弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人益谷幾蔵及同小泉英一の上告趣意第一点乃至第三点について。
 論旨第一点乃至第三点における原判決の非難は凡て、原判決文の表現が明確を欠
くことに基いている。よつて原判決文並にそこに引用されている第一審判決文の意
味を明かにすることが必要である。先ず第一審判決は、その証拠説明の部分に於て、
その判示「事実中被告人Aの犯意継続の点を除き其の余は各被告人の当法廷に於け
る判示と同趣旨の供述に依り認めることが出来」る、と記載している。これは「第
一審判決が認定した第一乃至第三の犯罪事実は、第一審法廷における被告人三名の
供述中判示と同趣旨の部分を証拠として認められる」
 という意味でる。ところが右の第一乃至第三の犯罪中被告人Bの犯罪即ち判示第
一の事実と同趣旨の供述をしているのは、被告人B及びAである。
 第一審第七回公判調書並にそれに引用されている第三回公判調書をみると、冒頭、
判事が検事陳述の公訴事実と同一の事実を告げて、「この事実に付て何か云うこと
があるか」と問うたのに対して、被告人等は「事実はその通りですから別に申上げ
ることはありません」と答えている。のみならずBは、それに続いて判事がした個
々の事実の訊問に対しても公訴事実と同趣旨の陳述をしている。冒頭公訴事実の告
知に対する被告人の概括的な答弁だけで公訴事実と同一の供述があつたものと認め
るのは、所論(第一点(ハ))のように妥当でない場合があるにしても、本件のよ
うにそれに続いて個々の具体的事実についても公訴事実と同趣旨の供述をしている
場合には、両者を綜合して公訴事実の全般に亘り公訴事実と同趣旨の供述をしたも
のと認めても些つとも無理ではない。そうして被告人Bが、判示の場所に於て、判
示数量の検査済粳玄米を、Aに売渡す契約をなし、判示日時に現物を引渡したこと
は何れも公訴事実に明示されているのであるから、これを承認した同被告人はこれ
らの事実を供述したものということができる。従つてこの供述を証拠としてこれら
の事実を認定することを以て、虚無の証拠による認定であり、理由不備、理由齟齬
の違法を犯すものであるとする論旨(第一点(イ))は理由がない。
 上記の公判調書における第一審相被告人Aの供述も右のBの供述を裏打ちするも
のである。Aは、最初は判事から、「米の売買を世話しただけなのか」と問われて、
「自分ではその様に思つてをるのですが」と答えていたが、判事が取調を進めた後
「そうすると被告人が一旦Bから三千二百円で買受けてそれを裏野に三千六百円で
売つたということになるのではないか」と問うや、「結局そういうことになるので
す」と供述している(記録二一〇丁裏)。AがBから米を買つたということの供述
がBがAに米を売つたということの供述の補強証拠となり得ることはいうまでもな
い。
 以上述べたところによつて明かなように、第一審判決は被告人Bの犯罪事実を、
公判廷における同人並にAの供述を証拠として認定したものである。ところが原判
決は、「本件犯罪事実並に証拠は原判決摘示(被告人関係部分)と同一であるから
これを引用する」と言つている。これは「第一審判決摘示の犯罪事実中被告人Bに
関する犯罪事実を認定し、その証拠として、第一審判決中右事実の証拠として摘示
せられているものを採用する」という意味と解せられる。そうして第一審判決にお
いてBの犯罪の証拠となつたのは、第一審公判廷におけるB及びAの供述であるか
ら、原判決も亦第一審公判廷におけるB及びAの供述を証拠としたものであること
が明かである。ただ、正確に云えば、第一審判決が証拠としたのはB及びAの供述
そのものであるのに対して、第二審判決においては公判調書における両名の供述記
載であることを明示すべきであつたが、そのことは、おのずから推量できる。
 論旨第一点の(ロ)は、原判決の証拠説示の文言を、「三名の被告人の供述」を
証拠に供したものと解し、原審に於ては被告人は一名であるから、かような証拠説
明は意味不明であり、これによつて事実を認定することは理由不備であると非難し
ている。しかし原判決文を上記のように解するならば、この非難はおのずから消失
するであろう、原判決が証拠として採用したのは、論旨第三点に仮定されているよ
うに第二審公判廷における被告人Bの供述ではなくて、第一審公判調書中の同人の
供述記載である。従つてこれは当裁判所の判例の示す通りに、第二審からみれば公
判廷外の自白である。然し原判決はこれを唯一の証拠として被告人の犯罪を認定し
たのではなくて、第一審相被告人Aの供述をも証拠とし彼此相俟つて事実を認定し
たものである。そして共同被告人の供述も本人の自白を補強する証拠となり得るこ
と、当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第一一二号、同年七月一四日大法廷判決)
に示されている通りであるから、原判決には、論旨第二点に主張されているように
憲法第三八条第三項又は刑訴応急措置法第一〇条第三項に違反する廉は存しない。
 論旨第三点は爰に採用しない仮定にもとづく主張であるから、採用できない。こ
れを要するに論旨第一点から第三点に亘つて展開されている論難は原判決文の誤解
に基くものであつて、原判決文を上に述べたように解するならば何れの点も理由な
きことが明かであろう。
 同上第四点について。
 しかし刑の執行猶予の言渡をしなかつたからとて刑法第二五条に違反するもので
はない。これを言渡すか否かは、結局に於て量刑の問題に帰着し、適法な上告理由
とはなり得ない。
 以上の理由により最高裁判所裁判事務処理規則第九条第四項及び旧刑訴法第四四
六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年八月九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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