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平成11年(行ケ)第236号審決取消請求事件
平成12年11月7日口頭弁論終結
判決
原      告【A】
被      告特許庁長官 【B】
指定代理人【C】
同【D】
同【E】
主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成9年審判第19685号事件について平成11年6月10日に
した審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 原告は、平成4年1月6日、発明の名称を「ガソリンを燃料とする内燃機関
のダブル点火方式点火栓一回路方式及び電気火花発生器」とする発明(以下「本願
発明」という。)について特許出願をしたが、平成9年10月16日に拒絶の査定
を受けたので、同年11月25日、上記査定に対する不服の審判を請求した。特許
庁は、同請求を平成9年審判第19685号事件として審理した結果、平成11年
6月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同月28日、
その謄本を原告に送達した。
2 本願の特許請求の範囲
(請求項1)
「ダブル点火方式点火栓のガイシ内空洞とその中にある給電回路としての電弧
棒。ダブル点火方式点火栓の外側のセト又はガイシ内に図1断面図符号Aの如く空
洞を設け、この空洞内に給電回路と10mm以上20mm以内の間隙を保持した電
弧棒を向い合せ、こゝで電弧を発生させる。これにより同時にシリンダー内の点火
口エレメントに最大で電弧時分の短いキレのよい電弧を発生させることができるダ
ブル点火方式点火栓の空洞と電弧棒。」
(請求項2)
「ダブル点火方式点火栓の点火口エレメントの間隙幅ダブル点火方式点火栓の
点火口エレメントの間隙幅を図1断面図符号Bの如く2mm以上5mm以内の幅で
設定する。この点火口エレメントの間隙幅。」
3 審決の理由
 審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本願に
係る特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、実願
昭54-118050号(甲第9号証。実開昭56-35794号)のマイクロフ
イルム(以下「引用刊行物」という。)に記載された技術(以下「引用発明」とい
う。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許
法29条2項の規定に該当し、特許を受けることができないものであり、本願は、
特許請求の範囲の請求項2に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきもの
である、としている。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 本願発明1と引用発明とを対比したとき、前者は、セト又はガイシ内の空洞
内に給電回路と10mm以上20mm以内の間隙を保持した電弧棒を向い合せてい
るのに対して、後者は、セト又はガイシ内の中央電極1間に間隙を設けている点で
相違し、その余の点で一致することは認める。
 審決は、上記相違点についての認定判断を誤り(取消事由1)、また、本願
発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由2)、その結果、本願発明の進歩性を否
定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点についての認定判断の誤り)
 審決は、相違点について、この種の放電間隙として、空洞内に間隙を保持し
た電弧棒を向い合せたものは、本願出願前に周知であるとし(審決は、その例とし
て、実公昭56-1992号公報(甲第10号証。以下「甲第10号証刊行物」と
いう。)の放電部14、実願昭61ー135591号(実開昭63ー42871
号)のマイクロフイルム(甲第11号証。以下「甲第11号証刊行物」とい
う。)、実願昭61ー196863号(実開昭63ー101486号)のマイクロ
フイルム(甲第12号証。以下「甲第12号証刊行物」という。)、特開昭47ー
10556号公報(甲第13号証。以下「甲第13号証刊行物」という。)の各記
載を挙げている。)、これを前提に、引用発明において、放電間隙として、中央電
極1間に間隙を設けたものに代えて、セト又はガイシ内の空洞内に間隙を保持した
電弧棒を向い合せたものとすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められ
ると判断し、あわせて、間隙が10mm以上20mm以内のものである点について
は、当業者が適宜に決め得た程度のものであると判断した。しかし、上記認定判断
は誤っている。
(1) 引用発明の補助すき間4は、引用刊行物の図面をみる限り、絶縁物が充填
された状態のものであり、この点は、審決もこれを認めて「引用例に記載されたス
パークプラグ(点火栓)の中央電極1の周囲の斜線部相当物は、セト又はガイシで
あることが通常であり、」(審決書5頁1行~3行)と記載しているとおりであ
る。そして、補助すき間4が空気の間隙ではなく絶縁物が詰まった状態であれば、
スパークが発生しないことは明らかであるから、このようなものから当業者が容易
に本願発明に想到し得るなどということはおよそあり得ない。
 引用発明について、放電間隙として、セト又はガイシ内の中央電極1間に
間隙を設けたものに代えて、セト又はガイシ内の空洞内に間隙を保持した電弧棒を
向い合せたものとすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められるとした
審決の判断は、前提において既に誤っている。
(2) 審決が周知とした事項は周知ではない。
 審決が、周知の技術事項を示すために挙げた甲第10号証刊行物の記載は
点火ミス検出装置、同第11号証刊行物及び第12号証刊行物の記載はシリーズギ
ャップ付点火装置、同第13号証刊行物の記載は内燃機関の作動用コイル(バネ)
点火装置に係るものであって、いずれも点火栓を対象とする本願発明や引用発明と
は構成において異なるものであるから、本願発明の進歩性を判断する際に前提とな
る周知事項の例となるものではない。審決は、誤った証拠に基づいて周知事項を認
定し、これを前提に進歩性の判断をしたものであるから、違法である。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)
 本願発明は、点火栓の外側ガイシ内に密閉した空洞を作り、この中に回路の
一部として中央電極の途中に電極棒を相対立させ10mm以上20mm以内の空気
間隙を設け、この箇所で一度電気放電を起こさせ、これによりこの箇所から点火口
エレメントまでの導線間に瞬間的に強勢された電圧と電流を流すようにし、点火口
の放電ギャップにおいて大きな放電火花を発生させ、シリンダー内の燃焼ガスを完
全燃焼させるために点火口と直列に空気間隙(2本の電弧棒の間は開放状態であ
る。)を設置することを特徴とするダブル点火方式点火栓であり、この構成を採用
することにより、排気ガス中の窒素酸化物及び炭素酸化物等を激減させ、エンジン
の出力向上及び燃料を節約するという顕著な作用効果を奏するものである。これに
対して、引用発明には、2本に分断された中央電極の補助すき間4が開放状態では
なく絶縁物が詰まっている状態であるため、スパークが発生しないという欠点があ
るのであるから、引用発明に基づいて本願発明の作用効果を予測することはできな
い。
 したがって、審決が引用刊行物の記載事項から予測できた程度のものであ
り、格別のものとは認められないと認定判断したことは、明らかに誤りである。
第4 被告の反論の要点
 審決の認定判断は、いずれも正当であり、審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点についての認定判断の誤り)について
(1) 原告は、引用発明の補助すき間4は、空気間隙ではなく、絶縁物が詰まっ
た状態なのでスパークが発生しない旨主張する。
 しかしながら、引用刊行物には補助すき間4に絶縁物が詰まっているとの
記載はなく、かえって、引用刊行物には、「4(補助すき間)にスパークが発生す
る。」と記載されているようにスパークが発生することが明示されている。原告も
認めるように、絶縁物が詰まっていればスパークは発生しないのであるから、補助
すき間4に絶縁物が詰まっていないことは明らかである。原告の主張は誤りであ
る。
(2) 審決が、周知技術を示すために挙げた原告指摘の文献の記載は、いずれも
本願発明と同じくダブル点火方式点火栓といえるものに係るものであり、本願発明
とは、その目的及び構成において基本的に共通するものであるから、これらの証拠
によって本願発明の進歩性を判断した審決に誤りはない。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)について
 本願明細書には、発明の効果として、「このダブル点火方式点火栓を用いる
ことによりエンヂンの排気ガス中の窒素酸化物及び二酸化炭素の濃度は従来の点火
栓に比べて約半分に減少した。又、エンヂンの出力も従来の点火栓に較べて10%
~30%程度出力アップした。」(出願当初の明細書2頁右欄26行~30行)と
の記載があり、一方、引用刊行物(甲第9号証)には、「本案は、この欠点を除く
ため考案されたもので、4を設けることにより、絶縁が完全なため電圧は十分高く
なり、ついには4にスパークが発生する。この瞬間的な電流はカーボンなどを通す
ことができず3でもスパークが発生する。このため失火を防ぎ完全燃焼を得ること
ができる。」(明細書12行~16行)との記載がある。
 そうすると、引用発明においては、「失火を防ぎ完全燃焼を得る」のである
から、このことから、当業者が本願発明の効果である「エンヂンの排気ガス中の窒
素酸化物及び二酸化炭素の濃度の減少」及び「エンヂンの出力の出力アップ」を予
測することは容易であったということができる。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点についての認定判断の誤り)について
(1) 原告は、引用発明の補助すき間4は、絶縁物が充填された状態のものであ
るとし、これを前提として、このような状態であれば、スパークが発生しないこと
は明らかであるから、当業者がこれから容易に本願発明に想到し得たものというこ
とはできない旨、主張する。
 引用刊行物(甲第9号証)に、「中央電極に補助すき間を開けたスパーク
プラグ」(実用新案登録請求の範囲)、「この実用新案は、スパークプラグの1に
4を設けたものである。従来のスパークプラグでは、カーボンなどが付着すると1
と2との間の絶縁が悪くなり、スパークプラグの3でスパークを発生するに必要な
高電圧に上がる前に、この絶縁不良箇所を通って流れてしまうため、スパークが発
生しなくなる。本案は、この欠点を除くため考案されたもので、4を設けることに
より、絶縁が完全なため電圧は十分高くなり、ついには4にスパークが発生する。
この瞬間的な電流はカーボンなどを通すことができず3でもスパークが発生する。
このため失火を防き完全燃焼を得ることができる。」(明細書6行~16行)、
「図面は本案の断面図である。1は中央電極 2はサイド電極 3はすき間 4は
補助すき間」(同18行~22行)との記載があることは、当事者間に争いがな
い。
 引用刊行物の図面をみると、中央電極1には、その中間に間隙が設けられ
ているものの、中央電極1の周囲の斜線部は、上記すき間に及んでおり、上記すき
間にも中央電極1の周囲と同様のものが充填されていることが示されている。
 上記記載と図面を比較すると、前者においては、「4を設けることによ
り、絶縁が完全なため電圧は十分高くなり、ついには4にスパークが発生する。」
とされているのに、図面においては、補助すき間に、スパークプラグの中央電極1
の周囲の物質と同様の物質で充填されているようになっているので、スパークの発
生する余地がないことになり、一見すると、矛盾しているようにもみえる。
 しかしながら、点火栓に空洞を設け、その空洞内において、点火口に繋が
る電弧棒を、所定の間隔を保持しつつ向い合せに配設し、両電弧棒の先端において
放電させるという技術事項が、本願出願当時、周知であったことは、後記認定のと
おりであり、当業者が、このような周知の技術事項を前提として引用刊行物に接す
るとき、図面の4の記載が誤りであり、引用刊行物には、「補助すき間」という文
言のとおり、スパークプラグの電極におけるすき間の役割を果たす空間を設けた技
術が開示されていると認識することは、明らかというべきである。
(2) 原告は、審決が周知とした事項は周知でないとし、審決がその例として挙
げた甲第10号証刊行物ないし同第13号証刊行物の各記載は、例になるものでは
ないと主張する。
 甲第10号証ないし同第13号証によれば、甲第10号証刊行物ないし同
第13号証刊行物には、いずれも、点火栓内に空洞を設け、その空洞において、点
火口に繋がる電弧棒を、所定の間隔を保持しつつ向い合せに配設し、両電弧棒の先
端において放電させるという、点火口と空気間隙とを直列に配置したいわゆるダブ
ル点火方式の技術が記載されていることが認められ、この技術は、昭和47年5月
(甲第13号証刊行物の公開日)には我が国において公知となっており、その後
も、甲第10号証刊行物ないし同12号証刊行物において同種の技術が公開されて
きたもので、本願出願時には、周知の技術事項となっていたことが明らかである。
 したがって、この種の放電間隙として、空洞内に間隙を保持した電弧棒を
向い合せたものは、本願出願前に周知であるとした審決の認定に誤りはない。
 この点について、原告は、甲第10号証刊行物に記載されているのは点火
ミス検出装置、同第11号証刊行物及び第12号証刊行物はシリーズギャップ付点
火装置、同第13号証に記載されているのは内燃機関の作動用コイル(バネ)点火
装置であって、いずれも点火栓を対象とする本願発明とは構成において異なるもの
であるから、本願発明の進歩性を判断する前提とすべきではない旨主張する。
 しかしながら、審決は、甲第10号証ないし第13号証に記載された事項
のうち、それぞれに含まれる、点火栓に係る放電間隙として、いわゆるダブル点火
方式を採用し、空洞内に間隙を保持した電弧棒を向い合せるという技術に着目し、
これを審決が周知とした事項の例として挙げているのであって、上記各号証の実用
新案登録請求の範囲あるいは特許請求の範囲の記載に係る考案あるいは発明自体を
取り上げているのではない。そして、本願発明の進歩性を検討する際の先行技術の
とらえ方として、上記の手法に格別の問題を認めることはできない。
 原告の主張は、失当である。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)について
 原告主張の本願考案の効果は、本願考案の構成を採用すれば、得られること
の自明な効果である。したがって、取消事由2についての原告の主張も、採用でき
ない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、
その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官山  下  和  明
   裁判官宍  戸     充
   裁判官阿  部  正  幸

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