弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役14年に処する。
未決勾留日数中360日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1かねて,甲と共に,A弁護士が行った甲の金融業者に対する債務の処
理に不手際があったなどと因縁を付けて金銭を脅し取ったり,甲が借金
をした悪質な金融業者等がAの名前が記載された借用書を所持している
ため,このままだとAに対して取り立てにくるなどという架空の話を信
じこませた上,同人に対し,金融業者に金を払わなければ,金融業者が
Aを刺しにくる,被告人がそれを止めてやっているが,まとまった金を
払わないと,抑えられないなどと脅迫し,同人を畏怖させて金銭を脅し
取っていたものであるが,同人の畏怖に乗じて,更に金銭を脅し取ろう
と企て,平成12年3月2日ころから平成18年12月14日ころまで
の間,多数回にわたり,大阪市北区西天満aビル所在のA法律事務所等
において,Aと面談し,または,同人の携帯電話に電話をかけるなどし
て,同人に対し「このままやったら金融屋が行きよるぞ。金融屋はお,
前を刺しに行く言うてるぞ「何が起こってもおかしくないくらい緊。」,
迫しとる「金融屋に金を持っていかないとあかん。早く金を入れろ。。」,
普通の金融屋じゃない「金が遅れたので,金融屋はむちゃくちゃ怒。」,
ってる。容赦せんと言うてるぞ。私が止めるのにも限度がある「金。」,
を払わないと私も債権者を止め切れないので,お前のところに債権者が
押しかけて何をするか分からない「お前の嫁はんもどうなるか分か。」,
らんぞ。金融屋は,お前が死んだって,嫁はんとか子供とかに行きよる
ぞ。何をされるか分からんぞ「家や近所や事務所の周りにビラをま。」,
くぞ「4000万円プラス利息を払わないと金融屋が押しかける。。」,
何をされるか分からない「今すぐ金融屋がお前のところに行く。」,
ぞ「誰のおかげで弁護士できてんねん「お前もこのへんで腹く。」,。」,
くれ。金払うか,やられるかや」などと執拗に言い,上記A法律事務。
所にあてて「今日が最終期日です。このまま放っておくと弁護士を辞,
めなくてはならない事態になるであろう「返済の件もあるので,大。」,
至急電話をしてきなさい。同時に自宅のほうにも北海道から来ている人
が訪問し,その趣旨と文面を君のところに届けると思います。君の所が
留守の場合には,ご近所に届けると思います」などと記載した文書を。
ファクシミリ送信し,深夜,兵庫県宝塚市のA方に押しかけ,あるいは,
同人方付近路上において,自動車のクラクションを何度も鳴らすなどし
て威嚇し,さらに,上記A方玄関扉等に「借金紛れで君の自慢の自宅も
既に所有権は変わってしまった。自業自得である。これ以上今までの様
な電話もしない,返金もしない,弁護士の資格も剥奪されることもあり
得る状況であることを分かっているのか」などと記載した書面を貼り。
付けるなどし,平成16年10月26日ころ,上記aビルに入居してい
る法律事務所13か所にA作成の借用書等をファクシミリ送信し,その
うちaビルの法律事務所に届いた1通を同事務所員を介してAに了知さ
せ,平成18年3月30日ころから同月31日ころまでの間,同年4月
18日ころから同月21日ころまでの間,同年6月22日ころから同年
7月10日ころまでの間及び同月13日ころから同年12月14日ころ
までの間,上記A方前の歩道を殊更塞いで自動車を駐車するなどして,
同人及びその親族の身体,生活の平穏,円滑な事務所運営,弁護士とし
ての社会的信用等に危害を加える旨を告知するなどの脅迫をして金銭の
交付を要求し,同人に,もし要求に応じなければ自己及び親族の身体等
にいかなる危害を加えられるかもしれないと畏怖させ,よって,別表1
記載のとおり,414回にわたり,同人から神戸市灘区所在の株式会社
みずほ銀行灘支店の被告人名義の普通預金口座に現金合計3億1191
万5000円を振り込ませ,もって人を恐喝して財物の交付を受け
第2スナックで知り合ったBから,信販会社に対するクレジット債務の返
済に関する相談を受け,かねて,同人に対し,債務処理はまだ解決して
おらず,被告人が請求を止めてやっている,被告人が手を引けば,同人
やその父が仕事を辞めなければならなくなり,大変なことになるなどと
執拗に脅し付けるなどして,肉体関係等を強要し,同人を畏怖させてい
たものであるが,同人の畏怖に乗じて,更に金銭を脅し取ろうと企て,
平成15年4月9日ころから平成17年5月23日ころまでの間,その
都度,佐賀県内にいた同人に電話をかけるなどして,同人に対し「サ,
ラ金に借入れの申込みをして来い「プロミスに行け「武富士に。」,。」,
行け「お前その金持っていてもしゃあないやろ。俺に預けろ」な。」,。
どと金融業者から金銭を借りて送金等をするように言うなどして,金銭
の交付を要求し,同人に,もし要求に応じなければ自己及びその親族の
身体等にいかなる危害を加えられるかもしれないと畏怖させ,よって,
別表2記載のとおり,23回にわたり,同人から兵庫県尼崎市所在の株
式会社三井住友銀行尼崎支店の被告人名義の普通預金口座等に振込送金
をさせるなどの方法により,現金合計431万円を交付させ,もって人
を恐喝して財物の交付を受け
第3Cから金銭を詐取しようと企て,平成18年8月初めころから同月下
旬までの間,その都度,神戸市内を走行する普通乗用自動車内において,
Cに対し,真実は,返済の意思がなく,受領した金銭は第三者に貸し付
けることなく,自己の用途に費消するつもりであるのに「俺に出資せ,
えへんか。この時代,金や株に投資したら,元本が目減りするかもしれ
ん。高利貸しに金を貸したら,一番安心やぞ。金融機関から金を借りれ
ばいいんや。利息は俺が払ってやるから,絶対に損はせえへん。いると
きに言うてくれたら,いつでも返すから「VISAカードでどれだ。」,
け利用枠が残っている。それでJRの新幹線の回数券を買って,金融屋
に持って行って金を作って,それを出資してくれ。いるときに言ってく
れたら,すぐに返すから「サラ金から,金を借りてもらっても,必。」,
。,要なときにはすぐに返すから。利息は俺が払うから」などと嘘を言い
同人を,そのように誤信させ,よって,別表3記載のとおり,同月3日
から同月28日までの間,4回にわたり,同人から,被告人に対する出
資金として,前記株式会社みずほ銀行灘支店の被告人名義の普通預金口
座に現金合計344万円を振込送金させ,もって,人を欺いて,財物の
交付を受けた。
(証拠)省略
(事実認定の補足説明)
第1Aに対する恐喝事件について
1弁護人の主張
弁護人は,Aが被告人の管理口座に,別表1記載のとおり金銭を振り
込んだこと,被告人が,判示第1記載のとおり,Aが経営する法律事務
所や近隣の法律事務所に文書等をファクシミリ送信したこと,Aの自宅
駐車場前付近に自動車を駐車したことは争わないが,①本件犯行前の経
緯として指摘されていることを含めて被告人が脅迫行為を行ったことは
ない,②Aから受け取った別表1記載の金銭は,Aに対する貸付金の返
済である,③被告人がAにした嫌がらせは,Aが上記貸付金の返済を怠
ったためにしたものであるが,その行為は脅迫に該当しないと主張する
ので以下検討する。なお,被告人は,公判廷で,おおむね弁護人の上記
主張に沿う供述をするが,判示記載のAに対する脅迫文言とされている
ような発言をしたことは一部認める供述をしている。
2Aの供述について
(1)Aは,平成12年3月2日以降被告人から多額の現金を恐喝され
るようになった経緯として,被告人を通じて紹介された甲から,平成
3年5月以降,様々な因縁を付けられ金銭を交付し続けていたところ,
被告人のことを,Aと甲との仲裁をしてくれたり,Aに適切な助言を
与えてくれる人物であると非常に信頼するようなった,一方,甲から
は,平成4年春過ぎころ,同じく被告人から紹介された乙が,Aの名
前を記載した偽造の借用書で借金をし,その借用書が和歌山の金融業
者に回っているとか,平成5年12月ころ,その金融業者とトラブル
になり傷害事件になってしまった,金融業者は資力のあるAやその家
族に追い込みをかけるだろうなどと言われていたところ,被告人から
も,甲の話と符合することを言われた上,金を支払わなければAもそ
の家族も殺される,上記傷害事件の件で和歌山の金融業者は3億50
00万円を要求している,被告人自身も多額の金銭を負担して交渉す
るので,Aも相応の金銭を負担するよう言われるなどし,平成6年以
降恒常的に,被告人に和歌山等の金融業者対策として多額の金銭を交
付していったなどと供述する。
(2)Aが,平成12年3月2日から平成18年12月14日ころまで
の間,被告人に対し,別表1記載のとおり,多数回にわたって多額の
現金を振り込んだことは,被告人もこれを争わず関係証拠によって優
に認められるところ,関係証拠によれば,Aは,平成6年1月ころか
ら被告人に多額の現金を交付し始め,遅くとも平成7年4月5日から
平成18年12月14日までの被告人管理口座への振込額合計は約5
億4300万円にもなっていることが認められる。Aと被告人は,平
成元年12月ころ,被告人が被告となった民事訴訟の訴訟委任を契機
として知り合ったことは明らかであり,Aが,そのような経緯で知り
合った被告人に上記のとおり長期間にわたって多額の現金を振り込む
ことは,特別な理由を抜きにして考えられないが,Aの上記供述は,
その特別な理由を具体的かつ詳細に語るものである。
また,Aは,被告人から判示第1記載のとおりの脅迫をされたと供
述しているが,その脅迫行為のうち,被告人がAの経営する法律事務
所や近隣の法律事務所に判示記載の内容のファクシミリを送信したこ
と,深夜A方に押しかけたり,同人方付近路上において,自動車のク
ラクションを何度も鳴らすなどしたこと,判示記載の期間,A方前に
自動車を駐車したことについては,被告人もこれを争っておらず,関
係証拠によって明らかに認められる。また,被告人がA方玄関扉等に
書面を貼り付けるなどしたことについても,当該文書の存在によって
裏付けられている。さらに,判示第1記載の脅迫行為のうち被告人か
らAに対する脅迫文言については,Aが録音していたAと被告人又は
甲との会話状況を録音したテープやAが備忘録代わりに付けていたと
認められる手帳の記載によって間接的に裏付けられているものがある
ほか,被告人自身,公判廷において,Aに金銭を交付させるため,あ
たかも被告人がAの防波堤となって和歌山,広島,北海道などの金融
業者と交渉し,その金融業者がAのもとへ行くのを食い止めるために
は金がいる,金融業者にAの借用書を入れなくてはならないなどとい
った架空の話をしたり,金融業者に指示してAのもとに取立てに行か
せる,俺も腹をくくってるからお前も腹をくくれなどという話をした
旨供述しており,A供述と重要な部分において符合している。なお,
被告人は,上記金融業者などの架空の話をした時期は平成16,17
年以降からであったかのような供述もするが,手帳の記載や録音され
ているAと被告人の会話状況からすれば,Aは,平成5年12月ころ,
被告人から,金融業者から要求された高額の金銭を被告人も負担する
のでAも準備するよう説得され,平成6年1月27日に,被告人に1
500万円を交付したことが動かし難い事実として認められる。した
がって,被告人の上記発言時期に関する供述は客観的証拠と矛盾して
いる。
そのほかAは,長年にわたる被告人や甲とのやりとりを具体的かつ
詳細に語っているが,その供述内容のポイント等は,上記の会話状況
や手帳の記載及びAがその当時作成した文書等の客観証拠に符合して
いる。
(3)A供述は,本件が15年以上前の出来事に端を発しているにもか
かわらず,平成3年5月ころからAが甲から恐喝されるようなった経
緯,甲からの恐喝内容,平成5年12月ころを境に甲からの恐喝が次
第に被告人からの恐喝へと推移していった経緯,被告人からの恐喝内
容のいずれについても,非常に詳細かつ具体的である。また,Aは,
当初の鷲林寺や武庫川の河川敷での出来事や,和歌山の金融業者と関
連させて被告人から受けてきた要求の内容,何枚もの多額の借用書を
作成させられた事情,平成9年以降姿を見せなくなった甲について被
告人からロシア人に殺されたと告げられた状況など,真に体験した者
でなければ語ることができない迫真的で重要なエピソードを数多く語
っている。さらに,Aは,長い経過の中でなぜ被告人に恐喝され続け
たのかということについて,被告人のことを当初は甲を押さえその後
は金融業者を押さえてくれる存在として信頼していたところ,脅迫し
てきた甲と信頼していた被告人の話が一致するなどしたため,Aやそ
の家族に危害を加えかねない金融業者が実際に存在し,被告人が自ら
金銭の負担をしながら金融業者と交渉していたことは信じて疑わなか
ったこと,そのため,平成9年ころからは被告人から命令されるよう
な関係となり,当初Aが被告人に抱いていたような感謝の念はなくな
っていったが,金融業者と被告人に対する二重の恐怖から,被告人の
要求に従ったというように,自らが体験した事態の推移に応じて変化
した被告人に対する心情も交えながら具体的に供述している。そして,
A供述の内容は,詳細な反対尋問にさらされても一貫している。
(4)弁護人は,①Aは弁護士であるから,Aが供述するような恐喝被
害に遭えば警察に通報するのが当然であるところ,Aは顧客からの預
り金に対する業務上横領容疑で逮捕されるまで,本件について一切警
察に通報しておらず,それは不自然であること,②Aは事件処理を通
じて暴力団と交渉した経験もあるのであるから,裏の金融業者なる存
在を信じるのも不自然であるし,被告人が裏の金融業者の存在を使っ
て恐喝しているのであれば,当該金融業者と直接交渉するなどして相
手を確認することも可能であったにもかかわらずそのようなことをし
ておらず,不自然であるなどと主張する。
まず,①について,Aは,甲や非常に信頼していた被告人から金融
業者がすぐに刺しに行くと言われていたので,そのことを信じ,警察
に頼んでいたのでは間に合わないと思っていたし,北海道や和歌山の
金融業者といってもその名前や場所が特定されていないことから警察
に通報しても警察も対応してくれないと思ったと供述しているところ,
Aの弁護士としての職務経験から,そのように考えることもあり得る
ところであり,また,甲や被告人から継続的に恐喝を受け,金融業者
等から危害を加えられることに切迫した恐怖を感じていたことをも併
せ考えると,Aが本件について一切警察に通報しなかったことが特段
不自然とまではいえず,これによってA供述の信用性が損なわれるも
のではない。
また,②の点についても,Aが,被告人が語る金融業者の存在を信
じていたことは,既に指摘した録音テープ,手帳等の客観証拠により
明らかであり,金融業者の存在は,Aと被告人の間で当然の前提にな
っていたと認められる。そして,Aは,自ら金融業者と交渉しようと
思ったこともあったが,被告人に必ず止められ,信頼している被告人
から並の金融屋ではないなどと言われており金融業者に対する恐怖感
もあったので,被告人に任せておこうと思ったと供述しているところ,
そのようなAの供述が特段不合理とはいえない。
3甲の供述について
(1)甲は,被告人から,被告人を通じて銀行協会に金を預ければ,利
息が付いて倍になるなどと言われ,金融業者から借金をしてまで被告
人に金を預けるようになったが,被告人の紹介で借り入れたY商事か
らの1000万円の返済が滞り,厳しい取立てをうけるようになった
こと,被告人からAを紹介され,AにY商事の件の解決を依頼したが,
AがY商事との間で締結した和解金の支払ができず被告人に相談した
ところ,被告人から,Aの交渉がまずかったなどと因縁をつけて金を
取ればいいなどと言われ,その指示に従って,Aの自宅や事務所に押
しかけたり電話をしたりして金の支払いを要求し続けたこと及びその
後も,平成10年ころまで被告人の指示に従って,Aを恐喝し続けて
いた状況について,具体的に供述をしている。
(2)上記A供述等によれば,被告人は,Aに対し,甲からの脅迫行為
について相談に乗ったり,仲裁するような態度を示していたものの,
結局,Aに対して甲の要求どおりの金銭を支払うよう助言しており,
また,甲がAに話していた和歌山の金融業者の件では,Aからの相談
を受けた被告人も,実体のない金融業者の存在を信じ込ませた上で,
自分も金銭を負担するからなどと言い,Aに金銭の支払を要求するな
どしている。このように,被告人の言動を通じてみれば,被告人は甲
の脅迫行為に歩調を合わせて被告人に金銭を支払うよう仕向けていた
のであり,両者が当初から相通じていたことは高度の蓋然性をもって
認められる。そして,甲が被告人から離反し,Aに対する恐喝行為を
止めた後も,被告人は,甲が金融業者に殺されたなどと述べて,更に
Aを畏怖させ,金銭を要求し続けていたことからすれば,甲によるA
に対する恐喝行為については,当初から,被告人が積極的,主導的に
遂行していたものと推認される。
甲の供述は,全体を通じて具体的かつ自然であり,上記認定にもよ
く符合している上,特に被告人から恐喝の指示を受けた際の状況や文
言については迫真性がある。また,Aを恐喝する原因となる被告人に
対する金銭の預託については,甲が作成し被告人に渡したメモによっ
て裏付けられている上,Aに対する恐喝行為の具体的態様については,
A供述とも概要において一致しているなど,他の証拠関係とも整合し
ている。
(3)弁護人は,甲が被告人の話を信じて被告人に約6000万円もの
金銭を預けながら,分け前もなく,被告人の指示に従ってAを恐喝し,
結局被告人から金銭を返還してもらうのをあきらめたというのは不自
然であり,甲が作成し被告人に渡したメモを被告人に預けた金銭を記
載したと理解するには合理的に説明できない点があり,信用できない
と主張する。
甲は,これらの点につき,当時被告人に多額の金銭を預けていたこ
とや,金融業者からの取立てが怖かったので,被告人の指示どおりに
Aに繰り返し連絡し追い込んでいった,その後も今まで預けた金銭を
戻して欲しいという気持ちもあり,被告人に従ってAを脅迫していた,
平成10年ころ,本業の事業が忙しくなり,本業で生活できるように
なっていたので被告人の下を離れたが,被告人が怖かったので返済を
強く求めたり,刑事告訴することはなかったと供述している。この点
は,被告人の話を信じて金銭を預けたものの,事業によって生計を立
てることができるようになったことに加え,当時からAに対する行為
が恐喝に該当すると認識していたという当時の甲の心理状態からすれ
ば,あえて警察や裁判に訴えることで自らの行為を明るみに出すこと
を避け,預けた金銭の返済をあきらめたとしても不自然ではない。
次に,弁護人が合理的でないと主張するメモについては,確かに,
同メモは10年以上前に作成されたものであるため,甲の供述には記
憶に曖昧な点があることは否定できないが,甲は,平成6年以降に,
それまでに被告人に預けた金を返してもらいたいとの趣旨で作成した
と述べているところ,同メモの記載自体に特段不合理な点は見あたら
ない。すなわち,同メモ本文2枚目には,平成2年11月に「100
0万Y」の記載があるところ,この記載は,甲がY商事から100
0万円を借り受けた旨の借用書に符合し,Y商事から1000万円を
借り受けて被告人に預けた旨の甲の供述を客観的に裏付けている。ま
た,弁護人が不合理であると主張する本文2枚目の「8月200万
Z」の記載は,Zから300万円借り入れて被告人に預けたが,そ
のうち100万円は既に被告人がZに返済したので,残りは200万
円であるという趣旨であり,本文4枚目の単に「社長」記載され,数
字が計上されているものは,甲が供述するように甲の自己資金から被
告人に預けた金額であり,また,同じく4枚目の「9月△190万円
社長より(W小切手分,6枚目の「平成6年200万円程い)」
ただいてます」の文言は,甲が被告人から金銭を受け取った場合の特
別の記載であると,合理的に理解することが可能である。したがって,
弁護人の主張を考慮しても,甲供述の信用性は揺るがない。
(4)また,弁護人は,甲が被告人に6000万円を超える金銭を預け
ていると供述しながら,甲の経営する事業が発展しているのは不自然
であって,Aから脅し取った金銭を取得していたからこそ事業が成功
したと主張するが,甲の供述によっても,当初国民金融公庫からの借
入金については返済しておらず,自宅にも抵当権が設定されていると
いうのであるから,この点も甲供述の信用性を否定するものではない。
その他種々弁護人の主張する点を考慮しても甲供述の信用性は否定さ
れない。
4恐喝罪の成否について
(1)以上のとおりであって,A及び甲の公判供述は,いずれも十分信
用に値し,これらの供述に関係各証拠を総合すると,被告人は,判示
記載の文言及び方法によってAを畏怖させ,同人から金銭の交付を受
けたことが認められる。
(2)弁護人は,判示第1記載の脅迫文言について「金融屋が刺しに,
来る」などの文言は第三者の加害行為の告知であって,恐喝罪にお。
ける脅迫に該当しないと主張する。しかし,被告人は,Aに対して,
平成12年以前から「私が必死で止めてるんや」との文言を用い,。
て自己の関与を示している上,本件起訴に係る平成12年3月2日こ
ろ以降は「私も限度がある。これ以上金融屋を止められない」な,。
どと,自らが金融業者との交渉を担当しており,被告人に金銭を交付
して金融業者との交渉をしてもらわなければ,金融業者がA及びその
家族に危害を与える旨の文言を用いているのであるから,被告人が金
融業者の害悪行為の決意に対し影響を与えることができる立場にある
ことをAに知らせていたのであり,判示第1記載の文言が恐喝罪の脅
迫に該当することは明らかである。
(3)また弁護人は,借用書などのファクシミリ送信,A宅への車の駐
車及びクラクションについては,Aを畏怖させるものではなく,嫌が
らせにとどまるから,恐喝罪の脅迫に該当しないと主張する。しかし,
告知する害悪の内容は,それ自体が独立して相手方を畏怖させるに足
りないものであるとしても,他の事情と相まって相手方を畏怖させる
ものであれば恐喝罪の脅迫に該当すると解すべきところ,上記行為は
いずれも金融業者が刺しにくる旨の脅迫と並行して,金銭交付の手段
として行われたものであるから,当該行為が他の脅迫行為及び脅迫行
為によるAの畏怖状況と相まって恐喝罪における脅迫に該当すること
は明らかである。
(4)さらに,弁護人は,Aは暴力団とも交渉経験があり,かつ暴力団
との交渉を得意としていたのであるから,公訴事実記載の程度の脅迫
文言で畏怖することはないと主張するが,公訴事実記載の脅迫文言は,
一般的に人を畏怖させるに十分なものである上,下記のとおり,被告
人のAに対する貸付けや慰謝料支払い約束は認められず,Aが同情や
憐憫等の理由で被告人に金銭を交付していたことをうががわせる事情
も認められないことからすれば,Aが公訴事実記載の脅迫文言等によ
って畏怖し,金銭を被告人に交付していたことは明らかである。
(5)被告人は,公判廷において,平成2年ころに,被告人がAに対し
て,2億8700万円を貸し付けており,Aから被告人への振込みは,
その返済であると供述する。なお,被告人は,公判廷において,平成
4年ころ,被告人が傷害事件で起訴された際,Aは被告人に無罪獲得
を約束し,無罪がとれなかったことへの慰謝料として10億円支払う
ことを約束したとも供述する。
確かに,被告人を貸主,Aを借主とする2億8700万円の借用書
が作成されており,Aもこれに署名したことを認めている。しかし,
上記借用書の作成年月日は平成7年であるところ,同借用書について
Aは,被告人から和歌山の金融業者と交渉するに際して必要だと言わ
れ,最初は平成5年12月16日ころ6000万円の借用書を作成し,
次に和歌山の金融業者から要求されている3億5000万円の慰謝料
について交渉するのに必要だと言われ,平成6年4月ころに2億50
00万円の借用書を作成し,更に同様の理由から必要だといわれ,平
成7年2月ころに2億8700万円の借用書を作成したと供述してい
る。Aの上記供述は,A作成名義の借用書の存在をその作成年月日も
含めて矛盾なく説明できている上,録音・反訳されたAと被告人及び
Aと甲の会話内容やA作成の手帳の記載によっても裏付けられている。
一方,被告人の公判供述についてみると,被告人は裏口入学等で得た
金銭をアパートに保管し,それをAに貸し付けたと供述するが,原資
について客観的裏付けがないばかりか,関係証拠によれば,被告人は,
各種国税や地方税を滞納していたほか,平成元年6月ころから自宅土
地建物の住宅ローンの支払いを怠り,同年8月には住宅ローン保証会
社から自宅土地建物が差し押さえられ,平成2年には自宅を任意売却
し,その後被告人は借家住まいをしていたことが認められるのであっ
て,当時被告人が多額の資産を有しており,Aに2億円を超える貸付
けをしたとは到底認められない。
これらのことからすれば,Aの被告人に対する金銭の振込みが,被
告人のAに対する貸付金の返済であったとする被告人の公判供述は全
く信用することができないない。
なお,被告人は,公判廷で,傷害罪で起訴された件で無罪を取れな
かった慰謝料として,Aが被告人に対し10億円の支払を約束とした
とも供述する。しかし,この点についての被告人の供述自体,極めて
唐突であるだけでなく,上記の録音テープには,起訴された傷害事件
を巡りAが被告人に無罪獲得は非常に難しい旨説明している会話が録
音されている。これらの事情に照らし,被告人の上記公判供述も到底
信用することができない。
(6)以上説示したとおり,被告人に判示第1のAに対する恐喝罪が成
立することは合理的疑いなく認められる。
第2Bに対する恐喝事件について
1弁護人の主張
弁護人は,Bが被告人が管理する口座に対して,別表2記載のとおり
金銭を振り込んだことは争わないものの,Bに肉体関係を強要したこと
はなく,Bから金銭を脅し取ったことはないから被告人は無罪であると
主張する。また,弁護人は,期日間整理手続において,Bが被告人に手
渡したとされる25万円については受け取りを否認し,Bから受け取っ
た金銭は,Aが被告人に支払を約束していた金銭を支払わないためBが
Aに渡す債務整理の返済資金を受け取っていたものであると主張した。
以下検討する。
2Bの供述について
(1)Bは,平成12年の末ころ,いわゆるキャッチセールスで作った
借金を返済するためにキャバレーでアルバイトをしていた際に客とし
て来店した被告人と知り合い,営業のために被告人と食事をしたりし
ていたところ,借金について被告人に話すとAを紹介された。平成1
3年になり,被告人から肉体関係を求められ,これを拒否したところ,
被告人から自分が手を引くと金融業者が取り立てに来て,風俗で働か
なければならなくなり,父親も仕事を辞めなくてはならなくなるなど
と脅され,肉体関係を強要された。その後も判示第2記載の文言等で
脅されて肉体関係を強要されていたが,平成15年4月ころに,被告
人から,ブラックリストに載っていないか確認するために必要である
などと言われて,金融業者等のカードを作らされ,借り入れた金銭を
被告人に振り込んだり手渡し,その後も被告人に対する恐怖心から要
求されるままに金融機関から借金をして公訴事実記載のとおりの金銭
を被告人に交付したなどと供述する。
(2)関係証拠によれば,大学の4回生であったBは,平成12年末こ
ろ,借金返済のためアルバイトをしていた飲食店で被告人と知り合い,
被告人に債務整理を相談したりしたが,平成13年4月に,希望して
いた職種に就職するため佐賀県に転居したこと,しかし,それ以後も
被告人との交際は継続し,平成15年4月になってから約2年間,消
費者金融等の金融機関から借金をしてまで被告人に多額の金銭を送金
したこと,Bは,最後に送金した約1か月後に,弁護士を通じて被告
人に金銭の返還を請求する内容証明郵便を送付したことが明らかに認
められる。上記客観的事実関係からすれば,Bが,なぜアルバイト先
で知り合ったにすぎない年齢の離れた被告人との関係を地方に転居し
た後も長く続け,債務整理の相談をしたBが被告人に多額の金銭を送
金したのか疑問が生じるところ,B供述は,この疑問を客観的事実関
係と矛盾することなく合理的に説明できている。また,Bの供述は具
体的かつ詳細であり,特に被告人から脅迫を受けた状況や脅迫文言に
ついては特徴的なものであって,被告人に金銭を交付し続けた理由と
して,特に被告人から理由を言われることなく命じられたが,被告人
を畏怖するあまり,命じられるまま借金をして被告人に送金したと,
当時の心境ををありのまま供述しようと努めているのであり,その供
述態度は真摯である。また,被告人が受領を否認する25万円につい
ても,判示第2別表2番号12及び21に相当する日に,兵庫県内に
店舗を有する但馬銀行から,それぞれ20万円及び5万円を引き出し
たことを示すカードサービスご利用控によって裏付けられている。さ
らに,Bは,被告人のことをおそれ,被告人から言われるがまま,被
告人に対する反省文を書いたり,被告人から命じられた調査を行った
り,被告人から命じられるまま第三者に対する脅迫文書等を作成した
と,本件当時被告人を畏怖していたことを具体的なエピソードで迫真
的かつ説得的に供述をしているが,これらの供述はそれぞれ客観証拠
によって裏付けられている。
(3)弁護人は,BはAと連絡をとっており,キャッチセールスで作っ
た借金について既に債務処理が終わっていたことを知っていた可能性
が高いと主張するが,Bが債務処理の終了を知っていたのであれば,
Bが被告人に金銭を交付する必要はなくなる上,この点についてBは,
Aに相談はしたものの,その結果債務がどのように処理されたかはわ
からないと供述し,Aも,金融業者と和解しようとしたがBと連絡が
とれなくなったので無断で和解したと供述している。したがって,弁
護人の上記主張は単なる憶測に過ぎず,Bの供述の信用性を減殺する
ものではない。
また,弁護人は,期日間整理手続において,Bから受け取った金銭
は,Aが被告人に支払を約束していた金銭を支払わないためBがAに
渡す債務整理の返済資金を受け取っていたものであると主張した。し
かし,被告人は,公判廷で,Aが債務整理を終わらせていたことを知
らなかったと供述し,上記弁護人の主張に沿う供述をしていない。ま
た,弁護人の上記主張の前提とする被告人からAに対する金銭の貸付
けがないことは既に判示したとおりであるから,弁護人の上記主張は
およそ理由がない。
被告人が公判廷で供述するBから金銭を受け取っていた理由は要を
得ないものであるが,Bに金銭を借り入れさせたのはブラックリスト
に載っているか確認するためであり,借り入れた金銭はBが持ってい
てもしかたないので被告人が預かり,被告人が返済資金を送金してい
たと供述するようである。しかし,ブラックリストに載っているか確
認するためであれば,借入後直ちにBが借入先に全額を返済すればよ
いのであって,被告人の上記供述は被告人が金銭を受領する理由とし
て不合理であり,また,長期間にわたって反復的にBに金銭を借り入
れさせる理由ともならない。
したがって,被告人の上記供述は全く信用できない。
。(4)以上のとおりであって,Bの供述は十分に信用することができる
3恐喝罪の成否について
弁護人は,Bは,債務処理に関する脅迫文言と送金は関係ないと供述
していることから,恐喝罪は成立しないと主張する。しかし,Bは一つ
一つの送金について,なぜ送金しなくてはならないのか理由はよく分か
らなかったが,被告人が怖かったから言われるままに送金したとも供述
しているのであり,被告人は,債務処理に関してBを脅迫し,被告人を
恐れていたBの畏怖に乗じて金銭の交付を受けていたのであるから,恐
喝罪が成立することは明らかである。
第3Cに対する詐欺事件について
1被告人及び弁護人の主張
被告人は,Cが被告人の管理する口座に対して,別表3記載のとおり
金銭を振り込んだり,手交していたことは認めるものの,Cからは金銭
を借り受けたもので,かつ借り受けた金銭は既に返済していると供述し,
弁護人も同様の主張をしている。
2C供述について
(1)Cは,輸入家具の商社に勤めていた際,被告人方のソファーの張
り替えを通じて被告人と知り合い,食事をするようになった。被告人
から,高利貸しをしているからお金を出資しないかと言われ,出資す
るお金がないといったら,個人でお金を借りれば独立した際に信用に
なるし,利息は被告人が払うし,必要な時はいつでも返すからと言わ
れ,カード会社から金銭を借りて被告人に渡し,その後も消費者金融
から金銭を借り入れるなどして被告人に送金していたなどと供述して
いる。
(2)Cの供述は,その内容も具体的かつ詳細であり,特に,被告人か
ら出資話をもちかけられた際の文言については特徴的で迫真性のある
ものである。そして,関係証拠によれば,Cは,勤務先の客として被
告人と知り合い,その僅か7か月後の平成18年8月中に,被告人に
対し,消費者金融から借金をしてまで344万円もの現金を交付した
ことが認められるが,Cの供述は,その理由を合理的に説明する内容
となっている。
したがって,Cの供述は十分信用することができる。
3詐欺罪の成否について
上記C供述によれば,被告人は,Cに対し,判示第3記載のとおりの
文言により,自らが営む高利貸しに出資するよう勧誘して,これを信用
したCから金銭の交付を受けたことが認められるが,被告人が高利貸し
を営んでいないことは被告人も公判廷で認めるところであり,関係証拠
によれば,被告人はCから受領した金銭を自らの用途に費消したことが
認められる。これらのことからすれば,被告人は架空の出資話をCに信
じ込まさせて,返済する意思もないのに,Cから金銭を騙し取ったこと
に疑いの余地はなく,被告人には判示第3記載のとおりの詐欺罪が成立
することは明らかである。なお,被告人は,Cの求めにより,後日,7
0万円を返済したことが認められるが,このことは,上記認定を左右す
るものとはいえない。
弁護人は,Cの供述によっても,被告人に金銭を交付した主要な理由
は,被告人を怒らせたくなかったという点にあるから,詐欺罪は成立し
ないと主張する。Cは,被告人に金銭を交付した動機には被告人との人
間関係を保ちたいとの思いや,借金を増やすことは個人の信用を増すこ
とになるとの被告人の言を信じたからでもあったと供述するが,一方で,
被告人が述べた出資話は信じており,信じたからこそ金銭を交付したと
明確に供述し,被告人に交付した金銭が返済されなくてもよいと思った
とは供述していない。そうすると,被告人との人間関係を保ちたいとの
気持ちと被告人の欺罔行為によってCが錯誤に陥ったこととは両立する
ものであり,Cが主として被告人の欺罔行為によって錯誤に陥ったため
被告人に金銭を交付したとの認定を妨げるものではない。
第4被告人の捜査段階の供述について
1被告人及び弁護人は,被告人の捜査段階の供述調書について,被告人
は,P検事から認めれば保釈で出られるし,執行猶予が付くなどの説明
を受けて,虚偽の自白をしたものであり,任意性も信用性もないと主張
する。
2しかし,P検事は上記のようは説明をしたことを否定しているところ,
同人の供述に特段不自然不合理な点はない。また,被告人は捜査段階に
おいて,数名の弁護人と接見していることに加え,逮捕された2日後の
平成19年1月12日に作成された供述調書において,すでに,逮捕の
被疑事実を超えて,Aから6億円以上の金銭を脅し取っていた旨の記載
や犯行の動機等が記載されていること,逆に,被告人は,当初の勾留が
満期釈放となった後,これと関連する被疑事実により再逮捕,勾留され,
さらに,P検事から実刑間違いないと言われて非常なショックを受けた
と言いながら,なおも事実を認める供述を続けていたことからすれば,
被告人の捜査段階における供述の前提として,保釈や執行猶予の約束が
あったとするのは不自然であり,P検事が上記のような説明をしたとの
被告人の公判供述は信用することができない。その他,弁護人が主張す
る諸事情を検討しても,被告人の検察官に対する供述調書の任意性に疑
いを生じさせるような事情はうかがえず,また,本件の逮捕経緯等から
すれば,弁護人の主張するような違法収集証拠に該当しないことも明ら
かである。
3以上の事実に加え,捜査段階の被告人供述は,多くの点で上記で検討
した被害者らの証言と一致している上,特に,判示第1の犯行をする動
機となった事実関係等を含め,その供述内容は詳細かつ具体的であって,
信用性も認められる。
第5結論
以上のとおり,各被害者の供述は十分信用することができ,これに被
告人の検察官に対する各供述調書その他の関係各証拠を総合すると,被
告人が判示第1ないし第3の各犯行に及んだことは,合理的な疑いを入
れる余地なく認めることができる。
(法令の適用)省略
(量刑の理由)
本件は,被告人が,弁護士である被害者に対し闇の金融業者からの危害が
切迫しているなどと脅して多額の現金を脅し取り(判示第1,年若い女性)
被害者に対し,いわゆるキャッチセールスで負った債務の処理にかこつけて
現金を脅し取り(判示第1,2,さらに,別の被害者1名から高利貸しへ)
の出資名目で現金を騙し取った(判示第3)という各事実からなる事案であ
る。
判示第1の犯行についてみると,その被害額は,3億1000万円以上と
甚大である。しかし,本件の特徴は,被告人が,Aに対して,6年以上もの
長期にわたって,自らに寄せられた信頼を利用して完全な作り話を信じ込ま
せた上で,金融業者がAだけでなくAの妻子に危害を加える旨の脅迫を執拗
に繰り返し,Aの事務所,自宅及び近隣の法律事務所等に多量のビラを貼り
付けたり,ファクシミリ送信をしたりし続け,Aの自宅前に車を駐車したり,
クラクションを多数回鳴らすなど,ありとあらゆる陰湿かつ強烈な脅迫行為
を尽くし,日常的にAから多額の現金を脅し取り続けた結果,上記被害総額
に到達したところにある。その犯行態様は極めて巧妙,計画的で,常軌を逸
した悪質極まりないものというほかなく,その被害を単純に喝取金額のみで
評価することはできない。Aは3億円余りの顧客からの預り金を横領したた
め有罪の実刑判決を受けており,近い将来弁護士資格が剥奪されることも免
れないところ,弁護士であるAが業務上横領という犯罪行為に及んだ大きな
原因に,本件被害があったことは疑いようもなく,Aは,財産的被害にとど
まらない損失を被っている。また,Aのみならずその家族も,本件によって
人生を大きく狂わされたのであって,そのような実情も量刑上考慮せざるを
得ない。加えて,被告人は,公訴提起はされていないものの,平成3年5月
ころから甲と役割分担をして自らへの信頼を高めながら,同様の犯行を重ね
高額の金銭を喝取していたのであり,そのような経過の上で行われた本件の
重大性,悪質性はより一層著しいというべきである。
判示第2の犯行については,被告人は,借金の相談をしてきたBに対し,
その弱みにつけ込み,威圧的な態度をとりつつ,同人に肉体関係を強要しな
がら,同人が被告人を畏怖しているのに乗じ,2年間にわたって金融機関か
ら借り入れさせた金銭を脅し取っていたもので,犯行態様はまことに執拗か
つ悪質である。被害額は400万円余りと高額であり,20代半ばの数年間
を被告人から脅迫等され続けてきたBの精神的苦痛も計り知れない。被告人
がBに対して金融機関に対する借金の返済に宛てるための金銭を送金してい
ることは認められるが,その送金は到底十分なものではなく,それがためB
の金融機関に対する借金はさほど減少しなかったのであるから,被告人のB
に対する送金によって,被害回復がなされたとは評価できない。
判示第3の犯行においても,被告人は,Cに対して,出資すれば絶対に損
はしないなどと嘘を言って,同人から金銭を騙し取っており,同人に現金を
用意させるため,クレジットカードを使用して現金を作るように命じたり,
消費者金融で借り入れをさせるなどして,金銭を交付させていたものであり,
犯行態様は悪質で,被害額も300万円余りに上っている。
以上のとおり,各被害者は,判示の犯行により,程度の差はあれいずれも
重大な被害を被っているが,被告人は,判示第1及び第2の被害者に対して,
何ら慰謝の措置を講じていないばかりか,いずれの犯行についても,公判廷
において,被害者らに与えた財産的被害や精神的苦痛に何ら思いを致さず,
被害者の名誉等を更に貶めるような虚偽の弁解を弄しているのであって,反
省の態度は全くみられない。特に,判示第1及び第2の被害者の処罰感情に
はまことに厳しいものがあるが,そのことは,本件各被害状況に照らせば十
分理解できるところである。
以上の事情に照らすと,被告人の刑事責任は極めて重く,処断刑の範囲内
における最高の刑罰で被告人を処断することも十分考えられるところである。
しかしながら,本件で検察官は,被告人に対して懲役14年の求刑をして
いるところ,公益の代表者たる検察官の科刑意見は十分傾聴すべきものであ
ること,判示第2及び第3の被害については一部被害回復がなされているこ
となど被告人に有利な事情も存在することを併せ考え,被告人に対し,求刑
どおり主文の刑を科することとした。
(求刑懲役14年)
平成20年8月15日
大阪地方裁判所第9刑事部
裁判長裁判官笹野明義
裁判官安永武央
裁判官野村昌也

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