弁護士法人ITJ法律事務所

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     主         文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人玉川税務署長が控訴人P1に対して平成14年1月31日付けでし
た,控訴人P1の平成12年分所得税についての過少申告加算税の賦課決定(ただ
し,平成16年3月3日付け決定によって一部取り消された後のもの)を取り消
す。
3 被控訴人玉川税務署長が控訴人P1に対して平成14年5月28日付けでし
た,控訴人P1の平成12年分所得税についての更正(ただし,平成14年10月
24日付け異議決定によって一部取り消された後のもの)のうち,納付すべき税額
4001万3000円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定(ただし,平成
14年10月24日付け異議決定によって一部取り消された後のもの)を取り消
す。
4 被控訴人目黒税務署長が被控訴人P2に対して平成14年6月26日付けで
した,控訴人P2の平成12年分所得税についての更正のうち,納付すべき税額8
359万2300円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。
5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 控訴人ら及びP3は,昭和63年12月15日,父P4所有の原判決別紙物
件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)を代金6億8198万1608
円で共有取得し(控訴人らは各5分の2の持分),同日,安田信託銀行株式会社
(現在の「みずほ信託銀行株式会社」。以下「安田信託」という。)との間で,本
件土地及び本件土地上に建築する建物を信託財産とする信託契約を締結し(以下
「本件信託契約」といい,本件信託契約に基づく受益者の権利を「本件信託受益
権」という。),平成3年9月20日に同目録記載2の建物(以下「本件建物」と
いう。)が完成した。控訴人ら及びP3は,平成12年2月2日,安田信託との間
で,本件信託契約の変更契約を締結し,同日,ミッションアンダルシアL.L.C
に対し,本件信託受益権を
合計32億4777万3505円で譲渡した。控訴人らは,平成12年分所得税の
確定申告について,本件信託受益権の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算に当たっ
て,①本件土地を取得するための借入金に係る利子のうち本件土地から収益を上げ
ることができなかった期間に係る部分,②上記期間に係る本件土地の固定資産税及
び都市計画税,並びに③本件土地についての所有権移転登記に係る登録免許税及び
本件信託契約に基づく信託登記に係る登録免許税(以下「本件登録免許税②」とい
う。)が存在し,これらが譲渡所得の金額の計算上,総収入金額から控除されるべ
き取得費に該当するとして申告したところ,控訴人P1の申告については被控訴人
玉川税務署長から,控訴人P2の申告については被控訴人目黒税務署長から,それ
ぞれ否認され,更正及
び過少申告加算税の賦課決定を受けた。
本件は,控訴人P1が被控訴人玉川税務署長に対し(1審甲事件),また,
控訴人P2が被控訴人目黒税務署長に対し(1審乙事件),それぞれ譲渡所得の金
額の計算上,総収入金額から控除されるべき上記各取得費を控除しなかった各処分
は違法である旨主張して,それらの取消しを求める事案である。
 原審は,上記①ないし③は総収入金額から控除されるべき取得費には該当せ
ず,被控訴人らがした上記更正及び過少申告加算税の賦課決定に違法はないとして
控訴人らの請求を棄却したので,控訴人らが控訴した。
2関係法令の定め,前提事実,被控訴人らが主張する控訴人らの所得税額等,
争点,争点に関する当事者の主張の要旨は,次のとおり,原判決を訂正し,当審に
おける控訴人らの主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」第二の二ないし
六に摘示のとおりであるから,これを引用する。
(原判決の訂正)
(1) 原判決6頁18行目の「本件信託契約」から同20行目の「目的とし」ま
でを「本件信託契約は,本件土地の上に建物(当初は,地上9階,塔屋1階建で,
延べ面積3787.13㎡,用途事務所とされていたが,平成元年4月からの法規
制の変更により,本件建物が建築された。)を建築し,本件土地と共に信託財産
(以下,本件土地及び本件建物を「本件信託財産」という。)とし,建物を第三者
へ賃貸することを目的とし」に改める。
(2) 同8頁1行目冒頭から同4行目末尾までを次のとおり改める。
「(八) 控訴人ら及びP3は,平成4年2月27日,安田信託との間で,
「土地信託変更契約書」の締結をした(甲3,8)。
(九) 控訴人ら及びP3は,平成12年2月2日,安田信託との間で,
「土地信託変更契約書」(不動産管理処分信託契約)の締結をし(以下「本件信託
変更契約」という。),本件信託契約につき,信託期間を昭和63年12月15日
から平成22年2月2日までとした(甲6の別紙G)。
 これと同時に,控訴人ら及びP3は,平成12年2月2日,ミッショ
ンアンダルシアL.L.Cに対して,本件信託受益権(本件信託変更契約における
委託者としての一切の権利義務も含まれる。)を合計32億4777万3505円
(消費税額9777万3505円を含む。)で譲渡し,同日,譲渡代金の全額を受
領した。」
(3) 同40頁18行目の「受託者」を「受益者」に改める。
(当審における控訴人らの主張)
控訴人らは,次の点を理論上の基礎として,原判決摘示の控訴人らの主張を
敷衍する。
(1) 譲渡所得の本質は,資産が譲渡によって所有者の手を離れるのを機会に,
その所有期間中の増加益を清算して課税しようとするものであるが,譲渡所得も所
得である以上,その課税標準は,「人の担税力を増加させる経済的利益」として把
握されなければならないから,譲渡所得の計算上,取得費を控除するのは,資産の
値上がり益から「担税力を増加させる経済的利得」に該当しない部分の金額を控除
する趣旨であり,本件土地を使用できない期間の借入利子及び同期間に応じた公租
公課は,担税力を減少させるものであるから,本件信託受益権の譲渡益から控除さ
れるべき取得費に該当する。
(2) 本件譲渡資産は,本件信託受益権であり,本件土地及び本件建物そのもの
が譲渡されたわけではないから,本件信託受益権の取得費を譲渡の収入金額から控
除して譲渡所得を算定すべきである。
  したがって,本件建物が平成3年9月に完成し本件信託受益権が発生する
までの間に支出した本件借入金利子は本件土地をその取得に係る用途に供する上で
必要な準備費用,本件公租公課は本件信託受益権を取得するまでの準備費用という
ことができ本件信託受益権を取得するための付随費用として,また,本件登録免許
税②は本件信託受益権の「取得に要する費用」として,いずれも取得費の算入が認
められるべきである。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由
は,次のとおり,原判決を訂正し,当審における控訴人らの主張に対する判断を付
加するほか,原判決の「事実及び理由」第三の一ないし五に説示のとおりであるか
ら,これを引用する。
1 原判決の訂正
(1) 原判決49頁11行目冒頭から同15行目末尾までを次のとおり改める。
「 本件信託契約は,本件土地の上に建物を建築し,本件土地と共に信託財
産とし,建物を第三者へ賃貸することを目的とし,受益者を委託者である控訴人ら
及びP3とし,受託者である安田信託が本件信託財産を管理・運営するものであ
り,信託期間は,契約日から昭和78年12月31日までとされていた。
  本件信託契約では,信託の元本は,①本件信託財産及び本件信託財産に
関して取得した敷金・入居保証金等,②信託された金銭,③本件信託財産の代償と
して取得した財産,④借入金債務及び本件信託財産の賃貸に関して受入れた敷金・
入居保証金等の返還債務,⑤その他これらに準ずる資産及び債務とされ,信託の収
益は,本件信託財産より生ずる賃貸料及び信託財産に属する金銭の運用により生ず
る利益等とされていた。」
(2) 同52頁9行目末尾に「控訴人らは,上記③ないし⑥については,その1
0%を本件土地に係る支払利息として土地の取得費とし,また,①については,平
成2年分の不動産所得の必要経費に138万8594円を,本件土地の取得費に3
29万4123円を振り分けした。」を加える。
(3) 同52頁10行目冒頭から同57頁9行目末尾までを次のとおり改める。
「8 本件建物は,平成3年10月1日からソニーが賃借し,その期間は,
平成13年9月30日までの10年間であり,本件信託契約は平成15年12月3
1日までとされていた。
 控訴人ら及びP3は,借入金の返済について,バブル景気の時代であ
った計画の当初は心配していなかったが,その後の景気低迷により,ソニーに撤退
されると多額の借入金の返済ができなくなるおそれが生じたことから,本件信託受
益権を譲渡して借入金の返済をする方がよいのではないかと考えるようになり,買
主を探したところ,ミッションアンダルシアL.L.Cが購入することになった。
 そこで,控訴人ら及びP3は,平成12年2月2日,安田信託との間
で,「土地信託変更契約書」(不動産管理処分信託契約)の締結をして本件信託変
更契約をし,信託期間を昭和63年12月15日から平成22年2月2日までとす
る等の契約内容の変更をし,同時に,平成12年2月2日,ミッションアンダルシ
アL.L.Cに対して,本件信託受益権(本件信託変更契約における委託者として
の一切の権利義務も含まれる。)を合計32億4777万3505円(消費税額9
777万3505円を含む。)で譲渡し,同日,譲渡代金の全額を受領した。
二 譲渡所得における取得費の解釈について
1 所得税法は,所得の発生原因により10種類の各種所得を規定し(所
得税法2条1項21号),それぞれの所得の性質,担税力の相違に応じた計算方法
を規定する。たとえば,各種所得における収入金額から控除すべき金額について
も,純所得への課税を目的とする不動産所得,事業所得,雑所得については,必要
経費として当該所得の総収入金額を得るため「直接に要した費用の額及びその年に
おける販売費,一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用
の額」と規定し(同法37条1項),資産の所有期間中の増加益への課税を目的と
する譲渡所得にあっては,取得費として「その資産の取得に要した金額並びに設備
費及び改良費の額の合計額」と規定する(同法38条)。その上で,退職所得金額
及び山林所得金額以外の
8種の所得については各所得の金額を合計した総所得金額をもって課税所得とする
ことを原則としている(同法21条,22条)。このような所得税法の仕組みに照
らせば,譲渡所得の取得費についても,まず法の文言をその文意及び譲渡所得の性
質から読み取るとともに,文理解釈のみでの調整が困難であるときは納税者に有利
な調整を含めて,他の各種所得との間で整合性を保つよう解釈する必要がある。
2 譲渡所得の本質は,キャビタル・ゲイン,すなわち所有資産の価値の
増加益であって,譲渡所得に対する課税は,資産が譲渡によって所有者の手を離れ
るのを機会に,その所有期間中の増加益を清算して課税しようとするものである
(最高裁判所昭和43年10月31日第一小法廷判決・裁判集民事92号797
頁,最高裁判所昭和47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号208
3頁参照)。このように譲渡所得課税は資産の保有期間中これを使用する利益を考
慮に入れるものではない。また,譲渡資産の取得時の交換価値を構成する金額,譲
渡資産の価値を増加させるのに要した費用及び資産価値を実現する譲渡に要した費
用は,課税対象利益であるキャビタル・ゲインを享受するために不可欠な支出であ
り,総収入金額のうちこの
部分に担税力を見出すことはできない。そこで,譲渡所得の金額は,譲渡所得に係
る総収入金額からその譲渡所得の基因となった資産の取得費及び譲渡費用の合計額
を控除し,その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とされ(所
得税法33条3項),この資産の取得費とは,当該資産が時の経過により減価する
資産(減価資産)でないときはその資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良
費の合計額をいい,譲渡資産が減価資産であるときは,その合計額からその保有期
間中の減価の額を控除した金額とされている(同法38条)。
  なお,「その資産の取得に要した金額」には,当該資産の客観的価値
を構成すべき取得代価のほか,当該資産を取得するための付随費用も含まれると解
されるが,その文理に即して考えれば,この付随費用も,当該資産の取得に通常,
必要不可欠な費用と解すべきであり,当該資産の取得に際して支出された費用であ
っても,それを利用するための維持,管理に必要な費用を含まないと解すべきであ
る。
三 本件借入金利子について
1本件借入金利子は,控訴人らが支払った本件土地を取得するための借
入金に係る利子のうち平成2年2月1日から平成3年9月30日までの間に係る部
分である。そこで,固定資産を取得するために借り入れた資金の利子がその固定資
産を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に算入されるか否かに
ついて検討する。
(一) 固定資産を購入する者が,その購入資金を借入れにより賄う場合
には,借入金の利子の支払が必要となるが,この利子をもって,当該固定資産を取
得するための取得代価又は付随費用ということはできない。なぜならば,購入資金
の借入金利子が取得代価を構成しないことは明らかであり,また,購入資金の調達
方法を借入金によるか自己資金によるか,いくらまでを借入金によるかは購入者の
有する資産の全般的運用に関する判断によるものであり,固定資産の取得に当然に
借入れが付随する関係にはないから,一般に,上記借入金の利子が当該固定資産を
取得するための付随費用ということもできない。このことは,購入資金に相当する
金銭を別途運用しながら購入資金を借り入れる場合,あるいは,当該土地の購入資
金を自己資金で賄ったが
故に,資金需要が逼迫し,購入資金相当額を借り入れる場合を想定対比してみれば
明らかである。したがって,上記借入金の利子は,原則として譲渡所得の金額の計
算上,所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に該当しないものと
解すべきである。
  さらに,融資により不動産を取得した場合の借入金の利子などのよ
うに,不動産の取得後に,その不動産に関連して支出した種々の金員を無限定に当
該不動産の取得費に算入することを許すと,その支出の原因となる契約の内容,締
結時期等,当事者が任意に定め得る事柄によって取得費の額が左右されることとな
る。また,有価証券を売却したり,預貯金を取り崩して不動産を取得した者も,こ
れらによる将来の見込利益を喪失しているわけであるが,この見込み利益を取得費
に算入する余地はないことと対比すれば,借入利子を取得費とするときは,種々の
立場の者につき公正な課税を行うことが困難になるといわざるを得ない。
(二) もっとも,個人が不動産を取得する場合などには,一般的には,
資産運用上の配慮よりも購入資金の不足が借入れの原因となっており,その借入れ
なくしては当該資産を取得することができない関係にある。また,資産を取得した
としても即座に当該資産を使用することができるとは限らず,当該資産の使用を開
始するまでに多少なりとも時間がかかる場合があり得る。このような場合,資産を
使用することなく利子の支払を余儀なくされるところ,即座に利用可能な状態で資
産を購入した場合には利用利益のための費用と解することができ,不動産所得等に
あってはその金額の計算上は,必要費用に算入することができることと比べて,課
税上の均衡を失することになる。さらに,資産を譲渡する者が,取得する者の意向
に沿って,時間と手間を
かけて即座に利用可能な状態で資産を譲り渡した場合,これらの費用を含めて取得
代価の額が形成され,これらの費用が「資産の取得に要した費用」を構成すること
との均衡を図る必要もある。
 このような関係からすると,譲受人が使用していない固定資産を取
得する場合には,その資産の使用を開始し得るまでの期間に対応する借入金利子
は,通常必要と認められる範囲で,当該資産をその取得に係る用途に供する上で必
要な準備費用と解する余地が生ずる。この場合に,使用を開始し得る時期の認定の
不安定さを避け,課税の公平を保持するとの観点から,その資産の使用を開始する
までの期間に対応する借入金利子を当該資産を取得するための付随費用に当たるも
のとして,所得税法38条1項にいう「資産の取得に要した費用」に含まれると解
することも所得税法の趣旨に合致するものということができる。
  しかし,この取扱いは,借入金利子負担の費用への配分という観点
から,同項にいう「資産の取得に要した費用」の範囲を拡大して処理するものであ
り,当該資産の使用の有無ないし使用開始の日を判断するに当たっては,その使用
方法が当該資産の価値に見合う収益を生ずるものであるか否か,取得者が当該資産
を取得した目的や資産の利用方法に関する意図等,取得者の主観的な事情を考慮す
ることなく,客観的に「使用の有無ないし使用開始の日」を認定するのが相当であ
る。資産をどのように利用するかは,利用者の自由にまかされていることであるか
ら,譲渡所得の算定に当たり使用方法の内容に立ち入ることは相当ではなく,ま
た,取得者の主観的事情によって,当該資産取得のための借入金の利子が取得費に
算入できるか否かが異な
り得ることとなれば,当該資産の使用開始可能性を判断する場合以上に,課税をめ
ぐる法律関係の安定性や租税負担の公平を損なう結果となるからである。
(三) また,譲受人が借入金により取得した固定資産を取得した当初か
ら使用していた場合や,取得した当初は未使用であったが,その後いったん使用し
始めた後に譲渡した場合には,その固定資産について使用開始後譲渡の日までの間
に使用しなかった中断期間があったとしても,その使用しなかった期間に対応する
借入金の利子とその資産の取得との間に前記(二)に判示したような関係があるとは
認め難い。また,使用開始をした後に,使用の中断が生じ,その後,当該固定資産
の利用状況が変更されたからといって,その変更後の状態によって借入金の利子を
取得費に算入すべきであるとする合理的な理由も認められない。
 したがって,借入金により固定資産を取得した場合であっても,当
初から使用中の固定資産であったり,あるいは,いったん使用を開始した場合に
は,使用の中断期間があったとしても,使用開始後譲渡までの日の期間に対応する
借入金の利子は,原則どおり,その固定資産の取得費又は取得価額に算入すべきで
はない。」
(4) 同57頁10行目の「4」を「2」に,同58頁3行目の「5」を「3」
に,同22行目の「6」を「4」に,同59頁3行目の「三」を「四」に改める。
(5) 同60頁2行目冒頭から同頁9行目末尾までを次のとおり改める。
「4 控訴人らは,本件公租公課は,本件土地を取得し,本件建物を建て,
譲渡に係る資産である本件信託受益権を取得するための準備費用ということがで
き,当該不動産を取得するための付随費用に当たるものとして,「資産の取得に要
した金額」に含まれる旨主張する。
 しかし,控訴人らは,本件土地を取得した結果として,本件建物の建
築期間を含めて本件公租公課を負担することになったのであって,本件信託受益権
を取得するための準備費用として本件公租公課を負担したのではない。控訴人らの
上記主張は,固定資産税及び都市計画税の性質を無視した独自の主張をするもので
あって,採用することができない。」
(6) 同60頁13行目冒頭から同63頁11行目末尾までを次のとおり改め
る。
  「四本件各登録免許税について
1 業務の用に供される資産の取得に伴い支出された登録免許税が,当該
資産を譲渡した場合の譲渡所得の計算上,取得費に含まれるか否かについて検討す
る。
2 所得税法38条1項に規定する資産の取得費のうち「その資産の取得
に要した金額」には,当該資産の客観的価値を構成すべき取得代価のほか,当該資
産を取得するために通常,必要不可欠な付随費用も含まれることは既に説示したと
おりである。
  不動産所有権を取得した場合の所有権の移転登記は,一般に,所有権
の取得に関する費用ということができるが,他方で,所有者としての不動産利用の
前提となる手続ということもできる。その意味で,所得税法上,登録免許税を各種
所得の必要経費として扱うか,譲渡所得における取得費における付随費用として扱
うかは,文言及び課税の公平をも考慮した判断を要するものといえる。
  「取得に要した」との文言からは,取得費用は,通常,その費用なし
では当該資産を取得することができないか,著しく困難になるような費用であり,
当該資産を取得した後の権利の確保に関する費用を含まないと解されるから,対抗
要件としての登記,登録に係る登録免許税は,譲渡所得における取得費には含まれ
ず,むしろ,不動産所得,事業所得等を生ずべき業務について生じた費用(所得税
法37条1項)と解することが文理に沿うものということができる。ただし,当該
不動産が業務用資産ではなく,当該不動産について不動産所得,事業所得等が生じ
ない場合には,これらの所得における必要経費とする余地はないから,課税の公平
の観点からも,当該資産が譲渡されたときは,付随費用として,その譲渡所得にお
ける取得費に含めるこ
とが合理的である。
3 ところで,所得税基本通達37-5は,「業務の用に供される資産に
係る固定資産税,登録免許税(登録に要する費用を含み,その資産の取得価額に算
入されるものを除く。),不動産取得税,地価税,特別土地保有税,事業所税,自
動車取得税等は,当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入する。」
とし,同通達38-9は,「固定資産(業務の用に供されるものを除く。以下この
項において同じ。)に係る登録免許税(登録に要する費用を含む。),不動産取得
税等固定資産の取得に伴い納付することとなる租税公課は,当該固定資産の取得費
に算入する。」としている。これは,個人の非業務用資産については,①取得費に
含まれない支出は,家事費として,各種所得金額の計算上,控除することができな
いこと,②非業務用資
産として取得したとしてもその後業務用資産に転用されることがあり得ること,③
企業会計上の扱いや法人税における取扱いに照らせば,非業務用の固定資産の登録
免許税を取得費に加えないことについての不公平感も否定し難いところがあること
などから,通達において譲渡所得の計算上,取得費に算入することとし,取得費の
範囲を政策的に拡大しているものと考えられ,これを違法というべきではないが,
この政策的な取得費の拡大を原則とし,業務の用に供される資産についても,上記
登録免許税が取得費に含まれると解すべきものではない。
4 減価償却資産の譲渡所得における取得費については,資産の取得に要
した金額並びに設備費及び改良費の合計額に相当する金額から業務の用に供されて
いた期間の償却費の額の累計及びその余の期間の減価の額の合計額を控除したもの
とされ(所得税法38条2項),所得税法施行令126条1項の規定は,不動産所
得,事業所得等の必要経費に算入すべき償却費の計算における取得価額につき当該
資産の購入の代価に購入のために要した費用を加算した金額と規定する。したがっ
て,減価償却資産については,譲渡所得において控除される取得費と不動産所得,
事業所得等の必要経費に算入すべき償却費の計算における取得価額との間に解釈の
不一致を生じないような解釈をとるべきである。
  この点につき,資産の取得価額に算入される登録免許税に関する所得
税基本通達49-3は,「減価償却資産に係る登録免許税(登録を要する費用を含
む。)をその資産の取得価額に算入するかどうかについては,次による。(1) 特許
権,鉱業権のように登録により権利が発生する資産に係るものは,取得価額に算入
する。(2) 船舶,航空機,自動車のように業務の用に供するについて登録を要する
資産に係るものは,取得価額に算入しないことができる。(3) (1)及び(2)以外の資
産に係るものは,取得価額に算入しない。」としている。すなわち,登録が単に対
抗要件に止まらず権利の取得要件とされる(1)の資産については,取得価額に算入し
た上,償却費として経費化され,上記(2)の業務の用に供するについて登録を要する
資産について支出した登
録免許税も,単なる対抗要件に止まらず,その支出が資産取得のためにされ,業務
の用に供されるためのものであるから,本来取得価額に算入すべきであるが,その
支出が資産の取得後にされることを考慮し,取得価額に算入するか否かを納税者の
選択に任せることとし,事務所・店舗等の不動産の所有権保存登記等の登録免許税
のように(3)に属するものは,業務上の維持管理上の費用に属するものであり,取得
価額に算入する性質のものではないから,全額必要経費に算入することとされてお
り,上記説示とも一致する。
5 なお,法人税法における減価償却資産の取得価額についての法人税法
施行令54条の規定は,上記の所得税法施行令126条1項の規定と同様の規定ぶ
りでありながら,減価償却費の計算における取得価額に登録免許税を含めることが
できると解されている。これは,法人税においては,所得税のように各種所得ごと
に収入,必要経費等を規定し,各種所得間の課税の矛盾を回避するという方式では
なく,所得の性質や発生原因による区別を設けることなく,各事業年度の益金の額
から損金の額を控除した所得を課税標準としていること(法人税法21条,22条
1項),並びに収益及び損金に算入すべき金額は一般に公正妥当と認められる会計
処理の基準により計算することとするところ(同条4項),企業会計上,減価償却
資産の取得価額には,
付随費用を含むとされていることから,付随費用に含まれるものとして,登録免許
税等を資産の取得価額に含めることも認められているのである。このような法人税
法と所得税法との違いを考慮すれば,法人税法上費用とすることができるからとい
って,所得税法上も取得費とすることができるという根拠にはならない。
6 平成4年最高裁判決は『資産の取得に要した金額』につき,「当該資
産の客観的価格を構成すべき取得代金の額のほか,登録免許税,仲介手数料等当該
資産を取得するための付随費用の額も含まれる」と判示するが,同判決は,個人の
居住の用に供される不動産を取得するための借入金の利子が,当該不動産の譲渡に
よる譲渡所得の金額の計算上,総収入金額から控除されるべき取得費に該当するか
否かが争点となった事件に関するものであって,業務の用に供される不動産を取得
した際に支出された登録免許税についての判断を示すものではなく,上記判断に影
響を与えるものではない。」
(7) 同63頁12行目の「5」を「7」に改める。
(8) 同64頁13行目の「本件土地」の次に「ないし本件信託受益権」を加
え,同14行目の「6」を「8」に改める。
2 当審における控訴人らの主張に対する判断
(1) 譲渡所得の計算上,取得費を控除するのは,資産の譲渡に係る増加益を含
む総収入金額から「担税力を増加させる経済的利得」に該当しない部分の金額を控
除する趣旨であることは控訴人らの指摘するとおりであるが,資産の増加益を離れ
て,納税者の担税力あるいは純資産を減少させる支出が控除されるべき取得費に含
まれるものではない。論旨は,担税力あるいは純資産の減少という一般的概念をも
って,資産の取得に要する費用を論ずるものであり,文理に沿わないばかりか,各
種所得の性質及びそれに基づく計算方法の区分,ひいては,取得費と必要経費との
区別をあいまいにするものであって,採用することができない。
(2) 信託は,信託譲渡により受託者の所有名義とされた財産を信託目的に従
い,受託者が管理,処分し,信託期間中は信託収益を生ずべき財産として管理し,
信託終了時には信託契約に定める者又は委託者に返還することを趣旨とする契約で
あり,信託財産については,受託者への信託財産の譲渡,信託財産の受託者財産か
らの独立性といった信託契約に特有の性質を有するが,信託財産からの収益という
点では,信託収益は信託財産に関する管理委託契約から生ずる資産収入としての実
質を有し,また,信託受益権は信託契約上から生ずる債権であるが,信託財産の返
還請求権者が受益者である場合の信託受益権の譲渡は,実質的には,収益管理契約
上の債権債務が付随した信託財産の譲渡ということができる。所得税法は,このよ
うな信託の基本的な性
格を踏まえ,同法13条1項ただし書に定める信託を除き,信託財産に帰せられる
収入・支出につき,受益者が特定している場合には受益者が信託財産を有するもの
とみなして所得税法の規定を適用する旨規定する。すなわち,受益者が特定してい
る場合には,受益者が信託財産を有して,信託財産からの収入を得,信託財産への
支出をしたものとして,所得税法の規定が適用される。したがって,信託財産の譲
渡による譲渡所得については,譲渡に係る所得も譲渡にかかる取得費,譲渡費用も
受益者に帰属するものとして譲渡所得の計算がされることになるし,信託受益権の
譲渡も,所得課税の原因は,原則として,信託財産の譲渡と解すべきことになる。
  既に認定したとおり,控訴人ら及びP3は,控訴人らが所有していた本件
土地上に本件建物を建築し,これを賃貸管理することを趣旨として,安田信託との
間において,控訴人ら及びP3を委託者,安田信託を受託者として,本件信託契約
を締結し,さらに,控訴人ら及びP3を受益者として,①本件信託財産及び本件信
託財産に関して取得した敷金・入居保証金等,②信託された金銭,③本件信託財産
の代償として取得した財産,④借入金債務及び本件信託財産の賃貸に関して受入れ
た敷金・入居保証金等の返還債務,⑤その他これらに準ずる資産及び債務を信託元
本とし,本件信託財産より生ずる賃貸料及び信託財産に属する金銭の運用により生
ずる利益等を信託の収益とする本件信託受益権を設定し,本件信託財産は受託者で
ある安田信託が引き
続き有していたところ,控訴人ら及びP3が本件信託受益権を譲渡したものであ
る。
 そうすると,控訴人らによる本件信託受益権の譲渡に係る取得費の計算に
ついては,信託の設定により委託者から受託者へ移転し,その受託者が引き続き有
しているものである本件土地に関しては,控訴人らが本件土地を引き続き有してい
るものとして,所得税法38条の規定を適用して計算することとなるから,譲渡所
得に係る取得費も,本件信託受益権を取得するまでの準備費用等としてではなく,
本件土地の取得費として検討すべきものである。したがって,本件信託受益権を固
有の譲渡資産とし,これを取得するための付随費用として取得費の算入を検討すべ
き旨の控訴人らの主張は採用できない。
3 よって,原判決は相当であり,控訴人らの本件控訴は理由がないのでいずれ
も棄却することとして,主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第11民事部
      裁判長裁判官    富   越   和   厚
           裁判官    桐 ヶ 谷   敬   三
裁判官佐   藤   道   明

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