弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
原判決を取り消す。
被控訴人の申請を却下する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
       事   実
控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は、左記に付加するほか、原判決事実
摘示のとおりであるから引用する。
控訴代理人の陳述
一、本件見習社員契約締結における申込者は被控訴人であり、承諾者は控訴人(以
下単に公社ともいう)であつて、控訴人が被控訴人に発した昭和四四年一一月八日
付採用通知(以下本件採用通知という)の法的性格は見習社員契約締結の過程にお
ける承諾者側の一つの行為にすぎず、本件採用内定取消通知の法的性格も右契約締
結過程における契約締結手続進行を中止する旨の意思表示であるから、本件見習社
員契約は締結されていない。
(一) 公社の募集案内の法的性格は見習社員契約締結の申込の誘引であり、被控
訴人がその誘引に応じて見習社員採用試験を受験したのはその申込であつて、その
後の本件採用通知等一連の手続は、公社の誘引にもとずく申込からその承諾に至る
過程の手続であるから、被控訴人は見習社員契約の申込者の地位にあり、公社はそ
の承諾者の地位にあるのであり、その手続の進行中に申込者と承諾者の立場が逆転
することはありえない。試験による選考、採用通知、誓約書や身元保証書の提出、
懇談会開催、健康診断等の諸行為は、辞令書交付という形式における公社の確定的
承諾の意思表示に至るに必要な一連の手続である。
(二) 公社が見習社員を採用するためには「職員及び準職員採用規程」および
「準職員の雇用等に関する取扱についてという職員局長通達」(以下準職員雇用通
達という)に定める諸手続を経なければならないが、「職員及び準職員採用規程」
によれば、見習社員を採用するには、募集(第四条)、採用試験(第六条)、身上
調査(第一〇条)、誓約書、身元保証書、戸籍謄本または抄本の提出(第一一
条)、就業規則の提示説明(第一二条)をしなければならないし、準職員雇用通達
によれば、右採用規程を受けて採用手続について細則的な規定をし、特に誓約書、
身元保証書、戸籍謄本または抄本を提出させた後辞令書を交付する定めになつてい
る。右各規定を総合すると、公社の見習社員採用手続においては、試験合格、身上
調査において問題がないことが前提となることはもちろんであるが、本件採用通知
後の手続に限れば、誓約書、身元保証書の提出が見習社員契約申込に対する公社の
承諾の意思表示のための欠くべからざる要件であり、辞令書の交付が公社の見習社
員契約締結完了のための要件であつて、公社の確定的承諾の意思表示は辞令書の交
付によつてなされるべきことが窺われるのである。すなわち、公社の見習社員契約
締結過程は右辞令書交付をもつて完了するのであり、これを労働契約の成立の要素
である申込と承諾という面から考察すれば、採用希望者の応募あるいは受験行為が
申込行為で、承諾者としての公社の辞令書交付が承諾行為といえるのであり、前記
採用手続のうちすくなくとも再度の健康診断、誓約書や身元保証書等必要書類の受
領が公社の承諾行為の前提要件とされているのである。労働者は誓約書、身元保証
書を提出することによりその意思決定を慎重にし、かつその意思表示を明確にする
ことができ、使用者は誓約書、身元保証書の提出を受けて労働者の意思を明確に了
知し得るとともに、労働者の誠実な労務給付を確保したり、労働者の責めによる企
業の損害を担保することができるのであつて、特に使用者としては誓約書、身元保
証書が重要であることはいうまでもなく、本件誓約書は法令その他公社の定める諸
規定を遵守するという内容のものであつて、公的機関たる公社職員には特に要求さ
れるものであるから(日本電信電話公社法(以下単に公社法という)三四条、準職
員就業規則第四条)、特段の事情のないかぎり、辞令書の交付前、さらには誓約
書、身元保証書の受領前に公社が見習社員契約申込に対する確定的な承諾をするこ
とはありえない。したがつて、再度の健康診断、誓約書や身元保証書の提出受領を
経て辞令書の交付がなければ、見習社員契約が締結されたとはいえないのである。
(三) 労働契約はその性質上内容を明確にして疑義を生じないようにする必要が
あるから、当事者間の合意に基づき採用に関する一切の手続の終了をもつてその成
立の時期とすべきであつて、本件見習社員採用手続も辞令書の交付をもつて完了
し、この辞令書という書面で公社の承諾の意思表示が確定的になされたときに本件
見習社員契約が成立するものというべきである。そして、公社の意思もそこにある
のであるから、公社の特別の意思表示なきかぎり、辞令書の交付前に当事者の合意
によつて見習社員契約が成立することはありえない。本件の被控訴人にかかる採用
手続においては、右原則を変更すべき特別の事情は認められないから、公社が辞令
書の交付も行わず、かつ誓約書、身元保証の受領もしていない段階において確定的
承諾の意思表示をしたと認めることはできない。
(四) 本件採用通知は公社の正式の見習社員採用手続には定められていないもの
で、実際上の必要から便宜使用されているものにすぎず、その内容も昭和四五年四
月一日付で見習社員に採用するとして、さらに入社を辞退する者は公社に通知する
よう要請する(昭和四五年四月一日の辞令書交付までは入社辞退を自由に認めると
解される)とともに、誓約書、身元保証書を懇談会に持参し提出するよう要求し、
また入社前の再度の健康診断で異常があれば採用を取り消すことがあるとしている
のであるから、本件採用通知により被控訴人の申込に対する承諾がなされた(見習
社員契約の締結)と解することはできない。
(五) 本件見習社員採用手続において、本件のごとき採用通知を受けた者が昭和
四五年四月一日の辞令書の交付をまたず公社の見習社員の身分を取得することにな
ると、その者が現に他の官公庁や会社の職員である場合、その者は現在の官公庁や
会社の職員の身分と公社の職員の身分を二重に有することになり、これは兼職禁止
を規定した公社法第二八条二項、公社準職員就業規則(疏乙第一八号証)第一一条
の他の業務関与制限、前記準職員雇用通達(疏乙第二〇号証)の各趣旨に違反する
し、本件採用通知書の「昭和四五年四月一日付をもつて見習社員に採用する」とい
う明文にも反する。
(六) 本件採用内定取消がなされた昭和四五年三月二〇日現在においては、公社
の辞令書交付も行われていないばかりか、被控訴人は公社から要求された誓約書、
身元保証書の提出もしていなかつたのであるから、いまだ見習社員契約が締結され
たとはいえず、その締結の過程にあるものというべく、本件採用内定取消通知は見
習社員契約締結手続の進行を中止する意思表示としての効力を有し、したがつて被
控訴人は公社の見習社員としての地位を取得していない。
二、仮に本件採用通知が解除条件付、始期付見習社員契約の申込と解されるとして
も、本件採用内定取消通知時には、いまだ被控訴人の確定的承諾はなされていない
から、本件見習社員契約は締結されていない。仮に本件採用内定取消通知時に既に
被控訴人の承諾がなされていたものとして、本件見習社員契約が締結されたものと
しても、本件採用通知における解除条件の内容は健康上の理由に限られるものでは
なく、見習社員として雇用するにふさわしくない人物であることも当然その内容と
なつており、かつ本件採用内定取消通知時には本件見習社員契約の効力発生の時期
は到来していないから、本件採用内定取消通知時被控訴人はいまだ見習社員として
の身分を取得していない。したがつて、本件採用内定取消通知を見習社員の解雇と
同視することは許されず、準職員就業規則第五八条に定める免職事由を必要とする
ものではない。
(一) 仮に公社の本件採用通知が解除条件付、始期付見習社員契約の申込と解さ
れるとしても、被控訴人は確定的な承諾の意思表示をしていない。採用内定者は誓
約書、身元保証書等書類の提出を要求されているのであるから、採用内定者が誓約
書、身元保証書のような重要な書類の提出をしないということは、確定的意思表示
を留保している場合が多く、いまだ確定的承諾の意思表示はなされていないとみる
べきである。被控訴人は誓約書、身元保証書を提出していないのであるから、たと
え「貸与被服の号型調書について」なる書面に基づいて報告表を提出し、入社懇談
会に出席したとしても、これをもつて確定的承諾の意思表示をなしたものとみるべ
きではない。被控訴人は、控訴人が本件採用通知とともに送付した「貸与被服の号
型調書について」なる書面に基づいて被控訴人が貸与被服号型報告表を提出したこ
とを捉らえて、被控訴人が本件見習社員契約について確定的承諾の意思表示をなし
たと主張するが、公社が見習社員採用手続過程において「貸与被服の号型調書」を
実施している目的は、公社では毎年一万人に近い職員を新規採用している現状にか
んがみ、大量の被服サイズ別所要量の概数を把握し、被服取扱業者に対する早期発
注を要するためのものにすぎず、採用内定者個々人の体型に完全に適合した被服を
準備するためのものでないから、これをもつて見習社員契約締結に結びつけること
は当を得ない。
 なお、本件見習社員の労働条件の内容は、勤務場所、採用職種については、昭和
四五年四月一日の辞令書交付によつて確定的に定まるものであり、本件採用通知書
に記載する勤務場所、採用職種はあくまでも一応の予定にすぎず、採用内定者の入
社辞退等に伴う公社の要員計画の調整を行う関係から、本件採用通知書に示された
勤務場所、採用職種が変更される事例は相当数存在するし、さらに給与条件の明示
が「一ケ月二万六、〇〇〇円程度」の表示で十分であるとすることは固定給の職員
の給与条件の明示程度として疑問である。給与は労働者はもとより使用者にとつて
も重要な条件であつて、給与は年令、学歴、経験年数により個別的に決定されるべ
きものであるから、何円程度で決定されているとみることは実情に反する。
(二) 一般に契約に付される「始期」には契約の効力の発生自体が始期にかかる
場合と契約の目的たる義務の履行が始期にかかる場合があるが、本件見習社員契約
に付せられた始期は本件採用通知書の「昭和四五年四月一日付で採用する」という
文言や公社職員の兼職禁止の趣旨からみて、契約の効力の発生自体が始期にかかる
ものであることが明らかである。したがつて、本件採用内定取消当時いまだその始
期は到来していなかつたのであつて、右取消当時被控訴人は見習社員の身分を取得
していなかつたのであるから、本件採用内定取消事由として見習社員解雇事由を必
要とするものではない。
(三) 本件採用通知における解除条件の内容は、健康上の理由ばかりでなく、見
習社員として使用するにふさわしくない人物であること、しかもその不適格性の程
度も見習社員としての身分を取得していないのであるから、見習社員の免職事由よ
りも軽度のものでたりることは当然である。そして、本件採用内定取消事由が右解
除条件に該当することは後述するとおりである。
三、本件採用内定取消事由は、それらを総合して判断すれば、本件採用通知におけ
る解除条件ないし見習社員契約締結手続進行を中止すべき正当事由に該当し、仮に
見習社員契約が成立していたとしても見習社員の免職事由にも該当する。
(一) 被控訴人は豊能地区反戦青年委員会に所属するものであるが、同反戦青年
委員会は単なる政治結社と異なるものである。たしかに反戦青年委員会の当初の目
標は日韓条約批准阻止斗争であつたが、その統一行動のなかで反戦青年委員会は急
進派学生とともに警官隊としばしば衝突騒ぎを起し、そのため反戦青年委員会を結
成させた社会党、総評も手をやいていたものである。その後、日韓条約可決ととも
に斗争目標を失い、さらに急進派学生集団の浸透により分派斗争(内ゲバ)を繰り
返し、砂川基地斗争(昭和四二年五月二八日)、羽田斗争(同年一〇月八日)、国
際反戦斗争(昭和四三年一〇月二一日)、東大斗争支援行動(昭和四四年一月一八
日、一九日)、数次にわたる成田斗争とその暴力行為を拡大し、昭和四四年四月二
八日には「霞が関に解放区を」と叫んで新橋、銀座周辺や渋谷などで暴れ廻り、最
近成田空港阻止斗争、沖縄返還協定批准阻止斗争等で暴力性を一段と激化してい
る。反戦青年委員会は統一組織でなく各分派の集合にすぎないものとしても、各分
派は過激性の程度に幾分の差異はあつても、みな過激であることに変りはないので
ある。そして被控訴人の所属する豊能地区反戦も昭和四四年一〇月二一日の首都制
圧斗争に参加し、火炎ビンを用いた大街頭武装斗争を誇示し、同年一一月一六日、
一七日の佐藤訪米阻止斗争にも参加し、武力斗争を標榜しているのである。このこ
とは豊能地区反戦が発行している豊能反戦ニュース(疏乙第二二号証ないし第二五
号証)によつても明らかである。
 このように反戦青年委員会そして豊能地区反戦は、その主義主張もさることなが
ら、その行動は暴力的、破壊的であり、その実体は決して単なる政治結社というべ
きものではなく、過激的武装団体というべきである。かような団体に所属する構成
員はその団体の主義、行動に賛同しているものであるから、構成員個人の具体的過
激行為の存否にかかわらず、すべての構成員について破壊的武力行為を惹起する危
険性を推定すべきものである。そして本件で控訴人が問題としているのは、右団体
の行動、それに関連する被控訴人の行動の危険性であり、右団体や被控訴人の「信
条」そのものではない。
(二) さらに右団体そして豊能地区反戦の標榜する主義主張をみても、それは憲
法第一四条、労働基準法第三条の保障する「信条」に含まれるものではない。政治
的意見さらに政治的斗争方針は常に具体的な政治の方向についての実践的な志向を
伴うものであるから、民主主義、自由主義という特定の政治的立場を前提とする憲
法体制では、その政治的立場そのものを否定しようとする政治的意見に対しては、
自らの存立を防衛するために、多かれ少かれ差別的取扱いをする必要に迫られる場
合がある。その場合に、もし政治的意見が「信条」に含まれると解するならば、そ
うした政治的意見を理由とする差別も全面的に許されないことになるが、そう解す
ることは民主主義の原理からみてきわめて不合理である。憲法第一四条にいう「信
条」は、民主主義における法の下の平等の趣旨からいつて、もつぱら宗教的、倫理
的ないし政治的な根本信念を意味するのであり、政治的斗争方針はいうにおよば
ず、多かれ少かれ具体的な政治的意見はそれに含まれないと解すべきである。
 具体的立法をみても、国家公務員法(以下国公法という)第二七条、地方公務員
法(以下地公法という)第一三条は何れも「人種、信条、性別、社会的身分、門
地」によつて差別してはならないとするとともに「政治的意見」「政治的所属関
係」によつて差別してならないとするが、「政治的意見」「政治的所属関係」によ
る差別の禁止については特に例外を認める。すなわち、両法とも「日本国憲法又は
その下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成
し、又はこれに加入した者」は官公職に就く能力を有しないと定める(国公法第三
八条第五号、地公法第一六条第五号)。この例外はまさしく「政治的意見」または
「政治的所属関係」による差別にほかならないが、両公務員法は、それらを例外と
して認めつつ、それら以外の「政治的意見」または「政治的所属関係」による差別
を禁止しているのである。このように国公法、地公法において明確に「信条」と
「政治的意見」「政治的所属関係」は区別されており、この立法の態度をみても、
憲法第一四条の「信条」の中に「政治的意見」「政治的所属関係」が含まれないこ
とは明らかである。もし「信条」が「政治的意見」を含むとすれば、憲法体制その
ものを暴力で破壊しようとする政治的意見を国の行政組織から排除することすらで
きなくなるが、憲法が、自らの破壊者をも容認しなくてはならないと解すること
は、法の下の原理が憲法の自殺を容認ないし要請すると解することであり、不条理
である。
 憲法第一四条の「信条」は政治的意見を含むものでなく、政治的意見による差別
をも禁止するかどうかはすべて立法に任されているのである。そして労働基準法
(以下労基法という)第三条の「信条」も憲法第一四条の精神を労働関係に適用し
ようとするものであるから、その「信条」は特別の理由のない限り、憲法にいう
「信条」と同義に解すべきこともちろんである。
 反戦青年委員会さらに豊能地区反戦の主義主張は、「日韓批准阻止斗争」「羽田
斗争」「佐藤訪米阻止斗争」「出入国管理法反対デモ」「安保紛砕」「日帝打倒」
等々の斗争スローガン(疏乙第二一号証ないし第二五号証)に示されるように、す
べて時の具体的政治問題についての意見であることは明らかで、さらに先の「大街
頭武装斗争」のスローガンにみられるように憲法が否定する武力主義をも主張して
いるのであり、右団体の意見が憲法あるいは労基法の「信条」に含まれないことは
いうまでもない。したがつて、仮に公社が反戦青年委員会への加入を理由として採
用内定の取消をしたとしても、憲法第一四条、労基法第三条に違反するものではな
い。
(三) 被控訴人は、豊能地区反戦青年委員会の構成員として昭和四四年一〇月三
一日午後九時ごろ、大阪鉄道管理局前付近において、無届デモに参加し、道路交通
法第七七条、大阪市公安条例違反の現行犯として逮捕され、同年一二月一一日起訴
猶予処分となつたが、かかる被控訴人の非違行為は公社の見習社員としてふさわし
くない者としての評価を避けられない。
 公社は公衆電気通信事業の合理的かつ能率的な経営の体制を確立し、公衆電気通
信設備の整備および拡充を促進し、ならびに電気通信による国民の利便を確保する
ことによつて、公共の福祉を増進することを目的として設立された企業であり(公
社法第一条)、その資本金は全額政府が出資している(同法第五条)。その結果公
社は公共企業として社会的に高く評価されている。公社がこのような企業であり、
その業務の公共性が高度であるところから、法は公社の職員に対しても、誠実に法
令を遵守し、全力を挙げてその職務の遂行に専念すべきことを命じ(公社法第三四
条)、罰則の適用に関しては法令により公務に従事する者とみなされている(公社
法第三五条、第一八条)。このようなことは一般私企業にはありえないことであ
る。その反面公社職員は、一般社会から、右のような公共性の高度な企業に勤務
し、その職務に専念しているものとしての好ましい評価を与えられている。このよ
うな社会的評価は職員としての信用であり、そのような社会的評価を保持すること
が職員としての品位と解される。さらに職員は公社に勤務する関係で、職場あるい
は作業場における業務遂行義務を負うばかりでなく、職員としての身分を有するこ
とにより、一個の企業体としての公社の組織の構成に参加し、公社に向けられる一
般社会の評価としての信用の一端に関与することになる。公社の職員としての品
位、信用もこのことに密接不可分に関連している。そこで職員である以上公社の保
有する有形、無形の利益を損わないようにすべき信義則上の義務を負い、事の性質
上右義務は職員が企業外に在る場合でも免れることはできない。
 このような観点に立つて、公社法第三一条第三号の降職あるいは免職事由である
「その職務に必要な適格性を欠くとき」の意義を考えると、その職務とは職員とし
ての義務を意味し、従つてその職務に必要な適格性とは職員としての適格性であ
り、この点準職員就業規則第五八条第七項は明確に「職員としての適格性を欠くと
き」としている。さらに「職員及び準職員採用規程」第一三条第四項、準職員雇用
通達の雇用制限第七項(ク)にもそれぞれ準職員として不適格と認められる者は雇
用してはならないとされているのであるから、本件採用通知における解除条件の一
つとして、見習社員として不適格と認められることが含まれていることは当然であ
る。したがつて職員または準職員としての不適格性とは職場あるいは作業場におけ
る業務遂行上の適格性というように狭く解すべきではなく、広く公社職員が前述の
ように保有する社会的評価としての信用、品位を損うことなく職員の負担する右信
義則上の義務を果すに足りる人物、人格であるかどうかということである。
 ところで公社職員が無届デモを強行し、道路交通法、公安条例に違反し、逮捕さ
れるということは、その職員が幹部であるにしろ平職員であるにしろ、公社が前述
のように一般企業とは異なつた公共企業であり、その職員が高い信用を保有すると
ころからみて、一般国民の批判を招くことは容易に推測できるところであり、ひい
て公社およびその職員の社会的評価を損うことは見やすい道理である。したがつ
て、社会規範無視の行動をする危険性の強い人物を公社が職員として採用できない
ことは当然である。さらに社会規範無視の態度は企業内においても企業秩序無視に
つながり、特に反戦青年委員会一般の斗争方針の一つに「生産点」「企業拠点」斗
争(疏乙第二一号証、第二三号証)があることからみて、被控訴人も公社に入社す
れば、公社内で越軌行為を繰り返している反戦グループと同様な越軌行為を繰り返
す危険性は極めて強いといえる。なお、公社の機械職員は、通常いわゆる工作機械
などを操作して製造作業を行なう職務でなく、局内交換機等通信用機械設備、通信
設備用電力機器、電話機、会社などにある内線電話交換機等の点検、調整、修理さ
らには多数の利用者と直接応対し、電話の故障等の受付あるいは修理手配等を通じ
て、一日中、電話や電報サービスを円滑に提供するための中枢部門にあたる重要な
仕事をその内容とし、通信の安全性確保あるいは国民の重要な基本的人権である通
信の秘密保持に直接かかわりをもつているのである。
 一般に企業が労働者を採用する場合には、調査するために時間的余裕が必要であ
り、そのため企業はは募集に着手してから、試験、面接、調査を経て内定、試用
(見習)という経過を経たうえで本採用をするのである。本件では、被控訴人はい
まだ試用段階にも達しない純粋の調査段階にあるものであり、本件採用通知におけ
る解除条件の意義は見習社員としての適格性を欠く虞れのある者を企業組織に入る
前に排除しようとすることにあるのである。
(四) 被控訴人は昭和四五年三月一五日万国博覧会々場中央口駅において反戦青
年委員会参加の安保万博紛砕共斗会議の構成員が万国博紛砕を叫んで無許可デモを
強行しようとした際、右集会に参加したものであるが、公社が本件採用内定取消通
知当時被控訴人の右非違行為を認識していたと否とにかかわらず、被控訴人の右の
ような具体的非違行為は職員としての不適格性の徴憑にすぎず、本件採用内定取消
事由はあくまで職員としての適格性を欠くということであり、右不適格性を徴憑す
る事実で右取消決定時までに存在していた事実は、取消決定者が現実に認識してい
たか否かにかかわらず、主張できることは当然である。
(五) 被控訴人は、公社内で越軌行為を繰り返している反戦グループと同じ反戦
青年委員会に所属している者であつて、豊能地区反戦自体の過激性、反戦青年委員
会一般の過激性、その斗争方針の一つとしての「生産点」「企業拠点」斗争からみ
て、公社が被控訴人を公社の職員として採用するときは、職場内部の規律を乱し、
業務を阻害するとともに公社に対する国民一般の不信を招く恐れがあるとして、被
控訴人を見習社員として採用するのはふさわしくないと判断するのは相当である。
被控訴代理人の陳述
一、被控訴人は昭和四四年八月公社の社員公募に応ずることによつて、公社に対し
労働契約の申込をなし、公社は同年一一月八日被控訴人に対し本件採用通知を出す
ことによつて、入社前に再び健康診断を行ない、その結果就労に堪え得ないと認め
られるような異常の発見された場合を解除条件として昭和四五年四月一日を就労の
始期とする労働契約締結の承諾をなし、その発信により右内容の契約が成立した。
仮に公社が昭和四四年一一月八日被控訴人に対してなした本件採用通知が労働契約
の申込であるとしても、これに対し被控訴人が「貸与被服の号型調査について」な
る書面に対する報告表を同年一二月二〇日の期限までに送付したことは承諾の意思
表示にほかならないから、この時点で解除条件付、始期付労働契約が成立した。仮
に右報告表の送付が承諾の意思表示と認められないとしても、被控訴人は昭和四五
年三月四日大阪市中央公会堂において開催された入社懇談会に出席し、健康診断を
受け、さらに特別面接を受けることによつて、確定的に申込に対する承諾の意思表
示をなしたものということができるから、この時点で右健康診断の結果について後
日異常が判明した場合を解除条件として昭和四五年四月一日を就労の始期とする労
働契約が成立した。そして、右契約は被控訴人が昭和四五年三月四日入社懇談会に
出席した際、健康診断を受け、異常がなかつたことによつて、右条件の不成就は確
定的となり、以後被控訴人と公社との間には同年四月一日を就労の始期する労働契
約が確定的に成立した。
(一) 控訴人は、本件見習社員採用手続においては、「職員及び準職員採用規
程」および準職員雇用通達に定める諸手続を経なければならず、誓約書、身元保証
書の提出が見習社員契約申込に対する公社の承諾の意思表示のための欠くべからざ
る要件であり、辞令書の交付が公社の右契約締結完了のための要件であるから、こ
の手続を経ていない段階において、公社が入社についての確定的承諾の意思表示を
したとは認められないとか、辞令書の交付により公社の承諾の意思表示が確定的に
なされ、そのときに見習社員契約を成立させるのが公社の意思であると主張する
が、契約の成立をどの時点で把らえるかは当事者双方の合理的意思解釈の問題であ
り、単に公社の意思に一方的に委ねることは妥当でなく、これこそまさに採用内定
状態に関する社会的規範意識によつて判定されるべき問題である。すなわち、公社
の採用手続の一〇〇パーセントの履践がなければ労働契約の締結がないと解すべき
ものでなく、定型化している採用手続のどの段階において労働契約の成立が認めら
れるとするかは企業と労働者の契約意思の合理的解釈の問題であつて、この場合企
業側の採用手続の文言は一つの参考資料となつても、それ自体を絶対化し、労働者
は使用者が定めた契約内容、要式を受け入れるか否かの自由しかないものとはいえ
ないことは当然であり、労働者側の契約意思を無視することは許されない。公社の
採用規程による採用手続のうちどれだけが履践されることによつて見習社員契約が
締結されたとみることができるかは、就職申込者と公社双方の合理的な意思解釈に
もとづいて決定されるべきものであり、その場合の合理的解釈の基準としては、就
職申込者ならびに公社の双方において契約成立の合意がどの時点で客観的に明確化
したかによつて判断せられねばならない。また、その場合採用が内定していながら
確定的に労働契約締結に至らないことによる就職申込者の地位の不安定に対する合
理的配慮が当然に加えられねばならない。そして、かかる観点からすれば、公社と
被控訴人の契約成立の時点を、被控訴人が採用通知を受けて後まもなく「貸与被服
の号型調査について」なる書面に対し所定期日までに報告表を送付した時点に求め
ることが原判決のように入社懇談会に出席した時点に求めるよりも妥当である。け
だし、公社による被控訴人に対する採用通知は被控訴人において就職を希望するか
ぎり、また再度の健康診断において異常が発見されないかぎり無条件で採用する旨
の通知であり、したがつて、公社より被控訴人に対しなされたその後の書面送付等
はいずれも被控訴人の公社入社を自明の前提とするものばかりであり、確定的に採
用するか否かが不確定であるような表現や留保は少しも存しないからである。
(二) 「職員及び準職員採用規程」第一一条は「職員に採用または準職員に雇用
することが決定した者には、別に定める場合を除き、次の書類を提出させなければ
ならない」とし、第二項において「前各号の提出書類に虚偽の記入をし、または正
当な理由がなくて、所定の期日までにこれを提出しなかつたときは採用または雇用
の決定を取り消すことができる」としているのであるが、この規定においてはむし
ろ公社の意思として、採用を確定的に決定していることの趣旨が極めて明らかであ
る。すなわち、公社の内部意思として(準)職員に採用することが確定的であるも
のに対して右規程第一一条第一項所定の書類の提出を義務づけられているのであつ
て、右書類の提出によつてはじめて公社の採用意思が明確になるものでないことが
示されている。また辞令書の交付のごときは右規程には記載されていないのであ
る。このことは採用通知の発送とこれに応じる就職申込者の意向表明によつて一定
の段階で労働契約が成立するに至ることを示すものである。控訴人は採用通知から
採用辞令書の交付に至る過程全体が公社の就職希望者の採用申込に対する承諾の過
程であるというけれども、そのしからざる所以は右規程第一一条によっても明らか
であり、原判決が正しく指摘するとおり採用通知は公社による解除条件付ではある
が確定的な労働契約の申込なのであり、以後の手続はすべて就職申込者の側の就職
意思を明確にする、すなわち、公社の労働契約の申込に対して就職申込者が確定的
に承諾を与えてゆく過程なのである。したがつて、右規程第一一条による書類の提
出や辞令書の交付は、それ自身何ら見習社員契約の成立の必要要件ではなく、労働
契約の成立を前提とし、今後実際の労働関係に入つてゆくことについての両者の確
定的意思を形式的に表明したものにすぎない。規程第一一条第二項にいう誓約書等
を所定の期日までに提出しない場合の採用決定取消の規定は、所定期日までの誓約
書等の不提出が見習社員契約の一箇の解除条件とされていることを示すものではあ
つても、見習社員契約の成立要件を意味するものではない。
(三) 控訴人は、本件のような採用通知を受けた者も現実に入社式を終え辞令書
の交付を受けるまでは職員としての意識を持たず、自由に入社を辞退しているのが
実情であるというが、採用内定状態はあくまで始期付労働契約が成立しているにと
どまるもので、現実の労務は提供されておらず、公社の直接の管理権は及んでいな
いのであり、したがつてまだ公社職員の資格を付与されていないのであるから、職
員としての意識をもたないことはむしろ当然なのであるが、さりとて控訴人のいう
ように自由に入社を辞退しているのが実情だということは全くありえない。採用通
知に対してこれに応じて就職する意思を明示した就職申込者の圧倒的多数は、以後
入社予定日以降は確定的に公社職員となることを期待し、かつ確信しているのであ
つて、このためすべての生活設計をそのスケジユールにあわせ、かつ右以外の就職
の機会をすべて放棄しているのである。すなわち、採用内定状態において、採用内
定者は労働契約締結を前提としなければ到底理解できない拘束状態にあるのであつ
て、これによつても労働契約締結の事実を推認することができるのである。
(四) 本件見習社員の労働条件は本件採用通知書に労働契約締結に必要な範囲で
明らかになつたものというべきであつて、勤務場所、採用職種は採用通知書の中で
具体的に特定されており、賃金についても募集案内に記載されている金額がほとん
どその通り決定されているのである。仮に現実の就労に際して採用通知書に記載さ
れている勤務場所や採用職種が若干の変更をみることがあるとしても、これは現実
の就労過程において起りうべき配転、職種変更に準じて考察されるべき問題であ
り、労働契約の成立自体に何らの影響を及ぼすものでない。
二、控訴人は、本件採用内定取消当時被控訴人が見習社員の身分を取得していなか
つたから、見習社員解雇事由を必要とするものでないと主張するが、本件見習社員
契約はおそくとも被控訴人が入社懇談会に出席した段階で成立していたものであ
り、ただ右契約の履行である就労の始期を昭和四五年四月一日と定めていたものに
すぎないから、本件採用取消当時労働契約は適式に成立していたのであつて、これ
につき見習社員解雇事由を必要とすることは極めて当然といわねばならない。被控
訴人と公社との間に成立した始期付労働契約の始期とは就労の始期であつて、労働
契約の効力の発生自体を始期にかからせるものではない。したがつて、就労を前提
にしない契約上の権利義務は既に発生しているとみるべきであるから、公社法第三
一条、公社準職員就業規則第五八条等の規定は既に被控訴人および公社間に適用さ
れるものといわねばならない。
(一) 控訴人は、公社法第二八条第二項(兼職禁止)、公社準職員就業規則第一
一条(他の業務関与制限)等の趣旨ならびに採用通知書の「昭和四五年四月一日付
をもつて見習社員に採用する」という文言からして、本件では労働契約の効力の発
生自体が始期にかかつていると主張する。しかし、右兼職禁止および他の業務関与
制限等の規定は、実際に就労を伴う兼職または他の業務関与から生じることあるべ
き弊害を除去する趣旨のものであるから、就労を始期にかからしめる限り、契約の
効力の発生自体を認めても何らその趣旨に反するものではない。換言すれば、右兼
職禁止および他の業務関与制限等の規定は、実際に就労を伴う兼職ならびに他の業
務関与を禁止または制限したものであるから、右規定の存在を根拠にして、本件見
習社員契約を就労ではなく効力の発生についての始期付のものであると解すべき論
理的必然性は全く存しない。また、採用通知書の文言自体も、契約の効力自体を始
期にかからせているものとしか解釈し得ないものではなく、就労を始期にかからせ
ているものと解釈するに何らの妨げもないものである。
(二) 仮に右始期が契約の効力発生自体に関するものであるとしても次のとおり
主張する。すなわち、始期付権利は始期が必らず到来するものであるから、条件の
成否未定の間の条件付権利よりも遥かに確実であり、それ故により一層保護されな
ければならないものである。したがつて、契約の効力自体についての始期付権利で
あつても、その性質上当然別異に扱われるべき場合を除いては、始期到来後の権利
と同等に扱われるべきこと民法第一二八条の類推適用により、またそれを俟つまで
もなく当然である。ところで本件の如き労働契約の解除については、右始期到来前
と到来後で、すなわち現実の労働関係が生じる前の時期と現実の労働関係が生じた
後の時期で、扱いを異にすべき合理的理由は全く存しない。したがつて、本件労働
契約の効力自体が始期にかかつているとしても、契約解除に関しては、始期到来後
に適用されるべき公社法第三一条、公社準職員就業規則第五八条等が適用ないし準
用されるといわねばならない。
三、本件採用内定取消は、公社法第三一条、公社準職員就業規則第五八条等の各規
定該当の事由なくしてなされたものであるから、無効である。
(一) 控訴人は、反戦青年委員会および豊能地区反戦は、主義主張、行動ともに
暴力的、破壊的で、その構成員は被控訴人を含めてすべて破壊的武力行為に出る危
険性があると主張する。しかし、かかる主張は全く独善的な類推である。豊能地区
反戦青年委員会についてみれば、これは大阪中央電報局において「マツセンスト」
等を行なつたグループとはいかなる内的関連もなく、また、控訴人が武力斗争主義
を示すものとして挙げる疏乙第二二号証ないし第二五号証については、その全部が
豊能地区反戦青年委員会が昭和四四年九月ごろ学生を主とする部分と労働者を主と
する部分に事実上分裂するに至つた以後において、学生を主とする部分によつて豊
能地区反戦の名の下に配布されたとみられる文書であつて、被控訴人が属していた
労働者を主とする部分が発行した文書ではなく、被控訴人とは無関係なものであ
る。また、控訴人が反戦青年委員会一般を非合法的暴徒呼ばわりすることは絶対に
許されない。ひとくちに反戦青年委員会といつてもその組織と実体は極めて多様で
あり、なかには過激な斗争戦術を宣伝実行するものも存在するが、これは全体から
みれば比較的少数であり、これをもつて反戦青年委員会の全体的性格を規定するこ
とは到底許されないのである。
(二) 控訴人は「政治的意見」による差別は憲法第一四条、労基法第三条に反し
ないと主張する。
(1) しかし、控訴人のいう「政治的な根本信念」と「政治的意見」の区別は甚
だ曖昧かつ恣意的であり、また控訴人のいう「その政治的立場そのものを否定しよ
うとする政治的意見」なるものは具体的には、社会主義、共産主義または暴力革命
主義の主張になると思われるが、それならばこれはむしろ「政治的な根本信念」と
いうべきものであつて、それは憲法第一四条の「信条」に含まれる筈である。逆に
右の「政治的意見」が「安保反対」や「日韓条約反対」等の個別的な政治問題につ
いての意見であるとすれば、それは憲法の「政治的立場そのものを否定」するもの
であるまい。仮に個別的な政治問題についての意見そのものの中に、たとえば全面
的な体制の変革への志向なり、武力による目的達成の主張なりが含まれるとして
も、それは個別的政治問題についての意見の属性ではなく、その背後にある「政治
的な根本信念」にほかならない。そもそも「政治的な根本信念」と「政治的意見」
なるものが抽象的にはともかく具体的思想について明瞭に区別し得るとは考えられ
ないし、仮に区別し得るとしても、それは恣意的な区別にしかならないと考えられ
る。
(2) 控訴人は、国家公務員法(以下国公法という)第二七条、第三八条第五
号、地方公務員法(以下地公法という)第一三条、第一六条第五号を挙げてその主
張の根拠としているが、国公法第二七条、地公法第一三条に「……信条……又は第
三八条第五号(地公法では第一六条第五号)に規定する場合を除くの外政治的意見
若しくは政治的所属関係によつて、差別されてはならない」とあるのは、むしろ差
別の合理的限界を厳格に規定しようとしていることに意味があるので、このような
場合、信条と政治的意見とが内容的に排斥し合う観念であると解さねばならぬ理由
はない。その上、下位法規である国公法、地公法の規定の用語をもつて、最高法規
である憲法の解釈の重要な決め手にすることは、解釈方法として疑問がある。
(3) 控訴人は「信条」と「政治的意見」の違いを強調したうえで、政治的意見
による差別をも禁止するかどうかはすべて立法に任されていると主張するが、憲法
第一四条は民主主義の理念に照して不合理と考えられる差別の理由の代表的なもの
を例示的に列挙したものと解すべきであるから、「政治的意見」が「信条」に含ま
れないとしたところで、立法者が任意に差別することは同条によつて許されない。
そもそも憲法第一四条第一項前段の「法の下に平等」である旨の規定によつて、法
律上の差別は一般的に禁止されているのであつて、同後段はその重要な場合の例示
でしかないのであるから、控訴人主張のように「信条」と「政治的意見」を区別す
ることに殆んど意味がない。
(4) 控訴人は、憲法が自らの破壊者をも容認しなくてはならないと解すると、
憲法の自殺を容認ないし要請すると解することであり不条理であると主張するが、
この論法でいけば、憲法と相容れない思想は保持することも表現することも任意に
禁じ得ることになる。およそ思想表現の自由は民主主義の社会の基盤をなすもので
あり、強度の保障が要求されるが、とりわけ政治的な思想表現の自由は、それが民
主主義の最も肝要な要素であるが故に強度の保障を受けるべきものである。たとえ
憲法の政治的立場と相容れない思想であつても、その思想の保持および表現の自由
は保障されなければならない。憲法は思想を保持する自由を無制限に保障している
(憲法第一九条)。思想の保持自体を規制すべき合理性は皆無だからである。表現
の自由については一定の制約があるとされながらも、その制約には「明白かつ現在
の危険」などという厳格な基準が設定されるべきことは多数の学説判例の一致する
ところであり、あらゆる思想の表現を含めてその自由については強度の保障が認め
られているのである。政治的意見による差別的取扱いは、それが単なる意見の保有
に対するものであれば、すべて憲法第一九条および第一四条に違反し、意見の表現
に対するものである場合も原則として憲法第二一条および第一四条に違反するもの
であるといわねばならない。
(三) 控訴人は、被控訴人が道路交通法違反等で逮捕され、起訴猶予処分となつ
たことを捉らえて本件採用取消事由に該当すると主張し、公社の社会的評価を云為
する。
(1) しかし、公社の社会的信用とはつまるところ公社法第一条にいう目的、す
なわち公衆電気通信業務をいかによく成し得たかにかかつているものであつて、そ
れが公社の社会的信用というべきである。公社はそれ以上にその職員の私生活にわ
たつてまでさまざまの監督規制をなすべき責務を国民に対して負つているわけでは
ないから、職員の私生活上での行為の如何は、それが職員としての労働力の質の評
価に影響を与えない以上、公社の社会的信用を左右するものではない。したがつ
て、職員も右の限度でのみ公社の社会的信用の維持をなすべきことが要求されるに
すぎない。
(2) 被控訴人は道路交通法違反等で逮捕され、起訴猶予処分となつたが、これ
が私生活上の事柄であり、しかも職員としての労働力の質の評価に影響を与えるも
のでないことは、単なる取締法規の違反で、しかも起訴猶予処分とされた程度のも
ので軽微であり、犯罪の成否も甚だ疑問であるような場合であつたこと、また、被
控訴人の予定されていた職務が非管理的機械的労働であつたこと等により明らかで
ある。被控訴人の職務が通信の安全性確保や秘密保持に関係していたことは右の結
論を左右しない。控訴人は、被控訴人の社会規範無視の態度は企業内においても企
業秩序無視につながると主張するが、右の如く果して違法性を具備していたのかど
うかさえ不明確な被控訴人の行為を、社会規範無視の態度と断定し、しかもこれを
直ちに企業秩序無視につながるものとするのは早計である。また控訴人は、反戦青
年委員会一般の斗争方針の一つに「生産点」「企業拠点」斗争があることからみ
て、被控訴人も公社内で越軌行為を繰り返す危険性は極めて強いとも主張するので
あるが、反戦青年委員会一般という不当な拡張解釈をなし、「生産点」「企業拠
点」斗争なるものが合法的なものかどうか、それについての被控訴人の考え等の論
証を一切捨象して、被控訴人が越軌行為を繰り返す危険性が極めて強いと結論づけ
るのは明らかに不当である。
(四) 控訴人は、被控訴人が昭和四五年三月一五日万国博覧会々場中央口駅にお
いて反戦青年委員会参加の安保万博紛砕共斗会議の構成員が万国博紛砕を叫んで無
許可デモを強行しようとした際、右集会に参加したことを把えて、本件採用内定取
消事由に該当すると主張し、具体的非違行為は職員としての不適格性の徴憑にすぎ
ず、本件採用内定取消事由はあくまで職員としての適格性を欠くということである
と主張する。しかし、徴憑といつてみたところで、不適格性の判断は、徴憑たる具
体的事実の総体以上のなにものでもないから、右は空虚な議論でしかない。問題は
当該取消の意思表示が有効になされたか否か、いいかえればいかなる具体的根拠に
もとづいてなされたか、それが当該取消を有効とするに足るものであつたかどうか
である。取消時に取消決定者が認識していない事実は取消の根拠として考慮された
ことのある筈がなく、それは取消が有効になされたかどうかの判断にとつては無縁
である。
証拠関係(省略)
       理   由
一、本件見習社員契約の締結(採用内定)について
(一) 被控訴人の控訴人に対する採用の申込から採用試験の受験を経て採用に至
つた経緯に関する事実について、当裁判所の判断するところは、原判決摘示のとお
りであるから、その該当部分(原判決一八枚目裏二行目から二一枚目裏五行目ま
で)を引用する。
(二) 右認定の事実関係を総合して本件見習社員契約の成立の点を判断すると、
控訴人(以下公社ともいう)の社員公募は契約申込の誘引と解すべきであり、これ
に対する被控訴人の第一次および第二次試験の受験申込が契約の申込となるものと
いうべきである。そして、控訴人から被控訴人に対して発した昭和四四年一一月八
日付採用通知書(疏甲第四号証)が右申込に対する承諾であつて、これによつて、
被控訴人が再度の健康診断に異常があつた場合には、これを解約原因の一つとし
て、控訴人において解約し得るものとし、その効力発生の始期を昭和四五年四月一
日として見習社員契約の締結があつたものと解すべきであり、昭和四四年一一月八
日に成立したものというべきである。もつとも、応募者である被控訴人は受験の放
棄を始めとする応募の撤回の自由を有し、応募者に対し何らの拘束力をも課すもの
でなく、公社のなした本件採用通知にも、すでに認定したとおり、もし被控訴人に
おいて入社を辞退するような場合にはすみやかに公社に対し連絡すべき旨被控訴人
を拘束する趣旨でないことを明らかにしているのであるが、その趣旨は、多数の応
募者のうち少数の辞退者の予想される本件見習社員の公募の性質上、応募者に申込
の拘束力を排除したものであつて、公社もそのため応募者の申込の拘束力を排除し
て承諾したものと解すべきであるから、本件見習社員契約は、昭和四五年四月一日
の契約の効力発生の始期まで被控訴人の申込の撤回権を留保しつつ、成立したもの
というべきである(このような申込の撤回権が留保されたからといつて契約締結の
可能性が失われたものではないから、前記受験申込をもつて契約の申込ということ
に支障はない)。被控訴人は、本件見習社員契約は昭和四五年四月一日を就労の始
期として同年三月四日に成立したと主張するが、本件採用通知書には「昭和四五年
四月一日付で採用する」旨採用日時(就労日時ではない)を記載しているほか、い
まだ被控訴人において身元保証書、誓約書を提出せず、公社の就業規則の明示もな
く、当時再度の健康診断を要する段階であつたから、昭和四五年四月一日は就労の
始期ではなく、契約効力発生の始期と解するのが相当である。
(三) 当裁判所も、公社の被控訴人に対する本件採用通知によつて、公社と被控
訴人との間に見習社員契約の予約が成立したものではないと判断するものであつ
て、その理由は原判決摘示のとおりであるから、その該当部分(原判決二三枚目表
一〇行目から二九枚目表四行目「解することができる。」まで)を引用する(ただ
し、原判決二三枚目裏一行目「右通知によつて……」から二三枚目裏九行目)「…
…明らかであるから」までを削除し、同所に「採用通知により将来において労働契
約を締結しようという合意が成立したものとみられるべき場合には、これを労働契
約の予約と解する余地があるけれども、本件採用通知にはそのような趣旨を含むも
のとは認めがたいので、単に本件採用通知書により被控訴人に見習社員としての拘
束力を認めていないという理由だけでは、」を挿入する。また、原判決二六枚目裏
三行目「公社の申請……」から五行目「……できる。」までを削除し、同所に「公
社の被控訴人に対する採用手続は、公社が被控訴人に対し昭和四四年一一月八日付
採用通知書を発したときをもつて終了し、公社がその後実施した再度の健康診断は
解約原因の存否の調査であり、公社がその後予定していた入社懇談会、職場見学の
実施、身元保証書、誓約書の受領、辞令書の交付等も見習社員契約成立の確認、契
約成立後の労務管理の準備等のためのものであつて、採用手続の一環としてなされ
るべきものでないと解することができる。」を挿入する。)。
(四) 控訴人は、公社の見習社員採用手続は、試験による選考、採用通知、誓約
書、身元保証書の提出、懇談会開催、健康診断等一連の契約締結過程を経て、辞令
書交付によつて完了し、これをもつて公社の確定的承諾の意思表示がなされるべき
であつて、本件採用通知をもつて公社の承諾の意思表示がなされたものとなすこと
はできないし、このとき本件見習社員契約が成立したとすることはできないと主張
する。しかし、本件採用通知は被控訴人が公社の行なう試験による選考に合格し、
採用基準に達したという事実の通知、すなわち観念の通知とみるべきでなく、既に
認定のとおり、本件採用通知書には「昭和四五年四月一日付で採用する」旨記載し
ているのであるから、本件採用通知により、同日付で被控訴人が公社の見習社員と
しての資格を取得するという法律効果に向けられた確定的な承諾の意思表示がなさ
れたものと認めるべきである。そして、このことは本件見習社員採用手続は、本件
採用通知によつて終了し、その後の再度の健康診断は解約原因の存否の調査であ
り、入社懇談会、職場見学の実施、身元保証書、誓約書の受領、辞令書の交付等は
見習社員契約の成立(ただし、契約の効力は同年四月一日に発生する)の確認、労
務管理の準備等のためのものであつて、これを本件採用通知後の一連の採用手続と
は認めがたいところからも明らかである。したがつて、本件採用通知が見習社員契
約締結の過程における一つの行為にすぎず、本件採用内定取消通知は契約締結手続
の進行を中止する意思表示であるとする控訴人の主張は採用できない。
1 控訴人は、本件見習社員契約の申込者が誓約書、身元保証書等を提出すること
が、右申込に対する公社の承諾の意思表示のための欠くべからざる前提要件であ
り、公社の辞令書交付が契約締結完了のための要件であると主張するが、この点に
ついての当裁判所の判断は、控訴人の予約の主張について判断したところと同一
(原判決二五枚目表七行目から二七枚目表末行目まで)であるからこれを引用す
る。
2 控訴人は、本件採用通知は公社の正式の見習社員採用手続には定められていな
いもので、それには昭和四五年四月一日付で見習社員に採用するとし、さらに入社
を辞退する者は公社に通知するよう要請しているところよりすれば、本件採用通知
により被控訴人の申込に対する公社の承諾がなされたものと解されないと主張する
が、本件採用通知が公社の正式の見習社員採用手続に定められていないからといつ
て、契約存続の可能性が失われたものとはいい難く、これを公社の承諾の意思表示
として認められないとする理由は見出しがたいし、本件採用通知が昭和四五年四月
一日付で見習社員に採用するとし、入社を辞退する者は公社に通知するよう要請し
ている趣旨は、本件見習社員の公募の性質上、応募者に申込の拘束力を排除したも
のであつて、公社もそのため応募者の申込の拘束力を排除して承諾したものと解す
べきことは、既に認定したとおりである。
3 控訴人は、また、本件採用通知により被控訴人の見習社員契約締結の申込に対
し公社の承諾の意思表示がなされたとすれば、被控訴人は昭和四五年四月一日の辞
令書の交付をまたず、公社の見習社員の身分を取得することになるが、それでは公
社職員の兼職禁止(公社法第二八条二項)、他の業務関与制限(公社準職員就業規
則第一一条)の趣旨に反すると主張するが、本件見習社員契約は昭和四五年四月一
日をその効力発生の始期として締結されたものであるから、被控訴人は昭和四五年
四月一日をもつて公社の見習社員としての身分を取得するものであつて、控訴人の
指摘するような兼職禁止、他の業務関与制限の趣旨に抵触しない。
二、本件見習社員契約の解約(採用内定取消)について
(一) 被控訴人が豊能地区反戦青年委員会の構成員であつたこと、被控訴人が同
反戦青年委員会の一員として昭和四四年一〇月三一日の国鉄労働組合、動力車労働
組合の機関助士廃止反対の集会に参加し、無届デモとして規制を受け、道路交通
法、大阪市公安条例違反により現行犯として逮捕され、起訴猶予処分となつたこ
と、被控訴人が昭和四五年三月一五日同反戦青年委員会の一員として安保万博紛砕
共斗会議主催のデモおよび座り込み集会に参加したこと、公社職員のうち反戦青年
委員会系の派閥の一つである共産主義者同盟(ブント)に所属する青年労働者の一
部が一連の越軌行為を繰り返し、公社は職場の安全と秩序が阻害され、その業務の
遂行に著しい支障を生じたこと、公社が被控訴人に対し昭和四五年三月二〇日付で
本件採用内定を取り消すに至つた経緯に関する事実について、当裁判所の判断する
ところは、原判決摘示のとおりであるから、その該当部分(原判決二九枚目裏一行
目から三三枚目表九行目までを引用する(ただし、原判決三一枚目裏一二行目「公
社側においては……」から三二枚目表二行目「……理解していたところから」まで
を削除し、同所に「反戦青年委員会なるものの性格と公社の情報収集能力からは、
その正確な実態を把握することは極めて困難であつたが、公社としては、反戦青年
委員会の過激な非合法活動に関する新聞報道、反戦青年委員会の発行、配布する機
関紙、宣伝紙、関係者等の意見等によつて、反戦青年委員会はその各分派の過激性
の程度に差異はあつても、みな過激であることに変りはないものと認識していたと
ころから、」を挿入する。原判決三三枚目表五行目「その頃すでに……」から同七
行目「……迫つたので、」までを削除する。)。
(二) 本件見習社員契約は、被控訴人が再度の健康診断に異常があつた場合に
は、これを解約原因の一つとして、公社において解約し得るものとし、その効力発
生の始期を昭和四五年四月一日として締結されたもの(採用内定)であることは既
に認定したとおりであるが、本件採用内定の取消は、昭和四五年四月一日をその効
力発生の始期として締結された見習社員契約の解約(採用内定者の解雇)であつ
て、採用内定者である被控訴人はいまだ具体的な就労義務を負うことなく、賃金も
支払われていないのであるから、労働基準法の適用は受けないものであり、また、
公社法第三一条公社準職員就業規則(疏乙第一八号証)第五八条も直接その適用を
受けないものと解する。しかし、本件見習社員契約がその効力発生の始期を昭和四
五年四月一日として締結されたもの(採用内定)であるからといつて、公社は自由
にこれを取消(解約)し得るものではないのであつて、もし解約事由なくして取消
(解約)した場合は解約の要件を欠くものとして無効といわなければならない。そ
して、前記採用通知書には本件見習社員契約は被控訴人が再度の健康診断に異常が
あつた場合にはこれを解約し得る旨明示しているが、本件見習社員契約締結(採用
内定)の性質、目的に照らすときは、解約事由はこれに限定されたものと解すべき
ではなく、被控訴人が再度の健康診断に異常がある場合、その他公社において被控
訴人が公社の見習社員として適格性を欠くものと認むべき事由がある場合にも、公
社は内定者である被控訴人に対し、予告期間をおくことなく即時に解約をなし得る
ものと解するのが相当である。(なお、公社の職員及び準職員採用規程《成立に争
のない疏乙第一九号証》一三条四号に、準職員不採用条件として、「その他公社の
……準職員として不適当と認められる者」と定められている)。
(三) 控訴人は、本件見習社員契約の解約(採用内定取消)について、被控訴人
が公社の見習社員としての適格性を欠くものと認むべき事由として、前記(一)に
関連したことを主張するので判断する。
 被控訴人は豊能地区反戦青年委員会の構成員であるが、昭和四四年一〇月三一日
午後九時ごろ大阪鉄道管理局前において国鉄労働組合、動力車労働組合の機関助士
廃止反対の集会に豊能地区反戦青年委員会所属の一員として参加した際、約五〇名
の集団を指揮して車道に出てシユプレヒコールをしながら若干の移動をした行為に
ついて、待機中の警察機動隊から無届デモとしての規制を受け、道路交通法第七七
条、大阪市公安条例違反の現行犯として逮捕され、同年一二月一一日起訴猶予処分
となつたこと、公社職員のうち反戦青年委員会系の派閥の一つである共産主義者同
盟に所属する青年労働者の一部が昭和四四年一〇月三日大阪中央電報局において政
治スローガンを掲げ、「マツセンスト」と称して玄関前に座り込み、同月一七日同
局六階の労務課をバリケード封鎖し、窓から垂幕や反戦の赤旗をつるし、また同月
二〇日同局屋上で火炎びんを投下し、ついで公社の職員らしい者を含む五名の男女
が同年一一月一三日火炎びん様のものを所持して同局に乱入し、さらに近畿電通局
管内の過激派反戦グループに属するものと考えられる者らが、昭和四五年一月二八
日佐藤首相の訪米阻止斗争に参加し京浜蒲田駅で逮捕された公社職員について懲戒
解雇者が出たことに抗議して、大阪市外電話局、和泉電報電話局等において火炎び
ん様のものを投入するといつたような事件を起こし、これら一連の行為によつて公
社の職場の安全と秩序を阻害され、その業務の遂行に著しい支障を生じたことは既
に判示したとおりである。そして、原審証人Aの証言により真正に成立したと認め
る疏乙第二一号証、当審証人Bの証言により真正に成立したと認める疏乙第二二号
証ないし第二五号証、原審証人Aの証言、原審における被控訴本人尋問の結果によ
ると、次の事実が認められる。すなわち、反戦青年委員会は社会党、総評が結成さ
せたもので、昭和四〇年八月に日韓条約批准阻止斗争を目標として発足したもので
あるが、その当時は一応全国反戦(団体加盟)の下に地区反戦(団体、個人加盟併
用)があり、統制された組織の態をなしていたけれども、その後日韓条約可決とと
もに斗争目標を失ない、昭和四一年秋以降急進派政治団体の浸透によつて、とくに
地区反戦では分派を繰り返し、各派閥間において反戦派の奪い合い潰し合いが行な
われた結果、実質的な統一指導部を欠く不確定組織の総体にすぎなくなつていた。
各地区反戦の多くは全国反戦の統制に従わず、「ベトナム反戦全国行動大阪集会」
(昭和四三年六月一五日)、「米軍弾薬輸送阻止斗争」(同年六月一七日、七月二
〇日、二一日)、「大阪空港軍事使用反対デモ」(同年八月一七日)、「砂川斗
争」(同年九月二二日)、「国際反戦斗争」(同年一〇月二一日)、ついで「沖繩
奪還中央行動」(昭和四三年一一月七日)、「東大斗争支援行動」(昭和四四年一
月一八日、一九日)、「成田斗争」(同年三月二一日)と次第に過激な行動へと暴
走をつづけ、昭和四四年四月二八日には「霞が関に解放区を」と叫んで、急進派学
生とともにヘルメットを被り、手拭で覆面をして、東京都内の新橋、銀座周辺や渋
谷などで、交番に投石したり角材を揮つたりして機動隊と衝突を繰り返えして暴れ
た。その後「外相訪米阻止斗争」(昭和四四年五月三〇日、三一日)、「アスパツ
ク粉砕斗争」(同年六月八日)とつづき「沖繩斗争勝利」、「佐藤訪米阻止」等の
スローガンをかかげて各地で集会を開催し、同年一〇月二一日東京をはじめ全国各
地で「10・21統一行動」、「10・21国際反戦デー」と称して過激な行動を
くりひろげた。被控訴人の所属する豊能地区反戦青年委員会は、その発行、配布し
ている「豊能反戦ニユース」(疏乙第二二号証ないし第二五号証)によれば、同反
戦青年委員会が白ヘル軍団として首都制圧斗争(昭和四四年一〇月二一日)に参加
し、火炎ビンで武装して機動隊に突撃し、新橋解放の快挙をなしとげたと誇示し、
全大阪反戦青年委員会内部における社青同、革マル等「首都制圧斗争」に参加しな
かつた部分と袂別し、「佐藤訪米阻止斗争」(昭和四四年一一月一六日、一七日)
を斗う部分が結成する大阪地区反戦連絡会議に結集することを決定し、「佐藤訪米
阻止斗争」に参加することを呼びかけ、「武力による攻防によつて決せられるとい
うこの地平は決して後退するものではない」として、武力斗争を標榜していた。以
上のとおり認められる。当審証人Bの証言および当審における被控訴本人尋問の結
果によると、被控訴人が所属する豊能地区反戦青年委員会は「10・21国際反戦
デー」を契機として「佐藤訪米阻止」を主張する過激派とこれに反対する一派に分
裂し、前記「豊能反戦ニユース」はその過激派が発行、配布したものであつて、被
控訴人は過激派に反対する一派に属することとなつたというのであるが、原審にお
ける被控訴本人尋問の結果によると、被控訴人はその所属する豊能地区反戦青年委
員会が前記大阪地区反戦連絡会議に属する旨供述していることが認められるのであ
つて、被控訴人が果して豊能地区反戦青年委員会の「佐藤訪米阻止」を主張する過
激派から分裂した他の一派に属するものであるのかどうかは必ずしも定かではな
い。
 ところで原審証人Aの証言によると、公社はおそくとも昭和四五年三月二〇日被
控訴人に対し本件採用内定取消を通告した当時には、右認定のような事実関係をほ
ぼ認識していたことが認められるから、公社において被控訴人が単に反戦青年委員
会に所属しているというだけでなく、非合法活動を誇示し、武力斗争を標榜する豊
能地区反戦青年委員会に所属し、同委員会の構成員として昭和四四年一〇月三一日
の大阪鉄道管理局前における無届デモを指揮し、起訴猶予処分になつているとはい
え、これに関連して法律違反の具体的越軌行為がある以上、公社の職員として稼働
させた場合、当時前記のように近畿電通局管内の局所で過激な越軌行為を繰り返し
ていた反戦グループに同調して職場の秩序が乱され、業務が阻害される具体的な危
険性があると判断したこと自体は十分首肯できるものがあるのであつて、公益性、
社会性の極めて強い企業体である公社が被控訴人には公社の見習社員としての適格
性を欠くものと認むべき事由があるとしたことは不当とはいえない。けだし、いわ
ゆる内定者については、見習社員の解雇基準におけると同様の裁量範囲を認むべき
根拠がないからである。
1 被控訴人は、被控訴人が所属する豊能地区反戦青年委員会と大阪中央電報局に
おいて「マツセンスト」等を行なつた反戦グループとはいかなる内的関連もなく、
豊能地区反戦青年委員会が発行、配布した前記「豊能反戦ニユース」(疏乙第二二
号証ないし第二五号証)は、同委員会が過激派グループとこれに反対するグループ
に分裂した以後において、被控訴人の属していない同委員会の過激派グループが豊
能地区反戦青年委員会の名の下に発行配布したもので、被控訴人とは無関係であつ
て、ひとくちに反戦青年委員会といつても、組織と実体は多種多様であり、少数の
過激的な反戦青年委員会をもつて全体的性格を類推するのは独善的で許されないと
主張する。たしかに反戦青年委員会が昭和四一年秋以降急進派政治団体の浸透によ
つて、とくに地区反戦では、分派を繰り返し、実質的な統一指導部を欠く不確定組
織の総体であつて、各地区反戦ではその間に過激的なものから比較的そうでないも
のまで存在するであろうことも推認できないではなく、豊能地区反戦青年委員会と
大阪中央電報局において「マツセンスト」等を行なつた反戦グループとの内的関連
性についても、これを積極的に肯定し得ないものがあり、また、前記「豊能反戦ニ
ユース」を発行、配布したものが豊能地区反戦青年委員会の過激派グループである
のかどうか、被控訴人がその過激派グループに属するのかどうかも定かでないので
あるけれども、反戦青年委員会なるものの性格と公社の情報収集能力からは、その
実態を正確に把握することは極めて困難なものがあつたのであるから、前記認定の
ような事実関係からは、公社としては、被控訴人が単に反戦青年委員会に所属して
いるだけでなく、非合法活動を誇示し、武力斗争を標榜する豊能地区反戦青年委員
会に所属し、同委員会の構成員として大阪鉄道管理局前における無届デモを指揮
し、これに関連して法律違反の具体的越軌行為がある以上、公社の職員として稼働
させた場合、当時近畿電通局管内の局所で過激な越軌行為を繰り返していた反戦グ
ループに同調して職場の秩序が乱され、業務が阻害される具体的な危険性があると
判断したのはまことにやむをえないものがある(不適格性の判断についての裁量の
範囲をこえていない)のであつて、被控訴人としては、当時多くの地区反戦が全国
反戦の統制に従わず、前記認定のような過激な非合法活動を繰り返す中で、豊能地
区反戦青年委員会に所属し、その所属する同委員会が前記認定のような「豊能反戦
ニユース」を発行、配布して、非合法活動を誇示し、武力斗争を標榜していたので
あるから、被控訴人が豊能反戦青年委員会の過激派グループに属していたかどうか
にかかわらず、公社の右のような判断を甘受しなければならないと考える。
2 被控訴人は、また、被控訴人が昭和四四年一〇月三一日午後九時ごろ、大阪鉄
道管理局前において無届デモに参加し、道路交通法、大阪市公安条例違反により逮
捕され、起訴猶予処分となつたが、これは起訴猶予処分とされた程度の軽微なもの
であつて、犯罪の成否も甚だ疑問であるような場合であり、しかも私生活上の事柄
であり、非管理的機械的労働を職務とする見習社員としての労働力の価値の評価に
影響のないものであるから、これを本件採用内定取消(解約)の事由とすることは
許されないと主張する。しかし、被控訴人が大阪鉄道管理局前において無届デモに
参加し、道路交通法、公安条例違反により逮捕され、起訴猶予処分となつた事案
は、これを可罰的違法性の観点から犯罪の成立を否定すべきものであるとはにわか
に断定しがたいところであるが、起訴猶予処分となつたところよりみれば、これを
軽微であると評価できないではなく、また、企業外の私行であることも当然である
けれども、本件は右事案を懲戒権(懲戒解雇)の対象として考察しようとするもの
でないことはいうまでもなく(もろちん企業外の非違行為といえども、当然には懲
戒権の行使が制限されるわけでない)、いまだ公社の見習社員でなく、企業内の地
位を持たない被控訴人が公社の見習社員として適格性を有するかどうかを判定する
ための資料とするものであつて、公社は、公衆電気通信事業の合理的かつ能率的な
経営の体制を確立し、公衆電気通信設備の整備および拡充を促進し、ならびに電気
通信による国民の利便を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的
として設立した企業(公社法第一条)であり、公共性、社会性の極めて強い企業体
であるところから、公社としては、本件事案に示すような被控訴人の具体的越軌行
為を、既に認定したような各地区反戦青年委員会の多くの一連の過激な非合法活動
と非合法活動を誇示し武力斗争を標榜する豊能地区反戦青年委員会に被控訴人が所
属しているという背景の中で把え、被控訴人はたとえ機械職として非管理的労働を
職務とするものであつても、右のような公共性、社会性の極めて強い企業体に見習
社員として採用するときは、公社の職場の秩序が乱され業務を阻害される具体的な
危険があると判断したのであつて、このことによりいまだ企業内における地位を有
していない被控訴人を(将来)公社の見習社員としては適格性を欠くと判断したも
のである。そして、従業員を企業外に排除する懲戒解雇の場合は、企業内の従業員
につきその適格性の有無を判断するに必要な資料は豊富にあるのであるけれども、
本件のように採用内定の段階で適格性の有無を判断するに必要な資料が豊富とはい
えない状態においては、本件事案が軽微であり、被控訴人の企業外の私行であり、
被控訴人が機械職として非管理的な職務を内容とするからといつて被控訴人主張の
ように本件採用内定取消(解約)が解約の事由なくしてなされたものとは認めがた
い。
3 被控訴人は、さらに、被控訴人が豊能地区反戦青年委員会に所属する事実をも
つて本件採用内定取消(解約)事由とすることは、憲法第一四条および労基法第三
条によつて保障されている信条による差別的取扱いであり、ひいては憲法第一九条
(思想の自由)、第二一条(結社の自由)に違反して許されないと主張するところ
がある。本件見習社員契約の締結(採用内定)は、昭和四五年四月一日を契約効力
発生の始期とするものであり、本件採用内定取消当時には、いまだ右始期は到来し
ていなかつたのであつて、公社と被控訴人との間には具体的な労働契約上の法律関
係は発生していないのであるから、労基法の立法精神が、もつぱら労働契約上の法
律関係の存在を前提とし、そこにおける信条を理由とする均等待遇の原則を規定し
ているものである以上、労基法第三条の適用(同条にいう「労働条件」には「労働
契約の締結」は含まれない)はこれを否定すべきであるが、もし本件採用内定取消
(解約)が被控訴人の信条を理由とするときは、憲法第一四条の規定に違反し、民
法第九〇条の公序良俗違反として無効といわなければならない。ところで信条とそ
の現われと見られる行為とを区別して制限することは困難な場合があり、行動とく
に違法性の軽微な行動によつて生じた結果だけを切り離し、これに名を藉りて差別
的取扱いを課することが許容されるならば、信条を保障した憲法第一四条の規定の
適用が潜脱されるおそれがあるから、信条、信念による差別があるかどうかは、そ
の差別が行動によつて生じた結果に名を藉りたものかどうかを判断すべき必要があ
るわけである。ところで、被控訴人が所属する豊能地区反戦青年委員会は政治的な
主義主張を貫徹するために結成された団体であつて、その発行、配布する前記「豊
能反戦ニユース」によれば非合法活動を誇示し、武力斗争を標榜しているのである
が、被控訴人は同委員会の構成員として、他の構成員とともに大阪鉄道管理局前に
おける無届デモに参加し、しかもこれを指揮し、いかに起訴猶予処分になつたとい
う比較的軽微な事件であるとはいえ、道路交通法、公安条例違反という具体的な越
軌行為を集団的に行なつたのであるから、公社が被控訴人を公社の職員として稼働
させた場合、当時近畿電通局管内の局所で過激な越軌行為を繰り返していた反戦グ
ループに同調して職場の秩序を乱し業務を阻害する具体的な危険性があり、見習社
員としての適格性を欠くと判断したのは首肯しうるのであつて、控訴人がもつぱら
被控訴人の政治的信条や政治的所属関係を嫌悪して差別し、その無届デモ参加、逮
捕および起訴猶予処分に名を藉りて解約したものということはできない。したがつ
て、本件採用内定取消(解約)が憲法第一四条の規定に違反し公序良俗に反して無
効であるということはできないし、いわんや憲法第一九条(思想の自由)、第二一
条(結社、表現の自由)に違反するものと解すべきではない。
三、むすび
 そうすると、公社と被控訴人との間において締結された昭和四五年四月一日を効
力発生の始期とする本件見習社員契約(採用内定)は、昭和四五年三月二〇日付本
件採用内定取消(解約)によつて適法に解約されたものというべきであるから、本
件見習社員契約(採用内定)が有効に存続することを前提として、本件見習社員契
約の存在確認、賃金支払の各請求権を被保全権利として、控訴人が被控訴人に対し
てなした本件採用内定取消の意思表示の効力の停止と被控訴人が控訴人に対して賃
金の支払いを求める本件仮処分の申請は理由がない。
 よつて、本件仮処分申請は却下すべきであるのにかかわらず、これを許容した原
判決は取り消すべきであるから、民訴法第三八六条、第九六条、第八九条を適用し
て主文のとおり判決する。
(裁判官 山内敏彦 阪井●朗 宮地英雄)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛