を講ずることに限定す
ることもできるのである。あるいはまた右のように救済の延期を許さないで裁判所
が自ら配分表を定め、それによつて選挙を行うことを命ずることさえできるとされ
ている。
(ロ) 次に、西ドイツにおいては、連邦選挙法において、各選挙区の議員一人当
たり人口が平均的な議員一人当たり人口の上下三分の一を超えてはならないとの実
体法上の客観的基準が明定されている(同法三条三項)。そして、現実の定数配分
が同法に違反し、更には違憲でもあると選挙人が考えた場合、選挙人は、連邦憲法
裁判所法に基づき、いわゆる憲法訴願手続の中で右定数配分の効力を争うことがで
きるのであるが(同法九五条一項、なお連邦憲法裁判所一九六三年五月二二日第二
部決定、BVerfGE16、130参照)、その場合、当該定数配分が連邦選挙
法ないし基本法に違反すると連邦憲法裁判所が認めれば、同裁判所は同配分が基本
法を侵犯している旨確認することができるのである(同法九五条一項)。そして、
ラント選挙法が連邦選挙法に違反し、連邦選挙法が基本法に違反するなど法律が基
本法等に違反するとの憲法訴願が認容される場合には、当該法律の無効も宣言でき
るのであり(同法九五条三項)、その場合、右無効宣言は法律的効力を有する旨明
定されている(同法三一条二項、一三条八号a)。このように西ドイツにおける選
挙訴訟制度は、あらかじめ明文の規定によつて、実体法上、違憲かどうかの判断基
準が設定されているうえ、手続法上その訴訟の方式、判決(決定)の効果等も定め
られているのである。しかも、解釈論としては、連邦憲法裁判所は、連邦憲法裁判
所法三五条に基づき、新しい選挙法を作成し、新しい選挙を施行することも可能で
あるとされているのである。
以上のとおり、これら諸外国においては、我が国とは異なり、この種の選挙訴訟が
制度的に認められているものである。
二 請求原因に対する認否
(一) 原告A、B、Cの請求原因に対して
原告らの主張事実中、一、二の事実、同三(一)のうち、千葉四区及び兵庫五区の
人口、選出すべき議員数、両選挙区の議員一人当たりの人口の較差の点、同三
(二)の事実、同五のうち最高裁判所昭和五八年一一月七日判決があり、その後に
本件選挙の前提となつた衆議院の解散が行われたこと及び右解散の当時の衆議院議
員の任期が昭和五九年六月二一日までであつたことは認め、その余は争う。
(二) 原告Dの請求原因に対して
原告主張事実中、一、二は認める。同三、四のうち、前回選挙及び本件選挙の際の
各選挙区の選挙人数・議員一人当たり選挙人数、全国平均の議員一人当たり選挙人
数に対する各選挙区のそれの比率の点は知らず、その余は争う。
三 本案に関する被告の主張
1 憲法の定める選挙権の平等が、投票価値の平等すなわち各選挙人の投票の有す
る影響力の平等をも意味するものとしても、右平等の要求は同一選挙区内における
要求にとどまり、異なる選挙区間における投票価値の平等までも要求するものでは
ないと解するのが相当である。
すなわち、平等選挙制とは、もともと複数投票制、等級別投票制に対するものであ
り、公選法三六条に定められているような個々の選挙人の有する票数の平等を意味
するものである。
異なる選挙区間における投票価値の平等もまた憲法上の要請であるとするならば、
選挙制度として完全比例代表制を採らざるをえないことになるが、憲法は、前述の
とおり議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項を法律で定める旨
規定し、憲法四四条但書(人種、信条、性別、社会的身分等による差別の禁止)に
反しない限り選挙に関する事項の決定を国会の裁量的権限に委ね、完全比例代表制
以外の代表制度を採用することをも可能ならしめているのであるから、異なる選挙
区間における投票価値の平等は憲法の要請するところではないといわなければなら
ない。
したがつて、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数あるいは人口の較差をも
つて憲法上の選挙権の平等の要求に反するとする原告らの主張は、その立論の前提
に誤りがあるといわなければならない。
2 前記のとおり、憲法は国会議員の定数、選挙区、投票の方法等選挙制度に関す
る事項はすべて法律によつて定めるものとしており、右は、選挙制度については政
治の領域において公正かつ効果的な代表制度を確立せしめようとする趣旨によるも
のであるから、国会は憲法上選挙制度全般に関し広汎な裁量権を有し、議員定数の
配分に関しても、それが極端な不平等を生ヒさせ憲法一四条の趣旨に反するような
場合は格別、それ以外の場合には、立法政策の当否の問題を生ずるにとどまり、違
憲の問題を生ずる余地はないものというべきである。
衆議院議員に関する選挙区別定数配分は、人口要素と共に、従来の議員定数配分の
沿革、選挙区の大小、行政区画の歴史的沿革、地域の住民構成、交通事情、産業、
経済、地理的条件等の非人口的要素を考慮し、高度の政治的裁量の結果、昭和五〇
年法律第六三号による改正を経たものである。その後の人口の漸次的異動により、
昭和五五年国勢調査の結果(確定は昭和五七年三月一九日)によれば議員一人当た
り選挙区別人口数につき最大四・五四倍程度の較差が生じたとしても、右の程度の
較差は未だ極端な不平等には当たらないものというべきである。また、仮に右程度
の較差をもつて違憲状態に近いというべきであるとしても、本件選挙は、右国勢調
査の結果に基づき国会において定数是正に関し慎重な論議がされている最中の昭和
五八年一一月二八日衆議院が解散されたことによるものであり、このような解散に
基づく選挙の場合には、投票価値の較差を是正すべきか否かは立法政策の問題にと
どまるものと解し、当該選挙を有効とすべきである。なぜなら、右のように解しな
いとすれば、解散権の行使は常に定数是正後でなければできないということにな
り、このことは結局解散の対象となる国会自体の慎重あるいは怠慢により内閣の解
散権の行使が不当に制約されることを意味し、三権分立という憲法の大原則に甚し
くもとることとならざるをえないからである。
3 仮に、異なる選挙区間における投票価値の平等もまた憲法の保障するところで
あり、かつ、本件選挙時の選挙区間における議員一人当たりの選挙人数あるいは人
口の較差が憲法の選挙権の平等の要求に反する状態にあつたとしても、右状態は、
昭和五〇年における議員定数配分規定の改正後(右改正時の議員定数配分規定の下
における議員一人当たりの人口数の較差が憲法の選挙権の平等の要求に反しない状
態にあつたことについて後記昭和五八年一一月七日の大法廷判決参照)における人
口の漸次的異動によつて生じたものであるところ、右状態に達した時から本件選挙
までの間に右配分規定が右人口異動に応じて是正されなかつたことは、最高裁判所
昭和五一年四月一四日大法廷判決・民集三〇巻三号二二三頁以下の一連の判例にい
う「憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかつた」場合には当たらないも
のというべきである。以下、その理由を述べる。
(一) 最高裁判所昭和五八年一一月七日大法廷判決・民集三七巻九号一二四三頁
は、前回選挙当時、選挙区間における投票価値の較差は憲法の要求する選挙権の平
等の要求に反する状態にあつたとするが、議員定数配分規定が憲法の要求する合理
的期間内に是正されたかどうかについで、昭和五〇年の右規定の改正により前記昭
和五一年四月一四日の大法廷判決により違憲と判断された投票価値の不平等状態は
解消されたが、その後の人口の異動により不平等状態に至つたとし、その時点は判
然としないけれども、右選挙当時よりある程度以前に右状態に達していたものと推
認せざるをえないと判示したのに続いて「以上の事実と次の諸点、すなわち、選挙
区間における議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差が憲法の選挙権の平等の要
求に反する程度に達したかどうかの判定は、前記のとおり、国会の裁量権の行使が
合理性を有するかどうかという極めて困難な点にかかるものであるため、右の程度
に達したとされる場合であつても、国会が速やかに適切な対応をすることは必ずし
も期待し難いこと、人口の異動は絶えず生ずるものである上、人口の異動の結果、
右較差が拡大する場合も縮小する場合もありうるのに対し、議員定数配分規定を頻
繁に改正することは、政治における安定の要請から考えて、実際的でも相当でもな
いこと、本件選挙当時、選挙区間にもける議員一人当たりの選挙人数の較差の最大
値が前記大法廷判決(昭和五一年四月一四日大法廷判決)の事案におけるそれを下
回つていること、などを総合して考察すると、本件において、選挙区間における議
員一人当たりの選挙人数の較差が憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に達した
時から本件選挙までの間に、その是正のための改正がされなかつたことにより、憲
法上要求される合理的期間内にわける是正がされなかつたものと断定することは困
難であるといわざるをえない。」と述べて、右選挙当時、議員定数配分規定が憲法
上要求される合理的期間内に是正がされなかつたとはいえないとしている。
右大法廷判決の判示するところによれば、議員定数配分規定が憲法上要求される合
理的期間内に是正されたといえるかどうかを判断するにあたつて、いつ、選挙区間
における議員一人当たりの選挙人数あるいは人口の較差が投票価値の平等に反する
程度に達したかどうかの判定が困難であるばかりでなく、客観的に右状態に達した
と判断されるとしても、これに対する国会の適切かつ速やかな対応が期待し難いと
いう事情を極めて重視していることが窺える。
選挙区間における議員一人当たりの選挙人数あるいは人口の較差が憲法の選挙権の
平等の要求に反する状態に達したかどうかの判定が困難であるということは、立法
府たる国会において右状態に達したことの認識を持つことが困難ということであ
り、右大法廷判決の判示は、結局のところ、国会において、達憲状態に達したこと
の認識が現実にあつたかどうか(認識がなければ、まさに右判示のとおり適切かつ
速やかな対応が期待できないのは当然である。)、あるいは少なくとも、右認識が
容易であつたかどうかを、議員定数配分規定が憲法上要求される合理的期間内に是
正されたかどうかを判断する上での重要な要素とすべきことを述べているものと解
されるのである。そもそも、憲法の要求する合理的期間内に是正がされなかつたと
は、いわば立法の不作為が一定期間の経過により違憲と評価される場合であり、右
期間を考えるにあたつては立法義務の存在あるいはその契機となる事情(議員定数
配分規定についていえば投票価値の不平等状態が憲法の要求に反する状態になつて
いるかどうか)を立法府が認識していたかどうかを重視すべきは当然のことといわ
なければならない。
(二) 以上の見地に立つて、本件について議員定数配分規定が憲法上要求される
合理的期間内に是正されなかつたかどうかについて、以下検討する。
(1) 国会における本件議員定数配分規定の違憲状態の認識について
議員定数配分規定が憲法の選挙権の平等の要求に反する状態にあるかどうかの判断
は、本来国会が自律的に判断すべきものであろうが、その判断は既述のとおり極め
て困難で不可能ともいうべきものであり、結局のところ裁判所における判断によら
ざるをえないところ、前記昭和五一年四月一四日の大法廷判決は、投票価値の較差
約一対五の事案についてそれが投票価値の平等の要請に反するものと認めたが、投
票価値の不平等を判断する具体的基準についてはなんら言及していなかつた。その
後、昭和五一年一二月五日実施の選挙につき東京高等裁判所昭和五三年九月一三日
判決(行裁例集二九巻九号一六二一頁)は、一対三・五の較差の存在をもつて違憲
としたが、同裁判所昭和五三年九月一一日判決(行裁例集二九巻九号一五九六頁)
及び国家賠償請求訴訟に関する東京地方裁判所昭和五二年八月八日判決(判例時報
八五九号三頁)は、違憲とはいえないと判断し、また、昭和五四年一〇月七日実施
の選挙につき、国家賠償請求訴訟に関する札幌地方裁判所昭和五六年一〇月二二日
判決(判例時報一〇二一号二五頁)は、一対三・一六あるいは一対三・三二の較差
の存在をもつて客観的明白に違憲とはいえないと判断していた。更に、前回選挙に
つき、東京高等裁判所昭和五五年一二月二三日判決(行裁例集三一巻一二号二六一
九頁)及び大阪高等裁判所昭和五七年二月一七日判決(行裁例集三三巻)・二号四
二頁)は、一対三・九四の較差の存在をもつて違憲とし、前記昭和五八年一一月七
日大法廷判決は、右較差をもつて憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つて
いたものと判断した。
そこで、まず、昭和五三年九月一三日時点において一対三・五の較差を違憲とする
裁判所の判断がなされたので、その時点で国会にも前記認識が生じたといえそうで
あるが、他方同一較差につき異なる裁判例も存在していたから、その時点をもつて
国会の前記認識を肯定することはできない。
次に、昭和五五年一二月二三日の時点における右認識の有無であるが、同日の東京
高等裁判所判決は、「おおむね一対二を超える」議員定数配分規定を違憲とする判
断基準を設定したうえで違憲と判断したものであるところ、かかる判断方法は、そ
れに先立つ前記昭和五一年四月一四日大法廷判決のそれとは質的に異なるうえ、判
例としての事実上の拘束性も劣るから、到底採りえない考え方であつたというべき
であつて、右判決によつて直ちに国会に前記認識を肯定することもできないという
べきである。
そうすると、結局国会としては、昭和五八年一一月七日の大法廷判決によつて初め
て、右昭和五一年四月一四日大法廷判決の示した最大較差約一対五を下回る較差に
ついてそれが選挙権の平等に反する状態であつたとの認識を持つことができたもの
というべきである。これより先昭和五七年二月一七日の大阪高等裁判所判決が下さ
れた時点で認識すべきであつたというべきだとする見解もありうるかもしれない
が、右判決に対し上告があり、事件が上告審に係属中であつたことからすれば、右
時点で認識すべきであつたということはできない。
(2) 本件選挙までに経過した期間の長短について
次に、本件議員定数配分規定の下における議員一人当たりの選挙人数ないし人口の
較差が投票価値の平等に反する状態に達したとされる時点から本件選挙までの経過
期間についてみると、前記昭和五八年一一月七日の大法廷判決によると、前記のと
おり前回選挙時(昭和五五年六月二二日)よりある程度以前に右状態に達していた
ということであるから、本件選挙時(昭和五八年一二月一八日)においては、右状
態に達してのち約三年六月にある程度の期間を加算した期間が経過していることに
なるが、議員定数配分規定の是正の困難さを考慮すれば、右程度の期間は必ずしも
十分な期間とはいえないものである。すなわち、選挙区間の較差に影響を及ぼすべ
き議員の定数、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数は、憲法の要請ず
る代表民主制の下における選挙制度そのものが国民の代表の的確な選任、政治的少
数者の擁護、政局の安定を要請していることから、単なる数字の操作によつて解決
することのできない高度の政治的・技術的要素を含む事項であり、議員定数配分規
定の改正にあたつては各政党、議員の政治的配慮等から種々の是正案が提案される
ことは避け難く、各政党及び国会において多大の時間と労力を費して準備作業が進
められ、法案審議が行われるのである。従前の例をみても、例えば、昭和三九年法
律第一三二号による議員定数配分規定の改正は、従前の配分規定を是正する必要が
あるとされ、そのための検討が第一次選挙制度審議会で開始されてから三年余りの
日時を要して実現したものであり、また、昭和五〇年法律第六三号による議員定数
配分規定の改正は、衆議院の公職選挙法改正に関する調査特別委員会に公職選挙法
改正調査小委員会が設置され、検討が開始されてから一年余りの日時を要して実現
したものであるが、このほかに各政党内の準備作業に要した日時が存するのであ
る。
まして、前記のように国会が議員定数配分規定の改正の必要を認識しうるようにな
つた昭和五八年一一月七日の大法廷判決以後の政治状況をみると、同年一〇月一二
日の東京地方裁判所のロツキード丸紅ルート刑事判決を契機として、国会審議は著
しく混乱し、遂に同年一一月二八日衆議院が解散となり、同年一二月三日公示、同
月一八日投票(本件選挙)と決定されたのであるから、右大法廷判決後右解散に至
るまでの間に議員定数配分規定を改正することはおよそ時間的に不可能であつたと
いわなければならない。
なお、本件選挙後の第一〇一国会において、総理大臣は、施政方針演説の中で、各
党、各派の今後の合意に基づき議員定数配分規定の改正につき具体的な成果が挙が
るよう政府としても努力することを表明しており、また、各党においても、それぞ
れの是正案が提案ないしは検討されているところである。
以上のような諸事情を総合的に考えると、仮に右大法廷判決より以前の昭和五七年
二月一七日の時点で国会において較差が憲法の要求する投票価値の平等に反する状
態に至つたと認識すべきであつたとしても、当該時点から本件選挙時までの期間は
約一年一〇月にすぎないところ、較差の程度及び政治における安定の要請を考慮す
れば右期間は議員定数配分規定の改正のために相当な期間というには余りに短時日
すぎるといわざるをえないのであり、いまだ憲法上要求される合理的期間内に右規
定が是正されなかつたとはいえないというべきである。
4 仮に以上の被告の主張が理由がなく、議員定数配分規定が違憲であるとして
も、本件選挙が無効と判断されても、右判断によつて違憲状態が是正されるわけで
はなく、かえつて憲法の所期するところに適合しない結果を生ずることは明らかで
あるから、行政事件訴訟法三一条の法理にしたがい事情判決をするのが相当であ
り、本訴請求は棄却されるべきである。
第三 証拠関係(省略)
○ 理由
第一 本件訴えの適法性について
一 本件選挙が昭和五〇年法律第六三号によつて改正されたのちの議員定数配分規
定に基づいて施行されたこと、原告らが本件選挙の千葉四区における、選挙人であ
つたことは、当事者間に争いがない。また、成立に争いのない乙第一号証によれ
ば、本件選挙当時において原告らの属する千葉四区の衆議院議員一人当たりの人口
(昭和五五年度国勢調査確定人口)は四九万九七六三人であり、右は全国平均の衆
議院議員一人当たりの人口二二万九〇八一人の約二・一八倍であること、右選挙区
において選出すべき議員数は三名であることが認められ(右千葉四区の人口、選出
すべき議員数については、原告A、B、Cと被告との間では争いがない。)、原告
ら主張のように投票価値の平等を尊重する見地から議員定数配分の是正を行つた場
合には、右選挙区に配分される議員数が本件選挙の際のそれと異なつたものになる
可能性があるというべきであるから、本件訴訟提起については法的利益が存するも
のというべきである。
本件の訴えが、公選法二〇四条所定の選挙の日から三〇日の期間内に提起されたも
のであることは、本件記録上明らかである。
二 被告は、本件訴えは不適法であると主張するので、以下右主張について判断を
加える。
公選法二〇四条の規定による衆議院議員の選挙の効力に関する訴訟は、当該都道府
県の選挙管理委員会を被告として提起すべきものとされ、また、右訴訟について
は、同法二〇五条により、選挙の規定の違反があり、かつ、それが選挙の結果に異
動を及ぼす虞がある場合に限り、選挙の全部又は一部の無効を判決すべきものとさ
れており、この判決が確定した場合には再選挙が行われる(同法一〇九条四号)。
右のような公選法の規定に照らせば、右訴訟は、一般的には、同法の規定に違反し
て行われた選挙の効力を失わせ、改めて同法に基づく適法な選挙を行わせることを
目的とするものと解される。しかし、選挙区割と各選挙区に対する議員定数の配分
は、選挙制度のいわば骨格をなす重要な事項であるところ、これらに関する公選法
の規定そのものが違憲であるとすれば、それは、選挙にとつて、それが個々の公選
法の規定に違反して行われたことより以上に重大な法的瑕疵であり、かつ、国民の
基本的権利にかかわる事柄であること(この点については、のちに本案に関する判
断として詳述する。)、右訴訟は現行法上選挙人が選挙の適否を争うことのできる
唯一の訴訟であることを考慮すると、右訴訟において、議員定数配分規定の内容が
選挙権の平等に関する憲法上の要求に反することを選挙の無効事由として主張する
ことも許されるものと解すべきである(最高裁判所昭和五一年四月一四日大法廷判
決・民集三〇巻三号二二三頁参照)。このような訴訟において選挙を無効とする旨
の判決があつた場合、再選挙を行うためには、まず議員定数配分規定を改正する必
要があるところ、公選法一〇九条四号、三四条一項によれば、同法二〇四条の訴訟
によつて選挙が無効とされた場合の再選挙は、これを行うべき事由が生じた日から
四〇日以内に行わなければならないものとされており、しかも再選挙の期日は少な
くとも一五日前に告示しなければならない(同法三四条六項三号)ので、実際上大
多数の場合には、議員定数配分規定の改正を実現したうえ所定期間内に再選挙を実
施することは不可能であろうことは、十分にうかがえる。しかし、右のように議員
定数配分規定の違憲を理由として選挙が無効とされるのはむしろ異例に属する場合
であるから、このような場合については、再選挙を施行すべき期間に関する前記規
定の適用に関し一般の場合と異なつた取扱いを認めるような解釈をとることも可能
であろうと考えられ、議員定数配分規定を改正したうえで再選挙を行うことが不可
能であるとは必ずしもいい難い。また、そもそも、再選挙の施行に支障があるとし
ても、そのこと自体は、再選挙の手続に関する規定を整備すべき理由にはなつて
も、前記のような重大な法的瑕疵の存する選挙の効力を維持すべきものと解する根
拠としては不十分であり、いやしくも憲法に適合した議員定数配分規定に基づいて
選挙が行われれば選挙の結果が異なつたものとなる可能性がある以上、再選挙の施
行につき手続上の支障のあることは「選挙の結果に異動を及ぼす虞」のある法的瑕
疵の存在を否定する理由にはならないものというべきである。更に、このように議
員定数配分規定の違憲を理由とする選挙訴訟を許すとすれば、各選挙区につき同種
の訴えが提起された場合、衆議院がその構成員を欠き、その活動を行いえなくなる
という虞もないとはいえないが、そのような事態は常に生ずるものでないし、ま
た、のちに本案に関して述べるとおり、そのような事態を避けろためには右訴えそ
のものを不適法とする以外に方法がないわけではないから、この点も、前記訴訟を
不適法と解すべき根拠とくて十分なものではない。
なお、後述のとおり、国会議員の定数の配分をいかに行うかは、第一次的には立法
府の裁量に委ねられているものと解されるが、定数配分の問題が前記のような国民
の基本的権利にかかわることや、国会が国民の代議機関として正当に構成されてい
るかどうかにかかわる事柄の性質上、その適否が専ら国会自身の政治的判断に委ね
られていると解するのは合理的でないことからいつて、選挙権の内容につき到底合
理性を認めることができないような不平等を招来する定数配分が行われている場合
については、これに対し裁判所の審査権が及びうるものと解すべきであつて、この
点からも、本件のような訴えを不適法と解することはできない。
三 以上によれば、本件訴えは適法なものというべきである。
第二 本件議員定数配分規定の適否について
原告らは、本件選挙に適用された議員定数配分規定は憲法上の選挙権の平等の要求
に反するものであり、本件選挙当時違憲であつた旨主張するので、以下検討する。
一 憲法と選挙人の投票価値の平等
国会議員の選挙における選挙権は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権
利として、憲法の採用する議会制民主主義の根幹をなすものであるところ、憲法
は、一四条一項において、すべて国民は法の下に平等であると定めるとともに、右
平等原理の政治の領域における適用として、国会の両議院の議員を選挙する権利は
国民固有の権利として成年である国民のすべてに保障される旨(一五条一項三項)
及び選挙人資格については人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は
収入によつて差別してはならない旨(四四条但書)の規定を設けている。これらの
規定及びその背景をなす国民の政治的権利における平等の原則の歴史的発展の経緯
からすると、右一五条一項等の規定の文言上明らかな選挙人資格における差別の禁
止のみならず、選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等も、憲法の要
求するところであると解するのが相当である。そして、このような投票価値の平等
の要求は、同一選挙区の選挙人相互間について存するにとどまらず、異なる選挙区
の選挙人相互間についても存するものというべきである。けだし、国会議員の選挙
につき選挙区制をとる場合であつても、国会においては、原則として各選挙区から
選出された議員による多数決によつて議決が行われる(憲法五六条二項)のであつ
て、各選挙区は、右のような議員の選出母体であるにとどまり、国会の活動上それ
以上の機能を果たすものではないから、憲法が、個々の選挙区において選挙人の代
表者が適切に選出されることを保障しながら、国全体として国民の意思が正当に国
会に反映されることを保障していないと考えるのは不合理であり、異なる選挙区間
においては選挙人の投票価値の平等が保障されていないものと解すべき実質的理由
はなく、また、そのように解しなければならない実定法上の根拠も見当たらないか
らである。公選法が衆議院議員の選挙についていわゆる完全比例代表制を採用して
いないことは、後述のように、憲法が投票価値の平等を完全に貫徹することを要求
するものではないことに基づくものと解され、これをもつて異なる選挙区間におけ
る投票価値の平等に関する憲法の要求そのものを否定する根拠とすることはできな
い。
もつとも、憲法は、国会両議院の議員の選挙について議員の定数、選挙区、投票の
方法等に関する事項は法律で定めるものとし(四三条二項、四七条)、具体的な選
挙制度の内容の決定を国会の裁量に委ねており、したがつて、前記投票価値の平等
も、具体的選挙制度の決定にあたつて国会が考慮すべき唯一絶対の基準であるとい
うことはできないが、国会が決定した具体的選挙制度において現実に投票価値の不
平等を生じている場合には、それは国会が右制度の決定にあたり正当に考慮するこ
とのできる政策目的等に基づく結果として是認することができるものでなければな
らないと解され、この点について国会に無制限の裁量権が与えられているものでは
ない(前記最高裁判所昭和五一年四月一四日判決参照)。
二 議員定数配分規定と選挙権の平等
衆議院議員の選挙について、公選法一三条一項、別表第一、同法附則七ないし九項
は、各都道府県を一個ないし数個の選挙区に分け、各選挙区においてそれぞれ右別
表に定める三人ないし五人の議員を選出すべき旨を定め、かつ、右選挙区割及び各
選挙区で選出すべき議員数は、同法施行の日から五年ごとに、直近に行われた国勢
調査の結果によつて更正するのを例とするものとしている。
選挙人の投票価値の平等に関する前記のような憲法上の要求に照らせば、右選挙区
割及び各選挙区の選出すべき議員数を決定するにあたつては、右議員数と当該選挙
区の人口ないし選挙人数(両者はほぼ比例するものと考えられるので、以下におい
ては主として人口数を基準として論ずる。)との間にある程度の均衡が保たれるよ
うにこれを定めなければならず、したがつて、議員一人当たりの人口の選挙区間の
較差は一定限度以上に拡大されてはならないものというべきである。もつとも、選
挙区割を決定するにあたつては、地域の地方行政上の区画としての一体性、地理
的・経済的なまとまり、歴史的沿革等の諸般の事情を考慮する必要があり、また、
社会の急激な変化により人口の移動等投票価値の平等に影響を及ぼすような事情が
生じた場合、政治における安定の要請をも考慮しつつ、これをどのように選挙区割
や議員定数配分に反映させるかも問題になるが、これらが原則的には国会がその裁
量によつて考量すべき事項であることは、前述のとおりである。このように、衆議
院議員の選挙における選挙区割と議員定数の配分の決定については、多様かつ複雑
微妙な政策的及び技術的考慮要素が存し、その中で選挙人の投票価値の平等の要求
がどの程度まで充足されなければならないのかについて厳密な一定の客観的基準が
存在するとはいい難いのであるが、憲法の採用する二院制の下において、衆議院に
ついてはその憲法上の地位にかんがみ特に国民全体の政治的意思をより直接的に反
映するような選挙制度が予定されているものと解すべきであり、このことを前提と
して考えた場合に、具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における投
票価値の不平等が、国会において通常考慮しうる前記のような諸般の要素を斟酌し
てもなお、一般的に合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているとき
は、このような不平等を正当化すべき特段の事情が存在しない限り、右不平等は憲
法の要求に反するものといわなければならない。
三 本件議員定数配分規定の憲法への適合性
成立に争いのない甲ロ第一号証、前出乙第一号証によれば、本件選挙の際の各選挙
区における選挙人数・選出すべき議員数・議員一人当たり選挙人数、全国平均の議
員一人当たり選挙人数に対する各選挙区のそれの比率は別紙(二)記載のとおりで
あり、また、昭和五五年の国勢調査確定人口による各選挙区別の人口・議員一人当
たり人口、最小である兵庫五区の議員一人当たり人口を一とした場合の各選挙区の
議員一人当たり人口、全国平均の議員一人当たり人口に対する各選挙区のそれの比
率は別紙(三)記載のとおりであることが認められる。
右によれば、本件選挙当時において、全国平均の議員一人当たり選挙人数を一とし
た場合、各選挙区の議員一人当たり選挙人数は最大値が千葉四区の二・一八八八
三、最小値が兵庫五区の〇・四九六四九であり、また、前記国勢調査に基づく人口
についてみると、全国平均の議員一人当たり人口を一とした場合、各選挙区の議員
一人当たり人口は、最大値が千葉四区の二・一八、最小値が兵庫五区の〇・四八で
あり、選挙区間の最大較差は一対四・五四である(右最大較差については、原告
A、B、Cと被告との間では争いがない。)。
そこで、右のような較差を憲法上の投票価値の平等の要求との関係でとのように考
えるべきかであるが、前記のように、選挙区割及び各選挙区への議員定数の配分を
決定するための考慮要素としては人口以外にも種々のものがあり、その内容を数量
的に評価することは不可能であつて、これらを加味した場合にどの程度までの選挙
人の投票価値の較差が許容されるべきかを一般的に根拠づけることは困難である。
また、選挙区の規模等具体的な選挙制度の内容との関係で、右の許容されるべき較
差の限度をどのように考えるべきかにも問題がある。しかし、衆議院議貝の選挙の
場合、憲法上議員定数配分につき国会の裁量を尊重する趣旨がうかがわれるとはい
え、その一方において、右定数配分を決定するにあたつて人口が最も基本的な考慮
要素であることは前述したところから明らかであり、これに加えて、定数も相当多
数にのぼることが当然予想され、かつ、都道府県議会の議員の選挙の場合にみられ
る(公選法一五条一項参照)ように選挙区につき原則として郡、市をもつてその区
域とすべきであるとの要請が選挙の性質上特に存するわけでもない結果として、選
挙区割に関するいわば技術的な制約から必然的に生ぜざるをえない較差の程度は必
ずしも大きいとはいえないことを考慮すると、一応の大まかな目安として、歴史的
沿革や地理的条件等において他と比較して際立つた特異な事情が認められるような
地域でない限り、選挙人の投票価値の較差はおおよそ一対三程度までの範囲にとど
まるべきものであり、これを大幅に超えるような較差が生じている場合には、憲法
の要求する選挙権の平等に反する状態が生じているものと推定するのが相当であ
る。
そして、前記の兵庫五区及び千葉四区について右のような特異な事情が存したこと
についての主張、立証はないから、本件選挙当時右両選挙区間に存した前記のよう
な投票価値の較差は、国会において議員定数の配分を決定するについて通常考慮し
うる諸般の要素を斟酌してもなお、一般的に合理性を有するとは到底考えられない
程度に達していたものというべきであり(最高裁判所昭和五八年一一月七日大法廷
判決・民集三七巻九号一二四三頁参照)、これを正当化すべき特段の事由を見出す
ことはできない。
したがつて、本件選挙当時生じていた選挙区間の投票価値の較差は、憲法上の選挙
権の平等の要求に適合しない程度に達していたものというべきである。
四 憲法上是正を行うことが要求される合理的期間の経過
本件選挙に適用された議員定数配分規定は、前記のとおり昭和五〇年法律第六三号
によつて改正されたのちのものであるところ、成立に争いのない乙第五号証によれ
ば、右法改正は、大都市を中心とする急激な人口移動の結果、従前の議員定数配分
規定によつたのでは議員一人当たり人口において最大一対四・八三の較差(昭和四
五年国勢調査人口に基づき兵庫五区と大阪三区との間に認められる較差)を生ずる
ことになつたところから、これを最大較差一対二・九二(兵庫五区と東京七区間)
にまで縮小することを内容とするものであつたことが認められる。右改正後の較差
に示される選挙人の投票価値の不平等は、前述になところから明らかなように、具
体的選挙制度の決定に関して国会の有する裁量権の限界を超え憲法の要求に違反す
るものと推定すべき程度に達しているものとはいえず、他にこれを合理性を欠くも
のと認めるに足りる事情も見出すことができないので、右法改正によつて一応それ
までに存した憲法の要求に反するような投票価値の不平等は解消されたものと考え
られる(前記最高裁判所昭和五八年一一月七日判決参照)。
したがつて、前認定のような本件選挙当時における選挙人の投票価値の不平等は、
右法改正後における人口変動によつてもたらされたものであるが、このように制定
当時憲法に適合していた議員定数配分規定がその後における社会情勢等の漸次的な
変動の結果憲法に適合しないようになつた場合、右不適合を生ぜしめるような事情
の変更そのものによつて直ちに右規定が違憲となるのではなく、右事情の変更によ
り客観的に法の規定が憲法に適合しない状態が発生したにもかかわらず、憲法上要
求されていると考えられる合理的期間内に法律の内容を是正する措置がとられなか
つた場合にはじめて右法律の規定は違憲となるものと解される(前記最高裁判所昭
和五一年四月一四日判決参照)。
そこで、本件議員定数配分規定を憲法に適合しないものとするような人口の異動が
生したのち本件選挙までの間に定数配分是正を行うべき合理的期間が経過したかど
うかを検討する。
成立に争いのない乙第三号証によれば、昭和五〇年国勢調査確定人口による各選挙
区の人口・議員一人当たり人口、最小である兵庫五区の議員一人当たり人口を一と
した場合の各選挙区の議員一人当たり人口、全国平均の議員一人当たり人口に対す
る各選挙区のそれの比率は別紙(四)のとおりであることが認められ、これによる
と、全国平均の議員一人当たり人口を一とした場合の各選挙区の議員一人当たり人
口は、最大値が千葉四区の一・八八、最小値が兵庫五区の〇・五一、選挙区間の最
大較差は一対三・七二であるところ、右国勢調査による確定人口が昭和五二年五月
一四日までに官報に登載されたことは裁判上顕著な事実である。
右によれば、右国勢調査の行われた昭和五〇年一〇月当時既に衆議院議員の定数配
分と人口の分布状態との間に大きな離隔を生じ、憲法上の投票価値の平等の要求に
反する状態となつていたものというべきであり、しかも昭和五二年五月には一般に
この事実を認識しうる状態にあつたものである。そして、右のような較差をもたら
した人口の変動が、主としてわが国の工業の発展を中心とした産業経済構造の変革
に伴う人口の都市集中に起因するものであつて、単なる一時的現象にすぎないもの
でなかつたことは、公知の事実である(別紙(四)と別紙(三)を比較してみて
も、昭和五〇年当時の人口の分布状況は、東京周辺部などで若干の増加傾向を示す
ほか、大体においてそのまま昭和五五年まで継続していることが認められ、更に別
紙(二)による本件選挙当時の選挙人数の分布状況も、ほぼこれに一致してい
る。)ところ、本件選挙までに、右状態が生じてからは八年以上、それが一般に認
識されうるようになつてからでも六年以上の年月が経過しているのであるから、一
般に選挙区割や議員定数の配分を頻繁に変更することは相当でなく、また、これに
は複雑な政治的利害が絡みその是正に実際上相当の困難が伴うことを考慮に入れて
も、右較差是正を行うべき合理的期間が既に経過したものといわざるをえない。
この点について、被告は、議員定数配分規定が憲法の選挙権の平等の要求に反する
状態にあるかどうかの判断は事実上裁判所の判断に依存せざるをえないところ、前
記最高裁判所昭和五一年四月一四日判決は投票価値の較差約一対五の事案について
それが憲法の要求に反するものと認めたが、右不平等の有無を判断する具体的基準
について言及せず、前記最高裁判所昭和五八年一一月七日判決によつて(あるいは
少なくとも大阪高等裁判所昭和五七年二月一七日判決によつて)はしめて一対三・
九四の較差が憲法に適合しないことが明らかにされ、立法府にその旨の認識が生じ
たのであるから、較差是正を実現すべき合理的期間は本件選挙施行までに経過して
いない旨主張する。
しかしながら、被告も自ら認めているように、議員定数配分規定が憲法の選挙権平
等の要求に反する状態にあるかどうかは、本米国会が自律的に判断すべき事柄であ
る。その判断基準が必ずしも一義的に明確なものでないことは既に述べたとおりで
あるが、そのような判断基準の不明確を理由として国会がこれについて積極的に判
断を下し、必要に応じてこれを是正する措置をとらないとすれば、それは、この問
題に対する立法府としての責任を自ら放棄することを意味するものといわなければ
ならない。もとより、国会がこの問題に対して下す判断が裁判所の判断と常に一致
するとは限らないが、この点については前記のように国会の裁量権が承認されてお
り、右裁量の限界を超えた場合にはじめて違憲の問題を生ずるのであるから、実際
問題として国会がこの問題につきその態度を決するにあたつて法解釈上の困難に直
面する場合が多いとは必ずしも考えられないのであり、国会は、右のような困難が
あることを理由として較差是正を行うべきその責務を免れることはできないものと
いうぺきである。したがつて、被告の前記主張は、その前提とするところにおいて
既に失当であり、採用することができない(なお、附言すれば、前記最高裁判所昭
和五一年四月一四日判決は、約一対五の較差につき、「一般的に合理性を有するも
のとはとうてい考えられない程度に達しているばかりでなく、これを更に超えるに
至つているもの」と判示しているのであつて、これからしても、国会に対し右較差
より小さい較差についてもその憲法適合性の有無を吟味検討すべきことが要請され
ていることは明らかであつたというべきである。)。
なお、被告は、本件選挙は内閣の衆議院解散権の行使によるものであるところ、こ
のような選挙については、投票価値の較差を是正したうえでこれを行うかどうかは
立法政策の問題である旨主張する。
本件選挙が内閣の衆議院解散権の行使に基づくものであることは公知の事実である
が、前記の較差是正を行うベき合理的期間は、選挙権の平等を害するような較差を
生ぜしめる議員定数配分規定がその間において改正されることを合理的に期待しう
るに足る期間なのであるから、右期間が経過した以上、右規定は憲法に違反するも
のといわざるをえないのであり、右期間経過後に行われる選挙の効力については、
それが内閣の解散権の行使によるものであつても、法律上他の事由に基づく選挙と
異なつた取扱いをすべき理由はない。その結果として内閣の解散権が事実上制約さ
れることが起こりうるとしても、それは事柄の性質上やむをえないことであり、以
上とは逆に、内閣の解散権を確保するために違憲の選挙法規の効力をあえて承認す
るような法解釈をとることは、本末を転倒するものとのそしりを免れないであろ
う。
以上述べたとおり、本件選挙当時の議員定数配分規定は憲法に違反するものである
ところ、選挙区割及び議員定数の配分は、議員の総数との関連の下に、かつ、全選
挙区にわたる複雑、微妙な考慮の下に決定されるものであり、各選挙区に対する定
数配分は相互に有機的な関連を有し不可分の一体をなすものであるから、右議員定
数配分規定は、単に憲法に違反する不平等を招来している部分のみでなく、全体と
して違憲の瑕疵を負うものというべきである。
第三 本件選挙の効力
右のとおり、本件議員定数配分規定は本件選挙当時において全体として違憲という
べきであるが、公選法が特に選挙訴訟の制度を設けている趣旨等からいつて、これ
によつて当然に選挙が無効となるものとは解されない。他方、右違憲を理由に千葉
四区における本件選挙を将来に向かつて無効とする判決をし、その選出議員の資格
を失わせた場合を考えると、これによつて直ちに憲法に適合する状態がもたらされ
るわけではなく、右状態を実現するためには議員定数配分規定自体の改正にまたな
ければならないのであり、また、全国の選挙について同様の訴訟が提起されれば今
後における衆議院の活動が不可能になるという不当な結果を生ずることも予想さ
れ、更に、一部の選挙区の選挙のみの無効にとどまつた場合でも、右公選法の改正
を含むその後の衆議院の活動が選挙を無効とされた選挙区からの選出議員を欠くま
まの状態の下に行われざるをえないという望ましくない結果を招くのであるから、
少なくとも、国会による自律的な是正になお期待をかけうる限りこれに期待し、選
挙を無効とすることによる不当な結果を回避するのが相当である。そして、成立に
争いのない乙第六ないし第一三号証によれば、現在既に右自律的な是正を期待し難
い状況にあるものとはいまだ認め難い。このような場合、行政事件訴訟法三一条一
項に示された一般的な法の基本原則によれば、選挙を無効とすることを求める原告
らの請求を棄却するとともに当該選挙の違法を宣言すべきである。選挙関係訴訟に
ついて右行政事件訴訟法三一条の準用を排除する公選法二一九条の規定は、選挙に
ついてそれが憲法に違反する公選法の規定に基づいて行われたという一般性をもつ
瑕疵の存する本件のような場合を予想したものとは解されないので、右のような解
釈をとる妨げとなるものではない(前記最高裁判所昭和五一年四月一四日判決参
照)。
第四 結 論
よつて、本件選挙のうち原告らの所属する千葉四区における選挙を無効とすること
を求める原告らの本訴請求を棄却したうえ、右選挙区における選挙が違法であるこ
とを宣言することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九
二条但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木重信 加茂紀久男 梶村太市)

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