弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,第一審,差戻前及び差戻後の控訴審並びに
上告審を通じて,被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴人
 (1) 原判決を取り消す。
 (2)(主位的申立て)
   本件訴えをいずれも却下する。
 (3)(予備的申立て)
   被控訴人の請求をいずれも棄却する。
 (4) 訴訟費用は,第一,二審とも,被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
 (1) 本件控訴を棄却する。
 (2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
  本件は,福岡県の住民である被控訴人が,平成8年10月14日,福岡県情報
公開条例(昭和61年3月31日福岡県条例第1号,平成9年3月31日福岡県条
例第62号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,本件条例
の実施機関である控訴人に対し,福岡県公安委員会の管理下にある福岡県警察本部
(以下「県警本部」という。)及び福岡県議会事務局(以下「県議会事務局」とい
う。)の支出証拠書類である,原判決別紙文書目録記載一ないし四の文書(以下,
同目録記載の文書を「本件文書1」,「本件文書2」等といい,本件文書1ないし
4を併せて「本件各文書」という。)の開示を請求したのに対し,控訴人が,本件
各文書について,いずれも実施機関である知事部局において管理していないとし
て,同月28日付けの
公文書不存在決定通知書(4通)を被控訴人に送付したところ,被控訴人が,控訴
人は本件各文書を開示しない旨の処分をしたものであるとして,控訴人に対し,そ
の取消しを求める事案である。
 なお,福岡県では,支出証拠書類は,財務担当課から出納長に送付され,支出
決定がされた後,出納事務局(出納課)において保管されていたが,出納事務局長
は,平成8年10月1日付けで,本庁各部(室)長,教育長,警察本部長,各委員
会(委員)事務局長及び県議会事務局長に対し,支出事務完了後に各部局から支出
証拠書類保管の要請があれば移管する旨の通知を行い,その後,上記通知に従っ
て,本件文書1及び2を含む県警本部の支出証拠書類は県警本部総務部会計課に,
本件文書3及び4を含む県議会事務局の支出証拠書類は県議会事務局総務課にそれ
ぞれ移管された(以下「本件移管」という。)。
1 原判決(福岡地方裁判所)は,控訴人が被控訴人に対して行った上記公文書
不存在決定通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に該当する(以下,上記公文書
不存在決定を「本件各処分」という。)とした上,本件各文書は,本件条例の実施
機関である控訴人の職員である出納長が職務上取得した文書であり,かつ,支出証
拠書類の管理について定める福岡県財務規則(昭和39年福岡県規則第23号。平
成9年福岡県規則第82号による改正前のもの。以下「財務規則」という。)13
1条1項及び同条2項は,支出証拠書類を出納長及び出納員が管理すべきこと規定
していると解されるところ,出納長は,本件各処分以前において,県警本部及び県
議会事務局の各財務担当課から本件各文書の送付を受けていたものと認められるか
ら,本件各処分当時
,本件各文書は,実施機関である控訴人が管理していた文書であり,本件条例2条
1項に規定する開示請求の対象となる公文書に該当するとして,被控訴人の請求を
認容し,本件各処分を取り消す旨の判決をしたところ,控訴人は,原判決を不服と
して控訴した。
2 後記のとおり上告審が本件を差し戻す前の控訴審(以下「差戻前控訴審」と
いう。)は,次のとおり判断して,原判決の認定判断を是認し,控訴を棄却した。
(1) 本件各文書は,県警本部及び県議会事務局の財務担当課から出納長に送付
され,本件各処分の時点までに決裁又は回覧等の手続が終了していたものであるか
ら,控訴人の職員である出納長が職務上取得した文書であって,決裁又は回覧等の
手続が終了したものに該当する。
(2) 財務規則131条2項は,文書管理の主体を明示的に定めていないが,同
条1項の「編集」の主体は,出納長及び出納員であるから,同条2項にいう「文書
管理」の主体も出納長及び出納員であると解するのが自然である。財務規則93条
2項は,出納長が支払負担行為の決裁が適正にされていること等を確認することが
できないときは,その理由を明らかにして送付された書類を支出命令者に返送しな
ければならないと定めているが,財務規則中には,支出がされた後の支出証拠書類
について,これを返還ないし送付すべき旨を定めた規定は存在しない。そうする
と,財務規則131条は,出納長及び出納員が収入及び支出に係る証拠書類を管理
すべき旨を定める規定であると解するのが相当であるから,本件各文書は,控訴人
の職員である出納長が
管理している文書であると認められる。
 控訴人は,本件文書1及び2は県警本部が福岡県警察文書規程(昭和42
年福岡県警察本部訓令第21号)に基づいて,本件文書3及び4は県議会事務局が
福岡県議会事務局規程(昭和35年福岡県議会公示)に基づいてそれぞれ管理して
いると主張する。しかし,財務規則131条が支出証拠書類の管理主体を定める規
定である以上,上記各規程によって財務規則に定められた管理主体を変えることは
できないから,上記各規程は,前記解釈を妨げるものではない。
(3) 仮に,本件各処分がされる前に本件移管が行われていたとしても,財務規
則131条が出納長及び出納員による支出証拠書類の管理を定めている以上,実際
に支出証拠書類を管理しているのがだれであっても,知事部局の職員に併任されて
いる出納員又は経理員が支出証拠書類を管理していると解すべきである。したがっ
て,本件移管後も,実施機関である控訴人において本件各文書を管理しているもの
と認められる。
 3 控訴人は,差戻前控訴審の上記判断を不服として上告をしたところ,上告審
は,次のとおり,差戻前控訴審の上記(2)及び(3)の判断は,是認することができな
いとして,差戻前控訴審の判決を破棄し,本件を福岡高等裁判所に差し戻した。
(1) 本件条例2条1項にいう「管理」は,当該公文書を現実に支配,管理して
いることを意味するものと解すべきであり,実施機関が請求に係る公文書を現実に
支配,管理しているかどうかは,当該地方公共団体における保存の根拠規定,保存
に至る手続,保存の方法等の実態を踏まえて判断すべきである(最高裁平成11年
(行ヒ)第221号同13年12月14日第二小法廷判決・民集55巻7号1567
頁参照)。
(2) 財務規則131条2項は,保存の主体について規定しておらず,別に定め
る文書管理の方法によるものとしているのであるから,同条1項の「編集」の主体
が出納長及び出納員であるからといって,直ちに同条2項が出納長及び出納員にお
いて文書を管理すべき旨を定めた規定であると断ずることはできない。差戻前控訴
審の確定した事実によれば,福岡県財務規則運用要綱131条関係4項は,財務規
則131条2項の「別に定める文書管理の方法」とは,福岡県文書管理規程,福岡
県教育庁文書管理規程等を指すものとしているというのであり,このことにかんが
みると,同項は,収入及び支出に係る証拠書類の文書管理の方法を福岡県文書管理
規程,福岡県警察文書規程,福岡県議会事務局規程等の定めるところに委ねたもの
と解され,同項所定
の「文書管理の方法」には,文書の保存の主体の点も含むものと解するのが相当で
ある。
(3)本件各文書が控訴人の管理するものであるかどうかは,福岡県文書管理規
程,福岡県警察文書規程,福岡県議会事務局規程等の定める文書管理に関する規
定,本件各処分当時における本件各文書の保存の実態等を検討した上で判断すべき
であるところ,差戻前控訴審は,本件各処分当時における福岡県文書管理規程や福
岡県議会事務局規程等の規定の内容,本件移管が行われた時期等について審理判断
していない。
4 当審における当事者の主張
(控訴人)
(1) 本件各文書の管理の実態について
  上告審は,本件条例2条1項にいう「管理」は,当該公文書を現実に支
配,管理していることを意味すると解すべきであるとし,実施機関が請求に係る公
文書を現実に支配,管理しているかどうかは,当該地方公共団体における保存の根
拠規定,保存に至る手続,保存の方法等の実態を踏まえて判断すべきであると判断
した。
  上記判断からすれば,本件各文書は,いずれも文書保存の根拠規定,保存
に至る手続,保存の方法等の実態からみて,控訴人が現実に支配,管理している文
書ではなく,本件文書1及び2は県警本部が,本件文書3及び4は県議会事務局
が,それぞれ現実に支配,管理している文書である。
ア 文書保存の根拠規定について
 (ア) 本件各処分当時の福岡県文書管理規程(昭和61年福岡県訓令第1
号,平成10年福岡県訓令第18号による改正前のもの。以下「福岡県文書管理規
程」という。)は,出納事務局の主管に属する文書であっても,支出証拠書類につ
いては,出納事務局以外の所属,すなわち,事業実施部局で保管・保存することを
規定しており,出納事務局が保管・保存することとはされていない。
 (イ) 本件各処分当時の福岡県警察文書規程(昭和42年福岡県警察本部
訓令第21号。以下「福岡県警察文書規程」という。)は,県警本部の支出証拠書
類について,県警本部が自ら保管・保存することを定めている。
 (ウ) 本件各処分当時の福岡県議会事務局規程(昭和35年福岡県議会公
示,平成9年議会公示1号による改正前のもの(乙28)。以下「福岡県議会事務
局規程」という。)は,文書保存の主体を主務課と定めており,知事部局と共通す
る文書については,福岡県文書管理規程に準じて運用されている。
イ 文書保存に至る手続並びに文書保存の実態及び移管
  支出証拠書類は,財務担当課から出納事務局に送付され,同事務局にお
いて審査確認・支払決定を行い,監査委員の月例出納検査を経た後は,財務担当課
に返還され,そこで保管・保存される定めとなっているが,出納事務局が,債権者
からの照会に対応する等の事務処理の便宜から支出証拠書類をそのまま所持してい
る実態があった。
 この場合でも,文書の管理は,それぞれの財務担当課が行っており,各
実施機関の支出証拠書類に関する開示請求がされた場合,それぞれの実施機関にお
いて,開示,非開示の判断を行っていた。
 なお,出納事務局は,複数の財務担当課が管理する膨大な冊数の支出証
拠書類を所持していたことから,その散逸を防止し事務処理を円滑に行うため,便
宜的に,分類記号として,出納事務局出納課出納決算係が使用する文書分類記号で
ある「D」を用いることとし,本件各文書を含む上記支出証拠書類を「D-1-1
1」と表示して所持していた。
 また,福岡県では,地方自治法上,地方公共団体の債権債務の消滅時効
が5年と定められていること等を踏まえて,知事部局のみならず,県警本部も支出
証拠書類の保存期間を5年と定めており,県議会事務局や他の独立行政委員会等
も,知事部局と共通する文書については,福岡県文書管理規程に準じて運用を行っ
てきたことから,特段の事情がない限り,これらの文書が5年の保存期間の経過に
より廃棄されるものとされていた。そして,平成8年10月1日以前においては,
支出証拠書類は,事務処理の都合上,上記のとおり出納事務局に留め置かれていた
ので,廃棄のため,あえて各本庁等の財務担当課に引き渡すという煩雑な手続を経
ることなく,上記支出証拠書類の廃棄が行われていたものである。
  本件移管は,上記の所持と管理の実態を一致させるために行われたもの
であり,被控訴人が本件各文書の開示請求をした時点において,本件文書1及び2
は,県警本部が総務部会計課において現実に保管・保存し,本件文書3及び4は,
県議会事務局総務課において現実に保管・保存していた。
(2) 本件移管について
  控訴人は,次のとおり,本件各文書を,平成8年10月1日,県警本部及
び県議会事務局に対し,現実に移管した。
 ア 出納事務局は,同年8月ころ,それまで同事務局で所持していた支出証
拠書類につき,迅速・効率的な事務処理を行うため,文書の管理を各部局等に移す
こととし,同月26日,「本庁における支出証拠書類の保管について」と題する出
納事務局長通知の起案文書を作成し,同年9月11日,決裁を終えた(乙14の
1)。
 イ 支出証拠書類の移管は,同年10月1日から施行することとし,移管す
る文書の照合や搬出等の作業を伴うことから,関係部局等に,上記通知内容につい
て事前に伝達した。
 ウ 出納事務局長は,同年10月1日,本庁各部(室)長,県警本部長,県
議会事務局長等に対し,「本庁における支出証拠書類の保管について」と題する通
知(以下「本件移管通知」という。)を行った(乙14の2)。
 エ 県警本部及び県議会事務局は,同日,同通知に基づき,本件各文書につ
き受領書(乙29,30)と引換えに現実に移管を受けた(乙31,32)。
 なお,県議会事務局は,移管を受けた本件文書3及び4につき,本件移
管当時においては,同事務局の文書事務に関して定める福岡県議会事務局規程に支
出証拠書類の分類記号の定めがなかったため,移管後も,出納事務局が所持してい
た当時の分類記号等を変更することなく保管・保存していた。
(被控訴人)
(1) 本件各文書保存の根拠規程及び実態について
  本件移管は,福岡県文書管理規程,福岡県警察文書規程及び福岡県議会事
務局規程の変更や改正を根拠とするものではないから,控訴人の主張どおりであれ
ば,本件移管後だけでなく,本件移管前においても,本件各文書が県警本部及び県
議会事務局において,現実に支配,管理されていた実態が存しなければならない
が,本件移管前の本件各文書の管理実態は,以下のとおりである。
ア 支出証拠書類(支出命令書,請求書等)は,すべて出納事務局出納課に
おいて保管しており,出納事務局出納課以外の所属に対し,閲覧させ,貸出しする
に際しては,逐一出納課の承認が必要であった。本件移管通知(乙14の2)に,
「文書の管理を各部局等に移すことについて支障はない」と記載されているとお
り,出納事務局は,移管により,文書の管理を移転するものと認識していた。
 イ 本件各文書は,出納事務局出納課長が決めた大分類記号「D」で表示さ
れいるところ(乙35の2),福岡県文書管理規程に基づき定められた文書分類表
の作成及びその取扱い並びに共通文書の保存期間に関する要領(平成6年4月1日
施行,乙16(別紙))7(2)ア(ア)によると,文書分類記号の大分類項目を示す記
号は,AからCまでは共通文書を分類し,DからZまでは固有文書を分類するとさ
れているから,本件各文書の表示である上記「D」は固有文書の大分類記号であ
り,したがって,本件各文書は,共通文書ではなく,固有文書であって,福岡県文
書管理規程に基づき,出納事務局で保存,管理される旨定められている文書であ
る。
   このように,本件各文書は,知事部局の文書であり,出納事務局で保
存,管理する文書であったから,出納事務局長が文書分類表を作成し,「D-1-
11」と分類されて保存,管理されていたのである。
 ウ 受領証(乙29,30)に記載されている文書は,平成3年4月から平
成8年9月までの文書であるところ,平成3年3月以前の文書は,県警本部や県議
会事務局に引き渡されることなく,出納事務局出納課で保管された後,同課所属の
文書として,同課によって廃棄されたことが明らかである。本件各文書と同種の支
出証拠書類は,このように,出納事務局で保存し,保存期間経過後,出納事務局に
よって廃棄される実態があったのであるから,控訴人が現実に支配,管理してきた
文書である。
   上記アないしウの文書保存の実態に照らすと,仮に,本件各文書が平成8
年10月1日に移管されていたとしても,本件移管前において,県警本部及び県議
会事務局において,本件各文書が保存,管理されていた実態は皆無であり,出納事
務局において現実に管理していたことが明らかである。
   本件移管により,本件各文書の物理的な存在場所が出納事務局出納課から
県警本部,県議会事務局に変わったにずぎず,本件移管前に,本件各文書が,福岡
県文書管理規程に基づき,出納事務局により現実に支配,管理されていた保存の実
態に変化はない。
(2) 本件移管について
  控訴人は,県警本部及び県議会事務局が,平成8年10月1日,本件各文
書について,現実に文書の引渡しを受けて,本件移管がされたと主張するが,上記
移管の事実は,立証されたとは言えない。
ア 本件移管については,県警本部及び県議会事務局の受領書の写し(乙2
9,30)が提出されているのみであり,被控訴人は,上記受領書の原本を保管し
ていないと述べるが,本件訴訟が,本件各文書が現実に移管されたとされる平成8
年10月1日から約4か月後の平成9年1月24日に提訴されていることに照らす
と,本件移管の有無及び時期に関する重要な文書が本件訴訟係属中に廃棄されたと
は考えがたく,受領書の原本は,当初から存在しなかったと解するのが相当であ
る。
   また,本件移管通知の受領記録(福岡県文書管理規程51条2項),県
警本部及び県議会事務局が本件移管通知に従い,支出証拠書類保管の要請をしたこ
と及びその時期を示す証拠,移管した日時,文書の内容,具体的手続を明らかにす
る的確な証拠がいずれも提出されていない。
イ 支出負担行為決議書兼支出命令書は,所属控と決裁用に2通が作成され
ているところ,支出命令書は出納長に対する命令であり,出納長において保管すべ
き文書であるため,決裁用のものが移管されることはないと解される。
   この点は,平成15年12月に行った情報公開請求によって開示された
県警本部の食糧費支出にかかる文書については,所属控と決裁用の両方が開示され
た(甲17の1ないし9)のに対し,平成9年度及び平成10年以降の情報公開請
求によって開示された文書については,支出命令書の所属控のみが開示され,決裁
用は開示されていない(甲18の1ないし4,19の1及び2)ことに照らし,平
成10年以降の情報公開請求時においてさえ,支出命令書の決裁用文書が各部局に
移管されていないことがうかがわれるのであり,本件各文書のなかでも,支出命令
書の決裁用文書が,平成8年10月1日に現実に移管されたという控訴人の主張が
信用できないことを示している。
第3 当裁判所の判断
1 本件条例2条1項は,本件条例において「公文書」とは,「実施機関の職員
が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,フィルム,録音テープ及びビデ
オテープあって,決裁又は回覧等の手続が終了し,実施機関において管理している
ものをいう。」と規定しているところ,本件条例2条1項に定める「管理」とは,
同条2項に掲げられた各実施機関がその主体であると構成されていることからみて
も,当該公文書を現実に支配,管理していることを意味するものと解すべきであ
る。そして,実施機関が請求に係る公文書を現実に支配,管理しているかどうか
は,当該地方公共団体における保存の根拠規定,保存に至る手続,保存の方法等の
実態を踏まえて判断すべきである(最高裁平成11年(行ヒ)第221号同13年1
2月14日第二小法廷判
決・民集55巻7号1567頁)ところ,財務規則131条1項は,「出納長及び
出納員は,収入及び支出に係る証拠書類を,会計ごとに区分し,予算科目により分
類して月ごとに編集しなければならない。」と定めているが,同条2項は,保存の
主体について規定しておらず,同条1項に定める証拠書類は,「別に定める文書管
理の方法により編集し,保存するものとする。」としていることに照らすと,同条
1項の「編集」の主体が出納長及び出納員であることから,直ちに,同条2項の
「編集」及び「保存」の主体も,出納長及び出納員である旨が規定されていると解
することはできない。
2 そして,財務規則131条2項所定の「別に定める文書管理の方法」とは,
福岡県財務規則運用要綱131条関係4項によると,福岡県文書管理規程,福岡県
教育庁文書管理規程等を指すものとされているから,財務規則131条2項は,収
入及び支出に係る証拠書類の文書管理の方法を,福岡県文書管理規程,さらに,県
警本部については福岡県警察文書規程,福岡県議会については福岡県議会事務局規
程等の定めるところに委ねたものと解され,上記「文書管理の方法」には,文書の
保存の主体の点も含まれるものと解するのが相当である。
  そこで,以下,上記各規程の内容を順に検討する。
(1) 福岡県文書管理規程は,知事部局の文書管理について,「所属長(本庁の
課長等)は,文書を分類整理するため,文書分類表(様式第13号)を作成しなけ
ればならない」(56条1項),「前2項に定めるもののほか,文書分類表の作成
及びその取扱いについて必要な事項は,別に定める。」(同条3項),「前会計年
度及び現会計年度(暦年ごとに区分するものにあっては,前年及び現年)の完結文
書」については,「主務課において保管するものとする。」(60条1項)とそれ
ぞれ規定しており,上記規程56条3項等を受けて,福岡県総務部長が平成6年4
月1日付けで発した「文書分類表の作成及びその取扱い並びに共通文書の保存期間
について(通達)」(以下「福岡県総務部長通達」という。)が,文書分類表の作
成及びその取扱い並
びに共通文書保存期間に関する要領の別表第3(共通文書分類区分表)において,
出納事務局主管に属する文書で出納事務局以外の所属(本庁の課及び出先機関)で
保存する文書として,旅費請求票,旅費支給明細票,旅費請求内訳票,支出負担行
為決議書兼支出命令書,支出命令書,支払決定確認票,精算書その他の支出証拠書
類等を記載している(乙16)。
  (2) 福岡県警察における文書の取扱い等を定めた福岡県警察文書規程は,「文
書は,常に未完結文書及び完結文書に区分して,別記第5の要領で整理し,事務に
支障がないようにしておかなければならない。」(71条)と規定し,別記第5の
文書分類表において,大分類「E財務」・中分類「E3県費出納」・小分類「E3
2支出」・細分類「E32-1一般支出」の例示書類として「支出証拠書類」を挙
げている(乙12の3)。
(3) 福岡県議会事務局規程は,「文書は,主務課において整理保管し,重要な
ものは非常災害等に際していつでも持ち出せるようにあらかじめ準備し,紛失,火
災,盗難等の予防を完全にしなければならない。」(26条),「主務課長は,処
理完結した文書については,目次(様式第7号)を付し,各種類ごとに編集製本の
上,その表紙に名称,年度保存期限及び主務課名を記さなければならない。」(2
8条)と規定している(乙28)。
 3 上記のとおり,福岡県文書管理規程56条3項等に基づいて発せられた福岡
県総務部長通達は,出納事務局主管に属する文書で出納事務局以外の所属で保管す
る文書として,支出証拠書類を挙げ,福岡県警察文書規程は,支出証拠書類を同規
程の別記第5の文書分類表の要領で整理し,事務に支障がないようにしておくべき
ことを規定しており,福岡県議会事務局規程は,文書を主務課において整理保管す
べきこと及び処理完結した文書については目次を付し各種類ごとに編集製本等の
上,保存すべきことを規定しているところであり,これらの規定に照らすと,財務
規則131条が出納長及び出納員が支出証拠書類を管理すべき旨を定めていると解
することはできない。
 4 そこで,本件各文書に係る保存の根拠規定,保存に係る手続,保存の方法等
の実態を踏まえて,本件各文書が控訴人の管理するものであるかどうかについて,
検討する。
(1) 本件各文書について,出納事務局長の平成8年10月1日付け本件移管通
知に従って本件移管が行われたことは前記のとおりであるところ,証拠(乙14の
1及び2,26及び27の各1及び2,29,30,31及び32の各1及び2,
33,34及び35の各1及び2)及び弁論の全趣旨によると,以下のとおり認め
られる。
ア 本件移管前,福岡県においては,出納長による支払決定がされた後,財
務担当課から送付された支出証拠書類は,すべて出納事務局出納課において保管
し,出納事務局以外の所属の閲覧等については,出納事務局の承認が必要とされる
取扱いがされており,本件条例施行後も同取扱いが続けられていた(乙14の1及
び2)。
  そして,出納事務局出納課では,本件移管前において,上記のとおり出
納長による支払決定がされた後も各本庁等の財務担当課から送付された支出証拠書
類を同課において保管するにあたり,これらの膨大な冊数の支出証拠書類の散逸を
防止し,債権者の照会等に対応するなどの事務処理を円滑に行うため,出納事務局
出納課長の指示により,分類記号として「D」を用いることとし,本件各文書を含
む上記支出証拠書類を「D-1-11」と表示していた。
イ 県警本部は,本件移管通知により,平成8年10月1日,平成3年度か
ら平成8年度9月分までの支出証拠書類(月別に編集された冊子)合計307冊を
受領し,出納事務局出納課から移管を受けたところ,本件文書1及び2は,このう
ち,厚さ約2センチメートルの冊子1冊分であった。県警本部総務部会計課は,同
日,受領した支出証拠書類の文書及び冊数を確認した上,同課長名の受領書(ただ
し,様式は出納事務局で準備したもの)を作成して,出納事務局出納課長に提出し
た。
  県警本部においては,本件文書1及び2を,同日以降,福岡県警察文書
規程に基づき,県警本部総務部会計課が分類,整理し,同課の書類倉庫の書庫内に
「平成7年度支出証拠書類(訴訟対象)」と表示するなどして,同課が一貫して保
存し,現在に至っている。
ウ 県議会事務局においては,本件移管通知により,平成8年10月1日,
平成3年度から平成8年度9月分までの支出証拠書類(月別に編集された冊子)合
計76冊を受領し,出納事務局出納課から移管を受けたところ,本件文書3及4を
含む平成7年度分の支出証拠書類は14冊であった。県議会事務局総務課は,同
日,受領した支出証拠書類の文書及び冊数を確認した上,県議会事務局長名の受領
書(ただし,様式は出納事務局で準備したもの)を作成して,出納事務局出納課長
に提出した。
  県議会事務局においては,本件文書3及び4を,同日以降,福岡県議会
事務局規程26条に基づき,県議会事務局総務課が整理するなどし,移管当初は,
同課内のキャビネット内に,現在は,県議会事務局4階の倉庫書架において,同課
が一貫して保存し,現在に至っている。また,上記移管を受けた支出証拠書類の保
存期間については,福岡県文書管理規程に準じて運用している。
(2) 上記(1)で認定した事実によると,本件移管通知に従い,平成8年10月
1日以降,本件文書1及び2については,県警本部が引渡しを受け,福岡県警察文
書規程の定めるところにより,県警本部総務部会計課が分類,整理した上,同課書
庫に保存して,現実に支配,管理して現在に至っていること,本件文書3及び4に
ついては,県議会事務局が引渡しを受け,福岡県議会事務局規程の定めるところに
よるほか,福岡県文書管理規程に準じて,県議会事務局総務課が整理するなどした
上,同課内のキャビネット等に保存して,現実に支配,管理して現在に至っている
ことが認められる。
 5 これに対し,被控訴人は,本件各文書が平成8年10月1日に現実に県警本
部及び県議会事務局に引き渡された事実を示す証拠としては,受領書の写し(乙2
9,30)が提出されているのみであるから,上記事実を認めるに足りないなどと
するが,出納事務局において,平成8年8月26日ころから本件移管の施行日を同
年10月1日と定めた上,本件移管の準備が進められたことを示す書証(乙14の
1及び2)が原審(福岡地方裁判所)第11回口頭弁論期日において提出されてお
り,上記受領書の写しがことさら事実に反して作成されたものと疑うべき経緯は認
められないので,被控訴人の前記主張は,理由がない。
6 被控訴人は,本件移管前において,出納事務局出納課において保存されてい
た本件各文書を含む支出証拠書類は,「D-1-11」の分類記号が表示されてお
り,上記分類記号の「D」が福岡県文書管理規程を受けた総務部長通達が定める知
事部局の固有文書の大分類記号であるとして,本件各文書は,本件移管前には,上
記規程に基づき控訴人が管理する知事部局の固有文書として,出納事務局出納課
が,保管し,廃棄する等して現実に支配,管理していたものであり,本件移管後
も,本件各文書の物理的な存在場所が出納事務局出納課から県警本部,県議会事務
局に変わったにすぎず,本件移管前に,本件各文書が,福岡県文書管理規程に基づ
き,出納事務局により現実に支配,管理されていた保存の実態に変化はないと主張
する。
 出納事務局出納課では,本件移管前において,出納長による支払決定がされ
た後も各本庁等の財務担当課から送付された支出証拠書類を同課において保管する
にあたり,これらの膨大な冊数の支出証拠書類の散逸を防止し,債権者の照会等に
対応するなどの事務処理を円滑に行うため,出納事務局出納課長の指示により,分
類記号として「D」を用いることとし,本件各文書を含む上記支出証拠書類を「D
-1-11」と表示していたことは前記認定のとおりである。そうすると,控訴人
主張に係る上記分類記号は,本件移管前に,本件各文書を含む支出証拠書類に付さ
れていたものであり,上記「D-1-11」の分類記号は,膨大な冊数の支出証拠
書類の散逸を防止し,債権者の照会等に対応するなどの事務処理を円滑に行うた
め,出納事務局出納課
長の指示により付されたのであるから,福岡県文書管理規程を受けた福岡県総務部
長通達に定める固有文書の大分類記号に従って表示されたものと認めることはでき
ない上,上記通達によると,出納事務局主管に属する文書で出納事務局以外の所属
(本庁の課及び出先機関)で保存する文書として,支出命令書等の支出証拠書類が
挙げられているのであるから,本件各文書が大分類記号「D」で表示されていたの
は,専ら出納事務局における文書保存上の便宜的措置に止まるものであると認めら
れる。したがって,本件各文書について,本件移管後も,前記分類記号が付されて
保存されているとしても,それが福岡県総務部長通達に従った大分類記号によるも
のと認めることは困難であり,本件各文書に大分類記号「D」とする表記があると
しても,かかる事実
をもって直ちに本件各文書が控訴人において管理すべき出納事務局の固有文書であ
ると認めることはできないから,被控訴人の上記主張もたやすく採用することがで
きない。
 その他,控訴人が本件移管前における本件各文書の保存の実態について主張
するところを勘案しても,本件各文書が本件各処分当時において,県警本部及び県
議会事務局において,現実に支配,管理されていたとする上記認定を覆すに足りな
い。
7 以上のとおり,本件各処分当時,本件文書1及び2は,福岡県警察文書規程
によると,県警本部において保存すべき文書として規定されており,同規定に基づ
いて,県警本部総務部会計課が現実に支配,管理していること,本件文書3及び4
は,福岡県議会事務局規程によると,県議会事務局において保存すべき文書として
規定されており,県議会事務局総務課が現実に支配,管理していること,上記文書
保存の実態は,遅くとも本件各文書に対する本件条例に基づく開示請求がされる以
前である平成8年10月1日以降変わりないことが認められる。
 そうすると,本件各文書については,実施機関である控訴人が管理する公文
書であると認めることはできないから,控訴人が本件各文書について,それぞれ,
実施機関である知事部局において管理していないとして行った本件各処分は相当と
して是認されるべきである。
第4 結論
  以上のとおりであるから,被控訴人の請求を認容した原判決は不当であるか
ら,これを取り消し,被控訴人の請求をいずれも棄却することとして,主文のとお
り判決する。
福岡高等裁判所第4民事部
  裁判長裁判官   星野雅紀
  裁判官   近下秀明
  裁判官   野島香苗

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