弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原決定を取消す。
二 被抗告人らの本件執行停止の申立をいずれも却下する。
三 手続費用は、第一、二審を通じて抗告人と被抗告人学校法人Jとの間に生じた
ものは、同被抗告人の負担とし、抗告人と被抗告人Aとの間に生じたものは同被抗
告人の負担とする。
○ 理由
第一 抗告人は、「主文第一、二項同旨及び手続費用は全部被抗告人らの負担とす
る。」との裁判を求めたが、その理由は、別紙一に記載のとおりである。
被抗告人らは、「本件抗告を棄却する。」との裁判を求めたが、その理由は、別紙
二記載のとおりである。
なお、被抗告人学校法人J(以下、単に「被抗告人J」という)は、当審におい
て、本件執行停止(効力停止)の申立中、抗告人が昭和四五年九月二六日に被抗告
人Jに対してなした原決定別紙(二)記載の換地処分のうち、同別紙(二)に記載
の帯広市<以下略>宅地六〇〇坪を従前の土地とする換地処分の執行停止(効力停
止)申立を取下げた。また、原審相申立人Bは、当審において、本件執行停止(効
力停止)申立を取下げた。
従つて、当審において被抗告人らの本件執行停止(効力停止)申立の対象となつて
いる換地処分は、被抗告人J宛になされた原決定別紙(二)に記載されている換地
処分のうち従前の土地を帯広市<以下略>、同所<以下略>、同所<以下略>、同
所<以下略>、同所<以下略>とする各換地処分及び被抗告人A宛になされた原決
宕別紙(三)記載の従前の土地を同所<以下略>とする換地処分のみである(以
下、右各換地処分を一括して一本件換地処分」と呼称し、本件換地処分において従
前の土地とされた土地を「本件従前の土地」と呼称し、これを個別的には例えば
「一番の二の土地」の如く地番と枝番のみをもつて呼称する)。
第二 当裁判所の判断
一 本件執行停止(効力停止)申立の本案である釧路地方裁判所昭和四五年(行
ウ)第一三号換地処分取消請求事件の記録によれば、被抗告人J、同A及び原審相
申立人Bの三名(以下、右三名を「被抗告人ら三名」と呼称する)は、共同原告と
なつて抗告人を被告として、昭和四五年一一月一七日釧路地方裁判所に対して、抗
告人が昭和四五年九月二六日に被抗告人ら三名に対してなした原決定別紙(二)、
(三)、(四)、(五)に記載の各換地処分をいずれも取消す旨の判決を求める訴
を提起したこと、その後昭和四八年五月六日被抗告人ら三名は右本案訴訟におい
て、抗告人が昭和四五年九月二六日に抗告人ら三名に対してなした原決定別紙
(二)、(三)、(四)に記載の各換地処分及び各保留地指定処分を取消す旨の判
決を求めて訴を追加的に変更したこと、右本案訴訟は目下釧路地方裁判所に係属中
であることがそれぞれ認められる。
二 被抗告人らは、本件換地処分に因つて被抗告人らが回復の困難な損害を被る虞
があり、右損害を避けるため本件換地処分の効力を停止すべき緊急の必要がある旨
主張する。よつて案ずるに、
(一) 行政事件訴訟法第二五条第二項にいう「処分・・・・・・・・・により生
ずる回復の困難な損害」とは、先ず当該処分と相当因果関係のある損害をいうもの
であるが、右「回復の困難な損害」とは、本案請求認容判決確定の時点において、
原状回復が不能ないし困難なものであつて、且つ社会通念上原状回復に代わる金銭
賠償をもつてこれを処分を受けた者に受忍させるのが相当ではないものをいうもの
と解するを相当とする。そうだとすると、原状回復自体は不能ないし困難な損害で
あつても、それが軽微であるとかその他の事情により、社会通念上処分を受けた者
が原状回復に代る金銭賠償をもつて該損害を受忍すべきものとみるを相当とするよ
うな場合には、右「回復の困難な損害」にはあたらないことになる。以下、この見
地に立つて被抗告人らの前示主張の当否について考察することにする。
(二) 先ず、前記主張判断の前提となるべき事実関係についてみるに、疎明資料
及び当事者双方を審尋した結果によれば、次の1ないし10のとおりに一応認めら
れる。
1 被抗告人Jは、私立学校法に基づき昭和三二年設立された学校法人であつて、
同三三年帯広市<以下略>所在の原決定別紙(二)ないし(五)に従前の土地ない
し(旧)土地として記載されている一団の土地約五万七五八二平方メートルな校地
として普通科・商業科の高等学校であるJ高等学校(現在収容定員は九〇〇名であ
るが、昭和五〇年五月現在における生徒数は四八六名である。以下、単に「J」と
いう)を設置開校し、原決定別紙(二)の従前の土地欄に記載されている各土地即
ち本件換地処分における従前の土地である一番の二の土地、二番の一の土地、二番
の二の土地、三番の一の土地、八番の四の土地のほか一筆の土地を所有し、これを
Jの旧校地に供してきた。被抗告人Aは、被抗告人Jの創立者であり、その創立以
来同被抗告人の理事長であつて、原決定別紙(三)の従前の土地欄記載の上地即ち
本件換地処分における従前の土地である一番の四の土地を所有し、これを被抗告人
Jに校地として貸与してきた。なお、原審相申立人Bは、原決定別紙(四)の従前
の土地欄記載の土地及び同別紙(五)に(旧)土地として記載の土地(但しこの所
有名義人は訴外C)を所有しこれを被抗告人Jに校地として貸与してきた(以下、
Jの校地を構成していた前記土地を一括して「旧校地」と呼称する)。Jの旧校地
内には、その北側に木造本校舎、体育館、武道館等の校舎群、その中央部から南部
にかけてグランド、その西側に一六条通りに面して職員用住宅(一棟)及び車庫
(二棟)、その南東端に学生寮がそれぞれ配置されていたが、本件従前の土地であ
る一番の四の土地、一番の二の土地、八番の四の土地、二番の一の土地、二番の二
の土地及び三番の一の土地の計六筆の土地は、いずれも旧校地のうちの北部に位置
し、その北辺はいずれも白樺通りに面していて右記載の順に西から東に連らなり、
これを全体としてみると、東西に通ずる白樺通りに沿つた東西約二六〇メートル、
南北約二五ないし六五メートルの横長の土地となつており、前記校舎群の位置は、
右土地の南の部分にあたる。右土地のうち右校舎群から白樺通りに至る間の土地上
には、白樺通りに向つて中央に正門があり、これと正面玄関との間の前庭には噴水
施設があり、右正門から東と西にそれぞれ約四〇メートル隔てて校門が一個づつあ
り、右の東側校門附近には自転車置場(二棟)があり、また右土地の東端には、食
堂があつた。そして白樺通りに沿つた東西約二六〇メートル、南北約一〇メートル
地帯(但し、右各校門附近を除く。)には相当多数の白樺及び雑木、灌木が生えて
いた。
2 抗告人は、帯広市都市計画所定の土地区画整理事業の一環として、昭和三九年
頃、帯広市<以下略>の全域及び<以下略>の一部三六・六ヘクタールを施行区域
として、帯広都市計画西第一北土地区画整理事業計画(以下、これによる事業を
「本件土地区画整理事業」という)を定めた。右施行区域は北は白樺通りの中心線
までであり、Jの旧校地はすべて右施行区域内に含まれることになつた。右土地区
画整理事業の目的は、「本区域内にはJが設立されているほか、附近には、小中学
校、公営住宅等が設置され、最近本区域内にも、公営、一般住宅の建設が激増し、
市街化しつつあるが、区域内の公共施設は整備されないままなので、右事業の施行
により宅地の利用の増進と公共施設の整備改善を図る。」ことに在るとされ、右事
業計画の具体的な内容については、若干の変遷はあつたが、最終的に、それには、
市道であつた白樺通り(歩車道の区別がなく、幅員約一四・五メートル、以下、こ
の状態の白樺通りをいう場合「旧白樺通り」と呼称する)の拡幅用地として、右上
地区画整理区域内に、その北限線即ち旧白樺通り中心線から南へ一五メートル幅の
土地(旧白樺通りの南側道路敷部分を含む)を確保することが含まれることになつ
た。抗告人は、本件土地区画整理事業による右用地確保及び帯広市都市計画に基づ
くその他の土地区画整理事業やその他の方法による白樺通り拡幅用地の確保を見込
んで、その頃、帯広市都市計画における都市計画街路である白樺通り(道路番号
三・二・五)の拡幅工事(<以下略>々先から<以下略>々先までを幅員二五~三
〇メートルに拡幅することを内容とする)のための街路事業計画を別途に決定し
た。
3 抗告人は、昭和四〇年三月二九日本件土地区画整理事業の事業計画につき北海
道知事の認可を受け、土地区画整理法所定の手続を経てこれを施行することにな
り、昭和四一年六月四日被抗告人Jに対し、その所有の原決定別紙(二)に従前の
土地として記載されている土地につき、被抗告人Aに対し、その所有の原決定別紙
(三)に従前の土地として記載されている土地につき、それぞれ仮換地指定をし、
同年七月一日原審相申立人Bに対し、その所有の原決定別紙(四)に従前の土地と
して記載してある土地につき、仮換地指定をし、同日原決定別紙(五)に(旧)土
地として記載されている土地の所有名義人である前記Cに対し右土地についての仮
換地指定をした。以上の仮換地指定にかかる仮換地の全体としての位置、範囲は、
原決定別紙(六)の略図において斜線を施した部分(但し(1)の部分の幅員八・
二メートルは七・七メートルに改める)に囲まれた部分であつた(以下、右仮換地
の全体を「旧校地の仮換地」という)。右仮換地指定における本件従前の土地六筆
の各仮換地について言えば、それぞれの位置は、大体において本件従前の土地と同
じ場所であつて、謂わば原地仮換地であり、これを全体としてみると、旧校地の仮
換地のうちの北側部分を占める横長の土地であつて、その北限線は、全体としての
本件従前の土地の北限線よりも約七・七メートル南方に寄つていた(以下、Jの旧
校地と白樺通りとの接線である東西約二六〇メートルに亘る本件従前の土地の北限
線から、降方へ奥行き七・七メートルをとつた帯状の旧校地部分(面積約二〇〇二
平方メートル)を「本件係争地帯」と呼称することにする。原決定別紙(六)の略
図で言えば、本件係争地帯は(イ)(ロ)(ニ)(ハ)(イ)の各点を順次に結ぶ
直線(但し(ロ)(ニ)間及び(ハ)(イ)間はいずれも約七・七メートルとす
る)で囲まれた部分にあたることになる。)。
なお、抗告人は、本件土地区画整理事業のため定めた換地計画において原決定別紙
(六)の略図において「保留地」と記載されている土地部分(面積は約一三四九・
一二平方メートル、該土地部分の所有者は原審相申立人Bであつた)を保留地とし
て指定したが、該土地部分は、校地とは言つても従来自動車の練習場などとして使
用されていたこともあり、Jの学園用地として必須の土地としては必ずしも使用さ
れていなかつた。しかし被抗告人らはJの旧校地の一部がこのように保留地として
指定されたことにつき、抗告人が旧校地の学校用地としての特殊性を充分に考慮し
ないものとして強い不満を持つた。
4 被抗告人ら三名は、昭和四一年一〇月二六日抗告人を被告として釧路地方裁判
所に対し前記各仮換地指定処分の無効確認の訴を提起したが、その後昭和四三年一
一月一九日に右訴を取下げた。
ところで前記仮換地指定処分の結果、前記学生寮の大部分や本件係争地帯に在つた
前記各校門や自転車置場や前記食堂の一部などが旧校地の仮換地からはみ出すこと
になつた。そこで抗告人は土地区画整理法第七七条二項、三項に基づき被抗告人J
に対して、先ず昭和四三年一〇月二四日、期限を昭和四四年一月三一日と定めて右
学生寮の建物の移転除却の通知及び自己移転除却の照会をした。しかし前記仮換地
指定処分を不服とする被抗告人Jは自らはこれを実施しない旨を表明したので抗告
人は同法同条六項により抗告人が右建物の移転をなすことにし、右建物に入居して
いた寮生に対しても昭和四四年八月一日に期限を同年一一月六日と定めて右建物の
移転、除却の際に右建物から立退くよう通知した。しかし抗告人が右建物の曳去移
転を実施するにあたつて被抗告人Jや右寮生による妨害行為のなされることが予想
され、それによつて本件土地区画整理事業の完結が遅れる虞があつたので、抗告人
は被抗告人J及び右寮生らを債務者として釧路地方裁判所帯広支部に対して仮処分
の申請をした。そして右申請による同庁同支部昭和四五年(ヨ)第三二号事件にお
いて昭和四五年四月一〇日午前一一時の期日に右事件当事者間に裁判上の和解が成
立した。抗告人と被抗告人Jどの間に成立した右裁判上の和解は、「抗告人は被抗
告人Jに対し、前記学生寮に対する強制処分を昭和四五年五月一五日まで延期す
る。抗告人は右期限に至るまで被抗告人Jと本件紛争に関して積極的に協議する。
被抗告人Jは、昭和四五年五月一五日の右期限を経過したときは、即時任意に学生
寮を抗告人の指示に従つて移転する。抗告人は被抗告人Jが学生寮の移転を完了し
たときは、右移転等に伴う補償費を支払う。被抗告人Jは、昭和四五年五月一五日
の前記期限を経過したときは抗告人において学生寮を強制的に移転することを受忍
する。抗告人は被抗告人Jに対し前項のほか学生寮に関し行政上の強制措置をしな
い。」という内容のものであつた。そこで抗告人と被抗告人Jとは、右裁判上の和
解の趣旨に則り昭和四五年五月一五日まで、前記仮換地指定処分によつて両者間に
生じた紛争を解決するための協議を重ねたが、結局合意を見るに至らず、被抗告人
Jによる前記学生寮の任意履行は期待できなかつたので、抗告人はついに昭和四五
年五月二六日付書面をもつて、被抗告人Jに対し、前記学生寮のほか前示の各校門
の門柱、自転車置場、樹木等の移転を同年五月二七日に抗告人が直接実施する旨通
知したうえ、右通知のとおりに強制処分に臨んだ。そこで被抗告人Jは、折れて、
昭和四五年五月三〇日に抗告人に対し、「学生寮一棟及び付属物件、北側工作物一
式、樹木一式等につき、施行者において、移転並びに除却を直接施行していただき
たく、お願いいたします。」と記載した書面を差し入れたので、同日抗告人と被抗
告人Jとの間で、書面によつて、樹木移植伐採工事は双方立会確認したとおりとす
ること、白樺通りの街路築造は、街路事業施行の時点まで行わないこと、但し築造
の必要が生じた場合には双方協議すること、保留地についてはJ関係者に優先的に
売払すること、学生寮に東西の区画街路から五メートル、南北の区画街路から一〇
メートル離れた場所に移転すること、食堂の突出部分は、被抗告人Jの方でこれを
除去すること、騒音問題等については、将来発生の段階で双方協議すること等につ
いて合意した。そこで抗告人は、昭和四五年六月九日頃までに平穏裡に、本件係争
地帯に在つた前示の校門三個の門柱や噴水施設や自転車置場(二棟)を本件従前の
土地の仮換地内に移転、移築した。また本件係争地帯に在つた樹木のうち、被抗告
人Jが移植を希望したかなりの本数の白樺等の樹木についてもこれを数メー・トル
南側の右仮換地内に移植したので(もつとも本件係争地帯にはなお雑木、灌木等が
かなりの本数残された)、右仮換地上には、旧白樺通り寄りにこれと平行して東西
約二六〇メートル、南北約一〇メートルにわたり(但し校門等の附近を除く。)、
白樺等が林立するようになつた。被抗告人Jもその頃食堂のうち右仮換地内より東
方に突出することになつた部分を除去した。抗告人はその後、前記学生寮を前記合
意のとおりに移転した。
5 抗告人は、本件土地区画整理事業について定めた換地計画を昭和四五年七月一
三日から同年同月二六日まで法定の手続に従つて公衆の縦覧に供したうえ、昭和四
五年九月一四日右換地計画について北海道知事の認可を受けた。そして抗告人は、
同年九月二六日、被抗告人Jに対し、その所有の原決定別紙(二)に従前の土地と
して記載されている各土地(本件従前の土地のうちの一番の二の土地、二番の一の
土地、二番の二の土地、三番の一の土地、八番の四の土地を含む)につき右別紙
(二)の換地処分後の土地欄記載の各土地をそれぞれ換地とする換地処分を、被抗
告人Aに対し、その所有の原決定別紙(三)に従前の土地として記載されている土
地即ち本件従前の土地のうちの一番の四の土地につき、右別紙(三)の換地処分後
の土地欄記載の土地を換地とする換地処分を、原審相申立人Bに対し、その所有の
原決定別紙(四)に従前の土地として記載されている各土地につき、右別紙(四)
の換地処分後の土地欄記載の各土地をそれぞれ換地とする換地処分を、前記Cに対
し、その所有名義の原決定別紙(五)に新土地として記載の各土地につき、右別紙
(五)に新土地として記載の各土地をそれぞれ換地とする換地処分をそれぞれ行
い、同年一〇月二七日これら換地処分を公告した。右各換地処分による各換地の位
置、範囲は、前記各仮換地指定処分による仮換地のそれと全く同じであつて、大体
において所謂原地換地である。従つて全体としてみた右換地の位置、範囲は旧校地
を構成していた前記従前の土地の仮換地のそれと同じであり(以下、右換地を全体
として「旧校地の換地」と略称する)、また全体としてみた本件従前の土地の換地
の位置、範囲も亦本件従前の土地の仮換地のそれと同じであつた。本件従前の土地
六筆の各一部から成つた本件係争地帯は、前記換地計画において、旧白樺通りの拡
幅の用に供されるべき道路用地とされていたので、旧校地の換地の一部としての本
件従前の土地の換地から外された。それで被抗告人らの本件係争地帯についての所
有権は、土地区画整理法第一〇四条一項の規定により前記換地処分の公告のなされ
た日である昭和四五年一〇月二七日の終了した時に消滅し、本件係争地帯は同法第
一〇五条三項の規定により、右公告の日の翌日である同年同月二八日に本件土地区
画整理事業の施行者である抗告人の所有に帰した。
Jの旧校地の総面積が約五万七五八三平方メートルであつたことは前述のとおりで
あるが、旧校地の換地の総面積は約四万八二九五平方メートルとなつたので、前記
換地処分によりJの校地面積は約一六パーセント減少した。もつとも本件換地処分
に限つて言えば、本件従前の土地は、全体として一万四五一八・九八平方メートル
であつたのに対し、その換地は全体として一万四六四六・八七平方メートルであつ
て、後者が前者よりも一二七・八九平方メートルだけ増加していることになる。
6 その後、白樺通り沿道の市街化及び工業地域化が次第に進むにつれて、これに
伴う交通量の増大に備え前記の白樺通りの拡幅工事のための都市計画街路事業計画
に基づく都市計画街路事業の施行が望まれるような情勢になつたが、抗告人は財政
上の理由から右事業を施行することが困難であつた。他方、北海道は、旧白樺通り
(但し一五条通り以東の部分を除く)をはさんだ東は帯広駅南口から、西は芽室ま
での道路を道道芽室東四条帯広線として路線の認定をし、昭和四六年三月三一日こ
れを公示した。それで右道路は北海道が管理することになつたので、北海道は都市
計画法第五九条二項により昭和四七年八月九日建設大臣の認可を受けて抗告人の前
記の白樺通り拡幅工事のための都市計画街路事業計画に基づく都市計画街路事業を
施行することになつた。右都市計画街路事業計画によれば、車道、歩道の区別な
く、幅員約一四・五メートルの旧白樺通りは、幅員三〇メートルに整備、拡幅され
て、中央分離帯(幅員三メートル)をはさみ、その両側にそれぞれ車道(三メート
ル幅の走行車線二車線とその外側の一・二五メートル幅の駐停車用路肩よりなり全
幅員七・二五メートル)、その外側に自転車道、その外側に歩道(両者の間に分離
帯が断続的に設けられるが両者を通じての幅員は六・二五メートル)が設けられ、
そのいずれもが基礎工事を施された上にアスフアルトコンクリート舗装が施される
(右基礎工事部分とコンクリート舗装部分の厚さは、車道で九〇センチメートル、
自転車道及び歩道で三〇センチメートル)ことになつており、Jの旧校地に沿つて
いた旧白樺通りの中心線の南側について言えば、旧白樺通りの南側部分と本件係争
地帯とを道路敷地として右整備拡幅工事がなされることになつており、これがなさ
れると、白樺通り南側車道の南側走行車線の南限線は約〇・二〇メートル、右南側
車道の南限線は、約一・四五メートル、歩道南限線は、約七・七メートルだけ、て
れぞれ旧白樺通りの南限線より南に(Jの校舎寄りに)在ることになり、右歩道の
南限線とJの前記校舎群(食堂を除く)との間隔は、木造本校舎についていえばそ
の一部で約九メートルとなるところもあるが、その大部分については、約三一メー
トルとなり、前記歩道南限線と前記体育館、武道館との間隔は、それよりも若干少
いものとなる。北海道は、その帯広土木現業所を施行機関として、昭和四八年度か
ら右街路事業を施行し、昭和五〇年度までに、一五条通りと一七条通りにはさまれ
た東西一・一キロメートルの区間の白樺通りの整備拡幅工事を、J旧校地北側に沿
つた前示約二六〇メートルの区間の南側の部分を除いて完成し、これを一般の通行
の用に供している。なお、北海道は、道道としての芽室東四条帯広線のうち、一五
条通りの部分及び新緑通りの部分(いずれも白樺通りではない)は、終点の帯広駅
南口に至るまで既に街路事業を施行して工事を了しており(但し幅員は二〇メート
ル)、一七条通りとの交差点以西(白樺通りを含む)は、昭和五一年度から昭和五
五年度にかけて整備、拡幅していくことにしている(但し幅員は栄通りとの交差点
までは三〇メートル、その以西は二五メートル)。白樺通りのうち、一五条通りと
の交差点以東の部分は、なお市道のままであるが、抗告人は、該部分を土地区画整
理事業によつて幅員三〇メートルないし二五メートルに拡幅しようとしている。し
かしこれについては付近住民の中に反対者が少くなく、近い将来に右拡幅工事をな
し得るかは予測できない情勢に在る。
7 他方、抗告人は、水質公害防止、都市環境整備及び公共用水域の保全という見
地から、帯広圏都市計画下水道事業の事業計画を決定し、その一環として昭和四七
年度から十勝川公共下水道事業(処理面積七六六・九ヘクタール、処理人口三万六
〇〇〇人)を施行し、十勝川終末処理場の建築に着工するとともに、昭和五二年度
の供用開始にむけて下水道管渠設置の工事を施行してきた。右事業計画によれば、
十勝川汚水一号幹線の下水道管は白樺通りの南側歩道の地下約八メートルのところ
に埋設されることになつており、右下水道管埋設工事の施行時期については、道道
としての白樺通りの管理者である北海道が道路占用の許可をなすにつき、自ら施行
する前示の白樺通りの整備拡幅工事に先行して右下水道管埋設工事を施行するよう
に条件を付けているので、前記の白樺通り拡幅工事が施行される前に、抗告人とし
ては右下水道管埋設工事をしてしまわなければならない事情にある。しかし、白樺
通りのうちJ校地沿いの約二六〇メートルの区間における右下水道管の埋設は、諸
種の事情から本件係争地帯内の地下にこれをすることに計画されており、本件係争
地帯は、前叙のとおり本件土地区画整理事業において、本件換地処分を前提として
抗告人の所有に帰した土地である関係上、本件換地処分の効力が停止されれば抗告
人としては本件係争地帯内に前記下水道管を埋設する工事をすることはできないこ
とになる。
8 被抗告人Jは、前述のようにして、昭和四八年度から白樺通りを拡幅整備する
街路事業が実施される運びとなつたので、抗告人に対して、白樺通りの拡幅がなさ
れることによつて同被抗告人はJの運営上種々の支障が生ずる旨訴え、自動車騒音
対策として校舎の二重窓化や防音塀の設置、換地処分によつて失う旧校地の代替地
の提供、補償等を具体的に要求して抗告人と折衝した。しかし抗告人から満足でき
るような回答を得ることはできなかつた。
9 北海道は、抗告人が被抗告人Jとの間に昭和四五年五月三〇日になした前記の
合意の趣旨を考慮して前記街路事業としてJ校地沿いの白樺通り南側の拡幅工事を
施行するのをしばらく控えてきた。しかし昭和五〇年五月に至り附近住民から帯広
市議会に対し、白樺通り拡幅工事早期完成の請願がなされた。そこで北海道と抗告
人は協議の結果、道道白樺通りの拡幅工事並びに抗告人の前記下水道工事について
は地域住民の強い要望と最近の人口増加に伴う生活環境保全保護並びに交通安全対
策等の見地から現況のままで推移することは市民生活上重大な影響があるとして、
J校地沿いの白樺通りにおける右各工事に着手することを決意し、同年九月三日抗
告人の市長自らJに赴き、被抗告人らに右決意を伝えて全面協力を懇請した。しか
し被抗告人ら三名は、同年同月一五日本件執行停止の申立をなし、原裁判所が同年
一〇月三日右申立を認容して原決定を発したので北海道はJ校地沿いの白樺通り南
側拡幅工事を施行できずにおり、また抗告人は、同所白樺通りに前記下水道管を設
置する工事を施行することができずにいる。付近住民の圧倒的多数の者は、同所の
右各工事の早期施行を強く望んでいる。
10 北海道は、若し帯広市が本案訴訟で敗訴してその判決が確定したときは、本
件係争地帯を白樺通り拡幅のため道路用地として、これを土地収用法によつて収用
しようと考えている。
(三) ところで本件換地処分に因り回復の困難な損害を被る虞がある旨の被抗告
人らの前記主張は、具体的には、これを要約すると、「Jの旧校地に沿つた白樺通
りの前記東西約二六〇メートルに亘たる区間の南側の拡幅工事がなされて本件係争
地帯が道路になつてしまうと、後日、たとえ被抗告人ら勝訴の本案判決が確定して
も、原状回復は困難である。右拡幅工事がなされると白樺通りの車輛交通量は増加
して、騒音、震動、排気ガス等の激増をきたし、それに、これまで右騒音等の緩衝
地帯をなしていた本件係争地帯の白樺等の樹木が除去されてしまうため、Jは、右
騒音等に直接さらされることになるし、また、通園の生徒らが交通事故に遭遇する
危険性も高くなり、要するに学園としての教育環境が破壊されてしまう。更に、本
件換地処分に因りJの旧校地が相当大幅に縮減されるため被抗告人Jが、かねてよ
り構想している教育計画の実現が阻まれ破壊される。」というに在る。そこで抗告
人らの右主張について検討してみる。
1 Jの旧校地に沿つた白樺通りの前記東西約二六〇メートルに亘たる区間の南側
の拡幅工事が一旦なされてしまえば、右拡幅工事は前述のとおリコンクリート舗装
の堅牢な道路工事が予定されているので、後日たとえ被抗告人らが本案訴訟で勝訴
し、その判決が確定して本件係争地帯の所有権を確保することになつたとしても、
右拡幅部分の道路を取毀わして原状回復することは、それが物理的には不可能では
ないにせよ、著しく困難であることは明らかであり、社会通念上は不可能とみるの
が相当である。
2 (1)被抗告人らは、Jの旧校地に沿つた白樺通りの前記の東西約二六〇メー
トルに亘たる区間の南側の拡幅工事がなされてしまうと、白樺通りの車輛交通が激
増すると主張するのでこの点を考えてみる。疎明資料(乙第六号証の二)によれ
ば、白樺通りの自動車類の交通量は、昭和五〇年二月現在で一二時間あたり六七〇
〇台余であり、白樺通り拡幅工事の施行前であつた昭和四六年当時と比較すると相
当大幅に増加していることが認められるが、これには白樺通りの拡幅工事が前認定
のように一部実施されたことが一つの重要な原因となつているものと考えられる。
今後、右拡幅工事が一七条通りとの交差点以西の方に進められ、それが逐次完成し
ていけば、それにつれて白樺通りの車輌交通量は、たとえJ旧校地沿いの前記東西
約二六〇メートル区間の南側の拡幅工事がなされなくとも、益々増加していくもの
と思われる。しかし右の白樺通り車輛交通量の増加は、J校地沿いの前記の東西約
二六〇メートル区間の南側の拡幅工事がなされることに因つて生ずるところの車輛
交通量の増加でないことは明らかであり、従つてそれは本件係争地帯を抗告人の所
有に帰せしめる前提となつた本件換地処分と因果関係のある車輛交通量の増加とい
うことはできない。J校地沿いの前記の東西約二六〇メートルの区間の南側の拡幅
工事がなされることに因つて白樺通りの車輛交通量が増加するか否かは、右区間の
南側の拡幅工事がなされないことに因つて白樺通りの車輛交通量の増加が阻止され
ているか否かによつてこれを知りうるものというべきであるが、疎明資料(甲第一
二号証の一ないし七、第四六号証の一ないし一六、乙第九号証の三の一ないし八)
によつて窺われる白樺通りの車輛通行の状況からすれば、現在J旧校地沿いの前記
の東西約二六〇メートルの区間の南側の拡幅工事がなされていないことが白樺通り
の車輛交通に及ぼしている影響は、右区間の東西の両端の付近において通行車輛の
流れを或る程度阻害してはいるが、既に完成している右区間の北側が完全な二車線
であるため車輛交通量そのものにはさしたる消長を生ぜしめてはいないものと一応
認められ、将来白樺通りが一七条通りとの交差点以西において拡幅されていつたと
しても、J旧校地沿いの前記の東西約二六〇メートルの区間の南側の拡幅工事がな
されないでいることは、白樺通りの車輌交通の流れに渋滞を生ぜしめることになる
虞はあるが、それが果して白樺通りの車輛交通量そのものの増加を阻止する要因と
なるかは多分に疑問である。それゆえ、J校地沿いの前記の東西約二六〇メートル
区間の南側の拡幅工事がなされることに因つて生ずる白樺通りの車輛交通量の増
加、即ち本件換地処分と因果関係のある車輛交通量の増加は、仮令それがあるにせ
よ、さしたる量ではないものと推認せざるを得す、それがいか程になるかについて
はこれを認めるに足りる疎明資料はないと言わざるを得ない。
前叙のとおり、前記の約二六〇メートルに亘る区間の南側の拡幅工事がなされるこ
とに因つて生ずる白樺通りの車輛通行量の増加はさしたるものとは認め得ないので
あるから、右車輛通行量の増加に因つて生ずる車輛騒音の増加も亦さしたるものと
認め得ないことは当然であり、また疎明資料(甲第四三号証)によれば、一般の市
街地においては、道路から五〇メートル位までの範囲内では自動車騒音の及ぶ影響
力は道路からの距離いかんによつて変わることは殆んどないものであることが認め
られるところ、Jの校地に沿つた白樺通りの前記の東西約二六〇メートルに亘る区
間の南側の拡幅工事がなされてそれが完成しても、既に認定のように、白樺通り南
側車道の南限線は、歩車道の区別のない旧白樺通りの南限線よりも約一・四五メー
トル(南側車道南側車線の南限線についてみれば、旧白樺通りの南限線の僅か約
〇・二〇メートル)南方に寄ることになるだけなので、白樺通り車道とJ校舎群と
の間隔--右拡幅工事がなされた場合のそれが、右校舎群の大部分の場所において
約三七・二五メートル前後となることは前認定したところから明らかである--は
僅かに縮少するだけであり、従つてそのことに因る白樺通り車輛騒音のJに及ぼす
影響の増加は僅かなものと考えられる。
Jの旧校地沿いの白樺通りの前記の東西約二六〇メートルに亘る区間の南側の拡幅
工事がなされても、白樺通りと校舎との間には、前述のような経緯で旧校地の本件
係争地帯から移植されたものを含めて相当数の白樺等が白樺通りに沿つて(但し校
門付近を除く)植樹されたままに残り、この樹木帯が依然として白樺通りを通行す
る車輛による騒音のJに対する影響をかなり緩衝するものと考えられる。
以上のとおりなので、J校地沿いの白樺通りの前記の東西約二六〇メートルに亘る
区間の南側の拡幅工事がなされることに因る白樺通り通行車輛による騒音のJに対
する影響は、さして大きなものと認めることはできず、校舎内に及ぶそれは、校舎
を敢えて南方に移動させることをしなくとも適当な防音塀を設置するとか或いは校
舎北側の窓を二重窓にするとかの適宜の処置を講ずることによつてこれを消去し得
る程度のものと考えられる。
念のために付言すれば、以上の説示は、あくまでも、本件換地処分と因果関係のあ
る車輛騒音の増加、即ち白樺通りの前記の東西約二六〇メートルの区間の南側にお
いて本件係争地帯に拡幅工事がなされることに因つて生ずる車輛騒音の増加がJに
どんな影響を及ぼすかについて述べたものであつて、右区間の南側を含めて白樺通
りが前記都市計画街路事業として予定の全域に亘つて前認定のとおりに拡幅される
ことに因つて生ずる車輛騒音の増加がJにどんな影響を及ぼすかについて述べたも
のではない。白樺通りの前記の東西約二六〇メートルの区間の南側の拡幅工事がな
されることに因つて生ずる車輛騒音の増加がJに及ぼす影響は、右区間の南側を含
めて白樺通りが前記都市計画街路事業として予定の全域に亘つて拡幅工事がなされ
ることに因つて生ずる車輛騒音の増加がJに及ぼす影響の一部にすぎないことは明
白であり、後者のすべてが本件換地処分と因果関係に立つものではない。
(2) 前認定のような事実関係によれば、J旧校地沿いの白樺通りの前記の東西
約二六〇メートルの区間の南側拡幅工事がなされることに因る白樺通り通行車輛に
よる震動の増加ないし右拡幅工事完成により白樺通り車道とJ校舎群との間隔の縮
少に因るJに対する右震動の影響の増加がさほどに大きいものとは到底認め難い。
(3) J旧校地沿いの白樺通りの前記の東西約二六〇メートル区間の南側拡幅工
事がなされることに因る白樺通り通行車輛の排気ガスの影響について言えば、右区
間の南側拡幅工事がなされると、白樺通りの車輛交通の流れを阻害する要因が除去
されることになるので、右流れの渋滞によつてより多く生ずる種類の排気ガスは却
つて減少するものと考えられ、少くとも右区間の南側拡幅工事がなされることに因
つてJに及ぶ排気ガスの悪影響が全体として増加することになるものと認むべぎ疎
明資料はない。
(4) 白樺通りの前記区間の南側拡幅工事がなされることによつてJに通学する
生徒が交通事故に遭う危険性が高くなるものと認めるべき疎明資料もない。
(5) ほかに、本件係争地帯か白樺通りの拡幅工事によつて道路となつてしまう
ことに因つてJの学園としての教育環境が破壊されてしまうものと認められるよう
な疎明資料はない。
3 (1)本件換地処分によつて被抗告人らが失うことになる本件係争地帯は、白
樺通りに面した東西約二六〇メートル、南北約七・七メートルの面積約二〇〇二平
方メートルの部分であることは前認定のとおりであり、これはJ旧校地総面積的五
万七五八三平方メートルの約三パーセントに相当する。しかし本件換地処分によつ
て被抗告人らが失うことになる本件係争地帯は、旧白樺通りから本校舎玄関に至る
本校舎前庭の入口付近をなすその中央部分のほかは、白樺等の樹木が生えていたと
ころであつて(本件従前の土地の仮換地指定のあつた後、本件係争地帯にあつた白
樺等が移植されて、本件係争地帯には現在は若干の雑木や灌木しかないことは前判
示のとおりである。)、学園としての景観を整えるために役立つていたところでは
あるが、本校舎その他Jとしての重要な建物や運動場のように学園として必須の教
育施設の用地となつていたところではなく、また本件係争地帯が旧校地から失われ
ても、そのこと自体に因つてJの教育施設が分断されるとかその教育的機能が低下
せざるを得ないとかの支障が生ずるものとは認められず、従つてそれに因つて学園
としての教育環境が大きく害されることになるものとは認め難い。従つて被抗告人
らが本件係争地帯を失うことに因つて被ることあるべき損害は、本件係争地帯が学
校の校地一部であるという特殊性を考慮に入れても、なお、それは金銭賠償を受け
ることによつて受忍すべき性質のものということができる。
被抗告人らが抗告人のした旧校地についての仮換地指定処分につき無効確認の訴を
起こしながら、あくまでこれを追行することをせずに後日右訴を取下げてしまつた
こと、また前記仮換地指定処分に基づく抗告人の強制処分につき抗告人との間に裁
判上の和解ないし裁判外の合意をなし、内心不服ながらも、抗告人が本件係争地帯
に在つた校門を移転したり、樹木を移植するのを平和裡に受忍したこと、その後抗
告人に対して本件係争地帯に白樺通りの拡幅工事がなされることに因るJ運営上の
支障を訴えて、自動車騒音対策や換地処分によつて失うべき旧校地の代替地の提供
や補償の方法やその額についての要求を述べて抗告人と折衝してきたことは前認定
のとおりであるが、被抗告人Jの執つたこれら一連の所為は、旧校地の一部であつ
た本件係争地帯を失うことに因つて被抗告人Jの被ることあるべき損害が金銭賠前
をもつて受忍すべきものと認めて差支ないことを裏付けるものと言つてもよいであ
ろう。
(2) 前に述べたとおり、Jの旧校地の換地の総面積は、約四万八二九五平方メ
ートルであり、Jの生徒収容定員は九〇〇名(昭和五〇年五月現在における生徒数
は四八六名)であり、従つて右生徒収容定員を前提とすると生徒一人当たり校地面
積は、五三・六六平方メートル(右の生徒現在数を前提とすると生徒一人当たり校
地面積は九九・三七平方メートル)となる。右の生徒一人当たり校地面積は、昭和
二三年文部省令第一号高等学校設置基準第一七条、第二号表で定められている普通
科・商業科高等学校の生徒一人当たり校地面積七〇平方メートル(これにつき、被
抗告人らは、教育行政当局は、右第二号表所定の生徒一人当たり校地面積七〇平方
メートルと生徒一人当たり運動場面積三〇平方メートルとの合計面積一〇〇平方メ
ートルをもつて生徒一人当たり校地面積とする見解を執つているとし、右見解を正
当なものと主張するものの如くであるが、右見解は第二号表の解釈としては採り難
い。)を下回ることになり(右の生徒現在数を前提とすればそのようにならないこ
とは明らかである。)、従つて本件換地処分も右の生徒一人当たり校地面積の減少
に何ほどかは荷担していることになる。しかしながら右高等学校設置基準における
生徒一人当たり校地面積は、高等学校を設置する場合の校地面積の基準であつて、
それは必ずしも絶対的なものではなく、高等学校設置後において生徒一人当たり校
地面積を右基準を下回ることになるように減少させることが絶対に許されないとい
う趣旨を含むものでもなければ、また生徒一人当たり校地面積が減少して右基準を
下回ることになればなんらかの行政上の処置を招くことになるというような性質の
ものでもない。従つて本件換地処分が、Jの生徒一人当たり校地面積が右高等学校
設置基準所定のそれを下回ることこなるのに何ほどか荷担するとの一事によつて、
直ちに前段で示した判断が妨げられるものではない。因みに疎明資料(乙第一三号
証)によれば、帯広市内の市立又は私立の普通科高等学校の中にはその生徒一人当
たり校地面積が、Jの旧校地の換地を校地面積と前提とし、且つ前示の収容定員を
前提とした場合の生徒一人当たり校地面積よりも少いものが少くないことが認めら
れるが、それら高等学校において生徒一人当たり校地面積が少いために教育上なん
らかの支障を生じていることを窺わせるような疎明資料はない。
(3) 被抗告人は、本件換地処分に因り、本件係争地帯が旧校地から削られるた
め、将来被抗告人Jが校舎を新築することや、旧校地を校地として大学を含めた一
大学園をつくることができなくなるかのように主張するが、現生徒数が収容定員を
大きく下回つているJとして将来、現存の校舎のほかに新らたな別の校舎を新築す
る必要が生ずるか否か疑わしいのみならず、仮にそのような新校舎建築の必要が生
じたとしても、本件係争地帯が旧校舎から削られたためにその建築が不可能になる
ものとは思われないし、大学の設置について言えば、仮に本件換地処分が行われな
かつたとして、被抗告人Jが旧校地を校地として新らたに大学を設置することにつ
いて監督庁の認可を受けることができたであろうと認められるような疎明資料はな
いから、本件換地処分に因り本件係争地帯が旧校地から削られることに因つて、被
抗告人Jが、旧校地を校地として大学を設置することないし大学を含めた一大学園
をつくることができなくなる旨の被抗告人らの右主張はこれを認め難い。
(4) ほかに本件換地処分ないしJ旧校地の換地処分がなされたことに因つて被
抗告人Jの将来における教育計画の構想が実現を阻まれ、破壊されてしまうものと
認められるような疎明資料はない。
4 北海道は、若し帯広市が本案訴訟で敗訴しその判決が確定したならば、白樺通
りに沿つたJの前示東西約二六〇メートル南北七・七メートルの土地即ち本件係争
地帯を道道伸芽室東四丁目帯広線の道路拡幅用地としてこれを土地収用法によつて
収用することを考えていることは前判示のとおりであるが、前認定の事実その他本
件に顕われた疎面資料によれば、本案訴訟で若し帯広市敗訴の判決があつてそれが
確定したときは、北海道が右思惑どおりに右土地を土地収用法によつて収用すべく
試み、それによつて本件係争地帯が北海道に収用されてしまう蓋然性は相当高度に
存するものと考えられる。若しそのような事態に立ち至れば被抗告人らとしては、
金銭による補償をもつて満足するほかないことになることは言うまでもない。
5 以上説示した本件諸般の事情を総合勘案すると、本件換地処分によつて被抗告
人らが本件係争地帯を失い、ここに白樺通りの拡幅が行われることに因つて被抗告
人らが被る虞のある損害は、社会通念上、軽微なものないしは原状回復に代えて金
銭賠償をもつて受忍すべきものとみるのが相当である。
(四) 右のとおりとすると、(一)で説示したところにより被抗告人らは、本件
換地処分によつて回復することの困難な損害を被るに至るものとはなし難く、従つ
て本件換地処分に因つて回復の困難な損害を被る虞があることを前提として右損害
を避けるため本件換地処分の効力を停止すべき緊急の必要があるとする被抗告人ら
の前記主張は、爾余の判断をなすまでもなく失当といわざるを得ない。
三 よつて被抗告人らの本件各執行停止の申立は、その余の点につき判断するまで
もなく失当として却下すべきであり、従つてこれと判断を異にする原決定は失当で
あるから、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第四一四条、第三八六条に則つて原
決定を取消したうえ、被抗告人らの本件各執行停止の申立を却下することとし、手
続費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九六条、第八九条、第
九三条第一項但し書を適用して、主文のとおり決定する。
昭和五一年一〇月二七日
(裁判官 宮崎富哉 塩崎 勤 村田達生)
別紙一
抗告人の抗告理由
第一 本件換地処分に基づく白樺通りの拡幅工事によつて被抗告人らは、回復困難
な損害を被るものではないから、その執行停止の必要はない。
一 被抗告人らは、本件換地処分にもとづく本件白樺通りの拡幅工事がなされるこ
とによつて被抗告人らには、
(一) 学校用地の削減、白樺その他樹木の伐採、食堂、寄宿舎の移転などの損害
を被ること。
(二) 土地の形状が一変して従前の状態に回復することが不可能となること。
(三) 交通量の増大に伴ない生徒が交通事故に遭遇する危険性が高くなること。
(四) 交通量の増大に伴なう騒音によつて授業に影響が出てくること。
(五) 交通量の増大に伴なう排気ガスにより生徒の健康に悪影響が出てくるこ
と。
等々の学校経営にとつて回復困難な損害が生じるから本件換地処分の効力を停止す
る必要性があると主張する。
しかし本件換地処分にもとづく本件白樺通りの拡幅工事がなされたとしても被抗告
人らには被抗告人らが主張するような「回復困難な損害」が生じることはないか
ら、本件換地処分の効力を停止する必要性は全くない。
前記(一)について
被抗告人らは本件換地処分によつて被抗告人学校法人J(以下単にJという)の校
地総面積五七、五八一・四二平方メートルのうち約八分の一に当る七、四五七・〇
二八平方メートルの校地面積が削減され、高等学校設置基準に定める生徒一人当り
の校地面積を大はばに下まわることになるから本件換地処分は被抗告人らの学校運
営に本質的な影響を与えると主張する。しかし右主張は単に校地面積が数量的に減
少するというのみで校地面積が減少することによつて具体的に白樺学歯の学校運営
こどのような影響が出てくるかという実質的な理由つけは全くなされていない。J
の従前の土地の使用状況、換地処分によつて減少する土地のJ校地内に占める位
置、Jの現在の生徒数、能高校の校地面積との比較等を考慮するとき本件換地処分
によつてもJの学校運営には何ら実質的な影響は出てこない。
すなわちJの校地内には学校運営とは全く無関係な被抗告人A個人の住宅があつた
り、保留地に指定された校地部分は全く利用されずに放置されてグランドとしても
利用されていないなどJはその校地を学校運営のために必ずしも十全に利用してい
なかつた。
そして本件換地処分によつて現実に減少したJの校地部分は、従前の校地のいわば
外郭部分であり従前その部分には樹木が植られており、現実の用には供されていな
かつた部分である。
J校則によればその生徒数は九〇〇名と定められてはいるが現在の生徒数はその二
分の一強の四八六名であり、生徒一人当りの校地面積は換地処分後において九九・
三七平方メートルとなり帯広市内の他高校の生徒一人当りの校地面積と比較すると
約二倍強となる。
被抗告人らは本件換地処分によつてJの生徒一人当りの校地面積は高等学校設置基
準に定める基準を大はばに下まわると主張するが、右基準を満足させる校地を有す
る高校は皆無といつてよく被抗告人らの主張は全くの形式論にすぎない。
さらに昭和四五年五月末にJ校地内にある食堂の解体、バツクネツト、自転車置
場、学生寮、門柱の移転、樹木の伐採移植などの工事が行なわれたが、これは抗告
人と被抗告人らの確認書にもとづき抗告人あるいは被抗告人ら自らが行なつたもの
であり抗告人が強制的になしたものではない。
そして保留地に指定された校地部分についてもJに優先的に売却する旨の合意があ
るからJはこの部分の校地を確保できるし、校地の外郭には従前と同様樹木が移植
又は植樹されているから、その環境においても本件換地処分前と何ら実質的に異な
るところはない。
従つて被抗告人らの前記(一)の主張は全く理由がない。前記(二)について
被抗告人らは本件換地処分にもとづく本件白樺通りの拡幅工事によつて土地の形状
が一変して原状回復が不可能となると主張する。
しかし前述のとおり被抗告人らは抗告人との確認書にもとづき食堂の解体、バツク
ネツト、自転車置場、学生寮、門柱の移転、樹木の伐採移植など行ない、あるいは
抗告人が行なうのを認容しており、現在ではすでに校地の外郭のうち南、西、東の
部分には本件換地処分にもとづく換地面積に従つて植樹されており校地から減少し
た部分についても非舗装道路として現実の用に供されているなど本件換地処分に従
つた事業状態が形成されている。それにもかかわらず被抗告人らが現在に至つて本
件拡幅工事部分についてのみ土地の形状が一変すると主張するのはいわば権利の濫
用ともいうべき行為である。
従つて被抗告人らの前記(二)の主張は全く理由がない。
前記(三)、(四)、(五)について
被抗告人らは本件換地処分にもとづく本件白樺通りの拡幅工事によつて交通量が増
大しそれによつて生徒が交通事故に遭遇する危険性が高くなること、騒音による将
来への影響、排気ガスによる生徒の健康への影響等の回復困難な損害が生じると主
張する。しかしJの生徒は一五才から一八才の交通常識についてはいわば成人と同
視しうる高学年の者であり、交通安全については十分自己規制力を有しているから
本件白樺通りが拡幅されることにより直ちにJの生徒が交通事故に遭遇する危険性
が高くなるとはいえない。
騒音についてもJの校舎と白樺通りの間は約三一メートル離れておりその間には樹
木が植樹されるため緩衝地帯となるべきものがあり、本件拡幅工事によつて従前の
校地にくい込む車道部分はわずか一・四五メートルにすぎないから、本件拡幅工事
によつても従前よりも急激に騒音が高くなることもない。さらに校地を囲む南、
西、東の各道路も交通量の少ない日常道路であるから騒音が生ずる恐れもない。さ
らに帯広市内の他高校の中には校舎と道路との距離、道路の幅員、交通量などから
みて騒音に関する条件がJのそれよりもはるかに悪条件である高校もあるが、それ
らの高校において自動車騒音により授業に悪影響が出ている形跡もないから本件拡
幅工事にともなつて発生するであろう自動車騒音によつてJの授業が妨げられるこ
とはない。排気ガスが人体に悪影響を及ぼすためには長期間に亘つて継続してその
影響下にいることが必要であるが、授業時間、授業期間および学校が日常生活を営
む場所でないことなどを考慮するときJの生徒が排気ガスによつて被る影響は皆無
であると考えるべきであるし、被抗告人らの主張するところは排気ガスの将来的長
期的な人体への影響であり現実的な問題ではないから緊急性を必要とする執行停止
の理由とはなり得ない。むしろ排気ガスによつて直接的に影響を被るであろう付近
住民は本件拡幅工事の早期実現を切望してさえいるのである。
二 原決定は本件が被抗告人らに対し、回復困難な損害を与え、これを避けるため
の緊急な必要性があると認定するが、被抗告人らは、本件区画整理事業が段階的に
進行し完結するものであつて、仮換地指定処分の時点において既に現在の状況が現
出すべきことを了知しつつもこれに対しては何ら法律上の不服申立をなさず該地上
の物件を任意に移転ないし除去していながら、本件事業の最終段階に至り本件係争
部分を除く他の地域が住民の承認の下で平穏に終結せんとする時点において、にわ
かに異を唱え、その間における事実上の不満表明も終局的には法外な金銭賠償を求
めるものであることや、本件白樺通りの道路用地として換地された部分は校舎の前
庭であつて、学校経営上或は学生に対する教育上不可欠なものではないことからす
れば、仮に本案訴訟において原告(被抗告人)らが勝訴するも原状回復なしに損害
を回復できないものではない。
加えて、本件白樺通りは、帯広市都市計画において、適法に確定された都市計画街
路なのであるから、本案訴訟において本件区画整理事業において、右白樺通りの道
路用地を取得したことが違法として、換地処分が取消されたとするならば、その東
及び西に接続する道路及びその北側部分が築造されている現在、最終的には、土地
収用の手続によつて金銭的補償の下の用地取得が予定されるのであるから、結局該
土地の道路用地化は避けられず、金銭的補償によつて解決される結果となるのであ
るから、現在該土地に対して現在なされようとする道路拡幅工事(施工者北海道)
及び下水道管埋設工事(施工者帯広市)を中止せしめる必要性はないことに帰着す
る。
第二 本件換地処分の効力が停止されると公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ
がある。一 本件換地処分にもとづく本件白樺通りの拡幅工事が中断されることに
よつて三万人以上の附近住民の汚水処理が不可能となり、その衛生的な生活に重大
な影響が出てくる。
抗告人は水質公害防止、都市環境整備、公共用水域の保全という見地から公共下水
道事業計画を策定し、昭和四七年から十勝川終未処理場(処理面積七六六・九ヘク
タール、処理人口三万六、〇〇〇人)の建設に着手するとともに昭和五二年度の供
用開始に向けて管渠等の工事を施行してきた。右計画においては十勝川汚水一号幹
線は白樺通りに沿つて施設されるところ、白樺通りは都市計画街路であるため道路
法にもとづき下水道工事は地下埋設物として舗装先行工事として行なうべく義務づ
けられている。ところが本件白樺通りの拡幅工事が中断されているため本件白樺通
り部分のみが未だに下水道工事に着手することすらできないでいる。そのため処理
区内の大部分の下水道工事が終了しているにもかかわらず下水道法により認可を受
けた施行年度に大はばな遅れが出るとともに昭和五二年度の供用開始にはとうてい
間に合わず、被抗告人ら数名の者のための本件換地処分の効力停止のため三万人以
上の附近住民の衛生的生活が害され、急務である水質公害防止施設の完備が遅れる
とともにすでに出来上がつている施設が全く遊休化する結果が生じる。又、右事業
が国庫補助(六〇パーセント)事業であるところから、当該年度において補助対象
とされた事業部分に対して、工事施工がなされず予算不執行の事態が生ずれば、少
くとも翌年度以降における国庫補助金の削減は不可避となり、その結果として当然
に事業完成の遷延が生じ、しかもそれがどの程度遷延することになるか予想し得な
い状態に陥るのであつて、かかる事態は、右事業の目的である市民衛生における生
活環境に重大な影響を及ぼすばかりか、既設完成部分の遊休化は、市民或は国民の
血税の無駄遣いを結果することとなるのである。
二 本件換地処分にもとづく本件白樺通りの拡幅工事が中断されることによつて付
近住民と通過車輛の交通安全に重大な支障を生じている。
本件白樺通りは従前から帯広市の幹線道路として重要な役割を果していたところ、
近時の通行車量の増大にともない昭和四六年から道路の拡幅整備を行なつており、
現在では西五条通りと一五条通りを結ぶ新緑通り、新縁通りと白樺通りを結ぶ一五
条通り、一五条通りと弥生通りを結ぶ白樺通りが本件拡幅工事部分を除いていずれ
も舗装拡幅工事が完了している。
しかし本件白樺通り部分のみが未完成であるため片側二車線の白樺通りが本件部分
になつて急に片側一車線になり通過車輛および付近住民は変則交通を余義なくされ
て、現実に通過車輛が渋滞したり、接触事故などを起こしている。又前記下水道に
関して述べたと同様に、完成部分の遊休化及び予算執行上の問題が生ずる。さらに
本件白樺通り部分の付近には小学校、公園、団地等があるが、右部分に通過車輛が
集中するため幼児の交通事故発生の危険性が極めて高い。付近住民も本件白樺通り
の拡幅工事早期完成を切望しているため(乙第八号証)、抗告人としては市民の交
通安全を確保するためにも本件拡幅工事を早急に完成しなければならない。なお、
被抗告人らは、現在拡幅工事が一五条通り以西のみになされていることを非難する
ものと思われるが、これは白樺通りの内この区間が道道であり一五条通り以東は市
道となつているためであつて、抗告人としても一五条通り以東については、昭和五
一年度から順次拡幅工事を実施する計画である。
三 本件換地処分の執行の停止は抗告人の都市計画事業に重大な影響を与える。
抗告人は都市計画にもとづき現在まで駅前地区等四二地区の区画整理を施行し現在
八地区の区画整理を施行中であり将来五地区の区画整理を予定しているところ、こ
れらの区画整理は一連の事業計画のもとになされているものであるから、本件換地
処分の効力が停止されることによりすでに換地上に形成された右地区内の被抗告人
らを除く住民の法律関係および公共施設設置等の事実状態を一挙に覆滅しさる結果
となるばかりでなく、白樺通りの拡幅を前提としてなされる第一地区、第二地区、
駅前地区、啓西地区等の白樺通り沿線の区画整理事業自体にも重大な影響を与える
ことになり、帯広市の都市計画自体が完成しない結果となる。
第三 本件換地処分は適法なものであつて、その取消を求める被抗告人らの本案請
求は理由のないものである。従つて本件執行停止の申立は本案について理由がない
とみえるときにあたるものである。
一 被抗告人が本件換地処分が取消されるべきであるとする理由は、つまるところ
次の三点に要約される。
(一) 本件土地区画整理事業計画の中における白樺通り拡幅計画は、土地区画整
理法(以下法という)の目的を逸脱したものであるから、白樺通り拡幅のためにな
された本件換地処分も違法である。
(二) 被抗告人らの従前の土地と本件換地処分によつて被抗告人らが受けるであ
ろう土地とを比較したとき、地積・環境の面において異なり、法第八九条第一項の
換地照応の原則に違反するから、本件換地処分は違法である。
(三) 本件換地処分は、被抗告人らに対して、減歩に見合う対価が支払われてい
ないから、法第九四条・同第一〇九条に違反する。
しかしながら、被抗告人らの右の主張は、本件土地区画整理事業の実態を全く理解
していない誤つた主張というべきである。
二 すなわち、
(一) 土地区画整理事業は都市計画区域内の土地について公共施設の整備改善と
宅地の利用の増進をはかり、もつて将来における健全な市街地の造成をはかること
を目的としてなされるものであるから、その中でなされた公共施設の設置が必要性
を有するか否かは、現在の事実関係のみをもとにして判断することは出来ず、将来
における生活圏の拡大方向をも考慮に入れて判断されるべきものである。そうする
と白樺通りの拡幅計画は、すでに昭和三八年六月の都市計画の街路計画の中で明ら
かにされていたものであり、さらにこの拡幅によつて周囲の宅地の利用が増進され
ることは明らかであるから、被抗告人らの白樺通りの拡幅は必要性がなく、本来土
地収用手続によつてなされるべきである旨の主張は全く理由がない。この点につい
て、また被抗告人らは、白樺通りの拡幅は、本件換地処分とともに総合的な事業計
画の中の一つの表われであるという点を見過ごして、位置的な関係からのみとらえ
て、本件換地処分は、白樺通り拡幅のためになされたものであると短絡的に結びつ
けるという誤解を犯しているのである。
(二) 指定された換地が従前の土地と比較して地積・環境等の面において多少照
応しないところがあるとしても、それは土地区画整理事業が本質的にも技術的にも
予想するところであり、法第八九条第一項の諸要素を総合的に勘案して著しく条件
が異なり、かつ合理的な理由なしに近隣の者に比べて著しく不利益な処分をしたと
きでないかぎり、換地処分は法第八九条第一項に違反しない。本件換地処分は、ほ
ぼ原地換地であり、換地について区画整理完成の時点において想定される状況と従
前の土地の区画整理開始前の状況とを比較しても、その環境利用状況等において顕
著な変化はないと考えられるし、減歩率も近隣の者と比較して被抗告人らを著しく
不利益に扱つた事実もないから、被抗告人らの本件換地処分が法第八九条第一項の
換地照応の原則に反する旨の主張は全く理由がない。
(三) 法は、減歩そのものについて損失補償を予定していない。それに土地区画
整理事業によつて公共施設施設が整備改善され、宅地が整然と区画されることによ
りかえつて単位当りの利用価値は換地の方が従前の土地より増進するため、減歩に
よる損失は通常生じないからである。しかし換地処分によつて具体的に生じた関係
者間の不均衡は清算金で、土地区画整理事業施行後の宅地の価額の総額が、施行前
の宅地の価額の総額より減少した場合には減価補償金で償うしくみになつている以
上、土地区画整理事業自体が憲法第二九条三項には違反しないのである(参照最判
昭三二、一二、二五、民集一一、一四、二四二三)。被抗告人らは本件換地処分が
憲法第二九条第三項に違反する旨主張するが、それはつまるところ法第九四条、同
第一〇九条違反を云々しているにすぎない。本件換地処分においては清算金は徴
収、交付されており、減価補償金についてはその適用をすべき場合に当らないから
交付されていないが、これらの適用の有無は行政庁の専権に属する行政処分である
から(横浜地判昭四一、一〇、二〇、行政裁判例集一七、一〇、一一七二)、本件
換地処分には被抗告人らがいう違法はない。
以上の被抗告人らが本件換地処分が取消されるべきであると主張するところの理由
はすべて当らない。
三 百歩譲つてもし仮に本件換地処分に被抗告人らが主張するような違法な点があ
つたとしても、右処分を取消すことによつて、抗告人は換地計画全体の修正を余儀
なくされるばかりでなく、すでに換地上に形成された多数の第三者間に生じた法律
関係、および公共施設設置等の事実状態をも一挙に覆滅しさることにもなり、他面
違法な換地処分を受けた被抗告人らの損害は、学校経営の面においていずれも本質
的なものとはいえず、金銭的賠償の方法によつて十分填補されうるものと認められ
るから、被抗告人らの本件換地処分取消訴訟は行政事件訴訟法第三一条第一項によ
つて棄却されるべきである(参照長崎地判昭四三、四、三〇、行政裁判例集一九、
四、八二三)。つて被抗告人らの本件換地処分が取消されることを前提とした執行
停止の申立は何ら理由がなく却下されるべきである。
別紙二
被抗告人らが本件抗告の棄却を求める理由
第一 本件換地処分の効力を生じたままにしておくと、白樺通りの拡幅工事がなさ
れることは必至であるが、白樺通りが拡幅されることによつて被抗告人らJ側は回
復しがたい損害を被るので、被抗告人らとしては、これを避けるため、本件換地処
分の効力の停止をしてもらう緊急の必要がある。
一 はじめに
白樺通りの拡幅に伴つて、学園用地が大幅に削減されるものである。現状は大量の
白樺の木が植えられているために、かろうじて車の公害から学校環境を守つている
のであるが、これらが一切除去されてしまうと学校は車の公害から守るべき何もな
く、裸同然となるものである。そのうえ道路の拡幅に伴つて車の交通量は激増する
ことにならざるをえないから、拡幅によつて学校側が被る損害は極めて大きいもの
である。
二 車の被害の実態と問題点
道路が拡幅されることによつて学校が被る損失は二つある。その一は車の公害であ
り、他の一は校地縮滅による学校側の教育計画の破壊である。この二つは教育環境
の破壊という点で共通性をもつものである。
車の交通量の増加に伴つて、騒音、振動、排気ガス、交通事故の激増化がある。
(一) 騒音による影響
1 騒音による被害は(1)精神的被害と(2)身体的被害がある。(1)には会
話妨害、睡眠妨害、病気療養の支障、勉学意欲の減退があり、(2)には難聴耳
鳴、頭痛、目まい、食欲不振があり、これが学校では(1)、(2)が複合するこ
とによつて生徒の粗暴化、生徒減へとなるのである。
2 遂路の騒音は「ただ自動車のエンジン音だけでないことも注目すべきで、タイ
ヤのきしむ音、道路のつなぎ目の破音、警笛、夜中に何度も走るパトカー、救急車
のサイレン、いたるところで起る補修工事の音」がある。これらの被害は、老人、
子供、病人にとつて違い、周辺の条件、受ける側の経験、感じ方の違いがある。
3 更に、これらの道路の騒音は地域差がないということがその特徴にあげられ
る。このことを車種別騒音で七メートルで具体的にいうと大型貨物車、大型バス、
小型貨物車は平均七五~七九フオンである。
本件道路は、国道のバイパス道路(幹線道路)であり、帯広の工業団地の商品等を
運搬する必要から拡幅されるのであつて、車の車種は、大型貨物車が中心となり、
近時の大型貨物車は、大型機械の運搬の必要から一〇トンを越える車、トレーラ、
タンク・ローリーさえ出ているのであるから、前述した車種別騒音をはるかに上廻
ることは経験則上に容易に想像がつくものである。
4 更に本件の場合に重要なのは学園は、白樺通りの拡幅によつて、交通公害をう
け、新設の道路二ヶ所によつて、学園の周囲が全て道路になつたことである。拡幅
だけでも大変な被害になるのに、周囲が新しく道路になることは著しく教育環境を
騒音等によつて破壊されることである。白樺通りに限つてみても、教室と道路との
至近距離は九メートルであり(この教室は木造である)、前述した車の騒音をまと
もにうけるのである。各種の調査によれば一般の市街地では道路から五〇メートル
は騒音の影響力が変らないということであるから、Jの校舎は全て騒音の影響下に
あることになるのであり、これから影響をうけない校舎は存在しないことになるの
である。そのため窓を二重にしたり、換気扇を仮につけたとしても、授業や研究に
支障をきたすことになるのであるから、これらの施設がない現状では、この被害は
一層大きいものである。
(二) 振動、排気ガス、交通事故
1 振動による影響は、木造家屋の場合に、これが顕著である。排気ガスは道路か
ら一〇〇メートル離れていてもその影響がほとんど変らずうけ、これがため、目、
鼻、をおかされ、風邪やゼンソクになるという例が報告されている。
2 また、道路が拡幅されることによつて交通量が激増して、これに伴ない車対車
の事故は勿論、車対人(学園の生徒)の事故が発生する危険性が高くなる。
(三) 現行法制との関係について
1 車の騒音については、現行法では、極めて不十分ながら騒音規制防止法があ
り、これの第四章に自動車騒音に係る許容限度等についてとあり、同法一七条一項
が自動車騒音について規定している。同法一七条をうけて、「騒音規制法第一七条
第一項の規定に基づく指定地域内における自動車騒音の限度を定める命令」(昭和
四六年六月二三日総理府、厚生省令第三号がある。また、騒音一般については「騒
音に係る環境基準について」(昭和四六年五月二五日閣議決定)がある。
更に近時の道路公害の状況を反映して、昭和四九年には「道路環境保全のための道
路用地の取得及び管理に関する基準について」(建設省、都計発第四四号道政発第
三〇号)が通達されている。この通達は「今後幹線道路の新設又は改築にあたつて
は、これによる」とあるのであり、右の「基準」によれば、本件の白樺通りもこれ
に含まれるのである。そして右「基準」は、幹線道路(この基準の幹線道路とは本
件のような四車線を含む)の周辺における生活環境を保全するためには、その対策
として植樹帯、しや音壁等を設置するよう義務づけているのである。
本件では防音的効果をもつていた用地と白樺の木等を全て除去してしまうのである
からまさにこれに逆行することを行つているのである。
2 また前記「騒音に係る環境基準について」では、黒地域(とくに静穏を要する
地域)では、昼間は45ホン以下であり、道路に面する地域でも、55ホン以下と
定めているのである。その他の法令でも、病院、学校等、特に静穏を必要とする地
域では、一般の基準とは異つて別扱いすることができるとしているものさえあるの
である。
3 このように騒音や環境を保全するための法令を概観してみても学校について
は、一定空間を設けるとか、植樹帯、しや音壁等を設置するよう義務づけて、でき
るだけ環境を保全しようとしているのである。
抗告人は、これらの法令に何一つ準拠せずに、むしろ植樹帯を積極的に除去しよう
ということさえ行つているのである。これでは学校は、騒音に限つてみても、裸同
然になつてしまつて、責任ある学校経営をできないといわねばならない。このよう
な事態を回避するため全国の地方自治体等は私立学校等と積極的に話しあいをして
きて、これを現実に回避しているのである。
4 近時の公害に関する判例によれば「最善のまたは相当の防止措置を講じたか否
かをもつて」責任の有無を決めるのは妥当ではなく、ましてその「被害が附近の住
民の生命、身体というかけがえのない重大ななものであるとき」は、これを優先さ
せるべきであろうという(津地裁四日市支部昭四七・七・二四)ことさえいつてい
るのであるから、まして本件の場合は「最善」はおろか「相当の防止措置」さえ行
つていないのであるから、一層その不合理性、違法性は大きいといわねばならな
い。
前述した諸法令は、現状において極めて不備なものであるため、近時、これを厳し
く規制し、騒音そのものを法的に規制したり、排気ガスの濃度等を規制しようと各
種の立法がなされようとしていることは、社会経験上知られていることである。
更に最近では、車の総量を規制し、騒音、排気ガスを規制しようとするのが広範な
世論であるから、抗告人のように旧態然たる交通量の増加に伴なう道路の拡幅は原
始的であるばかりでなく時代の流れに逆行さえしているのであり、将来の一定の時
点にふりかえつてみた場合に無駄な拡幅をやつたという良識ある世論からの批判を
被ることにならざるをえないのである。
三 校地縮減による教育計画の破壊
(一) 学校施設は、生徒の教育環境という意義を担つており、潤沢な場所的余
裕、樹木に囲まれた校舎、静粛な環境等は学校の生命をなすものであるから、学校
は、右の要請をかなえうるだけの一定の地積を保有することが必要である。文部省
が、高等学校設置基準(文部省令)一七条及び第二号表において、校地等の面積に
ついて各学校が遵守すべき一定の基準を定めているのも、このためである。これに
よれば、普通高校(白樺高校は普通高校である)の場合、校地については生徒一人
当り七〇平方メートル、運動場三〇平方メートルとされている。そして、教育行政
当局(たとえば北海道教育委員会十勝地方教育局)は、右の校地及び運動場面積は
合算されるとの見解をとつているので、合計面積は、生徒一人当り一〇〇平方メー
トルとなる。これをJについていえば、同校の生徒定数は九〇〇名と定められてい
るので(同校校則)、基準面積は九〇、〇〇〇平方メートルとなり(仮に、前記設
置基準が、運動場面積を校地面積に包摂されるものとして定めたとしても、六三、
〇〇C平方メートルが必要とされる。)、すでに換地処分前(五七、五八一・四二
平方メートル)においても右の基準を大幅に下廻わつているのである。それにもか
かわらず、本件換地処分によつて、さらに七、四五七・二八平方メートルを減じら
れようとしているのである。
したがつて、抗告人の、本件換他処分によるJ用地の削減は、学校運営に本質的な
影響を与えるものである。
(二) 学園側が道路用地として取得される部分は校舎の前庭であつて、学校経営
上不可欠の場所である。道路用地として取得される場所が学校経営上決定的損失を
被るからこそ被抗告人らは今日まで一〇年間にわたつて執拗に区画整理より除外し
てほしいと主張しつづけてきたのである。学園が前庭部分を必要とするゆえんは、
一つは道路の騒音等から学園を護るということであり、二つは学園の将来計画(例
えば学級数の増加に伴なう校舎の新築や、学園は将来大学を含めた一大学園にする
計画をもつているので、そのため、道路用地として前庭部分を南北八メートルも削
られることは致命的損失を被る)に多大の影響をもたらすということである。その
三つは、学園としては前庭部分を含めた教育環境の整備の問題があるのである。前
庭の必要性は以上三つに尽きるものではないが、仮に、第一の騒音から学園を護る
とする問題に限つてみても、前庭部分の一部が道路になるだけでなく、その道路が
三〇メートルの道路で通過車輛をさばくためにあるのであるから交通量の増加に伴
なう騒音が一層激しくなることは必定であり、学園が従来通りの静かさを維持する
ためには、校舎全体を大幅に南側に後退させるという犠牲が伴なうのである。
四 被抗告人らの被る損害の性質
執行停止で問題とすべき回復しがたい重大な支障とは、取得されるべき土地が、本
訴で勝訴した場合に原代に回復できるか否かに最大の問題があるのである。抗告人
が学園につきつけてきた道路とされる前庭の部分の工事(道路拡幅工事と下水道工
事)は、いつたんなされると事柄の性質からして、著しく回復困難なものである。
それによつて被抗告人らが被る前記損害は、金銭的補償のみをもつてしては、到底
償い得ないものであり、被抗告人らがこれを忍受すべき限りのものではない。
五 区画整理の経過等に対する反論
抗告人は、「本件区画整理事業が段階的に進行し完結するものであつて、仮換地指
定処分の時点において既に現在の状況が現出すべきことを了知しつつもこれに対し
て何ら法律上の不服申立をなさず該地上の物件を任意に移転ないし除去していなが
ら、被抗告人らは、本件事業の最終段階に至り、本件係争部分を除く他の地域が住
民の承認の下で平穏に終結せんとする時点においてにわかに異を唱え」と主張する
が、右主張自体明白なる誤りである。被抗告人らは、本件区画整理の事業計画の段
階から、換地処分に至るまで終始一貫して、本件区画整理から学校用地を除外して
もらいたいと主張し、その旨をあらゆる機会あらゆる争訟方法を通じて、不服申立
をなしてきているのである。また仮換地そのものに対しても、例えば、昭和四一年
七月一日付で仮換地指定無効の訴(昭和四一年(行ウ)第八号)を起し、かつ同年
一〇月二九日には右仮換地の執行停止の訴をなしているのである。更に、右仮換地
指定処分に抗議して学園側が寮を立退かないことに対して、市当局は寮に居住して
いた高校生を相手にして昭和四四年八月二六日には釧路地裁帯広支部より仮処分決
定(昭和四四年(ヨ)第六一〇号)を得たので、学園側はこれに対して特別事情に
基く異議の申立をなしたりしているのであり、また市の寮の移転命令及び補償費決
定処分には昭和四四年九月二二日道知事に審査請求をなすとともに、執行停止の申
立もなしているのである。さらに昭和四五年一月八日には学園側は再審査請求をし
ているのである。昭和四五年三月には、帯広市は学生の寮からの立退きを求める断
行の仮処分を申請したのであるが、裁判所の強い和解勧告があつて、同年四月一五
日に和解ができたのであるが、市当局がこの和解条項を順守する態度をとらなかつ
たので、同年五月には和解無効確認の訴を学園側は起すということさえなしている
のである。学園側が仮換地指定を争つて任意に寮の立退き等をしないので市当局
は、同年五月二七日には橘弁護士、執行官を、同伴のうえ第一回の執行通達に学園
側にきているのである。第二回の執行が同月三〇日に警官の警護の下でなされ、そ
の通告にD部長以下がきた際に、学園側は強制執行による混乱を避けるためにやむ
をえず、寮や樹木、食堂等の仮換地執行に伴なう問題について確認書をとりかわし
ているのである。学園としては、最終問題の結着を、換地処分の取消訴訟という憲
法二九条が問題となる訴訟として起すことになつた(昭和四五年九月)のであり、
その訴訟が本件裁判である。以上の経過からして明きらかのように、学園側は仮換
地の指定の問題に限つてみてもおよそ考えられる法律上の不服申立を全てなしてい
るのであり、このように経過を事実に即してみれば、にわかに異を唱えるというの
は明白な誤りであるのである。
また抗告人は本件裁判で市が敗訴したとしても、土地収用法で用地取得するのであ
るから、結局は金銭の補償でカバーされるとしているが、これは本件裁判とは全く
次元を異にする問題であり、抗告人の主張は本件土地区画整理が違法と判断された
としても、土地収用でやるのだから、違法と判断しても無意味であるという驚くべ
き司法権軽視の発想に基づくもので、承服できるものではないのである。既に本訴
で学園側が再三にわたつて主張しているように、学校のような公共的施設は法九五
条の明文でも特別の定ができるようになつていること、及び学校は、一定の土地を
現に使用しているという使用価値そのものが大事なのであつて、土地の交換価値に
注目してなされる区画整理には本来的になじまないことを考えると、金銭で土地の
滅失部分をカバーすればよいとする考え方は、根本的に誤りであるのである。
第二 抗告人の抗告理由第二に対する反論
一 抗告人は、本件執行停止は、「公共の福祉に重大な影響を及ぼす」旨を主張す
るが、抗告人の右の主張は、行訴法二五条一二項前段を根拠とするものと思われ
る。先ず右の規定については、以下の点が留意されるべきである。
すなわち、右の規定は、執行停止の要件(その消極的要件)の一を定めたものであ
るが、この規定が意味をもつのは、「処分、処分の執行又は手続の続行により生ず
る回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」(積極要件、同条二項)
で、且つ「本案について理由がないとみえるとき」(いま一つの消極要件、同条三
項後段)に当らない場合-すなわち本案における原告勝訴の可能性が否定できない
場合に、「公共の福祉」を理由に執行停止を不許とする点にある。しかしながら、
本来国民は、抗告訴訟の結果、当該処分が違法として取消され、あるいはその無効
が確認された場合には、当該処分による損害を回復しうる地位にある。蓋し、裁判
所による当該処分の違法ないし無効の判断は、当該処分が現行法秩序上その存在を
許容しえないものであることを明らかにするものであるから、当該処分の諸効果も
また完全に否定され、当該処分が存在しないと同様の状況が現出されなければなら
ないのはむしろ当然の事理だからである。そして訴訟係属中に、行政庁が当該処分
を執行し、あるいは後続手続を続行、終結させてしまうと、国民が折角勝訴の判決
をえても、処分による損害の回復が不能ないし困難となる事態を生ずることがあ
り、そうなれば抗告訴訟の意義が減殺されることを考慮し行訴法は、執行停止の制
度を設けたわけである。そうだとすると、「回復困難な損害を避けるため緊急の必
要」が存在し、且つ「本案について理由がないとみえるとき」に当らない以上、当
然に執行停止が許容されるべきことになるのであり、これに制限を加える行訴法二
五条三項前段の規定は、一例外の例外というベき規定一であるといわなければなら
ない。
したがつて、右の規定の適用は、きびしく限定されなければならず、この解釈適用
をゆるやかに行うならば、執行停止の制度、ひいては抗告訴訟制度の意義を失わし
めることになろう。そこで、右規定の解釈について言及すると、単に何等かの公益
上の理由が存するというのみでは、右の要件を充足しないことはいうまでもない。
この点については、右の要件と同条二項の要件とを相関的にとらえ、国民の側の損
害と公益上の必要との比較衡量によつて決すべきであるとするのが一般であるが、
但し、その比較衡量は、両者のいずれがより重要であるかを問う単純な比較衡量で
あつてはならない。すなわち、国民の側の損害よりもより重要な公益上の必要が指
摘されるというのみでは、執行停止不許の要件が充足されるということはできな
い。蓋しすでにみたように、本来当該処分を違法(ないし無効)とする司法的判断
がなされたときは、国民は原状回復を図りうる地位を保障されているからである。
これがあくまでも原則なのである。これに対し、前記の規定は、国民が違法処分に
よる損害の回復が困難ないし不能とされる危険性が存在するにもかかわらず、あえ
てこれを無視して執行停止を不許とするものであるから、かかる取扱いは国民の側
の右のような地位の制限(司法的救済の原則の修正)をやむをえないとする程の重
大な公益上の理由が存する場合に、始めて許容されるものというべきである。
学説上も、「その場合の公共の福祉に及ぼす影響は、個人に回復すべからざる損害
を生じても已むを得ない程の重大なものでなければならない」、「処分の執行によ
り申請人の受ける損害との関係においてその損害を看過してまでもなお公共の福祉
に対する影響をより重大としてこれをまもるほどの必要があるかどうかという見地
から相対的に判断すべきもの」と解している。行訴法二五条三項前段が、わざわざ
「重大な」との文言をけしているのも、右の趣旨を現わしたものということができ
る。また、以上の如くであるから、右の要件は、同条三項後段の要件とも相関的に
とらえられるべきであり、「将来本案判決において取り消される可能性の大きい処
分によつて生ずる損害は、現在においてこれを当事者に忍受させることが社会通念
上相当でない」のであるから、場合には「公共の福祉)を理由とする執行停止不許
は、認めるべきではない。
二 本件についてみると、抗告人は、白樺通りの拡幅工事及び同道路の下水道工事
を停止することは、公共の福祉に重大な影響を及ぼす旨主張している。
1 しかしまづ下水道工事についていえば、現在関係地域に下水道が全く存在しな
いわけではなく、一応既設のものが存在しているのであるから、市民生活上右工事
に緊急の必要性があるとは認められないこと、右十勝川汚水一号幹線の十勝川終末
処理場の供用開始は昭和五二年度の予定であること、他方本件本案訴訟の審理は、
昭和五一年一月二七日、二八日の証人尋問を終わればあとはほぼ原告本人尋問(原
告J理事長A一人の予定)を残すのみであり、一開廷、多くとも二開廷を要するの
みで、比較的短期の間に終結の見込みであり、他方ここ数ヶ月間は降雪、凍結によ
り工事が停滞する可能性が強いこと及び執行停止部分はわずか三五〇メートル程度
でその間の工事であれば後になつても短期間で行いうることを併せ考慮すると本件
執行停止が五二年度の終末処理場の供用開始を遅延せしめることはにわかに断じが
たいし、また仮に遅延があるとしても比較的短期間であることが予想されること、
少なくとも長期にわたつて遅延するおそれがあると断定する論拠は見出しがたいこ
と、抗告人は「工事施行がなされず予算不執行の事態が生ずれば、少くとも翌年度
以降における国庫補助金の削減は不可避となりその結果として当然に事業完成の遅
延が生じ」と主張するが、「翌年度以降における国庫補助金の削減は不可避」との
点は、該制度の法制上ないし運用上そのように取扱われるとの疎明が存しないばか
りでなく、仮にそのような取扱いがなされたとしても、前年度分の未執行の予算が
残されているのであるから、翌年度の工事施行に支障を来たすことはないと認めら
れること等からみて、本件執行停止による下水道工事の遅延に、「公共の福祉に重
大な影響を及ぼすおそれ」を生ずるものとは認めがたい。さらに付言すれば、十勝
川汚水一号幹線を白樺通りの一部を経由させなければならないとする必要性が明ら
かではなく、仮にそうだとしても、本件執行停止にかかわる白樺通り南端部分を通
さなければならないとの理由は見出しえない。
下水道が市民の利用に供せられるためには、幹線工事だけではなく、幹線から各家
庭の利用可能地点にまでのびる支線網が整備されなければならず、さらに支線と各
家庭とを結ぶ下水管が敷設されて、始めて市民の日常生活につながることになるの
である。ところが本件の場合、目下工事が進められているのは幹線工事のみであつ
て、支線については柏林台団地及びJ東方の生活道路に敷設されているのみで、十
勝川汚水一号幹線の管轄地帯のごく一部でなされているにすぎない。この支線網の
完成時期は明確ではないが、右の現状からみて完成までにはなおかなりの時間を要
するものと思われる。そしてこの支線網が完備されなければ、右幹線の工事だけを
急いでみても、市民生活との関連を生じえないことは明らかである。
また右下水道が完備された場合に、市民生活にもたらされる利益は、水洗便所の利
用が可能となるということなのであるが、このことが市民生活の文化的水準を高め
るものであることは否定できないとしても、現状でもバキユームカーによる汚水処
理がなされていて市民生活上さしたる支障は生じていないのであるから、本件下水
道工事がなされないからといつて、或いは本件の本案判決確定までの間ペンデイン
グにされたからといつて、公共の福祉に重大な支障をもたらすものとはいいがた
い。東京などの大都会においても、一般家庭における水洗便所の利用度は必らずし
も高くないのが現状である。
さらに、仮に幹線及び支線網が完備されてみても、水洗便所に改造するには、約三
〇万円の費用を必要とする。これは各市民の負担となるため、資金面から改造工事
を見合わせる家庭も少なくない。Eの陳述書からも窺えるように、帯広市内で下水
道が設置されているところでも、右の事情から水洗便所を使用していない家庭が少
なくない。下水道が設置されて二〇年を経過したところでさえ、そのような有様で
ある。そうだとすれば、さして経済的余裕のない一般庶民にとつて、水洗便所とそ
のための下水道工事が、日常生活上にどれ程の切実性をもつかはきわめて疑問であ
る。
さらに、前記幹線を本件係争地に通さなければならない必要性についても、納得の
いく十分な疎明がなされていない。他の地域を通すことや、仮に白樺通りを通す場
合にも、グリーンベルトの下を通すなどの代替案が考ええないではないのである
が、抗告人側においてそのような代替案を検討した形跡は全くない。前回の審尋期
日において抗告人側は、代替的な方法はない旨述べているが、抗告人側において代
替案を検討したということは寡聞にして聞いたことがない。要するに現段階では代
替案を考えていないというにすぎないのである。
2 次に道路拡幅工事についていえば、仮に本件執行停止にかかる白樺通り南側部
分の拡幅工事か完成されたとしても、拡幅されるのは一、一〇〇メートルの区間で
あり、それより以東及び以西は依然として旧来の幅員であること(以東については
「昭和五一年度から順次拡幅工事を実施する計画である」というのであるが、何年
度にどれ程拡幅工事が進捗するのかに全く不明であり、また以西については全く言
及するところがない)、白樺通りの拡幅が市の中心部と周辺住宅地ないし工業団地
を結び市の幹線街路の整備を目的とするものであることを考えると、精々一、一〇
〇メートルの区間が拡幅されたとしても、旧幅員と接する部分においては交通渋滞
を生ずるのであり、その状態では未だ幹線街路としての機能を果たしえない状態に
あること、したがつてかかる状態のもとでは、道路が不完全なものであることを見
越して、他からの自動車交通の流入が自ら控えられ、重大視すべき程度の交通渋滞
は生じえないと考えられること、さきにも述べた本案審理の進行状況からみて、本
件執行停止による道路工事の遅延は長期にわたるものではないことが予想されるこ
と、予算執行上も問題を生ずるというが、それが果たしてどの程度の支障を生ずる
のか具体的には明らかでないこと、等を総合勘案すると、道路拡幅工事の点につい
ても、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」が存在するとは認めがたい。さ
らに付言すれば、相手方が本案で主張している如く、住宅地域における道路の大幅
の拡幅は、他からの自動車交通の流入を誘い、一層大規模な過密状況を現出し、交
通公害の発生ないしその拡大をもたらすものであることが十分に明らかとなつてい
る今日、本件白樺通りの拡幅が、はたして「公共の福祉」に合致するかは甚だ疑問
である。
3 乙第八号証によれば、陳情内容の一部に、白樺高校前の拡幅工事についての要
望が含まれているが、それは「早急に事態を収拾いただき」ということを前提とし
たものであつて、やみくもに右工事を即時実施することまでを求めているわけでは
ない。そのことは、本件換地処分が現在裁判所で係争中であることからすれば、当
然のことであろう。しかも、白樺通りの拡幅事業は、本件係争部分以外にも広域の
未施工部分が残されているのであつて、「全線完成」には、なお相当の歳月が必要
とされているのである。陳情関係者が、目下の早急な解決を求めている点は、啓西
小学校及び第五中学校の児童、生徒の通学の安全ないし便宜の確保ということであ
り、その点で具体的に問題になるのは、白樺高校前の通路が「工事中断の状況のた
め崖状をなし危険性高く」という点である。しかし、その後工事施行者側において
白樺高校前に暫定歩道を設けたので、陳情関係者らのこの点の要請は、一応かなえ
ろれ、当面の通行の安全ないし便宜は確保されたものと認められる。
また、西一七条の歩道橋設置の要請は、本件係争地とは関係がなく、また西一六条
三丁目交叉点の信号機については、すでに設置されており、生徒・児童や一般住民
の通行の安全確保には、一応支障のない状態となつている。
以上のとおりであるから、地域住民の生活上の便益確保のため本件係争地帯の道路
拡幅工事及び付随する下水道工事を緊急に開始しなければならぬ必要性は見出し得
ない。
4 白樺通りの大部分は、現在道々に移管されている。この道々に、帯広市中心部
と隣接する芽室町とを結ぶ典型的な通過交通道路であつて、区画整理地域の住民の
ための生活道路ではないことは明らかである。この点で、本件区画整理事業は、道
々の拡幅整備のために市の区画整理を利用した(脱法行為)との疑いが濃厚である
が、その点を措くとしても、この白樺通りの拡幅にかかわる抗告人の利害は、道々
の拡幅により一般市民の交通の便益が増加するという反射的利益にすぎないのであ
つて、抗告人が、本件換地処分の執行停止を妨げる事由として主張しうる筋合いの
ものとは解しがたい。
また、従前の書面でくりかえし指摘したように、白樺通りの如き広域にまたがる広
幅員の通過交通道路は、全体として、あるいはその大部分が拡幅されて始めて本来
の機能を発揮しうるのであるが、白樺通り拡幅計画の一環をなす駅南地区の拡幅工
事については、地域住民多数の強力な反対に遭遇し、昭和四七年に、当分の間施行
を見合せることとなり、今日においても依然として宙に浮いたまま放置されてい
る。こうした状況からみて、本件係争地についてのみ、早急に工事を行わなけれ
ば、公共の福祉に重大な支障を与えるものとは到底いいがたい。
5 仮に、前記の拡幅工事等がある程度以上長期に及ぶときは、「公共の福祉に重
大な影響を及ぼすおそれ」を生ずることが予見されるとしても、かかる「おそれ」
が現存しない以上、右の予見を理由として執行停止を不許とすることは法(行訴法
二五条二項)の明文に反するので、相当ではない。本件の場合、被抗告人側は右の
拡幅工事によつて前述のようにかななり大きな利益侵害をうけるものであり、且つ
本件執行停止が不許とされて拡幅工事が完了すれば、現状を回復することが不可能
となり、本案の判決もまた事情判決(同法三一条)を余儀されるに至ることは明白
であること、被抗告人らは本件各換地処分の取消を求めることが不可能とされるこ
と等、被抗告人側が被る決定的な不利益との対比、均衡からしても、右のように解
するのが相当である。
6 学校教育法の定めの学校は、国公私立の別なく、すべて「公の性質」を有する
ものである(教育基本法六条一項)。これは、学校が、国公私立の如何を問わず多
数の子どもの「教育を受ける権利」(憲法二六条)の充足に当る公共的施設である
からにほかならない。したがつて、本件で行訴法二五条三項の「公共の福祉」条項
の該当性の有無を判断するに当つては、被抗告人側の利益が単なる個人的利益なの
ではなく、公共的性格をも担つていることを、充分に考慮すべきである。さきにも
述べたように、土地区画整理法九五条一項が学校用地について、特別の考慮を要請
しているのも、右のような学校の公共的性格に基因するものといえよう。
7 以上の点を総合勘案すれば先にみた程度の公益的理由をもつて例外中の例外の
扱いを行うことは、当をえないこと明白であるといわねばならない。
第三 抗告人の抗告理由第三に対する反論
一 行訴法二五条一二項の「本案について理由がないとみえるとき」の要件につい
ては、一般に次のように解されている。
まづ、右規定の立法趣旨を示すものとしては、杉本良吉裁判官の次の見解がある。
「したがつて、申立人の主張どおりとしても、係争処分に取消事由をみとめがたい
ような明白な場合は論外として、相手方において係争処分の適法要件の具備を疎明
しなければ、本案訴訟について理由がないとみられないことになろう。」
また学説も同旨であり、「本案訴訟の立証責任の配分との比較から、処分の適法性
の疑いが多少とも存するとき、もしくは、本案の理由の存否がいずれとも決しがた
い不明な場合は、『本案について理由がないとみえるとき』には該当しない」と解
している。裁判例も、「相手方において積極的に右処分が違法であつて取り消され
るべきことを疎明することを要求されているものではなく、その点の疎明を欠いて
も、『本案について理由がない』と即断することはできない」としている。右の規
定は、その文言からも明らかなように、消極的要件を定めたものであるから、右規
定を以上のように解するのは当然のことであろう。
二 以上のことを前提として、抗告人のこの点に関する主張を検討すると、まづ被
抗告人らの主張の要約は、甚だ不正確である。被抗告人らの本案における主張のう
ち主要な点を要約すれば、左の如くである。
(一) 土地区画整理法(二条五項、三条三項)は、憲法二九条に違反し、違憲無
効である。すなわち、公共施設のための用地取得の方法としては、任意買収、土地
収用法による土地収用並びに土地区画整理法による換地処分の三者がある。このう
ち後二者は、強制取得の方法であるが、土地収用は金銭的補償を伴うのに対し、換
地処分は、無補償を原則としている。このように換地処分が無補償を原則としてい
るのは、土地区画整理による公共施設の整備によつて、宅地の利用度が増進され、
減歩による地積の減少にもかかわらず、それに見合うだけの単位面積当りの経済的
価値の増加が見込まれるので、結局、換地の前後において、経済的価値に増減を生
じないことを考慮したものである。したがつて、逆にいえば、土地区画整理による
公共施設の整備は、当該公共施設が、用地負担に見合うだけの利益を区域住民(土
地区画整理施行区域の住民)に保障するものであり、なによりも、土地提供者を第
一義的な受益者たらしめるものである場合に、始めて合憲性を取得するものといわ
ねばならない。たとえば道路の新設・拡幅についていえば、単に区域内の住民だけ
でなく、他地域の住民もその利益に広く均霑するという場合や、むしろ当該区域外
の他の地域の交通(通過交通)の便を図ることに主眼があるという場合には、-こ
のような道路のための用地負担を区域内住民にのみ負担せしめるのは公平ではない
のだから-許されないものといわねばならない。そして道路等多くの公共施設の整
備については、土地収用と区画整理の二方法が重畳的に存在しており、かつ、土地
区画整理は、金銭的補償を必要としないものであるだけに、道路等の新設・拡幅に
安易に多用、乱用される可能性が強いのであるから、区画整理によりうる場合と土
地収用によるべき場合との区分が、法律上明確にされ、後者の乱用の余地が厳重に
封じられていなければならない。
ところが現行法は、右の区分を明確に定めておらず、土地区画整理を合憲なものと
して許容される範囲に限定することなく、市町村等に対し、土地区画整理施行の権
限を付与したものとして、違憲たるをまぬがれないものといわねばならない。現
に、甲第三六号証によれば、行政庁サイドでは、土地収用・土地区画整理のいずれ
によるかについては、法的にはなんらの制限はなく、行政庁の自由な裁量に委ねら
れているとの認識をもつて運用に当つており、白樺通りの拡幅のための用地取得に
ついても、任意買収と区画整理の二方法が併用されている。
以上が、被抗告人らの本案における違憲論の中心ないしは骨子である。なお、被抗
告人らは、本件換地処分の基礎となる本件都市計画についても、それが準拠した旧
都市計画法の違憲性を主張している。
(二) 仮に、土地区画整理法を合憲的に解釈するとすれば、同法二条五項、三条
三項は、区画整理が合憲であるための条件に照らして、区画整理を実施しうる範囲
を限定的に解釈すべきこととなり、右の範囲を超える土地区画整理=換地処分は、
右規定に反し違法と評価されることになる。かかる場合には、適用違憲の問題を生
ずると考えることもできよう。
ところが、本件で最も問題の多い白樺通りの拡幅を例にとつてみると、右道路は、
帯広市の都市計画において主要幹線道路として位置づけられたのであるが、右都市
計画は、F内閣の所得倍増計画、すなわち国の高度経済成長政策に沿つて、道東に
おける太平洋ベルト地帯(帯広を含む広域の工場地帯)の造成をめざし、そのため
の道路網の整備を目的とした都市計画であり、白樺通りの拡幅も、この国の経済政
策に沿つた道路行政たる性格を有するものである。具体的にいえば、右都市計画で
予定されている市西部の工業団地の造成、それに伴う住宅団地の増加、あるいは柏
林台団地の出現などにより交通量が著しく増大することが見込まれ、かかる通過交
通の増大をさばくものとして、白樺通りの拡幅が構想されたものである。これで明
らかなように、白樺通り整備の第一次的な受益者は、むしろ柏林台団地や工業団地
なのであり、あるいは少なくとも広い地域の企業ないし住民がその利益に均霑する
のであり、かつ、沿道住民自体は、交通量の増加に伴う交通公害の発生というデメ
リツトさえ予想されるのであるから、かかる道路拡幅のための用地取得について
は、区画整理の方法によるべきはない。それは、前述のように限定的に解釈される
前記の規定を逸脱するものといわねばならない。現に、同じ白樺通りの拡幅のため
の用地取得のために任意買収の方法によつたところもある。このことからみても、
任意買収(あるいは土地収用法による収用)と土地区画整理とが、行政側の便宜に
よつて恣意的に使い分けられていること、すなわち、土地区画整理の方法によりう
る限りは、出費を伴わないこの方法によることとし、それが不可能なところについ
てのみ任意買収の方法をとることとして、可能な限り安上りの道路整備を図ろうと
していることを窺いうるのである。
(三) 土地区画整理法九五条一項に、学校その他「公共の用に供する施設」につ
いては、換地計画において特別の考慮を払い、換地を定めることができる旨を定め
ているが、これは、本来土地区画整理が公共施設の整備による宅地の利用増進を目
的とするものであるから、区画整理事業において学校用地等を削減することは、右
の事業目的に却つて背反するものであることを考慮したものにほかならないから、
右の特別な考慮は、施行者の自由な裁定に委ねられていると解すべきではないとい
うべきであるが、本件換地処分においては、特別の考慮は払われていない。
(四) 換地処分の前後における当該土地所有者の保有する経済的価値の等価性を
保障するためには、換地計画及び清算金の算定をも含めて、土地の評価方法及びそ
の具体的適用が、合理的であることが必須の要件とされるが、この面でも本件換地
処分の場合、多くの問題が含まれている。たとえば(イ)土地の評価については、
路級価方式がとられているが、路級価の数値のおき方が合、多くの問題が含まれて
いる。たとえば(イ)土地の評価については、路級価方式がとられているが、路級
価の数値のおき方が恣意的である。(ロ)換地設計においては、地先減歩がなされ
る訳であるが、その適用のしかたが恣意的である。(ハ)清算金の交付額、徴収額
の算定が不合理である等々の矛盾や欠陥が、本案における証人尋問の結果からも、
明らかにされている。以上のとおり被抗告人らの本案における請求は理由があると
認められるとさえいいうるのであつて、行訴法二五条三項にいう
「本案について理由がないとみえるとき」に当らないことは明白である。
三 抗告人は、被抗告人らの本案の請求は行訴法三一条一項により、棄却されるべ
きものであると主張するのであるが、右規定は、当該処分が違法とされるにもかか
わらず、当該処分を維持せしめるものであるから、明らかに「法律による行政」の
原則の例外を設けたものであり、したがつて、右の規定が厳密に限定して解釈適用
されるべきことは、多言を要しないところである。当事者双方の主張・立証が十分
に出揃つていない本案審理の途中において、且つ簡略な疎明資料にもとづいて判断
するほかない執行停止手続において、事情判決に適するか否かを裁判所が判断する
ことは妥当ではないし、またことに本案の受訴裁判所でもない抗告審の裁判所が、
受訴裁判所をさしおいて、その審理途中において、最終判決の内容に影響を及ぼす
如き判断を示すことが適切でないことは、論をまたないところである。さらに、本
件執行停止が、事情判決の可能性を予測して取消されるとすると、白樺通り等の拡
幅新設工事、下水道工事が施行され、公衆の交通の用に供せられるという既成事実
を生ずることとなり、執行停止を取消したことが、却つて事情判決を確定的なもの
とするという不当な結果を生むことになるのである。
(原裁判等の表示)
○ 主文
1 相手方が、昭和四五年九月二六日、申立人らに対してなした別紙(二)、
(三)、(四)、(五)記載の各換地処分および各保留地指定処分の効力を本案判
決が確定するまで停止する。
2 申立費用は相手方の負担とする。
○ 理由
一 本件申立の趣旨および理由の要旨は、別添執行停止の申立書写しのとおりであ
る。
二 よつて判断すると、申立人ら提出の疎明資料によると、本件は、右各換地処分
および各保留地指定処分の効力が発生することにより申立人らに生ずる回復の困難
な損害を避けるため緊急の必要がある場合に該当するものと認められ、また、本案
について理由がないとみえるときにも当らないのみならず、右各処分の効力を停止
することによつて公共の福祉に重大な影響をおよぼすおそれがあるとも考えられな
いので、本件申立は理由があるから、行政事件訴訟法二五条二項、七条、民訴法八
九条を適用して主文のとおり決定する。執行停止の申立書
申請の趣旨
一、被申請人が昭和四五年九月二六日申請人らに対してなした別紙(二)、
(三)、(四)、(五)記載の各換地処分及び各保留地指定処分の効力は、本案判
決が確定するまでこれを停止する。
との裁判を求める。
申請の理由
第一 当事者の地位
一 申請人らの地位
(一) 申請人学校法人Jは私立学校法に基いて、昭和三二年に認可された学校法
人であり、J高等学校を設置し、別紙(二)記載の換地処分の対象とされている各
土地(別紙中「従前の土地」欄に記載されている各土地)を所有している。
(二) 申請人Aは学校法人Jの理事長であり、別紙(三)記載の換地処分の対象
とされている各土地の所有者、申請人Bは別紙(四)、(五)記載の換地処分の対
象たる各土地の所有者(別紙(五)記載の土地は、かつて申請外C名義となつてい
たが、昭和四一年七月釧路地裁帯広支部での調停により、申請人Bの所有であるこ
とが確認された。しかし換地処分はC宛になされている)であり、いづれもこれら
の土地を前記学校法人に賃貸し、同法人は、これを前記高等学校の校地として使用
してきた。
二 被申請人の地位
被申請人は地方公共団体である帯広市であつて、土地区画整理法三条三項により土
地区画整理事業を施行する権根を有するものである。
第二 本件処分の存在とその経緯
一、本件処分
被申請人は、昭和四五年九月二六日申請人らに対して、申請人ら所有の前記各土地
につき、土地区画整理法一〇三条一項に基いて別紙(二)、(三)、(四)、
(五)記載の如き各換地処分を行つた。(但し別紙(五)記載の換地処分はC宛で
なされたことは前述の通り)
(一) 昭和四〇年三月三〇日、北海道告示第五八四号で帯広都市計画西第一北土
地区画整理事業の事業計画の認可が公告された。
右事業計画によると申請人学校法人J(以下Jという)申請人A及び申請人B所有
の各土地が右計画区域内に含まれていた。
(二) 昭和四一年六月四日、申請人J及び申請人Aに、昭和四一年七月一日、申
請人Bに、仮換地指定の処分をなした。
(三) 昭和四五年七月一三日から七月二六日まで換地計画の縦覧が行れ、同年九
月二六日、本件各換地処分が行われた。
(四) その結果、申請人らは以下の所有地を失なうことになる。
(1) 別紙(六)J校地略図の(1)の部分((イ)(ロ)(ニ)(ハ)の斜線
部分二、〇七九・五二平方米以下(1)という)
(2) 右略図の(2)部分((ヘ)(ニ)(ヌ)(ヲ)の斜線部分一、六三二・
七〇平方米以下(2)という)
(3) 右略図の(3)の部分((リ)(ヌ)(チ)(ト)の斜線部分一、三〇
九・五九平方米以下(3)の部分という)
(4) 右略図の(4)の部分((ハ)(ホ)(ル)(リ)の斜線部分一、〇八
六・三五平方米で以下(4)の部分という)
(5) 右略図の(5)の部分、但し保留地((ヨ)(カ)(ル)(ワ)の斜線部
分一、三四九・一二平方米で以下(5)の部分という)
がそれぞれ換地及び保留地によつて、従前の申請人らの所有地から減少した。右減
少部分合計は実に、七、四五七・〇二八平方米である。校地総面積が五七、五八
一・四二方米であるから、約八分の一弱の面積の学校用地が強制的に被申請人に取
上げられることになる。
(五) さらに(1)の部分の所有地上には、申請人Jのシンボルである白樺の木
を含む樹木約二五三本が植えてあつたが、仮換地の指定後不当にも伐採され、門柱
も移設のやむなきに至り、(2)の部分の敷地内には学生が利用する食堂や学生寮
及び野球のバンクネツトが存在していたが、(ヘ)(ヲ)の線から飛出していると
の理由で移転のやむなきに至つた。
二、事業計画の目的・内容
本件土地区画整理は被申請人帯広市の事業計画によると次のとおりである。
(一) 本区域内には私立Jが設置されているほか、附近には市立緑ケ丘小学校、
市立第五中学校、及び市営住宅、道営住宅等多数設置されて居り、最近本区域内に
公営一般住宅の建築が激増し、市街地化しつつある。しかし区域内の公共施設は整
備されないままになつているので、土地区画整理事業により、宅地の利用の増進と
公共施設の整備改善を図ろうとするものである。
(二) 土地の利用状況は、本地区の中央を東西に排水路が走つており、この排水
路の北側は、私立Jをはじめ、その殆んど宅地化されている。又排水路の南側は湿
地のために一部宅地化されているほかは、畑・採草地として利用されている。
(三) 地勢は、帯広駅の西方約三キロメートルに位置し、地形は部分的に緩傾斜
地であるが、概ね平坦であり、地質的には冷湿地帯で農耕不適のため数年前より宅
地化され住宅が点在している。
地区内の西北部には、学校法人Jがある外、地区の南方二〇〇米に市立第五中学校
があり、周囲は都市計画街道に囲まれた住宅適地としての条件を備えている。さら
に本区域は住居地域に指定されて居り、住居地域に適合するよう画地割を行うとあ
る。
第三 本件処分の違憲違法性
一、換地処分と憲法二九条
憲法二九条は、財産権を保障し、同条三項は、「私有財産は、正当な補償の下に、
これを公共のために用いることができる」旨を定めているから、国民の財産権の制
限が合憲であるためには、当該制限が公共の福祉のため合理性の認められる必要最
少限度のものであり、且つこれに対し「正当な補償」が与えられることの二要件を
充たすことが必要である。
これを土地区画整理法の定める区画整理事業についてみると、区画整理事業は、健
全な市街地の形成宅地の利用の増進を目的とするものであるから(同法一条)、当
該区画整理事業が、右の目的のため、合理性の認められる必要最少限度の財産権制
限を内容とする限り、右の第一の要件を充足するものということができる。
また、区画整理のための換地処分は、区画整理による宅地の利用価値、交換価値の
増加を前提とし、地積を縮減しても、総体としての財産的価値そのものを減ずるも
のではないとの考慮のもとに、原則として特段の補償措置を必要的要件として予定
していない。しかし、それにもかかわらず発生する具体的な不公正に対応するた
め、清算金(同法九四条)、減価補償金(一〇九条)の制度を設け、換地処分、清
算金及び減価補償金の制度の綜合的運用によつて、具体的な妥当性を確保し、憲法
二九条三項の要請に違反することのないことが期せられているといえる。
したがつて、逆にいえば、これらの制度の運用を誤るときは、換地処分は、「正当
な補償」を欠く財産権の制限として、憲法二九条三項に違反する違憲の処分となる
危険性をはらんでいることに留意しなければならない。
二、本件換地処分の違憲性
(一) 本件換地処分は、公共の福祉のための、合理性の認められる必要最少限度
の財産制限ということはできない。
すなわち、別紙(六)略図(1)の部分の換地処分は、従前の白樺通りを拡幅し、
帯広市・茅室町間の交通の便を図ることを目的とするものとされているが、すぐ近
くには、帯広と茅室を結ぶ既設の国道が存していること、白樺通りの拡幅計画は、
J附近の一部のみにとどまつていること、J附近は、区画整理計画のなかでは住宅
専用地域とされており、一つの地方公共団体から他の地方公共団体に至るような、
交通量の多い大きな道路を敷設することは、右の趣旨に反すること、等からして、
本件申請人らの土地を削減すべき合理的必要は見出し難い。
また、別紙(六)略図(2)についていえば、従来からそのすぐ東側に、これと併
行して、南北に走る道路が存在しており、従来なんら通行上の不便がなかつたにも
かかわらず、Jの校地のみを削つてそこに行きどまりの通路を新設すべき合理的理
由ないし必要性は見出し難い。さらに、別紙(六)略図(3)及び(4)について
も、校地の一部を削減して道路を新設ないし、拡幅すべき合理性、必要性は認めら
れない。また、別紙(六)略図(5)のように、学校敷地内に、一、三四九・一二
平方米に及び広大な保留地を設定することは、ことさらに学校の校地利用(原告ら
の土地所有)に不当不必要な制限を課するものでその合理的理由は到底認めえな
い。
仮に、右(2)、(3)、(4)の部分に通路を新設し、あるいは拡幅すること
が、宅地の利用を増進するものであるとしても、その利益に均霑するのは、これら
の通路に面する「宅地」の所有者であつて、申請人らではないから、通路を新設な
いし拡幅するための用地の提供の負担を、もつぱら申請人らに課したり、あるい
は、申請人らにも課すことは、到底財産権の合理的制限ということはできない。
しかも、学校用地については、鉄道、港湾、病院、養老施設、電気・ガスの工作
物、国又は地方公共団体の庁舎、工場、研究所などとともに、公共性ないし公益性
を有することに鑑み、換地計画においては特段の考慮を必要としていること(土地
区画整理法九五条)に照らせば、本件換地処分の合理性は、一層乏しいものといわ
なければならない。
(二) 本件換地処分は、「正当な補償」を欠く財産権の制限であつて、この点か
らも、それは違憲であることを免れない。
すなわち、本件の右の各処分は、いづれも申請人Jの校地であり、申請人A及び同
Bは、同学園の経営に参画する立場で、それぞれその所有の土地を右学園に供与し
ているのであるから、右の本件各処分による損失は、原告Jに与える損失として、
これを総体的に考慮しなければならない。
而して、本件各換地処分については、いづれも減価補償の適用がなく、また清算金
については、全体としてみれば、徴収金額と交付金額とがほぼ一致しており、結局
においては、保留地を含む七、四五七・六四平方米の広大な学校用地が、なんらの
金銭的補償を伴うことなく、奪われることとなる。
そして、前述した如く宅地の利用の増進という区画整理事業による利益は、学校用
地の削減によつて拡幅ないし新設される各道路に隣接する宅地の所有者に帰属する
ものであつて、申請人Jないしはその校地の一部を提供している申請人A、同Bに
とつては、何等の利益をももたらすものではない。かえつて、校地周辺の通路の新
設ないし拡幅、とりわけ白樺通りの拡幅による交通量の増大、それに伴う騒音、排
気ガス、震動等の公害、校地、とりわけ校庭部分の縮少、Jのシンボルである白樺
その他の樹木の伐採、食堂・寄宿舎の移転等のかずかずの損失を蒙つており、ある
いは今後に蒙ることになる。したがつて、本件換地処分及び保留地指定処分は、
「正当な補償」を伴わない違憲の財産権侵害たるに帰するものといわなければなら
ないのである。
三、本件換地処分の違法性
前記(1)の換地処分の如く、一つの地方公共団体と他の地方公共団体を結ぶ幹線
道路の敷設のための用地取得は、本来、土地収用法による土地収用手続によつて行
われるべきものであつて、市街地の区画整理法(宅地の利用の増進)を目的とする
土地区画整理法の予定しないところである。
また、前述した如く、本件換地処分は、被申請人らの各土地を削減すべき合理性・
必要性に乏しいこと、Jにのみ過大な負担を強いるものであることからいつて、被
申請人は、その裁量な甚だしく誤つたものというべく、裁量権を踰越したものとし
て、違法な処分といわなければならない。
第四 本件提訴後明らかになつたこと(本件換地処分等の違法性を強化ないし補強
する事実)
本件訴訟を提訴し主張・立証の結果明らかになつたことは、次のことである。
(一) 本件の区画整理事業によつてなされる白樺通りの拡幅は国の高度成長政策
の一環としてなされた産業基盤の育成としてなされたものである(証人G)。この
ことは被申請人自身が本訴の昭和四六年七月一三日の準備書面で「帯広市工業用地
の造成、帯広貨物駅の設置等により、近い将来において右国道の交通量は飽和状態
に達することが明らかであり、そのバイパス的役割を果すためにも白樺通りの拡幅
が必要とされる」として、本件の白樺通りの拡幅が幹線道路としてあることを自白
していることからしても明らかである。その結果本件白樺通りは「通過車輛をさ
ば」くことに、その機能が求められ、健全な住宅地を作り出す、区画整理の目的自
体に背馳することになつている。
(二) 本件の白樺通りの拡幅及び用地の取得方法が一貫性を欠き非合理なことで
ある。
(1) 当初計画段階では、帯広市自体としては、白樺通りを二五メートル幅員に
する計画であつたのが、建設省の指導で三〇メートルにしたことであり、五メート
ル幅員を変更するのに何ら合理的な理由を市自体としてはもちあわせていないこと
である(H証人)。
(2) 更に、本件白樺通りの拡幅が不合理であることを示す事実として、三〇メ
ートル道路のうち、北側の部分については、一般の任意買収になされていることで
ある(証人I)。白樺通りの南側部分(Jに接する部分)一五メートルについては
地先減歩、共通減歩でJ側からは実際上無償で道路用地を取得しておいて(I証
人)北側の一五メートルには、一般の任意買収方式によるというのでは、法律的に
みても多大の疑問と不公平感を与えるものといわなければならない。
(三) 被申請人側は学園用地の減歩率一六%というのは他の土地の平均減歩率二
二%より優遇しているとしているが、これ自体全く法律的根拠のないことが換地計
画の担当者であるI証人の証人尋問の結果明きらかになつたことである。
即ち、Jのように広大な土地をもつている場合には、一般に行なわれている地先減
歩、共通減歩を学園にそのまま適用した、その結果として当然に、他の土地の減歩
率より低くなるのであつてこれを優遇したという、被申請人の主張は根底から崩れ
たことになつたことである。
また、学園用地には、法九五条の特別の措置をするということも審議会にしておら
ず、全く一般の宅地なみに扱つていることも併せて明らかになつたのである。
(四) 更に、区画整理の違憲でないことの論証として用いられる清算金の問題に
ついても、本件の場合に即していえば、前述の期日におけるI証人は、「原則的に
ゼロにしなければならないので、比例配分をします。例えば徴収金が三〇万円で交
付金が四〇万円とするとそのすくない方に合わせてその額を比例配分するというこ
とになります」として、清算金はその徴収金と交付金との差のすくない額の方に合
わせて比例配分するのが原則であることを認めているのである。これでは事業主が
憲法二九条三項の正当な補償をすることはありえないことを雄弁に物語つているの
である。
(五) 本件の白樺通りの拡幅自体が極めてズサンであることである。
(1) まず被申請人の主張によれば本件白樺通りの拡幅が国道(約二七メートル
幅)の通過交通をさばくためのバイパス的役割を果たすためにも必要であるとのこ
とであるが、証人H、同Gの証言によれば、いずれも国道そのものは、従来通りの
道路幅であつて、拡幅そのものはせず、白樺通りを拡幅するということであるが、
本来国道の車をさばくのであれば、国道を拡幅すること(それは道路幅からいつて
可能である)が先決であるのであり、白樺通りを国道よりも幅員を拡げる合理的な
理由はないのである。
(2) また白樺通りの拡幅は、駅南に連なげるために必要だとしていたのである
(H証人)が、その後、帯広市議会で駅南の区画整理に関連して明きらかになつた
ところによれば「根室本線の高架構想を、ひた隠し、住民や反対議員に高架は考え
られぬと市理事者は主張していたのに事業計画確定後に手のひらを返して高架の方
が安く五二年以降に検討すると答弁した」(昭和四九年二月二〇日十勝毎日新聞)
ことがあり、このため市の有力議員より「帯広市はこの高架に目をふさぎ、区画整
理を突つ走つた。住民不在の典型的な行政だ」と批判されることさえあつたのであ
る。根室本線か高架になれば、白樺通りの計画自体根木的な見直しが必要になる。
現に帯広市の助役は「都市計画事業は五年ごとに見直し修正する」ということを前
述の駅南の高架問題について市の「二枚」問題について答弁しているのである(前
掲十勝毎日)。以上の理由からして、本案で勝訴すること(勿論本案の理由は十分
ある)は、確実であり、法二五条の要件に欠けるところはないものである。
第五 緊急性の存在
(一) 被申請人は九月三日付で「工事施行について」という文書(尚本件白樺通
りは市道から道道へ移管したために帯広土木現業所長と連名になつている)を持参
して、申請人のA宅へ、いわば最後通告を突きつけてきたものである。右文書によ
れば、被申請人としては少くとも昭和五〇年九月  日以降道路工事に着手するこ
とは明きらかである。これは「道・市において協議の結果、今回工事着手の方針を
決意した」となつているのであるから、従来の学園に対する要請とは異なるもので
ある。
もし本件の白樺通りの拡幅工事がなされると、申請人としては、回復しがたい重大
な損害を被るものである。即ち(第二本件処分の存在とその経緯の(五)で述べた
様に拡幅予定の申請人らの土地上に存する白樺の木や門柱を強制的に除去ないし移
転させられたが、土地の形状そのものは区画整理前の状態とほぼ同一であるので本
訴で申請人らが勝訴した場合には、これを回復することは容易であるが、被申請人
によつて、本件工事を強制的になされると土地の形状は一変し、従前の状態に回復
することは不可能といわねばならない。のみならず、交通量の増大に伴なつて騒音
による授業への影響、排気ガスによる人体の影響が加速度的に生徒に加わるので申
請人としては、これを絶対に看過することができないのである。
(二) 他方、被申請人としては、本案訴訟の結果を待つてから、工事の執行をし
ても、何らの不利益、損害を被るものではない。本件訴訟を提訴後五年を経過して
いるが、それまでは、今回のような一方的な工事の執行をするという企てはなかつ
たのであり、かつまた訴訟の大詰めの段階にきて現状で工事を強行しなければなら
ない必然性は何一つ見出すことができないのである。むしろ工事を一方的に強行し
ようという被申請人の措置こそ違法なものと評価されねばならない。即ち、申請人
らは前述の白樺の木や門柱等が強制的に除去されようとしたとき、トラブルを避け
るために、被申請人と確認書を結んだのであるが、その際「街路の築造の必要が生
じた場合は双方協議する」(乙第一三号証)となつたいるのであるが、この協議さ
え、被申請人は全く尽していないのである。申請人らは本件のような工事の執行の
状況が生じないようにするために、歯止めとして前述の経過の中でやむをえず結ん
だのであるが、今回の被申請人の行為はこれさえ破棄する暴挙なのである。
申請人は一年以上前より、本件問題を円満に解決するために、被申請人に対して、
解決へ向けての具体的な提案をしてきたのであるが、被申請人はこれに誠意をもつ
て応ぜず、いたずらに回数を重ね最後には地方財政の悪化を理由にことわるという
極めて不誠実な態度に終始したのである。
以上みてきたところから明きらかなように、被申請人は、工事を本案判決確定まで
延期してみたところで不利益はないのに比して、申請人らは工事の執行に伴つて騒
音・排気ガス・交通事故等のいわゆる交通公害による授業への支障を含む学校経営
全体に回復しがたい損害を被ることになるのである。
よつて本申立に及ぶ次第である。
別紙(一)~(五)(省略)

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