弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人四方田保の上告趣意第一点について。
 しかし、証拠の取捨判断は原事実審の裁量に属するから、原審が所論聴取書を他
の証拠と綜合して判示事実を認定する資料に供したからといつて、違法であるとい
うことはできない。
 所論は原審が採用しなかつた証拠に基いて原審の証拠の取捨判断を非難するに帰
し適法な上告理由とならない。
 同第二点について。
 原判決挙示の証拠である検事のAに対する聴取書中の供述記載と同A提出米麦雑
穀類其の他粉砕加工に関する基本契約書(写)の記載とを対照してこれを読めば、
原判決は右契約書の第一条と七条だけを引用して、右聴取書中の供述記載を明らか
にし且つこれを補強したに過ぎないものであつて、該契約書の爾余の部分を証拠と
したものでないこと極めて明らかなところである。そして、裁判所が契約書中の条
項の一部だけを証拠として引用しても違法でないこと論を俟たない。
 されば所論契約書の写が所論附録一、二号と一体となつていると否とは、原判決
の認定に何等の影響を及さないことも明白である。しかのみならず、原判決が証拠
とした右Aの供述記載によれば、該契約は昭和二〇年一一月五日の農林省の許可に
基いて出来たものであるが、それ以前の委託加工契約においても、できた製品は全
量納付することになつていたということであるから、原判決が右証拠をその他の証
拠と綜合して判示第一の(一)の事実を認定したからといつて、所論の違法がある
とはいえない。それ故、所論は採用できない。
 同第三点について。
 しかし、原判決は、所論被告人の自白の外、被告人の原審公判廷における判示供
述並びに検事の藤沢義雄及びAに対する各聴取書中の供述記載を補強証拠としたも
のであつて、これらを綜合すれば、主観、客観に亘る判示全体の事実認定を肯認す
ることができるから、論旨は採用し難い。
 弁護人吉長正好の上告趣意第一点について。
 原判決は、判示第一(一)の昭和二一年一月末日頃から同年五月頃までの間の業
務上横領の犯罪行為を認定したのであるから、所論部分が削除されたからといつて、
原判決が証拠とした所論検事の被告人に対する供述記載の摘記部分を目してその趣
旨を歪曲又は変更したと認めることはできない。また、所論検事のAに対する聴取
書の供述記載に対する非難は、原審の裁量に属する証拠の取捨判断を非難するに帰
する。また、所論契約書写については四方田弁護人の上告趣意第二点に対し説明し
たとおりである。それ故、本論旨はこれを採用することができない。
 弁護人鍛治利一同吉長正好の上告趣意第一点について。
 記録によれば証人Bの原審公判廷の供述としては、昭和二二年九月下旬頃Cから
小麦粉三千九百六十瓩を買つたことがあるかとの裁判長の問に対し私の会社で買つ
たのであります旨の記載(記録三七二丁)があつて原判決がこれを昭和二二年九月
下句頃及び同年一〇月上旬頃の二回に買受けた旨の記載として摘録引用したことは
失当である。しかし、同証人は、原審公判廷で、右日時回数を除いた数量、代金額、
闇値であることを判つていたこと、その取引のため刑の宣告を受けた点等につき原
判決が引用したと同一趣旨の供述をしていることが記録上明白である。しかも、原
判決は、判示第二の犯罪事実をば右証人の供述の外被告人の原審公判廷における判
示同趣旨の供述と綜合して認定したばかりでなく、右犯罪を犯意継続に係る連続一
罪としたものであるから、右の失当は、原判決に影響を及ぼさないこと明白である。
それ故、本論旨も採用できない。
 同第二点について。
 記録によれば被告人は原審公判廷で所論指摘の供述をしているけれども、その外
被告人は裁判長から第一審判決摘示の第二事実(原判決第一の(二)事実)を読聞
けられたのに対しその通りの取引をした事に間違ひありませんが業務上横領にはな
らぬと思うと述べている(記録三四一丁裏)のであるから、原判決が被告人の原審
公判廷の右の肯定した供述の部分を採用したからといつて、所論の違法はなく論旨
は理由がない。
 同第三点について。
 原判示第一の(二)の事実認定はその挙示引用の証拠(特に検事のDに対する聴
取書)によれば充分肯認できるのであるから論旨は理由がない。
 同第四点について。
 所論の理由のないことは、吉長弁護人の上告趣意第一点について説明したところ
によつて了解すべきである。
 同第五点について。
 所論の理由のないことは前記弁護人四方田保の上告趣意第一、二点に対する説明
によつて了解すべきである。
 よつて刑訴施行法二条旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとお
り判決する。
 検察官 渡部善信関与
  昭和二七年一二月二五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
 裁判官 沢田竹治郎は退官につき署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎

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