弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人4名をそれぞれ懲役8年に処する。
被告人4名に対し,未決勾留日数中各330日を,それぞれその刑に算入
する。
被告人Aから押収してある金属バット1本(平成16年押第5号の1)を,
被告人Bから押収してあるスタンガン1台(乾電池4個付き。同押号の2)をそれぞ
れ没収する。
理由
(罪となるべき事実)
第1(平成15年12月26日付け起訴状記載の公訴事実関係)
   被告人4名は,共謀の上,平成15年6月25日午後11時25分ころ,大
阪府池田市ab丁目所在のc公園広場において,C(当時30歳)に対し,被告人Dにお
いてその頭髪を鷲づかみにした上,被告人Eにおいてその右膝及び右肘を所携の金属
バット(平成16年押第5号の1)で殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に
全治約10日間を要する右肘,右膝打撲の傷害を負わせた。
第2(同年10月27日付け起訴状記載の公訴事実関係)
 1(同公訴事実第1の1関係)
   被告人4名は,共謀の上,同年6月26日午前零時25分ころ,兵庫県川西
市de丁目f番所在のg駐輪場等において,F(当時23歳)に対し,被告人Dにおいて
その顔面を手拳で多数回殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に通院加療約4
週間を要する頭部顔面打撲,左口唇裂創,鼻骨骨折,左拇指末節骨骨折の傷害を負
わせた。
 2(同公訴事実第1の2関係)
   被告人4名は,共謀の上,前記1記載の日時ころ,同記載のg1階エントラン
スホール西側において,G(当時22歳)に対し,被告人Aにおいてその頭部及び左
下腿部を前記第1記載の金属バットで殴打した上,被告人Bにおいてその首筋にスタ
ンガン(同押号の2)を押し当てるなどの暴行を加え,よって,同人に全治約7日
間を要する頭部打撲,左下腿打撲,舌挫傷の傷害を負わせた。
 3(同公訴事実第2関係)
   被告人Eは,前記1記載の日時ころ,同記載のg北側路上において,同所に駐
車中の普通乗用自動車内から,前記G所有又は管理にかかる現金約2万円及び自動車
運転免許証等8点在中の財布1個等4点(時価合計約2万1000円相当)を窃取
した。
第3(同年7月17日付け起訴状記載の公訴事実関係)
   被告人4名は,共謀の上,同年6月26日午前零時35分ころ,兵庫県川西
市hi番j号所在のk百貨店l店西側歩道上において,同所を歩行中のH(当時28歳)
に対し,被告人Dにおいて「恐喝じゃ。」などと,被告人Aにおいて「金を出せ。」
などと語気鋭く申し向けた上,同人を取り囲み,被告人Dにおいてその頭髪を鷲づか
みにし,被告人D及び同Aにおいてこもごもその腹部等を数回足蹴にし,さらに,被
告人Bにおいて同人の首筋等に前記第2の2記載のスタンガンを押し当てようとする
などの暴行,脅迫を加え,その反抗を抑圧して,同人から現金3000円及び定期
券(1か月間有効で販売価額1万7000円)等3点在中の財布1個(財布の時価
3000円相当)を強取した。
第4(同年11月28日付け起訴状記載の公訴事実関係)  
 1(同公訴事実第1関係)
   被告人4名は,共謀の上,同年6月26日午前1時ころ,兵庫県伊丹市mn丁
目o番地先路上において,同所付近を自転車で走行中のI(当時19歳)を認める
や,被告人らが乗車する普通乗用自動車2台を前記I運転の自転車の前後付近に停止
させて挟み撃ちにして同人を停車させた上,同人に対し,被告人Eにおいて「金を出
すかしばかれるか,どっちがいい。」などと語気鋭く申し向けて金員の交付を要求
し,その要求に応じなければ同人の身体等にどのような危害を加えるかも知れない
気勢を示して脅迫し,その旨同人を畏怖させ,よって,即時同所において,同人か
ら現金1万1000円の交付を受け,もって,人を恐喝して財物を喝取した。
 2(同公訴事実第2関係)
   被告人4名は,共謀の上,前記1記載の日時場所において,前記Iに対し,被
告人Dにおいてその顔面を手拳で1回殴打する暴行を加えた。
第5(同年8月13日付け起訴状記載の公訴事実関係) 
 1(同公訴事実第1関係)
   被告人4名は,共謀の上,同年6月26日午前1時5分ころ,兵庫県伊丹市
mp丁目q番地所在のr専用駐車場西側路上において,同所で立ち話をしていたj(当時
21歳)に対し,被告人Dにおいて,「何見とんじゃ。」などと語気鋭く申し向け
て,その頭髪を手でつかんで同人の顔面を手拳で1回殴打し,さらに,被告人D及び
同Aにおいてこもごもその腹部等を数回足蹴にし,被告人Bにおいて同人の首筋に第
2の2記載のスタンガンを押し当てるなどの暴行,脅迫を加え,その反抗を抑圧し
て,同人から,被告人Eにおいて現金約1900円及び自動車運転免許証等5点在中
の手提げかばん1個(時価合計約1万5000円相当)を強取し,その際,前記暴
行により,同人に加療約3週間を要する顔面打撲傷,右胸部打撲傷等の傷害を負わ
せた。
 2(同公訴事実第2関係)
   被告人4名は,共謀の上,前記1記載の日時ころ,兵庫県伊丹市ms丁目t番地
先路上において,前記Jに対する前記暴行を制止しようとした同人の友人K(当時2
0歳)に対し,被告人Aにおいてその顔面を手拳で1回殴打するなどの暴行を加え,
よって,同人に全治約1か月半を要する下顎骨骨折(左関節頭)の傷害を負わせ
た。
(事実認定の補足説明)
【以下,事件審理中用いられた呼称に従い,判示第1の犯行を「第1事件」,判示
第2の各犯行を「第3事件」,判示第3の犯行を「第4事件」,判示第4の各犯行
を「第5事件」,判示第5の各犯行を「第6事件」という。そして,第1事件と第
3事件の間に被告人4名が通行人に対して暴行を加えた事件(起訴されていない事
件)を便宜上「第2事件」という。】。
 第1,第3ないし第6事件は平成15年6月25日午後11時25分ころから翌
26日午前1時5分ころまでの約1時間半の間に連続的に敢行された犯行であると
ころ,第4事件ないし第6事件について,検察官は,第4事件の前に被告人4名の
間には通行人に対し暴行を加えるだけでなく,暴行を加えて金品奪取に及ぶ旨の事
前共謀が成立し,これに基づいて第4事件以降の犯行が敢行された旨主張するのに
対して,①第4事件について,被告人Dを除く被告人3名は強盗の故意及び共謀を否
認し,同被告人らの各弁護人は同被告人らは暴行の限度で責任を負うに止まる旨,
②第5事件中判示第4の1の恐喝について,被告人Eを除く被告人3名は恐喝の故意
及び共謀を否認し,同被告人らの各弁護人は同被告人らは恐喝については無罪であ
る旨,③第6事件中判示第5の1の強盗致傷について,被告人4名は強盗の故意及
び共謀を否認し,被告人Eの弁護人は同被告人は傷害及び窃盗の限度で責任を負うに
止まる旨,被告人Eを除く被告人3名の各弁護人は同被告人らは傷害の限度で責任を
負うに止まる旨主張する。
 当裁判所は,関係証拠によれば,第4事件の開始前までに,被告人4名の間に被
害者となる通行人に暴行を加え,場合によっては被害者から金品を奪取することを
も容認する旨の事前共謀が成立したものと認めるに十分であると判断したのである
が,その理由について補足して説明する。
1 関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
 (1) 被告人4名の関係等
   被告人Bは,兵庫県宝塚市内の事務所兼店舗で中古自動車販売業を営むLの代
表者,被告人A,同D及び同Eは,Lの従業員であるが,被告人4名は,平成15年4
月ころから,ストレスを解消するためであるとして,夜遅くに自動車で出掛け,通
行人の若い男を標的にして,集団で暴行を繰り返していた。
 (2) 本件各犯行に至る経過
   平成16年6月25日午後8時ころ,L事務所で,被告人Eが同Dに声を掛ける
などして,被告人4名の間で通行人等に暴行を加える目的で自動車で出掛ける話が
まとまり,同日午後11時ころ,被告人Eが同Bを助手席に同乗させて普通乗用車
(車種トヨタアリスト。以下「アリスト」という。)を運転し,被告人Dが同Aを助
手席に同乗させて普通乗用車(車種トヨタセルシオ。以下「セルシオ」という。)
を運転し,L事務所を出発した。その際,被告人Aは金属バット2本をセルシオの後
部座席に積載し,被告人Bはスタンガンを事務所の机から持ち出しこれを携帯してい
た。
 (3) 第1事件の犯行状況
   被告人4名は,同日午後11時ころ,判示c公園で被害者Cら4名が花火をし
ているのを見付け,被告人Dが被害者Cに対して「お前ら,何見とんねん。」と因縁
を付け,その頭髪を鷲づかみにし,被告人Aと同Eがそれぞれ金属バットを,被告人
Bがスタンガンを持って被害者Cに近付き,被告人Eが被害者Cの右膝及び右肘付近を
バットで殴打するなどの暴行を加えた。被告人Aの跳び蹴りを避けた同被害者は被告
人Dを振り払って逃れ,携帯電話で110番通報すると,これに気付いた被告人4名
は,その場からセルシオ及びアリストを発進させて逃走した。
 (4) 第2事件の状況
   その後,被告人4名は,兵庫県伊丹市内のu駅東側にあるショッピングセンタ
ーv前の路上にセルシオとアリストを駐車させ,たまたま自転車に乗って付近を通り
かかった若い男を被告人Dにおいて「検問や。」と叫ぶなどして自転車ごと転倒さ
せ,被告人Dと同Aがその体を足蹴にし,被告人Eがバットで殴り付ける暴行を加え
た。
 (5) 第3事件の犯行状況
   被告人4名は,翌26日午前零時25分ころ,判示g付近路上に至った際,同
所に被害者G運転の自動車が止まっており,運転席の同被害者が同車横に立っていた
被害者Fと話をしているのを見掛けた。セルシオを運転していた被告人Dは,「あい
つらさっき見とった奴らや。」と言い,同車助手席の被告人Aとの間で被害者Fと同
Gとを襲う旨暗黙のうちに意を通じ,セルシオを被害者Fと同Gの傍らに停車し,両名
に対し「何を見とったんや。」などと因縁を付けた。いったん同所を通り過ぎてい
たアリストに乗車中の被告人B及び同Eがこれに気付いて同現場に引き返し被告人Dら
と合流するうち,被告人Dにおいて被害者Fを前記g駐輪場に連行して被害者Fの顔面
を手拳で多数回殴打し,被告人Aにおいて同Eが持っていたバットで被害者Gの頭部を
殴打するなどして,同被害者を昏倒させた。さらに,被告人Bは,スタンガンのスイ
ッチを入れて被害者Gの頚部等に押し当て,被告人Aはバットで同被害者の足を殴り
付けるなどした。
 その間,被告人Eは,被害者Gの自動車内から同被害者の財布,鍵束,携帯電
話,CD等を奪った。そして,被告人4名は,アリストとセルシオに前同様に2名
ずつ分乗して同所から逃走した。
 (6) 第4事件に至る経緯
   その後,被告人4名は,兵庫県川西市内の阪急電鉄w駅高架下(以下「w高架
下」という。)に至ったが,その途中,アリストの車内で,被告人Eにおいて被害者
Gから奪った財布や携帯電話等を取り出し,被告人Bにおいてこれらを手に取って財
布の中身を確認するなどしたが,同被告人においてその際もその後も被告人Eに対し
金品を奪取したことを咎めたり非難することはなかった。
 被告人4名がw高架下にセルシオとアリストを停車させ小休止した際,被告人
Eは,被告人Dと同Aに前記財布を見せ,「持っといて下さい。」などと言いながら,
財布内にあった現金を被告人Dに渡し,同被告人は何も言わずにその現金を受け取っ
た。これを見ていた被告人Aが同Eに「あのお金どうするんですか。」と尋ねると,
同被告人は「分けるんちゃう。」と答え,被告人Aは,被告人Eから同被告人が奪っ
た被害者GのCDを渡されてこれを受け取り,被告人Dと同Aが携帯電話を触っている
と,被告人Bは「あんまり触ったらあかんで。」とか「そいつの彼女可愛いやろ
う。」などと話し,あるいは,被告人Eは,被告人Aに前記財布内のガソリンカード
を使ったらどうかと声を掛け,被告人Aがこのカードは使えるかと聞くと,被告人
Bは,「あかんやろ。」と答えるなどしていたが,この間,被告人Eが被害者Gから財
布等を奪ったことを非難する者はいなかった。
 その後,被告人4名は,セルシオとアリストに前同様に分乗してw高架下から
自動車を発進させた。
 (7) 第4事件の犯行状況
   被告人Dは,同日午前零時35分ころ,被害者Hが判示k百貨店l店西側歩道を
歩いているのを見掛けるや,被告人Aに「あれいこか。」と同被害者を襲うことを誘
い,その旨意思を相通じ,停車させたセルシオから降りて同被害者に近付き,「お
い。」と同被害者を呼び止めた上,同被告人が「恐喝じゃ。」などと,被告人Aが
「金を出せ。」などとそれぞれ語気鋭く申し向け,被告人Dが被害者Hの頭髪を鷲づ
かみにして,被告人Aとこもごも被害者Hの腹部,胸部等を何度も足蹴にした。ま
た,このころまでに被告人B及び同Eも合流して被告人4名が同被害者Hを取り囲んで
いたが,さらに,被告人Bが,スタンガンのスイッチを入れて同被害者の体に押し当
てようとした。これらの暴行,脅迫を受け抗拒不能となった被害者Hは,「出しま
す。」などと言いながら財布を出し,被告人Aがこれを奪った。被告人4名は,なお
も,同被害者を転倒させ,被告人Bはスタンガンの火花を出しながらこれを同被害者
の首に押し当てた。
 (8) 第5事件に至る経緯
   被告人4名は,第4事件の犯行後,セルシオとアリストに前同様に分乗して
逃走したが,セルシオの車内で被告人Aは,被害者Hから奪った財布を取り出し,そ
の中から1000円札数枚を抜き取って被告人Dに渡し,同被告人はこれを受け取っ
た。その後,被告人4名が兵庫県宝塚市xy丁目所在のPz店(以下「P」という。)で
小休止した際,被告人Eが被告人Dに「今日のあがりいくらくらいですか。」などと
尋ねると,被告人Dは「2万くらいちゃう。」と答えた。
 (9) 第5事件の犯行状況 
   被告人4名は前同様アリストとセルシオに分乗してPを出発し走行していた
が,アリスト車内から被告人Eがセルシオ車内の被告人Aに,「次は挟み撃ちにす
る。」と携帯電話で連絡するなどして,被告人4名がその旨意思を相通じて,同日
午前1時ころ,兵庫県伊丹市mn丁目o番地先路上を自転車で走行していた被害者Iを
発見し,被告人Bがアリストを同被害者の進路を塞ぐようにその自転車の直前に停車
し,被告人Dも,同被害者の右横直近にセルシオを停車させ,被告人Eが,アリスト
から降り,同被害者に対し「しばかれるのと金出すのとどっちがいい。」などと脅
し,同被害者が「勘弁して下さいよ。」などというと,助手席の窓を全開にしてい
たセルシオの運転席から被告人Dが「何笑っとんねん。」と怒鳴った。被害者Iは畏
怖し,「財布ごとは勘弁して下さい。」などと返事をして,財布から1万1000
円を出してを被告人Eに渡した。セルシオから下車した被告人Dは,その後,同被害
者の顔面を1回殴打した。
   そして,被告人Aが被告人Dに替わって同被告人を助手席に同乗させてセルシ
オを運転し,アリストを被告人Bが運転して同所から逃走したが,被告人Eは,被告
人Bに「すぐ金出しました。」などと報告した。
 (10) 第6事件の犯行状況
   その直後である同日午前1時5分ころ,先行するアリストに追随するセルシ
オに乗車していた被告人A及び同Dは,被害者Jと同Kが判示のr専用駐車場西側路上で
自転車に乗ったまま立ち話をしているのに気付き,被害者Jと同Kのそばにセルシオ
を停車させ,被告人Dにおいて,被害者Jと同Kに対し「何見とんじゃ。」と因縁を付
け,被害者Jの頭髪を鷲づかみにしてその顔面を手拳で1回殴打して自転車ごと転倒
させ,被告人Aとともに同被害者の腹部等を数回足蹴にした。これに気付いた被告人
B及び同Eは同所に戻り,被告人4名が被害者Jと同Kを取り巻き被害者Jをこもごも足
蹴にし,さらに,被告人Bが同被害者にスタンガンのスイッチを入れてこれをその首
筋に押し当てるなどの暴行を加えた。この間,被告人Eは被害者Jの自転車の前かご
内から鞄を奪い,被告人Aは被害者Kともみ合いになって判示の居酒屋M前に移動して
同被害者の左顎を手拳で1回殴打したが,被害者Kが居酒屋Mの従業員に助けを求め
たため,被告人4名は,その場から逃走した。
 (11) 一連の犯行後の状況
   その後,被告人4名は,兵庫県宝塚市a2b2丁目所在のレンタルビデオ店『N』
駐車場(以下「N駐車場」という。)に集まり,被告人Eにおいて被害者Jから奪った
黒色鞄を他の被告人3名に見せ,財布には3000円くらいしか入っていないと話
し,あるいは被告人Bと同Dにおいて鞄に入っていた財布の中身を確認するなどし
た。
   その後,被告人4名は,再び前同様にアリストとセルシオに分乗してN駐車場
から出発したが,被告人B,同Eが乗るアリストは,被告人A,同Dが乗るセルシオと
分かれ,L事務所に戻り,被告人Bは,同Eとともに第3事件及び第6事件で奪った各
被害者の所持品を確認し,被害者Gと同Jの財布から各被害者の運転免許証を抜き取
って自ら保管しておくことにし,他の物品は付近のコンビニエンスストアのごみ箱
に捨てた。なお,被告人Eは,第6事件の後,被告人Bに被害者Gの財布内の小銭を自
分のものにしてよいかと尋ね,被告人Bはこれを了承した。
  以上のとおり認められる。なお,被告人Eは,第2事件の後,被告人4名が,ア
リストとセルシオを停車させて雑談をしたとき,被告人Dが「そろそろ金いこか。」
と言った旨,捜査段階から公判段階に至るまで一貫して供述しているが,この事実
を述べるのは被告人Eだけで被告人D及び同Aがこれを明確に否定していることのほ
か,被告人4名が自動車に乗り込む間際に出た発言であることにも照らすと,被告
人Dが述べるように「そろそろ行こうか。」と言ったのを被告人Eが聞き間違えた可
能性が濃厚であるから,前記被告人Eの供述は信用できない。
2 第4事件以降の金品奪取の事前共謀の成否について
(1) 被告人4名は若い男を標的に通行人に暴行を加えることを目的として2台の
車に分乗して犯罪集団として共同で同一行動をしていたものであるところ,前記認
定事実,とりわけ第3事件後移動中のアリスト車内において被告人Bが被害者Gの財
布の中身を見ていたこと,w高架下において,第3事件で被告人Eが被害者Gから奪っ
た金品のうち被告人Dが現金を,被告人AがCDをそれぞれ受け取ったこと,被告人
4名が第3事件の被害者Gの財布に在中していたガソリンスタンドのカードが使える
か否か会話したり,被害者Gの携帯電話を見て楽しむなどしていた事実からすれば,
被告人4名は,w高架下において,第3事件で被告人Eが他の被告人において被害者
Gに暴行を加えている間に同被害者からその金品を窃取したことに対してこれを容認
する心情を共有し,相互にそのような心情にあることを了解していたものと認めら
れる。そして,このような状況のままさらに同種の犯行に及べば,第4事件以降,
標的とした被害者に暴行を加える際に同人らから金品を奪取する共犯者が出ること
は十分予想できるのであって,被告人4名においてもそのことを予想していたもの
と認められるところ,現に第4事件以降では全事件で被告人4名のうちのいずれか
が金品を奪っていること,第4事件においては,被告人Dと同Aが被害者Hに近付くや
直ちに「恐喝じゃ。」などと申し向けていること,被告人Aが被害者Hから奪った財
布の中の現金をその後当然のように被告人Dに渡し,Pでは被告人Eが同Dにそれまで
奪った現金の総額を聞いていること,被告人4名が第6事件の後O駐車場において被
告人Eが被害者Jから奪ってきた黒色鞄や財布の在中金について話すなどしたこと,
被告人B及び同Eについては,さらに,第6事件の後Lに戻ってから奪取品を確認して
いること等の事実を併せ考慮すれば,w高架下において,被告人4名の間に,その後
の暴行の機会に4名の誰かがその相手方から金品を奪取しても他の被告人はこれを
容認する旨暗黙のうちに意思を相通じたことを認めるに十分であり,これは金品強
取あるいは喝取の共謀として不足のない内容であると認められる。
  以上のとおり,w高架下において,被告人4名の間に,金品強取あるいは喝取
(そのいずれになるかも,被告人らにおいてどの程度の暴行を加えるかについて制
限を設けず,従って場当たり的にそのいずれに至っても構わないという内容のも
の。)の黙示の事前共謀が成立したと認められる。
 (2) ところで,被告人A,同D及び同Eは,捜査段階における供述調書において,w
高架下で,第4事件以降,被告人4名の間に,通行人等に暴行を加える際に,金品
を奪取する旨の共謀が黙示に成立したことを承認する旨の供述をしているところ,
被告人A,同B及び同Eの弁護人は,これら捜査段階における被告人A,同D及び同Eの
各供述調書中の供述は,押し付けや誘導によりなされた各被告人の意思と異なる供
述であると主張し,これら被告人3名も公判廷で同趣旨の供述をする。
   しかし,被告人A,同D及び同Eの各供述調書中には,問答による供述記載もあ
り,被告人Dの供述調書中には,第3事件の前に「そろそろ金いこか。」とは言って
いない,第5事件で被告人Eが被害者Iに金品を要求していることに気付いていなか
ったといった,公判廷における弁解と同様の供述記載があり,さらに,被告人Eの検
察官調書の中には訂正の申し入れをしているものもあるところ(乙45,98),
これらの事情は,捜査官の誘導や押し付けにより被告人らの認識と異なる供述が記
載されたものではないことを示すものであるほか,これらの供述調書の内容をみて
も,被告人3名の当時の心理状況を織り交ぜた具体的で相互に符合した供述であ
り,捜査及び公判を通じて被告人4名が認めている外形的事実に照らしても不自然
なところのない内容の供述というべきである。なお,本件第1回公判期日(平成1
5年9月26日)後に作成された被告人A,同D及び同Eの検察官調書の中には,第5
事件に関する供述調書中であるとはいうものの,第4事件前に強盗の共謀があった
ことを承認する供述記載が認められる〔被告人Aの平成15年11月13日付け検察
官調書(乙92),被告人Dの同月10日付け検察官調書(乙94),被告人Eの同
月12日付け検察官調書(乙98)〕。
   他方,被告人A,同D及び同Eのこれら捜査段階において事前共謀があったこと
を承認する供述をした理由に関する公判廷での各供述は,その内容において不自然
不合理である上,合理的理由なく変遷しているなど,信用し難いものである。
   したがって,被告人A,同D及び同Eのw高架下において被告人4名の間に強盗
の共謀が成立した旨の捜査段階の各検察官調書中の各供述は,当時各被告人におい
て金品を奪取する旨の共謀が黙示に成立したと評すべき心情にあったことをそれぞ
れ承認したという限度で,十分に信用できるというべきである。
   被告人Bの弁護人は,被告人A,同D及び同Eは捜査段階において,一連の犯行
における役割分担に関して供述しているが,犯行時において被告人らは役割分担に
ついての認識などなかったのであり,そのような供述記載があること自体捜査官の
考えを被告人らに押し付けたことを示すものであると主張するが,前記認定事実に
よれば,第5事件についてはやや態様が異なるものの,被告人らは,おおよそ,被
告人Dあるいは同被告人及び被告人Aが最初に被害者を襲って暴行を加えるなどし,
被告人Bは当初は手を出さず,被害者が抗拒困難な状態に陥った段階でスタンガンを
使用する,被告人Eは付和雷同的に暴行に加わりあるいは金品を奪うといった各人の
行動傾向を互いに認識しつつ行動していたものと認められるのであって,これを自
然発生的な役割分担の形成と評価することは十分に可能であり,これを最初に役割
分担と評価,表現したのが捜査官であったとしても,被告人4名において,それぞ
れそのように表現されるような行動様式があったことを承認し,その旨の供述調書
作成に応じたと認められるから,被告人Bの弁護人の前記主張は理由がない。
(3) 被告人A及び同D(第4事件を除く。)は通行人等に暴行を加える目的しかな
かった,被告人Bはスタンガンの威力を試す目的があっただけであるとして,いずれ
も金品奪取の動機や故意がなかった旨弁解し,被告人A,同D(第4事件を除く。)
及び同Bの各弁護人は同被告人らに金品強取の共謀は成立していないと主張する。ま
た,被告人Eは通行人等に暴行を加えることが嫌で暴行に加わらない代わりに他の被
告人の暴行とは無関係に被害者から金品を奪っていただけである旨弁解し,被告人
Eの弁護人は同被告人に事前に強盗の共謀は成立していないと主張する。
 しかし,被告人4名が自認するストレス等を解消するためあるいは快感を得
るために通行人等に暴行を加えることと,その際相手方から金品を強取ないし喝取
することとの間には,成り行き次第で金品奪取に及ぶなど,一般論としても十分に
両立する関係があるといえるから,被告人4名の当初の目的が4名で通行人である
若い男等に対し暴力を加えるだけのものであったとしても,そのこと自体からは,
その後の金品奪取の共謀の成立が否定されるものではない。そして,1認定の事実
によれば,本件一連の犯行が,通行人等に暴行を加えていた被告人4名において,
途中からこれに加えて金品を奪取することを容認するという心情をも共有するよう
になって行われたものであることは明らかというべきであって,被告人4名の弁解
はいずれも採用しない。
(4) 特に第4事件について
 被告人A,同Dは,第4事件において,「恐喝じゃ。」「金を出せ。」と言っ
たのは金品を要求する意図で述べたものではなく単なる脅し文句である旨弁解する
が,その文言自体,金品要求そのものであることに照らすと,金品を奪う意図が全
くなかった旨の前記被告人両名の弁解は到底信用できない。
 そして,被告人4名は,第4事件以降,他の被告人が暴行の機会に金品を強
取することは予想できなかった,他の被告人がどのような気持ちであるかは考えて
いなかったなどと弁解するが,前記1認定の事実関係,殊に被告人4名がw高架下で
第3事件の被害者Gから窃取した金品を見るなどした際被告人Eの窃盗行為を容認す
る態度を示したことに徴すれば,これまた不自然,不合理であって信用できない。
(5) 特に第5事件について
 被告人A,同D及び同Bは,第5事件についても,被告人Eの行為は自分には関
係ないことであると思っていた,被告人B及び同Dは,同Eが被害者Iから現金を喝取
したことに気付いていないなどと弁解し,各弁護人は前記各被告人につきそれぞれ
恐喝の共謀は成立しないと主張する。
 しかし,既に認定したとおり,被告人4名は,w高架下において成立した黙示
の事前共謀に基づいて第4事件を敢行している上,その後,被告人Aが第4事件で被
害者Iから強取した現金を被告人Dに渡し,Pで被告人Aが同Dに奪った現金がどれだけ
になるのか尋ねるなどした後,第5事件に及んでいるのであって,この間被告人4
名の間の金品奪取の共謀や犯意が解消,消滅したことを窺わせる事情は全くない。
加えて,第5事件では,被告人4名が分乗していたセルシオとアリストで被害者Iの
進路を塞ぎ逃げられないよう取り囲んだ上,被告人Eだけがアリストから下車して同
被害者に近付いて金品要求をし,その後被告人Dが同被害者に暴行を加えているので
あって,むしろ被告人4名が暴行のみを目的として行動しているとは言い難い態様
の犯行であると認められる。
前記弁解,主張は採用できない。
(6) 特に第6事件について
 被告人A,同D及び同Bは,第6事件において,被告人Eが被害者Jから金品を強
取したことに気付いておらず,これを事後に知ったにすぎないから,強盗の故意も
その共謀もないと弁解し,これら被告人の弁護人も同様の主張をする。他方で,被
害者から金品を奪った被告人Eは,同D及び同Aが被害者に対して暴行を加えたことに
気付いていなかったと弁解し,被告人Eの弁護人は同被告人には暴行と窃盗の故意し
かなく,強盗の共謀は認められないと主張する。
 しかし,そもそも,各被告人の個々の暴行,脅迫あるいは金品奪取行為中,
各被告人において相互に認識していないものがあったとしても,前記のとおり事前
共謀を遂げている本件にあっては,各犯罪の成立認定の妨げとなるものではない。
そして,被告人4名はw高架下で成立した強盗(暴行脅迫による金品奪取)の共謀に
基づいて第4及び第5事件を敢行しているところ,第6事件は第5事件の直後に行
われており,その金品奪取等の共謀や犯意が消滅したことを窺わせる事情は一切な
い。加えて,被告人4名は第6事件の直後O駐車場で第6事件で奪った金品の確認を
しているところ,その際,予想外の出来事であると受け止めたことを窺わせるよう
な言動をしたものは誰一人おらず,逆に,被告人4名の言動はむしろこれを当然と
するものであったこと,被告人Eは,他の被告人が被害者J及び同Kに暴行を加えてい
る間,これにより被害者Jが反抗できない状況にあることを認識しつつこれを利用し
て同人の鞄を奪っていると認められること等からすれば,第6事件も被告人4名の
共謀に基づく犯行であると優に認められる。被告人4名の弁護人の前記各主張はい
ずれも採用できない。
(法令の適用)
 被告人4名の判示第1,第2の1,第2の2及び第5の2の各所為はいずれも刑
法60条,204条に,判示第3の所為はいずれも同法60条,236条1項に,
判示第4の1の所為はいずれも同法60条,249条1項に,判示第4の2の所為
はいずれも同法60条,208条に,判示第5の1の各所為はいずれも同法60
条,240条前段(236条1項)に,被告人Eの判示第2の3の所為は同法235
条にそれぞれ該当するところ,被告人4名の判示第1,第2の1,第2の2,第4
の2,第5の2の各所為につきいずれも懲役刑を,判示第5の1の所為につきいず
れも有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上(被告人E以外の被告人3名については判示
第2の3の罪を除く。)は被告人4名につきいずれも同法45条前段の併合罪であ
るから,いずれも同法47条本文,10条により最も重い判示第5の1の罪の刑に
同法14条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人4名をいずれも懲役
8年に処し,同法21条を適用して被告人4名に対し未決勾留日数中各330日を
それぞれその刑に算入し,押収してある金属バット1本(平成16年押第5号の
1)は,判示第1の犯行の用に供された物で被告人A以外の者に属せず,押収してあ
るスタンガン1台(乾電池4個付き。同押号の2)は判示第3の犯行の用に供した
物で被告人B以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を各適用し
て,金属バット1本を被告人Aから,スタンガン1台を被告人Bからそれぞれ没収す
ることとする。
(量刑の理由)
1 本件は,被告人Bが経営する職場で働く被告人4名が共謀の上,通行人を標的に
夜間約1時間半の間に連続して敢行した傷害(第1事件,第3事件),強盗(第4
事件),恐喝,暴行(第5事件),強盗致傷,傷害(第6事件),及び第3事件で
被告人Eが単独で敢行した窃盗の各事案である。
2 事案の内容は事実認定の補足説明で詳細に述べたとおりであるところ,被告人
4名は,通行人等の中から喧嘩になっても反撃されずに痛め付けることができる若
い男を選定して暴行を加えてストレス等を解消しようと考えて本件一連の犯行を敢
行し,被害者に暴行を加え,さらに第4事件以降はこれをエスカレートさせて被害
者から金品を奪ったのであり,その動機は著しく自己中心的で反社会的であり酌量
の余地はない。また,第4事件以降の金品奪取には,利欲的動機も認められるので
あって,これが第一次的目的であったとはいえないにしろ,厳しい非難に値する。
 また,被告人4名は,事前にバットやスタンガンを準備して本件各犯行に及ん
でおり,集団による通行人に対する暴行,傷害については十分な計画性の認められ
る犯行である。
 犯行態様をみても,被告人4名は,深夜,通行人に対しいきなり因縁を付け暴
行を加えたもので,第5事件ではたまたま被告人Dが被害者の顔面を1回殴打するに
とどまったが,それ以外の犯行では,いずれも各被害者に一方的かつ執拗熾烈な暴
行を加えており,第1事件と第3事件では,金属バットを使用し,第3事件,第4
事件,第6事件では,執拗な暴行により抵抗できなくなった被害者に対して被告人
Bがスタンガンを使用して被害者に強い電気ショックを与えたもので,特に第3事件
においては,被告人Aが被害者Gの頭部に金属バットを勢いよく振り下ろして殴打し
気絶させ,その後被告人Bがスタンガンを被害者Gの身体に押し付けてその身体が痙
攣するのを確認するという残忍な暴行を加えているのであって,極めて危険かつ悪
質な犯行であった。
 そして,被告人4名は,第4事件以降は,被害者から金品を奪取することも容
認するという黙示の共謀を遂げた上,勢いの赴くまま,各被害者から金品を強取等
している。
 本件各犯行の結果についてみれば,第1事件の被害者Cには全治約10日間を要
する傷害を,第3事件の被害者Gには全治7日間を要する傷害を,被害者Fには加療
約4週間を要する傷害を,第6事件の被害者Jには加療約3週間を要する傷害を,被
害者Kには全治約1か月半を要する下顎骨骨折の傷害を負わせており,これら各被害
者に負わせた傷害だけでも被告人4名の刑事責任は重大である。財産的被害につい
て見ても,被告人4名は,第4事件以降,各被害者から現金合計約3万3000
円,物品合計9点(時価合計1万8000円相当)の金品を奪取しており,その金
額も決して少額とはいえない。加えて,被告人Eは,第3事件において被害者から現
金約2万円及び財布等(時価合計2万1000円相当)を窃取している。
 被告人4名は,このような一連の犯行をわずか1時間半余りの間に立て続けに
行ったものであって,その犯行態様は,ほぼ無差別に標的を選定し,人の尊厳を無
視した常軌を逸した犯行というべく,粗暴犯に対する常習性や粗暴的性向も認めら
れ,極めて悪質である。
 各被害者らにはいずれも何らの落ち度もなく,深夜,突然,4名の男から一方
的に暴行を受けたことによる身体的苦痛や精神的打撃は大きく,また,このような
凶悪な犯行が社会に与えた衝撃や不安感は甚大である。
3 各人に個別の情状をみると,まず,被告人Aは,同Dに追従して,各被害者に対
して積極的に暴行を加えており,特に,第3事件では,被害者Gの頭部に勢いよくバ
ットを振り下ろすという極めて危険な暴行に及んでいる。また,第4事件では,被
告人Dと同様に被害者に対して金品を要求しており,金品奪取についても積極的に関
与している。
 被告人Dは,第1事件,第3事件及び第4事件において,真っ先に被害者に因縁
を付けて,執拗に暴行を加えるなど,被告人4名の中では最も積極的に各被害者に
暴行を加えており,凶器は用いていないものの,その暴行の態様程度も執拗かつ熾
烈である。また,他の被告人が奪った現金を預かっただけでなく,第4事件では,
被害者に対して金品を要求しているなど,金品奪取についても積極的に関与した側
面も認められる。
 被告人Bは,機会があればスタンガンを使用しようとし,第3事件,第4事件及
び第6事件で,他の被告人らから暴行を受けて抵抗することが困難な状態に陥って
いた被害者に対して現実にスタンガンを使用しているところ,いわばとどめを刺す
がごとき残忍冷酷な犯行に及んだもので犯情は良くない。なお,被告人Bの弁護人
は,被告人Bに自首が成立する旨主張するが,被告人Bが警察署に出頭した際既に逮
捕状が発付されていて直ちに同令状により逮捕されている(乙64)のであって,
法律上の自首が成立しないことは明らかである。
 被告人Eは,被告人Dに追従して暴行を加えており,特に第1事件ではバットで
暴行を加えるなど積極的に暴行に加わっている。また,第3事件では被告人Eが単独
で金品を窃取してその後の一連の犯行を金品奪取事件に発展させるきっかけを作
り,第5事件及び第6事件では,被害者の金品を奪取する等,金品奪取の犯行につ
いて最も積極的な役割を果たしている。
4 そして,被告人4名は,公判廷において,判示一連の犯行は,被告人4名の間
では暴行ないし傷害の共謀が成立するに止まり,第4事件以降の事実のうち,自ら
金品を奪取していないものにつき,金品奪取の故意や共謀を否認するなど,不自
然,不合理な弁解を述べているところ,いずれも,その自己中心的な物の考え方に
由来する弁解と窺われ,犯情は芳しくない。特に被告人Bは,捜査段階においても,
自らの非常識かつ特異な発想に基づく不合理な弁解を繰り返しているだけでなく,
スタンガンを人体に使用したときの危険性が高いことを認識していないと自己の暴
行についてことさら過小に供述するなど弁解的であり,また,被告人Eも,前述した
とおり,自らの認識を過小にいうだけでなく,他の共犯者に責任を転嫁する態度が
明らかで,真摯な反省の態度は認められない。
5 そうすると,被告人4名の規範意識の歪みや乏しさは深刻であり,その刑事責
任はいずれも重いというべきである。
6 他方,被告人4名は,親等の助力によるものであるとはいえ,弁護人を通じて
被害者全員との間で示談が成立し,被害弁償をしており,その支払金額を見ると,
被告人Aが総額169万5000円,被告人Dと同Bがそれぞれ総額167万円,被告
人Eが総額154万5000円と相当高額であること,被告人Aと同Bは各被害者に対
する謝罪の手紙を出したこと,被害者の一部は被告人4名の寛大な処罰を求める旨
宥恕の意思を表明していること,被告人4名は,各被告人らなりに反省服罪の態度
を示していること,被告人4名には前科がないこと,被告人4名の親が各被告人の
更生に助力する旨述べていること,犯行当時被告人Aは20歳,同Eは22歳と若年
であること,被告人Dには扶養すべき妻子がおり,その妻が同被告人の早期の社会復
帰を望んでいることなど被告人4名のためにそれぞれ酌むべき事情が認められる
が,これらの事情を最大限考慮しても,本件各犯行が相当凶悪な犯行であることに
徴すれば,主文の刑はやむを得ないところである。
  よって,主文のとおり判決する。
   平成16年12月17日
 神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官 杉 森 研 二
   裁判官 橋 本   一
   裁判官 髙 橋 信 幸

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