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平成25年6月25日判決言渡東京簡易裁判所
平成24年(ハ)第9363号(本訴),同年(ハ)第33958号(反訴)各損害賠
償請求事件
口頭弁論終結日平成25年5月28日
判決
主文
1被告らは,原告に対し,連帯して,53万3508円及びこれに対する平成
23年6月16日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払
え。
2原告のその余の請求及び反訴原告の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを6分し,その1を原告の,その余を被
告らの,各負担とする。
事実及び理由
第1請求
(本訴)
被告らは,原告に対し,連帯して,77万2733円及びこれに対する平
成23年6月16日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支
払え。
(反訴)
反訴被告(原告)は,反訴原告(被告)株式会社Aに対し,64万482
4円及びこれに対する平成23年6月16日から支払済みまで年5パーセン
トの割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
本訴は,後掲交通事故(以下「本件事故」という。)により車両が損壊し
た原告(反訴被告)(以下,単に「原告」という。)が,被告B(以下,「被
告B」という。)に対しては,民法709条に基づき,被告株式会社A(以
下,反訴原告としての立場を含めて「被告会社」という。)に対しては使用
者責任に基づき,それぞれ損害賠償を請求した事案である。
反訴は,本件事故により車両が損壊した被告会社が,原告所有車両の運転
手の使用者である原告に対し,使用者責任に基づき,損害賠償を請求した事
案である。
1次の交通事故が発生した(当事者間に争いがない。)。
(1)日時平成23年6月16日午前1時55分ころ
(2)場所東京都千代田区a丁目b番先路上(以下「本件事故現場」とい
う。)
(3)当事者等
関係車両1事業用普通乗用自動車(横浜xxxxxx
xx,以下「原告車」という。)
所有者原告
運転者訴外C(以下,「訴外C」という。)
関係車両2事業用普通乗用自動車(練馬yyyyyy
yy,以下「被告車」という。)
所有者被告会社
運転者被告B
2事故の態様
争点である。
3損害
(原告の請求)
原告車修理代金52万9167円
レッカー代金等6万0500円
休車損11万2000円
弁護士費用7万1066円
(被告の反訴請求)
被告車修理代金54万4824円
弁護士費用10万円
第3争点
(1)事故態様及び過失割合
(原告の主張)
高速道路の走行車線に入る導入路終点において,被告Bが,被告会社の業
務執行として被告車を運転中,前方不注意の過失により,原告車後部に追突
した。
(被告らの主張)
高速道路の走行車線に入る導入路終点において,走行車線に合流しようと
した被告車が,追越車線から走行車線へ進路変更してきた車両があったため,
それを避けたところ,前方合流車線上でほぼ停止状態にあった原告車と衝突
した。
(2)経済的全損か否か
(被告の主張)
原告車は,平成18年9月登録とされており,本件事故当時で既に5年近
く経過している。そうすると原告車はいわゆる経済的全損と考えられる。
(原告の主張)
否認し争う。主張は別紙のとおり
(3)休車損について
(被告の主張)
原告はタクシー会社であり,通常いわゆる「遊休車両」が存在している。
したがって休車損はありえない。
(原告の主張)
以下のとおり,原告に遊休車両は存在しない。すなわち,原告は,本件事
故当時,合計47台の営業車両を保有しており,平成23年6月の実働率は
96.2パーセントである(甲15)。そうすると,原告が保有していた車
両のうち3.8パーセント分に相当する営業車両,すなわち,1.786台
の営業車両が実働していなかった計算になる。この実働していなかった車両
は,車検や事故等の事情により実働させることができなかった車両であり,
車両の故障等に備えて,何台かの車両が余るように保有していたことはない。
このように,原告は,点検や修理のために稼働させることができない車両
を除く全ての車両を常時稼働させていたのであるから,被告は休車損害を賠
償すべきである。
第4争点等に対する判断
1争点(1)について
(1)各証拠及び弁論の全趣旨による認定事実
ア本件事故現場の状況
本件現場は,いわゆる首都高速道路の走行車線に合流する導入路が,
本線に合流する付近である。
イ事故状況
原告車は,導入路を進行し,合流しようとしたところ,本線上を大型
車両等が多く走行していたので,なかなか合流できなかった。特に本線
上には,ほぼ原告車と並行して走っている車(被告車とは別の車である。)
があり,訴外Cとしては,これをやり過ごしてから本線に入ろうと思っ
て減速したところ,その車も同じように減速したので,さらに減速せざ
るを得なくなった。しかし停止に至らないうちに(甲18),被告車か
ら追突された(原告本人)。
一方被告車も,導入路を進行し,合流しようとしたところ,右後方の
みに注意を払い,振り向いて様子を見ていて,前方及び右側方の車両の
動向を観察していなかったため,黒い乗用車が右前方に居たのに気づか
ず,前方に目を戻したとき直近の黒い乗用車の存在に気づいて,衝突を
避けるため左にハンドルを転じたところ,原告車を発見し(存在自体に
気づいていなかった。),減速したが間に合わず衝突した(乙2)。
これに対し,被告らは,導入路の合流地点という,およそ停止ないし
徐行すべきでない場所で原告車が速度を落としたことに原因があると主
張するが,本線上が混雑しているときは,本線が優先なので,その通行
を妨げないように進入しなければならないから(道路交通法75条の6
第1項),首都高速道路の混雑状況からして,停止又は徐行して本線車
道に空きができるのを待たなければならないことはまま起こることであ
る。本件の事故状況の下において起こったのも,このような事態であっ
た。したがって原告車が徐行したことに,過失はない。
(2)過失割合
イで認定したとおり,訴外Cに過失がなく,被告Bには前方不注視の過
失があるから,過失割合は被告Bが10割となる。
2争点(2)について
(1)原告車の耐用年数等
原告車の走行キロ数は,52万7866キロメートルであり,原告所有
の営業車両の中には58万3169キロメートル走行したところで代替さ
れているものがあることからすると(甲10),一般的に走行距離が長い
営業車両であるにしても,原告車は耐用期間の末期にあることが明らかで
ある。またタクシーの法定耐用年数は,3年であるが,一般にタクシー車
両は5年ないし6年使用されている。原告車は平成18年9月登録である
から,4年9か月を経過しており,年数でみても末期である。
(2)東日本大震災の影響による価格上昇について
タクシーについては中古車市場は形成されていないから,一般の車両に
おける東日本大震災の影響による価格上昇に左右されることはない。した
がってこの点についての原告の主張は採用できない。
(3)東日本大震災の影響による品薄と修理の必要性の関係について
また,原告は,東日本大震災の影響による品薄を言うが,そもそもタク
シーについては中古車市場は形成されていないから,これをもって経済的
価値を超える修理費であっても修理を選択すべき根拠とはならない。
(4)小括
以上からすると,通常通り,修理費用が経済的価値を超えるときは経済
的全損とする扱いをとるべきである。
(5)原告車の経済的価値
修理費用額については,当事者間に争いがないので,経済的価値につい
て検討する。
タクシーについての経済的価値は,上記のとおり,中古車市場が形成さ
れていないことから,耐用年数と経過年数との比率で判断するしかないこ
とになる。
そこで検討すると,経過年数からみて,原告車の経済的価値は新車価格
の11.2パーセントとみるのが相当である(乙5,残価率を10パーセ
ント,(1)で述べた事情を考慮し,耐用年数を5年として算定。)。そして
新車価格は244万6500円であるから(甲8),あてはめ計算をする
と,27万4008円となる。
なお,原告は,加装費が40万円を下らないといい,証拠(甲9)を提
出するが,具体的な明細を提出しないから,採用できない。しかし,控え
めにみても15万円は下らないから,この範囲でこれを認めることとする。
合算すると42万4008円となる。
そして修理費用は,これより高い52万9167円なので(甲3),原
告車は経済的全損といえる。
3争点(3)について
原告保有の営業車両の稼働率が96.2パーセントであることは当事者間
に争いがない。原告保有の営業車両は47台であるから(甲15,平成23
年6月末日現在),少なくとも1台の非稼働車両が存在したことになる。
これに対し,原告は,実働していなかった車両は,点検整備,修理,予め
割り当てられていた乗務予定者の欠勤等により実働させることができなかっ
た車両であると主張するが,これを裏付ける証拠を提出しないから,その主
張は採用できない。
よって,原告には遊休車両が存在したと認めるべきである。そうすると遊
休車両を原告車の代わりに利用することが可能であったから,休車損害は認
められない。
4認容金額について
(1)経済的全損による被害額
2で認定したとおり,42万4008円と認められる。
(2)レッカー費用等
計6万0500円(甲4の1ないし4)
(3)弁護士費用
本件事案の内容,認容額その他本件における諸般の事情を考慮すると,
本件事故と相当因果関係ある弁護士費用は4万9000円と認められる。
(4)まとめ
(1)ないし(3)の認定額を合計すると53万3508円となる。
5反訴請求について
上記のとおり,原告には過失が認められないから,反訴請求については,
認められない。
第5結論
よって,原告の本訴請求は主文掲記の範囲で理由があるから認容し,その
余の原告の請求及び被告会社の反訴請求は,理由がないから棄却することと
し,主文のとおり判決する。
なお,仮執行宣言は相当でないので,これを付さないこととする。
東京簡易裁判所民事第2室
裁判官徳丸哲夫
(別紙)
修理費について
(1)新車価格及び走行距離について
ア原告車両の新車価格は,以下の通りである。
(ア)新車価格244万6500円(甲8)
(イ)加装費40万0000円(甲9)
(ウ)合計284万6500円
イまた,平成23年6月末同時点の原告車両の走行距離は,52万7866
キロメートルである(甲10)。
(2)被告は,原告車両は経済的全損であると考えられると主張するが,否認し争
う。なお,平成23年3月11日に発生した東日本大震災の影響により中古車
の価格が前年同月比で少なくとも5パーセント(仙台市では20パーセント程
度)上昇していた(甲11),したがって,経済的全損かどうかの判断するた
めに,事故当時の原告車両の時価を算定する際には,この点を考慮するべきで
ある。
(3)仮に修理費相当額が被害車両の客観的交換価値を超えていたとしても,被害
車両と同種同程度の自動車を中古車市場において取得することが至難であるこ
と,あるいは,被害車両の所有者が,被害車両の代物を取得するに足る価格相
当額を超える高額の修理費を投じても被害車両を修理し,これを引き続き使用
したいと希望することを社会通念上是認するに足る相当の事由が存在する場合
には,交換価格を越える修理費相当額を損害であるとしてその賠償を請求する
ことが許されるべきである(大阪高等裁判所平成9年6月6日判決参照)。
ア同種同程度の車両が入手至難であったこと
原告車両のようなタクシー専用モデル車両の中古車はもともと中古車市場
において取引量が少ない車両であるため,同種同程度の車両を入手すること
が困難であった。
かかる状況下において,平成23年3月11日に東日本大震災が発生し,
岩手県及び宮城県で500両あまりのタクシー車両が営業不可能な状態に陥
ったこともあり(甲12),中古タクシーヘの需要が増大していた。
また,東日本大震災により東北地方にある自動車関連の多くの工場が被災
した(甲13)。これにより,自動車の生産が停滞し納車までに時間がかか
ることから,中古自動車への需要が増大する一方で,新車販売の落ち込みで
下取り車が減少する状態が発生したので(甲11),中古車が生まれにくい
状態となっていた。
これら事情による影響により,原告は,本件事故当時,中古車市場におい
て原告車両と同種同程度の車両を入手することは至難な状態となった。
イ修理の社会通念上の相当性
(ア)また,前記の通り,東日本大震災の影響により,原告車両と同種同程度
の車両を入手することは困難な状態であったところ,本件事故当時,原告
には遊休車両は存在しないため,原告車両を修理せず同種同程度の車両を
調達しなければならないとなると,多大な休車損害が発生することが確実
な状況にあった(少なくとも,車両価格と調達の場合における休車損害と
の合計金額が,修理費と修理の場合における体車損害との合計金額よりも
多額になることが容易に推測できる状況にあった)。
そのため,原告は,損害を最小限度にとどめるためにやむを得ずに,代
替車両を調達することなく,修理を選択したものである。このように,原
告が原告車両を修理したこともやむを得ない事情があったのであり,よっ
て,原告が修理を行うことを社会通念上是認するに足りる相当な事由があ
ったというべきである。
(イ)なお,被告担当者であるD氏も,東日本大震災の影響から直ちに原告車
両の代物を取得することは不可能な状態であり,代物の納車を待っていた
のでは多大な休車損害が原告に発生する状況であつたと認識していたから
こそ,被告会社は車両価格ではなく修理代52万9167円を負担するこ
ともやむを得ないと了解していたのである。
そして,被告担当者であるD氏からの了解があったからこそ,原告は原
告車両の修理を選択したのである。それを今になって覆して「修理費用が
損害ではない」と主張するのは信義則違反であるというべきである。
ウしたがって,被告は,修理費相当額52万9167円を損害であるとして
賠償すべきである.
以上

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