弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金参千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは罰金弍百円を壱日に換算した期
間被告人を労役場に留置する。
         理    由
 本件控訴の理由は末尾添付の副検事田淵耐介名義の控訴趣意書記載の通りであ
り、弁護人の答弁の要旨は被告人の所為が公職選挙法第百四十六条の違反になると
しても同法条の規定は憲法第二十一条に違反し無効であるというにあり、以上に対
する当裁判所の判断は次の通りである。
 本件公訴事実及び原判決がこれを無罪にした理由は論旨に示している通りであつ
て、要するに原判決は被告人が頒布禁止を免れる行為としてなしたものであるとの
点につき結局その証明がないとして無罪を言渡したものである。而して被告人が頒
布した「A」の記載内容は論旨に摘録している通りであつて、これ正しく特定候補
者の氏名を表示した文書であることは明らかであると共に、被告人は原審第一回公
判期日に於て「B、Cの氏名を本件Aに登載するようになつたのは、我々の代表者
で組織する上部団体であるD等から、組合側から今度これこれの人を推薦候補とし
て推すとの通知があつたので、その上部の意向を我が組合員に報道伝達するための
ものであり、この報道伝達するということは勿論この候補者を当選させるためにや
つたものです」と供述し、又被告人は司法警察員に対する供述調書に於ては「九月
八日の組合の役員会に於てE従組もB、C両氏を推薦支持することを確認浸透さす
ことになつたので、本件Aを印刷した配つたもので、尚一九五二、九、一〇の発行
日九、八の委員会開催日等を墨で消したのはAは機関紙であつて、これがもし外部
に出て一般人に告示以後に於ける配布が明確に判れば具合が悪いのではないかと思
い消したものであり、これを配布した目的はDがB、Cの両氏を推薦しているし、
E徒組としても右両氏を委員会で推薦決定したその意思を浸透させる目的と右両氏
を当選させて上げたいという気持で配布した」旨を、尚検事に対する供述調書に於
ては「E従業員組合は組合員約三百八十人で、その内有権者は三百二十人位で、殆
んどが京都市内に在住しているから京都府第F区若しくは第G区の選挙人である。
九月八日E従業員組合役員会でもDの決定を確認し、C、B両候補を推薦すること
に決つたので、私としても亦他の役員も両候補の当選を期待しているのであつて、
従業員の有権者にもこの役員会の決定に従つてC、B両候補へ投票をして貰いたい
という気持から本件Aを印刷して配布した。私からAを受取つた人の中には有権者
でない人もあつたかも知れませんが、私としてはその人から更に従業員有権者にこ
のことが徹底されると思つていた」旨を各供述して居り、この供述に被告人自身が
文案を作成した前記Aの文言の内容を対照斟酌すれば、被告人は本件衆議院議員総
選挙に際し京都府第F、G区よりの立候補者B、Cの当選を得しめる目的を以て、
法定の頒布文書でないことを認識しながら本件Aを印刷頒布したものであることが
認められる。
 <要旨第一>原判決は右AはE徒組の機関紙であつて、同従組役員会の両候補推薦
決定を全組合員に知らすべきいわゆる一つの報道的文書であると認定し
ている。勿論かかる報道的意味をも包含してはいるが、更に該Aは「E従組委員会
(委員会の三字は小字)でF区B、G区C両氏を推薦支持と決定」と一目で見易い
大字による表題の次に、選挙に関する筆者の意見を述べ両候補者に対する支援と協
力とを要望したものであつて、特に文中論旨摘録の如き部分のあるに至りては、右
文書の体裁と文詞上よりしてもこれを単なる委員会決定の報道的文書のみであると
いうことは、文章の健全なる常識的解釈上許し得ないところで、右両候補者に当選
を得しめる目的を有する所謂選挙運動のために使用する文書であると認定せざるを
得ない。而して又このAがE従組の機関紙でその印刷配布方法等がすべてこれまで
通りのやり方であつたとの一事を以てするも右認定を覆すことはできない。
 然らば被告人の本件所為は公職選挙法第百四十六条第一項の規定に違反し同法第
二百四十三条第五号に該当する犯罪であるのに原判決はこの点につき証拠の判断を
誤り犯罪の証明なきものと誤認した違法があり、これが判決に影響を及ぼすこと洵
に明らかである。
 <要旨第二>弁護人は公職選挙法第百四十六条の規定は憲法第二十一条の規定に違
反して無効であると主張するけれども、憲法第二十一条は絶対無制限の
言論出版の自由を保障しているのではなく、公共の福祉のためにその時、所、方法
等につき合理的制限のおのずから存することはこれを容認すべきものと考うべきと
ころ、公職選挙法第百四十六条は公職選挙につき文書図書の無制限の領布、掲示を
認むるときは、反つて逆に選挙の公明を害し延いては候補者の選挙の平等の原則に
背馳する結果を招来する虞があること等からして、文書図書の領布掲示につき一定
の規制をなすことが、選挙の自由と公正を期する所以であるとして、選挙運動期間
中なる短期間に限りこれを制限する目的のもとに制定せられた規定であるところ、
かかる制限は公共の福祉のための合理的制限と解せられるから、その結果として多
少言論出版の自由の制限をもたらすことがあるとしても、この規定を憲法第二十一
条に違反するものということはできないから、弁護人の主張は理由がない。
 以上の理由により本件控訴を理由ありとし、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八
十二条により原判決を破棄し、同法第四百条但書により当裁判所が直ちに判決す
る。
 第一 罪となるべき事実
 被告人は京都市a区b町所在株式会社Eの従業員を以て組織する労働組合の書記
長をしているものであるが、昭和二十七年十月一日施行の衆議院議員総選挙に際
し、京都府第F区より立候補せるB、同第G区より立候補せるCの当選を得しむる
目的を以て、その選挙運動期間中なる同年九月十日頃同会社事務所及び工場内に於
て、公職選挙法第百四十二条所定の禁止を免れる行為として、同組合の機関紙
「A」に「E従組委員会でF区B、G区C両氏を推薦支持と決定」と題し、いよい
よ総選挙戦の火蓋は切られD等に於ても推薦候補として京都第F区にB、G区にC
両氏を決定して果敢な闘いを進めている。各位の絶大なる支援と協力を願う旨等を
印刷し、以て右総選挙に京都府第F区より立候補せるB、同第G区より立候補せる
Cの両候補者の氏名を表示する文書約五十枚を、同組合員H外十五名に配布し、よ
つて右両候補者の選挙運動のためにする文書を頒布したものである。
 第二 証拠の標目
 一 原審第一回公判調書中の被告人の供述記載
 一 被告人の司法警察員に対する供述調書(検甲第二六号)
 一 被告人の検事に対する供述調書(検甲第二七号)
 一 Hの司法巡査に対する第一、二回供述調書(検甲第三、五号)
 一 I、J、K、L、M、N、O、P、Q、R、S、T、U、V、Wの司法警察
員、司法巡査に対する各供述調書(検甲、第一、七、九、十一、十三乃至二十、二
十二、二十四、二十五号)
 一 押収(検察官提出)に係るA(証第一乃至七号)
 第三 法令の適用
 被告人の判示所為は公職選挙法第二百四十三条第五号に該当するから所定刑中罰
金刑を選択し、その金額範囲内に於て被告人を罰金三千円に処し、該罰金を完納す
ることができないときは刑法第十八条により罰金二百円を一日に換算した期間被告
人を労役場に留置すべきものとする。
 仍て主文の通りの判決をしたのである。
 (裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 判事 石丸弘衛)

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