弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 価事者の求めた裁判
一 原告ら
1 被告らは、公職選挙法(昭和二五年法律第一〇〇号)別表第一、同法附則第
二、第七項ないし第一一項に基づいて第三四回衆議院議員総選挙のための選挙期日
の公示、候補者の届出受理、その他一切の選挙事務の執行をしてはならない。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決
二 被告ら
主文と同旨の判決
第二 原告らの請求原因
一 原告らは、神奈川県藤沢市又は茅ケ崎市に居住する選挙権を有する国民であ
り、昭和五一年内に実施が予想される第三四回衆議院議員選挙において神奈川三区
の選挙人となる地位にある者である。
二 被告自治大臣は、公職選挙法(以下「法」という。)第五条第二項により衆議
院議員の選挙に関して神奈川県選挙管理委員会を指揮監督する者であり、被告神奈
川県選挙管理委員会は、同条第一項により衆議院議員の選挙の事務を管理する者で
ある。
三 (一)憲法は、第一四条において、一般に法の下の平等について規定するほ
か、特に選挙について第一五条第一項、第三項、第四四条等において平等選挙を保
障している。憲法が保障するものは、累積投票制、納税額による選挙権の差別等、
選挙権それ自体、あるいは投票の実質的価値を不平等にするが如き「選挙制度」の
排斥にとどまるものではない。これら「制度的差別」ともいうべきものが現存しな
い現在において、むしろ選挙の平等は、「結果価値の平等」──すべての投票が選
挙の結果に平等の影響をもつべしとする原則──を最も重要な内容として含み、こ
の原則が憲法の保障する法の下の平等の当然の要求というべきである。
右の結果価値の平等、すなわち投票価値の平等が、憲法上の要請であること、した
がつて、この平等を害するに至つた定数配分方法は違憲、違法であることについて
は、最高裁判所(昭和五一年四月一四日大法廷判決)の容認するところとなつてい
る。
この投票価値の平等は、「すべての国民は法の下に平等である」と定めた憲法第一
四条の要請に直接基づくものであるから、立法上、厳密に実現されなければならな
い。仮に、選挙区ごとに若干の偏差が生ずるのはやむをえないとしても、その偏差
は、いかなる理由によろうともこの平等の原則を踏みはずしてはならず、また、そ
の偏差は常に一般的合理性の範囲内にとどまらねばならないのである。
この点につき、右最高裁判決は、投票価値の平等が「一般に合理性を有するものと
は到底考えられない程度」の偏差を生じている場合には憲法に違反すると判示する
のみで、具体的な数値を示していないかにみえる。しかし、同判決は「特定の範疇
の選挙人に複数の投票権を与え」るような「殊更に実質的価値を不平等にする選挙
制度がこれ(憲法)に違反することは明らか」であることも判示している。この趣
旨は、結局のところ、選挙区間での投票価値が二対一以上の偏差があることをもつ
て、選挙の平等を害するとしているものといわなければならない。なぜなら、職員
一人当たり人口数最低の選挙区の投票価値が、同人口数最高の選挙区の投票価値の
二倍を超えることは、これを「或る選挙区に居住する」という「特定の範疇」の選
挙人に、複数の選挙権を与えることと結果において全く同一のことといわなければ
ならないからである。具体的に言えば投票価値の全国平均を一〇〇とした場合上下
各三分の一のうち、つまり一三三から六六まで(丁度二対一になる)の間に全ての
選挙区をおさめることが、憲法上要請されているといわねばならない。
(二) 第三四回衆議院議員選挙において適用されようとしている法別表第一、附
則第二項、第七項ないし第一一項は、右憲法上の要請を充たしていない。右別表第
一は、第一に選挙区間に大きな偏差を生じていること、第二に右の偏差が昭和五〇
年法津第六三号による改正時点ですでに明白であつたことの二点によつて、違憲性
を免れえない。
第一に、法別表第一による選挙区間の具体的偏差について各選挙区の人口数を昭和
五〇年一〇月一日施行の国勢調査結果に比較してみると、次のようになる。
1 議員一人当たり人口の最高選挙区と最低選挙区の人口比及び全国平均人口での
一票のもつ偏差値を表示すると、表1のとおりとなる。ここでは、投票価値に一対
三・七一の格差が生じている。神奈川三区も一対三・六三の格差をもつて票値を低
く定められている。
2 法別表第一による選挙において当該選挙区における一票の価値が理論上適正な
一票の価値の上下三分の一の枠外にはみ出す選挙区の数は四二区に達し、そこから
同時に選出される議員数は一五一名(全議員数の二九・五パーセント)、そこに属
する人口は約三九、二五三、〇〇〇人(全人口の三五・一パーセント)に達してい
る。このように枠外にはみ出す議員数や人口の比が高いことは投票価値の不平等が
極めて広範囲にわたつて存在することの証左である。
3 法別表第一による選挙において過半数を選出するに要する最少の選挙人数の全
国百分率は三八・七パーセントである。これは要するに、三八・七パーセントの得
票で過半数議席を占有しうる制度となつているのであつて、代表民主制の原理に反
している。
4 法別表第一を神奈川三区を基準としてみた場合、神奈川三区より人口数が少数
であるにもかかわらず議員定数が多いという逆転区は、全国一三〇の選挙区のう
ち、六五選挙区、すなわち五〇パーセントも存する。同じ神奈川県内でも、同一区
は、三区よりも人口数が少ないにもかかわらず議員定数は四人であるし、さらに極
端な例も存する。表IIで示す通りである。これは一面では投票価値の平等の問題
であると同時に、前記最高裁判決の言うところの「殊更に投票の実質的価値を不平
等とする選挙制度」であるというべきであつてその違憲性は明白であるといわなけ
ればならない。
第二に、法別表第一が昭和五〇年法律第六三号によつて改正されたものであること
は前述のとおりである。しかし、右改正当時でさえ、選挙区間の票値の格差を一対
三以内に押えるという政府方針のもとで、現実には一対二・九二とされたのである
が、この一対三という数値は何らの合理的根拠もなく設定されたものであり、現実
の一対二・九二という数値自体、憲法に反するものといわなければならない。
前記最高裁判決は、「一般に制定当時憲法に適合していた法律が、その後における
事情の変化により、その合憲性の要件を欠くに至つたときは、原則として憲法違反
の瑕疵を帯びることになるというべきであるが、右の要件の欠如が漸次的な事情の
変化によるものである場合には、──中略──合理的期間内における是正が憲法上
要求されていると考えられるのに、それが行われない場合に憲法違反と断ぜられる
べきもの」と判示している。
しかし、法別表第一は、改正当時すでに、憲法違反の瑕疵を有していたものという
べきであるから「合理的期間内における是正」はもともと問題たりえない。
仮に昭和五〇年法律第六三号の改正になお合憲性を認めるとしても法別表第一の末
尾に「本表は、この法律施行の日から五年ごとに、直近に行われた国勢調査の結果
によつて、更正するのを例とする」とされているのにもかかわらず昭和二五年施行
以来二回しか改正されていないという事実を合わせ考えるならば、前記最高裁判決
を受けて、昭和五〇年度国勢調査の結果が判明した時点で速やかに、再度改正すべ
きだつたのであり、この改正がなされなかつたことによつて、現時点における法別
表第一の違憲性はより明白になつたといわざるをえない。
四 (一)前記最高裁判決は、昭和三九年法律第一三二号による法の一部改正に係
る議員定数配分規定を違憲であると認定したうえ、しかし右規定に基づいて行われ
た昭和四七年一二月一〇日の衆議院議員選挙は違法ではあるが無効ではないと判示
した。右判決は、従来の判例を憲法の原則に忠実な方向に一歩踏み出したものとし
て高く評価されているが、しかし、国民の平等選挙権の保障としては充分なもので
はない。なぜなら、右選挙が国民の基本的人権を侵害して行われたことを認めなが
ら、具体的権利救済は少なくとも判決の上では考慮されていないからである。右判
決が、右のような完全な権利救済をなしえなかつたことは理由のない訳ではない。
それは右判決の基礎となつた訴訟が、すでに行われた選挙について法第二〇四条の
選挙訴訟によつて、その効力を争う形態をとつていたこと、右判決時は、すでに選
挙後三年余を経過し、右選挙によつて選出された衆議院議員によつて数多くの国政
がすでに実施されていたこと等から、右判決が行政事件訴訟法第三一条第一項前段
の規定を適用したことは、一定の合理性が存するともいえるからである。
(二) しかし右判決からこの種の訴訟においては、原告が常に具体的な選挙の施
行をまつてその結果の違憲違法を争うほか途がないとすれば、平等選挙権の保障
は、抽象的、理論的な保障にとどまり、現実的保障は存しないことになる。真の意
味で選挙権の平等の保障が意味を持つためには、選挙権の平等が保障された選挙が
現実に実現することであり、その当然の前提として憲法の容認しえない不平等選挙
が現実に施行されようとする時には、選挙権の具体的権利侵害が明白かつ、現実の
危険のある状況にあるものというべきであり、かかる場合には違法な定数配分規定
による権利侵害を未然に防止しうべき権利が選挙人となるべき有権者には存するも
のというべきであるから、その救済を裁判所に求めることができるものといわなけ
ればならない。
(三) そして現在の衆議院議員は、昭和四七年一二月一〇日施行された第三三回
衆議院議員選挙で選挙されたものであるが、憲法第四五条により、その任期は四年
とされているから、昭和五一年一二月九日で任期満了となる。よつて法第三一条第
一項により原則として右任期満了以前三〇日以内に総選挙が行われることになる。
また右任期満了以前に衆議院が解散されたときは、同条第三項により、解散の日か
ら四〇日以内に総選挙が行われることになる。
しかるに、昭和五一年四月三〇日参議院予算委員会において、内閣総理大臣Aは、
法の改正の意思のないことを明確に答弁しており、右総選挙は前記法別表第一、附
則第二項、第七項ないし第一一項によつて施行されることが明白である。故に前述
のとおり原告らの平等選挙権の侵害は明白かつ現実の危険のあるものである。そし
て原告らの権利救済のためには、違法な選挙の施行それ自体を差し止める以外に他
に適当な救済方法は存しない。
五 ところで、行政庁の義務(作為、不作為)が一義的に裁量の余地のないほど明
瞭であつて、裁判所の判断に適する事項であること、すなわち、行政庁の第一次判
断権を留保する必要がなく、個人が極めて大きい損害を被り又は被る危険が切迫し
ており、他に救済方法がないとき、無名抗告訴膜の一つとして予防的不作為訴訟は
許容されるものと解されているところ、本訴は右に述べたとおりいずれも右の要件
を充足するから、原告らは、被告らの第三四回衆議院議員選挙に関する一切の選挙
事務の執行を差し止めるべく、行政事件訴訟法による予防的不作為命令判決を求め
る抗告訴訟を提起するものである。
第三 被告らの本案前の申立ての理由
一 国民が国又は地方公共団体の公権力の行使に対して訴えを提起することができ
るのは、当該行政行為によつて自己の権利を違法に侵害された場合又は違法に義務
の強制を受けた場合(一般の行政訴訟)及び特に法律の規定により訴権が認められ
ている場合(民衆訴訟)に限られるものであるが、本件訴えは、そのいずれにも該
当しないものであるから、原告らは訴えの利益を有しない。
二 裁判所は、一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に認める権限
を有するが(裁判所法第三条)、「一切の法律上の争訟」とは、無制限な法律上の
争訟を意味するものではないことはいうまでもないことである。
すなわち、裁判所の権限は、すでになされた行政行為につき、その取消し又は無効
確認を行うこと及び行政機関が法律上の義務に背いて行政行為を行わない場合に不
作為の違法確認を行うことに限られるものであり、裁判所が行政機関に対し積極的
に作為又は不作為を命ずることは許されないものである。
このことは、憲法の基本原則である三権分立・相互抑制の法理により導かれる原則
であり、一般の行政訴訟にあつては、特定の者の具体的な権利の侵害又は義務の違
法な強制がある場合に限り、民衆訴訟にあつては具体的な法律関係について紛争が
ある場合に限つて、審理の対象とされる所以もここにある。
しかるに、本件訴訟は、裁判所に対して選挙事務の不執行を命ずることを請求する
ものであるから、右の法理に照らして、不適法である。
第四 証拠関係(省略)
○ 理由
一 原告らの本訴請求は、法別表第一、附則第二項、第七項ないし第一一項が違憲
であることを理由として原告らが神奈川三区の選挙人たる資格に基づき、第三四回
衆議院議員総選挙のための一切の選挙事務の執行の差止めを求めるのであるが、こ
れは原告らが選挙の適正を期するため選挙人たる資格というまさに原告らの個人的
な法律上の利益にかかわらない資格で訴えを提起するものであつて、本訴は、当事
者間に具体的な権利義務その他法律関係についての争いがあり、個人の権利を保護
するための訴訟ではないから、行政事件訴訟法第五条に定める民衆訴訟に該当する
というべきである。
したがつて、かかる訴訟は、法律に特別の規定がないかぎり提起することは許され
ないものであるところ(行政事件訴訟法第四二条)、本訴が法第二〇四条に基づく
訴えでないことは、その主張から明らかであり、右訴訟以外に選挙人たる資格にお
いて衆議員議員の選挙に関して訴訟を提起する途は現行制度上認められていない。
二 原告らは、本訴は無名抗告訴訟として許されると主張するけれども、本訴が民
衆訴訟に該当することは前示のとおりであるから、抗告訴訟には当たらない。
三、よつて本件訴えは、不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の
負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適
用して主文のとおり判決する。
(裁判官 時岡 泰 寺西賢二 山崎敏充)
(別紙)

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