弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決を破棄し,第1審判決中上告人敗訴部分を取り消
す。
前項の部分につき,被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人上甲悌二,同清水良寛の上告受理申立て理由第3ないし第7について
1本件は,上告人の従業員らが営業成績を上げる目的で架空の売上げを計上し
たため有価証券報告書に不実の記載がされ,その後同事実が公表されて上告人の株
価が下落したことについて,公表前に上告人の株式を取得した被上告人が,上告人
の代表取締役に従業員らの不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき
義務に違反した過失があり,その結果被上告人が損害を被ったなどと主張して,上
告人に対し,会社法350条に基づき損害賠償を請求する事案である。被上告人
は,商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)261条3項,78条2
項が準用する民法(平成18年法律第50号による改正前のもの)44条1項に基
づく請求をするが,会社法の制定により,同法にこれと同内容の規定である350
条が設けられ,同法の施行前に生じた事項にも適用されるものとされた(会社法附
則2項)ので,同法施行後は同法350条に基づく請求をするものと解される。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,ソフトウェアの開発及び販売等を業とする株式会社であり,平
成15年2月に東京証券取引所(以下「東証」という。)第2部に上場した。A
は,上告人設立以降現在まで上告人の代表取締役の地位にある。
(2)被上告人は,平成16年9月13日及び翌14日,証券会社を通じて上告
人の株式を取得した者である。
(3)上告人の事業は,注文に応じてソフトウェアの受託開発等を行うソフトウ
ェア事業と大学向けの事務ソフト等の既製品を開発し販売するパッケージ事業に大
別され,パッケージ事業本部にはC事業部が設置されている。
(4)Bは,平成12年4月に上告人のC事業部の部長に就任した。当時,C事
業部には,Bが部長を兼務する営業部のほか,注文書や検収書の形式面の確認を担
当するBM課(ビジネスマネージメント課)及び事務ソフトの稼働の確認を担当す
るCR部(カスタマーリレーション部)が設置されていた。また,当時の上告人の
職務分掌規定によれば,財務部の分掌業務は,資金の調達と運用・管理,債権債務
の管理等とされ,C事業部の分掌業務は,営業活動,営業事務(受注管理事務,債
権管理事務,売掛金の管理及び不良債権に対する処理方針の決定を含む。)等とさ
れていた。
(5)上告人のパッケージ事業は,上告人が,顧客であるD株式会社ほか1社
(以下,2社を単に「販売会社」という。)に事務ソフト等の製品を販売し,販売
会社がエンドユーザーである大学等に更にこれを販売するというものである。平成
12年当時のパッケージ事業における事務手続(以下「本件事務手続」という。)
の流れは,以下のとおりであった。
アC事業部の営業担当者が販売会社と交渉し,合意に至ると販売会社が注文書
を営業担当者に交付する。営業担当者は,注文書をBM課に送付し,同課は受注処
理を行った上,営業担当者を通じて販売会社に検収を依頼する。
イCR部の担当者が,販売会社の担当者及びエンドユーザーである大学の関係
者と共に,納品された事務ソフトの検収を行う。
ウBM課は,販売会社から検収書を受領した上,売上処理を行い,上告人の財
務部に売上報告をする。財務部は,BM課から受領した注文書,検収書等を確認
し,これを売上げとして計上する。
(6)Bは,高い業績を達成し続けて自らの立場を維持するため,平成12年9
月以降,C事業部の営業担当者である部下数名(以下「営業社員ら」という。)に
対し,後日正規の注文が獲得できる可能性の高い取引案件について,正式な注文が
ない段階で注文書を偽造するなどして実際に注文があったかのように装い,売上げ
として架空計上する扱い(以下「本件不正行為」という。)をするよう指示した。
Bの指示を受けて行われた本件不正行為の手法は,次のとおりであった。
ア営業社員らは,偽造印を用いて販売会社名義の注文書を偽造し,BM課に送
付した。
イBM課では,偽造に気付かず受注処理を行って検収依頼書を作成し,営業社
員らに交付した。しかし,検収依頼書は販売会社に渡ることはなく,営業社員らに
よって検収済みとされたように偽造され,BM課に返送された。実際には大学に対
して製品は納品されておらず,CR部担当者によるシステムの稼働の確認もされて
いなかったが,B及び営業社員ら(以下「Bら」という。)は,納品及び稼働確認
がされているかのような資料を作成した。
ウBM課では,検収書の偽造に気付かず売上処理を行い,財務部に売上げの報
告をした。財務部は,偽造された注文書及び検収書に基づき売上げを計上した。
エ財務部は,毎年9月の中間期末時点で,売掛金残高確認書の用紙を販売会社
に郵送し,確認の上返送するよう求めていた。また,毎年3月の期末時点には,上
告人との間で監査契約を締結していた監査法人も,売掛金残高確認書の用紙を販売
会社に郵送し,確認の上返送するよう求めていた。ところが,営業社員らは,Bの
指示を受けて,販売会社の担当者に対し,上告人等から封書が郵送される可能性が
あるが,送付ミスであるから引き取りにいくまで開封せずに持っていてほしいなど
と申し向け,これを販売会社から回収した上,用紙に金額等を記入し,販売会社の
偽造印を押捺するなどして販売会社が売掛金の残高を確認したかのように偽装し,
財務部又は監査法人に送付していた。財務部及び監査法人は,偽造された売掛金残
高確認書において上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致していたため,架
空売上げによる債権を正常債権と認識していた。
(7)Bらは,当初は契約に至る可能性が高い案件のみを本件不正行為の対象と
していたが,次第に可能性が低い案件についても手を付けざるを得なくなり,売掛
金の滞留残高は増大していった。
(8)財務部は,回収予定日を過ぎた債権につき,C事業部から売掛金滞留残高
報告書を提出させていたが,Bらは,回収遅延の理由として,大学においてシステ
ム全体の稼働が延期されたことや,大学における予算獲得の失敗及び大学は単年度
予算主義であるため支払が期末に集中する傾向が強いことなどを挙げていた。財務
部は,これらの理由が合理的であると考え,また,販売会社との間で過去に紛争が
生じたことがなく,売掛金残高確認書も受領していると認識していたことから,売
掛金債権の存在について特に疑念を抱かず,直接販売会社に照会等をすることはし
なかった。また,監査法人も,平成16年3月期までの上告人の財務諸表等につき
適正であるとの意見を表明していた。
(9)上告人は,監査法人から売掛金残高の早期回収に向けた経営努力が必要で
ある旨の指摘を受け,代表取締役であるAが販売会社と売掛金残高について話をし
たところ,双方の認識に相違があることが明らかになり,平成16年12月ころ,
本件不正行為が発覚した。
(10)上告人は,平成17年2月3日付けでBを懲戒解雇処分とし,その後刑事
告発した。Bは,有印私文書偽造・同行使の罪で起訴され,有罪判決を受けた。
(11)上告人は,平成17年2月10日,複数年度にわたりBらによる本件不正
行為が行われていたこと,それにより同16年9月ころまでの上告人のパッケージ
事業の売上高に影響が生ずること,そのためパッケージ事業については多額の損失
計上を余儀なくされるが,上告人グループの売上高の約80%を占めるソフトウェ
ア事業については影響はないことなどを公表し,同17年3月期の業績予想を修正
した。東証は,上告人から過去の有価証券報告書を訂正する旨の報告を受け,同年
2月10日,上場廃止基準(財務諸表に虚偽記載があること)に抵触するおそれが
あるとして,上告人の株式を監理ポストに割り当てることとした。これらの事実が
新聞報道された後,上告人の株価は大幅に下落した。
3原審は,次のとおり判断して,被上告人の請求を一部認容すべきものとし
た。
(1)本件不正行為当時,C事業部は幅広い業務を分掌し,BM課及びCR部が
同事業部に直属しているなど,上告人の組織体制及び本件事務手続にはBらが企図
すれば容易に本件不正行為を行い得るリスクが内在していたにもかかわらず,上告
人の代表取締役であるAは,上記リスクが現実化する可能性を予見せず,組織体制
や本件事務手続を改変するなどの対策を講じなかった。また,財務部は,長期間未
回収となっている売掛金債権について,販売会社に直接売掛金債権の存在や遅延理
由を確認すべきであったのにこれを怠り,本件不正行為の発覚の遅れを招いたもの
で,このことは,Aが財務部によるリスク管理体制を機能させていなかったことを
意味する。したがって,Aには,上告人の代表取締役として適切なリスク管理体制
を構築すべき義務を怠った過失がある。
(2)上告人の代表取締役であるAの上記過失による不法行為は,上告人の職務
を行うについてされたものであるから,上告人は,会社法350条に基づき,被上
告人に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係によれば,本件不正行為当時,上告人は,①職務分掌規定等を定め
て事業部門と財務部門を分離し,②C事業部について,営業部とは別に注文書や検
収書の形式面の確認を担当するBM課及びソフトの稼働確認を担当するCR部を設
置し,それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整え,③監査法人
との間で監査契約を締結し,当該監査法人及び上告人の財務部が,それぞれ定期的
に,販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し,その返送を受ける方法で売
掛金残高を確認することとしていたというのであるから,上告人は,通常想定され
る架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていたものと
いうことができる。そして,本件不正行為は,C事業部の部長がその部下である営
業担当者数名と共謀して,販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造し,BM課の
担当者を欺いて財務部に架空の売上報告をさせたというもので,営業社員らが言葉
巧みに販売会社の担当者を欺いて,監査法人及び財務部が販売会社あてに郵送した
売掛金残高確認書の用紙を未開封のまま回収し,金額を記入して偽造印を押捺した
同用紙を監査法人又は財務部に送付し,見掛け上は上告人の売掛金額と販売会社の
買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという,通常容易に想定し難い方法によ
るものであったということができる。
また,本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど,上告
人の代表取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという
特別な事情も見当たらない。
さらに,前記事実関係によれば,売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた
理由は合理的なもので,販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく,監査法
人も上告人の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるか
ら,財務部が,Bらによる巧妙な偽装工作の結果,販売会社から適正な売掛金残高
確認書を受領しているものと認識し,直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認し
なかったとしても,財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったというこ
とはできない。
以上によれば,上告人の代表取締役であるAに,Bらによる本件不正行為を防止
するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはで
きない。
5以上と異なる原審の判断には判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令
の違反がある。論旨は理由があり,原判決は,その余の点につき判断するまでもな
く,破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の上告人に
対する請求は理由がないから,第1審判決中これを認容した部分を取り消し,同部
分につき被上告人の請求を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官涌井紀夫裁判官宮川光治裁判官
櫻井龍子裁判官金築誠志)

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