弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人北村行夫の上告理由について
 原審の適法に確定したところによれば、事実関係は次のとおりである。
 1 遺言者である亡Dは、昭和六三年九月二八日、糖尿病、慢性腎不全、高血圧
症、両眼失明、難聴等の疾病に重症の腸閉塞、尿毒症等を併発してE総合病院に入
院し、同年一一月一三日死亡した者であるが、当初の重篤な病状がいったん回復し
て意識が清明になっていた同年一〇月二三日、被上告人に対し、被上告人に家財や
預金等を与える旨の遺言書を作成するよう指示した。
 2 被上告人は、かねてから面識のあるI弁護士に相談の上、担当医師らを証人
として民法九七六条所定のいわゆる危急時遺言による遺言書の作成手続を執ること
にし、また、同弁護士の助言により同弁護士の法律事務所のH弁護士を遺言執行者
とすることにし、翌日、その旨Fの承諾を得た上で、Fの担当医師であるG医師ら
三名に証人になることを依頼した。
 3 G医師らは、同月二五日、I弁護士から、同弁護士が被上告人から聴取した
内容を基に作成した遺言書の草案の交付を受け、Fの病室を訪ね、G医師において、
Fに対し、「遺言をなさるそうですね。」と問いかけ、Fの「はい。」との返答を
得た後、「読み上げますから、そのとおりであるかどうか聞いて下さい。」と述べ
て、右草案を一項目ずつゆっくり読み上げたところ、Fは、G医師の読み上げた内
容にその都度うなずきながら「はい。」と返答し、遺言執行者となる弁護士の氏名
が読み上げられた際には首をかしげる仕種をしたものの、同席していた被上告人か
らその説明を受け、「うん。」と答え、G医師から、「いいですか。」と問われて
「はい。」と答え、最後に、G医師から、「これで遺言書を作りますが、いいです
ね。」と確認され、「よくわかりました。よろしくお願いします。」と答えた。
 4 G医師らは、医師室に戻り、同医師において前記草案内容を清書して署名押
印し、他の医師二名も内容を確認してそれぞれ署名押印して、本件遺言書を作成し
た。
 【要旨】右事実関係の下においては、Fは、草案を読み上げた立会証人の一人で
あるG医師に対し、口頭で草案内容と同趣旨の遺言をする意思を表明し、遺言の趣
旨を口授したものというべきであり、本件遺言は民法九七六条一項所定の要件を満
たすものということができる。したがって、これと同旨の原審の判断は正当として
是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原
判決を非難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷
利廣)

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