弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人杉村章三郎、同平山直八の上告理由について
 論旨は、要するに、上告人が東京都北区の区長に在任中昭和三九年九月から同四
三年九月までの間に同区から管理職手当として支給を受けた合計二四五万円につき
不当利得の成立を認めた原判決には、地方自治法二〇四条、東京都北区長等の給料
等に関する条例(昭和三一年一二月一日東京都北区条例第一三号。ただし昭和四三
年九月三〇日同区条例第一九号による改正前のもの。以下「北区長等給料条例」と
いう。)及び東京都の職員の給与に関する条例(昭和二六年六月一四日東京都条例
第七五号。以下「都職員給与条例」という。)の解釈適用を誤り、かつ、審理を尽
くさなかつた違法がある、というのである。
 一 地方自治法二〇四条によれば、普通地方公共団体は、当該地方公共団体の長
その他同条一項所定の職員に対し、給料及び旅費のほか、条例の定めるところによ
り同条二項の諸手当を支給することができるものとされており、この規定は、同法
二八三条により特別区についても適用される。ところで、右諸手当のひとつである
管理職手当は、職制上管理又は監督の地位にある職員に対し、その職の特殊性に基
づいて支給される手当である(一般職の職員の給与に関する法律一〇条の二参照)。
右のような職の特殊性に基づく給付は、本来、給料の額において考慮されるべきも
のであるが、地方公務員法二五条により職員の給与に関する条例で定められる給料
表においては、管理又は監督の地位にある職員とそうでない職員とを含めて等級ご
とに給料の額が決定される関係上、その給料額だけでは管理又は監督の地位にある
職員に対してその職務と責任に応じた適正な給与を必ずしも確保することができな
いために、給料とは別に右職の特殊性に応じた額を手当として支給することによつ
て、給料を補充し、全体としての給与の調整を図ろうとするのが、右管理職手当の
趣旨であると解される。この趣旨に照らして考えれば、管理職手当の支給対象とし
ては、地方公務員法上前記給料表の適用を受ける一般職の職員がもともと予定され
ているものというべきであつて、同法四条により右給料表の適用を受けない特別職
に属する地方公共団体の長については、その管理又は監督の職にふさわしい一切の
給付を含めた額を給料として個別的に条例で決定するのが本則であり、一般職の職
員に対するように給料のほかに更に管理職手当を支給するというようなことは、給
与体系上異例であるといわざるをえない(国家公務員については、特別職及びいわ
ゆる指定職に属する職員につき、その俸給が管理職手当相当分を含めた額として決
定されるべきであるとの趣旨から、管理職手当に相当する特別調整額は支給されな
いこととなつている。特別職の職員の給与に関する法律二条及び一般職の職員の給
与に関する法律一九条の五参照。)しかし、そうであるとはいえ、地方公共団体の
長の給与をいかに定めるかについては、それぞれの地方公共団体の実情を無視しえ
ないものがあり、長も管理又は監督の地位にある職員である以上、当該地方公共団
体が、給料の額のみでは長の右地位に対する給付として不十分であると判断し、別
に管理職手当を支給する旨を条例で定めたとすれば、右手当相当額を給料に含めて
支給することとした場合と実質的に異なるところはなく、前記給与体系上の建前も
これを絶対に許さないとするほどの強い要請であるとは解されない。
 これを要するに、地方自治法二〇四条二項の規定の文言と右述の点を併せ考えれ
ば、地方公共団体の長に対する管理職手当の支給は、条例に根拠を有するかぎり、
これを直ちに違法無効とすることはできないというべきである。
 二 そこで、本件についてみるに、北区長等給料条例四条は、「区長等に対して
は、給料および旅費のほか法律に基き、一般職の職員について定められている諸手
当を支給し、その額は、東京都有給吏員の例による。」と規定し、また、東京都北
区職員条例(昭和三二年一月七日東京都北区条例第一号)三条により北区の一般職
の職員の給与について準用される都職員給与条例九条の二は、管理又は監督の地位
にある職員のうち特に指定する者に対して管理職手当に相当する特別調整額を支給
することができる旨を規定している。これらによれば、北区長等給料条例四条にい
う「一般職の職員について定められている諸手当」のうちには管理職手当も含まれ
ているものと一応いうことができるが、その額については、同条例に直接具体的な
規定はなく、単に「その額は、東京都有給吏員の例による。」とされているにとど
まるので、これによつて右手当の額を確定することができるかどうかを以下に検討
する。
 同条例四条にいう「東京都有給吏員の例による。」とは、東京都の有給の一般職
の職員について適用される規定を包括的に準用する意味と解すべきところ、東京都
の一般職の職員の給与について定めた都職員給与条例九条の二は、管理又は監督の
地位にある職員のうち特に指定された者に対して特別調整額の支給を認めるととも
に、同条例九条の二第二項、九条二項は、その額につき給料月額の一〇〇分の二五
を超えない範囲内において任命権者が人事委員会の承認を得て定めるものとし、こ
れに基づき東京都知事の定めた給料の特別調整額に関する規程(昭和三二年四月一
日東京都知事訓令甲第一〇号)二条及びその別表第一において、右特別調整額の支
給を受ける者を東京都本庁の局長等相当職以下課長等相当職までの職員とし、その
給料月額に対する支給割合を、局長等相当職が一〇〇分の二五、部長等相当職が一
〇〇分の二〇以上一〇〇分の二五以内、課長等相当職が一〇〇分の一五以上一〇〇
分の二〇以内と三段階に分けて規定している。このように東京都においては職によ
つて特別調整額の支給割合に差等が設けられている以上、これを特別区の区長に準
用するについては、右職のいずれが区長の職に相当するものであるかを確定しえな
ければならないが、区長の職の特別な地位にかんがみれば、関係条例等に格別の定
めのないかぎり、これを確定することは法律上不可能であるというほかはない。所
論は、東京都の部長の上位職が局長であり、区長は、東京都の部長と同格の特別区
の部長の上位職であるから、少なくとも東京都の局長と同格であるとし、したがつ
て、区長の管理職手当の額は、東京都の局長のそれと同じく給料月額の一〇〇分の
二五となると主張するが、区議会はよつて選任され(ただし昭和四九年法律第七一
号による地方自治法の改正まで)、独立の地方公共団体たる特別区を統轄・代表す
る区長の職について、所論のような比較の仕方により他の地方公共団体の一般職の
職員の職との対応関係を論ずることは、とうてい根拠のあるものとはいいがたい。
特別区は、地方自治法上、東京都という市の性格を併有した地方公共団体の一部を
形成し、一定の限度において東京都からの統制を受けることとなつているが、それ
は、都市行政上の特殊な要請から特別区の自治権に制約を加えただけであつて、特
別区を東京都の行政区画とし、区長を東京都知事の単なる補助機関としたものでは
ないことは、いうまでもない。したがつて、右の所論は失当であり、都職員給与条
例等の規定を区長の管理職手当の額の確定について準用する余地はない。
 所論は、また、かりに右の準用ができないとしても、北区長等給料条例四条にい
う「東京都有給吏員」のうちには東京都の副知事を含むから、東京都知事等の給料
等に関する条例(昭和二三年九月二二日東京都条例第一〇二号)に基づく同条例施
行規則(昭和三二年一〇月一日東京都規則第一一二号)二条二項所定の副知事の特
別調整額に関する規定を区長に準用すべきであると主張する。しかし、地方自治法
の「吏員」なる用語は、一般職の地方公務員で長の補助機関たる職員を指すものと
して用いられており、北区長等給料条例が地方自治法に基づくものであることから
考えれば、同条例にいう「東京都有給吏員」のうちに特別職に属する副知事を含む
と解することは困難であり、同条例三条二項及びその別表第二が区長の旅費に関し
副知事相当額を支給する旨を定めていることは、右の解釈を左右するものではない。
 三 以上によれば、北区長等給料条例の準用する東京都有給吏員の例をもつてし
ては、区長に支給する管理職手当の額を確定することはできないというほかなく、
他にこれを確定しうる具体的な定めは同条例にないから、結局、同条例によつて区
長に管理職手当を支給することは許されない。したがつて、上告人が支給を受けた
本件管理職手当につき法律上の原因を欠くものとして不当利得の成立を認めた原判
決の結論は、正当というべきであり、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    団   藤   重   光

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