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平成22年10月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第36307号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成22年7月13日
判決
愛知県岩倉市〈以下略〉
原告株式会社アイワ
訴訟代理人弁護士大矢和徳
同石川智太郎
補佐人弁理士樋口武尚
大阪市淀川区〈以下略〉
被告太陽工業株式会社
訴訟代理人弁護士美勢克彦
同平井佑希
訴訟代理人弁理士村松義人
同鈴木正剛
補佐人弁理士佐野良太
同栗下清治
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,
輸出し,輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡し
のための展示を含む。)をしてはならない。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,発明の名称を「空気浄化用シートおよびその製造方法」とする発
明の特許権者である原告が,被告が別紙物件目録記載の製品(以下「被告製
品」という。)を製造及び販売する行為が,原告の有する特許権の侵害に当
たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製
造,譲渡等の差止めを求めた事案である。
2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の
全趣旨により認められる事実である。)
(1)当事者
ア原告は,フッ素樹脂及び合成樹脂成形品等の製造,設計,販売等を業
とする株式会社である。
イ被告は,各種繊維工芸品の製造,加工及び販売,合成樹脂製品の設
計,製造及び施工等を業とする株式会社である。
(2)原告の特許権
ア原告は,平成7年3月16日,発明の名称を「空気浄化用シートおよ
びその製造方法」とする発明につき特許出願(特願平7−86343
号)をし,平成17年10月7日,特許第3728331号として特許
権の設定登録(請求項の数4)を受けた(以下,この特許を「本件特
許」,この特許権を「本件特許権」という。)。
イ本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりであ
る(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】ガラス繊維織物のガラス繊維の周囲にポリテトラフル
オロエチレン微粒子が連通した隙間のある多孔質状に付着されている
とともに,前記ポリテトラフルオロエチレン微粒子の隙間間に光触媒
粒子が保持されていることを特徴とする空気浄化用シート。」
ウ本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。
Aガラス繊維織物のガラス繊維の周囲に
Bポリテトラフルオロエチレン微粒子が連通した隙間のある多孔質状
に付着されているとともに,
C前記ポリテトラフルオロエチレン微粒子の隙間間に光触媒粒子が保
持されている
Dことを特徴とする空気浄化用シート。
エ明細書の記載事項
本件特許に係る願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明
細書」という。)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載があ
る(甲2)。
(ア)「【産業上の利用分野】この発明は,光の存在下で空気中の不純
物や細菌などを分解あるいは殺菌することのできる空気浄化用シート
であって,特にガラス繊維織物のガラス繊維の周囲にポリテトラフル
オロエチレン微粒子が連通した隙間のある多孔質状に付着されている
とともに,前記ポリテトラフルオロエチレン微粒子の隙間間に光触媒
粒子が保持されていることを特徴とする空気浄化用シートおよびその
製造方法に関する。」(段落【0001】)
(イ)「【従来の技術】近年,酸化チタンや酸化亜鉛の微粒子が持つ光
触媒作用を利用して空気中の窒素酸化物や臭気などの不純物を分解
し,あるいは細菌を殺菌することが研究されている。例えば,光触媒
微粒子を直接表面に焼き付けたタイルやガラス板がある。しかし,前
記光触媒微粒子をタイル表面などに直接高温で焼き付ける方法は,コ
ストが高い問題がある。しかも光触媒微粒子を焼き付けたタイルなど
を既存の室内に導入するには,タイルの貼り直しなどが必要となるた
め,多額の施工費用を必要とする問題がある。」(段落【0002
】),「その他,光分解し難い室温硬化型弗素系塗料に酸化チタン微
粒子を分散させたものを,種々の物品の表面に塗布することも提案さ
れている。しかし,この場合は,塗料が物品の表面に連続した塗膜を
形成し,酸化チタン微粒子が外気と接触するのが妨げられるため,そ
のままでは十分な光触媒作用が得られない。そこで,塗膜の表面を削
って酸化チタン微粒子を露出させることが考えられるが,そうすると
酸化チタン微粒子が脱落し易くなり,実用性に劣る問題がある。さら
に,市販の弗素系塗料は高価であるとともに,酸化チタン微粒子の光
触媒反応で徐々に分解し耐久性が十分とはいえない問題がある。」(
段落【0003】)
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】そこでこの発明は,耐久性に
優れ,しかも室内用品あるいはその他の物品に幅広く利用できる空気
浄化用シートであって,特にガラス繊維織物のガラス繊維の周囲にポ
リテトラフルオロエチレン微粒子が連通した隙間のある多孔質状に付
着されているとともに,前記ポリテトラフルオロエチレン微粒子の隙
間間に光触媒粒子が保持されていることを特徴とする空気浄化用シー
トおよびその簡単な製造方法を提供しようとするものである。」(段
落【0004】)
(エ)「前記第一および第二発明における光触媒微粒子としては,酸化チ
タン微粒子または酸化亜鉛微粒子,特にはアナターゼ型の酸化チタン
微粒子が好適である。」(段落【0006】),「この発明で使用さ
れる光触媒微粒子の粒度は,粉末を含むもので,適宜決定される。特
には,水性分散液(ディスパージョン)の塗布工程中に,水性分散液
中の光触媒微粒子が重力により急速に沈降しないよう,0.5ミクロ
ン以下のものが望ましい。なお,市販の光触媒活性酸化チタン微粒子
は,この条件を十分に満足する。」(段落【0007】),「また,
この発明で使用される水性分散液中のポリテトラフルオロエチレン(
以下PTFEと記す。)微粒子の粒度は,特に限定されるものではな
いが,前記水性分散液中での分散が良好になされ,しかも塗布後の焼
成により,前記光触媒微粒子をPTFE微粒子間に保持できるよう,
通常0.3ミクロン以下のもの,特には0.2ミクロン程度が好適で
ある。」(段落【0008】),「この発明の製造方法で使用され
る,前記光触媒微粒子とPFTE微粒子とを含む水性分散液(以下塗
布用分散液とも記す。)には,光触媒微粒子およびPTFE微粒子の
分散を容易かつ均一にするための界面活性剤が適宜含まれる。」(段
落【0009】),「前記塗布用分散液中の光触媒微粒子の量は,こ
の空気浄化用シートの用途などに応じて適宜決定されるものである
が,PTFE微粒子100重量部に対して光触媒微粒子5∼100重
量部が好ましい。この光触媒微粒子の比率がこれよりも多くなると,
塗布後のPTFE微粒子間に光触媒微粒子が多く介在してPTFE微
粒子どうしが直接接触せず,焼成後に光触媒微粒子が空気浄化用シー
トの表面の擦れなどにより脱落し易くなる。」(段落【0010
】),「塗布後の乾燥は,塗布された水性分散液中の水分および界面
活性剤を蒸発除去するためのもので,通常150∼250℃程度で行
なわれる。また,その後の焼成は,前記PTFE微粒子を結合させて
ガラス繊維周囲に多孔質状に付着させるとともに,そのPTFE微粒
子間に前記光触媒微粒子を保持するためになされる。この焼成温度
は,ガラス繊維が溶融する温度以下で,かつPTFE微粒子どうしが
結合する温度とされ,通常350∼450℃程度でなされる。この焼
成工程の終了により,所望の空気浄化用シートが得られる。」(段落
【0013】)
(オ)「【作用】この発明の空気浄化用シートにあっては,ガラス繊維
に多孔質状に付着したPTFE微粒子が,その粒子間に微細な連通孔
を形成し,その粒子間に光触媒微粒子が保持される。そのため,前記
空気浄化用シートに当たる光はPTFE微粒子間を通って光触媒微粒
子に至り,その光触媒微粒子の光分解反応を活性化させる。また前記
空気浄化用シート付近の空気も自然対流などにより前記PTFE微粒
子間を通って光触媒微粒子に至り,その光分解反応により悪臭などが
分解される。」(段落【0015】),「さらに,一般の有機材料
は,光触媒作用の強い酸化チタン微粒子などと接触した状態で光が当
たると,光分解作用によって短期間に劣化する。しかし,PTFEは
例外で紫外線によっても分解しない。そのため,PTFE微粒子と無
機材料であるガラス織物とを組み合わせたこの発明の空気浄化用シー
トにあっては,酸化チタン微粒子が多孔質状のPTFE微粒子間に存
在しても長期間に渡って劣化するおそれがない。加えて,この発明の
空気浄化用シートは,酸化チタン微粒子などの光触媒微粒子が,多孔
質状のPTFE微粒子間に保持されていて,空気浄化用シートから脱
落するおそれが少ないので,長期に渡って良好な光分解作用が得られ
る。」(段落【0016】),「しかも,この発明の空気浄化用シー
トは,難燃性に優れるガラス繊維の周囲に多孔質状に付着した前記P
TFEが,現存する合成高分子中でも最高の耐薬品性,耐熱性および
難燃性を備えるため,この発明の・・・空気浄化用シートについても
優れた耐薬品性,耐熱性および難燃性が得られる。」(段落【001
7】)
(カ)「【実施例】以下この発明の実施例について説明する。
図1はこの発明の空気浄化用シートの一例について,そのガラス繊維
周囲のPTFE微粒子結合状態および光触媒微粒子の保持状態を概略
的に示す拡大断面図である。なお,この図は概略図であって,ガラス
繊維12,PTFE微粒子13および光触媒微粒子14の大きさおよ
び数も正確なものではない。また,ガラス繊維12は,単繊維のみな
らず,複数本が束になった場合もある。」(段落【0018】),「
この図に示すように,この発明の空気浄化用シートであって,特にガ
ラス繊維織物のガラス繊維の周囲にポリテトラフルオロエチレン微粒
子が連通した隙間のある多孔質状に付着されているとともに,前記ポ
リテトラフルオロエチレン微粒子の隙間間に光触媒粒子が保持されて
いることを特徴とする空気浄化用シートは,ガラス繊維織物11を構
成するガラス繊維12の周囲にPTFE微粒子13が付着している。
そのPTFE微粒子13は互いに結合して,PTFE微粒子13間に
連通した隙間のある多孔質状となっており,前記隙間に酸化チタン微
粒子または酸化亜鉛微粒子からなる光触媒微粒子14が保持されてい
る。」(段落【0019】)
(キ)「【発明の効果】以上図示し説明したように,この発明の・・・
空気浄化用シートによれば,光があたる場所に置くだけでその周囲の
空気中に含まれる悪臭の除去,細菌などの分解などを行なうことがで
きる。しかも,布のようなシート状であるため,カーテン,仕切りな
どのスクリーン,電灯のカバー,自動車座席などの表皮材など,種々
の物品に利用することができる。」(段落【0028】),「さら
に,この発明の・・・空気浄化用シートは,紫外線や薬品に強い多孔
質状のPTFEによって光触媒微粒子が保持されているため,紫外線
に対する耐久性が高く,長期使用によってもPTFEの劣化がなく光
触媒微粒子の脱落がなく,長期に渡ってすぐれた空気浄化作用が得ら
れる。さらにPTFEは難燃性にすぐれ,しかもそのPTFEが付着
するガラス繊維も難燃性に優れるため,難燃性が要求される物品にも
好適である。」(段落【0029】)
(3)被告の行為
被告は,被告製品を製造し,販売している。
(4)被告製品の構成等
ア(ア)被告製品は,ガラス繊維織物の上に,ポリテトラフルオロエチレン(
以下「PTFE」という。)層,ガラスビーズを含有するPTFE層,テ
トラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下「
FEP」という。)層,二酸化チタン(TiO)を含有する層(以下「2
最外層」又は「最表層」という場合がある。)が順に積層された構成を
有している。
PTFEは,テトラフルオロエチレン(4フッ化エチレン)のみを
重合させた単独重合体(ホモポリマー)であり,FEPは,テトラフ
ルオロエチレン(4フッ化エチレン)とヘキサフルオロプロピレン(
六フッ化プロピレン)とを用いた共重合体である。PTFE及びFE
Pの各構造式は,別紙1のとおりである。
(イ)PTFEとFEPとは,熱的性質が相違し,PTFEの融点が3
27℃であるのに対し,FEPは270℃,PTFEの溶融粘度が1
0∼10(340℃∼380℃)ポアズであるのに対し,FEP1113
は(4×10∼10)(380℃)ポアズである(甲5,乙4の45
2)。
PTFEは,融点が高く,融点以上でも極めて高い溶融粘度を示
し,流動せず,普通は成形品中に微細な空孔すなわちボイドを残しや
すい(甲5,乙4の2)。
イ被告製品は,本件発明の構成要件A及びBを充足している。
被告製品の最外層に含有された二酸化チタン(TiO)は,「光触媒粒2
子」である。
3争点
本件の争点は,被告製品が,本件発明の構成要件をすべて充足し,本件発
明の技術的範囲に属するかどうかである。
第3争点に関する当事者の主張
1原告の主張
(1)被告製品の具体的構成
ア別添1記載の「被告製品の図面」(以下「別添1図面」という。)
は,被告製品(商品名「エバーファインコート」・0.8㎜厚のもの)
から採取した試料の断面写真(甲20の1の写真7。別添1に「被告製
品の写真」と記載のあるもの)を基にエッジ輪郭検出を行って作成した
図面である。
別添1図面の符号は,「1」が「繊維織物」,「2」が「繊維」,「
3」が「PTFEの層」,「4」が「微粒子」(PTFE微粒子),「
5」が「隙間」,「6」が「FEPの層」,「7」が「PTFE含有の
層」,「8」が「ガラスビーズ」,「9」が「TiO粒子」である。2
被告製品は,次のaないしiの構成を有する。構成中の符号は,別添
1図面中の符号に対応する。なお,別添1図面は,被告製品の片面側(
構成aないしf)に相当し,その最外層は「層7」である。
a繊維織物1の繊維2はガラス繊維である。
b繊維織物1の繊維2の一面側の最も近い周囲内側は,PTFE微粒
子4が付着し,部分的にガラスビーズ8含有のPTFEの層3であ
る。
cPTFEの層3の周囲外側は,FEPの層6である。
dFEPの層6の周囲外側は,PTFE微粒子4が付着してなるPT
FE含有の層7である。
e繊維織物1の繊維2の周囲外側のPTFE含有の層7にPTFE微
粒子4が付着した構造は,隙間5のある多孔質状の構造である。
fPTFE含有の層7を形成しているPTFE微粒子4の隙間5間に
光触媒粒子であるTiO粒子9が保持されている。2
g繊維織物1の繊維2の他面側の最も近い周囲内側は,PTFE微粒
子4が付着し,部分的にガラスビーズ8含有のPTFEの層3であ
る。
h前記gのPTFEの層3の周囲外側は,FEPの層6である。
i光触媒テント生地である。
イ以下に述べるとおり,被告製品の走査型電子顕微鏡(SEM)観察,
化学分析及び被告作成の竣工図等の記載を総合すれば,被告製品は,構
成aないしiの構成を有している。
(2)SEM観察
アPTFEとFEPは,①いずれもフッ素樹脂であるが,熱的性質が相
違し,PTFEの溶融粘度が10∼10ポアズと非常に高く,融点1113
を超えても芯の部分までがトロトロに溶融せず,固体として残るのに対

して,PTFE以外のFEPを含むフッ素樹脂は,その溶融粘度が10
∼10ポアズと低く,融点を超えると芯を残さずにトロトロに溶けるこ5
とからメルトタイプ(溶融タイプ)と呼ばれる,②それぞれの融点以下
において,PTFEは,PTFE特有の性質である溶融粘度の高さか
ら,固体形状を残した多孔質な構造となり,FEPはメルトタイプ特有
の性質で芯までトロトロに溶けるために,隙間を持たない緻密な構造と
なる。
PTFEとFEPには,このような物理的な構造の違いがあることか
ら,被告製品をSEM観察で検証することによって,PTFEを判別す
ることが可能となる。
そして,被告製品が構成aないしiの構成を有することは,以下に
述べるとおり,SEMを用いて撮影した被告製品の各写真(甲8,20
の1,2,21の1,2等)から確認することができる。
イ(ア)構成aについて
別添図面1において,繊維織物1,繊維2で示すように,繊維部分
が確認される。
当該繊維部分には,甲8の写真3で,赤色(小豆系赤色)で表示さ
れているケイ素(Si)原子が分布していることから,繊維織物1の繊
維2はガラス繊維であることが確認される。
また,甲21の2の「おもて面」のSEMに備えられたエネルギー
分散型X線分光装置で撮影した写真(以下「SEM−EDX写真」と
いう。)では,「電子顕微鏡像1」の繊維部分において,黄色で示し
た酸素原子(OKal),青緑色で示したアルミニウム原子(AlKal),
青色で示したケイ素原子(SiKal)及び青紫色で示したカルシウム原
子(CaKal)の存在を確認することができることからすると,繊維織
物1の繊維2がガラス繊維であると特定できる。
したがって,被告製品の繊維織物1の繊維2は,ガラス繊維として
存在する。
(イ)構成bについて
甲8の写真4で,フッ素(F)原子の分布が橙色(オレンジ系赤色)
のドットで表示されていることから,別添1図面に示す繊維織物1の
最も近い周囲内側にはフッ素樹脂の層が存在していることが確認され
る。
フッ素樹脂とは,フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成
樹脂の総称であり,通常,最も大量に生産されているPTFEをいう
ことは周知の事実である。また,PTFE微粒子は,元来,融点以上
の温度に加熱焼成しても液状にはならず,粒子状態を維持したまま,
それらの粒子表面の一部が接合し,連通したPTFEの隙間を有する
多孔体となる。
そして,甲21の2の「おもて面」のSEM−EDX写真では,「
電子顕微鏡像1」の写真に対応する繊維部分の上部位置に,赤色で示
した炭素原子(CKal2),緑色で示したフッ素原子(FKal2)の
存在を確認することができること,甲20の1の写真5(別添6,
7)に示すようにPTFE微粒子4が付着してなる多孔質構造を有し
ていることからすると,層3はPTFEと特定できる。
また,別添1図面に示すように,繊維織物1から離れた箇所に部分
的にガラスビーズ8が存在することから,ガラスビーズ8含有のPT
FEの層3であると特定できる。
一方,甲20の1の写真1ないし8(別添1ないし10)で,無数
の孔の隙間5が確認される。特に,甲20の1の写真5(別添6,
7)及び写真6(別添8,9)に示すように,隙間5は立体的な網目
状になっているから,それらの隙間5は,連通した隙間となる。甲2
0の1の写真6(別添8,9)のように,PTFE微粒子4が付着し
た構造及びTiO粒子9が保持される構造が,部分的に伸びて,刃物等2
による切断断面として現れることなく,そのままPTFE微粒子4が
付着して形成された形状として確認できるのは,多孔質状の隙間5の
ある空間構造が形成されているためである。
したがって,被告製品の繊維織物1の一面側の最も近い周囲内側
は,PTFE微粒子4が付着して形成されたPTFEの層3であり,
部分的にガラスビーズ8を含有するものとして存在する。
(ウ)構成cについて
一般に,FEPは,PTFEよりも低温下で柔軟性があるために,
試料を液体窒素で凍結させてから取り出し,直ちにそれを破断して
も,一部が伸びた状態となる。
甲21の1の写真16(別添11)の中央左側では,樹脂の一部が
伸びた状態となっていることから,写真16に示す層6がFEPであ
ると特定できる。
また,別添1図面で示すFEPの層6は,白色の線となって現れて
いることを確認することができる。当該FEPの層6は,厚みが一定
していない層である。
したがって,PTFEの層3の周囲外側には,均一化されていない
ものの,FEPの層6が存在する。
(エ)構成dについて
甲21の2の「おもて面」のSEM−EDX写真では,「電子顕微
鏡像1」の写真に対応し,赤色で示した炭素原子(CKal2),緑色
で示したフッ素原子(FKal2)の存在を確認することができるこ
と,甲20の1の写真6(別添8,9)に示すように層7は多孔質構
造であることからすると,層7は,PTFE微粒子4が付着して形成
されたPTFEであると特定できる。
殊に,PTFE微粒子4は,甲20の1の写真5(別添6,7)に
示すように,立体的に付着して多孔質状となっている。また,甲20
の1の写真6(別添8,9)に示すように,多孔質状を形成する網目
状の太さがTiO粒子9の保持によって太くなっている。2
したがって,FEPの層6の周囲外側には,PTFE微粒子4が付
着したPTFEの層7が存在する。
(オ)構成eについて
前述のとおり,PTFE微粒子は,元来,融点以上の温度に加熱焼
成しても液状にはならず,粒子状態を維持したまま,粒子表面の一部
が接合し,連通したPTFEの隙間を有する多孔体となる。
このPTFE微粒子4が付着してなる多孔質構造は,甲20の1の
写真5(別添6,7)におけるPTFEの隙間5のある構造から確認
することができる。
また,仮にPTFE微粒子4がPTFEの融点以上の温度において
焼成することによって溶解し,その後冷却固化することによって連通
した隙間5を有しない一体の樹脂となるものであれば,光触媒テント
生地1はその表裏間に空気を通さないことになる。
しかし,甲4の試験結果1に示されるように,被告製品の光触媒テ
ント生地1は空気を通過させるものであるから,光触媒テント生地1
が連通した隙間5を有する多孔質状のものであることは明らかであ
る。
そして,被告製品には,甲20の1の写真1ないし8(別添1ない
し10)に示すとおり,多くの孔の隙間5が形成されており,また,
甲20の1の写真6(別添8,9)に示すように,それらは立体的な
網目状であり,当然の帰結として多くの隙間5は連通することにな
る。
したがって,繊維織物1の繊維2の周囲外側にあるPTFE微粒子
4が付着してなるPTFEの層7の構造は,隙間5のある多孔質状と
して存在する。
(カ)構成fについて
甲8の写真5で,チタン(Ti)原子が分布する部分が紫色で表示さ
れていることから,チタン原子の存在が明らかである。
甲21の2の「おもて面」のSEM−EDX写真では,「電子顕微
鏡像1」の写真に対応し,黄色で示した酸素原子(OKal),紫色で示
したチタン原子(TiKal)が存在することを確認することができるこ
とから,少なくとも,外側のPTFEの層7にチタン原子(Ti)及び
酸素(0)原子が存在することが明らかである。
甲20の1の写真6(別添8,9)を見ると,略球形の約0.03
∼0.08μmの粒子が写っている。この粒子は,白っぽく写ってい
るPTFE微粒子4が付着してなる構成体と異なり,略球形の約0.
03∼0.08μmの粒子がチタン原子及び酸素原子を含むTiO粒子2
である。これらのTiO粒子9は,繊維織物1の繊維2の周囲外側のP2
TFEの層7のPTFEの表面に接合され,PTFEの層7の隙間5
間に保持されている。
殊に,甲21の2の「おもて面」のSEM−EDX写真から,「電
子顕微鏡像1」の繊維織物1の繊維2の周囲の内側がPTFEの層3
及び外側がPTFEの層7となってはいるものの,チタン原子が存在
しているのは,被告製品の周囲外側のPTFEの層7側のみである。
すなわち,「TiKal」の写真から,繊維織物1の繊維2の周囲外側
のPTFEの層7にのみTiO粒子が存在していることが確認される。2
念のため,甲20の1の写真4(別添5)にほぼ対応する「電子顕
微鏡像1」と,その「おもて面」のSEM−EDX写真(甲20の
2)による紫色で示したチタン(Ti)原子の存在との関係には,チタ
ン原子のエネルギーの大きさは,その奥行きのエネルギーの積分値の
影響があるから,「TiKal」の紫色で示したチタン原子のドットと「
電子顕微鏡像1」の写真表面の形状との間に特定の関係はない。
しかし,「TiKal」のSEM−EDX写真から鮮やかな紫色のみを
抽出し,「電子顕微鏡像1」に重ね合わせた合成写真(別添12)に
よれば,TiO粒子9が存在するのは,PTFEの層7のみである。2
したがって,PTFE微粒子4の隙間5間にTiO粒子9が保持され2
ているPTFEの層7が存在する。
(キ)構成gについて
甲21の2の「うら面」のSEM−EDX写真では,「電子顕微鏡
像1」の写真の繊維部分において,黄色で示した酸素原子(OKal
),青緑色で示したアルミニウム原子(AlKal),青色で示したケイ
素原子(SiKal),青紫色で示したカルシウム原子(CaKal)が存在
することを確認することができることから,繊維織物1の繊維2がガ
ラス繊維であると特定できる。
その繊維織物1に近接して繊維部分の上部位置に,赤色で示した炭
素原子(CKal2),緑色で示したフッ素原子(FKal2)の存在を
確認することができること,甲21の1の写真12に示すように,P
TFE微粒子4が付着してなる多孔質構造を有していること,甲21
の1の写真12に示すように繊維織物1から離れた箇所に部分的にガ
ラスビーズ8が存在することからすると,ガラスビーズ8含有のPT
FEの層3であると特定できる。
したがって,繊維織物1の他面側の最も近い周囲内側は,PTFE
微粒子4が付着したPTFEの層3であり,部分的にガラスビーズ8
を含有するものとして存在する。
(ク)構成hについて
甲21の1の写真12で示すFEPの層6は,白色の線となって現
れている。また,甲21の1の写真12は,その生地面が平坦な面を
呈している。甲21の1の写真11ないし13の裏面と,同一倍率の
写真14ないし16の表面とを比較すると,写真14ないし16の生
地の裏面はほとんど隙間が存在していないが,写真11ないし13の
生地の表面には無数の隙間が存在している。
したがって,PTFEの層3の周囲外側,すなわち,生地面の露出
面である裏面にFEPの層6が存在する。
(ケ)構成iについて
甲20の1の写真6(別添8,9)及び写真8(別添10)に示す
ように,多孔質状の構造を有するPTFEの層にTiO粒子を保持さ2
せ,それをテント生地の表層に使用している。このことは,テント生
地に光触媒反応を期待するものであることは明らかである。
したがって,光触媒テント生地と特定できる。
(3)化学分析
アDSC分析
(ア)甲29は,被告製品について名古屋市工業研究所が行った示差走
査熱量計(DSC)による測定結果の平成21年8月26日付け成績
書である。
a試料採取
被告製品のDSC分析の試料採取の方法は,次のとおりである。
被告製品であるエバーファインコート(0.8mm厚)のTiOを2
含んだ最外層(別添1図面の層7に相当)を採取するために,第2
層目のFEP層(別添1図面の層6に相当)を軟化させ,第2層目
の一部が最外層に付着している状態で採取した。
すなわち,被告製品をホットプレートに載せて,非接触赤外線表
面温度計で加熱温度雰囲気中の表面温度を測定しながら加熱し,P
TFEの融点(327℃)とFEPの融点(270℃)の中間温度
の300℃に維持し,最外層の表面をヘラ(スパチュラ)で剥がし
た。
このような方法で採取したのは,被告製品に柔軟性があり,か
つ,表面に起伏があり,ミクロトームのような切削方法では,最外
層と第2層目だけでなく,第3層目のPTFE層(別添1図面の層
3に相当)まで切削し,それが試料に混入されるおそれがあったか
らである。
こうして,最外層(3μmの厚み)の試料をヘラで剥がすことが
できたが,最外層の下部の第2層目はFEP層であり,融点が低く
流動性が高い(溶融粘度小さい)ことから,最外層の下部の一部に
接着した状態で剥離されている。したがって,採取した試料は,最
外層(3μm)のTiOを含んだフッ素樹脂成分に第2層目(8μ2
m)のFEPを加えた成分となる。
試料を採取した後の被告製品の表面をSEMで観察し(甲30の
写真50ないし56),第3層目のPTFEが混入していないこと
を確認した。
b測定結果
(a)別紙2に示すように,採取した試料において,323℃付近
にPTFE由来の融解による吸熱ピーク(「322.8℃」・融
解熱量「0.24mJ/mg」)が検出され,被告製品の最外層
にPTFEの存在を確認した。
フッ素樹脂の中で融点温度が320℃以上のものは,PTFE
以外に存在しないので,この吸熱ピークは,PTFE由来のもの
である。
なお,比較試料として,重量比で,次の7点の測定を行った。
①PTFE:TiO=100:152
②FEP:TiO=100:152
③PTFE:FEP:TiO=80:20:152
④PTFE:FEP:TiO=50:50:152
⑤PTFE:FEP:TiO=20:80:152
⑥FEP:TiO=100:302
⑦エバーファインコート(被告製品)
(b)この吸熱ピークの融解熱量0.24mJ/mg(0.24J
/g)は,PTFEの吸熱ピークとして小さいようにも思える
が,その原因は,①FEP等による希釈,②結晶部分の割合,結
晶化度が低いことが考えられる。
すなわち,被告製品から採取した試料は,最外層とFEP層の
2層からなっていることからすると,最外層に存在するPTFE
の存在分率はFEP等により薄められていることは確かである。
また,0.24J/gは混合物1g当たりの値であり,PTFE
が10%であればPTFE1g当たり2.4J/gとなる。この
ようなFEP等による希釈により,試料中におけるPTFEの含
有率10%程度となることは十分考えられる。
次に,PTFE1g当たりの融解熱量2.4J/gは,結晶化
度4%(表中の式で計算)という低い結晶化度に相当する。この
事実(結晶化度の低さ)は,試料の融点が通常のPTFEより4
℃も低いことから十分信頼がおける結果である。また,対象とな
っている被告製品の最外層は,1/1,000mmというμmの
世界であり,表面部位は結晶化度が非常に低いことは学会におい
て広く認められている事実である。
いずれにせよ,被告製品の最外層におけるPTFEの20%程
度の存在は明らかである。
(イ)以上のとおり,甲29のDSC分析によれば,PTFE由来の融
解による吸熱ピークがみられ,被告製品の最外層がPTFE含有の層
7を形成していることを示している。
したがって,被告製品の最外層にはPTFEが相当量存在してい
る。
イTG−DTA分析
(ア)甲49は,愛知県産業技術研究所作成の「エバーファインコー
ト」(被告製品)を試料とする「示差熱分析,熱天秤試験」の成績
書,甲50は,同研究所作成の「FEP(100)+TiO(15)」を試2
料とする同成績書,甲51は,同研究所作成の「PTFE(100)+T
iO(15)」を試料とする同成績書である。2
また,甲52は,A工学博士(以下「A博士」という。)による「
TG−DTA試験結果についての見解書」である。
a甲49の示差熱分析(DTA)の測定結果には,別紙3−1に示
すように,249.7℃のところに窪み(吸熱ピーク)があり,ま
た,363.7℃のところにも窪み(吸熱ピーク)がある。前者は
FEPの融解ピークであり,後者はPTFEの融解が関与してい
る。その後,温度上昇に伴い,だらだらと上り勾配となり,45
5.2℃と482.2℃と543.8℃のところに三つの大きな
山(発熱ピーク)がみられる。
これは,まず,FEPのトリフルオロメチル基−CFが酸化分解3
され,次いで,トリフルオロメチル基−CFが切り離された炭素が3
酸化され,最後に,4フッ化エチレン構造の炭素が酸化分解されて
いったものとみられる。この543.8℃の山(発熱ピーク)は,
FEPのものより10℃程高くなっており,この現象はPTFEの
4フッ化エチレン構造の分解による発熱であることは明確な事実で
ある。
被告製品のエバーファインコートのDTAの測定結果の山(発熱
ピーク)の形は,甲50の「FEP(100)+TiO(15)」の山(2
発熱ピーク)に甲51の「PTFE(100)+TiO(15)」の山(2
発熱ピーク)が加わって隆起した形になっており,その形から相当
量のPTFEが含まれていることが分かる。
b甲49の熱天秤試験(熱重量測定)(TG)の測定結果による
と,被告製品においては,別紙3−2に示すように,重量減少の曲
線において明らかに4段階(A,B,C,D)で変化していること
が分かる。
別表1は,各段階の「温度範囲」において傾きが急になる温度
を「減少開始温度」とし,それぞれの減少が終了し,傾きが最小に
なる温度をそれぞれの「減少終了温度」とし,「減少開始温度」か
ら「減少終了温度」の温度範囲で減少した重量を「重量減少量」欄
に記載した分析表である。
試料に含まれている成分が低分子有機物系のものは高分子に比し
分解しやすく,また,TiOの無機物は600℃でも吸熱や分解が起2
きていない。特に,FEPは側鎖CFのついたC−C結合,次にそ3
の隣のC−C結合,最後に4フッ化エチレン構造のC−C結合の順
に切断される。実際は酸化反応が寄与するので,その順に切断が起
きる。いずれにせよ,FEPがPTFEより分解しやすくなるの
は,別表1が示すように,TGの測定結果からも明らかである。
そして,TG−DTAの測定結果によれば,被告製品の最外層に
PTFEが約30%存在していることになる。
c甲51の「PTFE(100)+TiO(15)」の試料では,別紙52
に示すように,DTAの測定結果から,322.9℃のところに吸
熱ピークの窪みがあり,540℃付近に発熱ピークの山がある。こ
れは,322.9℃のところでPTFEが融解して熱を吸収し,そ
の後,徐々に酸化されて発熱し,TGの測定結果に示されるように
400℃付近からPTFEが酸化分解されて重量減少が生じたもの
である。
一方,甲50の「FEP(100)+TiO(15)」の試料では,別2
紙4に示すように,267.3℃のところに窪み(吸熱ピーク)が
あり,460.1℃,481.1℃及び534.0℃のところに三
つの大きな山(発熱ピーク)がある。これは,まず,267.3℃
のところでFEPが融解し,その後,徐々に酸化され,350℃付
近からTGの測定結果に示されるように重量減少が生じてくる。こ
の分解開始温度は,「PTFE(100)+TiO(15)」に比べて約2
50℃低く,これはFEPのトリフルオロメチル基−CFがPTF3
Eの4フッ化エチレン構造よりも分解されやすいためである。次い
で,トリフルオロメチル基−CFが切り離された炭素が酸化され,3
最後に,4フッ化エチレン構造の炭素が酸化分解されていったもの
とみられる。534.0℃のところの山(発熱ピーク)の位置はP
TFEの発熱ピークの山の位置に近い。厳密にはPTFEより10
℃以上低温であり,FEPの4フッ化エチレン構造部位はPTFE
のそのものに比して,分解されやすいことを示している。また,F
EPの方がPTFEよりも酸化分解されやすいため,TGの測定結
果の重量減少の終点が「PTFE(100)+TiO(15)」の試料に2
比し,20℃程度低温となっている。
(イ)以上のとおり,TG−DTA分析から被告製品の最外層に相当量
のPTFEが存在していることが確認された
ウラマン分光分析
甲46は,株式会社東レリサーチセンター(以下「東レリサーチセン
ター」という。)が行った被告製品のラマン分光分析の結果報告書(報
告№N204779))である。
このラマン分光分析の測定結果のラマンスペクトルを微分することに
よって,被告製品のエバーファインコートの最外層に相当量のPTFE
が存在することを確認した。
すなわち,甲41のA博士による「ラマンスペクトルについての見解
書(1)」に示すとおり,甲46のラマンスペクトルの深さ1μm∼5
μm部分を波数730cm近傍について拡大し,ピークの多重性につ−1
いて検討したところ,エバーファインコートの最外層のラマンスペクト
ルには,PTFEの波数に相当する位置(甲46の「Table.1」の標本「
PTFE」の散乱波数)に,明らかに散乱の肩がある。
そこで,これらのスペクトルを正確に解析するために,これらのスペ
クトルの微分曲線を描くと,2つのピークがより顕著に見出された(甲
41のfig.5∼fig.9−色線D1μm∼5μm)。
ここで,二つのピークのうち,ピーク①は微分したFEP100%(
−色線DFEP100%)のピークに近く,ピーク②は微分したPT
FE100%(−色線DPTFE100%)のピークに近く,それぞれ
二つピークがFEP100%及びPTFE100%のピークとほぼ一致
していることが確認される。
したがって,これらのスペクトルは,PTFEのスペクトルとFEP
のスペクトルとが合成されたものであり,被告製品の最外層に30%の
PTFEが存在していることが明らかである。
エFT−IR分析
(ア)甲27の2は,東レリサーチセンター作成の「フーリェ変換赤外
分光(FT−IR)(速報)」の結果報告書である。
甲27の2には,被告製品について,「①:劣化層(最外層)のFT
−IR−ATRスペクトルを測定した結果,PTFEに由来したC−
F伸縮振動(1209∼1153cm付近)以外に,FEPに特徴的−1
なCF骨格振動に由来した吸収が981cm付近に検出された。フ3
−1
ッ素樹脂クロス劣化層には,PTFEのほかFEPが存在することが
分かった。」との記載がある。
上記記載によれば,「PTFEに由来したC−F伸縮振動(1209
∼1153cm付近)」が検出され,「フッ素樹脂クロス劣化層に−1
は,PTFEのほかFEPが存在することが分かった。」というので
あるから,被告製品の最外層にPTFEが存在することを示してい
る。
(イ)甲27の2の「図1」(別紙6)及び「資料1」(別紙7)によ
れば,被告製品では,最外層の「FEPに特徴的なCF骨格振動に由3
来した981cm付近」の吸収強度が,FEP100%のものに比−1
べて約半分程度しか現れていない。このことは,被告製品は,PTF
Eに希釈されていることを示すものである。
そして,上記CF骨格振動の吸収強度比から,被告製品の最外層の3
PTFEの存在比率を計算した結果,被告製品におけるPTFEの存
在比率は40%であった。
したがって,FT−IR分析からも,被告製品の最外層に相当量(
30%)のPTFEが存在することが確認された。
オ小括
以上のとおり,被告製品について,①DSC分析及びTG−DTA分
析により,PTFEの融点において吸熱ピークが確認され,PTFEの
重量減少温度域において重量減少が確認されたことにより,重量減少量
から最外層に約30%のPTFEの存在が確認されたこと,②ラマン分
光分析により,PTFEのラマン散乱波数域に散乱ピークが確認され,
FEPのラマン散乱波数域における散乱強度の深さ依存性から30%の
PTFEの存在が確認がされたこと,③FEP(CF)のFT−IR−3
ATRスペクトルにより,FT−IR−ATR吸収波数域における吸収
強度の深さ依存性から30%以上のPTFEの存在が確認されたこと,
以上①ないし③のいずれの化学分析によっても,被告製品について,相
当量のPTFEの存在が確認された。
そして,被告製品についての上記化学分析は,被告製品の最外層(層
7)が構成dないしfの構成を有していることを裏付けている。
(4)被告作成の竣工図等の記載
ア被告は,被告作成の公共施設の竣工図,被告が運営するウェブサイ
ト,被告作成のカタログ等において,被告製品の最外層は酸化チタン含
有のPTFE層であることを表示する一方で,最外層が酸化チタン含有
のFEP層であることを表示していない。このように被告自らが,被告
製品の最外層にはPTFEが相当量存在していることを明らかにしてい
る。
(ア)甲28
甲28の公文書部分公開決定通知書に係る滋賀県守山市のJR守山
駅西口シェルター建築工事の竣工図図面では,被告製品の最外層につ
いて,「四フッ化エチレン樹脂」と記載され,PTFE使用の記載が
ある。
一方,テント膜材を張り合わせて熱溶接するときに使用する溶着
剤(接着材)は,「FEPフィルム」との記載がある。
このように,被告は「PTFE」と「FEP」という用語を明確に
区別して使用している。
(イ)甲32
甲32の刈谷市公文書部分公開決定通知書に係る刈谷市総合運動公
園多目的グラウンド増築(建築)工事の竣工図では,被告製品の最外
層について,「四フッ化エチレン樹脂+酸化チタン光触媒粒子」と記
載され,PTFE使用の記載がある。この竣工図では,被告製品の表
裏両面が酸化チタン光触媒粒子を含有する最外層になっている。ま
た,「膜材製作施工要領書」には,膜材を接合する際の「溶着材」
は「FEPフィルム」であること(表2−1)が記載され,更に,F
EPが四フッ化エチレンと六フッ化プロピレンの共重合樹脂であるこ
と(表2−4)も記載されている。
(ウ)甲3の2
甲3の2の被告ホームページの酸化チタン光触媒膜材の説明におい
て,最外層について「PTFE+酸化チタン」(図1)と記載され,
最外層にPTFE使用の記載がある。
(エ)甲16等
2008年(平成20年)1月31日発行の被告のカタログ「西日
本駅施設へのご提案」である甲16には,被告製品の最外層は「四フ
ッ化エチレン樹脂+酸化チタン(TiO2)光触媒粒子」と記載さ
れ,最外層にPTFE使用の記載がある。
なお,甲33の1の1の公文書開示決定通知書に係る京都府京田辺
市の2007年三山木駅バス乗り場通路屋根(テント膜材)の設計図
書及び関連仕様書では,被告製品の最外層について,「フッ素樹脂+
酸化チタン光触媒微粒子」と記載されており,「フッ素樹脂」と記載
されている例もある。一方で,テント膜材を張り合わせて熱溶接する
ときに使用する溶着剤(接着材)は「FEPフィルム」との記載があ
るように,「フッ素樹脂」と「FEP」という用語を区別して使用し
ている。
イ被告の主張に対する反論
被告は,被告製品の光触媒粒子が含まれている最外層には「FEPの
み」が使用されていると主張している。しかし,原告が調べた範囲で
は,この「FEP+光触媒粒子」の被告製品及び「FEP+光触媒粒
子」と表現された被告製品の説明書は皆無であった。
前記アのとおり,被告は「PTFE」と「FEP」という用語を厳格
に区別して使用し,京田辺市三山木駅の事例の最外層については,PT
FEを含有しているという点で,その上位概念を用いて「フッ素樹脂+
酸化チタン光触媒微粒子」(前記ア(エ))と記載している。
また,甲16の被告のカタログ(5,6頁)に「四フッ化エチレン樹
脂+酸化チタン(TiO2)」で光触媒反応等の原理(光触媒反応シス
テム)が記載されているが,これは,FEPで説明することはできな
い。
したがって,被告は,「PTFE」,「FEP」及び「フッ素樹脂」
という用語の違いを普通に使い分けていることから,インターネットの
ウェブページや公共施設向けのカタログ,ましてや,役所へ提出した複
数事例の竣工図図面に「誤記載」をすることは常識的にはあり得ない。
これらの被告の常套的な記載表現から,被告が最外層は「PTFE」
と記載している場合,PTFEを使用していることは勿論のこと,「フ
ッ素樹脂」と記載している場合でもPTFEを使用していると解釈する
のが合理的である。
以上によれば,被告が被告製品の最外層について,「PTFE+酸化
チタン」と記載している場合には「PTFEと酸化チタン」のみを使用
し,「フッ素樹脂+酸化チタン」と記載している場合には「PTFEと
FEPの混合物+酸化チタン」を使用していると解釈するのが合理的で
ある。
(5)構成要件充足性
ア構成要件A及びBの充足
被告製品の構成aないしdによれば,被告製品は,繊維織物1の繊維
2がガラス繊維からなり,そのガラス繊維織物のガラス繊維の周囲にP
TFE微粒子4が付着したPTFE含有の層7が形成されているか
ら,「ガラス繊維織物のガラス繊維の周囲にポリテトラフルオロエチレ
ン微粒子」が付着している。
そして,被告製品の構成e(「繊維織物1の繊維2の周囲外側のPT
FE含有の層7にPTFE微粒子4が付着した構造は,隙間5のある多
孔質状の構造である。」との構成)には,PTFE含有の層7にPTF
E以外の例えば,FEP等の混合物であっても,PTFEの本来の特徴
である成形品中に微細な空孔(ボイド)が存在するという構造及び繊維
織物1の周囲にPTFE微粒子4が多孔質状に付着されるという作用効
果がそのまま生かされているから,被告製品においては,前記ポリテト
ラフルオロエチレン微粒子が「連通した隙間のある多孔質状に付着」し
ている。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件A及びB(「ガラス繊
維織物のガラス繊維の周囲に」「ポリテトラフルオロエチレン微粒子が
連通した隙間のある多孔質状に付着されている」構成)を充足する。
イ構成要件Cの充足
TiO粒子が光触媒粒子としての機能粒子であり,かつ,被告製品の構2
成e及びfによれば,PTFE含有の層7がPTFE以外の例えば,F
EP等との混合物であっても,PTFEの本来の特徴である成形品中に
微細な空孔(ボイド)の存在が失することなく,しかも,「防汚効果」
を奏するという作用効果もそのまま生かされ,PTFE含有の層7を形
成している多孔質状に付着されているPTFE微粒子4の隙間5間に当
該TiO粒子9が保持されているから,被告製品は,本件発明の構成要件2
C(「ポリテトラフルオロエチレン微粒子の隙間間に光触媒粒子が保持
されている」構成)を充足する。
ウ構成要件Dの充足
本件明細書の段落【0001】,【0015】,【0028】の記載
によれば,本件発明の構成要件Dの「空気浄化用テント」にいう「空気
浄化」とは,光の存在下で空気中の不純物や細菌などを分解あるいは殺
菌する防汚効果機能をいい,屋外に使用する屋根等の建築物に使用する
場合も当然に含まれる。
そして,被告製品の構成iの「光触媒テント生地である」は,「空気
中の有害汚染物質(NOx)を分解して,空気を浄化」する効果を奏す
るから(甲3の1),本件発明の構成要件Dの「空気浄化用シート」に
該当する。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Dを充足する。
エまとめ
以上によれば,被告製品は,本件発明の構成要件AないしDをすべて
充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。
したがって,被告による被告製品の製造及び販売は,本件特許権の侵
害に当たる。
2被告の主張
(1)被告製品の具体的構成の主張に対し
ア被告製品の最外層が原告主張の構成dないしfの構成を有すること
は,否認する。
被告製品における二酸化チタン(TiO)を含有する最外層(原告主張2
の層7)は,以下に述べるとおり,PTFE含有の層ではなく,FEP
の層である。
(ア)被告製品は,中興化成株式会社(以下「中興化成」という。)が製
造販売している製品である「チューコーフロースカイトップ」の最外
層に,中興化成に依頼して,「FEP,TiO,界面活性剤」からなる2
ディスパージョンを塗布・焼成した製品である。
被告製品の代表的構成は,最外層より順に,①光触媒酸化チタン含
有FEP層,②FEP層,③ガラスビーズ含有PTFE層,④PTF
E層,⑤ガラス繊維織物,⑥PTFE層,⑦ガラスビーズ含有PTF
E層,⑧FEP層,⑨光触媒酸化チタン含有FEP層の9層で構成さ
れている。
「チューコーフロースカイトップ」は,接合性を高めるために,そ
の最外層(上記②及び⑧)にFEPを薄く塗布している。これは,F
EPの方がPTFEよりも融点が低く,溶融粘度が低いため接合性が
良いこと,被告製品の最外層を製品同士を接合する際に挟むFEPフ
ィルムと同物質とした方が接合性が良いことによる。
(イ)このように「チューコーフロースカイトップ」は,前記(ア)②な
いし⑧の構成からなる膜材料製品であり,この膜材料製品に光触媒酸
化チタンの機能を付加するために,その最外層(前記(ア)②及び⑧)
の両面(前記(ア)①及び⑨)又はその片面に「FEP+TiO」のディ2
スパージョンを塗布・焼成したものが被告製品である。
イなお,酸化チタン粒子がFEPで覆われていた場合であっても,光触
媒反応が発現することは,被告製品の最外層に使用されているFEPデ
ィスパージョンを用いて調整した「FEP+TiOのフッ素樹脂分散2
液」(FEP:TiOの比率は87:13)をスライドガラスに塗布・焼成2
し,紫外線を照射して硝酸銀試験を実施した結果,光触媒効果が得られ
たこと(乙30)から確認している。
(2)SEM観察の主張に対し
ア原告は,被告製品のSEM写真から,二酸化チタン(TiO)を含有す2
る最外層(原告主張の層7)には,PTFEが相当量存在し,PTFE
微粒子の隙間間にTiO微粒子が保持されている構成(構成dないしf)2
を読み取ることができる旨主張する。
しかし,後記のとおり,被告製品について原告及び被告がそれぞれ行
ったラマン分光分析,DSC分析などの化学分析の結果からは,被告製
品の最外層に相当量のPTFEが存在することは一切明らかにされてお
らず,かえって被告製品の最外層のフッ素樹脂はFEPであるのと結果
が得られており,原告の上記主張は,上記化学分析の結果と相反するも
のであって,そもそも失当である。
イ原告が被告製品のSEM写真から被告製品の最外層(層7)にPTF
Eが相当量存在することを読み取ることができることの根拠として挙げ
る点は,PTFEとFEPには,PTFEはPTFE特有の性質である
溶融粘度の高さから固体形状を残した多孔質な構造となり,FEPはメ
ルトタイプ特有の性質で芯までトロトロに溶けるために隙間を持たない
緻密な構造となるという物理的な構造の違いがあること,被告製品の最
外層は多孔質構造であることからすると,被告製品の最外層は,PTF
E微粒子が付着して形成されたPTFEであるいうものである。
しかし,原告の写真撮影方法は,被告製品の片側にメスで切り込みを
入れた上で,液体窒素中で凍らせて取り出し,割った断面を写真撮影し
たというものであるが,このような写真撮影方法は,被告製品の断面の
正確な状態を撮影できる方法ではない。
すなわち,フッ素樹脂は,使用できる温度範囲が非常に広く,極低温
域においても使用可能なことを特性とする物質であり,液体窒素を用い
ても完全には固まらず,柔軟性を示すことからすれば,液体窒素中で凍
らせたとしても,「割る」際の外部力により,断面は変形(せん断,引
張)してしまうのであり,形態観察のための試料作製方法として,「割
断」は不適切である。まして,液体窒素中で凍らせた後に,一旦取り出
して,「割断」するのは論外の手法である。現に,甲20の1の写真3(
別添4)には,各層において,割断の際の外力による断面の変形が生じ
ていることを見て取れる。また,甲20の1の写真5(別添6)に写っ
ている隙間(ボイド)は,PTFEが引っ張られたことにより生じる「ミ
クロフィブリル」であって,PTFEの特徴である網目状の多孔質状態
であるとはいえない。
ウさらに,甲20の1の写真6(別添8)を見ても,どこがPTFE
か,TiOか,さらにはPTFEの隙間(ボイド)がTiOを保持している22
様子であるのか,特定することはできない。
FEPがPTFEとは異なり,ボイドを形成し難い物性,特性を持つ
ことはそのとおりであるが,被告製品の最外層は,FEPに相当量のTiO
を混入させ,更に界面活性剤を入れたディスパージョンを塗布・焼成し2
て形成するのであり,その際に,どのような状態になっているのかは,
不明である。
また,原告提出の合成写真(別添12)は,SEM写真と元素分析結
果の写真を「PaintShopPro」という市販の画像編集ソフトウェアで色
を塗り重ねただけであり,マッピングの結果では,TiとFはほぼ同一箇所
に検出されているため,どの位置がどこに重なるのかは不明であり,TiO
がフッ素樹脂で覆われているのかも全く不明であるにもかかわらず,任2
意かつ恣意的に色塗りをしたに過ぎず,色塗りをした部分がTiOである2
根拠はない。
(3)化学分析の主張に対し
アラマン分光分析
(ア)被告製品についてラマン分光分析を行った分析結果は,原告の分
析結果(甲26,46)も,被告の分析結果(乙3)も全く同じ結果
を示している。
すなわち,被告製品の最外層には,①FEP固有の750cm付近の-1
ピークが見られる,②732cm付近のピークがPTFEより低波数側-1
に存在するというものであり,これによれば,被告製品の最外層は,
FEPである。
また,甲26(東レリサーチセンター作成のラマン分光分析の結果
報告書(報告№N204764))では,深さ方向に3ライン,最
外層の水平方向に1ラインの計4ラインのラマン分析を行っている
が,そのうち,最外層の測定を行った65箇所のいずれからも,PT
FEが検出されなかった。
さらに,乙3のラマン分光分析のラマンスペクトルについて,より
詳細なデータ解析を行うために,FEPとPTFEPの標準スペクト
ルを用いて波形分離解析(乙35)を行った結果,被告製品の最外
層(0∼9μmの層)は,PTFEが一切含まれていないFEP層であ
った。
(イ)甲47(東レリサーチセンター作成のフッ素樹脂(標品)の分析
の結果報告書(報告№N204883))の「Table.1ラマンバ
ンドパラメーター」の表は,FEPの標準スペクトルにPTFEの標
準スペクトルを10%,30%,50%,70%の比率で合成させた
際の着目した各パラメーターの変化をまとめたものであるが,この表
から,下限の10%であっても,PTFEが存在することが,十分「視
認」できる。まして,波形分離解析(乙35)によれば,より明瞭に
判別できるのであり,ラマン分光分析であっても,数%程度PTFE
が存在すれば十分に検出可能である。
それにもかかわらず,前記(ア)のとおり,被告製品の最外層からP
TFEは一切検出されていない。
イDSC分析
(ア)被告が行った被告製品のDSC分析(乙26)では,昇温・降温
速度5℃/分及び20℃/分のいずれの条件でも,PTFEの融解ピ
ークは一切検出されなかった。
PTFEを0.1%混入させたサンプルで,かつ,融解ピークの小さ
く検出される昇温・降温20℃/分という条件下でも,DSC分析な
らPTFEを検出可能である(乙27)。
したがって,被告製品の最外層には,0.1%未満のPTFEも存在
しない。
(イ)原告が行った被告製品のDSC分析(甲29,38)は,基本的
には,被告の実験結果と異ならないが,原告は,昇温・降温5℃/分
というベースラインが荒れやすい条件で測定した結果生じた,わずか
なノイズをPTFEの融解ピークであると主張しているに過ぎない。
また,仮に原告のDSC分析結果のノイズをPTFEの融解ピーク
であると見ても,その量は1%にも満たないのであり,それは原告の
試料採取方法に由来するものであり,第3層のPTFE+ガラスビー
ズ層のPTFEが混入したとしか思われない。
すなわち,原告のDSC分析用試料の採取方法は,設定温度400
℃という,FEPの融点275℃はもとより,PTFEの融点327
℃よりも更に70℃以上も高温にして,金属のヘラで被告製品の最外
層を刮げ取ったものであり,かかる高温の設定では,被告製品の最外
層や,その下層のFEP層はいうに及ばず,そのさらに下層のPTF
E層をも溶融し,採取してしまう可能性が高い。このことは,原告が
被告製品の最外層からDSCサンプルを採取した後の被告製品の写真
として提出した,甲30の写真50(別添「写真50」)を見ると,
ガラスビーズが取れている様子が写されていることでも明らかであ
る。
(ウ)原告は,甲29のDSC分析の試料では,PTFEの結晶化度が
低かったため,吸熱ピークの融解熱量が小さかった旨主張する。しか
し,PTFEは「結晶性高分子」などと呼ばれることもあるほど,本
来結晶化し易い性質を持ち,PTFEの結晶化度は,極端に水中で急
冷する場合などであっても,結晶化度を約46%以下にすることは困
難である。通常PTFE製品の結晶化度は40%ないし80%とされ
ており,原告主張の結晶化度4%程度というのは技術常識に反する。
(エ)以上のとおり,被告のDSC分析結果からも,原告のDSC分析
結果からも,被告製品の最外層はFEPであり,PTFEは含まれて
いないことは明らかである。
ウTG-DTA分析
甲49には,TG-DTA測定用の試料について,その採取方法が全く
記載されておらず,DSC分析と同様の方法で試料を採取しているので
あれば,PTFEが混入した可能性が高い。
甲49のTG-DTA分析のDTAチャート(別紙3−1)を見ると,
PTFEであれば327℃付近にあるはずの吸熱ピーク(下向きの凸)
がなく,甲49の試料はPTFEではないことを示している。
また,甲49のDTAチャートと甲50のFEPのDTAチャート及
び甲51のPTFEのDTAチャートを対比すると,甲49のDTAチ
ャートの肩の位置は,明らかにFEPのDTAチャートと肩の位置が同
じであり,甲49の試料は,FEPであることを示しているとしか思わ
れない。
エFT−IR分析
甲27の2は,被告製品のFT−IR−ATRスペクトルとして提出
されたものと,FEP,PTFEの各FT−IR−ATRスペクトルと
を対比すると,「被告製品の最外層にはFEPが含まれている。」とい
うことを示しているに過ぎない。このことは,甲27の2の「1.目
的」(2枚目)に「最表層にFEPが存在するかを確認する」と記載さ
れていることからも明らかである。
また,原告主張の甲27の2の記載部分中の「CF伸縮振動(1209-
1153cm付近)」は,FEPのFT−IR−ATRスペクトルにもP-1
TFEのFT−IR−ATRスペクトルにも存在しており,この「CF伸
縮振動」がPTFE由来のものであるか,FEP由来のものであるかに
ついては,分析結果からは読み取れない。
してみると,甲27の2のFT−IR分析結果は,被告製品の最外層
にPTFEが含まれていることの根拠となるものではない。
オ小括
以上のとおり,被告製品の化学分析から,被告製品の最外層にPTF
Eが存在することは一切明らかにされていない。
(4)被告作成の竣工図等の記載の主張に対し
ア被告が被告製品の最外層を構成する層をFEPにした経緯は,以下の
とおりである。
1995年(平成7年)ころから国内における酸化チタン光触媒によ
る防汚技術に関する実用化研究が本格化したが,被告としても,同時期
より酸化チタン光触媒による防汚機能を従来の膜材料に付与することに
より,汚れない(汚れにくい)膜材が開発できないか,検討を開始し
た。
当初は,ポリ塩化ビニル(PVC)をコーティング材とする建築用膜
材料(「PVC膜材料」,「C種膜材料」などと呼ばれる。)の開発
を,続いて1999年(平成11年)から,後に被告製品(エバーファ
インコート)となるフッ素樹脂をコーティング材とする建築用膜材
料(「PTFE膜材料」,「A種膜材料」などと呼ばれる。)の開発を
スタートした。同年には,日東電工株式会社(以下「日東電工」とい
う。)が出願する特許を基に,同社が試作した「PTFE+酸化チタ
ン」を最外層にコートしたPTFE試作品について評価を行った。
酸化チタンを使うことによって,現行の膜材料に防汚性が付加される
との基本的評価は,既に日東電工により実施し確認されていた。テント
等の膜材に使用するつもりであった被告において,日東電工のPTFE
試作品に対する最大の評価のポイントは,このような材質構成の膜材料
を,最終製品であるテントに加工できるかどうか,つまり接合性が確保
できるかという点であった。テント構造物として所定の形状にするため
には,最終的に屋外の施工現場での接合が不可避だからである。しか
し,日東電工のPTFE試作品は,被告の求める接合性が確保できなか
った。もっとも,被告は,PTFEでは溶融粘度が高いため,通常の条
件では熱接合がし難いものであることは自明のこととして認識してい
た。しかも,日東電工のPTFE試作品は,そもそも熱接合がし難いP
TFEに,さらに接合性を阻害する酸化チタンを混合した層を最外層に
設けていたので,この結果自体は予想通りのものであった。
そこで,被告は,PTFEに比べて接合性の高いFEPに酸化チタン
を混合することとし,被告製品の開発を開始した。
しかし,開発の過程で,熱接合しやすいFEPとは言え,接合性を阻
害する酸化チタンの配合量によっては熱接合し難くなること,A種膜材
の最外層であるFEP層との密着性が低くなるおそれのあることも判明
した。また,「FEP+酸化チタン光触媒」の組合せでも,酸化チタン
光触媒による十分な防汚機能が得られることも上記開発の経緯において
明らかとなり,そのことも含めて,酸化チタンの含有量,塗布方法等も
開発された。その結果,被告は,2003年(平成15年)7月15日
に被告製品(エバーファインコート)の販売を開始した。
イ被告製品(エバーファインコート)の最外層は,FEP(及び酸化チ
タン)をコーティングしていることは,被告としてはノウハウであり,
少なくとも積極的に公表する内容ではないと考えてきた。そのため,被
告社内においても,秘密情報としての厳密な管理まではしていないもの
の,エバーファインコートの最外層がFEPであることを社内にも,ま
た顧客に対しても,あえて周知させてこなかった。
このように公開しなくとも,被告の顧客に対する製品説明,商品紹介
等においても,品質,性能については,被告製品の基材(膜材料「スカ
イトップ」)に国土交通大臣の認定(乙25)を得ていることで十分な
説明ができるからである。すなわち,「スカイトップ」は,接合性を得
るために,その最外層をFEPとしているが,認定を受けている構成
は,ガラス繊維織物(ガラスクロス)と「四フッ化エチレン樹脂」(P
TFE)である。この大臣認定は,基材の基本構成等について認定する
ものであり,最外層に接合性を確保するためにFEPを塗布しても認定
に適合する。
また,被告社内で周知させることは,ノウハウが多少でも外部に漏洩
していくリスクが高まる。そのため,社内資料,カタログ等販売促進資
料や図面等における表記においても,認定書(登録証)における表示外
物質であるFEPはあえて表記してこなかった。
さらに,被告製品エバーファインコートの社内外に対する一般的名称
は,認定書の記載に合わせて,構成する主材料である「PTFE」ある
いは「四フッ化エチレン樹脂」という表現のみを使用して,「PTFE
膜材料」,「四フッ化エチレン膜材料」,あるいは「PTFEコーティ
ングガラス繊維膜材料」といった呼称を使用してきた。また,他社製品
と差別化するために,あえて光触媒機能やその詳細な構成を示す「光触
媒」,「酸化チタン」,「酸化チタン光触媒」あるいは「光触媒酸化チ
タン」を用いて,「酸化チタン光触媒膜材料」等の呼称を使用する場合
もあった。その結果,被告製品の呼称として,両者を組み合わせて,「
光触媒付きPTFEコーティングガラス繊維膜材料」等を使用する場合
もあるのが実情である。
ウ以上のとおり,被告製品について,あえて必要以上の記載を行ってい
ない表記や構成材料の主成分のみを指して呼ぶ「呼称」等が並存する「
呼称」の不統一が原因となり,原告提出の設計図書(図面),被告販売
促進資料には,被告製品の最外層がPTFEと光触媒酸化チタンのみで
あるかの如き「誤記載」がされているものもある。その直接の原因は,
被告製品の構成に対する社内における周知不足である。被告としては,
これまでも,また,本件訴訟を受けて,既に被告社内において,今後,
かかる誤記載が生じないように周知徹底を図っている。
(5)構成要件充足性の主張に対し
ア構成要件Cの非充足
被告製品において光触媒粒子を保持・含有するのは,最外層の光触媒
酸化チタン含有FEP層のみである。
そして,被告製品の最外層は,PTFE(ポリテトラフルオロエチレ
ン)を含有せず,「(連通した隙間のある多孔質状に付着されている)
前記ポリテトラフルオロエチレン微粒子の隙間間に光触媒粒子が保持さ
れている」構成を有するものといえないから,被告製品は,本件発明の
構成要件Cを充足しない。
イ構成要件Dの非充足
本件発明は,PTFEが連通した隙間のある多孔質状であり,さらに
その隙間の間に光触媒粒子が保持されていることにより,光や空気がP
TFEの隙間を通ることにより,悪臭などを分解する「空気浄化用シー
ト」である(本件明細書の段落【0016】,【0017】,【002
8】,【0029】)。
これに対して被告製品は,スタジアムの屋根や日よけシェルター等の
テント構造物として風雨を凌ぐため,屋外に曝される状態で使用される
ものである。被告製品に光触媒粒子を使用しているのは,煤煙,チリ等
による汚染を防止するためであり,「空気浄化用」のためではない。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Dを充足しない。
ウまとめ
以上によれば,被告製品は,本件発明の構成要件C及びDを充足しな
いから,本件発明の技術的範囲に属さない。
したがって,被告による被告製品の製造及び販売が本件特許権の侵害
に当たるとの原告の主張は,理由がない。
第4当裁判所の判断
1本件発明の構成要件Cの充足の有無
被告製品が本件発明の構成要件A及びBを充足していること,被告製品
が,ガラス繊維織物の上に,PTFE層,ガラスビーズを含有するPTFE
層,FEP層,二酸化チタン(TiO)を含有する層(最外層)が順に積層され2
た構成を有していること,被告製品の最外層に含有された二酸化チタン(TiO
)が「光触媒粒子」であることは,前記争いのない事実等(4)のとおりであ2
る。
原告は,被告製品の走査型電子顕微鏡(SEM)観察,化学分析及び被告
作成の竣工図等の記載を総合すれば,被告製品の最外層は,相当量のPTF
Eを含有する層であり,そのPTFE(微粒子)は隙間のある多孔質状であ
り,その隙間間に二酸化チタン(TiO)が保持されているから,被告製品は2
構成要件B及びCを充足する旨主張する。これに対し被告は,被告製品がガ
ラス繊維織物の上にPTFE層及びガラスビーズを含有するPTFE層を有す
るという意味において構成要件Bを充足すること自体は争っていないが,被
告製品の最外層は,二酸化チタン(TiO)含有のFEP層であって,原告の2
主張するような相当量のPTFEを含有する層ではなく,二酸化チタン(TiO
)がPTFE(微粒子)の隙間間に保持されていないから,被告製品は構成2
要件Cを充足しない旨主張して争っている。
そこで,以下において,被告製品の最外層が本件発明の構成要件Cの構成
を有するとの原告の主張について判断することとするが,原告がその主張の
根拠として挙げる上記諸点のうち,まず,化学分析の点から検討する。
2化学分析について
(1)DSC分析
ア原告は,甲29及び甲38のDSC分析から,被告製品の最外層に相
当量のPTFEが存在していることが確認された旨主張する。
(ア)甲29(名古屋市工業研究所作成の平成21年8月26日付け成
績書)
a甲29は,名古屋市工業研究所が,原告の依頼により,下記の試
料について示差走査熱量計(DSC)による測定を行った測定結果
である。
①PTFE:TiO=100:152
②FEP:TiO=100:152
③PTFE:FEP:TiO=80:20:152
④PTFE:FEP:TiO=50:50:152
⑤PTFE:FEP:TiO=20:80:152
⑥FEP:TiO=100:302
⑦エバーファインコート(被告製品)
b甲30の写真50(別添「写真50」)は,名古屋市工業研究所
が,原告の依頼により,DSC測定の試料を採取した後の被告製品
の表面を撮影したSEM写真である。
写真の中央の断面U字形状の窪みの直下付近にガラスビーズを確
認することができる。
なお,甲29及び30には,試料の採取方法に関する記載はな
い。
c甲29の15枚目のチャート(別紙2)は,昇温速度5℃/分(
30℃→360℃)の条件で行われた被告製品の2回目(2ndSca
n)の測定結果である。これによれば,322.8℃に吸熱ピーク(
融解熱量「0.24mJ/mg」)を確認できる。
(イ)甲38(名古屋市工業研究所作成の平成21年10月15日付け
成績書)
a甲38は,名古屋市工業研究所が,原告の依頼により,被告製品
の試料について,昇温速度5℃/分(30℃→350℃)の条件
で,示差走査熱量計(DSC)による測定を行った測定結果であ
る。
甲38の2枚目のチャートによれば,323.7℃に吸熱ピー
ク(融解熱量「0.11mJ/mg」)を確認できる。
b甲39(平成21年10月16日付け事実実験公正証書)には,
前記aのDSC測定に用いられた試料が,厚さ0.8㎜の被告製品
のサンプルから作成されたものである旨,試料の採取方法は,サン
プルの1片をホットプレートに載せて加熱し,その表面を非接触表
面温度計で計測して300℃であることを確認した上,先端が滑ら
かな金属へらを用いて全面的に表面を擦り採り,擦り採った表層
部(試料)をアルミホイルに置き,更にもう1片を同様に加熱し,
その表面を非接触表面温度計で計測して299℃であることを確認
した上,同様に全面的に擦り採った表面の試料をアルミホイルに置
く作業をし,その後,試料をそのアルミホイルで包んだ旨の記載が
ある。
イ検討
原告は,①被告製品のDSC測定結果(甲29)では,323℃付近
に吸熱特性のピーク(融解による吸熱ピーク)が検出されており(吸熱
ピーク「322.8℃」・融解熱量「0.24mJ/mg」),フッ素
樹脂の中で融点温度が320℃以上のものはPTFE以外に存在しない
ので,この吸熱ピークはPTFE由来のものである,②融解熱量「0.
24mJ/mg」は小さいように思えるが,これは,被告製品から採取
した試料が最外層とその下のFEP層の2層からなっており,最外層の
PTFEの存在分率がFEP等により希釈されていること,PTFEの
結晶化度が通常よりも低いことが原因であると考えられる,③したがっ
て,被告製品のDSC測定結果から,被告製品の最外層に相当量(20
%程度)のPTFEが存在していることが確認された旨主張する。
しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)甲29のDSC測定では,試料の採取方法が明らかではなく,被
告製品から採取した試料が,被告製品の最外層とその下のFEP層の
2層であることは不明であるといわざるを得ない。かえって,試料を
採取した後の被告製品の表面を撮影した甲30の写真50(別添「写
真50」)には,中央の断面U字形状の窪みの直下付近にガラスビー
ズを確認することができるところ,このガラスビーズは,最外層から
3層目の「ガラスビーズを含有するPTFE層」のガラスビーズであ
ること(争いがない。)からすると,採取された箇所は「ガラスビー
ズを含有するPTFE層」まで至り,試料の中にPTFEが混入した
可能性もうかがわれる。
また,甲38の試料の採取状況について記載した甲39中には,ホ
ットプレートに載せたサンプルの1片を撮影した写真(写真2の①)
及び金属へらを用いて試料を採取している様子を撮影した写真(甲3
9の写真3の③)が添付されているところ,いずれの写真からも,ホ
ットプレートの設定温度が「400℃」を表示していることを確認す
ることができる。
そうすると,ホットプレートに載せたサンプルの1片の最外層の表
面温度が非接触表面温度計で計測して299℃あるいは300℃であ
っても,最外層の下の中間層(3層目の「ガラスビーズを含有するP
TFE層」を含む。)は300℃よりも高温であったことを推認する
ことができる。そして,上記中間層の温度がPTFEの融点の327
℃(前記争いのない事実等(4)ア(イ))を超えて,融解を開始した中間
層のPTFEが試料の中に混入した可能性もうかがわれる。
以上のとおり,甲29及び38のDSC測定は,試料の適格性に問
題がある。
(イ)a甲29のDSC分析は,別紙2のとおり,被告製品の試料につ
いて,吸熱ピーク「322.8℃」・融解熱量「0.24mJ/m
g」を示している。
しかし,この融解熱量「0.24mJ/mg」は,同一条件で測
定したPTFEがフッ素樹脂(PTFE+FEP)中の20%であ
る試料⑤(前記ア(ア))における融解熱量の測定値9.57mJ/
mg(吸熱ピーク「326.8℃」。甲29の11枚目)と比べて
極めて小さいことに照らすならば,仮に上記吸熱ピークがPTFE
由来のものであるとしても,試料中のPTFEの含有量が極く微量
であることを示すものにすぎない。また,甲38のDSC分析の吸
熱ピーク「323.7℃」・融解熱量「0.11mJ/mg」も,
甲28の上記融解熱量を更に下回るものであることに照らし,試料
中のPTFEの含有量が極く微量であることを示すものにすぎな
い。
これらの融解熱量は,最外層に相当量(原告のいう20%程度)
のPTFEが存在することを裏付けるものではない。
bこの融解熱量が小さい点について原告は,被告製品から採取した
試料が最外層とその下のFEP層の2層からなっており,最外層の
PTFEの存在分率がFEP等により希釈されていること,PTF
Eの結晶化度が通常よりも低いことが原因で本来よりも小さく表れ
ると考えられる旨主張する。
しかし,当該試料においてFEP等による希釈によってPTFE
が本来の「相当量」(原告のいう20%程度)から「極く微量」に
まで減じていること及びPTFEの結晶化度が通常よりも低いこと
を客観的に裏付ける証拠はなく,原告の上記主張は,上記aの認定
を左右するものではない。
ウ小括
以上によれば,DSC分析から被告製品の最外層に相当量のPTFE
が存在していることが確認されたとの原告の主張は,理由がない。
(2)TG−DTA分析
ア原告は,甲49ないし52の示差熱分析装置による示差熱分析(DT
A)及び熱天秤試験による分析(TG)(TG−DTA分析)から,被
告製品の最外層に相当量のPTFEが存在していることが確認された旨
主張する。
(ア)甲49(愛知県産業技術研究所作成の平成21年11月16日付
け成績書)
甲49は,愛知県産業技術研究所が,原告の依頼により,被告製品
の試料について,昇温速度5℃/分の条件で,示差熱分析装置及び熱
天秤試験による測定を行った測定結果である。
甲49には,次のとおりの測定結果の記載があり,別紙として「示
差熱分析,熱天秤試験図」(別紙3−1)が添付されている。
a示差熱分析
「250℃,364℃に吸熱ピーク,455℃,482℃,543
℃に発熱ピークを認めた。」
b熱天秤試験
「89.6%(30∼580℃までの重量減)」
(イ)甲50(愛知県産業技術研究所作成の平成21年11月16日付
け成績書)
甲50は,愛知県産業技術研究所が,原告の依頼により,「FEP(
100)+TiO(15)」の試料について,昇温速度5℃/分の条件で,2
示差熱分析装置及び熱天秤試験による測定を行った測定結果である。
甲50には,次のとおりの測定結果の記載があり,別紙として「示
差熱分析,熱天秤試験図」(別紙4)が添付されている。
a示差熱分析
「267℃に吸熱ピーク,454℃,460℃,481℃,534
℃に発熱ピークを認めた。」
b熱天秤試験
「88.7%(30∼580℃までの重量減)」
(ウ)甲51(愛知県産業技術研究所作成の平成21年11月16日付
け成績書)
甲51は,愛知県産業技術研究所が,原告の依頼により,「PTF
E(100)+TiO(15)」の試料について,昇温速度5℃/分の条件2
で,示差熱分析装置及び熱天秤試験による測定を行った測定結果であ
る。
甲51には,次のとおりの測定結果の記載があり,別紙として「示
差熱分析,熱天秤試験図」(別紙5)が添付されている。
a示差熱分析
「323℃に吸熱ピーク,507℃,527℃,544℃,557
℃に発熱ピークを認めた。」
b熱天秤試験
「90.0%(30∼580℃までの重量減)」
(エ)甲52(A博士作成の平成21年11月25日付け「TG−DT
A試験結果についての見解書」)
甲52(ただし,甲54による一部訂正後のもの。以下同じ。)に
は,次のような記載がある。なお,下記のbで引用された「下図」は
別紙3−2,「表1」は「別表1」のとおりである。
a「エバーファインコートのDTAの結果では,249.7℃のとこ
ろに窪み(吸熱ピーク)があり,次いで363.7℃にも窪み(吸
熱ピーク)がある。前者はFEPの融解ピークであり,後者はPT
FEの融解が関与している。これは甲第38号証に示したDSCの
測定結果と矛盾しない。その後,だらだらと上り勾配となり,45
5.2℃と482.2℃と543.8℃のところに三つの大きな
山(発熱ピーク)が見られる。これはまず,FEPのトリフルオロ
メチル基−CFが酸化分解され,次いで,トリフルオロメチル基−3
CFが切り離された炭素が酸化され,最後に,4フッ化エチレン構3
造の炭素が酸化分解されていったものと見られる。543.8℃の
山はFEPのものより10℃程高くなっており,この現象がPTF
Eの4フッ化エチレン構造の分解による発熱であることは確かな事
実である。これによって,被告製品エバーファインコートのDTA
の測定結果の発熱ピークの山の形は,FEP(100)+TiO(15)2
の山(発熱ピーク)にPTFE(100)+TiO(15)の山(発熱ピ2
ーク)が加わって隆起した形になっており,その形から相当量のP
TFEが含まれていることが分かる。そして,TGの重量減少の終
点もFEP(100)+TiO(15)に比べ高温となっていることから2
も,それを裏付けている。」(2頁7行∼25行)
b「TGの結果によるとエバーファインコートにおいては4段階の重
量減少が観測される。下図に示す重量減少の曲線において明らかに
4段階で変化していることが分かるがそれぞれの温度域において傾
きが急になる温度を減少開始温度とし,それぞれの減少が終了し傾
きが最小になる温度をそれぞれの減少終了温度とした。開始温度か
ら終了温度の範囲で減少した重量をそれぞれの減少量として表1に
示す。」(3頁2行∼7行),「FEPは・・・側鎖CFのついた3
C−C結合,次にその隣のC−C結合,最後に4フッ化エチレン構
造のC−C結合の順に切断する。実際は酸化反応が寄与してその順
に切断が起きる。いずれにせよより分解しやすくその事実はTGの
実験結果によっても明らかである。」(4頁8行∼12行),「エ
バーファインコートにおけるFEP層はFEPのみからなってお
り,最外層には全ての成分が存在するとする。又仮に最外層とFE
P層の重さが等しい(実際は体積が等しいと思われる)とすると最
外層には最外層及びFEP層の二つの層全体を100%とした場
合,又最外層全体を100%とした場合,それぞれ表1のようにな
る。いずれにせよ,TG−DTAの測定結果からは,最外層にPT
FEが約30%存在している事実はFEPの39%に近く,重要な
事実である。」(4頁12行∼18行)
イ検討
(ア)原告は,①被告製品のDTAの測定結果では,249.7℃及び
363.7℃のところにそれぞれ窪み(吸熱ピーク)があり,前者は
FEPの融解ピークであり,後者はPTFEの融解が関与しており,
これは,甲38のDSCの測定結果と矛盾しない,②被告製品のDT
Aの測定結果の発熱ピークの山の形は,FEP(100)+TiO(15)2
の山(発熱ピーク)にPTFE(100)+TiO(15)の山(発熱ピー2
ク)が加わって隆起した形になっており,その形から相当量のPTF
Eが含まれていることが分かる旨主張する。
しかしながら,被告製品のDTA測定結果(甲49)の吸熱ピーク
は,「250℃」及び「364℃」(別紙3−1では「249.7
℃」及び「363.7℃」)であって(前記ア(ア)),甲51の「P
TFE(100)+TiO(15)」の試料にみられるPTFEの吸熱ピー2
ク「323℃」(別紙5では「322.9℃」)(前記ア(ウ))を確
認することができない。
同様に,被告製品のDTA測定結果(甲49)においては,甲29
のDSC分析において原告がPTFE由来の吸熱ピークであると主張
する322.8℃付近に吸熱ピークはみられない。
さらに,被告製品のDTA測定結果(甲49)の吸熱ピーク「36
4℃」(別紙3−1では「363.7℃」)は,PTFEの融点32
7℃(前記争いのない事実等(4)ア(イ))よりも約37℃も高いもので
ある。
以上を総合すれば,被告製品のDTA測定結果(甲49)におい
て,PTFE由来の吸熱ピークがみられないというべきであるから,
甲49から,PTFEの存在は認められない。
したがって,原告の上記主張は,上記①の前提を欠くものであり,
採用することができない。
(イ)原告は,被告製品のTGの測定結果によると,別紙3−2に示す
ように,被告製品は,重量減少の曲線において明らかに4段階(A,
B,C,D)で変化しており,被告製品の最外層にPTFEが約30
%存在している旨主張する。
しかしながら,別紙3−2に示された4段階の段階分けは,FEP
において側鎖CFのついたC−C結合,次にその隣のC−C結合,最3
後に4フッ化エチレン構造のC−C結合の順に切断が起きることを前
提とするものであるが(前記ア(エ)b),このような順序で切断が起
きることの明確な根拠はない。
また,上記4段階の段階分けでは,別表1に示すように「515℃
−556℃」の温度範囲の重量減少をPTFE由来の「C段階」とし
ているが,他方で,甲50添付の別紙(別紙4)によれば,「FEP(
100)+TiO(15)」のTG曲線における質量減少の終了温度は542
0℃前後を示していることに照らすならば,PTFEを含有していな
い「FEP(100)+TiO(15)」の質量減少が,PTFE由来のC2
段階に属することとなり,上記4段階の温度範囲についても,合理的
な根拠は見出すことはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ小括
以上によれば,TG−DTA分析から被告製品の最外層に相当量のP
TFEが存在していることが確認されたとの原告の主張は,理由がな
い。
(3)ラマン分光分析
ア原告は,甲46のラマン分光分析のラマンスペクトルを微分すること
によって,被告製品の最外層に相当量のPTFEが存在していることが
確認された旨主張する。
(ア)甲46(東レリサーチセンター作成の「結果報告書ラマン分光
分析」(報告№N204779))
a甲46は,東レリサーチセンターが,原告の依頼により,下記の
試料について,ラマン分光法を用いた高波数分解測定により組成構
造評価を行った結果報告である。
①フッ素系複合樹脂(被告製品)
②リファレンスFEPフィルム
③リファレンスPTFE樹脂
b甲46には,次のような記載がある。
(a)「【要旨】ラマン分光法を用いた高波数分解測定により,フ
ッ素系複合樹脂の組成構造評価を行った。730cm付近のC−1
−C伸縮バンドに着目し,試料断面方向からのライン測定を行っ
た結果,最表層(複合層)ではFEP層(第2層)と一致するピ
ーク波数,バンド半値幅を有するラマンバンドが検出された。」
(b)「測定は顕微モードで行った。サンプル位置でのレーザースポ
ット径は1μmであり,成形品断面からレーザー光を入射して測
定した。」,「試料は樹脂に包埋後,ミクロトームにより2μm
厚みの切片とした。」,「n=1の測定では,試料の表面側から
1μmステップで11μmまでのライン測定を行った(最表層∼
FEP層∼PTFE層)。n=2の測定では,試料の表面側から
1μmステップで5μmまでのライン測定を行った(最表層∼F
EP層)。」
(c)「○リファレンス試料のラマンスペクトル・・・FEPに対す
るPTFEのスペクトル差異として,ピーク波数の高波数シフ
ト,半値幅の減少,750cm付近のサイドバンドの強度比の−1
低下が認められる。リファレンス試料のスペクトルを基に,FE
PとPTFEの寄与率を変化させたときのスペクトル変化をFi
g.8に示した。・・・これらの合成スペクトルから得られたラ
マンバンドパラメーターを・・・に示す。ただし,これらのパラ
メーターはFEPとPTFEの散乱効率を同様であると仮定し,
また,その散乱効率は混合状態に依存しないとした場合の値であ
り,参考値としての扱いである。」
(d)「○ラマンバンドパラメーターについてFEPとPTFEの
分布状態を評価するパラメーターとして下記のパラメーターを算
出した。
ν:730cm付近のCC伸縮バンドのピーク波数732
−1
Δν:730cm付近のCC伸縮バンドのバンド半値幅732
−1
I/I:730cm付近のCC伸縮バンド強度に対す750732
−1
る750cm付近のサイドバンドの強度」−1
(e)「○ラマンバンドパラメーターの変化最表層(複合層:1∼
5μm)からFEP層(第2層:6∼9μm)にかけて,いずれ
のパラメーターも同等の値が得られた。また,それらの値はリフ
ァレンス試料のFEPとほぼ一致している。」,「PTFE層(
第3層:10,11μm)ではピーク波数の高波数シフトや半値
幅の減少などが認められ,リファレンス試料のPTFEと相関す
るスペクトルが得られている。」,「本測定の波数分解能(∼
0.2cm)とスペクトル精度からは,FEPに対するPTF−1
Eの存在比率として30%程度がPTFEの検出下限と考えられ
る。本測定において,最表層(複合層)からはその検出下限を超
える割合のPTFEの存在は認められない。」
(イ)甲41(A博士作成の平成21年10月15日付け「ラマンスペ
クトルについての見解書(1)」)
甲41には,次のような記載がある。
a「結果報告書N204779「ラマン分光分析」のFig.2の深
さ1μm部分を拡大し,ピークの多重性について検討した所,被告
製品の最外層の積分散乱曲線には,PTFEの波数に相当する所(T
able.1PTFEの散乱波数)に明らかに散乱の肩がある(下図fi
g.5の一色線1μm)。より深い2∼5μmにおいても,その傾向
が窺われる。」(4頁末行∼5頁4行)
b「念のため,その微分曲線を描いてみた所,2つのピークがより顕
著に見出された(下図fig.5∼9の一色線D1∼5μm)。ま
た,ピーク①は微分したFEP100%(一色線DFEP100
%)のピークに近く,ピーク②は微分したPTFE100%(一色
線DPTFE100%)のピークに近く,それぞれ二つのピーク
がFEP100%及びPTFE100%のピークとしてほぼ一致し
ていることも確認できた。」(5頁10行∼末行)
c「以上の事から,被告製品の最外層にはPTFEが少なくとも30
%以上存在すると推定される。これは,被告製品の測定結果から評
価できるものであり,株式会社東レリサーチセンターの見解に矛盾
するものではない。」(7頁)
イ検討
原告は,甲46のラマン分光分析のラマンスペクトルについて,積分
散乱曲線にPTFEの波数(732cm付近)に相当する所に散乱の−1
肩があり,より深い2∼5μmにおいてもその傾向がうかがわれるとし
た上で,ライン1のラマンスペクトルの微分曲線より,被告製品の最外
層に相当量のPTFEが存在することが確認された旨主張する。
しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)甲46の結果報告では,「試料断面方向からのライン測定を行っ
た結果,最表層(複合層)ではFEP層(第2層)と一致するピーク
波数,バンド半値幅を有するラマンバンドが検出された。」(前記ア(
ア)b(a))として,被告製品の最外層にFEPが存在することを確認
しているが,被告製品の最外層にPTFEが存在することを確認して
いない。もっとも,甲46には,「最表層(複合層)からはその検出
下限を超える割合のPTFEの存在は認められない。」との記載があ
るが,この記載は,装置の「検出下限」の検出ができないことを述べ
たにとどまり,「最表層(複合層)」に検出下限のPTFEが存在す
ることを述べたものではない。
(イ)原告が主張の根拠とする甲41のA博士の見解は,甲46におけ
る732cm付近の散乱のピーク(肩)に着目したものであるが,−1
甲46に示すように,その肩は非常に微弱なものである。A博士の上
記見解は,このような微弱なピークを更に微分して論じている点にお
いて,精度上問題があり,採用することはできない。
(ウ)甲26(東レリサーチセンター作成の「結果報告書ラマン分光
分析」(報告№N204764))は,東レリサーチセンターが原
告の依頼により被告製品についてラマン分光分析を行った結果報告で
あるところ,甲26には,「(2)考察」として,「ν,Δν,13513577
I/Iのいずれのパラメーターにおいても,最表層(複合層)で775030
は,FEP層(第2層)に近い値が得られている。FEP構造の存在
が強く示唆されるが,上述のようにメチル基置換が生じていることか
ら,構造変化をしていることが強く示唆される。」(5頁17行∼2
0行),「最表層ではPTFEの存在を明確にするスペクトルは検出
されておらず,少なくとも,空間分解能である1μm程度の領域でP
TFEが高濃度に存在するような箇所(例えば,積層構造や層分離構
造)は存在していないと言える。」(5頁20行∼23行)との記載
がある。
また,乙3(日東分析センター作成の平成21年3月25日付け「
分析結果報告書テント材料の断面分析(ラマン)」)は,日東分析
センターが,被告の依頼により,「テント材料[エバーファインコー
トFGT−800(TFB)08E5363−①E]」の試料につい
てラマン分光分析を行った結果報告であるところ,乙3から,上記試
料の最外層にPTFEが存在することはうかがわれない。
このように甲46以外のラマン分光分析においても,被告製品の最
外層にPTFEが存在することは確認されていない。
ウ小括
以上によれば,ラマン分光分析から被告製品の最外層に相当量のPT
FEが存在していることが確認されたとの原告の主張は,理由がない。
(4)FT−IR分析
ア原告は,甲27の2のフーリェ変換赤外分光分析(FT−IR分析)
から,被告製品の最外層に相当量のPTFEが存在していることが確認
された旨主張する。
(ア)甲27の2(東レリサーチセンター作成の「フーリェ変換赤外分
光(FT−IR)(速報)」)
甲27の2は,東レリサーチセンターが,原告の依頼により,被告
製品の試料について,フーリェ変換赤外吸収スペクトル分析法(FT
−IR−ATR法)による測定を行った測定結果である。
甲27の2には,次のような測定結果の記載があり,別紙とし
て,「図1:フッ素樹脂クロスの最表層および表層約2μm研磨後の
FT−IR−ATRスペクトルの比較」(別紙6),「資料1:フッ
素系樹脂(FEP,PFA,PTFEの赤外吸収スペクトル」(別紙
7)等が添付されている。
a「【要旨】フッ素樹脂クロスの表層5μmの劣化層にPTFE(ポリ
テトラフルオロエチレン)とFEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサ
フルオロプロピレン)が混在しているか確認するため,FT−IR
−ATR法にて測定を行った。また,表層を約2μm程度研磨した
内部について測定を行った。」
b「①:劣化層のFT−IR−ATRスペクトルを測定した結果,PT
FEに由来したC−F伸縮振動(1209∼1153cm付近)以−1
外に,FEPに特徴的なCF骨格振動に由来した吸収が981cm3
付近に検出された。フッ素樹脂クロス劣化層には,PTFEのほ−1
かFEPが存在することが分かった。」
c「1.目的フッ素樹脂クロス(表層5μm)の最表層にFEP(テ
トラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン)が存在するか
確認する。」,「2.試料1検体・フッ素樹脂クロス(最表層
が黄土色から茶色変色したもの)」,「3.分析方法測定は,フ
ッ素樹脂クロス最表層を測定した後,乾式研磨を行い,約2μm程
度研磨した内部について測定を行った。」
(イ)甲43(A博士作成の平成21年10月15日付け「フーリエ変
換赤外分光(FT−IR−ATR)スペクトルに対する見解書」)
甲43(甲54による訂正後のもの。以下同じ。)には,次のよう
な記載がある。
a「甲27号証の2における図1フッ素樹脂クロス(エバーファイン
コートと同じもの)の1153cm(CF)及び982cm(−1−1

3CF2CF3CF3CF23CF)スペクトル強度をA,Aとりその比A/A=A
を計算する。同様に甲27号証の2資料1標準試料FEPから同KU
様の比Aを計算する。その結果を下の表に示す。」3FEP
b「AはAの約半分の値となっておりクロス表面はPTFEに3KU3FEP
よって希釈されていることが分かる。その分率を計算してみる。ラ
マンスペクトルについての見解書(2)の表における深さ2μmはクロ
ス2μmに相当する。」,「その深さにおけるTiOの分率を6%と2
するとX=0.30,X=0.47となりラマンスペクトルFEPPTFE
についての見解書(2)の表における深さ2μmのX=0.64,FEP
X=0.30と似た値となっている。含まれる有機物による希PTFE
釈は非常に少ないと考えられる。」
c「以上の結果,フーリエ変換赤外分光からも複合層には相当量のP
TFEが含まれていると結論できる。」
イ検討
(ア)原告は,甲27の2に「①:劣化層のFT−IR−ATRスペクト
ルを測定した結果,PTFEに由来したC−F伸縮振動(1209∼1
153cm付近)以外に,FEPに特徴的なCF骨格振動に由来し−1

た吸収が981cm付近に検出された。フッ素樹脂クロス劣化層に−1
は,PTFEのほかFEPが存在することが分かった。」との記載(
前記ア(ア)b)があることから,甲27の2のFT−IR分析から,
被告製品の最外層に相当量のPTFEが存在していることが確認され
た旨主張する。
しかしながら,甲27の2の「資料1:フッ素系樹脂(FEP,P
FA,PTFEの赤外吸収スペクトル」(別紙7)に示すように,F
−1
EP及びPTFEのいずれにおいても,「1215∼1154cm
付近」にC−F伸縮振動が現れていることに照らすならば,甲27の
2の「図1:フッ素樹脂クロスの最表層および表層約2μm研磨後の
FT−IR−ATRスペクトルの比較」(別紙6)にみられる「C−
F伸縮振動(1209∼1153cm付近)」は,FEP由来のもの−1
である可能性もあるというべきであるから,これがPTFE由来のも
のであると直ちに断定することはできないし,甲27の2の他の記載
部分を勘案しても,FEP由来のものであるのか,PTFE由来のも
のであるのか不明であるといわざるを得ない。
したがって,甲27の2の上記記載部分(前記ア(ア)b)から被告
製品の最外層にPTFEが存在するものと直ちに結論づけることはで
きないから,原告の上記主張は,採用することができない。
(イ)原告は,①甲27の2の図1(別紙6)及び資料1(別紙7)に
よれば,被告製品では,最外層の「FEPに特徴的なCF骨格振動に3
由来した981cm付近」の吸収強度が,FEP100%のものに−1
比べて約半分程度しか現れておらず,これは,被告製品は,PTFE
に希釈されていることを示すものである,②上記CF骨格振動の吸収3
強度比から,被告製品の最外層のPTFEの存在比率を計算した結
果,被告製品の最外層に相当量のPTFEが存在することが確認され
た旨主張する。この原告の主張は,甲43のA博士の見解(前記ア(イ
))に基づくものである。
そこで検討するに,甲43のA博士の見解は,PTFEの希釈効果
によるピーク強度の減少割合が,PTFEの含有割合に等しいことを
前提に,甲27の2における「FEP100%」の標準試料と被告製
品の試料について,1153cm(CFに起因する吸収スペクト−1

3CFル)と982cm(CFに起因する吸収スペクトル)の強度比A−1
/Aの比較から,FEPとPTFEの重量分率を算出し,被告製3CF2
品の最外層には約47%(「X=0.47」)のPTFEが存在PTFE
すると結論づけたものであると解される。
しかしながら,甲43には,上記前提が合理的であることを裏付け
るに足りる具体的な根拠が示されていないのみならず,被告製品の最
外層に約47%ものPTFEが存在するのであれば,被告製品につい
てのDSC分析(甲29)やラマン分光分析(甲26,46)におい
ても,被告製品の最外層にPTFEの存在が明確に検出されてしかる
べきであるのに,前述のとおり,DSC分析及びラマン分光分析のい
ずれによってもPTFEの存在を認めることができないことに照らす
ならば,甲43のA博士の見解は採用することができない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ小括
以上によれば,FT−IR分析から被告製品の最外層に相当量のPT
FEが存在していることが確認されたとの原告の主張は,理由がない。
(5)まとめ
以上のとおり,原告主張の化学分析から被告製品の最外層にPTFEが
含有されていることを認めることはできない。
3SEM観察
(1)原告は,PTFEとFEPは,溶融粘度が相違し,PTFEの溶融粘度
が10∼10ポアズと非常に高く,融点を超えても芯の部分までがト1113
ロトロに溶融せず,固体として残るのに対し,PTFE以外のFEPを含
むフッ素樹脂は,その溶融粘度が10∼10ポアズと低く,融点を超え45
ると芯を残さずにトロトロに溶けること,PTFEは,溶融粘度の高さか
ら,固体形状を残した多孔質な構造となり,FEPはメルトタイプ特有の
性質で芯までトロトロに溶けるために,隙間を持たない緻密な構造となる
ことから,被告製品をSEM観察で検証することによって,PTFEを判
別することが可能となるとした上で,SEMを用いて撮影した被告製品の
各写真から,被告製品の最外層にPTFEが存在することが確認できる旨
主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
ア原告は,甲20の1の写真6(別添8,9)に示すように,被告製品
の最外層(別添1図面の層7)は,微粒子4が立体的に付着して隙間5
のある多孔質構造となっていることから,層7は,微粒子4(PTFE
微粒子)が付着して形成されたPTFEの層であり,この層7のPTF
E微粒子4の隙間5間にTiO粒子9が保持されている旨主張する。2
そこで検討するに,被告製品の断面のSEM写真である,甲20の1
の写真3(別添4),写真4(別添5)及び写真6(別添8,9)か
ら,被告製品の最表層付近に多数の隙間(孔)が存在することを確認す
ることができる。
しかし,仮にこのような多数の隙間(孔)の存在をもって被告製品の
最外層に多孔質構造が形成されているといえるとしても,前記2で認定
したとおり,原告主張の化学分析において被告製品の最外層にPTFE
が検出されていないことに照らすならば,このことから直ちに被告製品
の最外層にPTFEが相当量含まれているということはできない。
また,甲20の1の写真6において,別添8,9の符号9で示す部分
がTiO粒子であることを判別することは困難である。2
イ(ア)一方で,証拠(乙15の1,2,48の1の1ないし20,48
の2の1ないし20,48の3の1ないし22,49の1の1ないし
20,49の2の1ないし19,50の1,2,51,52)及び弁
論の全趣旨によれば,①被告製品は,中興化成が製造販売している製
品である「チューコーフロースカイトップ」の最外層の両面又は片面
に,レジノカラー工業株式会社(以下「レジノカラー」という。)が
製造した酸化チタン・フッ素樹脂分散液(名称「酸化チタンディスパ
ージョン」)を塗布・焼成した製品であること,②上記酸化チタン・
フッ素樹脂分散液の成分は,酸化チタン(石原産業製の製品名「ST
−01」),分散剤,界面活性剤を含むフッ素樹脂の水性ディスパー
ジョン(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製の製品名「FEP
120−J」,「FEP120−JR」)及び水であること,③「F
EP120−J」及び「FEP120−JR」の製品安全データーシ
ート(乙15の1,2)には,「FEP」のみがフッ素樹脂配合物と
して記載されていることが認められる
上記認定事実によれば,被告製品の酸化チタン含有の最外層は,F
EPの層であって,PTFEを含有するものでないことがうかがわれ
る。
(なお,乙30(「実験(光触媒反応)結果報告書」)には,被告従
業員が,「FEP120−JR」に「ST−01」を添加,攪拌し,
FEPとTiOの比率が87:13になるように調整したディスパージョ2
ンの試料について,電子顕微鏡により表面形態の観察と硝酸銀試験に
光触媒反応の確認試験を行ったところ,「酸化チタン(TiO)粒子がF2
EPで覆われていても,光触媒機能が発現することを確認した。」旨
の記載がある。上記確認試験の結果は,最外層が酸化チタン含有のF
EP層であっても光触媒機能を発揮することをうかがわせるものであ
る。)
(イ)また,前記(ア)の認定事実によれば,被告製品の最外層は,界面
活性剤を含む酸化チタン・フッ素樹脂分散液を塗布・焼成して形成さ
れていることからすると,その塗布・焼成過程(焼成前の乾燥を含
む。)において,酸化チタン,界面活性剤等の影響により多孔質状態
を形成する可能性も一概に否定することはできない。
ウ甲20の1の各写真の被写体となった被告製品の試料は,被告製品を
液体窒素に浸漬し凍結させた後,これを取り出して割断して作製された
ものであるところ(弁論の全趣旨),フッ素樹脂は液体窒素温度下にお
いても柔軟性を示すため,これを取り出して割断した際の外部力により
断面の変形が生じる可能性があることに照らすならば,甲20の1の写
真3,4,6などにみられる隙間(孔)は,その割断の際に形成された
可能性もうかがわれる。
(2)以上によれば,SEMを用いて撮影した被告製品の各写真から被告製品
の最外層にPTFEが存在することが確認できるとの原告の主張は,理由
がない。
4被告作成の竣工図等の記載
(1)原告は,被告作成の公共施設の竣工図,被告が運営するウェブサイト,
被告作成のカタログ等において,被告製品の最外層は酸化チタン含有のP
TFE層であることを表示する一方で,最外層が酸化チタン含有のFEP
層であることを表示しておらず,被告自らが,被告製品の最外層にはPT
FEが相当量存在していることを明らかにしている旨主張する。
そこで検討するに,①甲28(公文書部分公開決定通知書に係るJR守
山駅西口シェルター建築工事の竣工図図面)に,被告製品の最外層につい
て,「四フッ化エチレン樹脂」と記載されていること,②甲32(刈谷市
公文書部分公開決定通知書に係る刈谷市総合運動公園多目的グラウンド増
築(建築)工事の竣工図)に,被告製品の最外層について,「四フッ化エ
チレン樹脂+酸化チタン光触媒粒子」と記載されていること,③甲3の
2(被告ホームページの酸化チタン光触媒膜材の説明部分)に,被告製品
の最外層について,「PTFE+酸化チタン」と記載されていること,④
甲16(被告の2008年1月31日発行のカタログ「西日本駅施設への
ご提案」)に,被告製品の最外層については「四フッ化エチレン樹脂+酸
化チタン(TiO)光触媒粒子」と記載されていることが認められる。2
上記①ないし④の点について被告は,被告製品について,構成材料の主
成分のみを指して呼ぶ「呼称」等が並存する「呼称」の不統一が原因とな
り,原告提出の設計図書(図面),被告販売促進資料には,最外層がPT
FEと光触媒酸化チタンのみであるかの如き「誤記載」がされているもの
もあり,その直接の原因は,被告製品の構成に対する社内における周知不
足である旨主張する。
そして,前記2の化学分析の結果及び前記3(1)イ(ア)の被告製品の組成
等に照らすならば,被告の上記主張は,格段不自然であるということはで
きない。
(2)以上によれば,原告主張の被告作成の竣工図等の記載をもって被告製品
の最外層にPTFEが含有することを裏付けることにはならないというべ
きである。
5結論
(1)以上の検討によれば,原告主張の被告製品の走査型電子顕微鏡(SE
M)観察,化学分析及び被告作成の竣工図等の記載から,被告製品の最外
層に相当量のPTFEが存在することを認めることはできないというべき
である。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告製品は,本件発明1の構成要件Cを充足しないから,
本件発明1の技術的範囲に属するものとは認められない。
(2)よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由が
ないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官上田真史
裁判官石神有吾
(別紙)物件目録
「エバーファインコート」,「酸化チタン光触媒A種膜材」,「A種膜(片側
酸化チタン)」,「PTFE酸化チタン光触媒」の商品名の製品

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◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
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連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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応募方法
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