弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 
         理    由
 上告代理人俵正市、同復代理人寺内則雄の上告理由について
 一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 被上告人は、昭和三七年一二月一日に上告人に任用され、技術吏員として上
告人の社土木事務所に勤務していたところ、平成三年一月二八日、最後の住所であ
る兵庫県小野市a町b番地のcを出奔し、以後、所在・生死共に不明となった。
 2 平成三年三月三〇日、兵庫県知事は、被上告人を懲戒処分として免職する旨
を決定し、「B 兵庫県技術吏員 地方公務員法第二九条第一項の規定により本職
を免ずる。 平成三年三月三〇日 兵庫県知事」と記載された人事発令通知書及び
処分の理由として「平成三年一月二八日以降、無断欠勤を続けていることは、全体
の奉仕者たるにふさわしくない行為である。」と記載された処分説明書を作成し、
被上告人の上司が、被上告人の前記最後の住所に赴き、その妻Dに対して、右人事
発令通知書を読み上げた上、同通知書及び右処分説明書を交付した。
 3 上告人は、平成三年三月三〇日付けの兵庫県公報で、被上告人に対する前記
人事発令通知書の内容を掲載し、同年四月六日、右公報を被上告人の前記最後の住
所に郵送した。兵庫県公報発行規則(昭和三七年兵庫県規則第八三号)三条、四条
は、同公報には条例、規則、辞令などを掲載し、同公報は本庁の部課、地方機関、
各種行政機関、県内市町及び県議会その他必要と認めるものに無償で配布するもの
と規定している。兵庫県の県民情報センターや図書館では、同公報が閲覧に供され
ている。
 4 職員の懲戒の手続及び効果に関する条例(昭和三八年兵庫県条例第三一号)
二条は、職員に対する懲戒処分としての免職の処分は、その理由を記載した書面を
当該職員に交付して行わなければならないと規定しているが、その職員が所在不明
で書面を交付して処分を通知することが不可能な場合の処分手続については、規定
がない。
 二 右事実関係の下において、原審は、上告人の被上告人に対する平成三年三月
三〇日付けの懲戒免職処分の効力につき、次のとおり判断した。
 1 公務員の免職処分の効力発生時期は、特別の規定がない限り、意思表示の一
般法理に従い、その意思表示が相手方に到達した時、すなわち辞令書の交付その他
公の通知によって相手方が現実にこれを知った時又はこれが相手方の知り得る状態
に置かれた時と解される。
 2 被上告人が本件懲戒免職処分を現実に知ったとは認められない。また、平成
三年三月三〇日の時点では、所在・生死共に不明であったのであるから、被上告人
の上司及び上告人が同日に執った前記一の2、3の措置をもって、本件懲戒免職処
分が被上告人の知り得る状態に置かれたとはいえない。
 3 本件懲戒免職処分については、民法九七条ノ二所定の方法による意思表示の
手続は執られていない。また、法律や兵庫県条例には職員の懲戒免職処分につき知
事が公示の方法による意思表示を行うことができる旨の規定はない。法令の根拠な
くして公示による意思表示の方法により懲戒免職処分の効力を生じさせることはで
きないと解すべきであるから、被上告人の上司及び上告人が執った前記措置によっ
て、懲戒免職の意思表示が被上告人に到達したとみなすことはできない。
 4 よって、本件懲戒免職処分は、効力を生じない。
 三 しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおり
である。
 所在が不明な公務員に対する懲戒処分は、国家公務員に対するものについては、
その内容を官報に掲載することをもって文書を交付することに替えることが認めら
れている(人事院規則一二―〇「職員の懲戒」五条二項)ところ、地方公務員につ
いてはこのような規定は法律にはなく、兵庫県条例にもこの点に関する規定がない
のであるから、所在不明の兵庫県職員に対する懲戒免職処分の内容が兵庫県公報に
掲載されたことをもって直ちに当該処分が効力を生ずると解することはできないと
いわざるを得ない。
 しかしながら、上告人の主張によれば、上告人は、従前から、所在不明となった
職員に対する懲戒免職処分の手続について、「辞令及び処分説明書を家族に送達す
ると共に、処分の内容を公報及び新聞紙上に公示すること」によって差し支えない
としている昭和三〇年九月九日付け自丁公発第一五二号三重県人事委員会事務局長
あて自治省公務員課長回答を受けて、当該職員と同居していた家族に対し人事発令
通知書を交付するとともにその内容を兵庫県公報に掲載するという方法で行ってき
たというのであり、記録上そのような事実がうかがわれるところである。そうであ
るとするなら、【要旨】兵庫県職員であった被上告人は、自らの意思により出奔し
て無断欠勤を続けたものであって、右の方法によって懲戒免職処分がされることを
十分に了知し得たものというのが相当であるから、出奔から約二箇月後に右の方法
によってされた本件懲戒免職処分は効力を生じたものというべきである。
 原審の前記判断は、右と異なる見解に立って本件懲戒免職処分の効力を否定した
ものであって、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、その違法が
原判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免
れない。そして、本件各請求については、更に審理判断を尽くす必要があるから、
本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井
正雄 裁判官 大出峻郎)

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