弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人北山六郎、同三宅岩之助の上告趣意中、判例違反をいう点は、原審はなん
ら所論引用の各判例と異なる判断をしていないから、判例違反の主張は理由がなく、
その余の論旨は、憲法三一条違反をいう点もあるが、その実質は単なる法令違反、
事実誤認の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。しかし、所論は、原判決
の維持した第一審判示第一の事実が預合にあたらないとし、これを預合になるとし
た原判決に、事実誤認、法令違反のあることを極力主張しているので、職権をもつ
てこの点を検討する。
 原判決が維持した第一審判示第一の事実を要約すると、
 兵庫県豊岡市a所在のA株式会社は、同県城崎郡b所在のB銀行C支店を株式払
込取扱銀行として、昭和三三年一〇月二、七五〇万円の増資をすることにしたが、
新株の引受申込額は四六一万円にすぎなかつた。そこで、右会社の取締役である被
告人Dと右銀行の支店長である被告人Eとは、通謀して、不足分の株金払込を仮装
することを企て、その方法として、増資手続完了後直ちに返済する約束のもとに、
右銀行支店から右会社に七七〇万円、右会社代表取締役F個人に一、五〇〇万円を
それぞれ貸し付け、これを新株の払込金として右支店の別段預金口座に振替記帳さ
せ、被告人Dはこれによつて被告人E作成名義の新株払込金二、七五〇万円を保管
している旨の株式払込金保管証明書の交付を受け、もつて被告人両名通謀のうえ株
金の払込を仮装して、被告人Dは預合をし、同Eは預合に応じたものである、とい
うのである。
 そして、原審弁護人が「本件会社が本件銀行から借り受けた七七〇万円は、会社
従業員が従前から会社に対しもつていた債権(預り金、借受金)の返済にあてられ
たもので、従業員は真実払込の意思をもつてこの返済金を本件引受株式の払込金に
充当したのであるから、右払込は仮装のものではない。」旨を主張したのに対し、
原判決は、「右主張のような態様の払込は、もともと会社に資金があつてのことで
なく、わずか二日間で最初の操作前と同じ現実の資金内容に立ちかえつたものであ
るから、資本の充実は無視されており、これはまつたく形式的に帳簿上の操作をも
つて払込名義を仮装するものといわざるをえない。」旨の判断をして、弁護人の前
記主張をしりぞけている。
 思うに、形式的に帳簿上の操作をすることによつて容易に払込の仮装が行われう
ることにかんがみると、払込が実質的になされたか否かについてはきわめて慎重に
審理することを要し、帳簿上の操作に惑わされるべきでないことはもちろんである
が、しかし、株式引受人の会社に対する債権が真実に存在し、かつ会社にこれを弁
済する資力がある場合には、右弁護人主張のような態様の払込方法をとつたとして
も、資本充実の原則に反するものではなく、株金払込仮装行為とはいえないから、
商法四九一条の預合罪および応預合罪にあたらないものと解するのを相当とする。
 記録を調べてみると、本件会社が本件銀行から借り受けた七七〇万円は、会社に
対する従業員らの債権六三七万円とFの債権約一〇二万五千円の各弁済にあてられ、
従業員らおよびFは、右弁済を受けた金員に会社からの貸付金を加えて本件払込金
にあてる方法によりその払込の一部をなしていることが証拠上うかがわれるので、
原審としては、当時従業員らおよびFが会社に対して真実右の債権をもつていたか
どうか、また会社がその弁済の資力をもつていたかどうかなどの事実を調べたうえ
本件を処理すべきであつたのに、これらの事実を確定することなく、本件払込金全
額につき預合罪および応預合罪が成立するとして第一審判決を維持したのは、法令
の解釈を誤つた結果審理を尽くさなかつたもので、原判決を破棄しなければ著しく
正義に反するものと認める。
 よつて、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるた
め同法四一三条本文により本件を原裁判所に差し戻すことにし、裁判官全員一致の
意見で主文のとおり判決する。
 検察官 横井大三公判出席
  昭和四二年一二月一四日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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