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裁判例


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主文
1 被告は,楠町に対し,金981万2400円及びこれに対する平成13年10月20日
以降支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 (1)主文1,2項と同旨
 (2)仮執行宣言
2 被告
 (1)原告の請求を棄却する。
 (2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2 事案の概要等
 1 本件は,楠町の住民である原告が,楠町の町長であった被告に対し,「被告がなし
た勧奨退職者の募集が違法であるから,三重県市町村職員退職手当組合が当該
勧奨退職者に支払った退職手当に相当する特別負担金につき,被告が三重県市
町村職員退職手当組合に対しなした支出負担行為とその支出命令が違法である
として,楠町への損害賠償を求めた住民訴訟である。
 2 争いのない事実等
  (1)原告は,楠町の住民であり,被告は平成13年当時の楠町の町長である。
  (2)被告は,平成13年4月23日に以下の勧奨退職者の募集(以下「第1回勧奨退職
者の募集」という。)をした。
   ① 応募対象者
     一般職員で平成14年3月31日現在50歳以上58歳以下の者(本年度特別措
置として59歳の者も対象,以下「勧奨退職者」という。)。
     上記の勧奨退職者以外の一般職員で平成14年3月31日までに勤続10年以
上に達する者(以下「希望退職者」という。)。
   ② 優遇措置
     勧奨退職者及び希望退職者には次の優遇措置を行う。
     退職手当
     三重県市町村退職手当組合退職手当支給条例4条又は5条の規定による退職
手当を支給する。
     特別昇給
     定期昇給を含め3号給引き上げる。
   ③ 退職申出期間
     平成13年5月1日から同月31日
   ④ 退職発令の日
     平成14年3月31日とする。
  (3)被告は,平成13年6月に以下の勧奨退職者の募集(以下「第2回勧奨退職者の
募集」という。)をした。
   ① 応募対象者
     一般職員で平成13年7月31日現在50歳以上58歳以下の者(本年度特別措
置として59歳の者も対象,以下「勧奨退職者」という。)。
     上記の勧奨退職者以外の一般職員で平成13年7月31日までに勤続10年以
上に達する者(以下「希望退職者」という。)。
   ② 優遇措置
     勧奨退職者及び希望退職者には次の優遇措置を行う。
     退職手当
     三重県市町村退職手当組合退職手当支給条例4条又は5条の規定による退職
手当を支給する。
     特別昇給
     定期昇給を含め2号給引き上げる。
   ③ 退職申出期間
     平成13年6月29日までとする。
   ④ 退職発令の日
     平成13年7月31日とする。
  (4)A前学校教育教育課長兼学校給食課長(以下「A前課長」という。)は,平成13年
5月1日に第1回勧奨退職者の募集に応募したが,退職希望日を同年6月2日と
したため,募集要件に該当しないとして,その応募は却下された。
    A前課長は,平成13年5月25日に普通退職願を提出したのに,被告は退職扱い
にしなかった。
    A前課長が第2回勧奨退職者の募集に応募したところ,被告は勧奨退職者の条
件に合致したとして,平成13年7月31日に退職の発令をした。
    三重県市町村職員退職手当組合は,平成13年10月15日に,A前課長に対し,
三重県市町村職員退職手当組合支給条例に基づき,退職手当(そのうち,430
万4950円は勧奨扱いにより加算された分である。)を支払った。
    楠町では,平成13年9月の議会で上記退職手当につき予算措置が取られ,同年
10月16日に被告が特別負担金(A前課長の退職手当のうち勧奨扱いにより加
算された分に相当する金額)の三重県市町村職員退職手当組合への支出負担
行為とその支出命令をした。楠町は,同月19日に,三重県市町村職員退職手
当組合に対し,特別負担金として,上記退職手当のうち勧奨扱いにより加算され
た分に相当する430万4950円を支払った。
  (5)B前社会教育課長兼楠町中央緑地公園事務所長(以下「B前課長」という。)が第
2回勧奨退職者の募集に応募したところ,被告は勧奨退職者の条件に合致した
として,平成13年7月31日にB前課長につき退職の発令をした。
    三重県市町村職員退職手当組合は,平成13年10月15日に,B前課長に対し,
三重県市町村職員退職手当組合支給条例に基づき,退職手当(そのうち,550
万7450円は勧奨扱いにより加算された分である。)を支払った。
    楠町では,平成13年9月の議会で上記退職手当につき予算措置が取られ,同年
10月16日に被告が特別負担金(B前課長の退職手当のうち勧奨扱いにより加
算された分に相当する金額)の三重県市町村職員退職手当組合への支出負担
行為とその支出命令をした。楠町は,同月19日に,三重県市町村職員退職手
当組合に対し,特別負担金として,上記退職手当のうち勧奨扱いにより加算され
た分に相当する550万7450円を支払った。
  (6)原告は,平成13年10月16日付けで,楠町監査委員に対し,地方自治法(平成
14年法律第4号による改正前のもの,以下同じ。)242条1項に基づき,「第2
回勧奨退職者の募集は無効であるから,被告は楠町に981万2400円を弁償
させる。」ことの監査請求をした(甲3)が,楠町監査委員は,平成13年12月17
日に,事務手続及び処置上に不適正な事実は指摘できるが,被告に賠償を求
めるほどの違法性はないと判断したとの監査結果報告をした(甲4)。
 3 原告の主張
  (1) 第2回勧奨退職者の募集は,第1回のわずか1か月後で,退職発令日が平成1
3年7月31日とされ,A前課長の退職に合わせた条件であり,しかも予算措置も
取られないまま行ったもので,如何にも恣意的であり,町長の裁量の範囲を逸
脱しており,違法である。
  (2)すなわち,被告はA前課長が勧奨退職者の募集をしなくても自己都合で退職する
ことを決めていたことを知りながら,A前課長に勧奨退職金を支払うために,第2
回勧奨退職者の募集をしたものである。
    通常,第1回勧奨退職者の募集のように年度初めに募集し,年度の終わりに退
職することとしているのは,退職する人があらかじめ把握でき,人事の配置が合
理的にできるように考えられたものである。年度の途中に退職希望者が明らか
になった後,その人の希望に合わせて募集し,あたかも初めて退職希望が出た
かのようにするのは,勧奨退職者募集の目的に反するし,年度が始まってしばら
くして突然退職するのでは人事の合理的配置もできず,不合理である。
    A前課長とB前課長が平成13年7月31日に退職したため,C総務課長補佐を昇
格させ,社会教育課長と中央公民館長を兼務させるという無理な人事をせざる
を得なくなった。
    また,D税務課係長は,「父親の看病のため,平成13年12月31日付けで,退職
したいので,A前課長やB前課長のように,退職勧奨者募集をしてほしい。」と被
告に頼んだが,受け入れられず,やむなく,同日付で通常退職した。
    被告は,合理的な理由もなく,好みによって,勧奨退職にしたり,しなかったりして
おり,不公平である。
  (3)上記のとおり,第2回勧奨退職者の募集は違法であるから,被告がなしたA前課
長とB前課長の退職手当(勧奨扱いにより加算された分)に相当する特別負担
金の三重県市町村職員退職手当組合への支出負担行為とその支出命令は違
法であり,これによる楠町の損害は,981万2400円である。
  (4)よって,原告は,楠町に代位して,地方自治法242条の2第1項に基づき,被告
が楠町に対し,損害賠償金981万2400円及びこれに対する特別負担金の支
払の日の翌日である平成13年10月20日以降支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金を支払うことを求める。
 4 被告の主張
  (1)A前課長は,平成13年4月に実施された人事異動前は,楠町税務課に所属して
おり,滞納税金の整理回収に顕著な功績があった。ところが,この人事異動によ
り楠町学校教育課長に配置転換になった頃から急激な体力低下にみまわれ,
課長職を全うできない健康状態になった。
  (2)被告が,平成13年4月23日,第1回勧奨退職者の募集を実施すると,A前課長
は,同年5月1日付けで応募したが,退職希望日を平成13年6月2日と記載した
ため,要件不備により却下された。その後,A前課長は,平成13年5月25日に
希望退職日を同年6月2日とする普通退職願を提出した。その際,被告はあまり
に急な話であり,わずか5日間で管理職の残務整理や仕事の引き継ぎができる
とは到底考えられなかったため,A前課長を呼んで慰留に努めた。しかし,A前
課長は「もう体力が限界にきている。」との理由で翻意する様子がなかった。
  (3)そこで,被告は,A前課長の退職の意思は固いと判断したが,同人の税務課時代
の功績が顕著であったこと,また,同人は楠町役場に就職した当時から歩行障
害を抱えていた上に,最近の急激な体力低下のため再就職は難しいと思われた
こと,加えて,同人を勧奨退職扱いにしても定年退職までに同人に支払う給与と
比較考量した場合になお経済的なメリットがあること等の事情に鑑み,A前課長
を勧奨退職扱いにしてやりたいと考えた。
    もっとも,A前課長だけを勧奨退職扱いにすると同人のみに便宜を供与すること
になり公平さにかけると判断し,他の職員にも平等に勧奨退職の機会を与える
ため,全職員に向けて勧奨退職者の募集を実施した。その結果,偶々,A前課
長と同様に退職を検討していたB前課長も第2回勧奨退職者の募集に応募し
た。
  (4)被告自身は,第2回勧奨退職者の募集を実施するに当たり,有能な若手職員を
早期に管理職に就任させ,合理的な職員構成作りを行うと共に将来発生する人
件費を抑制したいという意図も有していた。B前課長は,第2回勧奨退職者の募
集に応じて退職の決意をして応募したのであり,まさに退職の意思のない者に
退職を決意させるという本来の制度趣旨どおりの効果を上げている。
  (5)以上のとおり,第2回勧奨退職者の募集は,A前課長が応募することを前提とし
て実施されたものではあるが,被告がA前課長を勧奨退職扱いにしたのは,被
告の個人的な好みによるものではなく,被告なりに利害得失を十分熟慮した結
果であり,決して恣意的なものではない。また,第2回勧奨退職者の募集は楠町
役場に勤務する全職員に向けて実施されたものであり,不公平な募集方法では
ない。
    原告は,「年度途中を退職発令日とする勧奨退職者の募集方法が不合理であ
る。」と主張するが,楠町においては平成6年度の途中に退職したEに関しても
勧奨退職扱いがなされており,今回が特別の措置というわけではない。
    楠町は,定年退職者が多く,有能な若手職員が管理職に就任しにくいという事情
がある。被告は,この点を懸念し,従来から勧奨退職者の募集を積極的に推進
してきた。そのため,同一年度内に複数回の勧奨退職者の募集を実施してお
り,平成13年度に初めて複数回の募集が実施されたのではない。
  (6)もともと,勧奨退職者の募集方法については条例上に規定はなく,実施の時期,
実施方法,募集方法,退職発令日については全て町長の自由裁量に委ねられ
ており,第2回勧奨退職者の募集に際しその裁量権行使の濫用はないから,同
募集には何らの違法もない。
第3 当裁判所の判断
 1 上記争いのない事実等に証拠(乙3の2)及び弁論の全趣旨によれば,被告の主
張(1)ないし(3)の事実,B前課長とA前課長が平成13年7月31日に退職し,C総務
課長補佐が昇格して,社会教育課長と中央公民館長を兼務することになったこと
が認められる。
2上記認定の事実からすれば,被告は,A前課長が勧奨退職者の募集をしなくても
自己都合で退職することを決めていたことを知りながら,A前課長に勧奨退職金を
支払うために,第2回勧奨退職者の募集をしたと認められる。
   しかるに,そもそも勧奨退職者の募集をしなくても自己都合で退職することを決め
ていたことを知りながら,勧奨退職金を支払うために勧奨退職者の募集をするとい
うのは勧奨退職の目的に反するものである。また,第1回勧奨退職者の募集のよう
に年度初めに募集し,年度の終わりに退職するのは,退職する人があらかじめ把
握でき,人事の配置の観点から合理的であるといえるが,第2回勧奨退職者の募
集のように年度の途中に退職希望者が明らかになった後,その人の希望に合わせ
て募集し,あたかも初めて退職希望が出たかのようにするのは,人事配置の観点
からは不合理であるといわざるを得ず,そのため年度途中でC総務課長補佐が昇
格して,社会教育課長と中央公民館長を兼務することにもなったともいいうる。
   これらの事情からすれば,第2回勧奨退職者の募集は,全職員に向けてなされた
ものではあるが,勧奨退職募集の目的に反するといわざるを得ず,被告に裁量権
の濫用があったと認められる。
   なお,被告は,「被告自身は,第2回勧奨退職者の募集を実施するに当たり,有能
な若手職員を早期に管理職に就任させ,合理的な職員構成作りを行うと共に将来
発生する人件費を抑制したいという意図も有していた。」と主張するが,上記の人
事配置の不合理さからすれば,直ちに採用できない。
 3 そうとすれば,被告がなした第2回勧奨退職者の募集は違法であり,これを前提と
して被告がなした特別負担金(A前課長とB前課長の退職手当のうち勧奨扱いによ
り加算された分に相当する金額)の三重県市町村職員退職手当組合への支出負
担行為とその支出命令も違法であるというべきである。また,被告には,この支出
負担行為と支出命令につき,故意又は過失があったということができる。
   そして,上記争いのない事実等からすれば,この支出負担行為と支出命令による
楠町の損害は,981万2400円であると認められる。
 4 以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容すべきである。なお,本件
においては,仮執行宣言は相当ではないから,これを却下すべきである。
   よって,主文のとおり判決する。
       津地方裁判所民事部
            裁判長裁判官   内田計一
               裁判官   後藤 隆
               裁判官   大竹 貴

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