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平成11年(行ケ)第255号 特許取消決定取消請求事件
     判    決
 原     告   ノートン カンパニー
 訴訟代理人弁護士  宇井正一、弁理士 古賀哲次
 被     告   特許庁長官 及川耕造
 指定代理人     小林武、播博、小関峰夫、大野克人、林栄二
 被告補助参加人   株式会社ノリタケカンパニーリミテド
 訴訟代理人弁理士  加藤朝道、内田潔人、石田康昌
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は、参加によって生じたものも含め、原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成9年異議第70593号事件について平成11年2月19日にし
た決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は特許第2523971号発明(名称・訂正請求前「研磨物品」、訂正請求
後「砥石車」)の特許権者である。本件特許は、平成2年9月13日(優先権主張
日・1989年(平成1年)9月13日、優先権主張国・米国)に出願され、平成
8年5月31日にその特許の設定登録がなされたが、特許異議の申立てがあり、取
消理由通知後の平成10年2月19日に訂正請求があり、さらに、訂正拒絶理由通
知がなされた結果、平成10年9月30日に手続補正がなされたが、平成11年2
月19日、「特許第2523971号の請求項1ないし15に係る特許を取り消
す。」との決定があり、その謄本は同年4月10日原告に送達された。
 2 本件発明の要旨
 (1) 補正された訂正明細書に係る発明(訂正発明)の要旨
【請求項1】
(a)焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒子、
(b)粒子物質全体の20~70体積%を占め、中空酸化物球状物、脆砕性珪酸塩
粒子及び中実又は中空有機重合体球状物から選ばれ、上記砥粒と実質的に同じ粒径
を有し、10~200メッシュ(2mm~75μm)の範囲内の粒径であるフィラー粒
子、及び
(c)上記粒子を固定し保持する樹脂結合剤を含む混合物よりなる砥石車。
【請求項2】
 砥石車中の研磨粒子の少なくとも10体積%が、焼結ゾル・ゲルアルミナ粒子で
あることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の砥石車。
【請求項3】
 砥石車中の研磨粒子の少なくとも50体積%が、焼結ゾル・ゲルアルミナ粒子で
あることを特徴とする特許請求の範囲第2項に記載の砥石車。
【請求項4】
 ゾル・ゲルアルミナ粒子がシーデッドゾル・ゲルアルミナ粒子である特許請求の
範囲第1項に記載の砥石車。
【請求項5】
 研磨粒子の70体積%以下が、溶融アルミナ、焼結アルミナ、炭化珪素、溶融ジ
ルコニア、焼結ジルコニア、溶融アルミナ・ジルコニア、焼結アルミナ・ジルコニ
ア、ダイアモンド又はCBNであることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の砥
石車。
【請求項6】
 フィラー粒子が、中空バブル状金属酸化物、有機ポリマー又はガラス;珪酸塩又
はアルミナ珪酸塩;及び発泡若しくは固形ガラス又は有機ポリマー粒子から選択さ
れることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の砥石車。
【請求項7】
 フィラー粒子が、酸化アルミニウムバブル、酸化ジルコニウムバブル、ガラスバ
ブル及びビトリファイドアルミナ・珪酸塩バブル又はビトリファイドアルミナ・珪
酸塩ペレットから選択されることを特徴とする特許請求の範囲第6項に記載の砥石
車。
【請求項8】
 前記砥石車が研磨粒子を含み、前記研磨粒子が前記砥石車の粒状物質の50重量
%以上を占め、前記焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒子がシーデッドゾル・ゲルアル
ミナ粒子を含み、前記シーデッドゾル・ゲルアルミナ粒子が前記研磨粒子の20~
100体積%をなし、前記フィラー粒子がアルミナバブルを含み、前記アルミナバ
ブルが前記砥石車の粒状物質の20~70体積%を占め、前記樹脂結合剤がフェノ
ール樹脂結合剤である特許請求の範囲第1項に記載の砥石車。
 (2) 特許の設定登録時の本件発明の要旨
 (2)-1 発明1
(a)焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒子、
(b)粒状物質全体の20~70体積%を占め、中空酸化物球状物、脆砕性珪酸塩
粒子及び中実又は中空有機重合体球状物から選ばれ、上記砥粒と実質的に同じかそ
れより小さい粒径を有するフィラー粒子、及び
(c)上記粒子を固定し保持する樹脂結合剤を含む混合物よりなる研磨物品。
 (2)-2 発明2
 物品中の研磨粒子の少なくとも10体積%が焼結ゾル・ゲルアルミナ粒子である
ことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の研磨物品。
 (2)-3 発明3
 物品中の研磨粒子の少なくとも50体積%が、焼結ゾル・ゲルアルミナ粒子であ
ることを特徴とする特許請求の範囲第2項に記載の研磨物品。
 (2)-4 発明4
 ゾル・ゲルアルミナ粒子がシーデッドゾル・ゲルアルミナ粒子である特許請求の
範囲第1項に記載の研磨物品。
 (2)-5 発明5
 研磨粒子の70体積%以下が、溶融アルミナ、焼結アルミナ、炭化珪素、溶融ジ
ルコニア、焼結ジルコニア、溶融アルミナ・ジルコニア、焼結アルミナ・ジルコニ
ア、ダイアモンド又はCBNであることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の研
磨物品。
 (2)-6 発明6
 フィラー粒子が、中空バブル状金属酸化物、有機ポリマー又はガラス;珪酸塩又
はアルミナ珪酸塩;及び発泡若しくは固形ガラス又は有機ポリマー粒子から選択さ
れることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の研磨物品。
 (2)-7 発明7
 フィラー粒子が、酸化アルミニウムバブル、酸化ジルコニウムバブル、ガラスバ
ブル及びビトリファイドアルミナ・珪酸塩バブル又はビトリファイドアルミナ・珪
酸塩ペレットから選択されることを特徴とする特許請求の範囲第6項に記載の研磨
物品。
 (2)-8 発明8
 樹脂結合剤がフェノール樹脂からなることを特徴とする特許請求の範囲第1項に
記載の研磨物品。
 (2)-9 発明9
(a)物品中の粒状物質の体積に対して50~90体積%を占め、研磨粒子の20
~100体積%をなすシーデッドゾル・ゲルアルミナ粒子と、
(b)物品中の粒状物質の体積に対して20~70%のアルミナバブルと、
(c)フェノール結合樹脂とを含むことを特徴とする研磨物品。
 (2)-10 発明10
 各ゾル・ゲルアルミナ粒子が、直径0.4ミクロン以下の多数の微結晶からなる
ことを特徴とする特許請求の範囲第9項に記載の研磨物品。
 (2)-11 発明11
 研磨粒子の80体積%以下が、溶融アルミナ粒子であることを特徴とする特許請
求の範囲第9項に記載の研磨物品。
 (2)-12 発明12
 アルミナバブルの大きさが、10~200メッシュであることを特徴とする特許
請求の範囲第9項に記載の研磨物品。
 (2)-13 発明13
 全体を通じて実質的に均一な構造をしている研削砥石状の特許請求の範囲第1項
に記載の研磨物品。(「研削砥石重状」は「研削砥石状」の誤記)
 (2)-14 発明14
 全体を通じて実質的に均一な構造をしている研削砥石状の特許請求の範囲第9項
に記載の研磨物品。
 (2)-15 発明15
 全体を通じて実質的に均一な構造をしている研削砥石状の特許請求の範囲第10
項に記載の研磨物品。
 3 決定の理由の要点
 (1) 訂正の適否についての判断
 (1)-1 補正された訂正明細書の特許請求の範囲第1項(訂正発明1)に係る発

 訂正発明1の構成に欠くことができない事項は、前記2の(1)の請求項1のとおり
である。
 (1)-2 引用刊行物記載の発明
 訂正発明1に対して、異議手続で通知した訂正拒絶理由において引用した刊行物
1及び刊行物2には、それぞれ次の事項が記載されている。
 (1)-2-1 刊行物1(特開昭64-11183号公報):
 ゾル-ゲル法によって形成されるセラミック研磨材粒体(6頁下右欄3~4行参
照)を炭酸カルシウムやガラスなどのように研磨材としては認められていない物質
と混ぜ合わせ(10頁下左欄3~11行参照)、これを従来的結合剤すなわちフェ
ノール樹脂(11頁上左欄4~5行参照)を含む有機結合剤で固めることにより製
造された回転板形研磨剤製品(11頁上右欄9~13行参照。記載1)。
 (1)-2-2 刊行物2(米国特許第2,806,772号明細書):
  (ⅰ)「空孔支持体と呼ぶこれらの粒子は、溶融アルミナ、炭化珪素、等のよう
なより硬い強固な通常の研磨粒子を互いに分離しながら、一方ではこれらの粒子と
結合剤を支持し、これら空孔支持体がワークと接触してはぎ取られ、その研磨粒子
間に解放空間を残すまで、研磨粒子及び結合剤をしっかりと支持する。」(1欄7
2行~2欄9行。記載2.1)
  (ⅱ)「これらの空孔支持体は、それ自体高度の多孔質体である。それは、薄壁
で形成された中空体かスポンジのような物体でもよいが熱可塑性ではない。」(2
欄10~12行。記載2.2)
  (ⅲ)
「 研磨粒子・・・・25から54体積%
  有機結合剤・・・15から45体積%
  空孔支持体・・・5から30体積%」
(4欄10~13行。記載2.3)
  (ⅳ)
 「実施例 1
 図1に示された型の研磨車を作るため、次の例示を示す。この中で、組成は、重
量割合で示す。
    24gritのアルミナ研磨物質・・・83.00
    粉末熱硬化性フェノール樹脂・・・・8.64
    クロライト・・・・・・・・・・・・6.00
    液状熱硬化性フェノール樹脂・・・・2.36
    Intumescedperlite14-24mesh・・・2.18」(4欄19~27行。記
載2.4)
  (ⅴ)「研磨製品が、研磨粒子、フェノール樹脂、および直径0.025インチ
以下の薄壁中空球状体が製品体積の1から30体積%を占め樹脂ボンドと研磨粒子
の間に分散された中空体から成る研磨製品」(6欄41~47行。記載2.5)
  (ⅵ)「空孔支持体として、優れているものとして、米国特許第2,676,892号(1
954年4月27日)明細書に「カナマイト」の名で記載されている、薄壁のガラ
ス質の結合された粘土物質がある。また熱硬化性樹脂製の中空の硬い球体を用い
た。」(2欄23~29行。記載2.6)
  (ⅶ)「カナマイトの泡沫体(30~60メッシュ、直径0.025から0.010インチ
に相当)は、多くの砥石車において、砥粒の粒径に近似している。一方、実施例1
においては、パーライト粒子は14から24メッシュで、砥粒は24メッシュであ
った。一般に、パーライトや類似の粒子の直径は、最大の砥粒の直径の1ないし2
倍にすべきであることを発見した。」(4欄71行~5欄3行。記載2.7)
  (ⅷ)「図1~4において、1は研磨粒を示し、この研磨粒は、溶融アルミナ、
炭化珪素、またはその他の研磨物質からなるものである。」(3欄25~27行。
記載2.8)
  (ⅸ)「有意の体積の多孔質成分がこのような方法で加えられる結果、研磨中の
ワークと直接接触する研磨車の表面において、空孔支持部材が破壊され脱落し、そ
こに新たな空孔を残す。その結果、研磨車の研磨作用面の空孔率は60%もしくは
それ以上となる。しかし、研磨車の強度は従来の重い研磨車に比し、安全な運転が
可能である。研磨作用面の有効な空孔は低温の研磨車をもたらし、負荷作用や粘着
をおこさず、優れた効率で研磨作用をする。研磨粒のエッジは露出解放されその研
磨能力を最大に利用できるようにする。一方冷却空気または研削液が解放された空
孔に捉えられ、研磨中のワークの表面にかけられ高い冷却効果を与える。」(3欄
45~61行。記載2.9)
 (1)-3 訂正の適否に関しての対比・判断
 刊行物2の記載2.1によれば、「空孔支持体」は、その機能からみて、訂正発明1
の「フィラー粒子」に相当し、同刊行物の記載2.2によれば、空孔支持体すなわちフ
ィラー粒子は脆砕性の中実又は中空球状物であり、記載2.3には、空孔支持体(フィ
ラー粒子)が研磨製品に占める体積%で、5~30%のものが記載され、記載2.5に
は、空孔支持体(フィラー粒子)は、製品体積に対して1~30体積%と記載さ
れ、研磨粒子が研磨製品に占める体積%で25~54%と記載されているから、フ
ィラー粒子が粒状物質すなわちフィラー粒子と研磨粒子全体の体積%の、8.4%~
54.5%を占めるものが記載されているといえる。
 さらに、記載2.4には、24gritのアルミナ研磨物質すなわち砥粒と14-24meshの
Intumescedperliteを用いて、研磨車(すなわち砥石車)を作る実施例が記載され
ている。当記載において、24gritとは、平均粒径が1.035mmの粒子の大きさであ
り、14-24meshとは、ほぼ1.168mm~0.701mmの粒径からなる粒子であり、Intumesced
perliteは脆砕性の珪酸塩粒子から成るフィラー粒子であるから、刊行物2に記載さ
れたフィラー粒子は、粒子物質全体の少なくとも8.4~54.5体積%を占め、
中空酸化物球状物、脆砕性珪酸塩粒子及び中実又は中空有機重合球状物(記載2.6参
照)から選ばれ砥粒と実質的に同じ粒径を有する14~24メッシュ又は、30~
60メッシュ(記載2.7参照)の範囲内のフィラー粒子といえる。
 そうすると、刊行物2には、
「溶融アルミナ、炭化珪素またはその他の研磨物質からなる研磨粒子、粒子物質全
体の8.4~54.5体積%を占め、中空酸化物球状物、脆砕性珪酸塩粒子及び中実又は中
空有機重合体球状物から選ばれ、上記砥粒と実質的に同じ粒径を有し、14~60
メッシュの範囲内の粒径であるフィラー粒子、及び上記粒子を固定し保持する樹脂
結合剤を含む混合物よりなる砥石車。」が記載されているといえる。
 そこで、訂正発明1と刊行物2に記載の発明とを対比すると、訂正発明1の「焼
結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒子」も刊行物2に記載の発明の溶融アルミナ、炭化珪
素その他の研磨物質からなる研磨粒子も「研磨粒子」であるから、両者は、「研磨
粒子、粒子物質全体の8.4~54.5体積%を占め、中空酸化物球状物、脆砕性珪酸塩粒
子及び中実又は中空有機重合体球状物から選ばれ、上記砥粒と実質的に同じ粒径を
有し、14~60メッシュの範囲内の粒径であるフィラー粒子、及び上記粒子を固
定し保持する樹脂結合剤を含む混合物よりなる砥石車。」の点で一致しており、次
の点で相違があるといえる。
 相違点:研磨粒子が、訂正発明1においては、焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒子
であるのに対して、刊行物2に記載の発明においては、溶融アルミナ、炭化珪素そ
の他の研磨物質からなる研磨粒子である点。
 そこでこの相違点につき検討する。
 焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒子と、研磨材としては認められていない炭酸カル
シウムやガラスなどの鉱物すなわちフィラー粒子、及び有機結合剤からなる回転板
形研磨剤製品すなわち砥石車が刊行物1に記載(記載1)されている。
 そして、焼結ゾル・ゲルアルミナを従来の溶融アルミナと混合してあるいは溶融
アルミナに置換して用いることは訂正発明1の出願前において周知の技術であるか
ら、刊行物2における溶融アルミナの代わりに、焼結ゾル・ゲルアルミナを用い
て、相違点における訂正発明1の構成のようにすることは当業者が容易に想到し得
ることであるといえる。
 原告は、意見書において、(1)脆砕性フィラーが存在すると、低い研磨圧力の
下においても、個々のゾル・ゲル砥粒の微細チッピングが行われるようになり、こ
れによって自刃再生が行われる。(2)脆砕性フィラーは高圧下で個々の砥粒をよ
り自由に切削させ、その結果砥石に加わる力が少なく、結合材の熱的機械的損傷を
少なくし、その結果いまだ寿命のあるゾル・ゲル砥粒の早期脱落を防止できる。と
いうゾル・ゲル砥粒、脆砕性フィラー粒子及び樹脂結合材の組合せによる特有の効
果を主張している。
 しかし、刊行物2の記載2.9によれば、上記主張の(2)の効果は、刊行物2に記
載された研磨車においてもたらされる効果と実質的に同等であり、上記主張の
(1)の効果は、ゾル・ゲル砥粒が本来奏する周知の効果であって、特にゾル・ゲ
ル砥粒と脆砕性フィラーと樹脂結合材の3者の組合せに基づく特有の効果といえる
ほどのものであるとは認められない。
 以上のとおりであるから、訂正発明1は、刊行物1,2に記載された発明に基づ
き当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項
の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
 したがって、本件訂正請求は特許法第120条の4第3項で準用する同法第12
6条第4項の規定に違反するので、当該訂正は認められない。
 (2) 特許異議の申立てについての判断
 (2)-1 本件各請求項に係る発明
 本件各請求項に係る発明の構成に欠くことができない事項は、訂正請求が拒絶さ
れた結果、特許の設定登録時の明細書及び図面の記載からみて、前記2の(2)(特許
の設定登録時の本件発明の要旨)のとおりのものである。
 (2)-2 特許法第29条第2項の違反について
 異議手続で通知した取消理由に引用した刊行物1~5にはそれぞれ次のことが記
載されている。
 (2)-2-1 刊行物1(訂正拒絶理由における刊行物1に同じ):上記(1)-2
-1に同じ。
 (2)-2-2 刊行物2(訂正拒絶理由における刊行物2に同じ):上記(1)-2
-2の記載(ⅰ)~(ⅸ)に同じ。
 (2)-2-3 刊行物3(特開昭59-107859号公報):フィラー粒子とし
てのバルーンとして、酸化アルミニウムバブル、酸化ジルコニウムバブルを選択す
ること(2頁上右欄第1表参照)。(記載3)。
 (2)-2-4 刊行物4(特開昭61-254685号公報):直径0.4ミクロン
以下の多数の微結晶からなるシーデドゾルゲル研磨粒子とフィラー粒子とフェノー
ル結合樹脂から成る研磨物品。(記載4.1)。及びシーデドゾルゲルアルミナ粒子に
溶融アルミナ研磨粒子をブレンドとして使用すること(6頁上左欄第11~16
行。記載4.2)。
 (2)-2-5 刊行物5(特公昭38-23594号公報):アルミナバブルとし
て、6-14メッシュのアルミナバブルを用いること(3頁右欄実施例6参照。記載
5)。
 (2)-3 特許異議申立てに関しての対比・判断
 (2)-3-1 発明1について
 上記(1)-3の「訂正の適否に関しての対比・判断」において、対比・判断された
訂正発明1は、発明1におけるフィラー粒子に関して、「上記砥粒と実質的に同じ
かそれより小さい粒径を有するフィラー粒子」を「上記砥粒と実質的に同じ粒径を
有し、10~200メッシュ(2mm~75μm)の範囲内の粒径であるフィラー粒
子」と限定すると共に、発明1の「研磨製品」を「砥石車」と限定するものであ
る。
 しかるに、訂正発明1は、上記(1)-3の「訂正の適否に関しての対比・判断」に
おいて述べたように、刊行物1及び2に記載されたものに基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものであるから、減縮のない発明1も、刊行物1及び2に
記載されたものに基づき容易に発明をすることができたものである。
 (2)-3-2 発明2について
 発明2は発明1の研磨粒子につき、「少なくとも10体積%が焼結ゾル・ゲルア
ルミナであること」と限定するものであるが、刊行物1の10頁下左欄3~11行
には、「本発明のセラミック物質は従来的研磨剤製品に、好ましくは比較的安価な
従来的研磨粒体との混合材として使用することが可能である。従来的研磨材粒体と
しては、融合アルミナ、シリコンカーバイド、ガーネット、融合アルミナ-ジルコ
ニアなどが挙げられる。また鉱物と、又は炭酸カルシウムやガラス等のように研磨
材として認められていない物質と一緒に混ぜ合わせることも可能である。」(記載
1.1)と記載されている。
 すなわち、研磨剤製品を安価に製作するため、焼結ゾル・ゲルアルミナ粒子に対
し、それより安価な従来使用されている研磨粒体を研磨粒子の90体積%以上混合
しない限り、その研磨製品の研磨粒子は少なくとも10体積%の焼結ゾル・ゲルア
ルミナ粒子であるといえるのだから、刊行物1には、混合割合の数値の記載はない
にしても、研磨製品の研磨粒子の10体積%を超える範囲において、焼結ゾル・ゲ
ルアルミナである研磨物品を示唆しているといえる。
 したがって、発明2も、刊行物1,2に基づいて当業者が容易に発明をすること
ができたものである。
 (2)-3-3 発明3について
 発明3は、焼結ゾル・ゲルアルミナの研磨粒子の体積%が少なくとも50体積%
であると規定したものであるが、やはり、上記(2)-3-2の「発明2について」で
述べたと同じ理由で、記載1.1から当業者が容易に選択し得る体積%であるといえ
る。
 (2)-3-4 発明4について
 刊行物1には、「アルファ-アルミナへの遷移を促進するために分散液に核発生
剤を含ませておくことが可能である。好適な核発生剤としては、アルファ-アルミ
ナ、アルファ-酸化鉄、又はその前駆体の微粒子のほか、遷移を開始せしめる他の
どんな物質でもよい。」(9頁上左欄19行~上右欄4行。記載1.2)と記載されて
おり、ゾル・ゲルアルミナをシーデドゾル・ゲルアルミナとしてもよいことが記載
されている。
 したがって、発明4も、刊行物1と刊行物2に基づき当業者が容易に発明をする
ことができたものであるといえる。
 (2)-3-5 発明5について
 上記記載1.1によれば刊行物1の研磨粒子も融合アルミナ(溶融アルミナ)、シリ
コンカーバイド(炭化珪素)、溶融アルミナ・ジルコニアの従来的研磨材粒体を焼
結ゾル・ゲルアルミナと混合して用いられる。そして、これら従来的研磨材粒体の
混合体積につき記載はないが、これらを70体積%以上混合する必然性もないのだ
から、これらを70体積%以下の範囲において混合することは、刊行物1の記載
1.1に示唆されているといえる。
 してみれば、発明5も、刊行物1,2に基づき当業者が容易に発明をすることが
できたといえる。
 (2)-3-6 発明6について
 記載2.6によれば、刊行物2の空孔支持体として、熱硬化性樹脂製の中空球体が用
いられ、記載2.4によればIntumesced perliteすなわち発泡状の珪酸塩粒子が空孔
支持体すなわちフィラー粒子として用いられている。
 したがって、発明6も、刊行物1及び刊行物2に記載されたものに基づき当業者
が容易に発明をすることができたものといえる。
 (2)-3-7 発明7について
 刊行物1の記載1によれば研磨材とは認められない粒子すなわちフィラー粒子と
して、ガラス粒子を使用することが記載され、また、刊行物2の記載2.4によれば
Intumesced perliteすなわち珪酸塩バブルがフィラー粒子として使用されることが
記載されている。
 また刊行物3の記載3によれば、フィラー粒子として酸化アルミニウムバブル、
酸化ジルコニウムバブルを選択することが記載されている。
 してみれば、発明7も刊行物1及び2又は刊行物3に記載されたものに基づいて
当業者が容易に発明をすることができたといえる。
 (2)-3-8 発明8について
 記載1又は記載2.4によれば、樹脂結合剤がフェノール樹脂からなる研磨製品が記
載されているから、発明8もやはり、刊行物1及び2に記載のものから当業者が容
易に発明をすることができたといえる。
 (2)-3-9 発明9について
 「発明2について」の項において述べたように、記載1.1から刊行物1には、研磨
粒子の少なくとも10体積%が焼結ゾル・ゲルアルミナであることが示唆されてお
り、しかも「発明4について」の項において述べたように、刊行物1の研磨粒子は
シーデドゾル・ゲルアルミナ粒子としてもよいと記載(記載1.2)されているから、
刊行物1には、研磨粒子の少なくとも10体積%をなすシーデドゾル・ゲルアルミ
ナ粒子と、フィラー粒子とフェノール結合剤樹脂とを含む研磨製品が記載されてい
る。
 一方、「2.(3)」「対比・判断」の項において述べたように、刊行物2に
は、フィラー粒子として、中空状フィラー粒子を、物品の粒状物質の体積%に対し
て、8.4~54.5%から成る、研磨製品が記載され、さらに、フィラー粒子として、ア
ルミナバブルを用いることは、刊行物5に記載されている。
 そして、シーデドゾル・ゲルアルミナ粒子が物品中の粒状物質に対して占める体
積%につき、刊行物1,2、5には記載がないが、これら刊行物に記載された研磨
粒子とフィラー粒子の体積%から、当業者が適宜選択できる範囲のものと認められ
る。
 したがって、発明9も、刊行物1,2及び刊行物5に記載されたものから、当業
者が容易に発明をすることができたといえる。
 (2)-3-10 発明10について
 シーデドゾル・ゲル研磨粒子とフェノール樹脂結合剤により作られた研磨ジスク
のような研磨製品において、シーデドゾル・ゲル研磨粒子として、直径が0.4ミクロ
ン以下の多数の微結晶から成るゾルゲル粒子を用いることが、刊行物4に記載され
ている。
 したがって、発明10も、刊行物1,2,5,及び刊行物4に記載されたものに
基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。
 (2)-3-11 発明11について
 「発明2について」の項において述べたように、刊行物1には、研磨粒子の少な
くとも10体積%がゾル・ゲルアルミナとすることが示唆されており、しかも、研
磨粒子をゾル・ゲルアルミナ粒子と、溶融アルミナとを混ぜ合わせることが記載さ
れているのだから、これを溶融アルミナ研磨粒子に付いてみれば90体積%つま
り、80体積%以下を溶融アルミナ粒子とすることが示唆されているといえる。
 したがって、発明9の研磨粒子について、刊行物1に示唆された事項の限定をお
こなう発明11もやはり刊行物1,2,及び刊行物5から当業者が容易に発明をす
ることができたといわざるを得ない。
 (2)-3-12 発明12について
 記載5の実施例6に記載の、溶融アルミナ-アルミナ泡-フェノール樹脂といし
車に用いられたアルミナ泡すなわちアルミナバブル粒子は6~14メッシュのもの
である。すなわち請求項12に規定の10~200メッシュの範囲内のものであ
る。
 したがって、発明9の構成要件であるアルミナバブルに刊行物5に記載の限定を
した発明12も、やはり刊行物1,2,及び刊行物5から当業者が容易に発明をす
ることができたものといわざるを得ない。
 (2)-3-13 発明13について
 研磨物品の構造を、全体を通じて実質的に均一な構造とすることは周知のもので
あるから、研磨物品としての研削砥石状のものに対して、当該周知技術を適用する
ことは当業者が容易に想到できることである。
 したがって、発明13も、刊行物1、2及び周知技術に基づいて、当業者が容易
に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。
 (2)-3-14 発明14について
 研磨物品の構造を、全体を通じて実質的に均一な構造とすることは周知のもので
あるから、研磨物品としての研削砥石状のものに対して、当該周知技術を適用する
ことは当業者が容易に想到できることである。
 したがって、発明14も、刊行物1、2、5及び周知技術に基づいて、当業者が
容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。
 (2)-3-15 発明15について
 研磨物品の構造を、全体を通じて実質的に均一な構造とすることは周知のもので
あるから、研磨物品としての研削砥石状のものに対して、当該周知技術を適用する
ことは当業者が容易に想到できることである。
 したがって、発明15も、刊行物1、2、5及び周知技術に基づいて、当業者が
容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。
 (3) 決定のむすび
 以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲の請求項1~15に係る発明は、
本件出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に
より特許を受けることができないものである。
 したがって、本件特許請求の範囲の請求項1~15項に係る特許は、特許法第1
13条第1項第2号に該当するので、取り消すべきである。
第3 原告主張の決定取消事由
 決定は、訂正発明1の進歩性についての認定判断を誤った結果、訂正発明1は、
特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして本件訂正を認
めなかったものであって、違法として取り消されるべきである。
 1 訂正発明1について
 (1) 刊行物2にも記載されている従来の典型的砥粒である溶融アルミナ砥粒は、
これまで最も優れた実用的な砥粒として知られているが、実質的に単結晶粒からな
り、研削作業とともに砥粒の鋭角な端部(切刃)が鈍化(磨耗)すると、砥粒とし
ての性能が劣化するので、砥粒ごとに脱離させて、新しい砥粒を露出させて、新し
い切刃を再生させる必要があった。
 これに対して、訂正発明1に係る焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒は、微細な結晶子
からなる多結晶粒であり、その多結晶粒が結晶子の界面でマイクロチッピングする
ことができる。一般に数100μmないし数mmの大きさの砥粒に対して、焼結ゾ
ル・ゲルアルミナでは0.4μm以下のように非常に微細な径の結晶子から構成さ
れているので、砥粒が一群の結晶子で構成される界面でマイクロチッピングする
と、1つの砥粒内で何回も鋭い切刃が再生されることが可能になり、砥粒の研削性
能が顕著に改良されることが可能になる。このような焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒
は、原告が特許第2128745号(特公平4-4103号公報)として開示した
ものである。
 (2) このような優れた研削性能を約束する焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用い
て、ガラス質結合剤で砥粒を結着したガラス質結合砥石車(ビトリファイド砥石
車)では、原告の工夫により、その砥粒(焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒)から予想
される優れた砥石車としての研削性能をほぼ実現することができた(特許第213
9514号(特公平5-20232号公報))。しかしながら、結合剤として有機
樹脂を用いた有機樹脂結合砥石車(レジノイド砥石車)では、溶融アルミナ砥粒と
比較して一定の優れた性能は得られたが、その砥粒(焼結ゾル・ゲルアルミナ砥
粒)の優れた性能から期待される性能としては充分ではなかった。
 訂正発明1は、この問題を解決するものであり、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を
用いた有機樹脂結合砥石車において、その研削力(研削速度)が向上するのみなら
ず、減量した砥粒で研削比(G比)を期待に沿って大幅に改良することに成功した
ものである。のみならず、消費電力も低下する。
 焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒はその微細組織のゆえに従来の溶融アルミナ砥粒を
用いた場合と比較して、樹脂結合砥石車の場合にも、顕著な改良が実現されること
が期待され、一定の改良が見られたにもかかわらず、必ずしも期待どおりの性能が
実現されなかった。このような状況において、何が原因で、何を改良すれば、焼結
ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いる樹脂結合砥石車として期待される研磨性能が得ら
れるかは、不明であり、その解決が探索されていた。
 訂正発明1は、このような事情の下で完成されたものであり、焼結ゾル・ゲルア
ルミナ砥粒を用いる樹脂結合砥石車に特有の問題を解決するために、鋭意努力した
結果として、この特有の問題を解決する手段として、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒
を用いる樹脂結合砥石車に特定の脆砕性フィラーを添加することにより上記課題を
解決できることに到達したものであり、従来の砥粒を用いる樹脂結合砥石車に空孔
支持体を添加する公知の技術とは異なる発明である。
 (3) 従来の焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いた樹脂結合砥石車では、(a)高圧
条件下では有機結合剤が各焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒が使い尽くされる前に磨滅
し、(b)低圧条件下では焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒の自刃再生のための微細チッピ
ング(マイクロチッピング)が起きるために充分な圧力が個々の砥粒に加わらず、
このため、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いても、従来の溶融アルミナ砥粒と比
べて期待された改良が得られなかったところ、上記(a)、(b)の問題が、焼結ゾル・
ゲルアルミナ砥粒の一部を脆砕性フィラーで置換することにより解決されること
が、訂正発明1により見いだされた。
 2 決定の誤り
 (1) 刊行物2について
 (1)-1 刊行物2は、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒ではなく、溶融アルミナ砥粒
など焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒と異なる砥粒を用いた樹脂結合砥石車に関して、
空孔支持体を添加して樹脂結合砥石車に空隙を付与することを開示するものであ
る。
 訂正発明1は、上述のとおり、溶融アルミナ砥粒と比べて顕著な研削性能の向上
が期待される焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を樹脂結合砥石車に適用した場合に、一
定の性能の向上は得られるものの、期待どおりの研削性能の向上が達成されないと
いう焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒の樹脂結合砥石車に固有の問題点について鋭意検
討を加え、その解決手段を見いだして成立した発明である。
 刊行物2は、そもそも焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒とは関係のない開示であるか
ら、この焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いた樹脂結合砥石車に固有の問題点につ
いて開示又は示唆はない。
 他方、刊行物1は、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒は記載しているが、やはり焼結
ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いた樹脂結合砥石車に固有の問題点について開示又は
示唆がない。このように、たとえ焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を扱うものであって
も、訂正発明1のように焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いた樹脂結合砥石車の研
削性能が予想よりも低いという課題は必ずしも容易に見いだされるものではない。
 訂正発明1は、このような焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いた樹脂結合砥石車
に固有の課題を発見したことに、第1の特徴を有するものであり、これ自体が、刊
行物2あるいは刊行物1記載の発明から当業者が容易に到達するものではない。
 訂正発明1は、このような課題を解決するために鋭意努力した結果、焼結ゾル・
ゲルアルミナ砥粒を用いた樹脂結合砥石車に「中空酸化物球状物、脆砕性珪酸塩粒
子及び中実又は中空重合体球状物から選ばれ、砥粒と実質的に同じ粒径を有し、1
0~200メッシュ(2mm~75μm)の範囲内の粒径であるフィラー粒子」を
用いることにより、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いた樹脂結合砥石車が所望の
研削性能を実現できない原因を解消することができ、従来の溶融アルミナ砥粒を用
いた樹脂結合砥石車と比較して研削性能のより顕著な向上を実現して、完成された
ものである。
 したがって、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒と関係のない刊行物2からは、訂正発
明1の構成と効果に容易に想到することはできない。
 (1)-2 決定は、「刊行物2の『空孔支持体』は、訂正発明1の『フィラー粒
子』に相当」すると認定している。
 しかし、刊行物2の「空孔支持体」は、訂正発明1の「中空酸化物球状物、脆砕
性珪酸塩粒子及び中実又は中空重合体球状物から選ばれ、砥粒と実質的に同じ粒径
を有し、10~200メッシュ(2mm~75μm)の範囲内の粒径であるフィラ
ー粒子」(要件B)とは異なるものである。
 (1)-3 刊行物2は、砥石車を含む有機樹脂結合研磨製品に所望量の空隙を提供
して冷却効率を高めるために「空孔支持体」を添加することを開示するものであ
る。
 刊行物2によれば、有機樹脂を結合剤とする砥石車では、冷却効率を高め、また
軽量化のために、ナフタレンなどの揮発性材料を添加して焼成により砥石車中に空
隙を発生させる方法を採用しても、所望の空隙率と他の特性を持つ均一な砥石車を
得ることが難しいという問題があった(刊行物2の1欄25~65行)。
 これに対して、刊行物2の発明者は、薄肉支持壁で囲まれた空隙を含み空隙率の
高い粒子を、その他の点では通常の砥粒混合物に混合することにより、低融点の有
機樹脂を結合剤として用いた研磨製品を困難なく製造して、高い空隙率を持つ構造
の利点を達成することができることを開示するものである(刊行物2の1欄66~
72行)。
 刊行物2によれば、空孔支持体は、溶融アルミナなどの砥粒をお互いに分離しな
がら、なおかつ研削中においても結合剤によって空孔支持体は砥粒と共に所定の位
置に保持され、その後空孔支持体は個々に被研削材と接触して破壊されて跡に砥粒
の間に空隙を残す作用をするものである(刊行物2の2欄2~9行)。このように
して、砥石車の研削表面では60%以上の空隙率を有しながら、砥石車自体は強度
を保持することができるので、半分の空隙率を持つ重量砥石車自体に匹敵して安全
な操作が可能である。また、研削表面の空隙率が増加するので、低温切削砥石車と
して、融着することなく、高い研削効率を達成する。砥粒の先端部は開放的に露出
されて最適の切削性能を発揮でき、しかも冷却空気又は冷却液が作られた空隙に入
りそれが被切削表面を濡らすので高い実効冷却効率を与える(刊行物2の3欄49
~61行)。
 このように、刊行物2の空孔支持体は、砥石車中に所望量の空隙を形成すること
により、砥石車の冷却効率を高め、また砥石車を軽量化するという役割を担う成分
である。
 (1)-4 これに対して、訂正発明1のフィラー粒子は、「中空酸化物球状物、脆
砕性珪酸塩粒子及び中実又は中空重合体球状物から選ばれ、砥粒と実質的に同じ粒
径を有し、10~200メッシュ(2mm~75μm)の範囲内の粒径であるフィ
ラー粒子」である。
 このフィラー粒子は、中空酸化物球状物及び中空重合体球状物のみならず、脆砕
性珪酸塩粒子及び中実重合体球状物でもよいことから明らかなように、刊行物2の
「空孔の形成能」を持つ材料を要件とするものではない。これに対し、訂正発明1
は脆砕性フィラー粒子を必須要件とするものである。このように、刊行物2の空孔
支持体は、訂正発明1の脆砕性フィラー粒子とは異なるものである。
 また、訂正発明1のフィラー粒子は、「砥粒と実質的に同じ粒径を有し、10~
200メッシュ(2mm~75μm)の範囲内の粒径」であることを必須の要件と
するものであるが、刊行物2ではこれらの要件の必要性を開示していない点でも、
訂正発明1のフィラー粒子と異なる。
 したがって、刊行物2の空孔支持体は、訂正発明1における脆砕性フィラーを開
示するものではなく、決定が、刊行物2の空孔支持体をもって訂正発明1における
脆砕性フィラーと機能からみて同一であると認定したのは、訂正発明1及び刊行物
2記載の発明の認識及び理解を誤ったものであり、不当なものである。
 (1)-5 フィラー粒子の配合割合
 決定では、刊行物2記載の発明は空孔支持体が粒状物質全体の8.4~54.4
体積%を占めるので、訂正発明1の20~70体積%と一致する旨が説示されてい
るが、刊行物2は、5欄31~34行に1~30体積%の空孔支持体を記載してい
るので、刊行物2記載の発明は空孔支持体の体積として、8.4~54.4体積%
ではなく、1.8~54.4体積%の範囲を記載しているというべきである。
 これに対して、訂正発明1では脆砕性フィラーを全粒状物質のうち20~70体
積%の範囲内で含むことにより所望の効果が奏されることを開示するものである。
 これらの範囲は、重複はあるが、刊行物2記載の発明では1.8体積%~20体
積%未満の量でも効果があるが、訂正発明1ではその範囲内では所望の効果が得ら
れず、また訂正発明1では54.4体積%超ないし70体積%の範囲内でも所望の
効果が奏されるのに対して、刊行物2記載の発明ではこの範囲は適当でないものと
されている。このように、刊行物1の空孔支持体の添加量と訂正発明1の脆砕性フ
ィラーの添加量とは、実質的に異なるものであり、これは刊行物1の空孔支持体と
訂正発明1の脆砕性フィラーの作用効果の本質的な相違に基づくものである。
 (1)-6 訂正発明1の効果
 刊行物2の空孔支持体は訂正発明1の脆砕性フィラーと異なるものであるが、決
定は、この相違を無視して、これらを同一視している。
 刊行物2記載発明の実施例1では、溶融アルミナ砥粒(24グリット)83.0
0重量部、熱硬化性フェノール樹脂粉末8.64重量部、クリオライト6.00重
量部、熱硬化性フェノール樹脂液体2.36重量部、膨張パーライト(14~24
メッシュ)2.18重量部の組成物を用いて砥石車(密度0.078lb/inch3
;1
4×2×3/2インチ)を作成し、揮発性のパラジクロロベンゼンを用いて空隙を
形成した樹脂結合砥石車と比較している。鋤の刃を研削して、比較例が8400個
を研削できたのに対して、実施例1の製品は同じ研削速度で20000~2100
0個を研削できたと記載されている。
 第1に、刊行物2記載発明のこの実施例1も、溶融アルミナ砥粒を用いており、
訂正発明1の焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いていないので、訂正発明1とは本
質的に異なるものである。この実施例1では、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用い
ていないので、訂正発明1の焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いた場合の樹脂結合
砥石車に特有の問題はない。
 また、この実施例1の膨張パーライトは、あくまでも空孔支持体として添加され
たものであり、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒の自刃再生作用を十全にするために添
加された脆砕性フィラーではない点でも、訂正発明1と本質的に異なるものであ
る。
 特に注目されるべきことは、刊行物2の3欄62~70行において、刊行物2記
載発明の砥石車では添加される空孔支持体を固定するために結合剤の量を増加して
従来の倍の量で添加することができること、そして結合剤が砥石車の強度を付与す
るものであることが明記されていることである。したがって、刊行物2記載の発明
ではこの増加した結合剤が砥石車の強度を向上させるものである。
 これは、訂正発明1と異なる点である。訂正発明1では、結合剤の量を増やすこ
となく、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を支持し分離させて、その微細破砕(マイク
ロチッピング)による自刃再生作用をより完全に行うことを可能にして研削性能を
向上させるものである。
 したがって、刊行物2記載発明の実施例1では、研削性能が8400個から20
000~21000個に約250~238%の改良を示しているが、結合剤の量を
増加するなどの手段でこのような改良が実現されることは、従来の知見の範囲内の
事項である。
 これに対して、訂正発明1では、砥石車の結合剤の量の増加による結合力の増加
による研削性能の向上ではなく、砥石車の結合剤の量は不変でも、焼結ゾル・ゲル
アルミナ砥粒の本来的に持つ微細破砕(マイクロチッピング)による自刃再生作用
をより完全に発現させることにより、砥石車の研削性能を向上させるものである。
 訂正発明1では、砥石車の結合度を一定にして比較した場合に、従来の溶融アル
ミナ砥粒を用いた場合と比較して、溶融アルミナ砥粒の一部又は全部を焼結ゾル・
ゲルアルミナ砥粒に置換することによって研削性能がいくらか向上するが、さら
に、例えば、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒あるいは溶融アルミナ砥粒の一部を脆砕
性フィラーで置換した場合には、より顕著な研削性能の向上を達成するものであ
る。砥石車の結合度を一定にし、かつ砥粒の量を減少させた場合にも、なおかつ研
削性能が顕著に向上するのは、脆砕性フィラーによって焼結ゾル・ゲルアルミナ砥
粒の本来の優れた研削性能が発揮されるようになるからである。
 このような訂正発明1の作用効果は刊行物2及びその実施例1には開示も示唆も
されていない。
 (2) 刊行物1について
 (2)-1 決定は、刊行物1には、「ゾル-ゲル法によって形成されるセラミック
研磨粒体を炭酸カルシウムやガラスなどのように研磨材としては認められない物質
と混ぜ合わせ、これを従来的結合剤すなわちフェノール樹脂を含む有機結合剤で固
めることにより製造された回転板形研磨剤製品」が記載されていると述べている。
 しかし、刊行物1は、基本的に、アルファアルミナと、酸化アルミニウムと希土
類金属の酸化物との反応生成物とを含むセラミック研磨材粒体(刊行物1の請求項
1)を開示するものである。
 このセラミック研磨材粒体は、主として被覆研磨材製品(すなわち、研磨布紙)
として用いられるものであることは、刊行物1の記載全体から明らかである。発明
の詳細な説明も実施例も、そのほとんど全部がセラミック研磨材粒体自体及び被覆
研磨材製品に向けられている。このような説明の中で、主として被覆研磨材製品に
関して、セラミック研磨粒体を炭酸カルシウムやガラスなどのように研磨材として
は認められない物質と混ぜ合わせてもよい旨の記載がある。
 刊行物1は、確かにそのセラミック研磨材を回転板形研磨剤製品として使用して
もよい旨を記載しているが、それは11頁右上欄9~16行などにそのような使用
の可能性を記載しているにすぎず、刊行物1には102個もの実施例が含まれてい
るにもかかわらず、回転板形研磨剤製品の実施例は含まれていないことからも明ら
かなように、刊行物1の発明及び刊行物1の発明の詳細な説明は、直接的には、セ
ラミック研磨材粒体自体と被覆研磨材製品に向けられたものである。したがって、
刊行物1に記載されている、「本発明のセラミック物質は、・・・炭酸カルシウム
やガラスなどのように研磨材としては認められない物質と一緒に混ぜ合わせること
も可能である」(10頁左下欄3~11行)という記載も、被覆研磨材製品に向け
られたものであると考えるべきものであり、回転板形研磨剤製品の場合に炭酸カル
シウムやガラスなどを一緒に混ぜ合わせることが記載されているということは、必
ずしもできない。
 (2)-2 また、刊行物1に記載されている「回転板形研磨剤製品」が、訂正発明
1の「砥石車」と同じであるか否かも明瞭ではなく、刊行物1記載の発明が主とし
て被覆研磨材製品に向けられていることからすると、刊行物1の回転板形研磨剤製
品は所謂研磨ディスクを指称している可能性もあり、その場合には研磨ディスクは
砥石車とは異なるものである。
 いずれにしても、刊行物1の開示の中心は研磨布紙(被覆研磨材製品)に向けら
れていることは明らかであるから、回転板形研磨剤製品が砥石車であるとする場合
にも、これについては事前の検討を充分に行った上で開示されたものではなく、研
磨布紙の開示のついでに記載しておいたという程度のことであり、このような記載
をもって訂正発明1の課題、構成及び効果の一端が開示又は示唆されているという
ことはできない。
 (2)-3 決定は、刊行物1の「炭酸カルシウムやガラスなどのように研磨材とし
ては認められない物質」を「フィラー粒子」として要約し、刊行物2のフィラー粒
子と同一視することにより、訂正発明1の「中空酸化物球状物、脆砕性珪酸塩粒子
及び中実又は中空重合体球状物から選ばれ、砥粒と実質的に同じ粒径を有し、10
~200メッシュ(2mm~75μm)の範囲内の粒径であるフィラー粒子」との
違いを無視している。
 訂正発明1における脆砕性フィラー粒子は、上述のような特異なものである。こ
れに対し、刊行物1の「炭酸カルシウムやガラスなどのように研磨材としては認め
られない物質」は、そのような訂正発明1の脆砕性フィラー粒子の構成と作用効果
について、何も記載又は示唆するところがない。
 したがって、決定が、刊行物1記載発明の「炭酸カルシウム充填フエノール樹脂
メーク及びサイズ樹脂を用い」を、訂正発明1の「中空酸化物球状物、脆砕性珪酸
塩粒子及び中実又は中空重合体球状物から選ばれ、砥粒と実質的に同じ粒径を有
し、10~200メッシュ(2mm~75μm)の範囲内の粒径であるフィラー粒
子」と同一視していること、またそれを砥石車に使用することを記載していると認
定したのは、根拠がない。
 (3) 以上のように、刊行物1、2は、訂正発明1の焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒
を有機樹脂結合砥石車に使用するときの特有の問題点とその解決手段及び効果につ
いて、記載又は示唆するものではないので、たとえ当業者といえども刊行物2及び
刊行物1記載の発明から訂正発明1に想到することは容易ではないことは明らかで
ある。
 訂正発明1によって、初めて、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒から期待される従来
の溶融アルミナ砥粒と比較して顕著に優れた研削性能を奏する有機樹脂結合砥石車
を提供することが可能にされたものである。
 このような特異な課題、構成及び効果を持った訂正発明1に係る有機樹脂結合砥
石車は、当業者といえども刊行物2の単に空孔支持体を含む有機樹脂結合砥石車か
らは容易に想到できるものではなく、またその構成及びその作用効果は刊行物2記
載の発明とは本質的に異なるものである。
 3 被告及び補助参加人の主張に対する反論
 被告及び補助参加人は、訂正明細書は、比較例及び実施例の各条件が不適切であ
り、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒と脆弱性フィラーとの組合せによる特有の効果の
有無が不明であるから、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒に脆砕性フィラーを添加した
場合と、添加しない場合とを比較して示すべきである旨主張する。
 しかし、訂正発明1以前には、焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨材を用いた樹脂結合
砥石車が実用化されていないのであるから、訂正発明1の効果を説明するに当たっ
て、従来の溶融アルミナ砥粒を用いた樹脂結合砥石車を基準として比較するのは誤
りではない。
 また、訂正明細書の実施例においても、焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨材を用いた
同等の樹脂結合砥石車において、その砥粒の一部を脆砕性フィラーで置換した砥石
車のデータも含まれており、脆砕性フィラーの有無によるデータの比較がなされて
いる。
 訂正明細書の実施例のデータのうち表4、表6をTグレードに規格化したものを
示すと、本判決別表のとおりである。
 この別表によれば、例えば、砥石3(c)と砥石4を比較すると、これらは同量
(30%)の焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を含むが、残り全部が溶融アルミナ砥粒
である砥石3(c)と、残りの溶融アルミナ砥粒のうち一部(50%)をバブルア
ルミナで置換した砥石4とでは、研削比(G比)の増加は明らかである。
 被告は、刊行物2記載の発明の実施例で研削性能を比較したデータを挙げ、溶融
アルミナ砥粒に空孔支持体を添加しただけで2.5倍の効果があると主張する。
 しかし、このデータは、他の条件を同じにして溶融アルミナ砥粒に空孔支持体を
添加しただけで2.5倍の効果があるとは記載していない。2.5倍という値は、少
なくとも訂正発明1のようにグレードを同じにして奏される効果と比較できるもの
ではない。
 さらに、刊行物2は、刊行物2の発明では気孔支持体を導入したことにより結合
剤を従来の2倍も使用できること、それによって砥石車の強度が向上する効果があ
ることを記載している。このように多量の結合剤を用いる場合には砥石車の研削比
が著しく増加するのは、当然である。研削比は砥石車のグレード(硬度)を一定に
して比較する必要があり、そうでなければ、比較データの信頼性はない。
 以上の原告の主張が正しいことは、リチャード・ピー・リンゼー博士の供述書
(甲第8号証)からも明らかである。
第4 決定取消事由に対する被告及び補助参加人の反論
 1 本件優先権主張日前において、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を使用したレジ
ノイド砥石は、従来の溶融型アルミナ砥粒のレジノイド砥石に比較して研削比は概
ね200~300%以上あり、場合によっては、500%以上に達することが公知
であり、レジノイド砥石においても、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒の従来型溶融ア
ルミナ砥粒に対する優位性は、当業者にとって周知事項であった(刊行物1、2、
丙第3、4号証)。したがって、当業者にとってこれらの周知の技術に基づき、樹
脂、切削助剤、フィラー等の種類や添加量を変えて研削比向上を図ることは、当然
の設計事項としてなし得る範囲のことである。(補助参加人主張)
 2 刊行物2記載の発明の目的は、(i)より早く切れさらに発熱の少ない切断砥石
の提供、(ii)気孔率大で砥石組織が均質な砥石の製造方法の提供、(iii)切断砥石表
面の靭性を制御できる物質の導入により、切断時の発熱抑制、(iv)砥石重量低減に
よる遠心力破壊の危険低下である。すなわち、砥粒の冷却でなく切断作用領域の発
熱抑制である。原告も認めるようにレジノイド砥石では砥粒が摩擦熱により発熱す
ると樹脂結合剤が劣化して保持力が低下し砥粒が脱落する。刊行物2記載の発明か
ら脆砕性フィラーにより発熱が防止できたということは、砥粒の脱落がなく、2.
5倍も研削性能が向上しているので砥石車の砥粒先端が研削中にも磨耗していない
ということである。このことは正に、脆砕性フィラーを添加すると適度のチッピン
グと切れ刃再生作用が刊行物2記載の発明においても起こっていることを示す。脆
砕性フィラーの添加効果は、ここに十分開示されている。研削性能は、砥粒のチッ
ピングと切れ刃再生作用に砥粒の種類を問わず同じなので、単に溶融アルミナを焼
結ゾル・ゲルアルミナに置換しても脆砕性フィラーにより享受できる作用効果は共
通であり、刊行物2記載の発明から見れば、単なる材料の置換にす
ぎない。(補助参加人主張)
 3 特許法は、発明に最も近い公知の先行技術との対比により、進歩性を判断す
ることを要求している。本件では、最近接の技術は、従来の溶融アルミナ砥粒の樹
脂結合砥石車(レジノイド砥石車)ではなく、脆砕性フィラーを含まない焼結ゾ
ル・ゲルアルミナ砥粒の樹脂結合砥石車である。(補助参加人主張)
 したがって、訂正発明1の効果としては、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒に脆砕性
フィラーを添加した場合と、添加しない場合を比較して、どの程度改善されるか示
すべきである。
 ところが、訂正明細書の実施例では、溶融アルミナ砥粒でフィラーを使用しない
ものを比較例とし、また、フィラー以外の成分の条件も異なることから、フィラー
による効果がどの程度かは明らかでない。(被告主張)
 原告は、本件明細書の実施例中の表4と6の砥石3(C)と砥石4を比較すれ
ば、バブルアルミナの置換による効果は明らかである旨主張する。しかし、置換に
よる研削比の向上は各々62%、38%、34%にすぎず、刊行物2での効果25
0%に比べはなはだ低い。この程度の向上は、当業者にとって設計事項の範囲内で
あり、当然バブルアルミナ置換により予期される範囲内である。(補助参加人主
張)
第5 当裁判所の判断
 1 本件優先権主張日当時の砥石車の技術水準について
 (1) 砥石車の構成及び砥粒の微小破砕による自生発刃について
 (1)-1 乙第5号証(砥粒加工研究会編「砥粒加工技術便覧」1965年6月3
0日発行)の「3.1.2 研削砥石の構成要素」の節には、「研削砥石は、砥粒、結合
剤及び気孔の三要素から構成している。砥粒AbrasiveGrainは切刃となり、結合剤
Bondは砥粒の支持と自生発刃速度の調整を行ない、気孔Poreは切屑の逃げとな
る。」(34頁16~18頁)と記載した上で、「図3.1(a)構成3要素の図解」
として右記砥石車の図が示されていることが認められる。
 また、同号証には、「砥石の切刃は砥粒の高い硬度と、適度のじん性をもって被
削材に貫入し、回転して切削を行い切屑を排出して、研削作用を続行する。そして
砥粒切刃は逐次消耗し、鈍化するにしたがい、研削抵抗は増大し砥粒のじん性と結
合剤の支持力に適応する破砕を起こし、順次切刃を自生しチップポケットを新生し
て、研削力を維持するいわゆる自生発刃作用が、他の切削工具と異なる特徴であ
る。」(36頁8~13行)と記載され、さらに、36頁の「表3.2研削砥石の減
耗要因」の「自生発刃」の項には、自生発刃が「結晶の微構造を基盤とする破砕」
であると記載されていることが認められる。
 (1)-2 乙第6号証(河村末久他編「研削加工と砥粒加工」1984年10月2
5日発行)には、「研削加工では、刃先が鈍化すると砥粒にかかる力が増大して砥
粒はその内部から破砕し、自ら切れ味を回復することが可能である。これは砥石の
自生作用(selfdressingあるいはselfsharpening)とよばれている研削特有の現
象であり、適正な研削条件のもとでは、良好な切れ味が持続できるという特異性を
そなえている。」(1頁下1行~2頁4行)との記載があることが認められる。
 (1)-3 乙第7号証(工作機械技術研究会編「先端研削技術」1985年9月2
0日発行)には、「砥石外表部の砥粒の摩耗、欠損、脱落などのために、それまで
は加工物と接触していなかった近在の砥粒が、新たに研削に参加してくる。これが
砥粒群としての切れ刃の更新すなわち自生発刃作用である。
 一方、個々の砥粒切れ刃面における微小破砕による発刃で、砥粒切れ刃としての
能力を保持し続けられる場合もあり、これも自生発刃のひとつの形態である。
 自生発刃のこの二つの形態は併存するが、一般には砥石減耗の多い重研削などで
は前者が支配的で、精密研削になるほど後者が支配的になる。
 切れ刃面の微小粉砕は切れ刃を鋭利にして研削抵抗を減少させ、作用切れ刃数を
変化させず、自生発刃の効果として理想的である。」(128頁左欄下5行~右欄
8行)との記載があることが認められる。
 (1)-4 上記各記載によれば、砥石車は、「砥粒」、「結合剤」及び「気孔」の
三要素から構成されること、砥粒は、それ自体が微小破砕(すなわち、チッピン
グ)し、自生発刃すること、及び、自生発刃は、砥石車の研削能力を保持させる上
で重要であることは、いずれも、本件優先権主張日当時、砥石車の分野において技
術常識であったものと認めることができる。
 (2) 焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒について
 (2)-1 証拠(甲第3号証、甲第6及び第9号証、乙第1及び第2号証、丙第5
号証)によれば、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒は、1970年代の後期から198
0年代初期に原告などにより開発されたものであって(例えば、甲第9号証
("DevelopmentandApplicationofSeededSol-GelAbrasives"「種結晶添加ゾル
-ゲル研磨剤の開発及び応用」ASMNews,October1989)3欄58行、訳文3頁2
3行参照)、本件優先権主張日(1989年9月13日)当時、卓越した研削特性
を示す最新の画期的な砥粒として周知であったものと認められ、この点は、訂正明
細書中の従来技術と解決すべき課題の項にも当然の前提として記載されていること
が認められる。
 (2)-2 丙第5号証(「Tooling&Production」1988年5月号、64~66
頁右欄19~24行、訳文2頁22~25行)によると、本件優先権主張日当時、
当業者は、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いた砥石車の性能は、従来法により製
造された単結晶の酸化アルミニウム(すなわち、溶融アルミナ)砥粒を用いた砥石
車と比較して、油と共に使用する場合には寿命が7~10倍、乾式で使用する場合
には、寿命が4~5倍にも達するものと認識していたことが認められる。
 (2)-3 なお、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒は、サブミクロン単位の微結晶から
なる多結晶構造を有するものであって、従来の単結晶からなる砥粒(例えば、溶融
アルミナ砥粒)と異なり、一つの砥粒の中で、極めて微細な破砕(すなわち、マイ
クロチッピング)を繰り返しつつ自生発刃することができ、その結果、卓越した研
削性能を発揮するものであることについては、弁論の全趣旨から明らかである。
 2 訂正発明1の構成要件について
 (1) 訂正発明1の構成要件の分説
 訂正発明1の構成要件は、以下のとおりに分けて説明することができる。
 (A) 焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒子
 (B1)中空酸化物球状物、脆砕性珪酸塩粒子及び中実又は中空有機重合体球状物か
ら選ばれるフィラー粒子
 (B2)フィラー粒子は粒子物質全体の20~70体積%を占める
 (B3a)フィラー粒子は10~200メッシュ(2mm~75μm)の範囲内の粒
径である
 (B3b)フィラー粒子は上記砥粒(すなわち、構成要件(A)の砥粒)と実質的に同じ
粒径を有する
 (C) 上記粒子を固定し保持する樹脂結合剤
 (D)(A)~(C)を含む混合物よりなる砥石車
 (2) 構成要件(A)の焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒子の含有量について
 訂正発明1には、構成要件(A)の「焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒子」の含有量に
ついては、明示的に規定されていないが、訂正後の本件特許請求の範囲請求項2
に、「砥石車中の研磨粒子の少なくとも10体積%が、焼結ゾル・ゲルアルミナ粒
子であることを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の砥石車。」と規定されて
いることから、訂正発明1の砥石車は、研磨粒子(砥粒)として、構成要件(A)の焼
結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒子を必ずしも100体積%含むものではなく、10体
積%未満の任意の量(例えば、数体積%程度の少量)を含むものであってもよいこ
とは明らかである。
 また、訂正後の請求項5に、「研磨粒子の70体積%以下が、溶融アルミナ、焼
結アルミナ、炭化珪素、溶融ジルコニア、焼結ジルコニア、溶融アルミナ・ジルコ
ニア、焼結アルミナ・ジルコニア、ダイアモンド又はCBNであることを特徴とする特
許請求の範囲第1項に記載の砥石車。」と規定されていることから、訂正発明1の
砥石車は、研磨粒子(砥粒)として、構成要件(A)の焼結ゾル・ゲルアルミナ研磨粒
子以外に、請求項5に規定される各種の砥粒を含むものであってよいことは明らか
である。
 (3) 構成要件(B1)のフィラー粒子について
 訂正発明1は、構成要件(B1)として、「中空酸化物球状物、脆砕性珪酸塩粒子及
び中実又は中空有機重合体球状物から選ばれるフィラー粒子」と規定しているとこ
ろ、訂正後の特許請求の範囲請求項6には、「フィラー粒子が、中空バブル状金属
酸化物、有機ポリマー又はガラス;珪酸塩又はアルミナ珪酸塩;及び発泡若しくは
固形ガラス又は有機ポリマー粒子から選択されることを特徴とする特許請求の範囲
第1項に記載の砥石車。」と規定されていることから、構成要件(B1)に規定される
フィラー粒子には、具体的には、「中空の有機ポリマー粒子」、「中空のガラス粒
子」、「珪酸塩の粒子」、「アルミナ珪酸塩の粒子」、「発泡又は固形のガラス粒
子」、「発泡又は固形の有機ポリマー粒子」等が包含されるものと認められる。
 また、訂正明細書(甲第3号証中の全文訂正明細書)には、「本発明で使用され
る好ましい脆砕性フィラーは、バブルアルミナ等の中空酸化物バブル又は他の中空
シリケート粒子から形成される。しかしながら、か焼クレー、軽石、長石、あられ
石閃長岩等の固形又は多孔性脆砕性粒子や、有機ポリマー又はガラスから製造した
固形、中空球体からなるものでもよい。」(6頁13~16行)と記載されている
ことが認められる。
 (4) 構成要件(B3b)について
 構成要件(B3b)には、フィラー粒子の粒径と焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒の粒径に
ついてのみ規定され、フィラー粒子の粒径とその他の砥粒の粒径の関係は、明らか
でない。
 そこで、訂正明細書(甲第3号証中の全文訂正明細書))の発明の詳細な説明を
参照するに、「一般的に研磨粒子の大きさは、約10~約200グリット・・・が
適当である。」(6頁11~12行)、「脆砕性フィラー粒子の大きさは、研磨粒
子の大きさと実質的に同じであり、10~200メッシュ(2mm~75μm)の
大きさである。」(6頁17~18行)と記載され、実施例(例えば、実施例1表
1のホイールC)には、同一の粒度(46グリット)の焼結ゾル・ゲルアルミナ砥
粒、溶融アルミナ砥粒、及びフィラー粒子(「サイアナイト333」)を使用した
砥石車が記載されていることが認められるから、訂正発明1において、フィラー粒
子の粒径と焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒以外の砥粒の粒径とは、実質的に同じであ
ってもよいものと認めることができる。
 3 訂正発明1の進歩性について
 (1) 焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒が、卓越した研削能力を示す最新の画期的な砥
粒として本件優先権主張日当時周知であったことは前記説示のとおりである。当業
者が、このような卓越した特性を示す最新の砥粒の存在を知るに至れば、この最新
の砥粒を、公知の研磨製品中の砥粒と置き換え、その研磨特性の改善を図ることに
想到するものであることは、格別の阻害要因がない限り、当業者であれば容易にな
し得るものであると明らかに認められる。そして、このことは、研磨製品の種類
(砥石車、研磨布紙、研磨ディスク等)に依存するものではない。
 (2) ここで刊行物2に記載の発明をみるに、甲第5号証によれば、刊行物2に
は、「研磨体」との名称の発明が開示され、その発明の詳細な説明及び図面には以
下の記載があることが認められる。
 ①「本発明は、砥石車、研削ディスク・・・などの結合型研磨材製品・・・に関
する。」(1欄15~21行、訳文1頁15~18行)
 ②「本発明の目的の一つは、より高速でしかもより低温の切削車を提供すること
である。本発明の他の目的は、気孔率が通常の気孔率より大きい均一な研磨材製品
の製造方法を提供することである。本発明の他の目的は、切削車の切削面の破砕性
を制御する材料を砥石車に混入することによって切削時の温度を低くすることであ
る。」(1欄25~35行、訳文1頁22~27行)
 ③「私は、・・・低温の有機物結合型研磨材に高度に多孔質の構造という利点を
得る別の方法を発見した。私はこれを次のようにして実施する。すなわち、他の点
では普通のタイプの砥粒混合物に、薄い支持壁に囲まれた開放気孔を有する高度に
気孔質の特性をもつ粒子を混入することにより実施する。これらの粒子は、私は空
孔支持体と呼んでいるが、溶融アルミナ又は炭化ケイ素のような通常の砥粒のより
硬質、より靱性の粒子を互いに分離し、これらの粒子とそれに用いる結合剤を支持
し、結合剤を硬化させている間、砥粒と結合剤は正しい位置にしっかり保持され
る。その後、使用時に、空孔支持体は個々に被削材と接触して破壊され、・・・砥
粒間の開放空間を残す。」(1欄66行~2欄9行、訳文2頁23行~3頁2行)
 ④「これらの空孔支持体は、それ自体、内部は高度に空孔質である。この支持体
は、薄肉のバルーン又はスポンジ様物体のいずれでもよい」(2欄10~12行、
訳文3頁4~5行)
 ⑤「私が空孔支持体として使用するのに優れていることを発見した物質として
は、・・・ビトリファイドクレイ材料製の薄肉の独立小バルーンがある。また、私
は熱硬化させた樹脂製の他の中空で剛性の小球体も使用した。」(2欄23~28
行、訳文3頁13~16行)
 ⑥「空孔支持体として使用できるそれ自体に50容量%以上の空孔空間を含む剛性
のもろいスポンジ状材料は多数あり、例えば、・・・発泡プラスチック類、又は例
えば商品名“Foamglas”で販売されている多孔質ガラス製の断熱材料がある。これ
らの材料は、・・・所望の形状に他の方法で予備成形するか、又は破砕し顆粒型に
変えて使用できる。他の天然又は人工の剛性スポンジ状材料、例えば軽石又は発泡
ケイ酸ナトリウムも使用できる。」(2欄32~45行、訳文3頁21~29行)
 ⑦「私が非常に有用であることを発見した支持粒子用の一つの材料は熱膨張させ
たパーライトである。・・・パーライトは、化学的結合水又は溶解水を2~5%含
有するシリカ質の火山性ガラスである。パーライトは、軟化する範囲内の適切な温
度に迅速に加熱すると、膨張して気泡を生成するのに十分の結合又は溶解された揮
発性物質を含有するシリカ質溶岩と広く定義されている。」(2欄49~59行、
訳文4頁3~9行)
 ⑧「第1図は、空孔支持材料の顆粒を含有する砥石車から切り取った断片の拡大
断面図を示し、・・・1は溶融アルミナ、炭化ケイ素又は他の望ましい砥粒材料で
もよい砥粒の粒子を示し、2は脆くて剛性の多孔質材料製の粗い顆粒を示し、3は
砥石車の粒子間に通常生じるタイプの開放気孔を示し、そして、4は硬化したフェ
ノール樹脂又は他の有機物結合剤の被膜である。」(3欄16~31行、訳文5頁
2~11行)
 上記記載に関連し、第1図として下記の図が示されている。
 ここで、Brittleporousporesupportは脆砕性多孔支持体、Abrasive
gritsは砥粒、Intergranularporespaceは粒子間空孔、Organicbondは有機結合
剤をそれぞれ表す。
 ⑨「私は、空孔支持体で砥石車を製造する際、下記の範囲内の組成物を使用する
ことを好む。
                   体積%
 砥 粒              25~54
 有機物結合剤           15~45
 空孔支持体の顆粒         5~30」
(4欄5~13行、訳文6頁17~23行)
 ⑩「実施例 1
 第1図に示すタイプの砥石車を製造するため、私は下記の例示実施例を提供す
る。なおその組成物は重量部で示してある。
 24グリットのアルミナ砥粒・・・・・83.00
 熱硬化性フェノール樹脂粉末・・・・・・8.64
 氷晶石・・・・・・・・・・・・・・・・6.00
 液状熱硬化性フェノール樹脂・・・・・・2.36
 膨潤パーライト14~24メッシュ・・・・2.18」
(4欄19~27行、訳文6頁28行~7頁6行)
 ⑪「実施例1では、パーライト粒子は14~24メッシュであり、砥粒は24メッシュ
であった。私は、パーライト及び類似の粒子の直径が一般に混合物中の最大の砥粒
の直径の1~2倍であるべきであるが、時には砥粒の直径の約1/4まで小さくて
もよいということを見いだす。」(4欄下3行~5欄5行、訳文8頁11~14
行)
 (3) 上記各記載によれば、刊行物2には、砥石車の前記3要素(砥粒、結合剤、
及び気孔)に加えて、第4の要素として空孔支持体(上記③、⑧の第1図ほか)を
含む砥石車が記載されていることが認められる。
 刊行物2の砥石車の第4の要素である空孔支持体としては、例えば、「クレー材
料製の薄肉の独立小バルーン」(上記⑤)、「熱硬化させた樹脂製の他の中空で剛
性の小球体」(上記⑤)、「発泡プラスチック類」又は「多孔質ガラス」を「破砕
し顆粒状」としたもの(上記⑥)、軽石(上記⑥)、「パーライト」(上記⑩)等
が使用されているところ、これらと、訂正発明1の構成要件(B1)のフィラー粒子と
を比較すると、「クレー材料製の薄肉の独立小バルーン」が「か焼クレー・・・
の・・・中空球体」に相当し、「熱硬化させた樹脂製の他の中空で剛性の小球体」
が「中空の有機ポリマー粒子」に相当し、「『発泡プラスチック類』又は『多孔質
ガラス』を『破砕し顆粒型』としたもの」が「発泡又は固形のガラス粒子」あるい
は「発泡又は固形の有機ポリマー粒子」に相当し、「軽石」が「軽石」に相当する
ことは明らかであるから、これら空孔支持体は、訂正発明1の構成要件(B1)に規定
されるフィラー粒子に該当するものと認められる。また、パーライトは、火山性ガ
ラスであって、膨張して気泡を含む(上記⑦)ものであるから、パーライトも、訂
正発明1の構成要件(B1)に規定されるフィラー粒子(発泡ガラス粒子)
に該当する。
 パーライトの粒径について検討すると、そのサイズは14~24メッシュ(上記
⑩、⑪)であるから、訂正発明1の構成要件(B3a)に規定されるフィラー粒子の粒径
範囲「10~20メッシュ」と、広い範囲で重複する。そして、刊行物2には「パ
ーライト及び類似の粒子の直径が一般に混合物中の最大の砥粒の直径の1~2倍で
あるべきである」(上記⑪)と記載され、また、第1図(上記⑧)に、ほぼ同じ粒
子サイズの砥粒と脆砕性空孔支持体を使用した砥石車が示されていることから、刊
行物2の砥石車において、脆砕性空孔支持体(フィラー)として、砥粒と実質的に
同じ粒径を有するものが包含されるものと認められる。したがって、刊行物2記載
の砥石車と、訂正発明1の砥石車が構成要件(B3b)においても異なるものではない。
 次に、刊行物2の砥石車では、砥粒25~54体積%に対して空孔支持体(フィ
ラー粒子)の顆粒25~54体積%(上記⑨)が使用されるところ、これから粒子
物質全体の量に対する空孔支持体(フィラー粒子)の量を計算すると、
   最大量:54.5体積%
       =空孔支持体30%÷(砥粒25%+空孔支持体30%)
   最小量:8.5体積%
       =空孔支持体5%÷(砥粒54%+空孔支持体5%)
となることから、この量(8.5体積%~54.5体積%)は、訂正発明1の構成
要件(B2)に規定の「フィラー粒子は粒子物質全体の20~70体積%を占める」と
の規定と、広い範囲で重複する。
 また、刊行物2に記載の発明で使用される「有機物結合剤」(上記⑧、⑨)、
「粉末熱硬化性フェノール樹脂」(上記⑩)、あるいは「液状熱硬化性フェノール
樹脂」(上記⑩)が、訂正発明1の構成要件(C)の樹脂結合剤に該当することは自明
である。
 (4) 以上によれば、訂正発明1と刊行物2に記載の発明は、いずれも、砥石車の
3要素(砥粒、結合剤、及び気孔)に加えて、第4の要素として「フィラー粒子
(空孔支持体)」(構成要件(B1))を含む砥石車であって、構成要
件(B2)、(B3a)、(B3b)及び(C)についても相違しないから、結局、両者は、構成要
件(A)に関して、刊行物2に記載の発明では、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒が含まれ
ていないのに対し、訂正発明1では焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒が含まれる点での
み相違するにすぎない。すなわち、訂正発明1は、刊行物2に記載された砥石車
に、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を含む点、換言すれば、訂正発明1は、公知の砥
石車の砥粒を焼結ゾル・ゲルアルミナで置き換えた点でのみ相違する。
 そして、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒が、卓越した特性を示す最新の砥粒として
周知であり、そのような卓越した砥粒を公知の研磨製品に含まれる砥粒と置き換え
ることにより、当該公知製品の特性の改善を図ることを想到することが当業者にと
って容易であることは、前記(1)において説示したとおりであるから、訂正発明1
は、当業者が容易に想到し得たものというべきである。
 このことを前提にしてみるに、刊行物2記載の砥石車に、焼結ゾル・ゲル法アル
ミナ砥粒を適用することについて、何らかの阻害要因があったものとすべき特段の
事情があったことを認めるべき証拠はない。むしろ、甲第4号証によれば、刊行物
1には、ゾル・ゲル法アルミナ砥粒(7頁左下欄13行~右下欄8行)を、融合
(溶融)アルミナ等の従来の研磨材粒体(10頁左下欄3~8行)と共に使用した
回転盤(板)型研磨材製品(特許請求の範囲11項)、「回転研磨材のような結合
成形型研磨材製品」(8頁左上欄16~17行)、不織布研磨材製品(8頁左上欄
19行)等が開示され、これらの研磨製品において、焼成ゾル・ゲルアルミナ砥粒
は、溶融アルミナ等の砥粒のほかに、「ガラスなどのように研磨材として認められ
ていない物質と一緒に混ぜ合わせることも可能」であること(10頁左下欄9~1
1行)、典型的には、結合剤として「フェノール樹脂」が使用されること(11頁
左上欄1~5行)などの記載があることが認められる。これらの記載は、本件優先
権主張日前において、当業者にとって、焼成ゾル・ゲル法アルミナ砥粒を、従来の
砥粒、ガラス(構成要件(B1)のフィラー粒子)、及びフェノール樹脂(
構成要件(C)の樹脂結合剤)と共に使用することについて、特段の阻害要因はないと
の認識を有していたことを示すものである。
 4 原告の主張について
 (1) 原告は、刊行物1に記載の空孔支持体は、訂正発明1にいうフィラー粒子で
はないと主張するとともに、刊行物1に記載の空孔支持体と、訂正発明1のフィラ
ー粒子とは役割・機能が異なる旨主張する。
 しかしながら、刊行物2に記載の空孔支持体と訂正発明1のフィラー粒子とが同
一物質であり、その粒径においても相違しないことは、さきに説示したとおりであ
る。また、刊行物に記載の発明と、訂正発明1とは、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒
の含有の有無以外の構成がすべて一致すること、及び、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥
粒の量は任意の量、例えば、数体積%程度の少量であってもよいことも前説示のと
おりであるところ、少量の焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒の存在により、空孔支持体
(フィラー粒子)が異なる役割・機能を奏することとなる根拠を認めるべき証拠は
ない。仮に、役割・機能が異なるとしても、このことが何らかの阻害要因を構成
し、刊行物2に記載の発明に基づいて訂正発明1を想到することを困難ならしめる
ものとも認められない。
 (2) 原告は、刊行物2に記載の発明は、空孔支持体を固定するために結合剤の量
を増加し、増加した結合剤が砥石車の強度を向上させるものであるのに対し、訂正
発明1では結合剤の量は不変であって、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒が本来的に持
つマイクロチッピングによる自刃再生作用をより完全に発現させるものであり、両
者は本質的に異なると主張する。
 しかしながら、訂正発明1には、結合剤の含有量についての限定はなく、原告の
主張は、訂正発明1の構成に基づかないものであって、理由がない。
 (3) 原告は、訂正発明1は、樹脂結合剤を用いた砥石車に焼結ゾル・ゲルアルミ
ナ砥粒を適用したとき、砥粒の結晶組織の特徴から予想されるよりも低い研削性能
しか得られないという、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いた樹脂結合砥石車に固
有の問題を見いだし、これを解決するものであるから、この焼結ゾル・ゲルアルミ
ナ砥粒を用いた樹脂結合砥石車に固有の問題点について開示又は示唆がない刊行物
2記載の発明に基づいて、当業者が訂正発明1を想到することはできない旨主張す
る。
 しかしながら、当業者が上記のような問題点の存在を容易に認識し得なかったと
しても、そのことが、刊行物2に記載の発明に基づいて訂正発明1を想到する上
で、阻害要因を構成するものでもなく、原告の主張は理由がない。
 (4) 原告は、訂正発明1では、切削速度が大幅に向上し、減少した砥粒で研削比
が大幅に改良され、消費電力が低減されるとの、従来技術からは意外な格別顕著な
効果が得られる旨主張する。しかしながら、本件優先権主張日当時、当業者は、焼
結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を用いた砥石車の性能は、従来法により製造された単結
晶の酸化アルミニウム(すなわち、溶融アルミナ)砥粒を用いた砥石車と比較し
て、油と共に使用する場合には寿命が7~10倍、乾式で使用する場合には、寿命
が4~5倍にも達するものと認識していたとの前判示(1の(2)-2)の点に比し
て、訂正発明1によって得られる効果が、当業者にとって予測し得ないほどの格別
顕著なものであったことを認めるべき証拠はない。
 訂正明細書(甲第3号証中の全文訂正明細書)を参照しても、そこには、少量の
焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を使用した場合についての実施例の記載のあることは
認められず、どのような効果が奏せられるか不明である。
 焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒を使用した訂正発明1の実施例についてみても、次
のように判断される。すなわち、訂正明細書(甲第3号証中の全文訂正明細書)に
は、訂正発明1の実施例の比較例としては、3要素(砥粒、結合剤及び気孔)から
構成される砥石車が示されているのみであって、刊行物2記載の発明のような4要
素(砥粒、結合剤、気孔及び空孔支持体(フィラー))から構成される砥石車との
比較は示されておらず、4要素から構成される砥石車の砥粒を、焼結ゾル・ゲルア
ルミナ砥粒に置き換えたことによる訂正発明1の効果は、必ずしも明らかでない。
3要素から構成される砥石車(実施例1の表1及び2のホイールA(c))と比較した
場合においても、相対G比が改善されるともに相対消費電力が改善されることが認
められるものの、その程度は、相対消費電力については、46%に低減する場合も
あれば、逆に123%に増加する場合もあって、これをもって格別のものというこ
とはできない。相対G比については、訂正発明1の実施例は1.35倍~5.21
倍に向上することが認められるが、焼結ゾル・ゲルアルミナ砥粒の使用により研削
寿命の改善効果が10倍(1000%)にも達することがあるとの当
業者の前示認識にかんがみれば、1.35倍~5.21倍の効果は全体として、当
業者が予測することのできない格別顕著なものということはできない。
 甲第8号証(リチャード・ピー・リンゼー博士の供述書)によっても、焼結ゾ
ル・ゲルアルミナ砥粒を10体積%使用した場合、訂正発明1による効果として、
Qw(=切込み深さ×切削幅×テーブル速度)を低下させる「有益な効果が少し認
められる」にすぎないものとされているし、その他、訂正発明1によって得られる
効果が、前記の当業者の認識を超えて格別顕著なものであったことを認めるべき記
載は甲第8号証にはない。
 (5) 原告は、訂正発明1の効果が格別顕著であることは、訂正明細書の実施例2
の結果を規格化して示した本判決別表より明らかであるとも主張する。
 しかしながら、同表に示される実施例は、いずれも、46グリットの焼結ゾル・
ゲルアルミナ砥粒と(46グリット砥粒は平均粒径が0.356mmとなる。)、
直径0.5~1.0mmのバブルアルミナ(フィラー)を使用するものであって
(甲第3号証中の全文訂正明細書により認められる。)、両者の粒径は実質的に同
じではなく、したがって、それらは、訂正発明1の構成要件(B3b)を満たすものでは
ないから、訂正発明1の実施例の効果を示すものということはできない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の決定取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成14年5月30日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官  永   井   紀   昭
        裁判官    塩   月   秀   平
裁判官    田   中   昌   利
(別紙)
別表(原告準備書面(3)添付別紙)

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