弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役四月に処する。
     原審における未決勾留日数三二日を右本刑に算入する。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、東京高等検察庁検事波多宗高が差し出した控訴趣意書(長
野地方検察庁検事鈴木茂の作成名義)、弁護人鈴木敏夫が差し出した控訴趣意書に
それぞれ記載してあるとおりであるから、これらを引用し、これに対して当裁判所
は次のように判断する。
 検事の控訴趣意について。
 所論のごとく原判決は主文に「未決勾留日数四五日を右刑に算入する」と掲げ、
その理由中に「被告人は昭和四四年二月一五日から同月二八日までは、別件の、起
訴されていない事実にもとづいて勾留されているが、右勾留期間中実質的には本件
事実についての取調がなされたことが記録上明らかであるから、右勾留をも本件事
実についての勾留とみなしてその期間を未決勾留日数に加算する」旨説示している
ので、原記録を調査するのに、被告人は昭和四四年二月二八日職業安定法違反、労
働基準法違反の本件公訴事実にもとづいて起訴され、起訴状に附記された「勾留中
求令状」の表示により即日勾留されたが、同年三月三一日保釈決定により釈放され
たこと、ところで被告人はこれより先の同年二月一三日職業安定法違反の、別件の
被疑事実により逮捕され、同月一五日勾留ざれ、同月二四日勾留期間延長のうえ、
前示のごとく求令状の要求により勾留されるまで公訴事実と別個の被疑事実により
身柄を拘束されていたことを認めることができる。
 原審は当該勾留日数算入の立論の根拠として、起訴されなかつた、別件の被疑事
実にもとづく勾留中に、実質的には本件公訴事実についての取調がなされた事実を
掲げているので、かかる取調状況の有無を検討するのに、当初捜査機関は、被告人
が昭和四三年六月中にかねて求職の申込をらけていたA、B、Cをバーのホステス
として斡旋し、有料の職業紹介事業を行つたとの嫌疑のもとに被告人に対する勾留
を請求して捜査したが、取調の進展につれて被告人はA、Bらをホステスとして斡
旋した後、更に同女らほか数名の女性を原判示のDに対し芸妓として斡旋したなど
の事実が明らかになり被告人の一連の職業斡旋、謝礼の受領、他人の就業介入の行
為の中から特に本件公訴事実が抽出されて、職業安定法違反、労働基準法違反とし
て起訴したことを肯認しうるのである。
 これらの事実に徴すれば、捜査機関が本件公訴事実の捜査のために、別件の起訴
されなかつた被疑事実にもとづく勾留を利用したものでないことはいうまでもな
く、右勾留期間中に取調の進展につれて本件公訴事実が明かとなつた以上、勾留中
に本件公訴事実のみを取調べたとはいい難く、従つて原判示のごとく「右勾留期間
中、実質的には、本件事実についての取調がなされた」との見解は、少くとも本件
事案については適切でなく、従つて採用しえないのである。
 <要旨>そして、刑法第二一条により本刑に算入することのできる未決勾留の日数
は、原則として、その本刑の科された罪について発せられた勾留状による拘
禁の日数を指すものというべきであり、本件のような場合にも、右以外の日数、即
ち公訴事実に当らず、従つて本刑の科された罪ではない、別件の被疑事実について
発せられた、昭和四四年二月一五日付の勾留状による勾留日数を本刑に算入するこ
とはできないものと考えるのを相当とするから(札幌高等裁判所昭和三五年(う)
第二九一号、同年一一月一六日第三部判決、高裁判例集一三巻八号六三四頁、東京
高等裁判所昭和三九年(う)第二三三五号、昭和四〇年二月一二日第九刑事部判決
参照)、これと異る措置に出た原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、
この違法が判決に影響を及ぼすことは明かであるから、論旨は理由がある。
 よつて、本件控訴は理由があるから、弁護人の控訴趣意(量刑不当の主張)につ
いては自判の際に触れることとし、刑量訴訟法第三九七条第一項、第三八〇条によ
り原判決を破棄したうえ、同法第四〇〇条但書の規定に従い、更に自ら次のように
判決をする。
 (罪となるべき事実)(証拠の標目)(累犯となる前科)
 いずれも原判決記載と同一であるので、これを引用する。
 (法令の適用)
 被告人の原判示所為のうち有料の職業紹介事業を行つた点は、包括して職業安定
法第三二条第一項本文、第六四条第一号に、業として他人の就業に介入して利益を
得た点は包括して労働基準法第六条、第一一八条第一項に該当するところ、右は一
個の行為であつて、二個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前
段、第一〇条により犯情の重い労働基準法違反罪の刑で処断することとし、所定刑
のうち懲役刑を選択するが、被告人には前記の前科があるので同法第五六条第一
項、第五七条に従い再犯加重をなし、その刑期範囲内で量刑すべく、情状を検討す
るのに、被告人は博徒の一家に属し、現在は足を洗つたとはいうものの、その親分
関係より新年会や葬式の通知をうけとつている状態で、正業につかず、しかも累犯
関係に立つ恐喝の前科のほかに、昭和二五年以降懲役刑五犯、罰金刑四犯に処せら
れているのにかかわらず、本件の各犯行に及んだのであるから、犯情は軽くないと
いうべく、弁護人の控訴趣意に示された、被告人に有利な情状を斟酌しても、原判
決と同一の刑に処するのは、やむを得ないというべきであるから、被告人を懲役四
月に処し、なお原審における所定の未決勾留日数全部三二日を右本刑に算入するこ
ととし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 江碕太郎 判事 龍岡資久 判事 藤野英一)

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