弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一〇月および罰金二〇万円に処する。
     この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
     右罰金を完納することができないときは金二、〇〇〇円を一日に換算し
た期間被告人を労役場に留置する。
     原審の訴訟費用中、証人Aに支給した分は被告人の負担とする。
     本件公訴事実中、各私文書偽造、同行使の点については、いずれも被告
人は無罪。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人阿部三琅提出の控訴趣意書記載のとおりであり、これ
に対する答弁は、検察官善方正名提出の答弁書記載のとおりであるから、いずれも
これを引用する。
 第一、 原判示第一の食糧管理法違反の事実について。
 (一) 控訴趣意第一点(法令の適用の誤り)について。
 所論は、食糧管理法九条一項は主要食糧の配給、加工、製造、譲渡その他の処
分、使用、消費、保管および移動に関する制限を政令で定めることを委任したにす
ぎないのに、同法施行令六条、七条、同法施行規則四〇条はこの委任事項の範囲を
超えて買受を制限しており、これらは食糧管理法九条一項の委任の趣旨に反し、憲
法七三条六号に違反する。原判決が被告人の原判示第一、一、1、2の行為に対
し、食糧管理法施行令七条、同法施行規則四〇条、同法施行令六条を適用処断した
のは、憲法の右規定に違反するというのである。
 食糧管理法九条一項にいう「譲渡其ノ他ノ処分」の中には、譲受や買受をも含む
と解するのが相当であり、同法九条一項は、政府が本件のような主要食糧の買受行
為を禁止するため必要な命令をすることができる趣旨をも含むと解すべきである。
同法施行令六条、七条、同法施行規則四〇条の規定は、同法九条一項の委任の範囲
を逸脱したものではない(最判昭和三二年一二月一七日刑集一一巻一三号三二四六
頁参照)から、所論違憲の主張は、その前提を欠くことになり、論旨は理由がな
い。
 (二) 控訴趣意第二点(理由不備ないし理由のくいちがい)について。
 所論は、原判決が食糧管理法九条一項の「特ニ必要ト認ムル」事情について何ら
判示せず、また、原判決挙示の証拠によつては右事情を認めることはできないか
ら、原判決には刑訴法三七八条四号の理由不備ないし理由のくいちがいがあるとい
うのである。
 しかし、食糧管理法九条一項の規定は、政府が同法の目的を遂行するため「特ニ
必要アリト認ムルトキ」は、政令の定めるところによつて、主要食糧の譲渡その他
の処分等に関し必要な命令をすることができる旨定めており、同法施行令六条、七
条、八条、同法施行規則三九条、四〇条の規定は食糧管理法九条一項の委任の範囲
内で本件のような主要食糧の買受、売渡行為を禁止していると解され、同法九条一
項にいう「特ニ必要アリト認ムルトキ」とは委任命令の発動条件にすぎず、原判示
第一の主要食糧の買受、売渡の各犯罪の構成要件でないことが明らかである。した
がつて、原判決はその事情を判示する必要がなく、その掲げる証拠によつてその事
情が認められなくとも、原判決には所論のような違法があるとはいえない。
 (三) 控訴趣意第三点(事実誤認)について。
 所論は、原判示第一の各事実につき、原判決が適用した食糧管理関係法令の存在
理由がなくなつたのに、現行の食糧管理制度とその実情について事実を誤認し、原
判決摘示の法令を適用処断した違法があるというのである。
 たしかに、食糧管理法の性格が変貌してきたし、配給制度が緩やかになつている
ことは否定できないが、原判決説示のとおり、現行食糧管理は、基本的には配給制
度を維持し、一定の限度において自主流通米を認めているものと思われ、最近の客
観的状勢のもとでも、国民経済の安定を維持するため主要食糧の適正な流通を確保
する必要があり、本件のような主要食糧の買受、売渡を禁止する食糧関係法令の存
在理由がなくなつたとは到底考えられない。また、記録を精査し、原判示第一の各
犯行の動機・態様、当時の食糧事情等に徴しても、可罰的違法性を欠くとは認めら
れない。原判決には所論のような事実誤認ひいては法令の適用の誤りがあるとは考
えられない。
 第二、 原判示第二の私文書偽造、同行使の各事実について。
 控訴趣意第一点(法令の適用の誤り)について。
 所論は、検査請求者である各B組合が本件票せんの裏面の生産者氏名等の事項を
記入すべきで、本件は私文書の虚偽記入・行使に過ぎないから、被告人は無罪であ
るというのである。
 <要旨>所論にかんがみ、記録および証拠物を検討すると、本件票せんは、農産物
検査法施行規則一三条一項による様式四号に従つて作成された荷札用紙を使
用しているものであつて、表面の上半分には、何年産、農産物の種類、銘柄、正味
重量規格、皆掛重量、住所、生産地、検査請求者を記載する各欄、表面の下半分に
は、検査年月日、食糧事務所名を記載する各欄、その裏面には、生産者の住所、氏
名、調製責任者名、受検組合名、品種名を記載する各欄がそれぞれ設けられてい
る。そして、前記四号様式の備考二には「記載事項中銘柄、検査年月日及び食糧事
務所名を除いては、検査請求者において記入するものとする。」旨、同備考三には
「生産者から委任を受けて検査を請求する場合には、裏面に当該生産者の氏名又は
名称及び住所を記載するものとする。」旨それぞれ定められている。これらによる
と、票せんの表面の銘柄、検査年月日および食糧事務所名は食糧事務所において記
入すべきで、B組合が生産者から委任を受けて検査を請求する場合には、その組合
が表面のその余の部分のほか、裏面に生産者の住所・氏名等を記載すべきであり、
裏面の生産者の住所・氏名等の記載は、それ自体独立した文書ではなく、表面の食
糧事務所が記載すべき部分を除いたその余の部分の記載と一体となる検査請求者名
義の私文書であると解するのが相当である。さらに、本件票せんの表面の検査請求
者欄には、単にa町B組合またはb町B組合と記載され、生産者何某代理人何B組
合とは記載されていないこと、本件梗玄米の検査請求の際、食糧事務所に提出され
た検査請求書の検査請求者欄にはa町B組合またはb町B組合C支所長Dと記載
し、かつ、組合長または支所長の印を押し、これとは別に生産者ごとの米穀検査請
求明細表・米穀検査記録票・検査調書(一枚の用紙)中の生産者氏名欄も各組合の
担当職員が記載していることなどに徴しても、a町B組合またはb町B組合は、検
査請求者として、本件票せんの裏面に生産者の氏名、品種名等を記入する権限をも
つていたとみることが合理的と思われる(通常、現実には、生産者が票せんの裏面
の各欄の記載をしているようであるが、それは事実上の便宜的方法であつて、この
ことから直ちに、検査請求者の作成権限を否定することはできない。)。本件票せ
ん中の私文書は、原判示a町B組合およびb町B組合C支所の担当職員が作成権限
のある組合長または組合支所長および被告人と互いに意思を通じ、その裏面に虚偽
の生産者の住所・氏名等を記入したことは、証拠上十分認められるが、これらの票
せん中の私文書の名義人は、各B組合であつて、その裏面の生産者の住所・氏名等
が虚偽であるにすぎず、これらの文書の作成は現行法上処罰されない以上、それら
の文書の行使もまた罪とならないことは明らかである。
 ところが、これと見解を異にし、これらの票せんの裏面の記載を生産者作成名義
の独立文書とし、勝手にその氏名・玄米の品種名等を記入したとし、その作成・行
使に対し刑法一五九条一項、一六一条一項、六〇条を各適用した原判決には、判決
に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認ひいては法令の適用の誤りがあるといわな
ければならない。論旨は理由があり、原判決はこの点で破棄を免れない。
 そこで、刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但
書によりさらに次のとおり自判する。
 原判決の確定した原判示第一の各事実に対する法令の適用は、原判決摘示のとお
りであるから、これを引用し、その刑期および金額の範囲内で被告人を懲役一〇月
および罰金二〇万円に処し、右懲役刑の執行猶予につき刑法二五条一項一号を、労
役場留置につき同法一八条を、原審の訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項本
文を各適用する。
 本件公訴事実中、各私文書偽造、同行使の点は、「被告人は、米穀の包装に貼付
する当該米穀の生産者氏名、品種などを記載した票せんを偽造し、その生産者の名
義を冒用して他から買い集めた梗玄米を政府に売り渡そうと企て
 一、 秋田県平鹿郡a町B組合組合長E、同組合参事F、同組合経済課長G及び
同組合経済課販売係Hと共謀のうえ、昭和四八年二月五日ころから同年三月一九日
ころまでの間、前後六回に亘り、前同町cdのeの右組合において、行使の目的を
もつてほしいままに票せんに、別紙一覧表(六)記載のとおりI他二八五名の氏名
および玄米の品種名等を記入し、もつて右I他二八五名作成名義の票せん合計三、
一三〇枚の偽造を遂げたうえ、同年二月五日ころから同年三月一九日ころまでの
間、前後六回に亘り、前記組合において、秋田食糧事務所農林技官Jに対し、同人
から米穀の検査を受けるに際し、右偽造にかかる票せん三、一三〇枚を、真正に作
成されたもののように装つて米穀に貼付呈示してこれを行使し、
 二、 秋田県平鹿郡b町B組合C支所支所長D、同支所販売係Kと共謀のうえ、
昭和四八年二月五日ころから同月二六日ころまでの間、前後三回に亘り、前同町f
字ghのi右組合支所において、行使の目的をもつてほしいままに票せんに、別紙
一覧表(七)記載のL他六〇名の氏名および玄米の品種名等を記入し、もつて右L
他六〇名の作成名義の票せん合計七五六枚の偽造を遂げたうえ、同年二月五日ころ
から同月二六日ころまでの間、前後三回に亘り、前記組合支所において、秋田県食
糧事務所農林技官Mに対し、同人から米穀の検査を受けるに際し、右偽造にかかる
票せん七五六枚を真正に作成されたもののように装つて米穀に貼付呈示してこれを
行使したものである。」というのであるが、前説示のとおり、右各私文書偽造、同
行使の点はいずれも罪とならないから刑訴法四〇四条、三三六条前段により被告人
に対し無罪の言い渡しをすることとする。
 そこで、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 中島卓児 裁判官 萩原昌三郎 裁判官 板垣範之)
 (別紙一覧表)省略

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