弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1被告らは,原告Aに対し,各自1817万4571円及びこれに対する,被
告有限会社Nについては平成17年12月14日から,被告Cについては平成
15年12月15日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告らは,原告Bに対し,各自1817万4571円及びこれに対する,被
告有限会社Nについては平成17年12月14日から,被告Cについては平成
15年12月15日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの,その余を被告らの負担とす
る。
5この判決は第1項及び第2項につき仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告Aに対し,連帯して4214万5900円及びこれに対する
平成15年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告らは,原告Bに対し,連帯して4214万5899円及びこれに対する
平成15年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,被告有限会社N(被告会社)の従業員であったD(D)が,平
成15年12月15日,職務遂行中に死亡したのは,被告会社及びその代表取
締役である被告C(被告C)が,Dに対し,長時間労働を強いたためであると
して,Dの両親である原告らが,被告会社に対しては労働契約に基づく安全配
慮義務違反,被告Cに対しては,不法行為に基づき損害賠償を求めた事案であ
る。
2争いのない事実等(証拠により容易に認められる事実については,かっこ内
に証拠を示す。)
(1)当事者
ア原告A(原告A)は,Dの父,原告B(原告B)は,Dの母であり,自
宅において和菓子屋を営むものである。
イ被告会社は,埼玉県越谷市内に主たる店舗を構え,和菓子製造・販売を
業とする有限会社である。
ウ被告Cは,被告会社の代表取締役であると同時に被告会社の和菓子製造
を行う職人である。
(2)Dの経歴等
D(昭和46年10月11日生)は,大学卒業後,いったんは一般企業に
就職したものの,和菓子職人の道を志して退職し,平成8年4月から平成1
0年3月まで,E学校夜間部に通学するかたわら,東京都麻布に所在するF
で修行をし,卒業後の平成10年4月から平成12年11月までは埼玉県北
本市所在のGに勤務した。平成12年11月頃,Dは被告会社で働きはじめ,
同年12月1日,正式採用となって被告会社に就職した。
(甲1,7,12,17,28)
(3)Dの死亡
Dは,平成15年12月15日,被告会社主催の食事会が開催された越谷
市c所在の「H」の風呂場浴槽内で倒れ,同日午前3時50分ころ,同所にお
いて死亡した(本件死亡)。Dは,死亡時32歳であった。
(4)業務認定
春日部労働基準監督署長は,平成17年3月18日,本件死亡を業務災害
と認定して,年金・一時金の支給決定をした(甲22)。
3争点
(1)本件死亡の原因(争点1)
(2)Dの業務と本件死亡との間に相当因果関係があるか(争点2)
(3)被告らに債務不履行ないし過失があるか(争点3)
(4)過失相殺(争点4)
(5)損害額(争点5)
(6)損益相殺の範囲(争点6)
4当事者の主張
(1)争点1(本件死亡の原因)について
(原告らの主張)
本件死亡の原因は,心原性突然死である。
(被告らの主張)
Dの遺体には,眉間や足に傷があったことから,浴室内における転倒が原
因とも考えられる。Dの死因が心原性突然死であったとは必ずしも特定で
きない。
(2)争点2(Dの業務と本件死亡の間には相当因果関係があるか)について
(原告らの主張)
アDの労働時間
(ア)死亡前2ヶ月の労働時間
Dの労働時間は別表1記載のとおりである。
これをみると,平成15年10月15日から同年12月14日にかけ
ては,所定労働時間が348.57時間であるのに対し,所定外労働時
間が305.03時間に達し,労働時間の合計は653.6時間となる。
平成15年10月22日,23日には,被告会社の5周年記念行事
(5周年記念行事)があり,Dもこれに向けての作業で忙しく,記念行
事直前には,午前零時を過ぎて退社する日も何日かあった。
また,Dの休日は週1日水曜日であったが,同月16日から28日に
かけては休みをとることなく13日間連続で出勤した。
(イ)死亡前1ヶ月の労働時間
平成15年11月15日から同年12月14日にかけては,所定労働
時間が171.43時間であるのに対し,所定外労働時間が153.6
7時間であり,労働時間の合計は325.1時間となっている。
(ウ)被告らの主張に対する反論
被告らは,Dが長時間作業を行ったとしても,それは本人が自己の技
能向上のために自主的に居残り作業をした時間であって,労働時間とし
て考慮されるべきではないと主張するが,どの時間がそのような作業時
間にあたるのか,またその間Dがどのような自主的作業をしたのかは一
切明らかにされていない。そして,被告らのいう自主的作業は,Dの死
亡前2カ月間に限って言えば,平成15年10月に行われた5周年記念
行事への出展を指すところ,同行事への出展は,被告会社における業務
の一環であり,その作業をDの労働時間から除外するいわれはないとい
うべきである。
イDの労務内容
(ア)和菓子製造作業の実態
a和菓子製造作業は,重労働である。
餅や団子,湯を沸かす大鍋など,和菓子材料や用具は一般に重量が
あり,これを持ち運ぶ作業には大変な労力を要する。被告会社では,
材料が2階の作業場所に保管してあるため,30キロもの粉の袋を2
階の作業場所から袋ごと下ろすこともあり,また,その日に必要な分
だけを計量して下ろしてくることもあるが,その場合でも,相当な分
量の粉を急な階段に気をつけながら下ろさなければならないのである。
そして,作業中には,使用した大鍋のお湯を床の排水口に向けて捨
てたり,重量のある餡やせいろごと蒸したものを運んだり,冷蔵庫か
ら和菓子を出し入れするなど,重いものを持ち運ぶ作業は数限りない。
なお,和菓子1個1個は100グラム程度にすぎないとしても,50
個,100個になれば,重さも5キログラム,10キログラムになる。
これを木箱や塩化ビニール製トレイに入れれば,さらに重量は増す。
さらに,餅や団子をこねる作業も,力の必要な作業であり,被告会
社作業場における作業は,狭い中で長時間立ちっぱなしの作業になる。
餅つきの際などは,継続した中腰作業を強いられる。
以上のとおり,和菓子製造が体力的にきつい仕事であることは明ら
かである。被告会社従業員のI(I)も「体力的にはきつい仕事」と
述べているところである。
b和菓子製造は複雑な作業である。
和菓子は,朝生と呼ばれる団子,大福,上生,中生と呼ばれるもの
や焼菓子など,多種多様であり,それぞれ複雑な工程で製造されてい
る。
Dら職人は,これら多種多様の和菓子を限られた時間内で作るため,
並行して作業を行わなければならず,手順が非常に重要となる。しか
し,手順を熟考して作業を進めても,急ぎの仕事が突然入ると,これ
らの手順を組み直さなければならず,被告会社のように少人数で製造
をしている場合には,このような作業手順の組み直しなどによるスト
レスも重なることになる。
(イ)Dの被告会社への就職とその後の経緯
Dが被告会社へ就職した平成12年12月当時,被告会社にはDのほ
か,Jという従業員がおり,被告Cと3人が和菓子作りに従事していた。
しかし,被告Cは外回りの仕事が多く,実質的には,JとDの2名で和
菓子作りを行っていた。
被告Cは,平成11年頃「テレビチャンピオン」というテレビ番組に
出演していたが,平成13年には同番組においてチャンピオンとなり,
「N」の名は一躍有名となった。このため,被告会社の商品の売れ行き
は増加し,Dはますます多忙な勤務を強いられることとなった。なお,
平成13年のテレビ番組出演時に出品された作品の細かい桜の花びらの
一つ一つは,前日夜中にDが徹夜同然で制作したものである。
平成14年6月ころ,Jが退職したため,Dは実質的に一人で,店の
和菓子製造を任されることとなり,ますます勤務は多忙となり,責任も
重いものとなっていった。
(ウ)椎間板ヘルニアの発症とその後の経緯
Dは,平成14年10月,通常の業務に加え,同年11月に熊本で開
催される菓子博覧会の準備に追われた。このような加重労働の結果,D
は,同年12月27日頃,椎間板ヘルニアを発症し,平成15年1月3
日には入院し,8時間にも及ぶ手術をうけた。
Dは椎間板ヘルニアにつき業務災害の認定を受け,1年ほどの療養を
することになった。しかし,平成15年5月頃,被告Cが交通事故を起
こし,業務上過失傷害の嫌疑で11日ほど逮捕・勾留されるという事態
が発生し,被告会社の営業を続けるため,Dはやむなく出勤せざるをえ
なくなった。このときの出勤がきっかけとなり,Dは通常業務に復帰す
ることとなったが,治療途中での職場復帰であり,かなりの無理をして
の復帰であった。
被告会社は,平成15年4月頃,Iを雇ったが,Iは当時まだ未熟で,
Iが担当した菓子に問題があることが出来上がり寸前に発覚し,Dが一
からやり直さなければならないということもあった。このような事態が
生じると,全てが責任者であるDの責任とされ,そのストレスも重なる
ことになった。
こうした中,Dは,5周年行事の直後である平成15年10月29日
には,その疲労やストレスから腹痛をおこし,投薬治療を受けている。
(エ)D死亡前日から当日にかけての労働内容等
被告会社は,平成15年12月14日,協力業者を招待したボーリン
グ大会及び食事会が開催した。Dは,ボーリング大会のスコアラー,食
事会の司会及び接待役と,この企画での責任者の役割を任されていた。
Dの当日の行動は次のとおりである。
12月14日
午前6時自宅出発
午前6時30分会社到着
午後5時30分まで会社にて通常勤務
午後6時から9時ボーリング大会
午後9時から11時結果発表と食事会
午後11時から翌午前2時30分慰労会
同日は日頃の長時間労働に加え,ほとんど通常とかわらない時間の勤
務をこなした後に,協力業者の接待であるボーリング大会や食事会にお
いて責任のある役割を任され,Dの緊張は極度に達していた。
ウ因果関係の判断について
Dは,心原性突然死により死亡しているところ,上記のとおり,その労
働時間は血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させて過労性脳・心臓
疾患を発症させるおそれのある程度に至っており,他に心原性突然死をひ
きおこす要因も見あたらないから,被告会社の業務と本件死亡とは相当因
果関係があるというべきである。
(被告らの主張)
アDの勤務時間
Dの勤務時間は概ね別表2のとおりである。
ただし,Dの労働は,その全てが「使用従属関係」にあるものではない
から,前記の「勤務時間」の全てを,いわゆる使用者による指揮監督の下,
時間的・場所的拘束下にあった「労働時間」として算入すべきではない。
なぜなら,Dは,いわゆる「見習い職人」として被告会社に勤務してい
たものであり,その勤務時間は,被告会社の従業員としての作業だけでな
く,D個人の技能向上のためにも費やされており,通常の勤務時間内であ
る午前8時から午後7時半までの間に自分の技術向上のための練習や作品
制作をすることもあれば,作品制作のために通常の勤務時間後も残って作
業をすることもあったからである。
なお,原告らは,Dは午前7時頃には出勤していたと主張するが,店の
鍵を開けてボイラーのスイッチを入れる役割のIの出勤時間が7時半なの
であるから,Dがそれより早く出勤することはなく,この点の原告の主張
は誤っている。
とりわけ,5周年記念行事の前は,確かに通常よりも忙しくはあったが,
直前の2日間は店を閉めて,仕込みと各自の作品の準備に集中していたの
であって,勤務時間内には自分の作品を制作する時間が含まれており,こ
れは上記の時間外労働としてとらえるべき「労働時間」ではない。
イDの労務内容
(ア)和菓子製造作業の実態
和菓子の製造は「重労働」と表現されるようなものではない。
被告会社においては,通常水を入れた大鍋を持ち運ぶような作業はな
いし,練る作業はほぼ機械化されていて,ボタン1つで餡などを練るこ
とができる。
また,餅は重いといっても1つ2キログラム程度で,餅つき作業は毎
朝1度だけである。材料を運ぶ作業についても,作業開始時に冷蔵庫か
ら作業台に運べば後は台での作業であるから,一日中材料を運び続ける
ようなこともない。原告らの表現は過剰である。
(イ)和菓子製造に要求される技術及びストレス等
被告会社においては,「上生」や「焼き菓子」については一定数を冷
凍保存しておき,その不足分を日々計画的に製造しているので,少人数
で効率的な製造が可能となっている。行事や祝日で多数の商品が必要な
ときは,数日前から計画的に製造量を増やして冷凍しているので,一日
だけ突然忙しいということはない。また,「できる範囲でしっかりとし
た商品を作る」のが被告会社の方針であるので,突然の多数の注文など,
無理な仕事は受けていない。したがって,急ぎの仕事が突然入って,一
から作業計画を組み直さなければならなくなり,ストレスがかかるとい
うような事態は生じない。
(ウ)Dの被告会社への就職及びその後の経緯
Dは,それまで機械化された和菓子工場の経験しかなかったことから,
手作業で一から和菓子を作れる職人になりたいとの希望で,被告会社に
勤務するようになった。被告会社は,これまでも,被告Cから工芸菓子
の技術を学びたいという若い職人を雇い,3年から5年修業させては
「卒業」させてきた。被告Cとしては,「雇う」というよりも,3年か
ら5年で卒業できるように「教育する」というつもりで仕事をさせてい
た。そのため,若い従業員には,自己の練習や作品制作のためなら,工
場の器具や材料を自由に使って良いことにしていたし,作品のデザイン
画を持ってくればアドバイスを与えるなど,修業のバックアップは惜し
まなかった。熱心な従業員は,通常の作業が終わった後,自分の作品制
作のために自主的に居残って作業をすることも多かったのである。
被告Cが,テレビ番組で優勝したのは平成11年のことである。この
時には,一時的に売り上げが上昇し,店も忙しくなったが,平成13年
に再度出演した際は,3位に終わり,それほど売り上げが大きく伸びる
ことはなかった。したがって,Dの就職当時,被告会社での業務は特別
忙しかったというわけではない。なお,平成13年の番組出演時の作品
について,Dが制作を担当した部分もあるが,これは,被告Cは,出品
する作品の制作を自宅の2階で行っていたところ,Dが「工芸菓子の修
業として手伝わせてほしい」と申し出て自主的に手伝ったものである。
被告会社は,できる範囲の仕事をきちんとこなすという姿勢と被告C
の技術が評価されて堅実に成長してきたのであるから,製造の責任者は
あくまで被告Cであり,製造を他人に完全に任せることはない。また,
一日の仕事の予定は被告Cが決定するので,Dが一人で作業工程を工夫
したり緊急の仕事に対応したりすることはなかった。従業員Jが退職し
た後も,製造は,被告CとDの2人で行っており,修業中のDが一人で
製造を任されたなどということはない。
(エ)椎間板ヘルニアの発症とその後の経緯
平成15年1月2日にDから被告Cに対し「腰が痛い」との電話があ
ったので,被告Cは「それは大変だ。では休みなさい。」と答えた。そ
の後,椎間板ヘルニアが悪化していてしばらく休養が必要とのことであ
ったので,被告CはDにはゆっくり休むよう伝えていた。
Dは,リハビリ中も度々店に顔を出しては「早く復帰したい」と話し
ていた。これに対し,被告Cは「まだ無理だよ。完全に治ってからにし
なさい。」と答えていたが,結局,本人の熱意に押される形で,Dは,
平成15年6月から復帰することとなった。被告会社としては,定時に
帰宅でき,辛いときに休みやすいようにと,まずはパートタイム扱いで
復帰させることとしたのである。
なお,Iは,被告会社に勤める前に数年間別の店で修業をしてきた職
人であり,決して素人ではない。
5周年記念行事の際も,他の店の職人を応援に呼んでいたので,D一
人に負担がかかったということはない。
(オ)Dの死亡前日及び当日の労務内容について
平成15年12月14日に被告会社主催でボーリング大会及び食事会
が開催されたが,これは,協力業者等,気の置けない仲間内の集まりで
ある。このような和菓子の情報交換や,横のつながりを深めることを目
的とした親睦会や食事会はこれまでにも何回か行われているところであ
り,Dは「接待役」ではあったが,決してプレッシャーのかかるような
仕事ではない。実際,Dのした役割としては,司会(食事会の冒頭でボ
ーリングの成績発表をする役割)をした程度である。
ウ因果関係の判断について
本件においては,前述のとおり,その労働の性質が非常に特殊であり,
その労働の実態からすると業務と本件死亡との間に相当因果関係はない。
(2)争点3(被告らに債務不履行ないし過失があるか)について
(原告らの主張)
被告会社は,Dとの間の労働契約により,従業員の勤務条件を整え,長時
間労働による心身への障害を与えないようにする義務を負担しているにもか
かわらず,これを怠り,前述の長時間労働をDに強いた結果,Dを死に至ら
しめたものであり,労働契約に基づく安全配慮義務違反があり,Dの死亡に
よる損害を全て賠償する責任が存する。
被告Cは,被告会社の代表者であり,Dの労働条件を現実に左右しうる立
場にあった。被告Cが,Dの労働条件に配慮して長時間労働を規制し,ある
いは,逆に被告CがDに対して長時間労働となる仕事を命じなければ,Dの
長時間労働は生じなかったのであり,被告Cが適切な労働条件整備の指示を
しなかったことは,Dとの関係で不法行為を構成するというべきである。よ
って,被告Cは,不法行為に基づき,Dの死亡による損害を全て賠償する責
任が存在する。
(被告らの主張)
Dについて長時間労働があったとしても,それは本人が自己の技能向上の
ために自主的に居残り作業をした結果であり,被告会社が強制したものでは
ない。
また,労働とDの死亡には相当因果関係がない。
したがって,被告会社には何ら義務違反はなく,損害賠償責任を負うもの
ではない。
被告Cについては,Dに対しては,雇い主である被告会社の代表者という
関係であって,個人としてDと雇用などの関係にあるものではない。仮に,
被告Cに何らかの責任が生じるとしてもそれは被告会社の代表者としての責
任であって,それと重複して個人としての不法行為責任まで負わせるべきで
はない。
(3)争点4(過失相殺)について
(被告らの主張)
仮に,Dの死亡が業務に起因したものであると認定されるとしても,Dは
死亡の直前に飲酒をしており,酒酔い状態で入浴したことが死亡の直接のき
っかけとなったものである。一般に,飲酒後の入浴が心臓に大きな負担をか
けることは公知の事実であり,長時間業務で疲労している状況ならば,なお
のことである。Dは,当時32歳ですでに8年以上の社会人経験があり,相
当程度の分別を有していたのであるから,飲酒後の入浴を控えるべきであっ
た。
ところが,Dは本人の意思で飲酒直後に入浴をしたのである。したがって,
損害の算定にあたって上記事情を考慮すべきである。
(原告らの主張)
飲酒直後の入浴が本件死亡に影響を与えるものではなく,Dに損害の算定
にあたって考慮すべき事情とはいえない。
(4)争点5(損害)について
(原告らの主張)
ア逸失利益
4663万1799円
男子大卒32歳の平成14年度の平均年収は569万5800円であり,
生活費及び中間利息を控除した逸失利益は,以下の計算式により4663
万1799円である。
569万5800円×(1−0.5)×16.3741=4663万17
99円
イ慰謝料2000万円
ウ相続
原告らは,上記ア及びイの損害についての損害賠償請求権を,法定相続
分に従い,各自2分の1の割合で相続した。
エ原告ら固有の慰謝料各500万円
原告らは,跡継ぎであるDを失い,失意の底にある。その精神的苦痛
に対する慰謝料は各500万円を下ることはない。
オ弁護士費用766万円
(被告らの主張)
原告らがDの相続人であることは認め,その余については争う。
(6)争点6(損益相殺の範囲)について
(被告らの主張)
原告らは,現在までに,Dの死亡を原因とする労災補償として,すでに一時
金51万2820円と定額特支金300万円とを受給しているほか,平成17
年4月15日より遺族補償年金として年額135万3936円と特別年金年額
9万3666円の給付を受けている。
これらにより,原告らは平成19年6月5日までに合計664万9278円
(ただし,年金26か月分313万6458円)の損害の填補を受けているか
ら,これを原告らの損害額から差し引くべきである。
また,労働者災害補償保険法(労災保険法)64条に基づき,遺族補償年金
及び特別年金の日額7202円の1000日分である720万2000円の履
行の猶予を求める。
(原告らの主張)
被告らが損益相殺を主張する労災給付のうち,葬祭料51万2820円につ
いては,原告が葬祭料を請求していないこと,葬祭に必要な費用は一般に51
万2820円を上回ることは明らかであること,損益相殺は費目ごとに行われ
るべきことから,これを控除すべきでない。また,特別年金は,労働福祉事業
により支払われるものであり,被災者の損害の填補の性質を有するものではな
いから,これを控除するのは不適切である。
なお,被告らは,損益相殺と履行猶予の抗弁の両方を主張し,控除を要求し
ているが,履行猶予が認められているのは,遺族補償年金前払一時金の最高限
度額に相当する額にすぎず,これと同じ性質を有する遺族補償年金額を損益相
殺で別途控除するのは適切でない。
第3争点に対する判断
1争点1(本件死亡の原因)について
(1)K整形外科病院のK医師は,死体検案により,Dの死因を心原性突然死と
判断している(甲10)。その診断の根拠は,他病院の頭部CTにおいて異
常がなく,腹部肝腎にも異常が認められなかったこと,血中アルコール濃度
が高かったこと,溺水所見が乏しく,後頭部下穿刺において血性髄液を認め
なかったことからすると,心原性突然死による可能性が最も高いためとされ
ている(甲19の2)。
この点,血中アルコール濃度の高さが死亡の直接の原因であるかについて
は後述のとおり,検討の必要があるものの,上記のとおり,Dは,当時,十
二指腸潰瘍の疑いはあったが,生命の危険をもたらすような疾病には罹患し
ていたとは認められず,頭部・腹部検査において異常が認められなかったこ
とからすれば,心臓性の突然死と診断したことには合理的な根拠があると言
える。
(2)被告らは,Dの眉間や足等に傷があったことからすれば浴室内における転
倒により死亡した可能性もあると主張し,Dに被告ら主張の傷があったこと
が認められるが(甲17,18),この傷がいつ生じたものかは明らかでな
いし,Dは,浴槽に倒れて死亡しているのを発見されたところ,水を生前多
量に飲んだ形跡はなかったことが認められる(甲19の2)。そうだとすれ
ば,呼吸が停止してから浴槽内に倒れたと考えるのが自然であり,転倒し,
頭等を打ったことが直接の死因である可能性は低いとみるべきであるから,
上記被告らの主張は採用できない。
(3)以上によれば,心原性突然死との診断に合理性があり,他の死因を疑わせ
るべき事情はないから,本件死亡の原因は心原性突然死と認められる。
2争点2(Dの業務と本件死亡の間には相当因果関係があるか)について
(1)被告会社の業務の概要及びDの従事していた業務の具体的内容
争いのない事実等,下記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事
実が認められる。
ア被告会社は,和菓子の製造販売を行う会社であり,越谷市内に作業場兼
店舗を有している(乙3)。
被告会社代表者であり,職人でもある被告Cは,平成11年にテレビ番
組「テレビチャンピオン」に出演し,和菓子職人選手権で優勝,平成13
年にも同番組に出演し,3位となった経歴をもつ(被告C)。
イ和菓子店のなかには,和菓子の製造工程が機械化されている店舗もあるが,
被告会社においては,餅をかえす作業,餡を練る作業,餅で餡を包む作業な
どの菓子の仕上げの工程などは手作業で行っており,機械に頼らない和菓子
製造の経験や工芸菓子の修業を積みたいとして被告会社への入社を希望する
若い職人も少なくなく,Dもその一人であった(L,I,被告C)。
ウDは,東京都内の和菓子店等で勤務したのち,平成12年12月1日,被
告会社に職人として入社した。Dが入社した当初は,D,J及び被告Cの3
名で和菓子製造を行っていた(乙5)。
エ被告会社における一日の基本的な業務の流れは,次のとおりである。まず
午前7時半ころ,作業場を開けてボイラーに点火をし,開店時間である午前
10時までに朝生と呼ばれる団子や大福などの菓子を作る作業,具体的には
米や団子の生地等を蒸す,餅をつく,豆を漉す,餡を練る等の作業を行い,
冷凍保存してある並生菓子を蒸して店に並べる。開店後は,ストック商品の
減り具合に応じてどら焼き,饅頭等冷凍保存のきく商品を製造する(甲17,
乙3)。閉店後には,売れ残った商品の片づけをし,米をといだり,どら焼
きの生地等を作るなど,翌日の準備のための作業がある。
繁忙期である年末年始,雛祭り,ゴールデンウィーク,お盆,七五三等の
行事の前には,商品のストックを作るために退社時間が午後10時をまわる
こともあり,店舗2階の事務所に寝泊まりすることもあった(甲16,17,
18)。
オ平成14年6月,Jが退職し,和菓子の製造に従事するのは,被告CとD
の二人となった(乙5)。Dは,平成14年12月末ヘルニアを発症し,休
業したが,平成15年4月から徐々に被告会社に通うようになり,5月ころ
からほぼ通常どおり勤務するようになった(乙8)。同年7月からは,D,
Dの休業中に被告会社に入社したI及び被告Cの3名で和菓子製造を行った
(乙5)。このころ,製品の仕込みはIがやり,仕上げはDがするという分
担となっており,被告Cが不在の場合は,Dが作業の指示もしていた(I)。
Dは,被告会社における「修業」の終盤段階に入っており,被告Cは,平成
15年の夏頃から,Dに仕事の段取りをくむ練習をさせていた(C)。
なお,DとIは,上記の業務に加え,平成15年9月頃から日本菓業振興
会の展示会にも出品していた。同展示会は,毎月10日前後に行われ,五種
類の和菓子を制作し,これに対する品評がされるというものであった。作品
の制作にかける期間は1週間程度で,通常の業務が終了してから,作品制作
をしていた(I,被告C)。
なお,被告会社は,平成15年10月22日及び23日に5周年記念行事
を行い,Dも作品を出品した。
(2)Dの健康状況
争いのない事実等,下記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認
められる。
ア被告会社入社以前
Dは,大学時代にギックリ腰を発症したことがあったが,そのほか特に大
病をしたことはなく,持病もなかった(甲7,13,14,原告B)。
イヘルニア発症
Dは,平成14年12月28日に,被告会社作業場において餅つき機で餅
をかえす作業をしている最中に,腰に激しい痛みを感じた。しかし,年末の
繁忙期であったため,痛みを我慢して同月末まで同作業を続け,仕事始めの
日である翌年1月2日にも出勤した。Dは同月3日も出勤する予定でいたが,
同日朝,体を起こすこともできない状態になったため,順生会病院を受診し,
椎間板ヘルニアと診断された。医師からは軟骨が2カ所で潰れているため,
即入院するよう言われたが,その日はいったん帰宅した。同日夜中に痛みが
激しくなり,さいたま市立病院に搬送され,同病院に入院した。同月28日,
潰れた2か所の軟骨を切除したうえ,骨盤から骨を移植してボルトで固定す
る手術をした。手術後2週間ほどほとんど寝たきりの状態が続き,その後リ
ハビリを行い,同年2月25日に退院した。退院後は2週間に1回の割合で
通院した。
Dは,被告会社には,同年4月中旬から,不定期に1日数時間ずつ通って
いたが,同年5月10日に,被告Cが交通事故を起こし,逮捕勾留されたの
を機に,連日被告会社に出勤し,午前8時ころから午後6時過ぎまで勤務す
るようになった。
(甲32の1ないし17,乙7,8)
ウ十二指腸潰瘍の疑い
Dは,平成15年10月ころ胃痛を訴え,同月29日,越谷市立病院を受
診したところ,十二指腸潰瘍の疑いがあると診断され,その後,同年11月
5日,同12日,同19日(いずれも所定休日である水曜日)に通院し,投
薬治療を受けた(甲5の4,甲7,L)。胃の痛みがあることは,被告Cに
も伝え,仕事を切り上げて通院した日もあった(甲17,18)。平成16
年1月には,同病院において生理機能検査が予定されていた(甲5の4)。
なお,被告会社において,定期的な健康診断はなされていなかった(甲7,
17)。
(3)Dの勤務状況,死亡前2か月の労働時間
ア労働時間等の概況
被告会社においては労働時間についての明確な定めはなかったが(甲3
2の17),店舗の営業時間が午前10時から午後7時であるため,職人
は午前8時ころまでには出勤し,店舗の閉店時までは職場にいるのが習慣
であった(被告C,被告I)。休憩は正午から午後1時までである(甲1
1)。パート社員についてはタイムカードによる勤務時間管理が行われて
いたものの,職人については行われていなかった(甲11)。休日は週1
日とされ,Dは毎週水曜日が休日と決められていたが,節句等,季節の行
事前の繁忙期は休日も出勤し,後日代休をとることがあった(甲11,L,
I)。
イDの労働時間について
原告らは,Dの労働時間は別表1記載のとおりであると主張する。他方
被告らは,Dの労働時間は別表2記載のとおりであるが,この中にはDの
個人的な技術向上のための練習や作品制作の時間も含まれており,実際の
労働時間はこれよりも少ないと主張する。原告ら主張の労働時間は,別表
2記載の労働時間を包含するものであるから,まず別表2記載の労働時間
すべてをDの労働時間と認定できるか検討する。
上記の被告らの主張に沿う証拠として被告Cの供述がある。被告Cは,
別表2の作成時は,業務災害の認定がなされるように,Iと相談の上,個
人的な作品づくりの時間も含めてあえて労働時間を長く書いたと供述する。
しかし,別表2の記載を照らしても,平成15年10月21日の退社時間
は15時,同年11月9日及び10日の退社時間はそれぞれ15時,16
時,同月19日の休憩時間は4時間,同年12月9日の退社時間は15時
となっており,あえて実際の労働時間よりも長く記載したものと評価する
ことには疑問が残るうえ,Iが,別表2は当時,労働時間を思い出しなが
ら書いたもので,このなかには自分の作品づくりのための時間は入ってい
ないと供述していることに照らすと,上記被告Cの供述を直ちに信用する
ことはできない。以上によれば,別表2には実労働時間以外の時間が含ま
れているとの被告らの主張は採用できない。
したがって,少なくとも別表2記載の労働時間については,時間的場所
的拘束を受けるいわゆる実労働時間であり,同表記載の時間外労働があっ
たとみるべきである。
ウ出勤時間
原告らは,別表1記載のとおり,Dは,概ね午前7時半ころまでには出
勤し,早い日は6時ころに出勤することもあったとし,出勤時間は被告の
主張する午前8時よりも早かったから,Dの労働時間は別表2記載よりも
長かったと主張し,原告Bはこれに沿う供述をする。
この点,Iが午前7時半ころに仕事場の鍵を開け,ボイラーを点火する
役割であり,Iは毎週木曜日に休暇をとっていたことからすると(I),
少なくとも週に1回はDが,作業の準備のため,午前8時前に出勤する必
要があったといえる。そして,Dはヘルニア手術からの復帰後,平成15
年4月から8月までタイムカードを打刻していたが(乙7ないし11),
同カードに照らすと,Dの出勤時刻は午前8時過ぎの日もあれば午前6時
台の日もあり,7月下旬以降は半数以上が午前8時前に出勤していること
が認められる。そうすると,確かに別表2記載のうち,午前8時出勤とさ
れている日のうち一定の部分は,午前8時よりも早く出勤していたものと
推認される。
しかしながら,10月15日から12月15日にかけてのDの出勤時間
は,別表1記載のとおり,午前7時以前に出勤したとする日が約半数ある
が,かかる出勤時間を客観的証拠によって認めることはできず,Dの交際
相手であったL(L)が,Dの起床時間はだいたい午前7時ころで,電話
やメールで起こしてくれと頼まれる時間もこの時間であったと供述してい
ること,原告Aの陳述書(甲12)には,「Dは,いつも朝,7時ころに
起きて身支度をしてすぐに出ていきました」と記載されていること,Dの
自宅から被告会社までは車で20ないし30分程度の距離であること(原
告B)に照らすと,通常のDの出勤時間は午前7時半から8時までの間で
あったと考えるのが自然であり,上記原告らの主張沿う原告Bの供述は信
用することはできず,別表1記載の出勤時間すべてを実際の出勤時間であ
ると認めることはできない。
エ退社時間
また,原告らは,Dの退社時間は,通常午後8時半ころであったと主張
し,Dの労働時間は別表2記載の時間より長かったと主張する。
Lが午後8時半ころDに電話をすると大抵Dは仕事場にいたこと(L),
DとIはほぼ同じ時刻まで仕事場にいたこと(I),仕事場の2階に住ん
でいたIが通常仕事を終わって近所のコンビニエンスストアで弁当を買い,
夕食をとるのが午後9時頃であったこと(I)からすると,DやIは,そ
れが被告会社の仕事としてかはともかくとして,午後8時半ころまで仕事
場に残っていることが多かったと推認できる。
そして,甲第27号証によれば,10月18日の午前0時23分に「終
わった,疲れた,明日からI君がいないので,さらに大変」,10月19
日の午後2時13分に「今から昼ご飯,午後はイモ地獄,今日も遅いでし
ょう。」,10月20日の午前2時7分に「只今,終了」,10月21日
の午前4時32分に「明日の朝,7時50分に起こして」という内容の携
帯電話のメールが,それぞれDからLに送信されたことが認められ,10
月22日には「いよいよ今日ね昨日はやっぱり徹夜?」という内容のメ
ールがLからDに送信されたことが認められる。これらのメールの文言及
び10月22日,23日が5周年記念行事であったことからすれば,上記
の10月18日から22日にかけての一連のメールは,Dの仕事に関する
もので,「終わった」,「只今,終了」とは,仕事が終わったことを表し
たものと解するのが自然であり,Dからメールの送信された時間が深夜な
いし早朝に及んでいるのも,仕事で遅くなったためと推認される。したが
って,Dは,上記メールの送信時間に近い時間まで,被告会社において作
業をしていたものとみるべきであり,10月18日から20日にかけては
実際には別表2より遅く退社していたことが窺われる。
また,甲第33号証によれば,12月8日の午後10時59分に「只今,
帰って来ました全然進んでない(涙の絵文字)」という内容のメールが
DからLに対して送信されたこと,12月9日の午後8時42分に,Lか
らDに対して「ぬお∼3つ出来たんだねいいかんじじゃん残りも頑張
って」とのメールが送信され,Dがこれに対して「は∼い」と返信したこ
とが認められる。上記のとおり,毎月10日が作品展の締め切りであり,
五種類の菓子を制作して出品することになっていたことからすれば,以上
のやりとりは,作品作りに関するものであると解され,上記メール送信時
間ないしこれに近い時間に,Dが被告会社において作業をしていたことが
窺える。
以上によれば,Dの退社時間は,概ね原告ら主張(別表1)のとおりで
あるとみるべきである。
オ実労働時間
Dの退社時間が,別表1記載のとおりであったとしても,上記認定のと
おり,Dが被告会社で行っていた作業には,店舗に出す商品のほか,販売
目的ではない「作品」を作る作業があり,かかる作業は通常,販売用の和
菓子の作成をした後に行っていたとのことであるから,別表2記載の労働
時間をこえる部分について,被告会社による時間的場所的拘束を受ける
「労働時間」と評価すべきか問題となる。
このうち,10月に行われた5周年記念行事は,被告会社が店舗開店5
周年を記念し,日頃の顧客の愛顧に応えて行ったものであるから(甲5の
11),展示される工芸菓子の制作も,被告会社の業務の一環とみるべき
である。
一方,毎月10日に行われていた作品展については,業界内で行われる
技術向上のための講習会であり(被告C),特に被告会社の職人は出品が
義務づけられていたというような事情も窺えないから,この作品制作にか
ける時間は,個人の技術向上のための時間であって被告会社の業務と直接
関係のあるものとは認められず,いわゆる労働というべき性質のものでは
ないと解される。
そうすると,Dが被告会社において行っていた作業は,それを労働とみ
るべきものとそうでないものとがあることになり,単純に,原告主張の退
社時間と別表2で退社時間とされている時間との差を,別表2に従って認
められる労働時間に加えた時間が実労働時間であるとは言えないことにな
る。
以上によれば,Dは,少なくとも別表2記載の時間,労働しており,な
おかつ行事の前などは別表2よりも労働時間の長い日のあったことが認め
られるが,その正確な時間数についてまで認定することはできないことに
なる。よって,死亡前1か月のDの労働時間は274.5時間以上,死亡
2ヶ月前の労働時間は286.5時間以上であり,時間外労働は月103
時間以上,死亡2か月前の時間外労働は月109時間以上であったといわ
ざるを得ない。
(4)12月14日から12月15日の様子
争いのない事実等,下記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が
認められる。
ア死亡前日の平成15年12月14日,Dは,出勤後,朝の品出し及び大
福・団子・上用饅頭の製造を行い,昼食をとった後,午後は栗饅頭の製造
を行った。同日は,被告会社主催で,協力業者とその家族を招いたボーリ
ング大会等が予定されていたため,通常より早い午後5時半に閉店し,午
後6時ころ会場であるMに到着した。ボーリングを2ゲーム行い,Dらが
食事会の会場であるHに到着したのは午後9時から午後9時半にかけてで
あった。同所において行われた食事会で,Dはボーリング大会の結果発表
の役割を任されていた。
(甲17)。
イ同日午後11時からは,二次会が開催され,Dはお酌をしながら,他の
職人やI,被告Cと話をした。Iが翌15日午前1時ころ,仮眠をとるた
め,二次会会場を出る頃,Dは被告Cと二人で話していたが,少し酔って
いる感じではあるものの,言葉もしっかりしていた。二次会が終了したの
は同2時半ころであった。Dは,同2時39分ころ,Lに対し,「これか
ら寝ます」と携帯電話のメールを送信したが,その後浴場へ向かい,風呂
からあがった被告Cと,これから風呂に入るのかなど,二言三言言葉を交
わした。この時のDは,顔は少し赤いものの,言葉も確かで酔っているよ
うな様子には見えなかった。
(甲16,甲18,被告C)。
ウ午前3時40分ころ,Hの客により,浴場の浴槽内で倒れているDが発
見された(甲7,11)。通報により救急隊員が到着したころ,すでに心
肺停止の状態であった(甲21の2)。
(5)業務による肉体的負荷
原告らは,被告会社では,鍋・せいろ・和菓子の入ったケースを運ぶ作業
や二階から粉等をおろす作業があり,これらは重量のあるもので肉体的負担
が大きいと主張する。そして,材料の重量は,年末のもちが1回に6キログ
ラム分,大福の米が1キロ400グラムから2キログラム,団子用の新粉が
2キログラム,どら焼きは夏で4キログラム,冬で5キログラムであったこ
と(被告C)が認められ,決して軽い物とは言えないが,これらの材料はそ
の日の作業を始める前に2階からおろしてくれば足り,かつ和菓子の入った
ケースを運ぶ距離も店舗裏の冷蔵庫との間であるから(乙1),運搬する頻
度及び時間からすれば,これらの作業があるからといって,和菓子製造業務
が特段重労働であるとまではいえない。
しかし,同じ姿勢が続くと一時間でも肉体的には辛いこと(I)及びDは
中腰姿勢で餅をかえす作業をしている際にヘルニアを発症したこと(甲32
の8)(なお,被告らは,Dのヘルニア発症は,業務によるものではないと
主張するが,労災申請における被告Cの報告書(甲32の12)は,被告C
が台で餅をのしていたところ,Dから腰をやってしまいましたと報告があっ
たが,年末の忙しい時期でもあり,そのまま続けてもらった,Dは,仕事が
落ち着いてきたら病院に行きたいので休ませてくださいと言っていたなど具
体的かつ詳細なものであり,同報告書は原告Bの聴取書(甲14)やLの供
述と内容が合致していること,労働基準監督署からの照会に対するさいたま
市立病院のO医師による意見書(甲32の16)によれば,腰部に関する素
因・既往症はないとされ,特段他の原因は窺えないことからすれば,被告会
社の業務がその原因であるとみるべきである。)からすれば,和菓子を作る
作業が立ち仕事であり,かつ作業によっては継続的に前屈みや中腰の姿勢を
とらなければならないことによる肉体的負荷は小さくないものと解される。
特に,Dが,死亡当時,ヘルニア発症・手術後一年経っていなかったこと,
十二指腸潰瘍の疑いがある状態であったことを併せ鑑みると,Dにとって被
告会社の業務による肉体的負荷はかなり重いものであったというべきである。
(6)業務による心理的負荷
上記認定のとおり,Dは和菓子の仕上げの工程を任されており,かかる作
業が食品を扱うものであって,かつ仕上がりの美しさが重視されるものであ
ることからすれば,その作業に細心の注意を払う必要のあることはうかがわ
れる。しかしながら,普段Dらが商品として製造していたのは,大福や団子,
生菓子とよばれるものであって,作品として制作する工芸菓子のような精密
さまで求められるものではなく,他の業種と比較して,その作業自体特別心
理的負担の大きいものであったとまでは言えない。また,基本的には,扱う
商品の性質上,季節の行事の時期に注文や購入が増える傾向にあると推認さ
れるから,製造量を増やすべき時期は予め予測可能であるし,被告会社にお
いては,上記認定のとおり,一部の商品について冷凍保存をし,ストックを
つくっていたのであるから,急な予定変更への対応を強いられるような業務
であったとまでは認められない。
しかし,上記認定のとおり,Dは,当時,被告会社における「修業」の終
盤段階にあり,仕事の段取りをくむ作業に入っており,被告Cが不在の場合
は,後輩であるIへ指示もしていたうえ,被告会社の5周年記念行事の際に
は,他の店舗から職人が手伝いに来ていたところ,Dは,現場の仕切を任さ
れているが,先輩の職人に指示をして動いてもらわないといけないのが結構
辛いなどと交際相手のLに打ち明けていたことが認められる(L)。これら
のことからすれば,Dは職場においてそれなりの責任ある立場に置かれてい
たことがうかがえる。
そして,上記認定のとおり,Dは,平成14年年末にヘルニアを発症しな
がら,年末の繁忙期であるからと痛みをおして勤務をつづけ,翌年1月2日
にも出勤しており,被告Cの逮捕後,ほぼ毎日出勤するようになったこと
(乙7ないし11)からすれば,Dは被告Cが欠けることにより人手が少な
くなったことを心配したため復帰したものであると推認される。また,Dが,
職場では後輩でありながら,和菓子製造においては自分よりも経験のあるI
への指導方法について悩んでいた時期もあったと認められ(乙3),これら
のことからすれば,Dは責任感が強く,生真面目な性格であったことがうか
がえる。Dは,平成15年10月には,十二指腸潰瘍の疑いで通院している
が,十二指腸潰瘍がストレスを主要な原因とする疾病であることは知られて
いるところである。
以上の事実を鑑みれば,被告会社における業務の内容そのものは特段他の
業務に比して心理的な負荷の大きいものとは認められないが,D個人の立場
及び性格からみれば,心理的に緊張を強いられることもあったと思われる。
2業務と死亡の因果関係について
(1)死亡が業務に起因するというためには,死亡と業務との間に条件関係があ
るだけでなく,相当因果関係が認められることが必要であるが,右相当因果
関係とは,死亡の原因となった発症が業務に内在する危険の現実化と評価で
きる場合に認められると解するのが相当である。上記のとおり,Dの死因に
ついては,心原性突然死というのみで,具体的な疾病名は明らかとなってい
ない。したがって,本件においては,一般人の社会的常識からみて,Dの発
症が業務に内在する危険の現実化と評価できるかどうか経験則に照らして判
断するほかない。この点,原告らは,厚生労働省の定める認定基準に相当す
る長時間労働が行われ,該当の疾病により死亡した場合には,業務過重と被
災者の死亡との間の因果関係が認められるべきであると主張するが,同認定
基準は業務上外認定処分を所管する行政庁が実際に処分を行う下部行政機関
に対して運用の基準を示した通達であり,専門家の意見をもとに検討された
結果定められた基準として,その内容は尊重されるべきものではあるものの,
司法上の判断において,裁判所を必ずしも拘束するものではなく,上記のと
おり,経験則に照らして全証拠を総合検討し判断すべきである。
これを本件についてみると,上記認定のとおり,Dは被告会社入社までこ
れといった病気をしたことはなかったというのであり,またDが先天的な心
臓疾患を有していたことを認めるに足りる事情は存在せず,その可能性は低
いと考えられる。また,心原性突然死の主要な原因である虚血性心疾患をお
こす危険因子は,高血圧,糖尿病,喫煙,高脂血症,ストレス,肥満等であ
ると一般にいわれているところ,Dには,大学生の頃から喫煙の習慣があっ
たものの,1日10本程度であり(甲7),高血圧,糖尿病,高脂血症等の
症状はうかがえない(原告B)。
これらのことを鑑みると,本件において,Dの発症に影響を与える可能性
があるものとしては,飲酒後の入浴及び業務による疲労やストレスが考えら
れる。
そこで,以下これらについて検討する。
(2)飲酒後入浴の影響
上記のとおり,Dの死体検案あたったK医師は,心原性突然死の原因とし
て,飲酒後入浴が考えられるとしている。本件死亡前日から当日にかけて,
Dは被告会社の食事会に参加し,飲酒をしていたことが認められるところ,
甲5号証の8によれば,Dの血中アルコール濃度は230mg/dlであったこと
が認められ,通常値が10mg/dlとされていることからすれば,これは比較的
高い数値である。しかし,飲酒後まもなく入浴すると,貧血や転倒をひきお
こす危険があることは一般に知られているところであるが,飲酒後の入浴そ
れ自体が心臓性の突然死を誘発するとまでは知られておらず,医学上も飲酒
や入浴が心原性突然死の有力な原因とされているとまでは認められない。ま
た,K医師の所見は死亡当日の死体検案によるもので,Dの労務の状況等を
考慮したうえでのものではない。
仮に飲酒後入浴が心原性突然死の引き金となりうるものであったとしても,
二次会から参加したIが,Dは顔が少し赤かったが,特に変わった様子は見
られなかったと供述していること,Dは,Lに対し,午前2時39分に「寝
ます」とメールを打っており,その後,被告Cと話をし,「これから風呂に
入るのかい」,「2人は寝たのかい」との問いに「はい」と答え(甲5の1
0),被告Cの目から見てもひどく酔っているような様子もなかったこと
(甲17)からすれば,Dの意識は比較的はっきりしており,飲酒によりひ
どく酩酊していた様子は認められない。Dの血清検査(甲5の8)は死後に
なされたものであるところ,死後に血中アルコール濃度が高まる可能性も医
学上指摘されており,死後に検査された血中アルコール濃度の高さから必ず
しも入浴時のアルコール濃度が同程度であったと断定することもできない。
以上の事実を併せ鑑みると,Dの飲酒状況それ自体が,入浴と相俟って生命
の危険をもたらすほどのものであったとは認められない。
したがって,本件において,飲酒後の入浴が,死亡の原因となった心臓疾
患を発症させたとみることはできない。
(3)業務による疲労やストレスの影響
加齢や日常生活などにおける通常の負荷による血管病変等の形成,進行及
び増悪という自然経過の過程において,業務が血管病変等の形成に当たって
直接の要因とはならないものの,恒常的な長時間労働等の負荷が長期間にわ
たって作用した場合,疲労の蓄積が生じ,発症の基礎となる血管病変等がそ
の自然経過を超えて著しく増悪し,その結果,脳・心臓疾患が発症する場合
があることは医学的に広く認知されている。なかでも労働時間の長さは,疲
労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられている。長時間労働は,脳血
管疾患をはじめ虚血性心疾患,高血圧,血圧上昇などの心血管系への影響が
指摘されているところ,これは,長時間労働により睡眠が十分にとれず,疲
労の回復が困難となることにより生ずる疲労の蓄積が原因と考えられるから
である。そして,業務による疲労やストレスが,疾患の発症に影響を与えた
かは,労働時間,勤務形態,作業環境,精神的緊張の状態等を具体的かつ客
観的に把握,検討し,総合的に判断することが相当である。
これを本件についてみると,上記認定のとおり,Dは死亡前2か月におい
て恒常的に一日10時間以上労働していること,Dの死亡前2か月の時間外
労働が月100時間以上と長時間にわたっていること,Dはヘルニアの手術
後約4か月で,痛みも残る状況で復帰し,10月22日,23日の5周年記
念行事では商品及び作品制作のため,数日連続で午前0時過ぎまで働いてい
たこと,行事から間もない10月29日には胃痛を訴え,十二指腸潰瘍の疑
いがあると診断されていること,和菓子製造業務は立ち仕事であり,継続し
て同じ姿勢を強いられること,所定休日は週1日であったものの,行事前の
繁忙期や作品展が重なるとこれを返上して働いていたこと,10月下旬から
11月にかけてはこの所定休日を通院日に充てており,十分な休息がとれて
いないとみられること,死亡前日は朝から通常の業務を行い,協力業者との
ボーリング大会,懇親会に参加し,死亡当日の午前2時近くまでこれが続い
ていたことが認められる。これらを総合考慮すると,Dが死亡した12月1
5日未明までに被告会社の業務による疲労がかなり蓄積していたと推認でき,
Dは,被告会社における長時間労働などによる疲労及びストレスが蓄積した
結果,心臓性の疾患を発症したと推認することができる。よって,Dの疾患
の発症は業務に内在する危険が現実化したものというべきであり,業務と本
件死亡との間には条件関係のみならず相当因果関係も認められる。
3争点3(被告らに債務不履行ないし過失があるか)について
労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続する等して,疲
労や心理的負担が過度に蓄積すると,労働者の心身の健康を損なう危険がある
というべきである。被告会社は,労働者を雇用して自らの管理下におき,その
労働力を利用して企業活動を行っているのであるから,使用者として,労働者
との間の雇用契約上の信義則に基づいて,業務に従事させるにあたっては,業
務過程において労働者にかかる負担が著しく過重なものとなって,労働者の生
命・健康を損なうことのないように,労働時間,休憩時間及び休日等について
適正な労働条件を確保し,労働者の安全を確保する安全配慮義務を負うという
べきである。具体的には,被告会社は,Dの上記の労働時間を把握し,過度に
長い労働を課することのないよう労働時間を統制し,Dの健康が損なわれるこ
とのないよう配慮すべき義務があった。とりわけ,被告会社は上記のDの健康
状態を認識していたのであるから,業務の割り振りや労働時間についてはなお
のこと配慮をし,労働により,症状が悪化することのないよう注意すべきであ
ったと言うべきである。
にもかかわらず,被告会社は上記のとおり,タイムカード等によりDの労働
時間を正確に把握し,管理することなく,恒常的に一日10時間以上の勤務を
させ,行事前には休日出勤や午前零時をまわる長時間の勤務をさせていたので
あるから,被告会社が上記義務を怠ったことは明らかである。
そして,被告Cは,被告会社代表者であると同時に職人として被告会社の作
業場において,和菓子製造を行い,Dら従業員を直接指導・監督する立場にあ
ったのだから,上記同様,Dの労働時間を把握・管理し,同人の健康について
配慮すべき義務があったということができる。
しかしながら,被告Cが,Dに適宜休憩をとらせたり,勤務時間を短縮する
などの措置をとったことは認められず,長時間勤務の続く状態を放任していた
のであり,上記の義務を怠ったというべきである。
したがって,被告会社には,労働契約上の安全配慮義務の不履行があり,被
告Cには不法行為上の過失があったといえる。
4争点4(過失相殺)について
前記認定のとおり,飲酒後の入浴が本件死亡の直接の原因とは認められない
が,飲酒後の入浴が身体への負担が大きく,危険であることは一般に知られて
いることであり,温泉・入浴施設等においては飲酒後の入浴は控えるよう表示
がされているところも少なくない。本件において,Dは,浴槽内で死亡してい
るのを発見されているところ,業務による疲労が蓄積したところへ,さらに飲
酒後入浴したことにより肉体的負荷がかかったことが,血管病変の悪化に一定
程度の影響を与えた可能性は否定しがたい。上記認定のとおり,二次会は午前
2時30分ころまで行われており,Dはこれに近い時間まで飲酒をしていたと
推認されるところ,そうであれば,長時間の労働や当日の業務とそれに続くボ
ーリング大会等で疲労が蓄積していたDとしては,身体への負担を考え,入浴
を控えるべきであったということができる。
以上によれば,Dの損害の全額を被告らに賠償させることは衡平を欠き,相
当でないから,民法418条及び同法722条2項を適用し,Dの損害額の8
割をもって,被告らが賠償すべき損害額と認めるのが相当である。
5争点5(損害額)について
(1)逸失利益2027万5974円
ア基礎収入247万6591円(年額)
甲第4号証によれば,死亡当時のDの平均賃金日額は6593円40銭,
特別給与の総額は年額7万円であったことが認められる。
イ生活費控除率5割
Dは,死亡当時,独身であったことが認められるから,生活費控除率は
5割と認めるのが相当である。
ウ計算式247万6591円×(1−0.5)×16.3741
=2027万5974円(円未満切り捨て。以下同様。)
基礎年収から5割の生活費控除を行い,勤務可能期間である35年に対
応する新ライプニッツ係数を乗じたもの。
(2)死亡慰謝料2000万円
Dが死亡当時32歳と若く,和菓子職人としての修業を積み,いずれは実
家の和菓子店を継ごうと考えていたことなどを考慮すれば,Dの死亡慰謝料
は2000万円と認めるのが相当である。
(3)上記合計4027万5974円
(4)減額後の賠償額
過失相殺規定を適用すると,被告らの賠償すべき金額は3222万077
9円となる。
(5)相続
原告らは,Dの相続人であり,その相続分は各2分の1である。
よって,原告らはそれぞれ1611万0389円の損害賠償請求権を相続
したことになる。
(6)遺族固有の慰謝料各500万円
息子を32歳という若年で亡くしたこと,いずれは家業を継いでくれるこ
とを期待していたことに鑑みれば,原告らの精神的苦痛を慰謝するには上記
の金額が相当である。
(7)減額後の賠償額
上記遺族固有の慰謝料についても過失相殺規定を適用し,被告らの賠償す
べき金額は,原告らそれぞれに対し400万円となる。
(8)上記合計各2011万0389円
(9)損益相殺
損益相殺の範囲としては,下記5のとおり,労災保険法64条の定める前
払一時金最高限度額673万6000円及び既払の特別年金額33万563
6円の限度で損益相殺を認めるが,原告らは,いずれも労災給付の受給者で
あり,法定相続分はそれぞれ2分の1であるから,これに応じて上記の控除
すべき額を2分し,それぞれの損害額から控除すると,結局,各1657万
4571円となる。
(10)弁護士費用
本件の事案の内容,訴訟の経過,認容額,その他諸般の事情を総合すると,
原告らそれぞれにつき160万円が,本件債務不履行ないし不法行為と相当
因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(11)以上合計原告ら各1817万4571円
6損益相殺の範囲(争点6)について
被告らは,原告らが労災保険から葬祭料51万2820円,定額特別支給金
300万円,遺族補償年金年額135万3936円,特別年金年額9万366
6円の支払を受けているので,これを損益相殺として控除すべきであると主張
し,さらに720万2000円につき,労災保険法64条に基づき,履行の猶
予を求める。
しかし,葬祭料については,原告らは,本件において請求していないから,
これについて損益相殺の対象とすべきでない。また,定額特別支給金について
は,労災保険法29条に基づき,労働福祉事業として支給されるものであり,
損害填補の性質を認めていないものと解すべきであるから,これも損益相殺の
対象とすべきでない。
他方,原告らが請求可能であった前払一時金の最高限度額は673万600
0円であり,うち,原告らが既払額と認める456万9199円については,
労災保険法64条により,免除され,その余の部分については,履行を猶予さ
れることとなるが,原告らが今後遺族補償年金を受給することにより免除され
ることが確実であるので,上記最高限度額全額につき損害額から控除すべきで
ある。なお,被告らは既払の遺族補償年金の損益相殺を主張するとともに,前
払一時金最高額の履行猶予を求めるもののようであるが,法が前払一時金の最
高限度額の範囲内で民事損害賠償との調整ができることとしたのは,前払一時
金については,最高限度額まで一括前払いを受けることができ,また失権差額
一時金制度によって確実に給付が行われることが法的に保証されている部分で
あって既支給分と同視しうるためであるから,既に支給されている労災年金が
ある場合には,既支給分については履行猶予分のうちの免責額に充てられると
解すべきであり,既支給分に加えて前払一時金最高額の控除ないし猶予を求め
られるわけではない。また,被告らは,特別年金額も前払一時金算定の基礎給
付額として算定すべきであると主張するが,労災保険法施行規則は,前払一時
金最高額につき給付基礎日額の1000日分と定めており,特別給付である特
別年金額をこれに含まない趣旨であると解されるから,特別年金額の日額10
00日分を労災保険法の規定により控除することはできない。しかし,特別年
金は,特別給与いわゆるボーナスを基礎給付として算定されるものであり,逸
失利益中の賞与部分の賃金喪失部分を填補する労災支給金であるというべきで
あるから,既に支払われた給付についてはこれを控除することが相当である。
よって原告が既払額と認める33万5636円については,損害額(逸失利
益)から控除すべきである。
以上によれば,上記損害額のうち707万1636円について控除するのが
相当である。
7結論
以上のとおり,被告会社は,原告らに対し,各1817万4571円及びこ
れに対する催告の日の翌日である平成17年12月14日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務があり(債務不履行に基づ
く損害賠償債務は期限の定めのない債務であり,民法412条3項によりその
債務者は債権者からの履行の請求を受けた時にはじめて遅滞に陥るものという
べきであるところ,本件において,原告らが履行の請求をしたと明らかに認め
られるのは本訴状送達であるから,この翌日から遅延損害金が起算されること
になる。),被告Cは,原告らに対し,各1817万4571円及びこれに対
する不法行為による損害発生の日である平成15年12月15日から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。よって,原
告らの請求は,被告らに対し,それぞれ1817万4571円及びこれに対す
る,被告会社については平成15年12月15日から,被告Cについては平成
17年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求める限度では理由があるが,その余は理由がないから,主文のと
おり判決する。
さいたま地方裁判所第4民事部
裁判長裁判官遠山廣直
裁判官富永良朗
裁判官久米玲子
(別紙添付省略)

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