弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主文
 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
   別紙請求の趣旨一覧表記載のとおり
第2 事案の概要
 1 事案の要旨
本件は,自転車競技法に基づいて日本自転車振興会に登録された競輪選手で
ある原告らが,同法に規定する自転車競技の施行に関する事務を共同処理するため
に地方自治法284条2項に基づき被告らによって設立された一部事務組合である
脱退被告兵庫県市町競輪事務組合(以下「本件組合」という。)が,やむを得ない
事由がない限り競輪競技を継続して開催すべき契約上の義務を原告らに対し負って
いたところ,平成14年3月31日に,正当な理由なく,また,事業継続のための
努力をすることなく競輪事業を廃止したため,各原告が廃止から2年間における賞
金等を受給できず,賞金等総額を平等に分割した額の損害を被った等と主張して,
本件組合に対し,債務不履行責任に基づく損害賠償請求訴訟を提起したところ,本
件訴訟係属後に本件組合が解散し,その債務が本件組合の解散に関する規約で定め
られた比率で被告らに承継(分賦)されたため,被告らが訴訟引受をなした事案で
ある。
 2 前提となる事実
   以下の事実は,当事者間に争いがないか,各項末尾掲記の証拠によって容易
に認められる。
  (1) 当事者
原告らは,平成14年9月1日現在で自転車競技法に基づいて日本自転車
振興会に登録された競輪選手であり,本件組合は,自転車競技法に規定する自転車
競技の施行に関する事務を共同処理するために被告らによって設立された地方自治
法284条2項に基づく一部事務組合であり,昭和48年4月に設立された後,平
成14年3月31日に廃止されるまで,西宮競輪場及び甲子園競輪場において競輪
を開催してきた。(弁論の全趣旨)
(2) 競輪事業及び競輪選手に支払われる賞金額
本件組合の競輪事業は,1開催あたり前節3日,後節3日の6日間を単位
として,1競輪場あたり年間12開催をする72日間の事業であり,2競輪場を合
計すると,年間24開催,144日間になり,1節3日間は同一選手が出場するの
で,1年間に出場する競輪選手は4320名(24開催×2節×10競走×9選
手)である。(弁論の全趣旨)
本件組合の競輪事業による収益は,自転車競技法1条に規定する競輪競技
の目的に従って,被告らにおける社会福祉の増進,医療の普及,教育文化の発展,
体育の振興,その他住民福祉の財源に充てるなどされてきた。(争いがない)
他方,競輪選手に対しては,西宮競輪場及び甲子園競輪場に出場すること
により賞金が支払われてきたところ,その賞金総額(本賞金等)の平成11年度か
ら平成13年度までの3年間における合計は,別紙賞金表記載のとおり,西宮競輪
場で31億8162万7000円,甲子園競輪場で35億1786万1000円で
ある。(争いがない)
なお,競輪事業は,経済産業省の所管であるところ,同省によって施行者
の数,全国の競技場の数が勘案され,各施行者及び1競輪場の年間開催回数が自転
車競技法施行規則(以下「施行規則」という。)によって法定されている。(争い
がない)
(3) 本件組合による競輪事業の廃止
本件組合は,平成13年11月2日,本件組合を構成する被告らの首長に
よる会議である管理者・副管理者会を開催し,「競輪事業を取り巻く環境は厳し
く,今後の車券売上の確保は極めて厳しい状況にあり,西宮・甲子園両場開催はも
とより,甲子園1場へ統合して開催することは将来黒字に転換する見込が立たない
ことなど総合的に判断して,平成13年度末で西宮・甲子園競輪事業から撤退す
る。」と決定した。(争いがない)
そして,本件組合は,同年11月9日,競輪選手全員で組織する社団法人
日本競輪選手会理事長である原告A(以下「原告A」という。)に対し,「兵庫県
市町競輪事務組合の競輪事業からの撤退について」と題する書面(甲1)により,
平成13年度末で西宮競輪場及び甲子園競輪場から撤退する旨通知した。(争いが
ない)
これに対し,日本競輪選手会は,本件組合に対し,競輪事業の撤退が選手
の生活権を奪うもので容認し難く,本件組合が挙げる撤退理由が近視眼的視野に基
づくもので合理性に乏しいことなどを理由として,競輪事業再建に向けた努力を求
めた。(甲2)
しかしながら,平成14年3月31日,本件組合は競輪事業を廃止するに
至った。(争いがない)
(4) 本件組合と原告らとの関係
本件組合は,昭和48年から西宮競輪場及び甲子園競輪場において競輪事
業を開催してきたが,平成14年3月31日に廃止されるまでの間,原告らの相当
数が上記競輪に出場した。(争いがない)
(5) 競輪事業の関係者
競輪事業は,経済産業省の監督下に,主として日本自転車振興会,自転車
競技会及び競輪選手,競輪場設置者あるいは競輪施行者等が相互に各種手続を履践
することによって成り立っている。(争いがない)
ア 日本自転車振興会(以下「日自振」という。)
日自振は,自転車競技法12条の2によって認められた特殊法人であ
り,競輪の公正かつ円滑な実施を図ることを目的とし,その業務内容は,同法12
条の16で規定するとおり,競輪の審判員及び出場選手の検定,登録や,出場選手
のあっせん,審判員,選手等の養成,訓練等である。(甲6,弁論の全趣旨)
イ 自転車競技会
自転車競技会は,競輪の実施に関する事務を公正かつ円滑に行うことを
目的として,自転車競技法の一部を改正する法律(昭和37年法律84号)による
改正後の自転車競技法13条以下の規定に基づいて設立された特殊法人であり,施
行者から委託を受けて,出場選手及び使用自転車の検査等,競輪競技に必要な事務
を行う団体である。(甲6,弁論の全趣旨)
ウ 競輪場設置者(以下「設置者」という。)
設置者は,自転車競技法及び施行規則に定める競走場の基準に従って設
置され,総務大臣の指定を受けた施設(競輪場)を競輪開催のために提供する者で
ある。したがって,施行者が競輪場を所有している場合は,施行者と設置者は同一
となり,施行者が民間所有の競輪場を使用して競輪を開催するときは,施行者と設
置者との間で,通常,賃貸借契約を締結する等の対応がなされる。(甲6,弁論の
全趣旨)
なお,西宮競輪場の設置者は阪急電鉄株式会社であり,甲子園競輪場の
設置者は甲子園土地企業株式会社であった。(甲19ないし21,弁論の全趣旨)
(6) 競輪選手の出場手続
ア 開催の範囲と日取り
施行者が行う競輪の開催回数(1競輪場あたり年間12回,月間1
回),開催日数(1回4日以上8日以内),競走回数(1日10回以上12回以
内)及び日取りは自転車競技法5条の2第1項に基づく施行規則4条の4によって
定められているところ,同法5条の2第2項によれば,各施行者間における競輪開
催の日取りの調整については,経済産業大臣が必要な指示をすることができる旨規
定されている。
この点,近畿地区における日程調整は,半期ごとに近畿経済産業局長の
主催により,施行者である地方公共団体,近畿自転車競技会,日自振,全国競輪施
行者協議会,設置者,近畿経済産業局等の出席の下,競輪開催日程調整等会議にお
いて調整が行われる。(弁論の全趣旨)
イ 開催要項と開催届
兵庫県市町競輪事務組合自転車競走実施規則4条,31条によれば,施
行者は日程調整を経て,開催の日時,場所,選手の参加申込の締切日,参加申込を
受け付ける選手の範囲及び資格等,開催に必要な事項を開催要項として定め,経済
産業大臣に開催届を提出し,公表する旨規定されており,施行規則2条によれば,
施行者は,開催日の2か月前までに,開催の日時その他の事項を,所轄経済産業局
長を経由して経済産業大臣に届け出なければならない旨規定されている。
ウ 出場選手のあっせん依頼手続
施行者は開催要項に基づく出場選手の参加を求めるため,当該競輪の開
催日の属する2か月前(特別競輪にあっては6か月前,記念競輪にあっては3か月
前)までに,出場選手あっせん依頼書に競輪場名,級別,番組,競技ごとのクラ
ス,距離等の情報を添えて,選手のあっせん機関である日自振に出場選手のあっせ
んを依頼する。(乙1,弁論の全趣旨)
エ 日自振によるあっせん手続
日自振は,選手出場あっせん調整基準(乙5)に従って,出場あっせん
依頼書により算出した出場選手数,地域ごとの居住選手数,競輪の開催内容,希望
選手及び選手の交流等を勘案して出場選手あっせん計画を作成し,この出場選手あ
っせん計画に基づき,競輪の種類,開催日程,出場選手数,実働選手数,選手の出
場回数,出場条件,同一競輪にあっせんする同一級別選手の能力等を考慮して,公
正にあっせんを行うこととされている。(乙5,弁論の全趣旨)
日自振が出場あっせん選手を決定したときは,あっせん依頼をした施行
者に出場あっせん選手一覧表を送付し,当該選手に対しては出場あっせん通知書を
送付する。(弁論の全趣旨)
オ 出場あっせん選手の検討
自転車競技会は,日自振から出場あっせん選手の通知を受けたときは,
出場あっせん選手一覧表に基づき,あっせんすべきでない選手やあっせん辞退選手
があっせんされた選手の中に含まれていないかどうかを調べ,含まれていた場合に
は当該選手のあっせんの取消しとこれに代わる選手の追加あっせんを日自振に依頼
するなどの措置を取る。(弁論の全趣旨)
カ 参加申込
出場あっせんを受けた選手に対しては,競輪場や出場する節等の情報が
記載された「競輪参加申込書」と題する通知書が送付され,競輪選手は,出場希望
回答の締切日までに当該競輪の施行者宛ての同申込書を日自振に送付することにな
るが,同申込書には,参加を希望する場合には,「標記競輪の開催要項並びに競輪
選手の出場に関する約款を承知して参加を申込みます」「開催執務委員長殿」と予
め印字された欄内に,住所,電話番号,級班,登録番号,氏名,年齢を記載して返
送し,出場を希望しない場合には,府県,級班,登録番号,氏名を記載し,押印の
上,不参加理由として予め印字された「家事都合」「病気」「負傷」「日競選校
務」「その他」の中から該当するものに「○」を付けて,返送することとされてい
る。(乙2,弁論の全趣旨)
キ 参加通知
日自振は,前記「競輪参加申込書」の参加希望欄に記載した上,返信し
てきた競輪選手について取纏めを行った上,自転車競技会に対し,選手からの参加
希望の状況を伝える。(乙3,弁論の全趣旨)
そこで,選手の参加希望の有無を確認した施行者は,競輪名や前日検査
集合日時,節区分等が記載された開催執務委員長名義の「参加通知書」を当該選手
宛てに発送する。(乙4,弁論の全趣旨)
ク 出場に関する約款
昭和47年5月18日,競輪施行者を代表する全国競輪施行者協議会と
日本競輪選手会は,施行者と競輪選手とが競輪の開催ごとに締結する競輪出場契約
の内容に関して合意し,これを「競輪選手の出場に関する約款」(以下「本件約
款」という。)として定めており,これは,平成12年4月17日に,賞金適用基
準別・級別制裁金の規定,特別事故見舞金の解釈が変更されたものの,現在まで有
効に存続している。(甲4,弁論の全趣旨)
(7) 出場資格を有する競輪選手
自転車競技法5条1項は,競輪に出場する選手は,命令の定めるところに
より日自振に登録されたものでなければならないと定め,同項に基づく「競輪審判
員,選手および自転車登録規則」(昭和32年9月14日通商産業省令第39号,
以下「登録規則」という。)15条は,日自振は,身体,技能,学力及び人物につ
いて,選手資格検定に合格した者を,競輪選手として登録する旨を規定している。
(8) 本件組合の債務を被告らが承継したこと
本件組合は,平成15年3月31日に解散し,解散の当時本件組合に帰属
していた債務は,本件組合の解散に関する規約によって定める以下の比率に従い,
被告らに分賦された。(弁論の全趣旨)
被告姫路市  6.5784%  被告赤穂市  2.1140%
被告尼崎市  6.5784%  被告西脇市  2.0127%
被告明石市  6.5784%  被告宝塚市  3.0552%
被告西宮市 44.1567%  被告三木市  1.7178%
被告洲本市  1.8290%  被告高砂市  1.7178%
被告伊丹市  7.2749%  被告川西市  1.7178%
被告相生市  1.7178%  被告小野市  1.7178%
被告豊岡市  2.0850%  被告三田市  1.7178%
被告加古川市 3.2725%  被告加西市  0.5000%
被告龍野市  1.9402%  被告三原町  1.7178%
(9) 原告らが法的義務の根拠として主張する法規等
自転車競技法14条1項は,施行者及び自転車競技会に対し,競輪場内の
秩序を維持し,競輪の公正及び安全を確保するため,入場者の整理,選手の出場に
関する適正な条件の確保,競輪に関する犯罪及び不正の防止その他必要な措置を講
じるべきことを規定している。
施行規則17条(現行34条)は,施行者に対し,4半期ごとに,入場者
数,車券の発売金額,競輪開催に関する収支決算について,その主たる事務所の所
在地を管轄する経済産業局長に報告しなければならず,また,競輪の実施に関し事
故があったときは,その状況を遅滞なくその主たる事務所の所在地を管轄する経済
産業局長に報告しなければならない旨を規定している。
登録規則21条は,日自振が,正当な理由がないのに1年以上引き続き競
輪競技に出走しなかった選手や,公正かつ安全な競走を行うに不適と認められる理
由がある場合には,当該競輪選手に対し,登録を抹消することができる旨を規定し
ている。
日自振の選手出場あっせん調整基準4条は,あっせんされた競輪競技に正
当,かつ,やむを得ないと認められる事由によって参加できないことを証明すべき
書類を添えて提出しないまま当該競技に参加しなかった競輪選手は,当該あっせん
もあっせんを受けた回数として算入される旨を規定している。(乙5)
本件約款2項の3は,施行者と競輪選手は,出場契約を締結するにあた
り,日自振が「競輪に関する業務の方法に関する規程」及び「選手出場あっせん調
整基準」その他出場あっせんに関する規則・要領に基づいて行う出場あっせんを相
互に尊重する旨規定しており,同3項は,施行者と競輪選手が,競輪の公正かつ円
滑な実施を図るため,競輪の実施に関する法令,通達,条例,規則,その他競輪の
運営に関する諸制度において定められた事項を順守し,相互に協力する旨を規定
し,同5項は,競輪選手が施行者の開催する競輪競技に参加し,施行者が公正安全
な競輪競技の実施のために行う選手及び自転車の管理,検査を受けるとともに競輪
の本旨に則し全力を尽くして施行者の指定する競走に出場するものとする旨を規定
している。(甲4)
 3 争点及び当事者の主張
   本件の争点は,(1)原告ら競輪選手全員と本件組合との間に,契約継続の
期待利益が保護の対象となり,契約の解消について特別の配慮が必要な長期間にわ
たる継続的な競輪出場に関する契約(以下「継続的出場契約」という。)が成立し
ていたか否か,(2)本件組合が継続的出場契約を解約するやむを得ない事由が存
在したか否か,(3)本件組合は競輪事業を廃止するに際し,原告らに対して負う
信義則上の義務を怠ったか否か,(4)法制度に基づく損害賠償責任の成否,
(5)原告らの損害である。
  (1) 原告ら競輪選手全員と本件組合との間に継続的出場契約が成立してい
たか否か
ア 原告らの主張
競輪事業の実態及び本件約款等によれば以下の事情が存することが明ら
かであるから,原告ら競輪選手全員と本件組合(個々の施行者)との間(なお,
「個々の原告と本件組合(個々の施行者)との間」ではなく,また,「原告ら全員
と全施行者との間」でもない。)には,期間の定めのない継続的出場契約が成立し
ており,本件組合は原告らに対し継続的に競輪競技を開催して出場させるべき義務
を負っていたのに,これを怠った。
(ア) 日自振のあっせんによって競輪競技に参加する競輪選手は,あっ
せんを受けた場合,どの施行者の開催する競輪競技であっても,傷病等正当な理由
がない限り,あっせんに応じる義務を負わされている。
(イ) このあっせんの仕組が,競輪施行者による開催が円滑かつ公正に
行われるように日自振が選手の割当を調整しているのであり,選手全員と施行者
は,日自振のあっせんに従うという意思を有している。
(ウ) 仮に競輪選手が正当な理由に基づきあっせんを辞退した場合,日
自振は必ず代替の選手をあっせんする上,個別出場契約が成立した後であっても,
出場が予定されている競輪選手の氏名が公表されるまでであれば,補充の選手を出
場させる体制が取られている。
(エ) 前記のようなあっせんに基づく競輪競技の開催は,昭和48年度
から平成13年度に至るまで,全国50競技場で年間600開催と固定して実施さ
れてきた。
(オ) 競輪選手は,固定的な競輪開催によって,将来的に出場機会が確
保されるとの期待を前提として,競輪学校の試験に挑戦し,訓練を積んで選手の資
格を取得している。
(カ) 施行者は,競輪競技に必要な選手が必ず出場し,欠員が生じても
他の選手が補充され,支障なく競輪競技を実施できるとの期待を有している。
(キ) 競輪選手全員を対象として円滑かつ公正なあっせんが行われるよ
うに,原告ら競輪選手全員と施行者との間には,個々の出場契約を包括する基本契
約が成立し,本件約款(甲4)として明文化されている。
イ 被告らの主張
争う。
(ア) 個々の原告らと本件組合との間で締結される出場契約は,競輪開
催ごとの個別の契約であり,個別契約ごとに契約を締結するか否かは当事者双方の
自由である。このことは,参加申込書の体裁からみても明らかである。
(イ) 原告らの20.8%(約830名)は,西宮・甲子園競輪のいず
れにも出場したことがない。
(ウ) 出場あっせん通知書の体裁からも明らかなように,あっせんが行
われるまでは,いかなる選手が当該競輪に出場するかは全く白紙の状態であり,い
かなる選手であっても,開催される競輪の賞金を獲得できる蓋然性が高いとはいえ
ない。
(エ) 競輪選手は何人とも雇用関係をもたない自営業者であり,その独
立性こそが公正な自転車競走を実施するための要件である。
(オ) 原告らは,本件約款を継続的出場契約の基本契約である旨主張す
るが,本件約款の内容は,多くが個別出場契約における給付や補償に関する事項で
あるし,全国各地で開催される競輪において締結される選手と各施行者との個別出
場契約について,その解釈,運用が個別の競輪場ごとに一致しないことから生じる
運用上の不都合を避けるために,個別的出場契約の内容を全国的に統一する必要が
あって作成されたものにすぎない。
本件約款は,個別出場契約の当事者以外の者によって合意されたもの
であり,個別の選手と施行者にとっては,個別の出場契約が締結され,個別の契約
の条件として引用されて初めて本件約款の内容が個別契約に組み入れられ法的な意
味を持つものというほかはない。
(カ) 競輪選手は,S級,A級,B級とランク分けされており,出場で
きるレースが限定されているから,出場機会の喪失割合は異なるはずであるが,原
告らの主張では,それが全く考慮されていない。
(キ) 競輪事業は必ず継続を要求される事業ではない。その証左とし
て,自転車競技法1条1項の規定により,市町村でいえば,総務大臣から指定され
た団体のみが競輪を施行できることになっているところ,その指定の有効期間につ
いても,1年間ないし2年間とされている団体もある。つまり,地方財政の健全化
目的を達成できる限りにおいて認められる事業にすぎず,赤字を税金で補填しなが
ら継続するべき事業ではない。
(ク) 競輪事業の衰退傾向が明らかな中で,収支が赤字となることの確
実な事務組合が,競輪ファンや競輪事業に関わる関係者のためだけに,仮に一定期
間であっても,税金による補填をしてまで競輪事業を継続しなければならないとす
ることには何ら合理性がない。
(2) 本件組合が継続的出場契約を解約するやむを得ない事由が存在したか
否か
ア 被告らの主張
(ア) 継続的出場契約を解約するための要件
競輪事業は,赤字を税金で補填しながら継続すべき事業ではないか
ら,やむを得ない事由を厳格に要求されることなく,財政上の問題などを理由に解
約することができる。
これに対し,原告らは,継続的出場契約の解消には正当な理由が必要
である旨主張するが,当該主張は,当事者双方が経済的に破綻していない正常な状
態にあることを前提として初めて成り立つものであり,相手が経済的に破綻してい
る場合に,相手に対し,出場契約を締結する義務を求めたり,相当期間事業の継続
を求めたりすることはありえない。
したがって,常に正当な理由が要求される旨の原告らの主張には理由
がない。
(イ) やむを得ない事由の存在
仮にやむを得ない事由が必要であるとしても,本件組合は,下記aか
らfの経緯を踏まえて,今後赤字解消の目処が全くないことが明らかとなり,した
がって自転車競技法1条の公益目的を達成することが困難であることが明白で,税
金を使用してまで競輪事業を継続することはできなかったために当該事業から撤退
したのであり,やむを得ない事由が存在していたといえるから,仮に継続開催義務
を負っていたとしても,撤退したことに違法性はない。
a 平成3年のバブル経済の崩壊後,公営競技全般の売上が下降する
中,競輪については,ファンが高齢化した上,ファン層のマニア化傾向が高まり,
車券売上高が大幅に減少した。5つの公営競技中,競輪事業の総売上額は昭和49
年まで第1位であったが,平成4年度以降は長期低迷し,平成10年度では第3位
となった。
平成5年度以降,開催収支が赤字となる施行者が増え続け,平成8
年度以降,多数の競輪事務組合が競輪事業から撤退している。
b 本件組合は,西宮・甲子園競輪事業の収支改善に取り組むべく,売
上増強策を講じるとともに,併せて開催経費の削減に取り組んできた。
c 平成10年度以降赤字が連続する中,平成12年度には,同年度以
降の売上予測と競輪の今後の動向調査等を専門家に依頼し,それに基づく事業収支
予測を行ったところ,赤字の解消が全く見込めない状況であることが判明した。そ
こで,従事員賃金等の削減,施設会社の賃料減額等経費の削減を行うなどして,よ
うやく平成13年度の事業継続が可能となった。
d 平成13年度においては,同年の上半期(4月から9月)までの売
上実績をもとに平成14年度から平成17年度までの売上予測及び事業収支試算を
行ったが,平成14年度以降の各年度とも黒字となる見通しは立たず,甲子園一場
案の検討もしたが,平成14年度の1年のみわずかな黒字になるだけとの試算結果
であったため,同年3月末をもって競輪事業から撤退することを平成13年11月
に決定し,これを発表した。この間,日本競輪選手会を含む関係各団体に対し,資
料を用いて報告,協議を行い,日自振に対する各交付金の交付率を改める等の要望
活動を行ってきたが,収支の悪化を回避することができなかった。
e 平成13年度以降の開催経費の減少を図ることを目的に従事員の離
職慰労金制度を廃止することとし,廃止のために必要な離職慰労金の支払に充てる
ため事務組合の財政基金を活用した。その結果,財政基金は大幅に減少した。ま
た,平成12年9月14日,阪急電鉄及び甲子園土地企業の両設置者との間で,平
成13年度の賃借料率を25%削減する旨の確認書を締結し,同月11日には,従
事員組合との間で,平成13年度の賃金を半額にする旨の確認書を締結した。
f 日本競輪選手会は平成13年1月から競輪活性化推進研究会を設
け,同研究会において,「増収のための基本方針」(乙10)を報告しているが,
同報告の中で,競輪場数は現在の半数で十分とした上,全国を20ないし26に分
け,関西・中国では岸和田・甲子園・西宮の3場を1場に縮小することを提案し,
競輪場を削減することにより,経費の削減,施設の改善,運営の改善が易しくなる
とし,閉鎖した競輪場は専用場外車券売場(サテライト)を含む飲食・物販・娯楽
施設等複合商業施設として開発し,競輪場が半減した分は,レースを増やして補填
するという改善策が提案されていた。
(ウ) やむを得ない事由が存在しなかった旨の原告らの主張について
原告らは,平成12年度に支払われた退職金額が高額にすぎた旨主張
するが,本件組合は,平成12年度末に全員退職として退職金を支払い,翌年度
(平成13年度)は,平均賃金の半額の一律8000円の日額賃金とし,以後退職
金制度を設けないこととしたのであって,本件組合は,むしろ,平成13年度以降
の事業継続を可能ならしめるために退職金の支払を行ったのである。原告は,退職
金の額についても適正であったか疑わしいとするが,退職金(離職慰労金)の額
は,労使協定によって昭和45年に制定された「兵庫県下競輪従事員離職慰労金支
給規程」に基づくものであって,本件組合はことさらに増額するなどの措置は講じ
ていない。平均支払額が約1000万円となったのは平均勤務年数が24年と長
く,しかも,西宮・甲子園の2場での勤務となっているためである。
また,原告らは,平成13年度に甲子園競輪場で開催された記念競輪
の売上額が著しく低下したとされることをカモフラージュであると主張するが,甲
子園競輪場以外でも同年度の記念競輪で売上が減少した競輪場も存在するし,記念
競輪の売上額の多寡は,出場する選手,開催時期,場外発売の日数に大きく影響さ
れるが,開催日数や場外発売を増加させることについては,過去に騒擾事件が発生
した経験があったこと等の事情があるため困難であった。また,将来展望も見据え
た競輪事業運営改善を進めるためには,売上額だけに固執するのではなく,収益性
を重視した経営方針に転換する努力が必要であった。ファンの間には,車券購入レ
ースの選別化が見られ,特別競輪や記念競輪等のグレードの高いレースに偏って車
券が購入されていることから,記念競輪での場外発売の拡大は,かえって普通競輪
離れに拍車をかけているといえた。しかし,特別競輪の開催は競輪事業の継続のた
め重要であるため,平成13年3月にも,平成15年度の特別競輪の開催申請を行
うなど対策を講じていた。
さらに,原告らは,旧自治省と本件組合関係者との協議によって,平
成12年7月ころには既に競輪事業の廃業が決定されていた旨主張するところ,同
年7月12日に旧自治省B課の課長補佐と復命書のとおりの協議が行われたことは
事実である。しかし,当時は,専門家による売上予測によって平成12年度から平
成17年度までの収支試算を策定した直後であって,試算で全ての年度で赤字見込
となったため,これを旧自治省に説明し,本件組合による競輪事業は危機的な状況
にあることを理解してもらう必要があったために協議が行われたのであって,あく
まで廃業は想定であり,協議の前提ではなかった。なお,廃業の最終意思決定がな
されたのは,平成13年11月2日に開催された「管理者・副管理者会」において
である。
原告らは,専門家による意見,調査分析も廃業のための理由作りのた
めである旨主張する。しかし,関西学院大学のC経済学部教授及びD社会学部教授
に意見を求めたのは,平成12年4月であったところ,当時は,平成11年度の収
支が平成10年度に引続き赤字が見込まれるという厳しい局面にあり,抜本的な経
営改善のための競輪事業運営改善計画を策定し,具体化に乗り出した時期であった
し,両教授は,それぞれの専門分野から,自由にしかも異なった意見を述べている
のであって,廃止のための理由作りなどではない。
イ 原告らの主張
(ア) 継続的出場契約を解約するための要件について
本件組合が継続的出場契約を一方的に解約するには,やむを得ない事
由と相当な予告期間の2要件が必要であるところ,別の施行者を探したり,設備・
人員等の特殊資産を他に転用したりする時間的余裕を考慮することに意義が乏しい
本件の場合には,仮にやむを得ない事由があって解約する場合であっても,相当な
予告期間に代わる金銭的補償をしない限り,解約を正当化することができないもの
と解すべきである。
(イ) やむを得ない事由の存在について
     a 売上確保のための努力が本件組合において不足していたこと
全国競輪売上額に占める西宮・甲子園競輪売上額の比率は,昭和5
5年に6.02%であったものが,以後毎年確実に低下し続け,平成11年には
3.3%へと半減している。全国的な減少以上に西宮・甲子園競輪の売上が減少し
た原因は,偏に本件組合の努力不足によるものである。関西圏よりもはるかに人口
の少ない地域でも売上を維持している競輪場は数多く存在するし,西宮・甲子園競
輪場地域が全国平均よりも高齢者が多いというわけでもない。また,本件組合は,
平成10年に事業収支が赤字になった後,売上増強のための施策を講じず,むし
ろ,広告宣伝費の削減,CATVの廃止等売上増加にとってマイナスとなるものし
か行っていない。
平成13年度に甲子園競輪場で開催された記念競輪の売上が著しく
低下したことは,本件組合が売上増のための努力をいかに怠ったかを示していると
ころ,かかる怠慢は,本件組合が既にこの段階で廃止を決定していたことから,売
上増をマイナス材料と判断していたことに由来するものと思われる。
     b 本件組合が事務組合財産基金を安易に取り崩したこと
本件組合は,経費削減と称して,従事員を一旦全員離職させ,事務
組合財産基金から退職金約42億円を取り崩し,事業収支が赤字であった平成10
年度,平成11年度においても,同基金を取り崩して被告ら市町に対し配分金を出
捐したが,これらの措置は,競輪事業の経営の健全化を図る趣旨で積み立てられて
きた同基金の趣旨に反するものである。
       かかる取崩しの結果,基金残高は,平成11年度には約75億円で
あったのに,平成12年度には約25億円にまで減少してしまい,競輪事業からの
撤退を早める原因ともなった。
c 本件組合による将来の赤字見込は安易なものであること
本件組合は,平成12年度に行われた従事員賃金の大幅削減及び施
設賃借料率の引下げ等の成果も見ない状態で,平成14年度から平成17年度まで
の4年間で各年度黒字が見込めないとの安易な予測を行い,甲子園一場のみを存続
させて競輪事業を継続する案をも安易に排斥した。
d 事業継続のための諸策
本件組合は,平成12年度初めころ,人件費削減や設置賃借料の削
減,専門家による車券売上予測等を行ったが,復命書(甲16)によると,平成1
2年7月14日には旧自治省との協議において既に競輪事業の廃止が決定されてい
たのであるから,かかる諸策は廃止決定のための準備作業であり,カモフラージュ
にすぎない。
(3) 本件組合は競輪事業を廃止するに際し,原告らに対して負う信義則上
の義務を怠ったか否か
ア 原告らの主張
(ア) 信義則上の義務
競輪競技は,前記(1)アの(ア)から(キ)のとおり,各関係団体
が互いに信頼し,協力し合うことによって,公正かつ円滑に実施されているのであ
り,そのために様々な組織が作られ,そのための人員も配置されている。
すなわち,競輪選手については,全国で競輪競技を年間600開催,
1開催2節6日間,1日は10競走で1競走に9名の選手が参加し,1節の間は同
一選手が出場するから,述べ人数で10万8000人が必要であるところ,1人年
間27回前後の出場の機会を確保するために,新人選手の登録や成績不良選手の登
録消除を毎年実施して,総選手数が約4000人になるように運営されてきた。
したがって,施行者が,他の関係団体と何の協議もせずに,利益の生
まれる可能性が少なくなったと判断するや否や,廃止に伴う各関係者の損失補償に
ついての対策を講じないまま,自己の一存で競輪事業を廃止することを決めるとい
うことが許されるはずはなく,全競輪選手から毎年1回の出場機会を奪うことにな
る競輪事業の廃業に際しては,競輪選手への影響が大きいことに照らしても,施行
者は競輪選手全員に対し,誠実な対応をすべき信義則上の義務を負っていた。
かかる信義則上の義務は,競輪事業を廃止する必要事由とその程度,
廃止を避けるための努力の有無と程度,相手方の協力の度合等の事情を考慮しても
なお,その結果が相手方の正当な期待に反する場合には認められるべきものであっ
て,継続的になされてきた個別的契約を一方が今後締結しないときには,他方当事
者が新たな個別契約の相手方を見つけるまでの猶予期間を置くべきこと,また,猶
予期間・予告期間を置かない場合には,当該期間に得べかりし利益を補償すべきで
ある。
(イ) 信義則上の義務に違反する行為
本件組合は,かかる信義則上の義務に反して,売上増強などの必要な
対策を行わず,突然競輪事業を廃業し,損失補償も行わなかった。よって,本件組
合は,廃業により原告らが被った損害を賠償すべきである。
イ 被告らの主張
(ア) 信義則上の義務について
信義則上の義務というのは,個別具体的な契約当事者間において認め
られるものであるから,個別の出場契約が存続していない競輪選手と施行者との間
において信義則上の義務が発生することはあり得ないところ,単に個別的契約が継
続されてきただけで,競輪事業の廃止に猶予期間を置くことや猶予期間に得べかり
し利益を補償することが必要となると解するのは不当である。現代社会における取
引関係は,もはや単回の契約で終わるという方が珍しいくらいであり,単に個別的
契約が反復継続してきただけで原告ら主張の義務が発生すると考えるのは不当であ
る。なお,本件では,原告らは,本件組合による競輪事業の廃業によって2場がな
くなったとしても,なお48場の競輪場で開催される競輪に出場して選手賞金を獲
得することができるのであるから,ことさら信義則という一般条項を持ち出して競
輪事業から撤退する本件組合に対し,原告ら主張のような義務を課す必要性は認め
られない。
そもそも,必要な競輪選手の数を確保してきたのは日自振であって原
告らではない。競技に必要な延べ10万8000名の選手を確保するためには,よ
り多数の選手を育成すればよいはずであるのに,日自振は1人あたりの年間出場回
数や賞金額を維持する意図から,むしろ,選手の利益のために,競輪選手数を40
00人に抑えてきた。かかる経緯に鑑みても,本件組合が原告らに対して信義則上
の義務を負うということはない。
また,原告らは,長年にわたって競輪事業に貢献してきた旨主張する
が,原告らの中には,登録して数年しか経っていない選手が相当数いるはずであ
り,これらの競輪選手については,長年にわたる貢献があったとはいえないはずで
ある。1名あたりの年間あっせん回数は24回であるから,全国の競輪場が50場
であることからすると,競輪選手は1人あたり2年に1回程度本件組合が開催する
競輪競技に出場する程度であって,継続的に個別的出場契約を締結する関係にある
とはいえない。施行者は,競輪競走に必要な選手数の確保を期待してはいるもの
の,個別具体的な競輪選手の出場を期待しているわけではない。
このように,原告らの主張は,具体的な選手を前提とした場合には,
矛盾が生じて成り立たないものであるし,抽象的な競輪選手全員を前提としても,
抽象的な意味での競輪選手には実体がなく,また,法人格もなく,その権利義務を
論じる余地はないから,主張自体失当である。
(イ) 信義則上の義務に違反する行為について
a 突然の廃業であったとの主張について
本件組合は,原告らが所属する選手会及びその支部との間で,約2
年間協議を重ねた上で,競輪事業から撤退した。すなわち,本件組合は,平成12
年4月から定期的に旧通商産業省,選手会を含む関係団体に対し,本件組合の事業
収支等の報告と事業の継続の困難さについての陳情を繰り返し行ってきた。
とりわけ,本件組合が撤退を視野に入れて意見をとりまとめるとの
方針を打ち出した同年7月27日以降は,管理者・副管理者会,組合議会等で,事
業収支試算等の内容を報告するとともに,その席で提出された原告ら関係者からの
要望に対し,双方で話し合う等してきた。また,平成14年3月31日をもって撤
退するとの方針を決定した平成12年11月10日以降は,日本競輪選手会を含む
その他の関係団体に売上額等を参考にした試算結果を詳細な書類に示して報告して
きた。
さらに,その後,日本競輪選手会等から提案された甲子園競輪場1
場のみでの継続開催案についても,平成13年5月と同年8月の2回にわたって,
実現が極めて困難であることを報告している。
よって,本件組合は,日本競輪選手会に対して協議を尽くし,平成
14年度以降赤字である場合は,事業から撤退する旨の予告を与えてきたのであっ
て,一方的に突然撤退を決定したわけではない。
     b 廃止の理由に正当性がないとの主張について
前記(2)イ(イ)のとおり
     c 売上増強策を講じなかったとの主張について
本件組合は,昭和57年以降,売上減少対策として,近畿初の電話
投票の導入や,ナイター競輪導入の具体的検討,場外発売,有名選手のあっせん要
望,車券投票制度のマークシート導入,送迎バスの運行等ファンサービスの充実,
場内実況カラーテレビの導入,CATVによる中継放送の拡大を行ってきた。
甲子園競輪場は甲子園球場と近接しているところ,甲子園球場で野
球が開催されている期間内は,雑踏整理に必要な警察官の配置が困難であるため競
輪競技の開催日数には制約があった。同様に西宮競輪場は住宅地にあるので,西宮
競輪においても開催日数については地元との調整が必要であった。
d 肩代わり施行に向けた努力をしなかったとの主張について
これまで撤退した施行者はもともと競輪場を所有していた施行者か
ら年に何回か借りていた借上げ施行者であり,借上げ施行者の開催していた場所と
同じ場所で競輪を開催していた他の施行者が存在していたからこそ円滑に肩代わり
開催が実現できたにすぎない。本件組合の場合には,同じ場所で競輪競技を開催し
ていた他の施行者はなかった。
e 東京都による競輪事業の廃止と本件組合による場合との比較
東京都は,昭和44年1月に,昭和45年度から3年以内に後楽園
競輪等公営競技を段階的に廃止することを発表し,昭和48年3月末に全ての公営
競技から撤退した。他方,本件組合は,平成12年7月27日,選手会を含む関係
者に対し,収支予測に基づき競輪事業の厳しい経営状況について説明した。その
後,平成13年度は関係者の協力を得て継続開催することとしたが,翌年度以降の
開催については,平成13年度中に行う事業収支見込結果を見て判断することとな
った。その結果,平成13年度末をもって競輪事業から撤退することとなり,同年
11月,撤退を表明した。
東京都が競輪事業を廃止した当時,競輪事業の総売上額は公営競技
の中で第1位と順調であったが,本件組合が撤退した時期は,平成4年度以降売上
額が全国的に減少を続け,競輪施行者が次々と競輪事業から撤退する状況であり,
車券売上が回復することはおよそ考えられない状況であった。また,撤退の理由に
ついても,東京都では,①自治体財政の近代化,合理化,民主化の確立のため,②
国の税の配分が適正でなく公営ギャンブルに頼らざるを得ない現状を改善するべく
公営競技を廃止した上で,国に対し適正配分を求めるため,③ギャンブルは広い意
味での公害であるためとの政策的なものであったが,本件組合の場合は,経営改善
の努力にもかかわらず平成10年度以降赤字が累積し,今後の事業収支見込による
と将来的に赤字の解消の目処が立たなかったことから,自転車競技法の目的に反し
て地方財政を悪化させる事態を回避するために,やむを得ず廃止するというもので
あった。
(4) 法制度に基づく損害賠償責任の存否
ア 原告らの主張
我が国の競輪競技は,都道府県及び総務大臣の指定を受けた市町村のみ
が実施することができ,その余の者は一切競輪競技の施行者となることができな
い。また,経済産業省は,施行者の数,全国の競輪場の数を勘案して,各施行者並
びに1競輪場の年間開催回数を施行規則によって定めている。
かかる法制からすれば,競輪事業を廃止しようとする施行者は,予め競
輪選手側や監督官庁にその旨の意向を表示して,当該施行者が廃止することによる
開催回数及び賞金の減少分を,他の施行者の行う競輪競技によって補填したり,日
自振の登録選手数を徐々に減少したりする等の対応をすることができる時間的余裕
をもった措置を取るべきであるにもかかわらず,施行者のみの都合によって勝手に
廃止するということは,競輪競技の公正かつ安全な実施を目的とする自転車競技法
の精神に反するものである。
自転車競技法14条1項,施行規則17条(現行34条),登録規則2
1条,日自振の選手出場あっせん調整基準第4条,本件約款2項の3,3項,5項
にも同法の精神が顕れている。
しかるに,これを行わず,一方的に競輪事業を廃止することは明らかに
違法であり,本件組合は原告らに対し,廃止から2年間に得べかりし利益につき損
害賠償しなければならない。
イ 被告らの主張
仮に本件組合に継続開催義務違反があるとしても,原告ら競輪選手は,
日自振のあっせんによって初めて出場する競輪競技が決まるのであるから,本件組
合が開催していた西宮競輪・甲子園競輪に出場する具体的権利が保障されていたわ
けではない。したがって,本件組合が,西宮競輪・甲子園競輪を開催しなかったと
しても,原告らの権利は何ら侵害されていない。
日自振による1人あたりの出場あっせん回数が減少したとしても,あっ
せんを受ける回数が選手に対して法的に保障されているわけではない。原告らが減
少したと主張する基準となる出場回数は27回であるが,この回数も生活保障のた
めに選手らが要望してきたというものにすぎず,日自振や関係者がその回数を法的
に保障しているわけではない。
また,日自振の選手出場あっせん調整基準第2条1項(乙5)では,あ
っせん回数は年間24回を標準とするとされているが,同2項において,年間24
回の標準あっせん回数は,当該あっせん調整期間の開催必要選手数と実働選手数と
の需給関係により増減できるとしているから,年間24回という回数も絶対的に保
障されたものとはいえない。
なお,現実に日自振によって行われた1人あたりの年度間あっせん回数
は,平成12年度平均27.18回,平成13年度平均27.21回,平成14年
度平均25.99回,平成15年度大体27回であり,西宮・甲子園競輪が開催さ
れなかった平成14年度は例年よりも約1.2回減少しているが,翌15年度には
従前の回数にほぼ回復している。
原告らは,選手の生活の安定は不正競走を防止するために必要である旨
主張するが,選手の生活が安定すれば不正競走がなくなるとはいえないから関係は
ない。
(5) 原告らの損害
ア 原告らの主張
原告らの相当数の者は,本件組合との出場契約の機会を絶たれ,出場選
手に支払われる賞金を獲得することもできなくなった。また,本件組合との出場契
約の見込のない者も,本件組合との出場契約の機会を絶たれた競輪選手が他の施行
者開催の競輪競技に出場することによって,そのしわ寄せを受けて出場する機会を
失い,その結果,本来出場して獲得することができる賞金を得ることができなくな
った。そもそも,日自振は全競輪選手に対し,平等に出場機会を与えていることか
ら,被告との出場契約の機会の有無に関わらず,全ての競輪選手が被害を受けてい
ることになる。
しかるところ,個々の競輪選手の損害額については,本件組合開催の競
輪競技の賞金総額を按分することで競輪選手間で合意が成立している。
原告らが競輪事業の廃止に対応するための準備期間としては,少なくと
も2年間が相当であるから,原告らが本件組合の競輪事業で獲得することができる
はずであった賞金2年分が本件組合が原告らの不利益に対して賠償すべき損害・損
失額となるところ,その額は,西宮・甲子園両競輪場の廃止前3年間の平均年間賞
金額22億3316万2666円の2年分である44億6632万5332円であ
り,これを登録選手3988名で平等に按分して分配すると1名あたり111万9
941円となる。
そして,本件組合から被告らへの債務の分賦の比率を乗ずると,各被告
らが各原告に支払うべき損害金は請求の趣旨のとおりとなる。
イ 被告らの主張
(ア) 一律損害論の不合理性
競輪競技は,それぞれの選手の能力により賞金獲得額に差が生じるも
のであるところ,出場者のうち,誰が,どのレースに何着で入賞するかも全く不明
であるのに,原告ら全員に抽象的に出場の蓋然性があるとすることはできない。
また,獲得できたはずの賞金を全員に平等に按分して分配する合意を
し,損害賠償請求に及ぶ旨の合意が法的に有効か疑問であるし,債権譲渡や贈与等
の法的性質によって説明するとしても,誰と誰との間の法律行為であるのか不明で
あって,結局上記のような合意は不可能というべきである。
そもそも,原告らは,日自振のあっせんを受けない限り,出場する競
輪競技は決まらないのであるから,原告ら個々人が具体的に西宮・甲子園競輪の賞
金を獲得する旨の期待は法的に保護されないものである。
(イ) 原告らの当事者適格
原告らのうち8名は,選手として協議に出場しない者であるところ,
年齢・体力から賞金も稼げないため,本件の当事者とはなれない。また,原告らの
うち40名は,日本競輪選手会の40支部において,賞金も稼ぐが給料も受けてい
る者であるところ,賞金と給料の内訳が不明であるから,2年間の賞金獲得の機会
を奪われた者に該当するか否かは不明である。さらに,原告らのうち75名は,本
件組合が競輪事業を廃業した日の翌日である平成14年4月1日に登録選手となっ
た者であるが,平成13年11月に西宮・甲子園競輪が廃止されることを知ってい
るから,両競輪での賞金の獲得を予見することもない。最後に,原告らのうち約2
00名は,本件訴訟の提起後に競輪選手を辞めており,原告らに何らかの請求権が
成立するとしても,辞職によって請求権を放棄しており,本訴請求をすることはで
きない。
以上のように,原告らには,明らかに損害賠償を請求することができ
ない者が多数混在しており,原告らのうち誰が損害賠償請求をすることができるか
は全く不明であって,結局,原告ら全員について,損害賠償請求権を否定せざるを
得ない。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1),(2)について
(1) 原告らは,競輪選手全員と本件組合との間に継続的出場契約が成立し
ていたことを前提として,本件組合はやむを得ない事由がないのに同契約を解約し
た旨主張する。
しかしながら,前記「前提となる事実」に照らし考察すると,競輪選手全
員と本件組合との間には,競輪選手全員の中から,日自振のあっせんによって本件
組合が開催する競輪競技に出場する選手が選ばれ,本件組合との間で個別の出場契
約を締結するとの制度的かつ事実上の関係が存続してきたことは認められるもの
の,それを超えて,競輪出場につき法的義務を伴う継続的契約関係が成立している
ものとは認められない。
たしかに,競輪競技を開催するにあたって,出場する競輪選手が確保され
ていることは個々の施行者にとって不可欠の条件であるといえるが,前記「前提と
なる事実」によれば,個々の競輪選手が出場あっせんを受け入れるか否かはあくま
で選手の自由意思に委ねられるものである。もっとも,施行者は,日自振によるあ
っせんを競輪選手が受け入れなかった場合でも,再度のあっせんに応じた別の競輪
選手との間で個別の競輪出場契約を締結することができ,そのように再度のあっせ
んによって,最終的には競輪選手として登録している選手の出場を確保している
が,これは競輪事業を適法に成り立たせている法制度ないしその運営の結果である
し,他方,競輪選手としても,出場の機会を与えられれば格別の理由がない限りこ
れに応ずることが予定されているものの,これはそうすることが自らの収入の途を
得ることになり,自らの利益に適うからであって,あっせんに応ずることにつき法
的な強制力を受けるためとまでは認められない。
加えて,施行者は,競輪選手としての資格を有する選手のうち誰を出場選
手として選ぶかについては,日自振によるあっせんに一任しているのであるから,
競輪選手全員に対し,出場する選手を確保するために直接契約上の権利等を主張
し,これを行使したような事情は認められず,かかる点に照らしても,競輪選手全
員と本件組合との間には,法制度が予定している関係を超えた特別な継続的契約関
係が構築されてきたとは認められない。
そもそも,契約関係から生ずる権利,義務の内容を考慮する場合に,原告
ら主張のように,個々の競輪選手ではなく,競輪選手全員という自然人の団体を一
方当事者として想定することには,当該団体の法的性質をどう捉えるかという点を
始めとして相当の困難を伴うことはいうまでもない。加えて,証拠(原告A本人)
及び弁論の全趣旨によれば,競輪選手として登録している者の中には,出場するこ
とが想定されていない者が確実に含まれていると認められる上,登録選手の全員に
あっせんを受ける可能性が等しく認められるわけではなく,中にはあっせんを受け
ることをおよそ期待できない者も競輪選手として登録していることが認められるか
ら,そのような者を含んだ団体を一方当事者として,法的義務を伴う契約関係を想
定することはおよそ困難であるといわざるを得ない。
よって,競輪選手全員と本件組合との間には継続的出場契約の存在は認め
られないから,これが存在することを前提とする争点(1),(2)に関する原告
らの主張にはいずれも理由がないことは明らかである。
(2) 以上に対し,原告らは,本件組合が主催する競輪出場のあっせんを原
告らが受けた場合,競輪選手は事実上拒否することができない旨主張する。しかし
ながら,前記「前提となる事実」(6)カ及び証拠(乙2,3)によれば,あっせ
んを受けた選手が日自振から送付される「競輪参加申込書」には,不参加の場合の
記載欄も設けられており,不参加の回答も制度上予定されていると認められるし,
現にあっせんを受けながら参加を辞退している選手が存在していることも明らかで
あるから,出場あっせんに事実上の拘束力がある旨の原告らの主張には疑問がある
し,競輪選手が,日自振に対しては正当かつやむを得ない理由なしにあっせんを拒
否できない立場にあるとしても(ただし,それも,正当な理由なく出場を拒否した
場合に,それに応じて出場の機会を喪失するという不利益を被るためと考えられ
る。),本件組合に対して直接法的義務を負い,あるいは強制力の行使を受ける地
位にあるとは解されない。したがって,いずれにせよ原告らの主張には理由がな
い。
また,原告らは,個々の施行者が競輪競技に必要な人数分の競輪選手の出
場を必ず期待することができ,そのような関係が40年以上も続いてきた旨主張す
る。そこで,検討するに,前記「前提となる事実」と証拠(原告A本人)及び弁論
の全趣旨によれば,競輪選手に競輪競技への出場の機会を与えることができるのは
適法に指定を受けたあっせん機関である日自振のみであるところ,施行者が開催す
る総競技数と適正な出場機会数を考慮して,競輪選手側はなるべく1人あたり年間
27回の出場機会が確保されるように登録選手数の調整を行ってきたこと,かかる
調整の結果,良質の競輪選手が登録,育成され,施行者らも安定して選手らが供給
されることを期待してきたことが認められる。しかしながら,競輪選手の人数調整
は,競輪選手を職業として成り立たせるために,多分に選手側の利益のために行わ
れてきた側面があることも否定し難いし,競輪選手の人数調整や開催日数の調整
は,競輪事業を,監督官庁である経済産業省(旧通商産業省)の監督の下,公営ギ
ャンブルとして適法ならしめるために,いわば法制度上の必要から行われてきたも
のであることは明らかであるから,かかる供給調整が法制度ないし運営上行われて
いること自体から,私法上の継続的出場契約関係が個々の施行者と競輪選手全員と
の間に成立しているとまで解することは困難である。
さらに,原告らは,競輪選手全員と個々の施行者らとの間には,継続的出
場契約の根底となる基本契約が存在する旨主張する。しかしながら,証拠(甲4)
によれば,原告らが基本契約として主張する本件約款は,継続的な出場機会の提供
に関する規定ではないと認められ,むしろ,個別の出場契約に関する付随的事項
を,全施行者と競輪選手との間で統一するために合意されたものと解されるのであ
り,それ自体を継続的出場契約の基本契約であると解するには無理があるというべ
きである。
そもそも,原告らの主張は,競輪選手全員が抽象的に本件組合が開催する
競輪競技に出場する機会が認められることを前提とするものと解されるが,かかる
関係が認められることは,競輪事業を適法に成り立たせている法制度ないしその法
の趣旨に沿った運営の結果にすぎないことは既に判示したとおりであるから,いず
れにせよ原告らの主張に理由がないことは明らかである。
 2 争点(3)について
(1) 原告らは,本件組合の原告らに対する継続開催義務までは認められな
くとも,これまでの原告らと本件組合との関係からすれば,本件組合は,競輪事業
を廃止するに際して,原告らに対し,原告らが新たな契約の相手方を見つけるまで
の猶予期間を置き,または,その間の得べかりし利益を補償するなどの信義則上の
義務を負う旨主張する。
たしかに,前記「前提となる事実」によれば,原告らと本件組合との間に
は,競輪選手である原告らは適法に競輪事業を開催し得る施行者との間で出場契約
を締結しなければならず,他方,競輪事業を開催しようとする施行者らは,競輪選
手として登録した者としか出場契約を締結できないという相互に契約相手を制限さ
れた関係が認められ,この点において競輪事業の運営には競輪選手と施行者との間
の協力関係が不可欠である。
しかしながら,かかる関係は,ギャンブルである競輪事業を,適法な公営
事業ならしめるために法制度上制約を課せられた結果であることは既に前記説示し
たとおりであって,この関係から当事者間に私法上の契約関係を律する信義誠実義
務を想定することはできない。
よって,競輪事業からの撤退にあたって,本件組合が原告らに対して前記
内容の信義則上の義務を負う旨の原告らの主張には理由はない。
(2) 以上に対し,原告らは,本件組合が自らの利益のみを追求し,利益が
見込めなくなった場合に直ちに,撤退することは信義則上許されない旨主張する。
そして,たしかに,証拠(甲7,9,乙15,原告E本人)及び弁論の全趣旨によ
れば,本件組合は,法律に定められた特別な地位を背景として競輪選手の出場を確
保し,競輪事業によって収益金を上げてきたこと,記念競輪等の特別な競輪開催計
画については開催の2年前から開催場の決定等がなされていることが認められる。
しかしながら,本件組合は営利団体として競輪事業を開催しているものではなく,
地方財政に資することを目的として同事業を行っているものであるところ(自転車
競技法1条),同法及び施行規則その他の法令には,競輪事業を廃止する場合の要
件に関する規定が定められていないことに照らすと,地方財政への組入れが期待で
きない場合に競輪事業を随時廃止することに法令上の制約はないものと解されるか
ら,利益が見込めないことを理由に競輪事業から撤退することが信義則上の義務に
反する旨の主張は,それ自体理由がないものといわざるを得ない。
また,原告らは,本件組合による競輪事業からの撤退が,競輪選手らから
出場機会を奪うことになることから,本件組合には長年競輪事業により収益を上げ
ることに貢献してきた競輪選手全員に対して何らかの信義則上の義務が生ずるもの
と主張する。しかしながら,本件組合の廃業によって競輪事業の存続が困難にな
り,原告らが競輪選手としての収入の途を一挙に失うような場合は検討の余地があ
るとしても,本件においては,証拠(甲5の12ないし14,乙5,原告A本人)
によると,日自振が,競輪選手1名あたりが受ける1年あたりのあっせん回数につ
いて,公正安全な競走を行うに適当と認められる選手に対しては年間24回を標準
とする旨を規定している一方で,平成12年度の選手1人あたりの平均あっせん回
数は27.18回で,平成13年度も27.21回であったのであり,平成14年
度には25.99回と減少したものの,平成15年度には約27回に回復したこと
が認められるところ,本件組合が競輪事業から撤退したことに伴って,1人あたり
1回以上のあっせん回数が減少したと認められるものの,未だ,日自振が定めてい
る標準あっせん回数を上回るあっせん回数は確保されていると認められる。また,
1人あたり平均27回のあっせんを受けることが,何らかの形で競輪選手らに保障
されていたわけでもない。したがって,本件組合の撤退による競輪選手らの出場機
会の減少は,未だ本件組合に何らかの信義則上の義務を本件組合に生じさせるもの
とは到底いえない。よって,原告らの主張には理由がない。
  (3) なお,証拠(甲13)によれば,西宮市周辺地域に居住する競輪選手
には,甲子園競輪場で練習し,さらに,西宮競輪・甲子園競輪において先頭誘導員
として出走し,それに対する手当を受ける等の特別の機会が与えられていたことが
認められ,そのように何らかの出場の機会を反復継続して受けていた選手の存在が
本件で窺われないでもない。しかしながら,そのような選手が得る練習や出場の機
会は,競輪事業が居住地域において開催されることに伴う反射的な利益にすぎない
上,賞金等総額の損害賠償を請求する原告らの本訴請求とは無関係である。
 3 争点(4)について
(1) 原告らは,競輪事業を成り立たせている法制度上,本件組合が突然撤
退することは許されず,継続して開催すべき義務を負っていた旨主張する。
そこで検討するに,前記「前提となる事実」に加え,証拠(甲6ないし
8,10,11,16,17,乙6,14の3・4,原告A本人)及び弁論の全趣
旨によれば,競輪事業は経済産業省(旧通商産業省)が監督官庁となって,施行者
の数,全国の競技場の数を勘案して,各施行者及び1競輪場の年間開催回数を施行
規則によって法定していること,施行者は,都道府県及び総務大臣の指定を受けた
市町村のみであること,競輪選手の人数は1人あたりの平均あっせん回数が生活水
準に見合うように調整されていること,競輪事業の年間計画は2年ほど先を見越し
てたてられていること,平成13年3月以降,経済産業省産業構造審議会車両競技
分科会において,競輪事業の概況や問題点が議論され,その中で競輪選手の人数に
ついても言及がなされたこと,同年6月ころ,施行者らが,経済産業省に対し,売
上額から一定割合で納付することが義務付けられている交付金制度を改めるように
陳情をなしたことが認められる。
しかしながら,いかに競輪選手の数が競輪開催総数に対応する形で決定さ
れてきた事実が認められるとしても,競輪選手の出場機会確保のために,地方財政
から補填してでも競輪事業を継続し続けなければならない義務が生じるとは解され
ないし,他方,競輪選手の数を完全に開催総数に一致させるように調整することも
極めて困難であると推認されるから,赤字とならない程度に競輪事業から段階的に
撤退するというような特別の配慮をすべき注意義務が施行者に生じるものとも解さ
れない。
(2) また,原告らは,競輪事業を成り立たせている法制度及び自転車競技
法の精神からすれば,本件組合には,予め競輪選手側や監督官庁に廃止の意向を表
示して,廃止に伴う開催回数や賞金の減少分を他の施行者の競輪競技によって補填
する等の措置を取るべき注意義務があった旨主張する。しかしながら,現実の問題
として,売上増加のための工夫を重ねながら,売上や収支の予測をして競輪事業を
継続してきた場合,廃業する明確な見込を競輪選手側や監督官庁に対して2年以上
も前に告知することは極めて困難であると考えられるから,原告らが主張するよう
におよそ2年前から,競輪事業から撤退する見込を対外的に表示していなければな
らないとの義務が,法制度上,施行者に課せられているものとは解されない。
なお,証拠(甲6,16,17,原告A本人)及び弁論の全趣旨によれ
ば,本件組合は,平成12年4月以降,別紙「中央への陳情状況一覧表」記載のと
おり,旧通商産業省,旧近畿通商産業課長,選手会,日自振,自転車競技会,自転
車振興会,全国競輪場施設協会,全国競輪施行者協議会等の関係機関に対し,事業
収支状況や収支予測を,専門家による分析や客観的資料を多数添付して行った上,
支援要請等を行ったこと,平成12年7月ころには,本件組合が撤退も視野に入れ
た検討が行っていることを旧自治省担当者に伝えていること,同年8月には,選手
会理事長から本件組合に対し,事業継続に関する問題が提起されていることを選手
会も認識した上で,事業継続に向けた取組をするように求める文書が発出されてい
ることが認められるところ,本件組合は,原告らが主張するように突然に競輪事業
からの撤退を表明したのではなく,事前にある程度根拠のある資料を示しながら,
各関係機関に対する各種の陳情や要請を行ってきたと認められる。
原告らは,さらに,自転車競技法14条1項,施行規則17条(現行34
条),登録規則21条,日自振の選手出場あっせん調整基準第4条,本件約款2項
の3,3項,5項等からすれば,本件組合は原告らに対し継続開催をすべき義務を
負うことが認められる旨主張するが,独自の見解であって,何ら合理性がない。
第4 結論
   以上の次第で,その余の点につき判断するまでもなく,原告らの請求にはい
ずれも理由はないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61
条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
 神戸地方裁判所第6民事部
 
     裁判長裁判官    田中澄夫
    
        裁判官    大藪和男
        裁判官    三 宅 知三郎
  (別
紙)
請求の趣旨一覧表
 1 被告姫路市は原告らに対し,各金7万3674円及びこれに対する平成14
年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
 2 被告尼崎市は原告らに対し,各金7万3674円及びこれに対する平成14
年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
 3 被告明石市は原告らに対し,各金7万3674円及びこれに対する平成14
年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
 4 被告西宮市は原告らに対し,各金49万4528円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 5 被告洲本市は原告らに対し,各金2万0483円及びこれに対する平成14
年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
 6 被告伊丹市は原告らに対し,各金8万1474円及びこれに対する平成14
年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
7 被告相生市は原告らに対し,各金1万9238円及びこれに対する平成14
年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
 8 被告豊岡市は原告らに対し,各金2万3350円及びこれに対する平成14
年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。 
 9 被告加古川市は原告らに対し,各金3万6650円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 10 被告龍野市は原告らに対し,各金2万1729円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 11 被告赤穂市は原告らに対し,各金2万3675円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 12被告西脇市は原告らに対し,各金2万2541円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 13 被告宝塚市は原告らに対し,各金3万4216円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 14 被告三木市は原告らに対し,各金1万9238円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 15被告高砂市は原告らに対し,各金1万9238円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 16 被告川西市は原告らに対し,各金1万9238円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 17 被告小野市は原告らに対し,各金1万9238円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 18 被告三田市は原告らに対し,各金1万9238円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
 19被告加西市は原告らに対し,各金5599円及びこれに対する平成14年
12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
 20 被告三原町は原告らに対し,各金1万9238円及びこれに対する平成1
4年12月19日(訴状送達の日の翌日)から各支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。

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