弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴人が当審で追加した請求を棄却する。
当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた判決
一 控訴人
(控訴の趣旨)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が設置した図書館法二条一項の公立図書館において保管する著作物に
ついて、控訴人が著作権法三一条一号の規定に基づく複製権を有することを確認す
る。
3 被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事
典」の全部について、控訴人が著作権法三一条一号の規定に基づく複製権を有する
ことを確認する。
4 被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事
典」の任意の一部について、控訴人が著作権法三一条一号の規定に基づく複製権を
有することを確認する。
5 被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事
典」の六三頁から一一八頁までの「2.土質力学・土構造」の全部又は一部につい
て、控訴人が著作権法三一条一号の規定に基づく複製権を有することを確認する。
6 被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事
典」の中でAが執筆した一〇四頁から一一八頁までの部分の全部又は一部につい
て、控訴人が著作権法三一条一号の規定に基づく複製権を有することを確認する。
7 被控訴人は、控訴人に対し、被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管
する朝倉書店刊「土木工学事典」の一一二頁から一一八頁まで複製物を交付せよ。
8 被控訴人は、控訴人に対し、金一〇万円を支払え。
(当審における追加請求の趣旨)
9 被控訴人は、被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊
「土木工学事典」の一一二頁から最大限一一八頁に至るまで、控訴人が著作権法三
一条一号の規定によって複製行為を行おうとすることを被控訴人の機関たる多摩市
立図書館長が現に妨害している状態を排除せよ。
10 被控訴人は、
被控訴人が設置した多摩市立図書館において保管する朝倉書店刊「土木工学事典」
の一一二頁から最大限一一八頁に至るまで、控訴人が著作権法三一条一号の規定に
よって複製行為を行うことを受忍せよ。
(訴訟費用)
11 訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
 主文と同旨
第二 当事者の主張
一 原判決の引用
 原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」及び「第三 争点」記載のとお
りであるから、その記載を引用する。
二 当審における当事者の主張の要点
1 控訴人
(控訴の理由)
 本件の主要な論点は、著作権法三一条一号が法定複製権を認めているかという点
と、多摩市立図書館長による複製不許可は違法かという二点である。
 第一の論点は法解釈の問題であり、原審において主張したとおりである。
 第二の論点は事実認定に関する問題である。
 被控訴人は、原審において、控訴人が著作物の全部の複製のみをもっばら請求し
たと主張し、原判決も、控訴人の複製の請求が著作物の一部でもよいとする意思は
認められないと認定した。
 しかし、控訴人は、多摩市立図書館に対し、一個の著作物の全部を複製せよと要
求したことは一度もない。控訴人の主張は、本件複写請求部分は一個の著作物とは
いえないということ、もしくは、本件著作物の公共的性質上著作権が制限されるの
ではないかということである。本件において、図書館長は、複製を全部拒絶してい
るのであるから、控訴人が有している著作物の少なくとも一部について複製を求め
ることができる利益を確実に侵害している。したがって、全部不許可とするには、
特段の事情が必要となり、その内容は被控訴人が主張立証しなければならない。
 また、多摩市立図書館長は、本件複写請求を不許可にする前に、控訴人に対して
請求の範囲を変更できないかなどと打診したことは一度もない。したがって、控訴
人が一個の著作物の全部の複製を強引に請求するような機会すら存在していないの
である。
 さらに、著作物の複製の許可を行政行為と考えれば、行政行為には行政庁の裁量
の範囲内で付款を付し得るのであるから、その申請者の申請の趣旨に行政庁が全面
的に拘束されることはありえない。つまり、本件の事例においては、本件複写請求
部分六頁の複製を不適法であると考えるのであれば、三頁までという条件を付款と
して付けて許可を行えばよいのである。右のような付款を付することは、単なる自
由裁量の帰結ではなく、そうすることが多摩市立図書館長に義務づけられていると
解さなければならない。
(追加請求の原因)
 著作権法三一条一号は公共図書館において、著作物の一部を複製することができ
ると明記しているのであるから、控訴人の複製請求に係る一一二頁から一一八頁ま
での部分で、一個の著作物と認められる範囲に至らない限度で、控訴人の複製行為
が妨害される理由はない。
 にもかかわらず、被控訴人の機関たる多摩市立図書館長は、控訴人の右複製の請
求を前面的に拒絶したまま、今日に至っている。したがって、被控訴人は、直ちに
多摩市立図書館長による複製の前面拒絶の姿勢を改めさせる措置を取り、現に妨害
している状態を排除しなければならず、控訴人が自ら行う複製行為を受忍しなけれ
ばならない。
 本追加請求は、法が明文で許容する行為の実行のための妨害排除及び受忍請求で
あるから、著作権法三一条一号が図書館利用者に複製権を認めたものであるかどう
かとは別に、占有訴権の類推により、認容されるべきである。
2 被控訴人
 被控訴人は、控訴人が本件複写部分の範囲(一一二頁から一一八頁)を特定して
請求してきたことに対し、窓口の職員が口頭で、さらに、図書館長が文書により、
本件複写部分を全部複写することは、著作権法によりできないが、その一部分なら
複写請求に応じられる旨回答した。
 したがって、被控訴人は、控訴人の複写請求を頭から全面的に拒否したわけでは
ない。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 原判決の引用
 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。
 その理由は、第二に述べるところを付加するほかは、原判決と同一であるから、
その記載を引用する。
二 当審における控訴人の主張について
 控訴人は、多摩市立図書館に対し、一個の著作物の全部を複製せよと要求したこ
とは一度もないと主張するが、もし控訴人が、真実本件複写請求部分の一部につき
複写の申込みをする意思があったのであれば、複写を必要とする部分を特定し直し
て、再度申込みをすべきであったというべきところ、本件全証拠によっても、控訴
人がこのような再度の申込みをした事実は認められない。
 複製物の交付を求められた図書館としては、図書館利用者が複製物を必要とする
著作物の部分が特定されない以上、それが著作権法及び同館の規定に基づいて複製
物を交付すべきかどうかを判断できず、したがって、このような複写の申込みに応
ずる必要ないし義務がないことは明らかであり、また、全部が駄目なら半分までで
よいというのでは、図書館利用者が複製物を真に必要とする著作物の部分が特定さ
れたということができないことも明らかで、このような複製物の交付の申込みは、
著作権法三一条一号の規定の趣旨に適合しないというべきである。
 控訴人は、多摩市立図書館長は、本件複写請求を不許可にする前に、控訴人に対
して請求の範囲を変更できないかなどと打診したことは一度もないと主張する。し
かし、乙第一、第五及び第七号証によれば、多摩市立図書館においては、複写機の
近辺に「コピーをされる方に」と題するお知らせが貼付してあり、右お知らせには
「図書館では次の場合に限りコピーができます。」として、「2.資料の一部分で
あること。資料の種類により範囲が異なります。(例)「百科事典」・・・項目ご
とに著者が明示されているものは項目の半分まで。(本文と図版はそれぞれの半
分)」との記載があり、また、複写申込書にも、「著作物の一部分を、おひとり一
部に限り複写できます。」と記載されていることが認められるから、本件複写請求
部分についても、多摩市立図書館において、口頭又は文書で複写請求部分の全部が
許可できない旨応答した場合、当然に「全部については許可できないが、一部につ
いてはコピーできる」旨を表示しているものと認められる(なお、甲第二号証によ
れば、文書でその旨回答していることは明らかである。)から、控訴人の右主張は
理由がない。
 また、控訴人は、本件の事例においては、本件複写請求部分六頁の複製を不適法
であると考えるのであれば、三頁までという条件を付款として付けて許可を行えば
よいのであって、右のような付款を付することは、単なる自由裁量の帰結ではな
く、そうすることが多摩市立図書館長に義務づけられていると解さなければならな
い旨主張する。
 しかし、上記のとおり、複製物を必要とする著作物の部分を特定するのは、複製
物の交付を求める図書館利用者がなすべき事柄であり、図書館長がなすべき事柄で
ないことは明らかであるから、多摩市立図書館長において、控訴人主張のような付
款を付する義務があると解すべき根拠はない。
三 以上によれば、控訴人が当審においてした追加請求を含め、控訴人の本訴請求
はいずれも理由がない。
 よって、本件控訴及び控訴人が当審においてした追加請求をいずれも棄却するこ
ととし、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 牧野利秋 押切瞳 芝田俊文)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛