弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 検察官の上告趣意について。
 原判決の確定した事実によれば、被告人は、自己の経営する金融業の宣伝のため、
日本銀行発行の一万円紙幣を模したものを内容の一部に入れた広告印刷物を印刷し
て頒布しようと企て、縦約二七センチメートル、横約一九センチメートルの一枚の
紙の上段の縦約七・五センチメートルの部分及び中段の縦約一〇・五センチメート
ルの部分にそれぞれ宣伝文句を刷り込み、下段の縦約九センチメートルの部分に日
本銀行発行の一万円紙幣の聖徳太子像や「壱万円」の表示や「10000」とある
部分等を模した図柄を刷り込み、下段のこの印刷画面の外側右端に「(この券ご持
参の方は優遇致します)」と現わし、かつ、中段と下段との境には短い断続した線
を刷り入れた広告印刷物約一〇万部を印刷製造したというのである。
 そして、原判決は、本件広告印刷物は、上、中、下三段が一体となつて宣伝の目
的を果たしうる一個の文書であると考えるのが相当であり、かつ、被告人は必ずし
も下段が中段との間の境界線に従つて切り取られることだけを予定して印刷製造し
たものとみることも適当でないと認めたうえ、「本件広告印刷物の下段部分は、真
物である日本銀行発行の一万円紙幣との紙質、印刷技術、寸法、すり込み文句等の
相違にもかかわらず、これを通貨及証券模造取締法一条にいう「紛ハシキ外観ヲ有
スルモノ」の製造に当たるものと判断するが、これは、中段部分との切断という行
為があつて、はじめて完了するものというべきであるから、同法条の製造罪の未遂
罪を処罰する規定がなく、かつ、記録によれば、右のように切断した事跡のみるべ
きものもない本件においては、被告人の本件所為は、結局処罰の根拠法条を欠くも
のといわなければならない。」と判断して、有罪の第一審判決を破棄して無罪の言
渡をしたものである。
 ところで、所論引用の大阪高等裁判所昭和三八年(う)第七七〇号同年九月一二
日第四刑事部判決(大阪高等裁判所刑事判決速報昭和三八年四号五丁裏)は、一万
円日本銀行券の表面を細部にわたつて模倣した図形を印刷した印刷物で、その表面
図形の下部に横は紙幅一杯、縦は約二・八センチメートルの余白がありその部分に
広告文言が印刷されたものにつき、「その表面白地の部分を裏側に折り畳み或いは
切除するなどしてその模造部分のみを示すときは、これを瞥見する世人をして真実
の一万円日本銀行券之見誤らせるに十分なものと認められる。従つて本件一万円の
印刷物は通貨及証券模造取締法第一条にいわゆる銀行紙幣に「紛はしき外観を有す
るもの」に該当するものというべきである。」と判示し、また、大阪高等裁判所昭
和三九年(う)第一八六二号同四〇年二月二七日第一刑事部判決(大阪高等裁判所
刑事判決速報昭和四〇年三号一三頁)は、百円紙幣に紛わしい外観を有する図柄を
縦、横各二六・五センチメートルの紙の上方左の部分に配置した広告物につき、「
被告人は本件広告物より図柄甲の部分(右百円紙幣に紛わしい外観を有する図柄部
分)を切り離していないが、前記のように何ぴとも容易にこの部分を他の部分から
切り離し得べき状態において本件広告物を作出しているのであるから、本件広告物
の作出によつて百円紙幣に紛わしい外観を有するものを製造したものと解すること
ができる。」と判示しているのである。
 原判決と右大阪高裁の各判決とを対比すると、原判決が、印刷物の一部に紙幣に
紛わしい外観を有するものがあつたとしてもそれを他の部分と切り離さないかぎり
通貨及証券模造取締法一条、二条の製造罪は成立しないとしているのに対し、右大
阪高裁の各判決は、同種事案につき紛わしい外観を有する部分を他の部分と切り離
さなくても同法条の製造罪は成立しているというのであるから、両者は見解を異に
するものであり、したがつて、原判決は、右大阪高裁の各判決と相反する判断をし
たものといわなければならない(なお、所論引用の東京高等裁判所昭和三七年(う)
第一七三五号同三八年一月二一日第五刑事部判決(高等裁判所刑事判例集一六巻一
号一頁)及び大審院大正一二年(れ)第三六四号同年四月一二日第二刑事部判決(
大審院刑事判例集二巻四号三三二頁)は、いずれも事案を異にし本件に適切でない。)。
 思うに、通貨及証券模造取締法が通貨に紛わしい外観を有するものの製造すなわ
ち右法律にいわゆる模造を規制する目的は、このような通貨模造行為を放任すれば
通貨に対する社会の信用、経済取引の安全を害する危険があり、ひいては経済生活
一般を不安ならしめるおそれがあるためであると解されるところ、印刷物の一部に
通貨と紛わしい外観を有する部分があり、その部分が他の部分との切断により容易
に独立の存在となり得るものを製造することは、通貨と紛わしい外観を有する部分
が他の部分と切断されていると否とにかかわらず、すでにそれ自体通貨に対する社
会の信用、経済取引の安全を害する危険があるものというべきであるから、右法律
にいわゆる「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」の製造に当たるものと解するのが相当で
ある。
 この見地に立つて本件をみると、本件広告印刷物は、前記のようにその一部に日
本銀行発行の一万円紙幣と紛わしい外観を有する部分があり、この部分は他の部分
との切断というきわめて容易な作業により独立の存在となり得るものであるから、
これを製造する行為は、右法律にいわゆる「紛ハシキ外観ヲ有スルモノ」の製造に
当たるものと解される。
 そうすると、被告人の本件所為に対し罪責を問いえないとした原判決は、法令の
解釈適用を誤り、所論引用の前記各判例と相反する判断をしたものといわなければ
ならず、論旨は理由がある。
 よつて、刑訴法四〇五条三号、四一〇条一項本文、四一三条本文により、原判決
を破棄し、さらに審判させるため、本件を東京高等裁判所に差し戻すことにし、裁
判官全員一致の意見により、主文のとおり判決する。
 検察官 臼井滋夫 公判出席
  昭和四九年七月二二日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

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