弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
申請人等が被申請人との間にそれぞれ雇傭契約上の権利を有することを仮りに定め
る。
被申請人は昭和四七年三月四日以降本案判決確定にいたるまで、毎月二五日限り一
ケ月当り申請人Aに金五万四、〇四〇円、同Bに金五万六、九八○円、同Cに金四
万六、五〇〇円、同Dに金五万五〇円、同Eに金五万四、三五〇円をそれぞれ仮り
に支払え。
訴訟費用は被申請人の負担とする。
       事   実
第一、当事者の求める裁判。
申請人等代理人は主文第一項同旨及び被申請人は昭和四七年三月四日以降本案判決
確定にいたるまで、毎月二五日限り一月あたり申請人Aに対し五万四、五二三円同
Bに対し五万七、四六〇円同Cに対し四万七、五九二円同Dに対し五万五四六円同
Eに対し五万四、三五〇円をそれぞれ仮りに支払え、訴訟費用は被申請人の負担と
するとの判決を求め、被申請人代理人は本件仮処分申請を棄却する、訴訟費用は申
請人等の負担とするとの判決を求めた。
第二、申請の理由。
一、被申請人は(1)観光開発並びにその設営及び管理(2)各種食料品、土産物
及び酒類の販売並びに売店飲食店の経営(3)菓子の製造並びに販売(4)不動産
の売買及び仲介(5)自動車運送事業(6)石油製品及びその容器の販売(7)旅
館の経営並びに旅客の斡旋事業(8)右に付帯する一切の業務、を業とする株式会
社で申請人Aは昭和四一年三月同Bは昭和三七年一一月同Cは昭和四一年三月同D
は昭和三七年七月同Eは昭和三六年五月何れも被申請人会社に入社した従業員であ
る。
二、被申請人は創立以来従業員の定年を定めず高令者も多数就労して来た。ところ
が被申請人は昭和四六年六月一日就業規則を変更して定年制を定め、昭和四六年六
月五日右規則において定められた定年退職規程を実施した。
右就業規則、定年退職規程によれば男子従業員は満五七才女子従業員は満四七才を
もつて定年とされ、過渡的に昭和四六年六月五日既に右年令を過ぎている者で、女
子は四七才から五〇才未満の者については九か月実施を猶予することとされてい
る。
申請人等は何れも昭和四六年六月五日の時点で四七才以上五〇才未満の年令にあ
り、右就業規則、定年退職規程によれば昭和四七年三月四日定年に達したものとし
て右該当者の立場にある。しかし乍ら右就業規則、定年退職規程はつぎの理由によ
り違法且つ無効である。
(一) 右就業規則、定年退職規程は女子労働者を女子であるが故に男子労働者と
差別するもので、憲法第一四条労働基準法第三条、第四条に違反するものとして民
法第九〇条により無効である。即ち、
申請人A同Dは営業課食堂係に所属し「そば」の売渡しに、申請人Bは管理課清掃
係に所属し園内の清掃に、申請人Cは営業課食堂係所属調理補助として調理室での
仕込みに、申請人Eは営業課食堂係所属調理師として調理師業務にそれぞれ従事し
ているものであり、その職務内容によれば男子労働者と差別した定年制を定める理
由はなく、従来も申請人等より相当高令な女子従業員が右の如き業務に支障なく従
事して来ており、申請人等はいわば働き盛りの年令にあるものとしておのおのその
課せられた業務に専念して来た。申請人等の職務内容を詳述すれば、先づ「そば」
売渡し業務の内容は、いわゆる立食い「そば」を売る仕事で薬味に使用するねぎを
刻み汁をこしてガス火であたため、袋入りの「そば」を袋から出して湯を通し容器
に入れた上温めた汁をかけて客に供し、食後の容器洗浄代金の受領時としてはその
外調理補助も行い、また夏季に「氷」冬季に「おでん」などをあわせて販売するこ
とにあり主として手先きの仕事である。また調理補助の業務内容は食堂に来る予約
客一般客の出足をみて材料を調え、キャベツ玉ねぎパセりなどの野菜をきざみ、
魚、カツレツなどの下ごしらえ、炊飯、時として調理師不在の場合には玉子丼親子
丼などを調理するもので主として手先きの仕事である。調理師業務も同様に食堂の
各調理部門において責任者の立場に立ち経験を積むにしたがい熟練の度を加えいわ
ゆる腕のよさ-調理技術-を要求される仕事である。また清掃業務は男子従業員も
従事しているが、男子はパツカ-車(ごみ収集車)を運転し女子は便所手洗の清
掃、ごみ集め、草とり、園内道の整備等いわゆる雑役的な仕事に従事するもので健
康勤勉であれば十分にこなせる仕事内容である。
このような業務は何れも四七才と云う年令を超えても何等支障なくなし得る仕事で
あり、従来も相当高令者が十分にやりこなして来たのである。これを突然女子なる
が故に一律男子よりも一〇才も低い四七才定年制をしいたことは何等合理性なく専
ら性別を理由とした差別労働条件を定めたものであつて労働法上の公の秩序を害す
るものとして民法第九〇条違反の行為と云わざるを得ない。
(二) 本件定年制制定以前は被申請人会社に定年の定めなく、これを新しく導入
した就業規則は従来の就業規則を変更するものであるが、右変更は労働者の権利に
関する労働条件の不利益な変更であり労働者の同意を要すると解されるところ、被
申請人会社につとめる労働者は会社の業務内容が中高年令者にも適し、働ける限り
働いてよいと云う明示黙示の合意の下に就職し労働して来たものであつて、被申請
人の定年制実施に対し終始反対の意思を表示して来た。しかるに被申請人は被申請
人会社従業員が組織する労働組合の意向を無視し、一方的に昭和四六年六月一日定
年制を定めるとして既成事実として本件定年制を押しつけて来た。本件定年制実施
は労働者の生存そのものにかかわる重大な労働条件の変更であり労働者の同意のな
い限り無効である。
(三) さらに本件定年制の制定は権利濫用であつて無効といわざるを得ない。被
申請人は前述するように女子労働者を差別する定年制を施行した上「定年制実施に
伴う経過措置」において定年退職者を再雇傭し嘱託とすること、その場合の賃金を
従来の賃金の七〇パーセントとすることを定めている。右再雇傭制度は被申請人が
四七才以上の女子労働者の労働力を必要とし、且つそれらの女子労働者が十分に労
働能力を有することの証左である。一方四七才以上の女子労働者は被申請人におい
てその労働力を必要としながら賃金を低下させられ、不安定な低労働条件下におか
れることとなるのであつて、このような女子労働者のみが故なく労働と生活の場と
を奪われ大きな打撃を受ける結果となる本件定年制は、女子労働者の生存権と労働
権を何らの合理的理由なく奪うものであり権利の濫用として無効である。
三、申請人等は労働者であつて賃金を生活の糧を得る唯一のものとしている者達で
あるところ、本件差別定年制の施行によつて一定の年令に達すると雇傭関係終了の
効果を生ずることになつて実質上解雇され生活の手段を失うにいたつている。
申請人等は雇傭契約存在確認の訴を提起すべく準備中であるが、本案判決の確定を
まつては申請人等の生活が維持されない。
申請人等の賃金は前月二一日より当月二〇日締め当月二五日払と定められており、
本件解雇直前の昭和四七年二月分の賃金として申請人Aは基本賃金五万四、〇四〇
円休日出勤手当四八三円計五万四、五二三円、同Bは基本賃金五万五、六八○円業
務手当一、三〇〇円休日出勤手当四八〇円計五万七、四六〇円、同Cは基本賃金四
万六、〇〇〇円時間外手当六三二円住宅手当五〇〇円休日出動手当四六〇円計四万
七、五九二円、同Dは基本賃金四万九、五五〇円生宅手当五〇〇円休日出勤手当四
九六円計五万五四六円、同Eは基本賃金五万三、八五○円住宅手当五〇〇円計五万
四、三五〇円をそれぞれ得ていた。本件解雇は前述するとおり無効であり申請人等
は昭和四七年三月分以降も右と同じ賃金を毎月二五日限り取得できる筈である。
よつて本件仮処分申請に及んだ。
第三、被申請人等の答弁及び主張。
一、被申請人が主張のような業務を内容とする株式会社であり申請人等が各その主
張の頃被申請人会社に入社したこと、被申請人が従来定年制を定めておらず昭和四
六年六月一日就業規則を変更し定年制を定めたこと、同年同月五日右規則に伴つて
定められた主張のような内容の定年退職規程を実施し主張のような経過措置をとつ
たこと、申請人等が昭和四七年三月四日定年に達した者達であること、申請人等の
従前の仕事の内容が主張のようなものであつたこと(但し申請人Bは管理課管理係
であった。)、定年後再雇傭された労働者に対して原則として従来の賃金の七〇パ
ーセントの賃金を支払うことに定めたこと、被申請人会社において従業員に対し賃
金を当月二〇日しめ当月二五日払いの方法で支払つていたこと、申請人等が昭和四
七年二月分の賃金合計として主張の金員を受領したこと(但し休日手当、時間外手
当は特殊、例外的なものであるから通常得べかりし賃金ということはできない。)
は認めるが、その余の主張は争う。
二(一) 被申請人は伊東市<以下略>に東洋一の多品種を誇るシヤボテンの展示
と小動物の放し飼、珍種植物の配置による自然公園的な伊豆シヤボテン公園を有
し、これを主体として観光レヂヤー事業を営んでいるもので昭和四六年二月当時嘱
託等を含め男子約一七〇名女子約一二五名の従業員を擁し、従業員等は昭和四〇年
頃結成された伊豆シヤボテン公園労働組合(以下単に組合という)に、女子にあつ
ては申請人等を含むほぼ全員が、男子にあつては約一五〇名位がこれに加入してい
る。
(二) 被申請人会社の従前の就業規則において「定年制は別に定める」となつて
おり未定の状態であつたところ、昭和四三年末頃よりその制定を検討しその準備を
為し組合と折衝を重ねて来た。そして昭和四六年二月一七日被申請人の作成した就
業規則案定年退職規程案を組合に示し、数回折衝の後組合の修正意見を容れたもの
を同年五月一四日組合に呈示した。これとは別に被申請人は昭和四六年五月一〇日
全従業員三人に一部あて、定年退職規程による定年該当者には全員に右規程を配布
し、同日より同年同月十四日までに各職場ごとにその趣旨内容を説明し了解を求め
た。これについて従業員から特に異議はなかつた。かようにして被申請人は昭和四
六年六月一日定年退職規程を含む改正就業規則を所轄の三島労働基準監督署に提出
し同日より施行したが、組合より若干の実施延期の要請があつた。しかし被申請人
は定年退職規程は就業規則と一体を為すもので、その大巾な実施延期はできず且
つ、前記従業員に対する説明をした後も格別の異議がなかつたので、従業員から黙
示の承諾を得たものと考え同年六月五日からこれを実施することとした。
被申請人は定年退職規程実施に伴う経過措置において六ケ月九ケ月一ケ年の実施猶
予を定めていたが、昭和四六年一二月四日にはその猶予期間が終り最初の定年該当
者が出るので、それまでには組合との間で右退職制度を労働協約として文書による
合意の取交しを得たいと考えていたところ、昭和四六年一二月四日右趣旨の確認書
を組合と取交すこととなつた。右は組合が被申請人の実施した本件定年退職規程及
びその経過措置を明示的に承認し、且つこの承諾を前提とした上での労働者の労働
条件に関する労働組合法上の労働協約を被申請人と締結したものである。右組合と
取交した書面はその題名を確認書という表現を用いているけれども、その内容が労
働協約であることは明らかでありまた、とくにその文面中に定年年令を明規してい
なくとも本件定年制を前提としてこれに伴う諸条項を定めていることは右取交しの
趣旨や文面自体から自明のことである。かようにして組合との間に締結された右労
働協約は個々の労働者の承認以上に強い意味をもつものであつて被申請人がその内
容に拘束されるのは勿論であるが、同時に労働者側をも個々の労働者の同意の有無
に拘らず拘束力を有するものであることは当然である。
ところで労働協約は労働組合法に基づくものであり、同法が労働者保護の立場から
の立法であつてみれば、その枠内で成立した労働協約は元来合理的なものの筈であ
る。即ち労働協約は労働者を労働組合と云う団結組織にして使用者と対等的な立場
に引上げた上で締結されるもので、法制的に合理的な考慮に裏打ちされたものであ
る。そして協約締結に当つては組合の内部事情或いは労使を取りまく諸条件など、
その他諸々の具体的状況を検討した上でその結論を引出す筈であり、組合としてこ
れを締結したということはその検討の結果不合理なものを感じなかつたからであ
る、と云わなければならない。労働者保護の立場での枠内で成立した労働協約は、
即合理的なものであつて後に内容の合理性を検討すると云うことは本来考慮外のこ
とである。換言すれば労働協約の内容は労使をとりまく諸状況によつて異るべき
で、それについてはその不合理性が極めて明白なものでない限り組合のいわば自治
にまかせられていると考えるべきである。本件定年制についてもこれにつき労働協
約が成立した以上合理性の考慮の範囲内とすべきである。被申請人が前記確認書と
称する労働協約を締結した相手方である組合は、企業内組合であるとしても決して
御用組合であるようなことはなく、被申請人とは対等な立場で交渉に当つており自
主的なものであつた。
(三) 定年制の問題は労働条件の一内容であり就業規則をもつて画一的に定める
場合に、結果として従前の労働条件に不利益に作用するものであるとしても、本来
就業規則の法的性質からみて個々の労働者の同意を得なければならないものではな
いが、本件定年制制定については縷述するように被申請人会社の労働者で組織する
組合の同意を得ているので申請人の主張は失当である。
なおEを除くその余の申請人等は本件定年退職規程、その経過措置及び労働協約た
る前記確認書を承知し、何れも昭和四七年二月二〇日右に基づく再雇傭を被申請人
に対し申出ている。右申出は本件定年退職制度の同意を前提とすることは云うまで
もなく、右定年制を合理的なものと信じていた証拠である。
三、被申請人が本件定年制を制定するにいたつた事情を詳述するとつぎのようなも
のである。
(一) 被申請人は昭和四一年頃までは何ら計画的な雇傭管理を行わず必要の都度
中途採用をして来たため、中高年層が人員構成において大きな比重を占めて来てお
り、レヂヤー産業にとつて欠くべからざる若年女子労働力に不足を来たし、人員構
成の新陳代謝が内外から強く要求されて来た。一方売上高に対する人件費の占める
割合も嵩み経営上由々しい問題となつて来た。昭和四六年二月一日の調査によると
被申請人会社の昭和四五年度の売上高は一九億八、○○○万円であつたが、これに
対する人件費は約四億一、〇〇〇万円位であり売上高に対する人件費の割合は約二
〇・七パーセントであつた。中小企業庁編の中小企業の経営指標によると、業種的
にみて被申請人の場合、通常人件費は売上高の一五パーセント以内でなければ健全
な企業経営はできないと考えられる。右を比較考量すると被申請人は人件費の割合
が通常のケースよりも五・七(金額にして一億一、三〇〇万円)も超過しているこ
とがわかり、さらに当時の賃金事情を考慮して右割合を一八パーセントまで許容す
るにしても二・七(五、四〇〇万円相当)超過している。人件費が年に一七パーセ
ントづつ上昇すると昭和四六年度には総額四億八、〇〇〇万円弱、昭和四七年度に
は五億六、〇〇〇万円、昭和四八年度には六億五、〇〇〇万円強となり、この人件
費上昇率に基づき売上高対人件費の割合が一八パーセントになるように売上高を試
算すると、昭和四五年度二二億七、〇〇〇万円、昭和四六年度二六億六、〇〇〇万
円、昭和四七年度三一億一、○〇〇万円、昭和四八年度三六億三、〇〇〇万円とな
り、昭和四八年度には昭和四五年度の実売上高の八割増しの売上高がなければなら
ないことがわかつた。しかし現実の売上高はほぼ横ばいが推定されたので人件比率
は昭和四六年度二四・一パーセント、昭和四七年度二八・二パーセント、昭和四八
年度三三パー七ントとなることとなり経営破綻が必至であつた。このため被申請人
としては当面の危機を打開するべく徹底した経営の改善と省略化をはかり、且つ思
いきつた売上増進策をはかると共に労務コストの低減をはからざるを得なかつた。
ところで右労務コストの低減化を考えた場合被申請人会社における年令別社員構成
を図型化すると、「ひょうたん型」ないし「提灯型」であつたためこのまま推移す
れば「逆ピラミッド型」となことが想定され、老令者が増加するため若年者が入社
する余地なく、しかも限られた管理職以外老令者に適する職場がないと云う事情、
及び労働者の高令化による実質的労働価値の逓減にも拘らず年功序列型賃金である
ため、かえつて賃金が逓増すると云う弊害を是正する必要性などを併せ考え、どう
しても定年制をしかざるを得なかつたのである。
(二) ところで被申請人会社における男女共通の職場と云えば事務職と調理師職
のみであり、他の職種は女子のみ又は男子のみに適している。そして事務職と調理
師職とに女子の占める割合は二〇パーセント弱にすぎない。換言すれば全従業員中
八○パーセント強が女子のみに適する職種に勤務していることになり、女子につい
て男子とは別個に定年制を定める合理的根拠があつた。詳言すれば、
(1) 被申請人会社の職種は事務職、販売職、調理師職、調理補助職、ウエイト
レス職、作業員職、植物職、動物職、不動産セールス職、自動車運転士職、管理職
(課長以上)に分類できるが右のうち調理補助職とウエイトレス職は女子のみに適
し男子には適さない。そして右二つの職種に女子の占める割合は全女子従業員中三
一ないし三二パーセントである。
(2) 管理職について理論上は男女に適不適の別はないが被申請人会社の場合、
その所在地が伊東、熱川間に所在する富戸という山中で募集可能な女子従業員はそ
の殆どが富戸周辺の居住者で、二〇才以下で就職するものは大部分二三ないし二七
才位で退職し、二五ないし三五才位の年令のものに殆ど応募者なく、他は三五ない
し四〇才位のものでこれは家庭の主婦として子供も成長し手もとがあいたので勤め
に出ようと云う立場のものであつて管理職にむく人材ではない。
(3) 不動産セールス、自動車運転士についてもそれぞれ経験を要し、前記のよ
うな経緯で募集される女子従業員の中にその適材をみつけることは困難であり、女
子従業員自身この職種を好まない。
(4) 販売職はこれに従事する男子従業員三四ないし二四名のうち半数以上は係
長等の指導職にあり、現実に女子に適材なく残りの男子従業員は商品運搬係ゲート
苦情処理係で女子と全く異なる仕事をしており、他方女子従業員七三ないし七〇名
は売店の売子をしている。この仕事が男子に適さず女子に適していることは自明で
ある。このように同じ販売職でも男女の仕事は全く異なり売店の売子という仕事に
限れば女子のみに適する職種である。
(5) 作業員職は造園、草木の伐採、道路舗装、水道工事、警備等の仕事で職人
的要素を含むと共に専門職化しており女子従業負には不適である。因みに昭和四五
年度にはこの部門に一七名の女子がいたがこれは老令化した女子従業員を他の職種
に配置できずやむなく清掃係に配置したにすぎない。
(6) 植物職、動物職は学問的要素を要すると共に専門職化しているので前記事
情のもとに採用された女子には不向きであつて、この部門に配置してある女子若干
名は他の職種に配置できない老令者をやむなく清掃に使用しているにすぎない。
(7) 事務職については男子従業員二一ないし三一名中二〇名以上は指導職で管
理的な仕事に従事しており、これに女子が不向きのことは前記女子採用事情から明
らかであるからこの職種においても男女の仕事の内容は異つている。
以上のように被申請人会社においては女子従業員の採用時の事情と職種内容から、
女子向きの職場と男子向きの職場とが完全に区分されており一〇〇パーセント女子
は女子向きの仕事に従事していると云わざるを得ず、ここに男子と女子とを特に別
個の見地からその仕事内容に従い定年制を定める合理的根拠があるのである。
(三) かようにして被申請人会社においては、女子従業員の職場は定型的で頭脳
労働をあまり要しない事務にたづさわっている女子を除き、販売、調理補助、ウエ
イトレスなど敏速な肉体労働を要する仕事に限られ、観光事業のため繁忙時は春、
秋及び土曜、日曜に集中し、就中右の職場ではいわば猫の手も借りたい位になる。
ところで女子は男子に比し早く老化現象が生じ、女子の肉体的、生理的変化を年令
的にみると筋肉、肺活量、視力、反射神経、手腕指先の動作、言語能力などは四〇
才頃より急激に低下し血圧は逆に上つてくる。且つ男女の生理的機能の差という問
題の外売店、食堂に勤務する売子、ウエイトレスなどは一般に他企業において若
さ、明るさ、やさしさをもつている若い女性を配置しており、このような配慮は来
客に対するサービス面からも重要で同時にまた来客側の潜在的要請でもある。特に
食堂に勤務するものは清潔感が要請されまた繁忙の時間帯が午前一一時から午後一
時三〇分までの間に限られるため食堂従業員の機動力が要求される。かような女子
の職場環境から考えると短時間に集中される作業に対する機敏性において、本人の
努力如何に拘らず若さには劣りまた四五才前後から表われてくる視力や肉体の衰え
はいかんともしがたく、来客から見た衛生的な感じの問題も出てくるので女子につ
いては四七才以上を在職させることはふさわしくないと判断するにいたつたのであ
る。(なお調理補助職であつても来客から見える状態で作業している。)従来から
来客、同業者、新聞関係、旅館業者から被申請人会社の職場に中高年令者層が従業
していることに対して、うらさびしい感じがするという批判を受けており、レヂヤ
ー産業サービス業者として手痛い批判として受取らざるを得なかつた。レヂヤー産
業サービス業を営む各企業の定年制が男女差を設けざるを得ない理由もこのような
点に問題の本質があると云うべきであろう。
(四) さらに本件定年制をしくにあたつては再雇傭と云う途を残し女子について
五〇才まで再雇傭する制度を設け、十分従業員の立場を考えている。この場合に賃
金が低下する点をとらえて申請人等は不当視しているが、被申請人会社の事業形態
では高年労働者の労働価値の逓減が著しいのを考慮して、同一労働同一賃金の原則
をつらぬくためにとつた措置である。なお右再雇傭制は従業員側からの要望であつ
て本件定年制採用にあたつて労使の妥協が必要とされたところから、従業員側から
の要望に被申請人の方が妥協した結果であり該当年令の女子労働者を必要とし且つ
その労働力が十分あることを認めたことにはならない。
因みに被申請人は男子の定年を満五七才とし更に三年間の再雇傭期間を設けたが、
これは男子が女子に比べ肉体的衰えが遅くくること、男子の仕事内容は管理的、専
門的、職人的であつて肉体的衰えを経験によつて十分カバーできるものであるこ
と、男子は一般に一家の大黒柱として家族を扶養しているという社会的実情下にあ
ること、男子従業員は採用当初より被申請人会社で一生働らくつもりで来ているこ
となどからである。
(五) 組合は申請人等が昭和四六年一二月四日被申請人との間に締結した前記労
働協約を無視し、本件仮処分申請を為すような行動をとつたため申請人等を除名処
分にした。このことは組合が本件定年退職規程に関する前記確認書を組合として労
働協約と考えていた証左である。
四、以上のように被申請人の施行した本件定年制は、民法第九〇条により無効にさ
れなければならないような不合理なものではなく、また権利濫用と云うような内容
のものでもない。そしてEを除く申請人等は再雇傭願を提出したので被申請人とし
ては再雇傭する予定であつたが、その後右再雇傭願を取下げたので昭和四七年三月
六日をもつて右申請人等は自動的に定年退職したこととなり、また申請人Eは昭和
四七年三月四日をもつて定年退職したから本件仮処分申請は理由がなく棄却さるべ
きものである。
第四、被申請人の主張に対する申請人等の反駁。
一、本件定年制制定の経緯は被申請人の主張するようなものでは決してない。被申
請人は昭和四三年末頃女子若年定年制をもち出して来たが組合の強い反対にあつて
実施できなかつた。その後昭和四六年二月一七日突如定年を定める就業規則案等を
組合に示したが、組合は定年制自体に全面的に反対し被申請人にその旨回答した。
被申請人は昭和四六年五月一〇日頃その主張のような方法で定年制を導入する就業
規則案を配布し、その頃一方的に簡単な説明をしたが従業員から異議が続出し組合
からも組合無視との強い批判が出た。ところが被申請人は同年六月一日三島労働基
準監督署に右就業規則案を届け出るという強硬的な熊度に出たため、組合は同年六
月五日定年制撤回を求めたが拒否され同年同月九日定年年令、その後の処遇策につ
いて了解できるならばと云う条件付で定年制をしくことを認め、一ヵ月間被申請人
との間で検討期間をもつこととなつた。組合は同年一〇月一九日大会決議に基づき
男女六〇才の定年を申入れたが被申請人は全く拒否し、この状態が続いたまま同年
一二月四日を迎えたところ、被申請人は強硬に一二月四日実施を主張し一歩も譲る
意思のない態度を示し、それ以上の団体交渉を拒否したためやむなく組合として
は、定年制については協約せずその後の処置について右同日確認書を取交し、定年
制についての団体交渉は打切つたのである。右確認書の内容にも男子五七才、女子
四七才とする定年制を認める文言は見当らず、その形態からも本件定年制に関し確
認書が取交されるにいたつた事情が如実に示されている。当時の組合委員長もその
後の職場会議において年令についてはきめなかつた旨を述べており、右確認書の型
態やその文面の記載の仕方などから考えると組合は被申請人との団体交渉はやむな
く打切つたが、年令について自らの足をしばることをさけたものとも考えられるの
である。何れにしても組合大会では年令についての妥結権を執行部にまかせたこと
はなく、このような労働者の生命にもかかわるようなことを執行部が独断できめる
ことは組合民主主義に反するものであり、合目的に解すれば大会を経ないですむた
め経過措置の確認をしたにすぎないとも解し得る。従つて右確認書なる文書は労働
協約の効力をもつものではない。最高裁判所も昭和四三年秋北バス事件において
「新たな就業規則の作成又は変更によつて既得の権利を奪い労働者に不利益な労働
条件を一方的に課することは原則として許さず合理的な労働条件を定めるものでな
い限り無効」と判示している。本件差別定年制を導入した就業規則が合理性を欠く
ものであることは前記指摘したとおり疑いの余地のない程明白である。
仮りに組合と被申請人との間で取交された前記確認書が労働協約として有効である
としても、前記申請の理由において述べるように憲法、労働基準法、民法に反し無
効な定年制が右協約の存在によつて有効となることはあり得ない。Eを除く申請人
等は本件定年制に反対し強いいきどおりの念をもつていたが、長年働きなれた職場
を離れることができずまた、働かねばならぬ必要性に迫られて納得できぬまま一旦
は再雇傭願いを提出したものの、低賃金で働かせることのみを目的とした本件定年
制に対する反対の気持を押えることができず右再雇傭願いを撤回し申請人Eと共に
本件仮処分申請に踏みきつたのである。
二、被申請人会社の人件費と売上高との比率がどのようなものであるかは申請人等
の関知するところではないが、人件費が売上高の一五パーセント以内でなければ健
全な企業経営が成立たないと云う具体的な根拠は示されていない。
三、被申請人が伊東市<以下略>に東洋一の多品種を誇るシヤボテンの展示と小動
物の放し飼、珍種動物の配置による自然公園的な伊豆シヤボテン公園を有し、これ
を主体として観光事業を営んでいること、被申請人会社における職種内容が被申請
人主張のように分類できることは認めるが、事務職と調理師職のみが男女共通の職
種であるとは云えず、調理補助職とウエイトレス職とが女子のみに適し男子に適さ
ないことが自明のことであるとは云えない。さらに管理職について女子に適材をみ
つけることは稀有であると云うが、これははしなくも女性蔑視の思想を表わす言で
ある。被申請人会社は女性蔑視の思想から管理職の選任においても女性を差別し、
富戸周辺に住む者、家庭主婦の経験者に管理職の能力がないとの云い分は甚だしい
偏見である。同様に販売職において女子が指導職となることが不適とか、商品の運
搬、ゲート苦情処理係が販売職の中でも女子の職務分野と全く異なる仕事であると
云うこともないし、売店の売子の仕事が男子に不適であると云うこともない。この
ように被申請人の方で殊更に女子の職種を限られたものとし、女子特有の定年制の
必要を合理化しようとするのは、女性であるが故の不当な差別を種々尤もらしい理
由を挙げて隠蔽しようとするものである。
被申請人はレヂヤー産業サービス業の特殊性から本件差別定年制が合理的であると
云うが、被申請人会社の職場における女子従業員は事務部門の企画にタイピスト、
人事に社会保険の事務及び給料の計算者、経理に補助簿の作成者、総務に電話交換
手、社員食堂に賄婦、理想郷部門に事務員、宣伝部門に事務員、公園課に清掃婦売
店売子ウエイトレス植物栽培者動物飼育係コスモランド管理事務員、ドライブイン
にウエイトレス売店売子調理係、地球儀部門に出札係、ガソリンスタンドハイヤー
部門に各事務員、海洋公園部門にウエイトレスレヂスター調理補助者、不動産部門
の事務施設に事務員、看護婦、とさまざまな職種に分散し多方面で活躍している。
これら多方面に活躍する女子労働者に対し一律男子より一〇才低い定年を定めるこ
とに何等合理性は認められない。特に被申請人は女子労働者が多く就業している食
堂部門の場合ウエイトレスであろうと売子、調理補助であろうと清潔感機動力を要
求されるため四七才を超える女子はその要件に適合しないと主張するのであるが、
四七才を超える女子のどこに清潔感に問題があり機動力に支障があるのか、また衛
生的感じが問題であるとも云つているが本気でそのような主張をするのであろう
か。全国到るところで多数の中高年層の婦人労働者が、申請人等の従事していたと
同じ様な立食そばの売子、調理師、調理補助の仕事に従事している実情をどう解す
るのであろうか。
Bを除く申請人等は何れも食物を扱う職場で働いていたが、頭に白い三角巾をかぶ
り、白衣を着用し、手さきの爪もきれいに保つて従事していた。むしろ若い女子の
場合手の爪にマニキユアをしているので不潔である。被申請人は一方において中高
年者が売店の売子をするのは好ましくないと云い乍ら、五四、五才になる申請外F
は依然ホツトドツグ販売の売子として働いており、本件訴訟中にこれを取上げたと
ころ急拠右Fを配置転換した。しかしその後被請請人は右ホツトドツグの売場に四
七、八才の女子のパート労働者を入れてこれにあてている。
四、女子が男子に比して早く老化現象が生ずる旨の主張は一般的に科学的根拠のな
いもので、体の内部、外部、運動能力の三角度から検討して白髪の問題、身長にあ
らわれる変化の問題、上腕囲の変化、胃の酸度、運動能力の点で女子はむしろ男子
よりも衰えが少いし、聴力も女子の方が男子よりも老化による衰えが少いことは統
計上明らかである。老化現象の男女における遅速の問題はかえつて男子の方が個別
的に見れば衰え方が早いと云えるし、大局的にみて殆ど性差なしと云うのが学界で
も定説である。仮りに男女の絶対的性差による相違を主張するとするならばそれは
就職の時から云われなくてはならず、且つ肉体的最重労働を必要とするような職種
に限つてしか妥当しないことは付言するまでもない。
被申請人は男女の生理機能の差から女子を男子よりも一〇才低い四七才をもつて定
年とすることが合理的であると云うのであるが、何故四七才なら生理機能の差故に
定年とすることが合理的なのか全く基準が示されていない。被申請人会社において
従来四七才を超える女子労働者が多数働いていたし、四七才を超えてから採用され
た女性もいるのである。
五、被申請人はまた年功序列賃金の是正の点から本件差別定年制を採用する必要性
に迫られた旨主張するが、先づ労働者の年令が上るにしたがつて実質的な労働価値
が逓減すると云うようなことは到底考えられず具体性もない。且つ被申請人会社に
おいては三五才以上になると年令による昇給延伸が行われており、例えば申請人等
の賃金の例をみてもわかるように低く押えられていて、申請人等は何れも一〇年前
後の勤務実績を有するものであるが昭和四七年三月当時月額四万七、〇〇〇円ない
し五万八、○〇〇円を得ていたにすぎない。一方新しく中学ないし高等学校を卒業
した社員は三万八、〇〇〇円ないし三万九、〇〇○円、二五才の女子従業員で四万
八、〇〇〇円ないし四万九、〇〇〇円の月額賃金である。しかも男子と女子とを比
較した場合、女子四七才の月額賃金五万六、〇〇〇円ないし五万七、○○○円に対
し、同年令の男子は七万七、○○○円ないし七万八、○○○円と云うような差別賃
金が実体であり年功序列賃金の弊害などと云う事実は考えられない。資本が中高年
令層の女子より若年女子労働者を望むことは明らかであるが、一面企業は近代社会
の下にあつては社会的に多大の責任を負つており、労働者の労働力によつて利益を
あげながら労働者を無視した一方的な利潤追及を行うことは許されるべきでない。
しかも被申請人会杜において若年女子労働力が不足していると云う疎明もない。ま
た若年女子労働者の退職者が多いとの点についても疎明はないが、仮りにそうだと
しても一般企業に見られる若年女子の非定着性と同一現象であつて被申請人会社に
特有のものではない。被申請人会社においては賃金体系上若年女子に有利な取扱い
をしており、年功序列による賃金に対する不満が原因ではない。一般的な低賃金、
仕事に対する張合いのなさ、低い労働条件、一方的労務管理への不満が原因であ
る。
六、さらにまた被申請人は女子が男子に比べ就労の必要性が少いことを本件差別定
年制を定めた理由の一つに挙げるが、申請人等は何れも家計の必要から就業してい
るのであり職業婦人としての自覚も高い。女子であつても夫が病気であつたり老令
であつたり、死にわかれていたりまた家族に病人があつたり、その他さまざまな家
庭事情、経済事情で働く必要のある境遇にあるので、これを一律に男子より就労の
必要性が少いとして一〇年も早く就労の機会を失わしめることは明らかに違法であ
る。
七、被申請人は定年後の再雇傭方式は従業員に対する配慮である主張するが、むし
ろ低賃金で従前と同一の労働力を得ようとするものである。被申請人は高年労働者
の労働価値の逓減が著しいのを考慮して同一労働同一賃金の原則を貫くため、定年
時の賃金の七〇パーセントをもつて再雇傭の際の賃金とすることを定めたと強弁す
るが、何故に女子が四七才を払えると労働価値が逓減するのか、またその賃金を何
故七〇パーセントに規制するのが合理的であるのか具体的な指摘は全くないのであ
る。
八、なお申請人等が昭和四七年三月五日組合から除名されたことは認める(しかし
乍ら申請人等は同年三見四日定年該当者と扱われるにいたつている。三月五日の除
名処分を如何理解すべきであろうか。)が、この除名処分は全く理由のないことで
ある。組合が組合員の除名処分を為す権能を与えられているのは、組合の団結と闘
争力をそぐような反組合的な行為を為したものに対して労働者の権利を守るためで
ある。申請人等の行為は憲法、労働基準法に基いて労働者の権利を守るために行わ
れているもので、組合の強化に資するものであり労働組合の本旨にも従うものであ
る。除名処分の対象となり得べき行為ではなく、かような立場の申請人等を除名処
分に付することは無効である。
第五、証拠。(省略)
       理   由
一、被申請人が申請人等主張の業務を営業目的とする株式会社であり、伊東市<以
下略>に東洋一の品種を誇るシャボテンの展示と、小動物の放し飼珍種植物の配置
による自然公園的な「伊豆シヤボテン公園」を有し、これを主体に観光レヂヤー事
業を営んでいること、申請人等が何れもその主張の頃被申請人会社に入社したもの
であること、被申請人会社の従前の就業規則に「定年制は別に定める」となつてい
たが定年制は未定のままとなつていたところ、昭和四六年六月一日右就業規則を変
更して定年制を定め同年同月五日右変更された就業規則に伴い定められた定年退職
規程を実施したこと、右就業規則によれば男子従業員は満五七才女子従業員は満四
七才に達したときをもつて定年退職する、経過措置として昭和四六年六月五日当時
すでに右年令に達しているものについて女子は五〇才未満者につき九ケ月(昭和四
七年三月四日まで)右規定の実施を猶予するものとされたこと、申請人等は何れも
昭和四六年六月五日の時点で満四七才以上満五〇才未満の年令に該当し昭和四七年
三月四日右経過措置により定年に達したものとして扱われたこと、右定年該当時に
申請人A同Dは営業課食堂係に属し「そば」の売渡しに、同Bは管理課に属し公園
内の清掃に、同Cは営業課食堂係に属し調理室において料理仕込み等に、同Eは営
業課食堂係に属し調理師業務にそれぞれ従事していたことは当事者間に争いない。
二、申請人等は前示定年制を導入した就業規則は女子従業員定年年令について男子
より一〇才若い四七才をもつて定めるもので、従来定年制のない労働契約によつて
雇傭された申請人等従業員にとり労働条件の不利益な変更であるところ、右変更に
ついて労働者の同意がないので右定年制の規定に関する就業規則の変更は無効であ
る旨主張する。
労働条件の不利益な変更となる就業規則の改正が当該規則条項の適用を受ける労働
者の同意を得ないことをもつて直ちに無効となると解すべきかどうかについては、
就業規則の法律的性質をめぐつて論議のあるところであるが、「新たな就業規則の
変更によつて、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課するこ
とは、原則として許されない」こと、しかし乍ら就業規則の性質上「当該規則条項
が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由
として、その適用を拒否すること許されれない」ことは最高裁判所判例(昭和四〇
年(オ)第一四五号、昭和四三年一二月二五日大法延判決)の示すところであつ
て、右判例によれば就業規則の当該規則条項が合理的なものであるかどうかがその
改正の効力に関して先づ判断されなければならない事項であること、申請人等は就
業規則の変更によつて新たに定められた本定年制が、女子従業員の定年年令を男子
従業員より一〇才低い四七才と定めたことには何等合理性がなく専ら性別を理由と
する労働条件の差別であつて、憲法第十四条労働基準法第三条第四条に違反する行
為であり民法第九〇条に照らし無効である旨主張するものであつて、本件において
は結局右男女年令別定年制が合理性を欠くものであるか否かが主要な争点であるか
らこの点について判断する。
当裁判所も企業が女子従業員の定年年令を男子従業員より低く定めることを内容と
する定年制を就業規則において定めることは労働条件について男女を差別するもの
であつて、憲法第一四条第一項が法の下における性別による差別取扱いを禁じ、憲
法第一四条をうけた労働基準法第三条が労働条件に関する均等待遇を規定した趣旨
及び同法第四条が性別を理由とする賃金の差別を禁止した趣旨に鑑み、(なお労働
基準法が賃金以外の労働条件について直接性別を理由とする差別を禁ずる旨の規定
をおいていないのは、過去において女子労働者が一般に男子労働者より劣悪な条件
下におかれ差別を受けて来たが、その最大なものが賃金差別であつたという歴史的
な事情をうけて、特に性別による賃金差別の禁止をうたつたこと、労働基準法第三
条は憲法第一四条の規定を受けて労働条件に関し法の下の平等を規定したものであ
るが、性別による差別取扱いの禁止を掲げなかつたのは、女子労働者については母
性保護の立場や男子との肉体的条件の違いから同法第一九条、第六一条ないし六八
条等で特別の保護規定をおき、男子労働者と機械的に同一労働条件下におくことか
ら生ずる不合理をさけようとする配慮からきたものであると解すべきこと、したが
つて右配慮から生ずる労働条件の差別以外に性別による差別を許容したものではな
いと云うべきである。)合理的理由のない限り労働条件に関する性別による差別は
許されないとすることが、公の秩序として確立しており、これに反する就業規則は
民法第九〇条により無効であると解するので、右の観点から本件定年制が男女の年
令に差別をつけたことに合理的理由があるか否かについて審理を進める。
被申請人は本件定年制については組合との間で昭和四六年一二月四日確認書(乙第
八号証)を取交し、これをもつて労働協約が締結されたのであり、労働協約が労働
者保護のための立法である労働組合法に由来するものであるところから、労働者保
護の立場の枠内で成立した労働協約はそれが極めて明白な不合理性をもつものでな
い限りいわば組合の自治にまかせられている事柄として合理性を付与されているこ
と、したがつてその成立後に改めて内容の合理性を検討すべき余地はなく、本件定
年制は一見明白な不合理性をもつものではないから、労働協約として成立した以上
有効であつて後にその合理性を判断することは許されない旨主張するが、一般の契
約に関し当事者間に合意が成立したからと云つてすべて当該合意が有効視され、そ
の内容について法的価値判断が下され得ないものでないことは民法第九〇条その他
の強行法規、契約の効力に関して適用される社会立法等を挙げるまでもなく当然の
ことであり、労働条件に関する事項についても仮りに労働協約その他において労働
者が一旦合意したとしても、これによつて直ちに合理性が付与せられ後にその当否
の判断を許さないものとは解し難い。
三、そこで先づ本件定年制が定められるに至つた経緯をさぐるため被申請人会社に
おける従業員の雇傭の実情、とくに中年女子従業員の雇傭の実情及びその業務内容
ならびに被申請人会社の経営内容について案ずると、成立に争いない甲第六号証乙
第三〇号証の一、二、三、証人Gの証言により成立の認められる乙第三三号証の一
ないし四、証人H同I同J同K同G同L同Mの各証言、申請人等各本人尋問(申請
人Eについては第一、二回)の結果によればつぎの事実が認められる。
(一) 被申請人は会社創立後シャボテンを中心とする珍種植物の展示、即売、動
物園、小動物の放し飼などを目的として大室高原の自然環境下に大公園を設け、大
温室、海洋公園も設置し、漸次食堂、売店、ハイヤー施設などを整備し、伊豆方面
において有数な観光レヂヤー産業として成長するにいたつたが、従業員については
地理的条件もあつて必ずしも当初から一定基準を設けてその用途にそつた必要人員
を新規採用するという方針をとり得ず、営業の規模拡大に伴う人員不足を補うべ
く、幹部職員はじめ従業員等が縁故によつて被申請人会社への就職を勧誘したり、
女子従業員については周辺の集落の地元婦人会に依頼して臨時に公園内の草取り、
ごみ集めの仕事を託し、さらに地元の主婦をパートタイムで臨時に雇傭し草取りや
清掃、ドライブイン、食堂のウエイトレスや調理補助、売店の販売などの業務に当
らせ、右臨時雇の中から漸次試験を行つて正社員に採用した上引きつづき右の様な
各業務に当らせて来た。被申請人会社には昭和三五、六年頃から前示認定の如き経
緯によつて入社した女子従業員が相多数おり、右従業員等は家庭の主婦で子供も成
長して家事に余裕のできた者が多かつたところから、中年層の女子で占められ四〇
才を超えてから就職するものも相当数おり、中には五〇才を超えてから臨時雇とな
り二、三年の経験を経て正社員となつたものがあつた。右中年の女子従業員は、中
学ないし高校を卒業して新規採用された女子従業員にまじつて、食堂のウエイトレ
ス、売店の販売、調理補助、入園口の切符売りさばき、来園者の荷物の一時預り、
公園内の清掃、植物栽培、小鳥を主とした小動物の飼育、シヤボテン展示温室内の
看視、公園内の諸施設に設けられた事務所内での事務社員寮の賄などの部門に配置
されて各その業務に従事していた。
 営業開始以来被申請人の右観光事業は一般に好評で軌道にのり、春秋の行楽シー
ズン時や日曜祭日などの休日には多数の一般団体客をはじめ家族づれ、修学旅行の
学生などの行楽客が来園し、公園内の各施設の仕事は繁忙を極めたが前示女子従業
員等はそれぞれ配置された職場においてその業務をこなし、何等支障を生ずること
はなかった。
申請人Aは昭和三八年四四才の時婦人会の一員として臨時に被申請人会社から清掃
を頼まれて働いた後パートタイマーとして働き、昭和四一年九月正社員となり爾来
シヤボテン売店の販売員を経て昭和四五年九月までドライブインのウエイトレスと
なり、その後同所の「そばコーナー」で立食そばの調理販売の業務に従事していた
もの、申請人Bは昭和三七年五月四〇才で入社して以来、清掃係として便所の清掃
公園内のごみ集めなどの業務に当つていたもの、申請人Cは昭和四一年三月五日四
二才で入社しドライブインのウエイトレスを経て調理室の調理補助の仕事を課せら
れ、野菜きざみ、魚、肉の下ごしらえ、炊飯、調理師不在の場合丼物の調理など業
務に従事していたもの、申請人Eは昭和三六年五月一八日三九才で入社し、調理室
に配属されて調理補助業務に従事し昭和四〇年八月国家試験を受けて調理師の資格
を得、公園各施設内の食堂を経て第二ストアと称する施設内の食堂の責任者とし
て、六名の調理補助者を指導しながらカレー、おでん、そばを主とする料理を調製
していたもの、申請人Dは昭和三七年七月二日四〇才で入社し、海洋公園の敷地造
成、公園内の草取りその間繁忙時の臨時販売員を経て展望台内に設置された売店に
専属配置された後、第二ストア内の売店で主として飲物の販売に従事し該売店の主
任格として火元責任者にもなり、同売店に配属された女子従業員の指導をまかされ
たが昭和四四年九月ドライブイン内の「そばコーナー」に配置されて申請人Aと同
内容の業務に従事していたもので、何れも昭和四七年三月当時被申請人会社に入社
以来六ないし一一年の経歴をもちその配属された職場において好成績をあげてい
た。申請人等が配置されていた職場には申請人等と同年配や年長の女子従業員が多
くおり、調理室や清掃部には六〇才近い女子も正社員として働いていたが、二○才
代の女子従業員は清掃の仕事や調理関係の仕事特に水を使う職場を厭がり、むしろ
四、五〇才代の女子従業員が主力になつていた。
(二) 被申請人会社は創業以来営業は順調な成績をあげていたが、創立に当つて
特に大資本を擁したわけでもなく営業資金は乏しく、営業規模の拡大にしたがつて
漸次諸施設をととのえて行つたが、そのため多額の借入れを為し、それも銀行融資
を十分に受けられなかつたため、いわゆる高利貸と称せられる金融業者、ついで銀
行以外の金融機関からの借入が多く銀行に比較して金利も高く、支払利子に追われ
ており昭和四一年九月頃には三億円近い累積赤字を出していた。(尤も右累積赤字
の原因が何であるかは本件疎明では詳かではない。)このため昭和四一年頃当時最
大の債権表であつた沼津市所在の金融業申請外静岡商工資金協同組合が、貸付債権
の保全、回収をはかるべくその幹部を経営首脳として送りこむこととなり、右申請
外組合の代表者が被申請人会社の代表取締役となり、その幹部であつたMも役員と
して入社し、新経営陣によつて経営分析が行われ、売上額に対する人件費比率が他
の同種企業よりも高いこと、経営が冗漫であること、経営の健全化をはかるために
は人件費を総売上げの一七ないし一八パーセント程度にまで押え、その他諸機構の
改革を為す必要があると判断され、役職数を整理することと共に従業員の高令化年
功序列型賃金形態が人件費の増大を招いているとして従来未制定の状態となつてい
た定年制をしくことを決定し、昭和四三年頃からその準備にとりかかつた。
被申請人会社の従業員の年令別構成は昭和四六年二月一日現在の全従業員三八八名
についてこれを見る場合、一五才ないし一九才が二〇名、二〇才ないし二四才が五
七名、二五才ないし二九才が四二名、三〇才ないし三四才が五七名、三五才ないし
三九才が四九名、四〇才ないし四四才が四六名、四五才ないし四九才が五七名、五
〇才ないし五四才が一三名、五五才ないし五九才が一六名、六〇才ないし七〇才が
八名という構成で、男女別では一五ないし一九才が女一五名男五名、二〇ないし二
四才が女四二名男一五名、二五才ないし二九才が女一八名男二四名、三〇才ないし
三四才が女一三名男四四名、三五才ないし三九才が女一三名男三六名、四〇才ない
し四四才が女二三名男二三名、四五才ないし四九才が女一六名男一四名、五〇才な
いし五四才が女四名男九名、五五才ないし五九才が女七名男九名、六〇才ないし七
〇才が女二名男六名である。
被申請人は観光サービス業者としては若年層が極端に少なく、中高年女子従業員が
多いこと、経営合理化、特に人件費を低減するためには食堂ウエイトレスや売店の
販売員には、低賃金の若年女子を配置することが好ましく、他面ウエイトレスや販
売員に若い女性を配置することは観光サービス業として必要な措置であると判断し
た。
(三) 被申請人会社の女子従業員の職種は、各施設内事務職場における一般事務
経理事務タイピスト電話交換手、調理師、調理補助、食堂ウエイトレス、販売員、
植物栽培、小鳥を主した小動物の飼育、温室内、公園内の清掃、社員寮の賄、看護
婦などであるが、本件定年制の論議された当時ないしその実施当時女子はすべて補
助的役割を課せられ、主任、係長(以上を指導職とする。)管理職叢の地位は与え
られていなかつた。しかし乍ら過去において女子の課長が存在した例もあり、申請
人等について見ても本人ないし家族の病気等を除いては欠勤することもなく、各配
置された職場において誠実に執務し工夫をこらして業績をあげ、前示認定の如く申
請人Eは第二ストアの食堂で事実上の指導職としての役割を果していたし、申請人
Dも売店に配属された時には従来よりも売上げをのばして注目され、当該職場の事
実上の責任者として扱われていた。なお昭和四八年三月以降に行われた機構改革で
新たに女子従業員六名が主任に任命されるにいたつた。
一方男子従業員は主任、係長、管理職など役職についているものが多く、昭和四七
年六月当時全男子従業員の約五〇パーセントが右役職者を占めているが、管理職の
うち七名は三〇才代半数が四五才以下であり、四七才以上の男子従業員であつても
補助的業務にあるものは少くない。
被申請人会社では昭和四五年以降従来の年功序列型賃金の弊害を是正するため、三
五才未満者の昇給率を最高とし以後五年位を増すごとにランクをつけて昇給率を低
くすると云う方法をとり入れたが、昭和四六年六月当時一ケ月当りの女子従業員の
平均賃金は四万六ないし七、〇〇〇円で、二〇才の女子従業員の場合三万八ないし
九、○○○円、四七才の女子従業員の場合五万六ないし七、○〇〇円、一ケ月当り
平均賃金において二五才と四七才の女子従業員の賃金差は七、○○〇円程度であ
り、四七才の男子従業員と女子従業員との一ケ月当り平均賃金を比較すると女子は
男子よりも約二万円低い。
(四) 被申請人会社は観光サービス業とは云うものの前示認定のように自然を背
景として植物の展示、動物園を中心とした大衆向けレヂヤー施設を行楽客に利用さ
せることがその営業の主内容であり、利用者も団体客、家族づれ、学生等が多く、
男性客を中心とした接客サービス業ではなく、被申請人において若い女性の配置が
必要であると強調するウエイトレスの職場である食堂について見ても、カレーライ
ス、カツレツ、親子丼などのいわゆる丼物、そば等大衆向け料理を売場によつては
セルフサービスや立食形式を交えて客に供するものであつて、公園内の前示各施設
で行楽した客が昼食、間食をとるため、主として昼時に集中して利用するのに応じ
て滞りなく注文に応ずること、食事の準備のため箸、スプーン、ナプキン、湯呑み
茶碗などの整備、食後のあと片附け、客の汚したものの仕末をすることがその主な
業務内容である。また販売員は入園料の徴収、各施設に設置された売店におけるシ
ヤボテン鉢、観光みやげものなどの販売、立飲み用の清涼飲料水の販売がその業務
内容であり、調理補助は調理室内にあつて食器、野菜などの洗浄、料理の下ごしら
え、炊飯、また「そばコーナー」においては予め準備された、ゆでそば、汁、山
菜、卵、薬味を注文に応じて丼に入れ立食の客に受渡すことが各業務内容である。
男子従業員は前示認定のように指導職にあるもの多いが、客と直接に接する職場に
配置された場合、部下と共に同じ仕事に従事することが多く例えば、入園口での切
符の改札、売店での販売業務などにたづさわつている。
(五) 昭和四七年三月四日以降、本件定年制実施によつて定年退職せしめられた
従業員が再雇傭願を出した場合、被申請人会社は殆ど嘱託として再雇傭したが、女
子従業員について従来の職場から清掃の係に廻されたものもいるけれども殆どが従
来と同じ職場で働いており、六〇才を超える女子従業員も調理補助業務に従事して
いる。なお右日時以降も指導職にない五四、五才の男子従業員やパートタイムで雇
われた四七才位の女子が食物を扱う売店の販売員として販売業務に従事していた。
昭和四四年から昭和四七年にかけて被申請人会社の従業員は毎年凡そ三〇名位退職
しており、一方昭和四四年五月現人事課長であるIが入社以来、昭和四七年までの
間に中学ないし高校を卒業と同時に入社した女子従業員は四、五名であり、その殆
どが縁故関係によるものであり、昭和四八年度においていわゆる新卒女子の一般新
規採用を試みたが応募者少なく、募集人員三〇名に対し高校卒の女子二名が応募採
用されたにすぎない。
以上の事実が認められる。
四、被申請人は本件定年制において女子の定年年令を男子より一〇才低い四七才と
決定した理由として、
(一) 女子従業員の職種が限定されており、男女共通の職場である事務職と調理
師職は全従業員数の約二〇パーセントに過ぎず、八○パーセントは男女各別の職種
に従事していること、女子の適した職種における労働の態様が中高年層の女子にと
つて不向きであること、その具体的な実情として先づ
(1) 被申請人会社所在地の関係上、その従業員については伊東市富戸周辺を中
心とした地域の住民が給源とならざるを得ず、中途採用の女子は家庭の主婦が多く
家事の暇ができたので就職した程度の者達で、能力も低く管理的能力や各職種の専
門的業務を修得する能力が欠けているため指導職以上の業務に女子従業員を配置し
得ないことを挙げる。
被申請人会社に勤務する女子従業員のうち、中途採用された相当多勢数の中高年女
子が雇傭されるにいたつた経緯は前示認定のとおりであるとしても、被申請人の主
張する管理的能力や各職種における専門的業務修得能力がどの程度の能力を要求さ
れるものであるかは必ずしも明らかではないが、右中高年女子従業員が右能力に欠
けることを認めるべき疎明はなく、反つて前示認定事実によれば中途採用された中
高年女子従業員は定着率もよく各種職場に配置されてその業務を修得し、被申請人
もその或る者に事実上指導職的業務を行わしめていること、昭和四八年以降女子従
業員から六名の主任が任命されていること、男子従業員の採用に関して女子とは別
個の高い規準を設けその規準に合格したもののみを採用すると云つた雇傭方針をと
つているとも認められず、被申請人会社の業務内容や弁論の全趣旨に鑑み男子従業
員の採用についても、地域的な制約が相当多いと考えられるが、その約五〇パーセ
ントは主任以上の管理的業務についていることなどを考えると、過去において女子
従業員の処遇に関し果して適正な人事管理が行われて来たかどうかも甚だ疑問であ
つて、仮りに被申請人会社の女子従業員が他企業の女子従業員に比べて能力が低い
とすれば、そのような女子を採用した側の責任でこそあれ、これをもつて女子従業
員全員について定年年令を低める合理的理由とすることは何等他を納得せしめるも
のではない。
(2) また、ウエイトレス、調理補助については女子のみに向く職種であると主
張し、右職種及び販売職のたづさわる職場での繁忙時の稼働状況から特に機敏性が
要求されるところ、女子は男子より早い時期に老化現象が現われ四〇才を超えた場
合、急激に衰退するため右機敏性を要求される職場には不向きであること、及び接
客サービスの場であるため若い女性を配置することが必要であることを挙げる。
しかし乍ら女子が男子に比して早い時期に老化し四〇才を超えると著しく老化が進
む旨の疎明は見当らず、反つて証人Nの証言によりその成立の認められる甲第八号
証及び同証人の証言によれは、男女の老化現象については(イ)皮膚の皺、艶、
弛、肝斑、毛髪の白毛化、禿など身体の外表に表われる老化、(ロ)身長、上腕囲
の測定によつて示される身体測定値にみられる老化、(ハ)消化器系統、呼吸器系
統、性殖器、内分泌系統、脈管系、神経系と感覚器など内臓諸器官にみられる老
化、を通じ個別的な性差は見られるものの、総体的に男女の性別による遅速の差は
ない、とするのが現学界の定説となつていることが認められ、且つ被申請人は従来
四〇才を超えた女子を多数採用しウエイトレス調理補助などの職場に配置していた
が、そのために支障を生じたことはなくむしろ従来中年女子従業員に可成り依存し
ていたことは前示認定のとおりである。さらに、中高年女子が若さ、明るさ、やさ
しさに欠け清潔感、衛生感に問題があつて右職種に不向きであるとの主張も中高年
女性と若年女性とを抽象的観念的に画きわけた上、徒らに若年女性と比較した中高
年女性のマイナス面を強調しようとするに過ぎず(若さを除いた以外の点は年令と
かかわりない)、中高年女子が被申請人会社の営業内容における接客の業務に従事
する場合に考えられるところの、人生経験をもち家庭生活を営んで来た上で会得す
る人間間係における心づかい、家庭的なあたたかさ、老人や子供に対するいたわ
り、食物を扱う職場で発揮されるであろう経験の深さなど数多くのプラス面を全く
願慮しない見解であり、清潔感、衛生感についての主張も老醜を問題にするならば
男子にとつて共通の事柄であつて、清潔、衛生に関しては食品を扱う職場での従業
員の躾、衛生設備、その他衛生面の配慮さえ十分に行われていれば、営業上問題が
生ずるものとも考えられない。
(3) さらに不動産セールス、自動車運転士、清掃を除く作業員職、植物職、動
物職については何れも被申請人が女子従業員を採用した事情から見て女子には不向
きであると主張するが重労働や危険を伴う作業を除いて女子従業員に適さないとも
考えられず、証人Gの証言により成立の認めらる乙第三二号証の一ないし四によれ
ば、昭和四七年六月現在の人員配置において右職種に従事する男子従業員は、全従
業員の約三〇パーセントに過ぎずそのうちの約五〇パーセント弱は作業員職であ
り、仮りに女子従業員が右各職種に配置されないとしても、他に女子従業員を配置
すべき職種が十分あることは前示認定のとおりであつて、右が男子従業員との定年
年令を低く差別する理由とはなり難い。
(二) 被申請人はさらに再雇傭制度を併置することによつて、女子でも希望すれ
ば五〇才まで嘱託として継続雇傭され得ると云う途を残していることを本件定年制
の合理的理由の一に挙げ、その場合同一労働同一賃金の原則を貫くため賃金の低下
はやむを得ない旨付言するが、右再雇傭制度は男子についても定年年令の五七才に
達した場合、女子と同様の条件で継続雇傭することを認めるものであつて、女子従
業員にのみ付与された優遇措置でもなく、しかも右再雇傭制度によった場合の賃金
は、仮りに申請人Dの例で見れば昭和四七年三月以降再雇傭されたと仮定すると、
同申請人の同年二月分賃金は後記認定のように五万五四五円であるから、再雇傭基
準賃金はその七〇パーセント、即ち三万五、四〇〇円足らずとなる計算であつて、
前示認定の被申請人会社の営業から考えられる男子従業員の職種や業務内容と比較
して、何故女子従業員についてのみ四七才を過ぎるとかように賃金を低下させるこ
とが同一労働同一賃金の原則を貫くことになるのか、全疎明に徴してもこれを納得
せしめるものは見当らず、右再雇傭制度を置いたことが本件定年制を合理的ならし
める理由とはなり難い。
(三) 被申請人はまた、男子従業員の定年年令を五七才としたのは、男子と女子
との肉体的条件の差や職種の違いの外に、一般社会において男子は一家の大黒柱と
して家族を扶養していることや、採用当初から被申請人会社に一生働らくつもりで
来ていることなどを挙げるが、労働者が一旦雇傭されて働らく以上賃金によつて生
活の途を立てるであろうことは男女によつて質的に異たるとも考えられず、扶養家
族の存否や支払われる賃金の使途、採用当初における生涯雇傭の期待などというも
のは、個々の労働者の個人的な事情であり、本来労働者の個々の生活環境や経済事
情にかかわりなく、一定の年令に達したことをもつて一方的に雇傭を打切る力を有
する定年制を定めるにあたつて、かような個人的事情を推量してそれを基準とする
が如きことは矛盾という外なく、仮りに右の様な事情を基準とするなら性別による
べきでなく、かような事情を有する労働者についての定年年令として定めるべきで
あろう。
五、以上のように被申請人が主張する理由は何れも本件定年制を合理的ならしめる
ものとは認め難く、且つ前示認定によれば被申請人の営業内容、その各職種におけ
る業務内容は、例えば動物職、作業員職における限られた肉体労働や危険を伴う作
業部門を除いては、たとえ男女の肉体的条件において女子が筋力を主とした体力に
おいて男子より劣るとしても、女子であることの故に高令化(本件においては男子
従業員の定年年令である五七才を基準とする。)に伴う老化のため体力的な面でそ
の業務に支障が生ずるものと考えられないこと、被申請人自ら中高年女子、時には
五〇才を超える女子を新たに正社員として雇傭し、従来ウエイトレス、販売員、調
理補助者、清掃員などの業務に就業せしめて来ており、そのため具体的な支障が生
じなかつたこと、さらに女子従業員、ことに四〇才、四七才の女子従業員と二〇才
代の女子従業員や同年代の男子従業員との平均賃金の差や、後記認定の申請入等の
賃金額から考え、女子従業員のみがその労働内容に比べて高賃金を得ており、その
ため被申請人において若年女子従業員の新規採用が不能となり、経営合理化阻害の
要因であると主張する人件費の昂騰化を招いたものとは到底考えられないこと、
(前示認定の男子従業員と女子従業員との年令別人員構成によれば、四五才以上の
男子は三八名であり女子は二九名にすぎないし、十五才以上二九才未満の男子は四
四名であるのに比べ女子は七五名もいる。また若年労働者の不足が一般的社会現象
であることはもはや公知の事実と云つてよく、被申請人がいわゆる新卒女子の採用
を欲しても思うように応募者がないことは前示認定のとおりである。)などを考え
合わせると、被申請人会社の就業規則において新たに本件定年制を定めた部分の規
則条項は、何等これを合理的ならしめる理由なく男女の性別による差別を為し女子
に不利益な労働条件を課したものであつて、公の秩序に反するものとして民法第九
〇条により無効であると云わなければならない。
したがつて申請人等が昭和四七年三月四日本件定年制並びにその実施に伴う経過措
置により、定年退職したものとして被申請人との雇傭関係を消滅せしめられたこと
を理由に、雇傭契約の存在確認及び右契約に基づく賃金請求権を主張する本件被保
全権利は一応その疎明があると云うべきである。
六、そこで保全の必要性を案ずるのに、申請人等の名供述によれば、申請人等は何
れも夫があり、申請人Eの夫は病弱のため昭和四七年七月以降無職であり従来から
も同申請人の稼働による収入が家計の収入源となつていること、申請人Eを除くそ
の他の申請人等はその夫が就労していて境遇に多少の差はあると云え、被申請人会
社に入社する前からそれぞれ他の企業に就職したり、臨時雇や内職などの家内労働
によつて賃金を得て生活の資金としていたもので、何れも共働きの勤労者階級でそ
の収入が家計の維持に重要な部分を占めていたこと、被申請人から定年退職該当者
として解雇された後は、失業保険金や成人した子供、親族からの借入等をもつて家
計の不足分を補つていることが一応認められ、右事実に現在公知の事実であるとこ
ろの消費物価の昂騰を併せ考えるとその賃金収入を失うことは、一家の生活を維持
する上に大きな危機をもたらすものと推認されるので、本案判決確定前に仮りに賃
金の支払を求める必要性があると云うべきである。
よつて進んでその額について判断する。
申請人等が毎月その月の二〇日締め二五日払いで一月分の賃金の支払いを受けてお
り、昭和四七年二月分として申請人等主張のような内容で主張の額の賃金を得たこ
とは当事者間に争いなく、右賃金のうち休日出勤手当、時間外手当については超過
勤務的労働に対する特殊手当の性質を有すると解されるので、右各手当を除いた限
度において昭和四七年三月分以降本案判決確定にいたるまで、毎月二五日限り右賃
金と同額の金員を支払わしめるのが相当である。
よつて被申請人に対し一ケ月当り、申請人Aには五万四、〇四〇円、同Bには五万
六、九八○円、同Cには四万六、五〇〇円、同Dには五万五〇円、同Eには五万
四、三五〇円を、何れも昭和四七年三月四日以降本案判決確定にいたるまで毎月二
五日限り仮りに支払うことを命ずることとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法
第八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

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