弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を取り消す。
     控訴人、被控訴人及び当事者参加人の間において、別紙目録記載の建物
が当事者参加人の所有であることを確定する。
     控訴人が当事者参加人に対し右建物を引き渡すことを命ずる。
     被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審を通じ、本訴及び参加に関するものをもこれを二
分しその一をそれぞれ控訴人及び被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。当事者参加人(以下
参加人と略称する。)の請求を棄却する。訴訟費用中参加により生じたものは参加
人の負担とし、その他のものは第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決
を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。参加人の請求を棄却する。控訴費用は
控訴人の負担とし、参加による訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決を求
め、参加人は「主文第二乃至第四項同旨並びに参加による訴訟費用は控訴人及び被
控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 被控訴人及び控訴人の主張は、被控訴人の方で、参加人の主張に対し参加人主張
事実は総て知らない。被控訴人は控訴人から本件建物が未完成で、まだ動産の状態
にあつた時にその所有権を取得したものである。ところが被控訴人の全く知らない
間に右建物について東陽木材建設株式会社名義に所有権保存登記がなされたもので
あつて、同会社は右建物について所有権を有するものでないから、不正登記名義人
に過ぎず、たとい参加人がこのような者から右建物を買い受けても、参加人は真の
所有者である被控訴人の登記のないことを主張するについて正当の利益を有する第
三者に該当しないと述べ、控訴人の方で、被控訴人の主張に対し、控訴人と被控訴
人との間の本件建物の請負契約において建築資材は全部控訴人の負担したものであ
り、これを完成して被控訴人に引き渡すまでに、右建物の所有権が被控訴人に移転
することを約したことはない。昭和十九年七、八月頃資材が値上りしたので控訴人
は被控訴人に請負金額の増額を要求したが拒絶せられ、かえつて被控訴人の軍需工
場たる地位を利用して工事完成を強要せられ、同年十一月末日までにこれを完成す
ることを約させられたものである。右期日までに完成できないときは被控訴人の方
で工事を竣工してもよいと約したけれども、控訴人の承諾を得なくても被控訴人が
勝手に竣工できるものではなく、まして右建物の所有権が被控訴人に移ることを約
したものでもない。現に右期日を経過しても被控訴人は自ら建築工事を進めること
なく、かえつて控訴人から右建物を未完成のまま譲り受けた東陽木材建設株式会社
が工事を進行したのに、被控訴人は何等異議の申出をしなかつたものである。右工
事が完成したので昭和二十年十一月三日控訴人は被控訴人に右建物の引渡と請負金
額増額の交渉に行つたところ、被控訴人は終戦により宿舍としての右建物は不要に
帰したから、控訴人の方で自由に処分せられたい旨回答した。昭和二十一年三月四
日被控訴人代理人弁護士仲節雄から控訴人に対し同月二十五日までに右工事を完成
すべく、それができないときは請負契約を解除する旨の通知が来ていることからみ
ても、被控訴人に右建物の所有権を移転する特約のないことが明らかであり、そう
でないとしても、右通知により所有権を放棄したものである。いずれにしても、被
控訴人は右建物の所有権を有するものでないと述べ、参加人の主張に対し、控訴人
は昭和二十三年十二月二十四日参加人から金九十二万円を利息月一割五分の約束で
借り受け、東陽木材建設株式会社所有の右建物を担保に差し入れたことはあるが、
控訴人が同会社所有の建物を参加人に売り渡したようなことはないと述べた外、い
ずれも原判決事実記載のとおりであるからこれを引用する。
 参加人は参加の理由として、被控訴人と控訴人との間にできた契約は知らない。
参加人は昭和二十三年十二月二十四日控訴人が代表取締役である東陽木材建設株式
会社からその所有の別紙目録記載の建物を畳建具とも有り姿のまま代金九十二万円
で買い受け、即日所有権移転請求権保全仮登記を受くべく、所有権移転本登記に必
要な一切の書類を受け取つて随時本登記ができるようにし、昭和二十四年一月六日
に目的物の引渡を受くべく、右期日の三日前までに参加人の承諾を得て売買代金に
二割以上を加算した金額を以て買い戻すことができることを約し、右仮登記を了す
るとともに売買代金を支払つた。その後同会社の懇請により引渡及び本登記を猶予
して来たが、昭和二十四年六月二十四日参加人に所有権移転登記をした。このよう
に右建物は参加人の所有に帰したものであつて、被控訴人は右建物について所有権
取得登記をしていないから、参加人に対抗できない。それにもかかわらず、被控訴
人も控訴人もこれが参加人の所有に属することを争うから参加人の所有であること
の確認を求め、控訴人は今なお右建物を何等の権限なく占有しているから、これを
引き渡すことを求めるため、当事者参加の申出をすると述べた。
 証拠として、被控訴人は、甲第一乃至第七号証、第八号証の一乃至八を提出し、
原審証人A、原審及び当審証人B、原審鑑定証人Cの各証言、原審における検証の
結果を援用し、乙号各証の成立を認め、丙第一号証中公証人作成部分の成立を認め
るがその他の部分は知らない。丙第二号証の一、二は知らない。丙第三号証の一、
第四号証中登記所作成部分の成立を認めるがその他の部分は知らない。丙第三号証
の二、三の成立を認めると述べ、
 控訴人は、乙第一乃至第六号証を提出し、原審及び当審証人C、当審証人D、E
の各証言、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、甲号各証の成立を認め、
丙第一号証中控訴人の印鑑及び公証人作成部分の成立を認めるがその他の部分は知
らない。丙第二号証の一、二中控訴人の印影の成立を認めるがその他の部分は知ら
ない。丙第三号証の一乃至三の成立を認める。丙第四号証中控訴人の印影及び登記
所作成部分の成立を認めるがその他の部分は知らないと述べ、
 参加人は、丙第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一乃至三、第四号証を提
出し、当審証人Fの証言を援用し、甲第一号証、第五乃至第七号証中官署作成部分
の成立を認めるが、その他の部分は知らない。甲第二乃至第四号証は知らない。甲
第八号証の一乃至八の成立を認める。乙第一号証、第六号証は知らない。その他の
乙号各証の成立を認めると述べた。
         理    由
 各当事者間において成立に争のない乙第二号証の一、二、第三号証、原審証人C
の証言によりその成立の認められる甲第五号証、当審証人Cの証言によりその成立
の認められる乙第一号証、右各証言、原審及び当審証人Bの各証言、当審における
控訴人本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は労務者の寄宿舍に使用するため建
築請負業者の控訴人との間に、(一)昭和十八年九月十五日被控訴人所有の尼崎市
a(その当時兵庫県川辺郡b村)字cd番地の土地上に控訴人所有の材料を使用
し、木造瓦葺二階建住宅一棟建坪八十六坪五合延坪百七十一坪五合を約六ケ月の間
に建築完成して被控訴人に引き渡すべく、請負金を六万八千六百円とし、手附金三
万円を契約成立と同時に支払い、残金は建築完成後所有権移転登記完了と同時に支
払う旨の請負契約を締結し、(二)同年十二月八日右土地の上に控訴人所有の材料
を使用し、木造瓦葺二階建住宅一棟建坪九十坪六合九勺延坪百八十坪三合八勺を約
六ケ月の間に建築完成して被控訴人に引き渡すべく、請負金を七万二千百五十二円
とし、手附金四万円を契約成立と同時に支払い、残金は建築完成後所有権移転登記
完了と同時に支払う旨の請負契約を締結し、控訴人に右手附金を支払つた事実を認
めることができ、右事実をくつがえすに足りる証拠はない。
 右認定のように控訴人が請負契約に基いて控訴人所有の材料を使用して被控訴人
所有の土地の上に建設した建物は別段の特約のない限り一応は控訴人の所有となる
ものと解しなければならない。
 被控訴人は、昭和十九年八月十九日控訴人との間に、控訴人が被控訴人所有の右
土地上に既に加工附着した建物の部分は被控訴人の所有に帰し、将来右土地に加工
附着するものはそれと同時に被控訴人に所有権が移転する旨の特約を締結したと主
張するけれども、このような特約があつたことを認めるに足りる証拠は何もないか
ら、被控訴人の右主張は採用しない。
 前示乙第三号証、各当事者間において成立に争のない乙第五号証、当審証人Bの
証言によりその成立の認められる甲第四号証、原審及び当審証人B、C、原審証人
Aの各証言を総合して考察すると、控訴人は当初の手持の材料だけで建築を完成す
ることができなくなつたのに、材料は値上りして資金不足し、又材料を入手するこ
とが困難であつたため、約定の期日に完成することができず、度々被控訴人から督
促せられていたが、控訴人は昭和十九年八月十九日被控訴人に対し、同年十一月末
日までにこれを完成すべく、万一右期日に完成しないときは被控訴人においてこれ
を完成しても異議がないことを約した。しかし控訴人は右期日にこれを完成しなか
つた事実を認めることができる。右約束において、控訴人が期日に完成しなかつた
場合に、被控訴人が自由に工事をして完成してもよいというのは、右建物は被控訴
人の支配下に入つたものであつて、即ち控訴人が右期日に完成しないときは、右建
物の所有権は被控訴人に移転する趣旨と解するのを相当とする。右建物は右の期日
の経過と共にその所有者である控訴人から被控訴人に譲渡されたものといわなけれ
ばならない。当審における控訴人本人の尋問の結果中終戦後被控訴人が控訴人に対
し右建物は不用に帰したから控訴人の方で適当に処分せられたいと申した旨の部分
は原審証人Bの証言と比べ合わせて信用できず、従つて当審証人D、Eの各証言中
控訴人から右同旨を伝聞した旨の部分も採用しない。
 又当審証人Bの証言によれば、被控訴人は右期日経過後も控訴人において右工事
を進行することを催促した事実を認めることができるけれども、右証言によれば、
なるべく控訴人において工事を完成して、円満解決を図る配慮に基くものであつ
て、前示約束を変更する趣旨でないことが認められるから、前段認定をくつがえす
ことはできない。
 <要旨第一>しかしながら、当審証人B、Dの各証言、当審における控訴人本人尋
問の結果によれば、前示のように右建物の所有権が被控訴人に移転した
昭和十九年十一月末日当時において、右建物はまだ完成していなかつたけれども、
屋根瓦を葺き荒壁を塗り終り床板を半分程張る程度にできていたことが認められる
から、土地に定著した一個の建造物として、既に動産の領域を出て不動産の部類に
属するものといわなければならない(昭和十年(オ)第七五二号同年十月一日大審
院判決参照)。そうすると控訴人から不動産である右建物の所有権を取得した被控
訴人は、その取得の登記がなければ、その登記のないことを主張するについて正当
の利益を有する第三者に対して対抗することができないものといわなければならな
い。
 当審証人Fの証言によりその成立の認められる丙第一号証、第二号証の一、二、
第三号証の一乃至三、登記所作成部分について各当事者間において成立に争なく、
控訴人の印影の部分について控訴人は成立を自認しているのでその他の部分も弁論
の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第四号証、右証言、当審におけ
る控訴人本人尋問の結果の一部を総合すると、控訴人は資金の都合で昭和十九年十
二月右建物を控訴人が代表取締役である東陽木材建設株式会社に売り渡し、参加人
は昭和二十三年十二月二十四日同会社から右建物を畳建具類有り姿のまま代金九十
二万円で買い受け、即日所有権移転請求権保全仮登記を受くべく、所有権移転本登
記に必要な書類を受け取つて何時でも本登記ができるようにし、昭和二十四年一月
六日に目的物の引渡を受くべく、右期日の三日前までに参加人の承諾を得て売買代
金に二割以上を加算した金額を以て買い戻すことができることを約し、同日右仮登
記を受け売買代金の支払をした。同会社は右期日に買戻をすることができなかつた
ので、参加人は昭和二十四年六月二十四日右書類によつて右建物の所有権移転登記
をした事実を認めることができる。当審における控訴人本人の尋問の結果中同会社
は参加人に対し右建物を担保に供しただけで売り渡したものでない旨の部分は前に
掲げた各証拠と対照して信用できない。そうすると、参加人は右建物を所有してい
た控訴人から東陽木材建設株式会社を経てその所有権を取得しその登記を了したも
のであるから、控訴人から不動産としての右建物の所有権を取得したがその登記を
していない被控訴人に対し、その登記のないことを主張するについて、正当の利益
を有する第三者にあたることは明らかである。
 ところが控訴人及び被控訴人は右建物が参加人の所有に属することを争うから、
当事者参加人は控訴人及び<要旨第二>被控訴人に対しその所有であることの確定を
求める利益があるものといわなければならない。そして又本件のように
同一建物を二重に譲渡した場合において、その建物について譲受人の一人である参
加人が前示のとおり既に登記を了し、完全な所有権を取得した以上、今や他の譲受
人である被控訴人の右建物についての所有権は消滅するわけであるから、被控訴人
は控訴人に対しても現にその所有権を有することの確定を求めることはできないも
のといわねばならない。
 当審における控訴本人尋問の結果によれば、控訴人は今なお右建物を占有してい
ることが認められ、控訴人がこれを占有する権限のあることは認められないから、
控訴人は参加人にこれを引き渡すべき義務があることが明らかであり、控訴人に対
しその引渡を求める参加人の請求は正当としてこれを認容しなければならない。
 そこでこれと同旨でない原判決を取り消すこととし、訴訟費用の負担について民
事訴訟法第九六条第八九条第九三条第九四条を適用し主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 大野美稲 判事 熊野啓五郎 判事 村上喜夫)
 (別紙目録は省略する)。

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