弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1本件訴えのうち,杉並区議会議員補欠選挙に係る裁決の取
消しを求める訴え及び同選挙を無効とすることを求める訴
えをいずれも却下する。
2原告らのその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1原告らがした平成22年7月11日執行の杉並区長選挙及び同区議会議員
補欠選挙に係る選挙の効力に関する審査の申立てについて,被告が同年10
月27日付けでした申立てを棄却する旨の裁決(○選選第○号)を取り消す。
2平成22年7月11日執行の杉並区長選挙及び同区議会議員補欠選挙を無
効とする。
第2事案の概要
本件は,東京都杉並区内に住所を有する原告らが,平成22年7月11日
執行の杉並区長選挙(以下「区長選」という。)及び杉並区議会議員補欠選
挙(以下「区議補選」といい,区長選と併せて「本件選挙」という。)の手続が
選挙の規定に違反しており,その違反が選挙の結果に異動を及ぼす虞がある
として,杉並区選挙管理委員会(以下「区選管」という。)に選挙の効力に
関する異議申出をしたところ,区選管が異議申出を棄却し,さらに,原告ら
が,同棄却決定を不服として,東京都選挙管理委員会(被告)に,本件選挙
の効力に関する審査申立てを行ったところ,同選挙管理委員会が審査申立て
を棄却する裁決をしたことから,原告らが,同裁決の取消しを求めるととも
に,本件選挙を無効とすることを求めた事案である。
1前提事実(争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認め
られる事実)
(1)平成22年7月11日,杉並区において,本件選挙と参議院の選挙区
選出議員選挙(以下「選挙区選挙」という。)及び比例代表選出議員選挙
(以下「比例代表選挙」といい,選挙区選挙と併せて「本件参院選」とい
う。)が執行された。
(2)ア区長選の候補者は5名であり,全投票数は25万8494票,当選
者の得票数は10万2990票,次点者の得票数は8万4498票で
あった。また,無効票は2万4947票(全投票数に占める割合9.
65%),このうち,白紙投票は1万6025票(同6.20%),
候補者でない者又は候補者となることができない者の氏名を記載した
もの(以下「候補者でない者等への投票」という。)は5442票
(同2.11%)であった。
イ区議補選の候補者は8名,当選者は2名であり,全投票数は25万8
455票,第2位当選者の得票数は3万7835票,次点者の得票数
は3万3024票であった。また,無効票は2万3823票(全投票
数に占める割合9.22%),このうち,白紙投票は1万5067票
(同5.83%),候補者でない者等への投票は4218票(同1.
63%)であった。
ウ杉並区内における選挙区選挙の全投票数26万7937票のうち,無
効票は1万0791票(全投票数に占める割合4.03%),このう
ち,白紙投票は3821票(同1.43%),候補者でない者等への
投票は4632票(同1.73%)であった。
杉並区内における比例代表選挙の全投票数26万7933票のうち,
無効票は2万0210票(全投票数に占める割合7.54%),この
うち,白紙投票は4423票(同1.65%),参議院名簿登載者で
ない者,公職の候補者となることができない参議院名簿登載者の氏名
を記載したもの又は参議院名簿届出政党等以外の政党その他の政治団
体の名称若しくは略称を記載したもの(以下「名簿登載者でない者等
への投票」という。)は1万4507票(同5.41%)であった。
(3)ア本件選挙の期日前投票の期間は平成22年7月5日から同月10日
までとされ,本件参院選のそれは同年6月25日から同年7月10日
までとされた。
イ区長選の期日前投票は4万8980票(全投票数に占める割合18.
95%),区議補選の期日前投票は4万8978票(同18.95
%),杉並区内における選挙区選挙の期日前投票は5万6424票
(同21.06%),杉並区内における比例代表選挙の期日前投票は
5万6420票(同21.06%)であった(甲16)。
(4)杉並区内に住所を有する原告らは,平成22年7月26日,区選管に
対し,本件選挙の効力に関する異議申出をしたところ,区選管は,同年8
月25日,原告らの異議申出を棄却する旨の決定をした。
(5)原告らは,上記(4)の決定を不服として,平成22年9月2日,東京都
選挙管理委員会(被告)に対し,本件選挙の効力に関する審査申立てをし
たところ,同選挙管理委員会は,同年10月27日,原告らの審査申立て
を棄却する裁決をした。
(6)原告らは,上記(5)の裁決を不服として,平成22年11月25日,本
件訴えを提起した。
(7)区議補選で選出された杉並区議会議員の任期は平成23年4月30日
までである。
2本件の争点とこれに関する当事者の主張
(1)本件の争点は,本件選挙の手続が選挙の規定に違反しているか,その
違反が選挙の結果に異動を及ぼす虞があるかという点にある。これらの点
に関する当事者の主張は以下のとおりである。
(2)本件選挙の手続が選挙の規定に違反しているか
(原告らの主張)
ア本件選挙は本件参院選と同日に執行され,一箇所で4枚の投票用紙を
使用して投票を行うことになるため,選挙人が投票用紙を取り違えて
別の選挙の候補者名を記載してしまう虞が大きい。こうした取違え投
票を避けるために,区選管は事前に十分な検討を加えて管理執行体制
を調える必要があった。具体的には,取違え投票を防ぐため,選挙人
には1回に投票用紙1枚のみを交付し,その投票が終わってから,次
の投票用紙を交付するという手順を採るべきであった。しかし,実際
には,区長選と区議補選の2枚の投票用紙が同時に交付され,1台の
投票記載台で2つの投票用紙に記載しなければならず,その際,適切
な注意喚起も行われなかったため,選挙人を著しく混乱させ,多数の
取違え投票や白紙投票を招いた。
イ投票所での円滑な投票が行えるよう,投票所には選挙人の数に応じた
投票記載台を設置する必要があるが,杉並区内の各投票所には,管内
の選挙人の数にかかわらず一律に同数の投票記載台が設置された。こ
のため投票所によっては投票待ちの長い列ができ,白紙投票や取違え
投票の発生を誘発し,投票を断念した者も生じた。
なお,被告は,投票記載台の増設を実施した投票所があると主張する
が,管内の選挙人の多寡に応じた増設をしておらず,適切な対応をし
たとはいえない。
ウ本件選挙に際し,選挙人には本件参院選と併せて1通の「投票のお知
らせ」(投票所入場券。以下「入場券」という。)が送付されており,
平成22年6月25日から7月4日までの間に本件参院選の期日前投
票をした選挙人からは,本件選挙の投票を行っていないにもかかわら
ず,入場券が回収された。このため,上記期間中に期日前投票をした
者の中には,本件選挙の投票の方法が分からず,選挙権行使の機会を
失った者も少なくないと考えられる。
エ上記の各事実は,いずれも選挙の公正を著しく阻害するものであり,
これらが重なった結果,本件選挙においては過去に例をみない多数の
無効票が生じ,また,多数の投票断念者を生じさせたものである。よ
って,本件選挙は選挙の規定に違反したものである。
(被告の主張)
ア区選管では,投票所の構造・設備等の物理的理由により,本件選挙と
本件参院選の合計4枚の投票用紙を選挙人に個別に交付する方法を採
ることが困難であったことから,各選挙の投票用紙を色分けするとと
もに,各選挙の掲示物をこれと同じ色のものとし,注意喚起のポスタ
ーを掲示し,選挙ごとに投票用紙を交付する従事者を配置するなどの
方策を立てた上,投票用紙の交付場所を2箇所に設け,それぞれで本
件参院選の投票用紙2枚と本件選挙の投票用紙2枚を交付する方法を
採用した。また,各投票所責任者に対しては説明会を開催し資料に基
づいて注意事項を周知させた。
イ杉並区内の投票所に設置した投票記載台の台数は各投票所一律ではな
く,4箇所の投票所ではあらかじめ他の投票所の設置台数(2人用投
票記載台4台を2組設置)よりも増設して対応した。また,8箇所の
投票所では選挙当日に投票記載台を増設した。
ウ区選管では,本件選挙と本件参院選の期日前投票期間が異なることに
ついて,広報誌に掲載したり,入場券,入場券送付用の封筒及び同封
のチラシに記載したり,期日前投票所出入口に掲示したりするなどし
て周知させている。また,平成22年6月25日から同年7月4日ま
での間,期日前投票所において「7月5日以降に本件選挙の期日前投
票をする場合,期日前投票所備え置きの「請求書」に記入することで
投票が可能である」旨の表示をし,かつ,その間本件参院選の期日前
投票をした選挙人一人一人に対し,係員から同じ内容を説明している。
エ以上の区選管が講じた措置に照らせば,本件選挙の手続は適正に行わ
れていたというべきである。
(3)上記(2)の事実が選挙の結果に異動を及ぼす虞があるか
(原告らの主張)
ア区議補選における第2位当選者と次点者との得票数の差は4811票
であるのに対し,区長選における取違え投票の数は5442票であり,
これらの投票が区議補選の次点者に投票されたと仮定すると当落は入
れ替わるのであるから,選挙の結果に異動を及ぼす虞がある。取違え
投票のほか,白紙投票も本来であれば有効に投票された票であるから,
白紙投票も考慮すると当落が入れ替わる可能性は更に高まることにな
る。
イ区長選における当選者と次点者との得票数の差は1万8492票であ
るのに対し,区議補選における取違え投票の数は4218票であり,
これと区長選における白紙投票1万6025票との合計2万0243
票が区長選の次点者に投票されたと仮定すると当落は入れ替わるので
あるから,選挙の結果に異動を及ぼす虞がある。
(被告の主張)
ア区議補選の候補者は8名であるところ,最下位当選者の得票数は3万
7835票,次点者の得票数は3万3024票,最少得票者の得票数
は1万3665票である。このような得票数の分布に鑑みれば,区長
選における候補者でない者等への投票5442票全てが区議補選の次
点者へ投票されたものと仮定することは合理的でなく,選挙の結果に
異動を及ぼす虞があるとはいえない。
イ区長選については,たとえ区議補選における候補者でない者等への投
票4218票全てが区長選の次点者へ投票されたものと仮定しても順
位の変動はないのであるから,選挙の結果に異動を及ぼす虞があると
はいえない。
第3争点に対する判断
1「選挙の規定に違反することがあるとき」の意味と本件における争点
公職選挙法205条1項は,「選挙の規定に違反することがあるとき」
で,「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」に限り,選挙の全部又は
一部を無効とすべきものと定めている。ここでいう「選挙の規定に違反す
ることがあるとき」とは,選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手
続に関する明文の規定に違反することがあるとき,又は直接そのような明
文の規定は存在しないが,選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が
著しく阻害されるときのいずれかを指すものと解される(最高裁判所昭和
27年12月4日第一小法廷判決・民集6巻11号1103頁,同裁判所
昭和51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号838頁参照)。
本件選挙においては,区選管が選挙の管理執行の手続に関する明文の規
定に違反することがあったと認めるに足りる証拠はなく,原告らもその旨
の主張はしていないから,選挙の基本理念である自由公正の原則が著しく
阻害されるときに当たるか否かが専ら問題となる。そこで,このような評
価の基礎となる本件選挙の執行状況に係る事実についてみることにする。
2認定事実
証拠(甲3,19,乙3から5まで,検証の結果),弁論の全趣旨によれ
ば,以下の事実が認められる。
(1)投票方法の決定とその実施状況
ア区選管は,平成22年5月26日,杉並区議会議長から杉並区長が退
職の申出をした旨通知を受けた。公職選挙法34条1項及び4項5号
の規定によれば,上記通知から50日以内(同年7月15日まで)に
選挙を執行しなければならず,同法113条3項の規定によれば,区
長の選挙時に区議会議員の欠員がある場合は同時にその補欠選挙を行
わなければならないことから,区選管は,区長選と区議補選を同日に
執行することとした。選挙期日の決定に当たっては,一定の準備期間
を確保する必要から,日曜日である同年7月4日及び同月11日が候
補日として検討されたが,同月11日には本件参院選の執行が見込ま
れており,同月4日はその選挙運動期間中となるため,同月4日に本
件選挙を執行すると,選挙人の混乱や管理執行上の問題が想定される
として,本件選挙を同月11日に本件参院選と併せて執行することと
した。
イ杉並区内には66箇所の投票所があり,選挙を実施する際の投票記載
台は2人分を4個組み合わせた8人分を1組として使用していたとこ
ろ,小中学校等の体育館を使用する投票所以外の投票所18箇所につ
いては,設置場所の関係で上記投票記載台を4組設けることが困難な
状況にあった。区選管では,設置場所に余裕のある投票所に限って,
上記投票記載台を4組設けた上,投票用紙を1回に1枚のみ交付し,
その記載・投票を終えた者に次の選挙の投票用紙1枚を交付し,順次
これを繰り返す方法を実施することが検討されたが,投票所によって
投票方法が異なるのは公平性に問題があるとして採用されるに至らず,
結局,全ての投票所に上記投票記載台を2組設け,投票用紙の交付場
所を2箇所に分けた上,まず,本件参院選の投票用紙2枚を交付し,
本件参院選用の投票記載台上で投票用紙への記載を行わせ,その投票
を終えた者に対して,本件選挙の投票用紙2枚を交付し,本件選挙用
の投票記載台上で投票用紙への記載を行わせ,その投票を行わせると
いう手順を採ることにした。こうした投票方法によった場合,過誤の
発生も予想されることから,区選管では,投票用紙を交付する従事者
を4つの選挙それぞれに配置し,選挙人に対する案内・説明等を行う
こと,投票用紙を各選挙ごとに色分けし,選挙の掲示物も投票用紙と
同一の色を用いること,投票所内に注意書きのポスターを掲示するこ
と等の方策を講ずることにした。
ウ本件参院選と本件選挙の各投票用紙には,それぞれ右側に選挙名(区
長選は「杉並区長選挙投票」,区議補選は「杉並区議会議員補欠選挙
投票」)が記載されており,選挙区選挙については薄い黄色,比例代
表選挙については白色,区長選についてはうぐいす色,区議補選につ
いてはピンク色の用紙が用いられた。区長選の投票用紙を交付する際
には,自動交付機から選挙名がアナウンスされ,区議補選の投票用紙
を交付する際には,従事者から選挙名の説明が行われるものとされた。
また,選挙候補者氏名等掲示票には上記各投票用紙と同じ色の用紙を
用いて,これをプラスチック製のパスケースに入れ,区長選及び区議
補選に係るものについては本件選挙用の投票記載台に,選挙区選挙及
び比例代表選挙に係るものについては本件参院選用の投票記載台に,
それぞれ備え置き,さらに,投票箱には上記各投票用紙と同じ色の用
紙を用いたビラを貼付して選挙名を表示した。
エ期日前投票の期間は前記前提事実(第2の1)(3)アのとおり定めら
れたが,平成22年6月25日から同年7月4日までの間は,本件参
院選の期日前投票のみが行われたため,この間,期日前投票所には,
期日前投票をした者は期日前投票所備え置きの請求書に記入すること
によって同年7月5日以降に本件選挙の期日前投票ができる旨を記載
した貼り紙が掲示された。また,上記期間中に本件参院選の期日前投
票をした選挙人一人一人に対し,期日前投票所の係員から本件選挙に
ついて期日前投票ができるのは同年7月5日以降である旨を説明した。
オ投票記載台については,前記イのとおり,各投票所に8人分のものを
本件選挙用と本件参院選用に各1組設置したが,4箇所の投票所では,
あらかじめ2人用の投票記載台合計13台を増設しており,このうち
本件選挙用に使用されたものは5台であった。また,選挙当日,投票
所によっては選挙人の待ち時間が30分を超えているという報告を受
けて,区選管は,昼頃に8箇所の投票所に2人用投票記載台合計15
台,3人用投票記載台1台の増設を行った。選挙当日に増設されたこ
れらの投票記載台は,主に本件参院選用に使用されたが,投票所の判
断で本件選挙用に使用されたものもあった。
(2)過去の選挙等における無効票の発生状況
ア杉並区長選挙及び同区議会議員選挙は,昭和58年4月24日以降,
本件選挙を除いて平成19年4月22日までに各7回執行されている
が,この間,杉並区長選挙における無効票の割合は,5.55%,5.
54%,5.31%,8.83%,4.51%,2.78%,2.9
6%と推移しており,このうち白紙投票は最も多いときで9255票
(平成7年4月23日執行選挙),最も少ないときで2876票(平
成15年4月27日執行選挙),候補者等でない者への投票は最も多
いときで1253票(昭和58年4月24日執行選挙),最も少ない
ときで381票(平成19年4月22日執行選挙)であった。また,
同区議会議員選挙における無効票の割合は,1.52%,1.74%,
1.67%,2.28%,2.64%,3.97%,3.33%と推
移しており,このうち白紙投票は最も多いときで4380票(平成1
5年4月27日執行選挙),最も少ないときで1078票(昭和58
年4月24日執行選挙),候補者等でない者への投票は最も多いとき
で1035票(昭和58年4月24日執行選挙),最も少ないときで
506票(平成19年4月22日執行選挙)であった。
イ本件参院選の比例代表選挙の無効票の割合は,全国で2.98%,東
京都で2.63%であった。
3投票用紙2枚を同時に交付したことの適否について
(1)選挙制度に関する法令の定めや日程の都合から,複数の選挙を同日に
執行する場合において,複数の投票用紙を交付した上,複数の選挙に係る
候補者名の記載や投票箱への投函を一度に行わせることにすると,投票用
紙や投票箱を取り違えたり,他の選挙の候補者名を誤って記載したりする
などの過誤が起こりやすいことは否定できないから,選挙人には,まず一
つの選挙に係る投票用紙のみを交付し,その選挙の候補者名の記載と投票
箱への投函を終えた後に,次の選挙に係る投票用紙を交付するという手順
で進めていくのが望ましいといえる。
このことは,昭和21年12月25日付け内務省地方局長通牒が,同時
選挙を実施する投票所の設備に関し,候補者の氏名の混記を防ぐため,施
設の許す限り,一の選挙の投票用紙を入れさせた後,他の選挙の投票用紙
を交付するように,投票所内の施設を格別にすることを求めていること
(甲4)や,平成17年8月18日付け,平成19年5月23日付け及び
平成22年5月13日付けの各総務省自治行政局選挙部管理課長通知が,
参議院議員選挙の選挙区選挙と比例代表選挙,衆議院議員選挙の小選挙区
選挙と比例代表選挙について,それぞれの間で投票用紙の交付に誤りのな
いよう別々に交付するなど適切な措置を講じるよう求めていること(甲2
2から24まで)からも,裏付けられているということができる。
(2)もっとも,上記通牒が施設の制約について言及していること,上記各
通知でも投票用紙の個別交付は適切な措置の一つとして例示されているに
すぎないことからも明らかなとおり,投票所に物理的・場所的な制約等が
ある場合には,選挙人の過誤防止のために必要な措置を講じた上で,複数
の投票用紙を同時に交付し,一括して候補者名の記載と投票箱への投函を
行わせることも許容されているとみるべきであり,2枚の投票用紙を同時
に交付したとの一事から選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときに
当たると結論づけるのは相当でない。
本件選挙においては,区長選と区議補選の投票用紙2枚を同時に交付し
(区長選の投票用紙は自動交付機から,区議補選の投票用紙は従事者から
順次,各別に交付された。),候補者名の記載と投票箱への投函を二つの
選挙について一括して行うという方法を採っているが,一部投票所の投票
記載台の設置場所に制約があったことから,上記のような投票方法を採用
したというのであり,投票用紙,候補者名の掲示物,投票箱の表示には,
各選挙名が明記された上,それぞれ4色に色分けして各選挙ごとにその色
を統一し,選挙ごとに投票用紙を交付する従事者を配置して選挙名を告知
するなどしていること(前記2(1)イ,ウ)からすると,通常の注意を払
って投票を行えば,投票表紙や投票箱の取違え,他の選挙の候補者の誤記
入は回避できるものと考えられ,少なくとも区選管がそのように判断した
ことには合理的な根拠があるといえるから,区選管は過誤防止のために必
要な措置を講じていたとみることができる(原告らは投票所の照明の具合
等から投票用紙の色による識別が困難であったと主張し,これに沿う証拠
(甲45)もあるが,検証の結果によれば,少なくとも同時に交付された
2枚の投票用紙(選挙区選挙用と比例代表選挙用,区長選用と区議補選
用)同士の識別が困難であったとは認め難い。)。
なるほど,本件選挙の無効票の各割合(前記前提事実(2)ア,イ)は過
去の杉並区長選挙,杉並区議会議員選挙のそれ(前記2(2)ア)を相当程
度上回っていること,本件選挙と同様の投票方法が採られた杉並区内にお
ける本件参院選の比例代表選挙の無効票の割合(前記前提事実(2)ウ)が
東京都及び全国の比例代表選挙のそれ(前記2(2)イ)を相当程度上回っ
ていることに照らすと,2枚の投票用紙を同時に交付する投票方法を採っ
たことが,本件選挙における無効票,とりわけ,候補者でない者等への投
票の発生の原因の一つとなったことは否定できない。
しかし,無効票が生ずる原因は投票方法の異同のみに求められるもので
はなく,執行する選挙の種類・性格,候補者・選挙人の属性や当該選挙へ
の一般の関心・投票率等,様々な要素もその原因になり得るものと考えら
れる。2枚の投票用紙を同時に交付したことが原因となって生ずる過誤と
しては,投票用紙を取り違えることや,他選挙の候補者を誤って記載する
ことが最も懸念されるが,本件選挙,杉並区内における本件参院選の各無
効票の内訳をみても,区長選,区議補選及び選挙区選挙における候補者で
ない者等への投票の各割合に大きな差は認められないのに対し,比例代表
選挙における名簿登載者でない者等への投票の割合はこれらを大きく上回
っており(前記前提事実(2)),投票方法以外の要素も無効票,候補者で
ない者等への投票(名簿登載者でない者等への投票)の発生に影響を与え
ているものと考えられる。また,過去の杉並区長選では無効票の割合が8.
83%と本件選挙のそれと大差のない割合に達したこと(平成7年4月2
3日執行分)もある(前記2(2)ア)。さらに,本件選挙は,本件参院選
と同日に施行されたこともあり投票率が前回選挙に比し大幅に上昇した
(区長選については約15%の増加。甲7,42)ものの,白紙投票の割
合は,本件選挙のそれ(区長選6.19%,区議補選5.83%)が,本
件参院選のそれ(選挙区選挙1.43%,比例代表選挙1.65パーセン
ト)を大きく上回っていることに照らすと,本件参院選と本件選挙に対す
る選挙人の関心の違いが本件選挙における白紙投票の増加に結び付いた可
能性も高い。
このようにみてくると,過去の選挙における無効票や候補者でない者等
への投票の各割合との比較のみから,本件選挙の投票方法の適否を論じる
のは相当でないというべきである。
(3)原告らは,2枚の投票用紙を同時に交付したことが不公正であったこ
とを基礎付ける事情として,投票所の従事者が投票用紙の色と選挙の対応
関係について口頭での説明をしなかったこと,大津市では,杉並区同様,
平成22年7月11日に本件参院選と県知事選挙及び県議会議員補欠選挙
の4選挙が執行されたが,1投票所に設ける1選挙用の投票記載台の数を
減らすことで投票用紙の個別交付を実現しており,結果として無効票の割
合は全国の平均レベルに収まっていること,区選管も,今後の方針として,
4選挙を同日に執行する場合には,1選挙用の投票記載台の数を減らし,
投票用紙の個別交付を行うことを表明していることを指摘している。
しかし,投票用紙等を色分けし選挙ごとに統一した色を用いるなどの方
法によって,必要な過誤防止の措置を講じていたと評価できることは上記
(2)でみたとおりであり,投票用紙の色と選挙の対応関係について口頭で
の説明がなかったことから投票方法が不公正であったとまではいえない。
また,大津市で4枚の投票用紙を個別に交付していたことについては,本
件選挙でもそうした方法を採ることが不可能であったとはいえないにせよ,
過誤防止の措置を講じた上で複数の投票用紙を同時に交付したときに実際
に無効票がどの程度生じるかは予測が困難なところがあること,区選管が
今後の方針として投票用紙の個別交付を実施するとしていることについて
も,無効票が相当数生じた本件選挙の結果を踏まえて,過誤の発生原因を
より縮小するという観点から更なる是正措置を講ずるものとみることがで
きることからすると,原告ら主張の事情から本件選挙における投票方法の
選択やその執行状況が不公正なものであったとすることはできないという
べきである。
4原告らのその余の主張について
ア原告らは,本件選挙の手続が不公正であった点として,設置した投票記
載台の数が不十分であったことを指摘している。確かに,投票するまでの
待ち時間が長くなれば投票を断念する者が生じる可能性があるから,待ち
時間を可能な限り少なくして円滑な投票が行えるよう,投票所には管内の
選挙人の数に応じた必要な数の投票記載台を設置することが要請されてい
るといえる。そして,本件選挙においては,投票所・時間帯によって待ち
時間が30分以上に達した場合があった(前記2(1)オ)というのである
から,各投票所に設置された投票記載台の数が必ずしも十分なものではな
かったとみる余地もある。
しかし,投票記載台の不足や待ち時間が長かったことが無効票や投票を
断念する者の発生・増加にどの程度の影響を与えたかは明らかではなく,
また,投票記載台の設置台数は投票所の物理的・場所的な制約を受けるこ
と,事前及び選挙当日に行う投票記載台の増設についても,上記制約を踏
まえつつ実際に生じた待ち時間の状況に応じて柔軟に実施すべきものであ
ることからすると,上記のように待ち時間が生じたことや投票記載台の設
置台数及び増設の状況(前記2(1)イ,オ)から手続に不公正なところが
あったとみることはできない。
イ原告らは,平成22年6月25日から同年7月4日までの間に本件参院
選の期日前投票を行った者に対し,その後本件選挙の期日前投票を行う方
法の告知が行われていないとして,期日前投票の方法も不公正であったと
主張している。
しかし,区選管は,広報誌に掲載したり,選挙人に送付する入場券等に
記載したりするなどして,本件選挙と本件参院選とで期日前投票の期間が
異なることを周知させるための措置を講じた上,上記期間中,各期日前投
票所において,備え置きの請求書に記入すれば,後日本件選挙について期
日前投票ができる旨を掲示し,係員から同年7月5日以降本件選挙の期日
前投票が行える旨が説明されていた(前記2(1)エ)というのであるから,
期日前投票の方法にも不備があったとは認め難い。
確かに,期日前投票の数・全投票数に占める割合を比較すると,本件選
挙が本件参院選をいずれも下回っている事実が認められる(前記前提事実
(3)イ)が,期日前投票を行う者の数がどれだけに達するかも,無効票が
生ずる原因についてみたところ(前記3(2))と同様,様々な要素が作用
するものと考えられ,本件参院選についてのみ期日前投票が可能である期
間に,それを認識して投票をした者の大多数は,本件選挙についても期日
前投票が可能である期間には投票ができないか,その意思がなかったもの
と考えられるし,期日前投票の期間自体,本件選挙の方が短く設定されて
いたのであるから,期日前投票の数・全投票数に占める割合が本件参院選
のそれをある程度下回ったとしても,やむを得ない結果とみるべきであっ
て,その方法に不備があったことに起因するものと認めることはできない
(選挙の種類ごとに定められた公職選挙法の公示の時期に関する定め(同
法32条3項,33条5項,34条6項,266条1項)に鑑みれば,本
件選挙の期日前投票の期間自体が不相当に短いものとはいえず,本件参院
選の期日前投票の期間よりも短く設定したことを不相当な措置とみること
もできない。)。
この点について,原告らは,前記3(3)のとおり,平成22年7月1日
に本件参院選と県知事選挙・県議会議員補欠選挙が執行された大津市では,
本件参院選の期日前投票をした者から入場券を回収することはせず,投票
済みを示すスタンプを押すことで再度期日前投票を行う者の便宜を図って
いたこと,平成23年4月9日に執行された東京都知事選挙及び同議会議
員補欠選挙では,先に開始される東京都知事選挙の期日前投票を行った場
合でも,入場券を選挙人に返還する方式を採るものとしていることを指摘
し,こうした方法を採らなかった期日前投票の手続は不公正なものであっ
たとも主張する。
本件選挙で採られた方法によると,請求書を記載しない者が一定数生じ
ることは避けられないところであり,入場券を回収せず選挙人の手元に残
す方法を採った方が後日期日前投票期間が始まる選挙に係る期日前投票の
促進に寄与する面があるといえる。とはいえ,既にみたとおり,本件選挙
において,平成22年6月25日から同年7月4日までの間に本件参院選
の期日前投票を行った者への情報提供に不備があったとはいえず,その方
法に特段煩瑣なところがあったともいい難いから,本件選挙の期日前選挙
の方法が不公正なものであったとまではいえない。
5無効事由の有無と区議補選に係る訴えの適否について
ア以上判断したところによれば,区選管は,本件選挙において多数の無効
票が生じた事実を踏まえて,今後の選挙のより合理的な施行・運営に努め
るべきであるが,本件選挙に選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則
が著しく阻害されるときに当たるとまでいうべき事情は見当たらないから,
その余の点について判断するまでもなく,本件選挙を無効とする理由はな
いし,原告らの審査申立てを棄却した被告の裁決も適法というべきである。
イところで,区議補選によって選出された杉並区議会議員の任期は平成2
3年4月30日までであって(前記前提事実(7)),本件判決言渡日であ
る同年5月18日にはその任期が終了しており,そのことを前提にして同
区議会議員選挙が同年4月24日に執行された事実は当裁判所に顕著であ
る。そうすると,たとえ区議補選が無効とされても,再選挙を実施した場
合に選出された議員の任期が残されていないことになるから,区議補選に
係る選挙の効力を争う訴えは,本件判決言渡しの時点では訴えの利益が失
われた不適法なものというべきである。
第4結論
よって,本件訴えのうち,区議補選に係る選挙の効力に関する審査の申立
てを棄却する旨の裁決の取消しを求める訴え及び同選挙を無効とすることを
求める訴えはいずれも不適法であるから却下し,その余の訴えに係る請求は
いずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第23民事部
裁判長裁判官鈴木健太
裁判官小宮山茂樹
裁判官吉田徹

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