弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人佐伯継一郎の上告趣意は、憲法三一条違反をいうが、実質は単
なる法令違反の主張であり、被告人両名の弁護人池田治、同松永満好連名の上告趣
意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告
理由にあたらない。
 なお、原審の確定した事実は、ひつきよう、国がその所有する本件未墾地を農地
法六一条以下の規定により売渡処分をする旨を公示したところ、被告人両名は、原
審相被告人Bと共謀し、右Aが国の定める増反者等選定の基準適格者であることを
奇貨として、同人において、農地法所定の趣旨に従つてみずから右土地を保有し、
これを開墾利用して自己の営農に役立てる意思がなく、売渡しを受けたうえは被告
人Dにその所有権を取得させ、同人の隠居所敷地に供する意図であるのに、この事
情を秘匿し、売渡事務をつかさどる県知事にあて、所定の買受予約申込書等の必要
書類を順次提出してその売渡しを求め、同知事を欺罔して右Aが売渡処分名下に本
件国有地の所有権を得した、というのであつて、これによれば、被告人らの行為は
刑法二四六条一項に該当し、詐欺罪が成立するものといわなければならない。被告
人らの本件行為が、農業政策という国家的法益の侵害に向けられた側面を有すると
しても(農地法にはかかる行為を処罰する規定はない。)、その故をもつて当然に、
刑法詐欺罪の成立が排除されるものではない。欺罔行為によつて国家的法益を侵害
する場合でも、それが同時に、詐欺罪の保護法益である財産権を侵害するものであ
る以上、当該行政刑罰法規が特別法として詐欺罪の適用を排除する趣旨のものと認
められない限り、詐欺罪の成立を認めることは、大審院時代から確立された判例で
あり、当裁判所もその見解をうけついで今日に至つているのである(配給物資の不
正受配につき、大審院昭和一八年(れ)第九〇二号同年一二月二日判決・刑集二二
巻一九号二八五頁、最高裁昭和二二年(れ)第六〇号同二三年六月九日大法廷判決・
刑集二巻七号六五三頁、昭和二三年(れ)第五〇八号同年一一月四日第一小法廷判
決・刑集二巻一二号一四四六頁参照。)。また、行政刑罰法規のなかには、刑法に
正条あるものは刑法による旨の規定をおくものもあるが、そのような規定がない場
合であつても、刑法犯成立の有無は、その行為の犯罪構成要件該当性を刑法独自の
観点から判定すれば足りるのである(大審院明治四三年(れ)第一七九一号同年一
〇月二七日判決・刑録一六輯二二巻一七五八頁、最高裁昭和二四年(れ)第二九六
二号同二五年三月二三日第一小法廷判決・刑集四巻三号三八二頁参照)。原判断は、
正当として是認することができる。
 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官団藤重光の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によ
るものである。
 裁判官団藤重光の反対意見は、次のとおりである。
 詐欺罪の規定(刑法二四六条)は、個人的法益としての財物または財産上の利益
を保護するために設けられているものである。財物がたまたま国家や公共団体の所
有に属していても、それが個人的法益であることにかわりはないから、これを騙取
すれば詐欺罪が成立することは、もちろんである。これに反して、本来の国家的法
益に向けられた詐欺的行為は、詐欺罪の構成要件の予想する犯罪定型の範囲に属し
ないものといわなければならない。たとえば、欺罔的手段を用いて脱税すれば、人
を欺罔して財産上不法の利益を得るという点でいわゆる二項詐欺の構成要件に該当
するようにみえるが、これは各種税法の違反に問われるだけである(たとえば所得
税法二三八条以下等)。欺罔手段によつて旅券の交付を受けた者は、旅券も財物で
あるにはちがいないが、旅券法違反(同法二三条一項一号)を構成するにすぎない
(昭和二四年(れ)第一四九六号同二七年一二月二五日第一小法廷判決・刑集六巻
一二号一三八七頁参照)。これらは特別規定だから刑法の詐欺罪の規定の適用が排
除されるのだという説もあるが、もし本来詐欺罪に該当するものだとするならば、
何故にわざわざ特別規定を設けて軽い法定刑を規定したのかということの説明に窮
するであろう。
 ところで、本件事案の骨子を略述すれば、被告人ら両名は、みずからは国の定め
る増反者等選定基準に該当しない者であるところ、共犯者(第一審および原審では
共同被告人)Bがその基準に適合し国から未墾地の売渡を受ける資格をもつている
のを奇貨として、A自身は本件土地を保有して自己の営農に役立てる意思がないの
に、その意思があるように装つて、同人名義で手続を進めて本件国有地の売渡を受
けた、というのである。なるほど、そこには欺罔的手段によるところの財物の移転
があるにはちがいないが、およそこのような行為は、もつぱら農地法の想定する農
地政策に背反するという点で違法性を有するにすぎない。同法一条によれば、「こ
の法律は、農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、
耕作者の農地の取得を促進し、及びその権利を保護し、並びに土地の農業上の効率
的な利用を図るためその利用関係を調整し、もつて耕作者の地位の安定と農業生産
力の増進とを図ることを目的とする」というのであつて、本件被告人らの行為は、
まさしく、このような農地法の規定が存在しなければ、本件のような売買は、はじ
めからなんら問題とならない性質のものである。換言すれば、本件行為は詐欺罪の
定型にあたらない行為というべきであり、もし立法者が本件行為のような種類のも
のを処罰する必要を認めたならば、農地法にしかるべき罰則を設けて置くべきであ
つたとおもう。かような特別の罰則がない現行法のもとでは、本件行為は犯罪を構
成しないものというべきである。
 なお、ここに留意されなければならないのは、食糧の不正受配に関する食糧緊急
措置令(昭和二一年勅令第八六号)の規定である。同令一〇条前段は「主要食糧(
中略)ノ配給ニ関シ不実ノ申告ヲ為シ其ノ他不正ノ手段ニ依リ主要食糧ノ配給ヲ受
ケ又ハ他人ヲシテ受ケシメタル者ハ五年以下ノ懲役又ハ五万円以下ノ罰金ニ処ス」
というのであるが、その後段には「其ノ刑法ニ正条アルモノハ刑法ニ依ル」という
明文の規定が置かれていて、立法者自身が刑法の詐欺罪の規定の適用を予想してい
るようであり、当裁判所の判例も騙取の態様における不正受配については詐欺罪の
成立を認めているのである(昭和二三年(れ)第三二九号同年七月一五日第一小法
廷判決・刑集二巻八号九〇二頁、昭和二三年(れ)第五〇八号同年一一月四日第一
小法廷判決・刑集二巻一二号一四四六頁、昭和二四年(れ)第二五三五号同二五年
二月二四日第二小法廷判決・刑集四巻二号二五一頁等)。わたくしはこの判例に対
しても疑問をいだくものであるが(団藤・刑法綱要各論・増補・昭和四九年・四九
一頁参照)、おそらく農地法の立案者は、こうした判例を念頭に置いて、特別の罰
則を設けるまでもなく刑法の規定でまかなえると考えたものとも推測される。そう
だとすれば、多数意見のように、本件行為について詐欺罪の成立をみとめることも、
あながちに否定し去ることはできないであろう。しかし、右の食糧緊急措置令のよ
うに明文の規定に解釈上の根拠のある場合と、かような明文の根拠を欠く農地法の
場合とは、同日の談ではない。わたくしとしては、やはり、前記のように解するほ
かなく、したがつて、原判決は破棄を免れないものと考える。
  昭和五一年四月一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

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