弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
       事実及び理由
第一 申立
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成八年一一月二六日付けで、控訴人らに対してなした労働者災害
補償保険法による遺族給付及び葬祭給付を支給しない旨の処分を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二 当事者の主張
 次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第二事案の
概要」(原判決四頁二行目から同三二頁七行目まで)に記載のとおりであるから、
これを引用する。
一 原判決の補正
1 原判決四頁六行目の「事実及び」の次に「証拠(甲一ないし三、六、乙三ない
し七、九の1・2、一○、一八、一九)並びに」を加える。
2 同一六頁末行から同一七頁一行目にかけての「大阪大学医学部付属特殊救急
部」を「大阪大学医学部附属病院特殊救急部」と、同二行目の「大阪大学付属病
院」を「右病院」とそれぞれ改める。
3 同一七頁一〇行目の「本件災害の通勤起因性を認めず、」を「「本件は通勤途
上に発生した災害であるが、加害者側はたまたま通勤の機会を狙って計画し実行に
及んだものである。従って、当災害は通勤に伴う危険が具体化したものとは認めら
れないので、労働者災害補償保険法第七条第一項第二号の通勤災害には該当しな
い。」という理由で、」と改める。
二 控訴理由の要旨
1 機会原因論の問題点
 原判決は、第三者の犯罪による被害の場合に関する通勤起因性の判断枠組みとし
て、機会原因論に立脚し、本件についても通勤は機会にすぎないとして通勤起因性
を否定する。しかし、機会原因論は、結局のところ、「機会」という概念を適用す
るだけの判断基準を何も提供していない。また、機会原因論を適用した場合、「通
勤がなくても、本件災害が生じたであろう」という仮定的思考を先行させて認定を
行うことになるが、仮定的思考をとることは、当該事案の個別性、具体性を重視す
べき労災保険法の保護目的と合致しない。したがって、労災保険法の保護目的から
して、仮定的思考を介在させる機会原因論は相当でなく、少なくとも、「通勤以外
の場所で同じような犯行が同じような時期に起こせたであろうこと」の立証を行政
庁側に厳格に要求すべきである。
2 本件の通勤起因性の判断
(一) 通勤と本件犯行の関係
 原判決は、
機会原因論を本件に適用したものであり、それ自体不当なものである。本件犯行に
おいては、当該通勤経路、場所、時刻等の諸要素が、当該犯行の可能性を高め、そ
の実行を容易にしたか、また、犯行の動機付けに影響を与えた場合といえるかどう
かの検討がなされるべきである。本件において、加害者らにとってみれば、人知れ
ず、Aの身体にVXガスを付着させることが犯行を実行に移すうえでの至上命令で
あった。そして、本件通勤経路上の本件犯行現場が、犯行に備えるのに適してお
り、また犯行後の逃走に適した場所であり、犯行計画を立て実行に移すことが容易
な場所であった。したがって、本件災害は通勤に通常伴うリスクが発現したもので
あり、通勤に内在する危険が現実化したものといえる。
(二) 被害者と加害者との関係
 労災保険法による保護を考えるにあたっては、自ら危険を惹起したかどうかは重
要な要素である。自ら危険を惹起したのであれば、純粋な私的リスクとして被災者
個人の責任に帰されてもやむを得ないかもしれないが、そのような事情のない本件
においては、そのことを十分に考慮に入れたうえで通勤災害性を判断すべきであ
る。前記のとおり、当該通勤と本件犯行との密着した関連性を認めることができる
のであれば、当然に通勤の危険が現実化したものと評価すべきである。
(三) 本件災害において、当該通勤が本件犯行との間に共働原因の関係に立つこ
とは明らかであり、通勤起因性は肯定されるべきものである。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人らの請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理
由は、次のとおり訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第三争点に対
する当裁判所の判断」(原判決三二頁九行目から同四〇頁九行目まで)に記載のと
おりであるから、これを引用する。
 原判決三四頁一二行目の「原告らは」から同三五頁五行目末尾までを「控訴人ら
は、通勤経路、場所、時刻等の通勤に関する諸要素が、当該犯行の可能性を高め
て、その実行を容易にするなどの犯行の誘因となった場合には、通勤が災害発生の
共働原因といえ、当該災害は通勤に内在する危険の現実化ということができる旨主
張するが、右解釈は、労災保険法が、通勤災害を労働者災害補償保険の対象とした
趣旨からして広きに過ぎ、採用することができない。」と改める。
二 控訴人らが当審において控訴理由として主張するところは、基本的に
は原審での控訴人らの主張と同趣旨のものと理解されるところ、控訴人らの右主張
を検討しても、その点についての原判決の認定、判断が左右されるものとは認めら
れず、控訴人らの右主張は採用することができない。
第四 結論
 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することと
し、控訴費用は控訴人らに負担させることとして、主文のとおり判決する。
(平成一二年四月二六日口頭弁論終結)
大阪高等裁判所第二民事部
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 大出晃之
裁判官 古久保正人

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