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令和2年3月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(ワ)第35157号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日令和元年10月8日
判決
原告日亜化学工業株式会社
同訴訟代理人弁護士牧野知彦
加治梓子
被告HTCNIPPON株式会社
(以下「被告HTC」という。)
被告兼松コミュニケーションズ株式会社15
(以下「被告兼松」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士黒田健二
吉村誠
主文20
1被告HTCは,原告に対し,金●(省略)●円及びうち金●(省略)●円に
対する平成28年10月26日から,うち金●(省略)●円に対する平成30
年9月28日から,各支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
2被告兼松は,原告に対し,金●(省略)●円及びこれに対する平成28年1
0月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。25
3原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,原告に生じた費用の20分の13と被告HTCに生じた費用の
合計の20分の19を原告の,20分の1を同被告の負担とし,原告に生じた
費用の20分の7と被告兼松に生じた費用の合計の100分の97を原告の,
100分の3を同被告の各負担とする。
5この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。5
事実及び理由
第1請求
1被告HTCは,原告に対し,626万8000円及びうち350万円に対す
る平成28年10月26日から,うち276万8000円に対する平成30年
9月28日から,各支払済みまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。10
2被告兼松は,原告に対し,350万円及びこれに対する平成28年10月2
6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「発光装置と表示装置」とする特許(特許第5177
317号及び同第5610056号)に係る特許権者である原告が,被告らの15
輸入販売等に係るスマートフォンに搭載されているLEDは,上記特許に係る
特許請求の範囲の記載文言を充足し,その特許発明の技術的範囲に属すると主
張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,被告HTCに対しては,6
26万8000円(特許法102条2項により算定した損害額426万800
0円,弁護士費用相当額200万円)及びうち350万円に対する平成28年20
10月26日(同被告に対する訴状送達日の翌日)から,うち276万800
0円に対する平成30年9月28日(同被告に対する同月25日付け訴えの変
更申立書送達日の翌日)から,各支払済みまでそれぞれ民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払を求め,被告兼松に対しては,350万円(特許法
102条2項により算定した損害額250万円,弁護士費用相当額100万25
円)及びこれに対する平成28年10月26日(同被告に対する訴状送達日の
翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
めた事案である。
なお,原告は,特許第5177317号に基づく請求と,同第561005
6号に基づく請求をするところ,いずれの請求についても,損害額として,上
記の額を主張するものであるから,両請求の関係は,選択的併合の関係にある5
ものと解される。
1前提事実(末尾掲記の証拠等により認定したほかは,当事者間で争いがない
か当裁判所に顕著である。)
当事者
ア原告は,半導体並びにその関連材料,部品及び応用製品の製造,販売及10
び研究開発などを業とする株式会社である。
イ被告HTCは,携帯情報端末機器等の電子応用機械器具の販売,輸出入
及び仲介業務等を業とする株式会社である。
ウ被告兼松は,移動体通信機器及びこれに関連する機器の販売等を業とす
る株式会社である。15
本件特許権1,2
ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権1」という。)を有する(甲2,
41,乙1の1,9,弁論の全趣旨)。
発明の名称発光装置と表示装置
特許番号特許第5177317号20
登録日平成25年1月18日
出願番号特願2012-189084号(以下,「本件出願1」と
いい,その願書に添付された明細書を「本件明細書1」と
いう。)
出願日平成24年8月29日25
分割の表示特願2008-269号(以下「本件原出願1」とい
う。)の分割
原出願日平成9年7月29日
原出願番号特願平10-508693号
国際出願番号PCT/JP97/02610
国際公開番号WO98/050785
国際公開日平成10年2月5日
最先優先日平成8年7月29日(特願平8-198585号)
訂正審決日平成29年11月28日
イ原告は,次の特許権(以下「本件特許権2」という。)を有する(甲4,
54,弁論の全趣旨)。10
発明の名称発光装置と表示装置
特許番号特許第5610056号
登録日平成26年9月12日
出願番号特願2013-265770号(以下,「本件出願2」と
いい,その願書に添付された明細書を「本件明細書2」と15
いう。)
出願日平成25年12月24日
分割の表示特願2013-4210号(以下「本件原出願2」とい
う。)の分割
原出願日平成9年7月29日20
原出願番号特願平10-508693号
国際出願番号PCT/JP97/02610
国際公開番号WO98/05078
国際公開日平成10年2月5日
優先日平成8年7月29日(特願平8-198585号。以下,25
その特許出願を「第1優先権出願」といい,その願書に添
付された明細書を「第1優先権出願明細書」という。)
平成8年9月17日(特願平8-244339号。以下,
その特許出願を「第2優先権出願」といい,その願書に添
付された明細書を「第2優先権出願明細書」という。)
訂正審決日平成30年12月4日5
本件訂正発明1,2
ア本件特許権1の特許請求の範囲のうち,訂正後の請求項1(以下「本件
訂正発明1」という。)は,「白色系を発光する発光ダイオードであって,
該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記
発光層の発光スペクトルのピークが420~490nmの範囲にあるLE10
Dチップと,該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸
収した光の波長よりも長波長の光を発光する,Y及びGdからなる群から
選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる
少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系
蛍光体とを含む,ことを特徴とする発光ダイオード。」であり(甲2,415
1,弁論の全趣旨),これを構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
1A白色系を発光する発光ダイオードであって,
1B該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,
1C前記発光層の発光スペクトルのピークが420~490nmの範囲
にあるLEDチップと,20
1D該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した
光の波長よりも長波長の光を発光する,
1EY及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al
及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んで
なるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体(以下「蛍光体125
E」という。)とを含む,
1Fことを特徴とする発光ダイオード。
イ本件特許権2の特許請求の範囲のうち,訂正後の請求項2(以下,「本
件訂正発明2」といい,本件訂正発明1と併せて「本件各訂正発明」とい
う。)は,「凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するL
EDチップと,前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆うコーティン5
グ樹脂とを有する発光ダイオードであって,前記コーティング樹脂には,
該LEDチップからの第1の光の少なくとも一部を吸収し,波長変換して
前記第1の光とは波長の異なる第2の光を発光する,Y,Lu及びGdか
らなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群
から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるCeで付活されたガーネ10
ット系蛍光体が含有されており,前記LEDチップは,その発光層がIn
を含む窒化ガリウム系半導体で,420~490nmの範囲にピーク波長
を有するLEDチップであり,前記コーティング樹脂中の前記ガーネット
系蛍光体の濃度が,前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ
側に向かって高くなっていることを特徴とする発光ダイオード。」であり15
(甲4,54,弁論の全趣旨),これを構成要件に分説すると,次のとお
りとなる。
2A凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチ
ップと,
2B前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆うコーティング樹脂と20
を有する発光ダイオードであって,
2C前記コーティング樹脂には,該LEDチップからの第1の光の少な
くとも一部を吸収し,波長変換して前記第1の光とは波長の異なる
第2の光を発光する,
2DY,Lu及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,25
Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含ん
でなるCeで付活されたガーネット系蛍光体(以下「蛍光体2D」
という。)が含有されており,
2E前記LEDチップは,その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導
体で,420~490nmの範囲にピーク波長を有するLEDチッ
プであり,5
2F前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前記
コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高く
なっている
2Gことを特徴とする発光ダイオード。
被告らの行為10
ア被告HTCは,台湾のスマートフォンメーカーである訴外HTCコーポ
レーション(宏達国際電子股份有限公司。以下「HTC台湾」という。)
が製造販売するスマートフォン(商品名HTCDesire626。
以下「被告製品」という。)を輸入した上,被告製品を,被告兼松に対し
平成27年9月30日から同年12月31日までの間に合計●(省略)●15
台(ただし,返品された●(省略)●台を除く。),被告兼松以外の第三
者に対し平成27年10月22日から平成28年2月4日までの間に合計
●(省略)●台販売した(乙46,弁論の全趣旨)。
被告HTCの上記販売による利益額は,●(省略)●円である。
イ被告兼松は,平成27年10月から平成29年7月までの間に,被告製20
品を合計●(省略)●台販売した(乙43,弁論の全趣旨)。
被告兼松の上記販売による利益額は,●(省略)●円である。
被告製品の構成と本件各訂正発明との対比
ア被告製品に搭載されているLED(以下「被告LED」という。)は,
本件訂正発明1の構成要件に対応させて分説すると,少なくとも次の構成25
を有しており(以下,元素については,元素記号のみを用いて表記するこ
とがある。),構成要件1Bないし1D及び1Fを充足している(弁論の
全趣旨)。
1a白色系を発光する発光ダイオードであって,
1b該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,
1c前記発光層の発光スペクトルのピークが約446nmであるLED5
チップと,
1d該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した
光の波長よりも長波長である発光スペクトルのピークが約547n
mの光を発光する,
1e構成元素に少なくともY,Al及びOを含む蛍光体(以下「本件蛍10
光体」という。)を含む(ただし,本件蛍光体がCeで付活された
イットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体〔以下,イット
リウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体を「YAG蛍光体」と
いう。〕か否か,本件蛍光体以外の蛍光体が被告LEDに含まれる
か否かにつき当事者間に争いがある。)15
1fことを特徴とする発光ダイオード。
イ被告LEDは,本件訂正発明2に対応させて分説すると,少なくとも次
の構成を有しており(弁論の全趣旨),構成要件2A,2C,2E及び2
Gを充足している(弁論の全趣旨)。
2a凹部内に配置された窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDチ20
ップと,
2b前記凹部に充填されて前記LEDチップを覆う樹脂とを有する発光
ダイオードであって,
2c前記樹脂には,該LEDチップからの発光スペクトルのピークが約
446nmである第1の光の少なくとも一部を吸収し,波長変換し25
て前記第1の光とは波長の異なる発光スペクトルのピークが約54
7nmである第2の光を発光する,
2d本件蛍光体が含有されており(ただし,本件蛍光体がCeで付活さ
れたYAG蛍光体か否か,本件蛍光体以外の蛍光体が被告LEDに
含まれるか否かにつき当事者間に争いがある。),
2e前記LEDチップは,その発光層がInを含む窒化ガリウム系半導5
体で,約446nmにピーク波長を有するLEDチップであり,
2f前記樹脂中の前記蛍光体の濃度が前記LEDチップの周辺において
ほぼ均一で高密度である
2gことを特徴とする発光ダイオード。
先行文献の存在10
ア本件出願1の優先日(平成8年7月29日)の前に頒布された刊行物と
して,次の文献が存在する。
「APPLIEDPHYSICSLETTERSVol.11No.2」(昭和42年7月15日
発行)に掲載された「ANEWPHOSPHORFORFLYING-SPOTCATHODE-RAY
TUBESFORCOLORTELEVISION:YELLOW-EMITTINGY3Al5O12-Ce3+
」(乙115
2,弁論の全趣旨。以下「乙12文献」という。)
特公昭49-1221号公報(公告日昭和49年1月12日)(乙1
1。以下「乙11公報」という。)
「三菱電機技報48巻9号」(昭和49年9月25日発行)に掲載さ
れた「PYGけい光面とその応用」(乙15。以下「乙15文献」とい20
う。)
特開昭50-43913号公報(公開日昭和50年4月21日)(乙
13。以下「乙13公報」という。)
「JOURNALoftheIlluminating.EngineeringSocietyVol.6No.
2」(昭和52年1月発行)に掲載された「Improvedcolorrendition25
inhighpressuremercuryvaporlamps」(乙14,弁論の全趣旨。以
下「乙14文献」という。)
特開平5-152609号公報(公開日平成5年6月18日)(乙1
0。以下,「乙10公報」といい,乙10公報に開示される発明を「乙
10発明」という。)
イ第264回蛍光体同学会講演予稿「白色LEDの開発と応用」(乙21。5
以下,「乙21文献」といい,乙21文献に開示される発明を「乙21発
明」という。)は平成8年11月29日に開催された蛍光体同学会の講演
予稿であり,本件原出願2の出願日より前の同年12月8日には遅くとも
頒布された。
2争点10
被告LEDは構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオード」を充足
するか
被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活されたYAG蛍光体であ
り構成要件1Eを充足するか
被告LEDの構成2bの樹脂は構成要件2Bの「コーティング樹脂」を充15
足するか
被告LEDの構成2fの蛍光体の濃度は構成要件2Fの「前記コーティン
グ樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」との文
言を充足するか
本件訂正発明1はサポート要件に違反し無効にされるべきものか,そうで20
ない場合は,被告LEDには構成要件1E所定の元素及び蛍光体が含まれて
いないものとして,同構成要件を充足しないこととなるか
本件訂正発明1は明確性を欠き無効にされるべきものか
本件訂正発明1は新規性を欠き無効にされるべきものか
本件訂正発明1は進歩性を欠き無効にされるべきものか25
本件訂正発明2は実施可能要件に違反し無効にされるべきものか
本件訂正発明2は明確性を欠き無効にされるべきものか,そうでない場合
は,被告LEDには構成要件2D所定の元素及び蛍光体が含まれていないも
のとして,同構成要件を充足しないこととなるか
本件訂正発明2は新規性を欠き無効にされるべきものか
本件訂正発明2は進歩性を欠き無効にされるべきものか5
原告の損害の額
3争点についての当事者の主張
は構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオー
ド」を充足するか)について
【原告の主張】10
被告LEDは,構成1aのとおり,白色系を発光する発光ダイオードであ
る以上,構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオード」を充足すると
いえる。
【被告らの主張】
本件明細書1においては,LEDチップからの発光と当該発光の一部が蛍15
光体により波長変換された発光との混色により白色光が発光されることのみ
が開示されていることに照らすと,構成要件1Aにおける「白色系」の発光
とは,LEDチップが発する光の一部を吸収した蛍光体が吸収した光の波長
よりも長波長の光を発し,その光とLEDチップの発する光とが混色するこ
とで得られるものに限られると解される。しかして,被告LEDは,単に白20
色系を発光するだけであるから(構成1a),構成要件1Aの「白色系を発
光する発光ダイオード」を充足しない。
(被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活されたYAG蛍
光体であり構成要件1Eを充足するか)について
【原告の主張】25
次のア,イに照らし,被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活さ
れたYAG蛍光体であり,構成要件1Eを充足するといえる。
ア本件蛍光体にCeが含まれること
本件蛍光体は青色光照射により黄色発光する(甲8の図2(4)-
2)ところ,そもそも,蛍光体は発光中心を構成する元素(付活剤)が
なければ発光しないから,本件蛍光体に付活剤が存在することは明らか5
である。そして,本件蛍光体のEDX分析の結果(甲8の図2(2)-
6。甲9の1頁の図はその拡大図である。),Ceの信号が検出された
のであるから,本件蛍光体にCeが含まれることは明らかである。
なお,蛍光体を発光させるためには,通常,付活剤が使用され,使用
される付活剤が変われば発光色が変化することは技術常識である。そし10
て,現在知られているYAG蛍光体のうち,Ce以外の元素で付活され
たもので,Ceで付活されたものと同様の黄色系の発光スペクトルを有
するものは存在しない。しかして,後記イのとおり,本件蛍光体はYA
G蛍光体であるから,これが黄色発光するものである以上,技術常識に
照らし,本件蛍光体はCeで付活されたものであると特定することがで15
きる。
これに対し,被告らは,検出された信号がノイズにすぎない,あるい
は,検出された元素のピークの位置がCeのものとは異なっており,C
e以外の元素に由来する信号である可能性がある旨主張する。
しかし,Ceの含有量はごく微量であるから,EDX分析において高20
いピーク値が検出されないのは当然であるし,Ceとして特定されてい
る位置にスペクトルのピークが検出されたことにより,装置が自動的に
Ceを検出したと判断したものであるから,前者の主張は理由がない。
また,EDX分析では,予め装置に記憶されている元素に固有のピーク
と検出された複数のピークの主たるものとを対比して検出された元素を25
特定するのであって,一つのピークの異同で判断されるものではなく,
従たるピークの数値が多少弱いとかずれているといった程度のことは元
素を特定する上で重視すべき事情とはならないから,後者の主張も理由
がない。
イ本件蛍光体はYAG蛍光体であること
ラマン分光法による被告LEDのラマンスペクトル(甲8の図25
(4)-3)には,本件蛍光体のラマンスペクトルが検出された部分と
蛍光体の周辺に存在するコーティング部材が検出された部分とがある。
しかして,前者の部分(甲9の図2(4)-3の緑色の丸で囲まれた部
分)のピーク位置は,既知の標準資料である「Y2.85Ce0.15Al5O12」
のラマンスペクトルのピーク位置とほぼ一致するから,本件蛍光体の基10
本構造は,上記標準資料と同じYAG蛍光体であるといえる。
これに対し,被告らは,本件蛍光体のラマンスペクトルが検出された
部分にYAG蛍光体のラマンスペクトルとピークの位置が一致していな
い箇所が5か所ある旨主張する。
しかしながら,被告らの主張は細かなサブピークの異同を指摘するも15
のであるが,ラマン分光法による分析においては,細かなサブピークは
測定時の試料の結晶方向によっては消えることがあるため,複数の主た
るピークを照合して判断するのであるから,技術的に意
味のある反論となっていない。
なお,被告らが指摘する上記5箇所は,コーティング部材のラマンス20
ペクトルが検出された部分や,蛍光体のラマンスペクトルのピークがコ
ーティング部材のラマンスペクトルのピークと近い位置にあるために緩
やかな傾斜となって現れている箇所,被告らが異なる位置で比較したり,
ピークを見落としたりしている箇所,コーティング部材のラマンスペク
トルのピークが測定装置による自動補正により伸びて現れている箇所で25

になっていない。
【被告らの主張】
次のア,イに照らし,被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活さ
れたYAG蛍光体であるとはいえず,構成要件1Eを充足するとはいえない。
ア本件蛍光体にCeが含まれるとは認められないこと5
EDX分析において検出される信号には,検出対象となる含有元素を
示す「特性X線」といわれる信号と,単なるノイズである「連続X線」
といわれるバックグランドの信号が存在するところ,Ceを検出した信
号であると原告が主張するスペクトルのピークは,他のバックグランド
の信号と何ら異ならない。10
また,Ceの励起電圧は概ね4.8keV,5.3keV,5.6keV及び
6.1keVであるにもかかわらず,Ceを検出した信号であると原告が
主張するスペクトルのピークの位置は,励起電圧が概ね4.2keV,4.
9keV,5.3keV,5.6keV,6.0kev及び6.3keVであって,4.
2keVと6.3keVで信号が検出されているのは不可解である上,励起15
電圧が約4.2keVの元素にはCsとIn,約4.9keVの元素にはT
i,V及びCs,約5.3keVの元素にはLa,約5.6keVの元素に
はSm,約6.0keVの元素にはNd及びGd,約6.3keVの元素に
はPrがそれぞれあるから,Ceを検出した信号であると原告が主張す
るスペクトルが「特性X線」であったとしても,Ce以外の元素に由来20
する信号である可能性が十分ある。
なお,原告は,黄色系の発光スペクトルを有するYAG蛍光体はCe
で付活されたYAG蛍光体であると特定される旨主張するが,この点に
ついては,「Tb,Eu,Yb,Pr,Tm及びSm」のいずれかを付
活剤とするYAG蛍光体であっても黄色発光するものであることに照ら25
せば,原告の上記主張は誤っている。
イ本件蛍光体がYAG蛍光体であるとは認められないこと
原告が本件蛍光体のラマンスペクトルを示していると主張する部分を見
ても,YAG蛍光体のラマンスペクトルとピークの位置が一致していない
箇所が5か所あるから,本件蛍光体がYAG蛍光体であるとは認められな
い。5
(被告LEDの構成2bの樹脂は構成要件2Bの「コーティング樹
脂」を充足するか)について
【原告の主張】
ア構成要件2Bの「コーティング樹脂」は凹部(カップ)に充填されてL
EDチップを覆う樹脂である(本件明細書2の段落【0033】,【0010
35】,【0076】,【0105】,【図1】,【図2】)ところ,構
成2bの樹脂は,凹部に充填されてLEDチップを覆う樹脂であるから,
上記「コーティング樹脂」を充足するといえる。
イこれに対し,被告らは,構成2bの樹脂の一部がモールド樹脂である旨
主張する。しかし,モールド樹脂は,発光素子(LEDチップ),導電性15
ワイヤー,蛍光体を含有したコーティング樹脂及びカップ(凹部)を覆い,
これらを外部から保護するとともに,LEDチップからの発光を集束させ
たり,拡散させたりするレンズ機能を有するものである(本件明細書2の
段落【0026】,【0077】,【0106】,【図1】)ところ,被
告らがモールド樹脂であると主張する構成2bの樹脂の一部はそのような20
ものとはいえない。被告らの上記主張は失当である。
【被告らの主張】
ア被告LEDの構成2bの樹脂は,蛍光体を含有する樹脂の層とその上部
の層との2層構造になっているところ,本件明細書2には,コーティング
樹脂を2層とすることは一切開示されておらず,むしろ,凹部内にモール25
ド樹脂が形成されることが開示されている(図1)。そうすると,凹部内
に2層の樹脂が形成されている場合,その上部の樹脂はモールド樹脂であ
ると解するほかなく,これは,構成要件2Bの「コーティング樹脂」を充
足するものではない。
また,コーティング樹脂はマウント・リードのカップに設けられるもの
であるところ(本件明細書2の段落【0076】),凹部内の2層の樹脂5
のうち下部の樹脂は,マウント・リードのカップに設けられたものではな
いから,同樹脂についても,構成要件2Bの「コーティング樹脂」を充足
するものではない。
イこれに対し,原告は,被告らがモールド樹脂と主張する樹脂は凹部(カ
ップ)を覆うものではないなどとして,これらもモールド樹脂ではなく10
「コーティング樹脂」に当たる旨主張する。
しかしながら,本件明細書2には,「モールド部材104は,発光素子
102,導電性ワイヤー103,フォトルミネセンス蛍光体が含有された
コーティング部101などを外部から保護する機能を有する」(段落【0
077】)と記載されているにすぎず,モールド樹脂が凹部(カップ)を15
覆うことは記載されていないから,被告らがモールド樹脂と主張する樹脂
が凹部(カップ)を覆うものではないとしても,直ちにモールド樹脂とい
えないことにはならない。むしろ,被告らがモールド樹脂と主張する樹脂
は,LEDチップや蛍光体が含有された樹脂を覆い,さらに凹部も覆うこ
とにより外部から保護しており,本件明細書2に記載されたモールド樹脂20
の機能を有しているといえる。
争点(被告LEDの構成2fの蛍光体の濃度は構成要件2Fの「前記コ
ーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなってい
る」との文言を充足するか)について
【原告の主張】25
構成要件2Fは,コーティング樹脂中の蛍光体の含有分布を全体としてみ
たときに,蛍光体の含有分布がコーティング樹脂の表面側からLEDチップ
側に有意に偏っており,表面側からLEDチップ側に向かって蛍光体濃度が
高くなることはあっても,有意に低くなることはない状態を意味するという
べきである。しかして,被告LEDにおいては,蛍光体がLEDチップの周
辺に高密度に存在しており,コーティング樹脂中の蛍光体の含有分布を全体5
としてみたときに,蛍光体の含有分布がコーティング樹脂の表面側からLE
Dチップ側に有意に偏っており,表面側からLEDチップ側に向かって蛍光
体濃度が高くなることはあっても,有意に低くなることはない状態であると
いえる。そうすると,構成2fの蛍光体の濃度は構成要件2Fの「前記コー
ティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」10
との文言を充足する。
【被告らの主張】
被告LEDの構成2bの樹脂のうち蛍光体を含有する樹脂の層が「コーテ
ィング樹脂」に当たるとしても,同層では蛍光体の濃度が均一になっている
から,蛍光体の濃度が構成要件2Fの「前記コーティング樹脂の表面側から15
前記LEDチップ側に向かって高くなっている」との文言を充足するとはい
えない。
(本件訂正発明1はサポート要件に違反し無効にされるべきものか,
そうでない場合は,被告LEDには構成要件1E所定の元素及び蛍光体が含
まれていないものとして,同構成要件を充足しないこととなるか)について20
【被告らの主張】
ア「白色系を発光する」(構成要件1A)に関するサポート要件違反
本件訂正発明1が,「白色系を発光する」ものであれば足りるとする
場合には,LEDチップが発する光と蛍光体1E以外の蛍光体が発する
蛍光光との混色により白色光が生成され,そこに微量の蛍光体1Eが存25
在しているような場合も含まれることになる。
ところが,本件明細書1には,LEDチップからの光と当該光の一部
が蛍光体1Eにより波長変換された光との混色により白色光が発光され
ることが開示されているにすぎず,白色光がLED光と蛍光体1E以外
の蛍光体の光とにより発光することは記載も示唆もされていないから,
本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載は,本件明細書1にサポートさ5
れていない範囲を含んでいるといわざるを得ない。
そうすると,本件訂正発明1は,特許法36条6項1号の規定に反し
て特許されたものであり,その特許は同法123条1項4号の規定によ
り,無効とすべきである。
イ「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要件1E)に関す10
るサポート要件違反
構成要件1Eの「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」におけ
る「ガーネット」とは,「A3B5O12」という一般式で表される結晶
構造を有する化合物全般を指すところ,この式中の「A」及び「B」に
は,イオン半径や価数に関する制約の範囲内で種々の元素が入り得るの15
であって,「A」に入り得る元素としては,構成要件1Eで特定されて
いる「Y及びGd」の他に,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,T
b,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等があり,「B」に入り得る
元素としては,構成要件1Eで特定されている「Al及びGa」の他に,
Sc,In等がある。20
そして,構成要件1Eにおける「Y及びGdからなる群から選ばれた
少なくとも1つの元素
、、、、、、、、、、
」と「Al及びGaからなる群から選ばれる少な
、、
くとも1つの元素
、、、、、、、、
」とを「含んでなる
、、、、、
」という構成は,「Y及びGd」
と「Al及びGa」とを構成元素に含むことを意味するだけで,その他
のいかなる元素についても構成元素から排除することを意味しない。本25
件明細書1においても,「A」に同時に入りうる複数の元素として,
「Y,Gd,Sm」(段落【0016】,【0017】,【0019】,
【0027】,【0029】,【0046】,【0059】,【006
0】,【0064】,【0113】)や「Y,Ga,La」(段落【0
020】,【0030】),「Y,Lu,Sc,La,Gd,Sm」
(段落【0026】,【0046】),「Y,Gd,La」(段落【05
083】)が記載されている。
このように,「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの
元素」と「Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元
素」とを「含んでなる」という構成によっては,蛍光体1Eに含まれる
構成元素の範囲は何ら限定されない。そのため,Yとともに,本件明細10
書1には一切開示されていないPr,Nd,Eu,Tb,Dy,Ho,
Er,Tm,Ybなど種々の元素を含み得るし,Alとともに,本件明
細書1には一切開示されていないSc,Inなど種々の元素を含み得る
ことになる(例えば,(Y0.3Pr0.3Tb0.4)3(Al0.3Sc0.3
In0.4)5O12)。15
したがって,この点からみても,上記アと同様に,本件訂正発明1は
サポート要件違反により無効にされるべきものである。
仮に,原告が主張するように,蛍光体1Eに含まれる元素が「Y及び
/又はGd」と「Al及び/又はGa」とに限定されると解されるので
あれば,本件蛍光体にこれらの元素以外の元素が含まれていないことは20
主張立証されていないから,本件蛍光体は構成要件1Eの「ガーネット
系蛍光体」には当たらないというべきである。また,上記のように解さ
れるとすれば,構成要件1Eは蛍光体1E以外の蛍光体を含んではなら
ないと解すべきであるところ,被告LEDにはCASN系蛍光体が含有
されているから,被告LEDは構成要件1Eを充足しないこととなる。25
【原告の主張】
ア「白色系を発光する」(構成要件1A)に関するサポート要件違反につ
いて,被告らの上記主張は失当である。
すなわち,本件明細書1の段落【0007】ないし【0010】の記載
によれば,本件訂正発明1は,青色系発光素子の高エネルギーや熱,光及
び水分という劣化要因に対して耐久性を有する蛍光体として蛍光体1Eを5
見いだした点に技術的意義を有する発明であり,蛍光体1Eを用いること
で良好な白色系発光ダイオードを得られることを公開した点に大きな意義
が認められる発明であるから,白色系LEDの蛍光体として蛍光体1Eを
使用する以上,蛍光体1Eを白色系LEDの主たる蛍光体として用いるこ
とが当然である。被告らの上記主張は,蛍光体1Eが色調調整の目的等で10
微量に存在するにすぎない極めて極端な例に言及したものであり,現実的
には問題とならない。
イ「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要件1E)に関す
るサポート要件違反について,被告らの上記主張は失当である。
すなわち,構成要件1Eの「Y及びGdからなる群から選ばれた少な15
くとも1つの元素」とは,YあるいはGdのうちの少なくともいずれか
1つの元素の意味であるから,被告が指摘する「A」に入るのは「Y及
び/又はGd」に限定されているし,同様に,Bに入る元素は「Al及
び/又はGa」に限定されているから,被告らの主張には理由がない。
この点,被告らは,「含んでなる」と記載されているから限定されて20
いないと主張するが,「含んでなる」と記載されているからといって,
必ずしもそのような解釈になるとはいえない。むしろ,あえて構成要件
1Eのような記載にしている以上,当然,記載された元素に限定されて
いると読むべきである。また,仮に,特許請求の範囲の記載のみからは,
これが限定されているか否かが不明であるとしても,本件明細書1には,25
被告らが指摘するとおり,他の元素が記載されているにもかかわらず,
敢えて,特許請求の範囲を上記のとおり限定した記載にしていることか
らすれば,構成要件1Eは上記のとおり限定されていると解釈すべきで
ある。
被告らは,被告LEDにCASN系蛍光体が含まれている旨主張す
るが,同主張及びその立証は,故意又は過失により時機に後れて提出5
されたものであり,その提出を認めた場合に訴訟の完結を遅延させる
ことは明らかであるから,民事訴訟法157条に基づき,却下される
べきである。この点を措くとしても,被告LEDの蛍光体の発光写真
(甲8の図2(1)-15,図2(4)-2)を見ても,黄色発光のみ
であり赤色発光は認められないから,被告LEDにはCASN系蛍光10
体は含まれているとはいえない。
(本件訂正発明1は明確性を欠き無効にされるべきものか)につい

【被告らの主張】
前記【被告らの主張】イ内容によれば,本件訂正発明1の蛍15
光体1Eは「Y又はGd」と「Al又Ga」とを構成元素に含めば足り,そ
の構成元素の範囲は何ら限定されておらず,その構成元素の種類・組合せの
限界が不明瞭であるから,「特許を受けようとする発明」が明確であるとは
いえず,特許法36条6項2号に適合しない。そうすると,本件訂正発明1
は,同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたもの20
であり,その特許には明確性要件違反の無効理由(同法123条1項4号)
がある。
【原告の主張】
前記【原告の主張】イで述べた内容によれば,被告らの上記主張は失当
である。25
(本件訂正発明1は新規性を欠き無効にされるべきものか)につい

【被告らの主張】
ア分割要件違反を理由とするもの
本件訂正発明1の「白色系を発光する」は,LEDチップの光と蛍光体
1E以外の蛍光体の光との混色により白色光が発光される場合も含むもの5
であるところ,本件原出願1の願書に添付された明細書や図面には,LE
Dチップの光と蛍光体1E以外の蛍光体の光との混色により白色光が発光
されることは開示されていないから,本件出願1は,分割出願の要件を満
たしていないものである。
そうすると,本件訂正発明1についての新規性を判断する基準日は本件10
出願1の出願日になるから,本件訂正発明1は,本件出願1に関する国際
出願の国際公開公報(国際公開日平成10年2月5日,国際公開番号WO
98/05078)により新規性を欠き無効にされるべきものということ
となる。
イ乙33文献に基づくもの15
ドイツ法人であるWustlichMikro-ElektronikGmbH(以下「WME
社」という。)及びWustlichOpto-ElektronikGmbH(以下「WOE
社」という。)が発行した「White-News(COBTechnologie)02-1995
(白色ニュース(COB技術)02-1995)」及び「White-News(LED
Technologie)02-1995(白色ニュース(LED技術)02-1995)」という20
両面から成るチラシ(乙33。以下「乙33文献」という。)は,本件
特許権1の最先の優先日(平成8年7月29日)より前の平成7年(1
995年)に,新製品に関する情報提供並びに当該製品の売込み及び取
引促進を目的として,数千部も印刷され,顧客又は販売業者に対して広
範に配布された。25
乙33文献には,次の発明(以下「乙33発明」という。)が開示さ
れている。
「白色系を発光する発光ダイオードであって,
該発光ダイオードは,発光層がGaN半導体であり,
前記発光層の発光スペクトルのピークが430~490nmの範囲に
あるLEDチップと,5
該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光
の波長よりも長波長の光を発光する
Y3Al5O12:Ceを含む
発光ダイオード。」
本件訂正発明1と乙33発明とを対比すると,その内容からして,両10
者は同一というべきであるから,本件訂正発明1は,乙33発明に基づ
き新規性を欠き無効にされるべきものといえる。
【原告の主張】
ア分割要件違反を理由とするものについて
本件原出願1に添付された明細書の段落【0007】ないし【00115
0】は本件明細書1の段落【0007】ないし【0010】と同様の記載
となっている。
ば,被告らの上記主張は失当である。
イ乙33文献に基づくものについて
乙33文献には,1995年(平成7年)2月当時に白色LEDが蛍光20
体L175と青色窒化ガリウムチップを使用して製造された旨記載されて
いるところ,前者はOsram社製のもの(乙33),後者はCree社
製のもの(乙34)とされている。
しかしながら,前者については,蛍光体L175に関するデータシート
の書式はOsram社が1996年(平成8年)1月以降に使い始めた書25
式であるから,1995年(平成7年)2月当時には存在しないものであ
る。また,後者については,WME社及びWOE社はCree社から窒化
ガリウムチップを購入していないし,そもそも同社は1995年(平成7
年)6月に同チップを最初に売り出したのであるから,WME社及びWO
E社が1995年(平成7年)2月にCree社から同チップを購入する
ことは不可能である。5
したがって,乙33文献の,1995年(平成7年)2月当時に白色L
EDが蛍光体L175と青色窒化ガリウムチップを使用して製造された旨
の内容は信用性に欠けるものであるから,乙33文献に基づく被告らの上
記主張は失当である。
(本件訂正発明1は進歩性を欠き無効にされるべきものか)につい10

【被告らの主張】
ア乙10発明に基づくもの
乙10公報には,次の発明(乙10発明)が開示されている。
1A’発光素子からの光及び蛍光体からの光で白色発光可能な発光ダ15
イオードであって(乙10公報の段落【0001】,【000
3】及び【0009】には,乙10発明の発光ダイオードが
「発光素子からの光及び蛍光体からの光で白色発光可能な発光ダ
イオードであること」が開示されているというべきである。),
1B’前記発光素子は,発光層がGaAlNからなる窒化ガリウム系化20
合物半導体であり(【請求項1】,段落【0006】ないし【0
008】),
1C’発光層の発光ピークが430nm付近である発光素子と(段落
【0006】)
1D’発光素子が発光した光によって励起されてこれより長波長光を発25
光する(段落【0008】,【0009】,図2)
1E’蛍光染料または蛍光顔料を含む(【請求項1】,段落【000
6】ないし【0009】)
1F’発光ダイオード(【請求項1】,段落【0001】,【000
7】,【0008】,図2)。
本件訂正発明1と乙10発明とを対比すると,次の一致点及び相違点5
がある。
a一致点
「白色系を発光する発光ダイオードであって,該発光ダイオードは,
発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記発光層の発光スペ
クトルのピークが420~490nmの範囲にあるLEDチップと,10
該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光
の波長よりも長波長の光を発光する,蛍光体とを含む,ことを特徴と
する発光ダイオード。」である点。
b相違点
本件訂正発明1では,蛍光体が「Y及びGdからなる群から選ばれ15
た少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少
なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット
系蛍光体」であるのに対し,乙10発明では蛍光体の種類が記載され
ていない点。
上記相違点にかかる構成は,次のa,bによれば,当業者において容20
易に想到することができたものであるから,本件訂正発明1は,乙10
発明に基づき進歩性を欠き無効にされるべきものである。
a乙11公報には,レーザから発光された単色性ピーク波長の青色光
(441.6ないし488nm)を吸収して青色の補色の光を発光す
る蛍光体として,セリウム・ドープのYAG蛍光体が開示されており,25
当該YAG蛍光体の励起スペクトルのピークが466nm(0.46
6ミクロン)であることが記載されていた。
bまた,青色光を吸収して青色の補色の光を発光する蛍光体をCeで
付活されたYAG蛍光体とする構成は,次のとおり,本件出願1の最
先優先日当時の周知慣用技術であった。
乙12文献には,Ceで付活されたYAG蛍光体が波長460n5
mの放射エネルギー(青色の可視光線)を効率的に吸収し,より長
波長の550nmにピーク波長を有するブロードな発光バンドを示
すことが開示されている。
⒝乙13公報には,Ceで付活されたYAG蛍光体が,波長450
ないし500nmの青色光を,550ないし650nmにピーク波10
長を有する発光へと効率的に変換する蛍光体であって,演色性に優
れていることが開示されている。
⒞乙14文献には,Ceで付活されたYAG蛍光体がランプの演色
性向上に有用であり,青色発光を560nm中心の発光に変換する
ことが開示されている。15
⒟乙15文献には,(Y3(Al,Ga)5O12:Ceで表される
PYG蛍光体が,約450nmに刺激スペクトル(吸収スペクト
ル)があり,かつ,発光スペクトルも比較的幅広い波長域にわたり,
光出力も極めて高いことや非常に劣化の少ないことが開示されてい
る。20
イ乙33文献に基づくもの
仮に乙33発明と本件訂正発明1との間に相違点があったとしても,
当該相違点は周知の技術事項であり,当業者であれば,乙33発明に基
づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件訂正発明1
は進歩性を欠き無効にされるべきものである。25
【原告の主張】
ア乙10発明に基づくものについて
相違点の看過
被告らは,本件訂正発明1と乙10発明とは「白色系を発光する発光
ダイオード」である点において一致する旨主張する。
しかし,乙10公報には,乙10発明の目的が,青色発光素子からの5
短波長の光を長波長の光に変換して「青色発光素子の色補正ないし波長
変換」をすることにある旨記載されているから,乙10発明は「青色発
光素子の色補正ないし波長変換」をするものにすぎない。現に,乙10
公報は,実施例として,420ないし440nm付近の波長によって励
起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料を開10
示している。
そうすると,本件訂正発明1と乙10発明とは,本件訂正発明1は
「白色系を発光する発光ダイオード」であるのに対し,乙10発明は
「青色発光素子の色補正ないし波長変換をする発光ダイオード」である
点で相違するから,乙10公報に基づく被告らの主張は,上記相違点を15
看過している点において理由がない。
被告ら主張の相違点を当業者が容易に想到し得ないこと
a被告らは,乙10発明が「白色系を発光する発光ダイオード」であ
ることを前提に,白色系を発光する発光ダイオードの蛍光体として,
Ceで付活されたYAG蛍光体は周知技術であった旨主張する。20
のとおり,乙10発明は「白色系を発光する
発光ダイオード」ではないから,乙10発明にCeで付活されたYA
G蛍光体を選択して組み合わせる動機付けはない。
b仮に乙10発明が「白色系を発光する発光ダイオード」であるとし
ても,白色系を発光する発光ダイオードを得るための方法としては,25
青色の補色の光を発光する蛍光体を選択する以外に,蛍光体として複
数の蛍光体を使用する方法もあるし,青色LEDの発光を全て緑色に
変換した緑色LEDと青色LED及び赤色LEDとを組み合わせる方
法もあり,複数の選択肢が存在するのであるから,そのような選択肢
の中からYAG蛍光体を選択して乙10発明と組み合わせる具体的な
動機付けが必要であるが,被告らはこれを主張立証していない。5
cかえって,乙10発明は,発光ピークが430nm付近及び370
nm付近にある発光素子の色補正ないし波長変換を目的とするもので
あるが,YAG蛍光体は,370nm付近の光ではほぼ励起されない
から,乙10発明の蛍光体として不向きである。それどころか,37
0nm付近の光である紫外線は人体に有害であり,乙10発明でYA10
G蛍光体を使用するとそれが蛍光体に吸収されずに放出されてしまう
のであるから,当業者としてはそれを吸収する蛍光体を採用する必然
性があり,YAG蛍光体を使用することにつき阻害事由があるとさえ
いえる。
dさらに,被告らは,乙10公報に開示されている発光素子が「青色15
発光素子」であることから,蛍光体を励起する光源を青色発光素子と
することを前提に,これと組み合わせる蛍光体として,当該青色光で
励起されて黄色を発する蛍光体のみを候補にしているが,このような
前提の置き方は,本件訂正発明1を知った上での後知恵であって誤っ
たものである。20
すなわち,乙10公報は,「高輝度な波長変換発光ダイオード」(段
落【0001】)に関する発明であり,「青色または紫外のLEDは未
だ実用化されていない。」(段落【0005】)としながら,最近,窒
化ガリウム系化合物半導体が注目されているとして,発光素子の具体
例として,AlGaN/GaNを発光層とする430nm付近及び325
70nm付近の2つのピークを有する窒化ガリウム系化合物半導体発
光素子を開示し(段落【0005】),「窒化ガリウム系化合物半導
体はLEDに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピー
クを有するものであり,しかも紫外域にも発光ピークを有している。
そのため,それを発光素子の材料として使用した場合,その発光素子
を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光顔料を添加することにより,5
最も好適にそれら蛍光物質を励起することができる。」としている(段
落【0009】)。
乙10公報のこのような記載に接した当業者であれば,蛍光体を励
起する光源を「青色発光素子」と理解するのではなく,「窒化ガリウム
系化合物半導体」として理解するはずである。そして,本件訂正発明110
についての最先優先日当時には,窒化ガリウム系化合物半導体として
GaNやAlGaNのみならず,InGaNとするものも既に実現し
ていたのであるから,蛍光体を励起する窒化ガリウム系化合物半導体
発光素子としては,乙10公報に記載された370nmのような紫外
域のものから550nm付近の緑色のものまで相当に幅広い範囲が候15
補となる。
このように,本件訂正発明1の優先日当時の当業者であれば,窒化
物半導体発光素子を励起源として蛍光体との組合せにより白色を得る
ことを考えたとしても,そもそも白色を得るための方式が種々ある上,
励起源である窒化物半導体発光素子の発光波長についても多数の選択20
肢があり,さらに,蛍光体についても多数の選択肢があるのであって,
そのような中から最適な組合せを選択しなければ,本件訂正発明1に
は至らないのであるから,それが当業者にとって容易想到でないこと
は明らかである。
イ乙33文献に基づくものについて25
当である。
(本件訂正発明2は実施可能要件に違反し無効にされるべきもの
か)について
【被告らの主張】
ア本件訂正発明2の技術的特徴は「前記コーティング樹脂中の前記ガーネ5
ット系蛍光体の濃度が,前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチ
ップ側に向かって高くなっている」との点にあり,この技術的特徴によっ
て本件訂正発明2は特許を受けることができたといえるから,本件出願2
の原出願日当時(平成9年7月29日),このような技術的特徴を実現す
ることは当業者にとって容易でなく,その当時の発光ダイオードは,コー10
ティング樹脂中のYAG蛍光体の濃度がコーティング樹脂の表面側からL
EDチップ側に向かって高くも低くもなく,均一なものであったというこ
とになる。
イしかしながら,本件原出願2から相当な期間が経過した時点においてす
ら,当業者において,樹脂中にYAG蛍光体が均一なものとなっている構15
造を有する蛍光体層を形成することは不可能であり(乙23),原告自身,
自ら出願した特許の公開公報において,透光性部材としてエポキシ等の熱
硬化性樹脂を用いた場合,「単に樹脂中に蛍光物質を含有させ混合させた
もので発光素子を包囲し硬化させると,樹脂中の蛍光物質はほとんど発光
素子周辺に厚く嵩張って沈降してしまうのが現状である」と認識していた20
ことを明確に記載している(乙23)。そして,このような認識は,当業
者において共通のものであったから(乙25ないし27),樹脂中におけ
る蛍光物質の沈降(沈殿)を回避することは困難であるというのが本件出
願2の原出願日当時の技術常識であった。
そうすると,本件訂正発明2の技術的特徴である「前記コーティング樹25
脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前記コーティング樹脂の表面側
から前記LEDチップ側に向かって高くなっている」態様と樹脂中の蛍光
体が自然に沈降してしまう態様との間に何らかの相違があったとしても,
本件明細書2の記載に触れた当業者において,その相違がどのようなもの
であり,それをどのように実現し得るのかを理解し得ないから,本件訂正
発明2は実施可能要件に違反し無効にされるべきものである。5
【原告の主張】
ア構成要件2Fの「前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の
濃度が,前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かっ
て高くなっている」との文言は,コーティング樹脂中の蛍光体の含有分布
を全体として見たときに,蛍光体の含有分布がコーティング樹脂の表面側10
からLEDチップ側に有意に偏っており,表面側からLEDチップに向か
って蛍光体濃度が高くなることはあっても,有意に低くなることはない状
態をいうものと解釈されるものであるから,これに沿わない被告らの上記
主張は失当である。
イまた,被告らの主張は,本件出願2の原出願日当時における当業者の認15
識を,その後に出願された特許の公開公報に依拠して説明している点で誤
っている上,樹脂中の蛍光体を均一に分布させることが不可能であったと
いう事実もないから,前提自体を誤っている。
ウさらに,物の発明の実施可能要件を充足するためには,その物を作るこ
とができ,かつ,その物を使用することができるように「発明の実施の形20
態」が記載されていればよいものであるところ,コーティング樹脂中の蛍
光体の濃度分布がその表面側からLEDチップ側に向かって高いという形
態は,当業者であれば,本件明細書2の段落【0047】の記載に従って,
当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要
なく容易に実施し得るものであるから,被告らの上記主張は失当である。25
(本件訂正発明2は明確性を欠き無効にされるべきものか,そうで
ない場合は,被告LEDには構成要件2D所定の元素及び蛍光体が含まれて
いないものとして,同構成要件を充足しないこととなるか)について
【被告らの主張】
ア「Ceで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要件2D)に関する明
確性要件違反5
構成要件2Dは,構成要件1Eと同様に,「Y,Lu又はGdからなる
群から選ばれた少なくとも1つの元素」と「Al又はGaからなる群から
選ばれる少なくとも1つの元素」とを「含んでなる」という構成によって
は,「Ceで付活されたガーネット系蛍光体」に含まれる構成元素の範囲
を何ら限定していない。そのため,その構成元素の種類・組合せの限界が10
不明瞭であるから,本件訂正発明2は明確性を欠き無効にされるべきもの
である。
仮に,原告が主張するように,蛍光体2Dに含まれる元素が「Y,Lu
及び/又はGd」と「Al及び/又はGa」とに限定されると解されるの
であれば,本件蛍光体にこれらの元素以外の元素が含まれていないことは15
主張立証されていないから,本件蛍光体は構成要件2Dの「ガーネット系
蛍光体」には当たらないというべきである。また,上記のように解される
とすれば,構成要件2Dは蛍光体2D以外の蛍光体を含んではならないと
解すべきであるところ,被告LEDにはCASN系蛍光体が含有されてい
るから,被告LEDは構成要件2Dを充足しないことになる。20
イ「前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前記コ
ーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなってい
る」(構成要件2F)に関する明確性要件違反
【被告らの主張】で述べたように,本件訂正発明2の技術的特徴
である「前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前25
記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっ
ている」態様と,従来技術(樹脂中の蛍光体が自然に沈降してしまう態
様)との間に何らかの相違があったとしても,本件明細書2の記載に触れ
た当業者において,その相違がどのようなものであり,それをどのように
実現し得るのかを理解し得ないから,本件訂正発明2は明確性要件に違反
し無効にされるべきものである。5
【原告の主張】
ア「Ceで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要件2D)に関する明
確性要件違反に係る被告らの上記主張は失当である。前記【原告の主
張】イで述べたように,「Ceで付活されたガーネット系蛍光体」に含
まれる構成元素は「Y,Lu及び/又はGd」と「Al及び又はGa」と10
に限定されているから,被告らの主張には理由がない。
イ「前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が,前記コ
ーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなってい
る」(構成要件2F)に関する明確性要件違反に係る被告らの上記主張は
主張】ア,イで述べたとおりで15
ある。なお,特許請求の範囲の記載についての明確性要件は請求項の記載
それ自体に基づいて判断されるものであり,従来技術との区別との関係で
判断されるものではない。
(本件訂正発明2は新規性を欠き無効にされるべきものか)につい
て20
【被告らの主張】
ア乙21文献には,次の発明(乙21発明)が開示されている。
「リードフレームのカップ底面にLEDチップをマウントし,
LEDチップに対し,蛍光体を表面に薄くコーティングし,
チップを外部環境から保護するために集光レンズを兼ねたエポキシ樹脂25
で周囲を封止した発光ダイオードであって,
前記LEDチップは,InGaN系の青色SQW-LEDである,
発光ダイオード。」
イしかして,本件訂正発明2と乙21発明とを対比すると,両者は,乙2
1発明が,本件訂正発明2の「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体
の濃度が,コーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高く5
なっている」構成を備えるものか不明である点で相違する。
しかし,前記説示及びの各公報の該当段落の記載に照ら
し,本件出願2の原出願日から相当な期間が経過した時点においてすら,
当業者において,樹脂中にYAG蛍光体が均一になっている構造を有する
蛍光体層を形成することは不可能であり,原告自身,「単に樹脂中に蛍光10
物質を含有させ混合させたもので発光素子を包囲し硬化させると,樹脂中
の蛍光物質はほとんど発光素子周辺に厚く嵩張って沈降してしまう」と認
識していたものであるから,本件出願2の原出願日当時の発光ダイオード
においても,「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コー
ティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構15
成を備えるものであったというべきである。
そうすると,本件訂正発明2と乙21発明とは,実質的に同一のもので
あり,本件訂正発明2は,乙21発明に基づき新規性を欠き無効にされる
べきものである。
特開2002-50800号公報(乙22。以下「乙22公報」とい20
う。)の段落【0002】,【0003】,【0022】,【002
3】,【0025】及び【0026】
特開2006-080565号公報(乙23。以下「乙23公報」と
いう。)の段落【0026】ないし【0028】及び【0034】
特開2000-022222号公報(乙24。以下「乙24公報」と25
いう。)の段落【0002】及び【0003】
特開2006-245020号公報(乙25。以下「乙25公報」と
いう。)の段落【0010】
特開2005-064233号公報(乙26。以下「乙26公報」と
いう。)の段落【0002】ないし【0006】
特開2008-115307号公報(乙27。以下「乙27公報」5
という。)の段落【0004】
【原告の主張】
ア本件訂正発明2は部分優先権を有すること
本件訂正発明2は,蛍光体の組成に関して選択肢で記載された発明特
定事項を含むものであるところ,訂正前の本件訂正発明2のうち,①10
「Y,Gd,Smからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,A
l,Gaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を含んでなるC
eで付活されたガーネット系蛍光体」を備える発明は第1優先権出願明
細書に開示されており,②「Y,Gd,Sm,Laからなる群から選ば
れた少なくとも1つの元素と,Al,Gaからなる群から選ばれる少な15
くとも1つの元素を含んでなるCeで付活されたガーネット系蛍光体」
を備える発明は第2優先権出願明細書に開示されているから,部分優先
権により,上記①の発明の優先日は第1優先権出願の出願日である平成
8年7月29日,上記②の発明の優先日は第2優先権出願の出願日であ
る同年9月17日となる。20
しかして,乙21文献は,これらの出願日より後に頒布されたものと
なるところ,第1優先権出願明細書(乙16)には,「RE3(Al,
Ga)5O12:Ce(ただし,REはY,Gd,Smから選択される少
なくとも一種)の組成式で表されるCeで付活されたガーネット系蛍光
体」(段落【0018】),「Inを含む窒化ガリウム系半導体である25
InGaNの発光層」(段落【0029】),「発光スペクトルのピー
クが400nmから530nmの発光波長を有するLEDチップ」(請
求項1,段落【0032】)及び「450nm付近のピーク波長を有す
るLEDチップ」(前同)が開示されており,乙21文献に開示された
内容と実質的に同じ内容が,本件訂正発明2に至る第1優先権出願明細
書及び第2優先権出願明細書に既に開示されているのであるから,乙25
1文献は,本件訂正発明2の進歩性を判断する上での引用発明としての
適格を欠くというべきである。
なお,そもそも本件訂正発明2につき優先権がないことが問題となり
得るのは,第1優先権出願明細書及び第2優先権出願明細書のいずれに
おいても開示されていない部分のみ,すなわち,「Lu,Scの少なく10
とも1つの元素を含んでなるか,Inを含んでなるCeで付活されたガ
ーネット系蛍光体」を備える発明のみであるところ,被告らが乙21文
献に開示されていると主張している「Y,Gdからなる群から選ばれた
少なくとも1つの元素と,Al,Gaからなる群から選ばれる少なくと
も1つの元素を含んでなるCeで付活されたガーネット系蛍光体」を備15
える発明との関係では,本件訂正発明2の優先日は第1優先権出願の出
願日である平成8年7月29日となり,それより後に頒布された乙21
文献は特許法29条1項3号の「刊行物」には当たらないことになる。
以上によれば,被告らの上記主張は失当である。
イ本件出願2の原出願日当時コーティング樹脂中にYAG蛍光体を均一に20
分布させることが不可能ではなかったこと
本件出願2の原出願日当時の公知文献(乙21文献の図1,同図2,
甲17の図2,甲18の図1)には,LEDを覆う樹脂中で蛍光体が均
一に分散することが明らかに示されている上,LEDを覆う樹脂中で均
一に分散していた蛍光体が比重差によって時間の経過とともに沈降する25
という現象が起き得るとしても,硬化後の樹脂において蛍光体がどのよ
うに分布するのかは,樹脂の粘度,形成温度,蛍光体の形状,粘度分布
等の種々のパラメータの組合せによって任意に設計することが可能であ
るから,LEDを覆う樹脂中における蛍光体の沈降は不可避なものでは
なかった。この点,本件出願2と原出願を同じくする特願2009-0
65948号の審査段階において原告が提出した意見書の添付資料15
(甲19)にも,本件出願2の原出願当時の技術によって上記公知文献
で示されている均一な分散状態を実現できたことが示されている。
これに対し,被告らは,乙22公報ないし乙27公報の記載によれば,
本件出願2の原出願当時は,コーティング樹脂中のガーネット蛍光体は
自然に沈降してしまい,同蛍光体を均一に分布させる技術は確立してい10
なかった旨主張する。
しかし,次のaないしcの各公報の該当段落の記載によれば,上記各
公報は,ある特定の条件下で蛍光体の沈降が抑制困難であることを記載
したものにすぎず,コーティング樹脂中のガーネット蛍光体を均一に分
散させることが全く不可能であり,同蛍光体が沈降した態様以外の組成15
分布が得られなかったことを示すものではない。被告らが指摘する乙2
5公報の段落【0010】,乙26公報の段落【0006】,乙27公
報の段落【0004】の各記載も,その内容に照らし,上記を左右する
ものではない。
a乙22公報の段落【0026】ないし【0028】及び【00320
0】
b乙23公報の段落【0004】,【0010】,【0028】及び
【0087】
c乙24公報の段落【0003】
以上によれば,本件出願2の原出願日当時,蛍光体を樹脂中で均一25
に分布させることが不可能であったという事実はなく,乙21発明が
「コーティング樹脂中のガーネット蛍光体の濃度が,コーティング樹脂
の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構成を備え
ているとはいえないから,本件訂正発明2と乙21発明とが実質的に
同一の発明であるとはいえない。
したがって,本件訂正発明2は,乙21発明に対して新規性を欠くも5
のとはいえない。
(本件訂正発明2は進歩性を欠き無効にされるべきものか)につい

【被告らの主張】
乙21発明が「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コー10
ティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構成
を備えておらず,その点において本件訂正発明2と相違するとしても,前記
とおり,本件出願2の原出願日当時の当業者
にとって上記の構成を備えることは技術常識であり,これを乙21発明に適
用することは容易想到であったから,本件訂正発明2は乙21発明に基づき15
進歩性を欠き無効にされるべきものである。
【原告の主張】
ア前記で述べたとおり,本件出願2の原出願日当時,
「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂
の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構成を備えると20
いう技術常識は存在しなかった。これに対し,本件訂正発明2は,このよ
うな技術常識に反して蛍光体の分布をLEDチップの側に偏ったものにし,
外部からの水分による蛍光体の劣化を有効に抑制したという点にその技術
的意義があるのであって,乙21文献には,そのような蛍光体の分布を採
用することを動機付けるものは全く示されていない。25
すなわち,乙21文献は,InGaN系青色SQW・LEDとYAG蛍
光体とを組み合わせることにより,高光度で純白色の発光を実現できる白
色系LEDが得られること,並びにYAG蛍光体のY及びAlをそれぞれ
Gd及びGaで置換することによって蛍光体の発光波長が変化することを
開示するものであり,白色系LEDを構成する蛍光体が,外部から侵入す
る水分や製造時に内部に含まれた水分によって劣化するという課題につい5
て何ら言及していない。当然のことながら,乙21文献には,そのような
課題がコーティング樹脂中の蛍光体の配置によって解決されることを教示
ないし示唆する記載もない。
イそうすると,乙21発明に基づいて,高温・高湿の外部からの水分侵入
が顕著な環境下においても,蛍光体の劣化による色調のずれや輝度の低下10
を抑制し,優れた耐光性を実現する白色系の発光ダイオードを得るために,
「コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度が,コーティング樹脂
の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている」構成を採用する
ことは,当業者において容易になし得ることではなかったといえ,本件訂
正発明2は乙21発明に基づき進歩性を欠き無効にされるべきものである15
とはいえない。
争点(原告の損害の額)について
【原告の主張】
ア特許法102条2項により算定される損害額
被告LEDの輸入販売等により被告らが得た利益の額は,被告HTCに20
ついては●(省略)●円(=●(省略)●個×100円),被告兼松につ
いては●(省略)●円(=●(省略)●個×100円)である。
すなわち,LEDの価格は製造メーカー,品質,購入する数量,使用目
的などによっても様々である上,最終製品に組み込まれたLEDの価値は
当該LED単体としての原材料費を超えることが通常であり,さらに,被25
告LEDについては,LED単体の価格が不明である,被告製品と不可分
一体として製造販売されており,これを分離することができないといった
事情がある。これらを踏まえると,被告らが被告LEDによって得た利益
の額を算定するに当たっては,単にLEDの単価(材料費)のみを問題と
すべきではなく,スマートフォンに対する寄与率的な要素も考慮する必要
があるというべきである。5
そして,携帯端末のLEDライトはカメラのフラッシュとして,さらに
は,緊急時の懐中電灯代わりとしても,重要な部材の一つとなっている上,
被告LEDの場合には,単なるライトではなく,ほかのLEDとは異なり,
明るく演色性の高い白色系発光を実現しているのであるから,被告製品1
台(販売額は●(省略)●円又は●(省略)●円程度)当たりにおける被10
告LEDによる利益額は,100円(寄与率にすると,前者の約●(省
略)●%,後者の約●(省略)●%)を下回らないというべきである。
イ弁護士費用
原告が本件訴訟の追行に要する弁護士費用相当額は,被告HTCについ
ては200万円(その内訳は,被告HTCが被告兼松に対して被告製品を15
販売した分につき100万円,被告兼松以外の第三者に被告製品を販売し
た分につき100万円),被告兼松については100万円を下らない。
【被告らの主張】
ア特許法102条2項により算定される損害の額について
被告LEDの輸入販売等により被告らが得た利益の額は,被告ら各自が20
被告製品の販売により得た利益額の●(省略)●/●(省略)●であると
いうべきである。
すなわち,被告製品は,HTC台湾がスマートフォンモジュールメーカ
ーに製造させたものであり,被告LEDは当該メーカーが被告製品に搭載
したものであるところ,当該メーカーによる被告LEDの仕入価格は1個25
●(省略)●米ドルであった。
他方,被告製品が販売された当時,スマートフォンのコストを50ドル
にすることは実現不可能であるといわれていたのであるが,そこで想定さ
れるスマートフォンのスペックに比べて,被告製品のスペックは大幅にこ
れを上回っていたから,被告製品のコストが50ドルを上回ることは確実
である。そして,その当時に既に販売されていたAndroidのスマー5
トフォンのコストが販売価格の約39ないし45%であるといわれていた
ことを考慮すると,被告製品のコスト比率を40%として低めに見積もっ
たとしても,市場価格が●(省略)●円であった被告製品のコストは●
(省略)●円であったと見積もることができ,その当時の為替レート12
0.16円/ドルで換算すると●(省略)●ドルとなる。10
イ弁護士費用について
原告の上記主張は否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1本件事案に鑑み,まず,被告製品が本件訂正発明1に係る本件特許権1を侵
害するといえるかについて検討するに,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲15
は,前記第2の1アのとおりであり,また,本件明細書1には,発明の詳細
な説明として,別紙特許公報のとおりの記載が存する。そこで,これを前提と
して以下検討する。
2(被告LEDは構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオード」
を充足するか)について20
構成要件1Aには「白色系を発光する発光ダイオード」との文言があると
ころ,本件特許権1に係る特許請求の範囲や本件明細書1の記載によれば,
同「白色系」とは,LEDチップからの光とその光を吸収したガーネット系
蛍光体が発する光との混色により発光されたものであることを要すると解す
るのが相当である。25
すなわち,本件明細書1の【技術分野】の欄では,本件出願1に係る特許
発明は「発光素子が発生する光の波長を変換して発光するフォトルミネセン
ス蛍光体を備えた発光装置及びそれを用いた表示装置に関する」(段落【0
001】)ものであり,「発光素子として,青色系の発光が可能な発光素子
を用いて,該発光素子をその発光を吸収して黄色系の光を発光する蛍光体を
含有した樹脂によってモールドすることにより,混色により白色系の光が発5
光可能な発光ダイオードを作製することができる」(段落【0006】)と
説明されていること,「従来の発光ダイオードは,蛍光体の劣化によって色
調がずれたり,あるいは蛍光体が黒ずみ光の外部取り出し効率が低下する場
合があるという問題点があった」(段落【0007】)とされ,【発明が解
決しようとする課題】の欄では,「本願発明は上記課題を解決し,より高輝10
度で,長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれ
の極めて少ない発光装置を提供することを目的とする」(段落【001
0】)と説明され,さらに,同【課題を解決するための手段】の欄では,課
題を解決するための手段の一つとして,「発光素子と蛍光体との関係として
は,蛍光体が発光素子からのスペクトル幅をもった単色性ピーク波長の光を15
効率よく吸収すると共に効率よく異なる発光波長が発光可能であること,が
必要であると考え,鋭意検討した結果,本発明を完成させた」(段落【00
11】)などの説明がされていることが認められる。
これらによれば,本件訂正発明1は,発光光度及び発光効率の低下や色ず
れという技術的課題を解決するため,発光素子からの光とその光を吸収した20
ガーネット系蛍光体からの光との混色により白色系の光を発光する発光ダイ
オードという構成を採用することにより,当該蛍光体が当該発光素子からの
光を効率よく吸収して効率よく異なる波長の発光をすることを可能なものと
するなどして,上記課題を解決した点に,従来技術と異なる技術的思想の特
徴的部分があるものと認められる。そうすると,構成要件1Aの「白色系」25
については,LEDチップからの光とその光を吸収したガーネット系蛍光体
が発する光との混色により発光されたものであることを要すると解するのが
相当である。これは,本件特許1に係る特許請求の範囲の記載文言にも沿う
ものといえる。
なお,被告らは,当該蛍光体は吸収したLEDチップからの光の波長より
も長波長の光を発することを要する旨主張するが,前記5
り,この点については,構成要件1Dにおいて規定されているものであって,
構成要件1Aの「白色系」自体を,そのように限定して解することは要しな
いというべきである。
告LEDは白色系を発光する発
光ダイオードであり(構成1a),また,証拠(甲8)によれば,被告LE10
DのLEDチップは青色を発光すること,本件蛍光体は青色光を照射すると
黄色に発光すること
細書1の【技術分野】の欄では「発光素子として,青色系の発光が可能な発
光素子を用いて,該発光素子をその発光を吸収して黄色系の光を発光する蛍
光体を含有した樹脂によってモールドすることにより,混色により白色系の15
光が発光可能な発光ダイオードを作製することができる」(段落【000
6】)と説明されていることも併せれば,被告LEDの白色光は,LEDチ
ップの青色光と本件蛍光体の黄色光との混色により発光されたものであると
推認するのが相当である。
したがって,被告LEDは構成要件1Aの「白色系を発光する発光ダイオ20
ード」を充足するというべきである。
3争点被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活されたYAG蛍光
体であり構成要件1Eを充足するか)について
被告LEDの構成1eの本件蛍光体につき,これがCeで付活されたYA
G蛍光体であれば,被告LEDは,構成要件1E(「Y及びGdからなる群25
から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれ
る少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系
蛍光体(判決注,蛍光体1E)とを含む,」)の文言を充足することとなる。
そこで検討するに,前記のとおり,本件蛍光体は,構成元素
として少なくともY,Al及びOを含んでいるものであるところ,YとAl
とを含む酸化物としては,YAGのほかに,Y4Al2O9(YAM)とYA5
lO3(YAP)が知られていること(甲47,弁論の全趣旨),もっとも,
エネルギー分散型X線分析装置による分析の結果,本件蛍光体からは,Y,
Al及びOのほかに,Ceも検出されたこと(甲8),そして,顕微レーザ
ーラマン分光装置による測定の結果,本件蛍光体のラマンスペクトルのピー
クがCeで付活されたYAG蛍光体(Y2.85Ce0.15Al5O12)のラマンスペ10
クトルのピークとほぼ同じ位置に現れたこと(甲8,9),一方,Ceで付
活されたYAM(Y3.96Ce0.04Al2O9)及びYAP(Y0.99Ce0.01Al
O3)については,顕微レーザーラマン分光装置で測定した各ラマンスペク
トルをCeで付活されたYAG蛍光体のラマンスペクトルとそれぞれ比較す
ると,ピークの現れた位置が全く異なっていたこと(甲9,46,弁論の全15
趣旨)がそれぞれ認められる。そうすると,本件蛍光体は,Ceで付活され
たYAG蛍光体であると推認するのが相当というべきである。
したがって,被告LEDの構成1eの本件蛍光体はCeで付活されたYA
G蛍光体であり,構成要件1Eを充足するというべきである。
これに対する被告らの主張は,次のとおりいずれも採用できない。20
ア被告らは,Ceを検出した信号であると原告が主張するスペクトルのピ
ークは単なるノイズにすぎないか,Ce以外の元素に由来する信号の可能
性がある旨主張する。
しかしながら,本件蛍光体の分析に用いられたエネルギー分散型X線分
析装置は自動定性により元素を同定するものである(甲8,39)から,25
単なるノイズやCe以外の元素に由来する信号を誤ってCeと同定するこ
とはないというべきである。
イまた,被告らは,本件蛍光体のラマンスペクトルにはCeで付活された
YAG蛍光体のラマンスペクトルとピークの位置が一致していない箇所が
5か所ある旨主張する。そして,証拠(甲8,9)及び弁論の全趣旨によ
れば,樹脂に含まれた状態の本件蛍光体を顕微レーザーラマン分光装置で5
測定したラマンスペクトルのピークが現れた位置と,Ceで付活されたY
AG蛍光体のラマンスペクトルのピークが現れた位置とが異なる箇所が,
波数がおおよそ3500ないし3100cm-1
と700ないし100
cm-1
の各範囲において,合計5か所あることが認められる。
しかしながら,上記証拠及び弁論の全趣旨によれば,上記各範囲以外の10
範囲(おおよそ3100ないし700cm-1
と100ないし0cm-1

各範囲)においては,両者の位置が明らかに異なる箇所は見当たらない上,
上記各範囲においても,上記5か所以外の15か所では両者の位置は一致
していると認められ,また,そもそもラマンスペクトルを含む分光スペク
トルには,情報のほかにノイズが含まれており(甲44),さらに,前者15
のラマンスペクトルのピークには本件蛍光体を含有している樹脂自体のラ
マンスペクトルのものが含まれているものである(甲9,弁論の全趣旨)。
これらに照らせば,上記を考慮したとしてもなお,本件蛍光体は,Ceで
付活されたYAG蛍光体であると推認するのが相当とのの推認を覆
すには足りないというべきである。20
4(本件訂正発明1はサポート要件に違反し無効にされるべきものか,
そうでない場合は,被告LEDには構成要件1E所定の元素及び蛍光体が含
まれていないものとして,同構成要件を充足しないこととなるか)について
「白色系を発光する」(構成要件1A)に関するサポート要件違反の有無
について25
ア特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の
範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の
詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識でき
る範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出
願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の5
ものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高判平成17年
11月11日判例タイムズ1192号164頁参照)。
イこの点,被告らは,本件訂正発明1の「白色系を発光する」(白色光)
は,LED光と蛍光体1E以外の蛍光体の蛍光光との混色により発せられ
た白色光も含むものであるが,本件明細書1には,LEDチップからの発10
光(LED光)と,当該発光の一部が蛍光体1Eにより波長変換された発
光との混色により白色光が発光されることが開示されているにすぎないか
ら,本件訂正発明1の特許請求の範囲の記載は明細書にサポートされてい
ない範囲を含んでいる旨主張する。
しかし,前記2本件訂正発明1は,発光光度及び15
発光効率の低下や色ずれという技術的課題を解決するため,発光素子から
の光とその光を吸収したガーネット系蛍光体からの光との混色により白色
系の光を発光する発光ダイオードという構成を採用することにより,当該
蛍光体が当該発光素子からの光を効率よく吸収して効率よく異なる波長の
発光をすることを可能なものとするなどして,上記課題を解決した点に,20
従来技術と異なる技術的思想の特徴的部分があるものと認められる。そし
て,かかる本件訂正発明1「該LEDチ
ップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長
波長の光を発光する」(構成要件1D)ためのものとして,まさに蛍光体
1Eを用いるものなのであるから,本件訂正発明1(特許請求の範囲に記25
載された発明)は,LEDチップからの光と蛍光体1Eからの光との混色
により白色系を発光する構成を,その必須の前提とするものといわなけれ
ばならない。
ウしたがって,本件訂正発明1がLEDチップからの光と蛍光体1E以外
の蛍光体からの光との混色により白色系を発光する場合を含んでいるとの
理解を前提とする被告らの上記主張は,その前提を欠くものであって,理5
由がなく,その他,本件出願1の分割の経緯を含め検討しても,上記説示
を左右するに足りる事情があるとは認められない。
以上によれば,「白色系を発光する」(構成要件1A)に関し,特許請
求の範囲に記載された発明(本件訂正発明1)は,発明の詳細な説明(本
件明細書1)に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者10
が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ,こ
の点のサポート要件違反はないというべきである。
「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要件1E)に関する
サポート要件違反の有無について
ア被告らは,本件訂正発明1の「Y及びGdからなる群から選ばれた少な15
くとも1つの元素」と「Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも
1つの元素」とを「含んでなる」という構成によっては,蛍光体1Eに含
まれる構成元素の範囲は何ら限定されず,本件明細書1には一切開示され
ていない種々の元素が含まれることになるから,本件訂正発明1の特許請
求の範囲の記載は明細書にサポートされていない範囲を含んでいる旨主張20
する。
イそこで検討するに,前記
体1Eが「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,
Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでな
る」ことを規定しているところ,この文言は,文理上,蛍光体1Eが,構25
成元素として,少なくとも「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくと
も1つの元素」と「Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つ
の元素」を含んでいることを必要とするものであって,その他の元素を含
むことを排除していないと解するのが相当である。
もっとも他方,証拠(甲2)によると,本件明細書1においては,構成
要件1Eに記載されている元素以外で蛍光体1Eに含まれ得る元素として,5
「Sm」(段落【0016】,【0017】,【0019】,【002
7】,【0029】,【0046】,【0059】,【0060】,【0
064】,【0113】)や「La」(段落【0020】,【0030】,
【0083】),「Lu,Sc,La,Sm」(段落【0026】,【0
046】)が挙げられていることが認められる。しかして,前記210
示したとおり,本件訂正発明1は,発光光度及び発光効率の低下や色ずれ
という技術的課題を解決するため,発光素子からの光とその光を吸収した
ガーネット系蛍光体からの光との混色により白色系の光を発光する発光ダ
イオードという構成を採用することにより,上記課題を解決した点に,従
来技術と異なる技術的思想の特徴的部分があるものと認められるものであ15
るところ,本件明細書1において,「ガーネット構造を有するので,熱,
光及び水分に強く」との記載があることに照らしても(段落【0050】,
【0083】参照),ガーネット系蛍光体「A3B5O12」の「A」には
YやGdと化学的性質が類似した元素が入り,「B」にはAlやGaと化
学的性質が類似した元素が入り得ることは技術常識というべきであって,20
本件明細書1の上記記載も,これに沿うものとなっているものと認められ
る。
そうすると,「A」の一部にYやGd以外の元素が入り,「B」の一部
にAlやGa以外の元素が入ったとしても,本件明細書1の記載に接した
当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)に25
おいては,蛍光体1Eについて,それがガーネット構造を有することに変
わりはなく,その元素の一部がイオン半径や価数に関する制約の範囲内
(弁論の全趣旨)で化学的性質の類似した元素に置き換わるにすぎないと
理解するというべきである。したがって,本件明細書1の記載に接した当
業者においては,上記置き換えがされたものを含めそのようなガーネット
構造のものをそれ以外の構造のものと容易に区別することができるもので5
あって,当該ガーネット構造のものを採用することにより,「セリウムで
付活されたガーネット系蛍光体」との構成を要素とする本件訂正発明1の
課題(発光光度及び発光効率の低下や色ずれという技術的課題)を解決で
きると認識できるものというべきである。
ウしたがって,本件訂正発明1の「含んでなる」という構成によっては,10
蛍光体1Eに含まれる構成元素の範囲は何ら限定されないとの理解を前提
とする被告らの上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がなく,
その他,被告らは縷々主張するが,上記説示を左右するに足りる事情があ
るとは認められない。
以上によれば,「セリウムで付活されたガーネット系蛍光体」(構成要15
件1E)に関し,特許請求の範囲に記載された発明(本件訂正発明1)は,
発明の詳細な説明(本件明細書1)に記載された発明で,発明の詳細な説
明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の
ものであるといえ,この点のサポート要件違反もないというべきである。
5(本件訂正発明1は明確性を欠き無効にされるべきものか)について20
前記で判示したとおり,構成要件1Eは,蛍光体1Eが,構成元素とし
て,少なくとも「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素」
と「Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素」を含んでい
ることを必要とするものであって,その他の元素を含むことを排除していない
と解されるところ,被告らは,蛍光体1Eを構成する元素の範囲が限定されな25
いことをもって,明確性要件違反の無効理由(特許法123条1項4号)があ
る旨主張する。
しかしながら,前記4(2)に説示したとおり,本件明細書1の記載に接した
当業者においては,その他の元素として許容し得る置き換えがされたガーネ
ット構造のものを,それ以外の構造のものと容易に区別することができるも
のであって,当該ガーネット構造のものを採用することにより,「セリウム5
で付活されたガーネット系蛍光体」との構成を要素とする本件訂正発明1の
課題(発光光度及び発光効率の低下や色ずれという技術的課題)を解決でき
ると認識できるものというべきであるから,本件訂正発明1の構成要件1E
において,蛍光体1Eが,構成元素として,少なくとも「Y及びGdからな
る群から選ばれた少なくとも1つの元素」と「Al及びGaからなる群から10
選ばれる少なくとも1つの元素」を含んでいることを必要とするとの文言に
つき,請求項の記載として「特許を受けようとする発明」が不明確であると
はいえず,特許法36条6項2号に適合しないものとはいえない。
したがって,本件訂正発明1において,同号に規定する要件を満たしてい
ない特許出願に対して特許されたとする明確性要件違反の無効理由(同法115
23条1項4号)があるとはいえないから,被告らの主張は,採用すること
ができない。
6争点(本件訂正発明1は新規性を欠き無効にされるべきものか)について
分割要件違反を理由とするもの
被告らは,本件訂正発明1がLEDチップの光と蛍光体1E以外の蛍光体20
の光との混色による白色光を含むものであることを前提として,本件出願1
が,分割出願の要件を満たしていない旨主張する。しかしながら,前記2で
判示したとおり,本件訂正発明1は,LEDチップからの光と蛍光体1Eか
らの光との混色により白色系を発光する構成を,その必須の前提とするもの
というべきであるから,被告らの上記主張は,そもそもその前提を欠くもの25
であって,理由がないというべきである。
乙33文献に基づくもの
ア被告らは,乙33文献が,本件出願1の最先優先日である平成8年(1
996年)7月29日より前に頒布された刊行物である旨主張するところ,
証拠(乙33)及び弁論の全趣旨によれば,乙33文献は,GaN青色チ
ップとイットリウム・アルミン酸塩を混合したエポキシ又はシリコンとに5
よって白色を生じるLEDに関する両面からなるチラシであって,表題と
して,一方の面には「白色ニュース(COB技術)02/1995」,も
う一方の面には「白色ニュース(LED技術)02/1995」と記載さ
れたものであることが認められる。
イしかして,WME社のA氏作成名義の1995年(平成7年)4月2610
日付けの書簡には,A氏がパウエル・エレクトロニクスインクのB氏に
対して,情報データシートの「白色ニュース02/1995」をアメリカ
合衆国内で同社の顧客に配布することを求め,そのために250部を送付
する旨が記載されており,WME社の新製品を「白色LED」及び「CO
B技術」と表現している箇所があること(乙34),ドイツ連邦共和国に15
おける原告の特許権の効力が争われた特許無効に係る訴訟(連邦特許裁判
所事件整理番号2Ni11/12)に証人として出廷したA氏は,上記書
簡には,GaNチップに関する記述がある1995年(平成7年)2月の
「白色ニュース」が添付されていた旨証言していること(甲31,乙3
9)がそれぞれ認められる。20
しかし,上記書簡で言及されている「白色ニュース02/1995」と
乙33文献とが同一の書面であった場合であっても,上記認定のとおり,
上記書簡は「白色ニュース02/1995」をアメリカ合衆国内で配布す
ることを求めるものであるにとどまり,その後の事実経過についてはこれ
を具体的に明らかにする客観的な証跡が存しないものであって,WME社25
とは他の主体であるパウエル・エレクトロニクスインクのB氏らが,現
実に,「白色ニュース02/1995」の250部を受領したことや,こ
れをA氏の求めのとおりに,アメリカ合衆国内で同社の顧客に実際に配布
したことを的確に認めるに足りる証拠はない。
また,証拠(乙37)によれば,A氏作成名義の1995年(平成7
年)9月28日付けの書簡には,A氏がブローゼ社のC氏に対してCOB5
技術による白色発光モジュールについての応用技術に関する付属書類とし
て1995年(平成7年)2月付けリーフレットを添付する旨が記載され
ていること(乙37)が認められるが,上記記載のみから直ちに上記リー
フレットと乙33文献とが同一の書面であるとは認められず,他に両者が
同一の書面であると認めるに足りる証拠もない。そして,その他,乙3310
文献が遅くとも本件出願1の最先優先日である平成8年(1996年)7
月29日までに頒布されたことを的確に認めるに足りる証拠はない。
ウ以上によれば,乙33文献は本件特許権1の最先優先日である平成8年
(1996年)7月29日より前に頒布された刊行物であるとは認められ
ないから,乙33文献に基づき本件訂正発明1の新規性欠如をいう被告ら15
の上記主張は,理由がないことに帰する。
7(本件訂正発明1は進歩性を欠き無効にされるべきものか)について
乙10公報に基づくもの
ア証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば,乙10公報には,「発光素
子は発光層がGaAlNからなる窒化ガリウム系化合物半導体であり,発20
光層の発光ピークが430nm付近である発光素子と発光素子が発光した
光によって励起されてこれにより長波長光を発光する蛍光染料又は蛍光顔
料を含む発光ダイオード」との発明(乙10発明)が開示されていること
が認められ,これを本件訂正発明1の構成要件に対応するように分説する
と,次のとおりとなる。25
1B’前記発光素子は,発光層がGaAlNからなる窒化ガリウム系化合
物半導体であり,
1C’発光層の発光ピークが430nm付近である発光素子と
1D’発光素子が発光した光によって励起されてこれより長波長光を発光
する
1E’蛍光染料または蛍光顔料を含む5
1F’発光ダイオード。
イこれに対し,被告らは,乙10公報の段落【0001】,【000
3】及び【0009】には,乙10発明の発光ダイオードが「発光素子
からの光及び蛍光体からの光で白色発光可能な発光ダイオードであるこ
と」(1A’)も開示されている旨主張する。10
そこで検討するに,証拠(乙10)によれば,乙10公報の【産業上
の利用分野】の欄には,乙10発明は「発光素子を樹脂モールドで包囲
してなる発光ダイオード(以下LEDという)に係り,特に一種類の発
光素子で多種類の発光ができ,さらに高輝度な波長変換発光ダイオード
に関する」(段落【0001】)ものであると説明されていること,同15
【従来の技術】の欄には,「通常,樹脂モールド4は,発光素子の発光
を空気中に効率よく放出する目的で,屈折率が高く,かつ透明度の高い
樹脂が選択されるが,他に,その発光素子の発光色を変換する目的で,
あるいは色を補正する目的で,その樹脂モールド4の中に着色剤として
無機顔料,または有機顔料が混入される場合がある。例えば,GaPの20
半導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に,赤色顔料を添加
すれば発光色は白色とすることができる」(段落【0003】)ことが
挙げられていること,同【発明が解決しようとする課題】の欄には,
「樹脂モールドに,波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を
添加すると,LEDそのもの自体の輝度が大きく低下してしまう」(段25
落【0004】)ことが挙げられていること,同【課題を解決するため
の手段】の欄には,乙10発明は「前記樹脂モールド中に,前記窒化ガ
リウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料,
または蛍光顔料が添加されてなることを特徴とするLEDである」(段
落【0007】)と説明されていること,同【発明の効果】の欄には,
「蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起波5
長よりも長波長を発光する。(中略)したがって,青色LEDの色補正
はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光
を変換することができる」(段落【0009】)と説明されていること
がそれぞれ認められる。
これらの記載によれば,乙10発明は「一種類の発光素子で多種類の10
発光ができ,さらに高輝度な波長変換発光ダイオード」(段落【000
1】)の分野に関するものであって,従来の技術として,「GaPの半
導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に,赤色顔料を添加す
れば発光色は白色とすることができる」(段落【0003】)ことが開
示されているといえるものの,同段落の記載を慎重に精査すると,この15
発光色は,被告らが主張するような「発光素子からの光及び蛍光体から
の光」,すなわち,2つの光の混色により得られるものではなく,着色
剤として樹脂モールド中に添加された顔料によって発光素子の発光色が
変換ないし補正されたものであると認められる。また,乙10発明に係
る発光ダイオードは,従来,着色剤として添加されていた非発光物質を20
発光素子の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料や蛍光顔料に変
更したものであり(段落【0004】,【0007】),それにより,
「蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を変換することが
できる」(段落【0009】)ようになったことが認められるものの,
この発光ダイオードによる発光色も,発光素子からの光と発光素子から25
の光により励起された蛍光染料や蛍光顔料が発した光との混色により得
られるものであるか明らかではない。
したがって,乙10公報に,乙10発明の発光ダイオードが「発光素
子からの光及び蛍光体からの光で白色発光可能な発光ダイオードである
こと」(1A’)が開示されているとは認められない。
ウそうすると,前記2で判示したとおり,本件訂正発明1においては,発5
光ダイオードの発光する「白色系」は,LEDチップからの光とその光を
吸収したガーネット系蛍光体が発する光との混色により発光されたもので
あるのに対し,乙10発明には,かかる技術事項が開示されていない点に
おいて,両者は相違することになる。
しかして,被告らは,かかる相違点について容易想到であることを主張10
立証していないものであるところ,前記2
発明1は,発光光度及び発光効率の低下や色ずれという技術的課題を解決
するため,発光素子からの光とその光を吸収したガーネット系蛍光体から
の光との混色により白色系の光を発光する発光ダイオードという構成を採
用することにより,上記課題を解決した点に,従来技術と異なる技術的思15
想の特徴的部分があるものと認められるものであることに照らせば,「発
光素子からの光及び蛍光体からの光で白色発光可能な発光ダイオードであ
ること」(1A’)という相違点における相違の程度(本件訂正発明1と
乙10発明との技術的な離隔の程度)は,相当程度に大きいものであると
いうことができる。そして,本件全証拠を精査しても,当業者において,20
かかる相違点が容易に想到できるものであることをうかがわせる証拠は見
当たらない。
エ以上によれば,乙10公報に基づき本件訂正発明1が進歩性を欠如する
旨の被告らの主張は理由がない。
乙33文献に基づくもの25
前記6で説示したとおり,乙33文献は本件特許権1の最先優先日で
ある平成8年(1996年)7月29日より前に頒布された刊行物である
とは認められないから,乙33文献に基づき本件訂正発明1の進歩性欠如
をいう被告らの上記主張もまた,理由がないことに帰する。
8争点(原告の損害の額)について
本件特許権1の侵害による損害額の算定をすることについて5
以上によれば,被告LEDは,本件訂正発明1の特許に係る特許請求の範
囲の記載文言を充足し,その特許発明の技術的範囲に属するものであり,ま
た,本件訂正発明1の特許には,無効理由があり特許無効審判により無効に
されるべきものであるとはいえず,特許法104条の3第1項の規定により
原告が被告に対し本件特許権1を行使することができないとはいえないから,10
被告らの輸入販売等の行為は,本件特許権1を侵害するものというべきこと
となる。
しかして,前記第2のとおり,原告は,特許第5177317号(本件特
許権1)に基づく請求と,同第5610056号(本件特許権2)に基づく
請求をするところ,両請求の関係は,選択的併合の関係にあるものと解され15
る。そして,原告は,いずれの請求についても,損害額として,特許法10
2条2項により算定される損害額,弁護士費用相当額及びこれらに対する遅
延損害金を主張するものであるから,仮に本件特許権2の侵害が認められる
場合であっても,本件特許権1の侵害により算定される損害額と,本件特許
権2の侵害により算定される損害額とは,同一の額となるというべきである。20
そうすると,本件特許権1の侵害による損害額の算定を行ったものが,原
告の請求の一部認容となる場合も,上記損害額が,仮に被告らの輸入販売等
の行為が本件特許権2を侵害するものであった場合の同侵害による損害額を
下回るものとは認められないものと考えられるから,本件特許権2の侵害や
損害額について判断するまでもなく,本件特許権1の侵害による損害額を,25
原告の被った損害としてそのまま認容すべきこととなる。
そこで,原告の損害額として,本件特許権1の侵害による損害額について
検討する。
特許法102条2項により算定される損害額
ア前記,被告LEDは被告製品に搭載されて販
売されたものであるところ,被告LEDの主な用途は写真撮影時のフラッ5
シュライトであるが,被告らが販売している被告製品以外の機種にはかか
るフラッシュライトの性能を特長にしたスマートフォンもあること(甲
5),被告製品はデザインを重視し,機能をシンプルなものにした製品と
して紹介・宣伝されており,被告製品の紹介や宣伝の中ではLEDライト
の性能等について一切触れられておらず,被告製品の基本スペックとして10
もLEDライトは挙げられていないこと(甲5,6の1,7)などの各事
実がそれぞれ認められる。これらによれば,被告LEDについては,被告
製品の主要な特長として位置付けられているとは認められず,このような
被告LEDにつき被告製品の主要部として特に強い顧客吸引力があるとい
うことは困難というべきである。15
そして,前記
告HTCについては●(省略)●円,被告兼松については●(省略)●円
であるところ,被告製品の市場想定価格は●(省略)●円(税別)である
こと(甲7),被告製品自体の製造コストは明らかでないものの,被告製
品が発売された平成27年10月時点で既に販売されていた他のメーカー20
のスマートフォンについては,利益率は60%前後であるとされているこ
と(乙52),他方,HTC台湾に被告製品を納入したメーカーが被告L
EDを仕入れた価格は1個●(省略)●米ドルであったこと(乙47)が
それぞれ認められる。
これらの事実からすれば,被告製品の製造コストは約●(省略)●円25
(≒●(省略)●円×〔1-0.6〕)となり,これを被告製品が発売さ
れた平成27年10月の平均の為替レート120.16円/米ドルで換算
すると,約●(省略)●米ドル(≒●(省略)●円÷120.16円/米
ドル)となるから,被告製品の製造コストに占める被告LEDの仕入価格
の割合は,約●(省略)●%(≒●(省略)●×100)となる。なお,
証拠(甲50)によると,50種類の単色LEDが1個約700円ないし5
900円でインターネット販売されていることが認められるが,これらの
単色LEDは,砲弾型のものや複数のLEDチップが実装されたものであ
るなど,被告LEDと同じ構成のものであるか明らかでないから,損害額
を算定するに当たって事情として考慮するのは相当とはいえない。
以上を総合すれば,被告LEDの販売による利益額は,被告HTCにつ10
いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%),被告兼松につ
いては●(省略)●円(≒●(省略)●円×0.25%)と認めるのが相
当である。
イこれに対し,原告は,被告製品1台当たりにおける被告LEDによる利
益額は100円を下回らない旨主張する。15
しかしながら,前記被告製品の販売による利益額
は,被告HTCについては1台当たり約●(省略)●円(≒●(省略)●
円÷●(省略)●台),被告兼松については1台当たり約●(省略)●円
(≒●(省略)●円÷●(省略)●台)となるところ,被告LEDによる
利益額を1台当たり100円とすれば,その割合は,前者との関係では約20
●(省略)●%,後者との関係では約●(省略)●%となるのであって,
上記アに説示した被告製品における被告LEDの位置付けや顧客誘引力に
照らすと,いずれの割合も相当とは認め難いから,原告の上記主張は採用
できない。
ウ以上によれば,被告HTCに対する特許法102条2項による損害金の25
額は,●(省略)●円と,被告兼松に対する特許法102条2項による損
害金の額は,●(省略)●円とそれぞれ認められる。
なお,前記
●(省略)●台の被告製品を,被告兼松以外の第三者に対しては●(省
略)●台の被告製品をそれぞれ販売していることから,上記損害金のうち,
被告兼松に販売した分としては●(省略)●円(≒●(省略)●円×●5
(省略)●台/●(省略)●台),被告兼松以外の第三者に販売した分と
しては●(省略)●円(≒●(省略)●円×●(省略)●台/●(省略)
●台)であるとそれぞれ認められる。
弁護士費用
本件事案の性質や内容,本件訴訟の審理経過など,本件に顕れた一切の諸10
般の事情を総合すると,被告らの上記侵害行為と相当因果関係のある弁護士
費用は,被告HTCに対し15万円(ただし,被告HTCが被告製品を被告
兼松に販売した分につき10万円,被告兼松以外の第三者に販売した分につ
き5万円),被告兼松に対し10万円と認めるのが相当である。
9結論15
その他,当事者双方は縷々主張するが,その主張内容を慎重に検討しても,
上記説示を左右するに足りるものはない。
以上によれば,原告の本件各請求は,その余の点について判断するまでもな
く,
被告HTCに対し,●(省略)●円及びうち●(省略)●円に対する不法20
行為後の日である平成28年10月26日から,うち●(省略)●円に対す
る不法行為後の日である平成30年9月28日から,各支払済みまでそれぞ
れ民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,また,
被告兼松に対し,●(省略)●円及びこれに対する不法行為後の日である
平成28年10月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅25
延損害金の支払を,
それぞれ求める限度で理由があり,その余は理由がないこととなる。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官田中孝一
裁判官横山真通
裁判官本井修平
別紙特許公報省略

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