弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士岡田実五郎、同佐々木熈の上告理由第一、第二点について。
 思うに賃料債権者たる被上告人は債務者たる上告人Aから賃料の提供を受けなが
ら、これを受領しないときは債務者たる同上告人には履行遅滞の責なく、従つてこ
れを前提とする契約解除の意思表示は無効に帰することは論を俟たないが、同上告
人が原告の受領遅滞を理由として契約解除の無効を主張しようとするには、右受領
遅滞の事実は同被告の側において主張且つ立証しなければならないことは、これ亦
言を俟たないところである。然るに昭和三〇年五月一日から同三元年一二月三一日
までの賃料について被上告人に受領遅滞の責あることを主張する上告人らは、記録
によれば右賃料債務に対し所論相殺を主張するにとどまり、右受領遅滞の点につい
ては何ら主張且つ立証するところなかつたのである。してみれば、原審としては右
の点につき特に釈明権を行使し或は職権でこれを取上げて審究の上右契約解除の有
効無効を判断するの余地はなかつたものと言わざるを得ない。なお、原判決が右賃
料債務よりも後に発生した同一契約上の所論賃料債務について被上告人の所論のい
わゆる賃料不受領の意思明白な受領遅滞があつたと断定したからといつて、右賃料
債務についても同じように被上告人に受領遅滞の責があるものと判断しなければな
らない筋合があるわけのものではない。されば、原判決には所論の欠点あるものと
言うを得ず、所論は結局独自の所見というの外なく、採用できない。
 同第三点について。
 原審において上告人Aが被上告人に対し金一二五、七七〇円の保存費償還の請求
権ありと主張したが、有益費償還の請求権ありとは主張していないこと、これに対
し原判決は右金一二五、七七〇円の内二五、〇〇〇円を保存費とし、その他を有益
費と認めたことは所論のとおりである。しかし、右認定の仕方はひつきようするに、
右金一二五、七七〇円の保存費償還請求権を全部的に認容できないという趣旨に外
ならないから右は当事者の申立てない事項の利益を当事者すなわち被上告人に帰せ
しめたということにはならない。そしてこの場合、右金一二五、七七〇円を全体と
して観察し保存費かしからずんば有益費かと判断しなければならない筋合があるわ
けのものではない。それ故所論は採用できない。
 同第四点について。
 所論は、所論の点に関する原判決の認定は証拠に基いていないというのである。
しかし、原判決挙示の証拠に徴すれば原判示のような認定も可能でないことはない
のである。所論はひつきようするに原審が法律上許された裁量の範囲内で自由に証
拠を評価しこれに基いてなした事実認定を非難攻撃するものでしかなく、上告適法
の理由として採用し能わざるところのものである。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎

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