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平成22年11月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10049号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年10月27日
判決
原告エイディシーテクノロジー株式会社
訴訟代理人弁護士水野健司
被告特許庁長官
指定代理人新川圭二
山本春樹
廣瀬文雄
田村正明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2009−12267号事件について平成21年12月21日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
審決は,原告の特許出願に係る拒絶査定不服審判請求について,審判請求は成り
立たないとした。争点は,本願発明の容易推考性の存否である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成20年6月5日,名称を「携帯型無線電話装置」とする発明の特許
出願(特願2008−148357。本件出願)をしたが,平成21年3月25日
付けで拒絶査定を受けたので,平成21年7月6日,拒絶査定に対する不服審判請
求をするとともに,補正(補正後の請求項の数2,甲21)をした。
特許庁は,上記審判請求を不服2009−12267号事件として審理したが,
平成21年12月21日「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,そ,。
の謄本は平成22年1月12日,原告に送達された。
本件出願は,平成5年3月30日に出願した特願平5−72367号の一部を新
たな特許出願(特願平7−309277号)とし,その一部を新たな特許出願(特
願平10−180965号)とし,その一部を新たな特許出願(特願2003−1
),()37722号としその一部を新たな特許出願特願2003−336052号
とし,その一部を新たな特許出願(特願2004−40374号)とし,その一部
を新たな特許出願(特願2005−285307号)とし,その一部を新たな特許
出願(特願2007−88463号)とし,さらに,その一部を新たな特許出願と
したものである。
2本願発明の要旨
請求項の数は上記のとおり2であるが,そのうち【請求項1】は,次のとおりで
ある(本願発明。)
【請求項1】
「公衆通信回線に無線によって接続され,当該公衆通信回線を経由して,発信又
は受信を行う無線通信手段
を備え,上記無線通信手段を介して,外部装置とのデータ通信及び音声通信を実
現する携帯型無線電話装置であって,
当該携帯型無線電話装置の筐体に保持された又は当該筐体外のGPS利用者装置
により特定された現在地点の座標を表す座標データを入力する座標データ入力手段
と,
ユーザに操作されて,発信先の情報を入力し,更には,当該発信先に対応する外
部の携帯型無線電話装置への上記座標データの送信指令を入力する指令入力手段
と,
上記指令入力手段から上記送信指令が入力されると,上記座標データ入力手段に
より入力された現在地点の上記座標データを,上記無線通信手段を介して,上記発
信先に対応する外部の携帯型無線電話装置に送信する送信制御手段と,
を備えること
を特徴とする携帯型無線電話装置」。
3審決の理由の要点
(1)本願発明は,引用例(特開平3−235116号公報)に記載された引用
発明並びに周知例1(特開平5−30230号公報,平成5年2月5日公開,周)
知例2(特開平4−340681号公報,周知例3(特開平4−164276号)
公報)及び周知例4(特開平4−339284号公報)に記載の周知技術に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規
定により特許を受けることができない。
すなわち,本願発明と引用発明との相違点は後記のとおりであるところ,相違点
1に係る本願発明の構成は周知例1及び2に開示された周知技術であり,適用上の
阻害要因もないので,これを引用発明に適用することは当業者が適宜なし得るし,
相違点2及び3に係る本願発明の構成も,周知例3及び4に開示された周知技術で
あり,適用上の阻害要因もないので,これを引用発明に適用することは当業者が適
宜なし得る。
(2)審決が認定した引用発明の内容,引用発明と本願発明との一致点及び相違点
は,次のとおりである。
【引用発明】
「公衆通信回線に接続され,当該公衆通信回線を経由して,発信又は受信を行う
通信手段
を備え,上記通信手段を介して,外部装置とのデータ通信及び音声通信を実現す
るデータ通信機能付電話装置であって,
データ入力手段と,
ユーザに操作されて,発信先の情報を入力し,更には,当該発信先に対応する外
部の装置への上記データの送信指令を入力する指令入力手段と,
上記指令入力手段から上記送信指令が入力されると,上記データ入力手段により
入力されたデータを,上記通信手段を介して,上記発信先に対応する外部の装置に
送信する送信制御手段と,
を備えるデータ通信機能付電話装置」。
【一致点】
公衆通信回線に接続され,当該公衆通信回線を経由して,発信又は受信を行う通
信手段
を備え,上記通信手段を介して,外部装置とのデータ通信及び音声通信を実現す
る電話装置であって,
データ入力手段と,
ユーザに操作されて,発信先の情報を入力し,更には,当該発信先に対応する外
部の装置への上記データの送信指令を入力する指令入力手段と,
上記指令入力手段から上記送信指令が入力されると,上記データ入力手段により
入力されたデータを,上記通信手段を介して,上記発信先に対応する外部の装置に
送信する送信制御手段と,
を備える電話装置。
【相違点1】
「通信手段」と「電話装置」に関し,本願発明の「通信手段」は「公衆通信回線
に無線によって接続され」る「無線通信手段」であり「電話装置」は「携帯型無,,
線電話装置」であるのに対し,引用発明はそれぞれ「公衆回線に接続され」る「通
信手段「データ通信機能付電話装置」である点。」,
【相違点2】
「データ」及び「データ入力手段」に関し,本願発明は「当該携帯型無線電話装
置の筐体に保持された又は当該筐体外のGPS利用者装置により特定された現在地
」「」点の座標を表す座標データ及び前記座標データを入力する座標データ入力手段
であるのに対し,引用発明は単に「データ」及び「データ入力手段」である点。
【相違点3】
「外部の装置」に関し,本願発明は「外部の携帯型無線電話装置」であるのに対
し,引用発明は単に「外部の装置」である点。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(相違点1に関する判断の誤り)
(1)引用発明の課題は,複合装置をラップトップとした場合,オペレータが表
示を見ることができないことから,特にファクシミリ通信を行う際に動作状態を確
認できないという課題を解決することにあり,通信手段の無線化とは何らの関係も
ない。このような引用発明の課題を考慮すると,引用発明について通信手段を無線
化する動機付けは認められない。
(2)審決は,容易想到性の判断に関して,動機付けの根拠や示唆について何ら
示しておらず,阻害事由が見当たらないことのみを理由にして結論を導いており,
誤りである。
なお,被告は,無線通信が周知であり,設計事項にすぎないと主張するが,そう
であるとすると,引用例は図面も含めて全45頁にも及ぶ詳細なものであるのに,
この文献中のどこにも無線化についての記載がないのか説明がつかない。
(3)審決は「例えば上記周知例1,2に開示されているように「公衆通信回線,
に無線によって接続され,該公衆回線回線を経由して音声あるいはデータの発信,
または受信を行う無線通信手段を備えた携帯型電話装置」は周知(10頁24行」
∼26行)であるとするが,現在の技術水準において無線通信を採用している電子
機器が存在していることは,容易想到性を判断する根拠にならない。
2取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)
(1)審決は,相違点2についても,相違点1と同様に容易想到性に関する根拠
を示していない。
(2)審決は,相違点2の構成に関して阻害事由があるのに,これを看過してい
る。
引用発明は「公衆通信回線(有線)を前提としており,ここで用いられるハン」
ドセットは固定電話(有線電話)を意味しているのであって,無線電話の構成を有
していないことは明らかである。そうであれば,少なくとも引用発明のデータ通信
機としても用いられる電話機は,移動体となるものではなく,GPSによる「現在
地点の座標」を入力する必要はない。移動体でない以上,常に変化しない「現在地
点の座標」を入力することは意味がないからである。このように,引用発明が固定
電話(有線電話)を構成としていることは,引用発明にGPS利用者装置により特
定された現在地点の座標を入力する技術を組み合わせることの阻害事由となる。
審決は,このような阻害事由を看過しており,誤りである。
(3)なお,本願発明は,指令入力手段が入力する送信指令のデータ及び送信制
御手段が送信するデータについても座標データである点で,引用発明と異なってい
る。
3取消事由3(相違点3に関する判断の誤り)
相違点3についても,審決は「阻害要因は見当たらない」ことのみをもって結,
論を導いており,誤りがある。
第4被告の主張
1取消事由1に対して
(1)原告は,引用発明の課題について主張しているが,引用発明の「課題」の
作用効果は,通信媒体(すなわち有線接続であるか無線接続であるか)によらない
ものである。
(2)原告は,動機付けや示唆が示されていない旨主張する。しかし「通信媒体,
(手段」としての有線接続や無線接続は,いずれも本件出願前から慣用されてい)
る手段であって,そのいずれを採用するかは当業者であれば適宜選択し得る単なる
設計的事項であり,そもそも有線接続又は無線接続としなければならない特段の理
由は存在しない。また,審決は,念のため阻害事由についても判断しているのであ
り,阻害事由がないことのみを理由としているのではない。
(3)原告は,現在の技術水準において無線通信を採用している電子機器が存在
していることは容易想到性判断の根拠にならない旨主張する。しかし,審決は,周
知例1及び2を例示して「本件出願前の技術水準」において,無線通信を採用し,
ている電子機器が周知であることを認定しているのであり「現在の技術水準」に,
おける認定をしているものではない。
したがって,審決の判断に誤りはない。
2取消事由2に対して
原告の主張は,要するに「引用発明の固定電話(有線電話)にGPS機能を組,
み合わせることには阻害要因がある」ということである。。
しかしながら,審決において周知例3,4を例示して説明したように,本件出願
前に「GPS機能及びGPS機能から得られる位置座標データを相手に送信する,
機能を備えた携帯型無線電話装置」は周知となっており,当該周知のGPS機能及
びGPS機能から得られる位置座標データを相手に送信する機能は「公衆無線回,
」,線を利用する装置が備える周知の複数の機能の一つにすぎないものであるところ
当業者にとって装置の高機能化は当然に存在する課題であって,上記周知の機能を
,。装置に付加するか否かは顧客の要望やコストに応じて適宜決定し得る事項である
したがって,引用発明の通信媒体が有線であるか無線であるかにかかわらず,当
該周知の機能を公衆無線回線利用装置(例えば携帯無線電話機)に追加して備える
,,ように構成する上での阻害要因は存在せず所望に応じて適宜なし得ることであり
審決の判断に誤りはない。
3取消事由3に対して
審決は,周知の「GPS機能及びGPS機能から得られる位置座標データを相手
に送信する機能を備えた携帯型無線電話装置」の相手方の装置が,送信側と同様な
「」,。機能を備えた携帯型無線電話装置であることも周知技術として説示している
そして,審決は,上記「相手方の装置が送信側と同様な機能を備えた『携帯型無
線電話装置』であることも周知技術であること」を検討した上で,念のため「阻害
要因は見当たらない」としているのであって,阻害要因が見当たらないことのみを
もって結論を導いているものではない。
したがって,原告の上記主張は失当であり,審決の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1本願発明の意義
(,,),(1)本願明細書甲14の41521の発明の詳細な説明及び図面には
次の記載がある。
「技術分野】【
本発明は,携帯型無線電話装置に関する(段落【0001)。」】
【発明が解決しようとする課題】
「…従来の情報装置では,携帯型無線電話装置と,携帯型コンピュータと,GPS利用
者装置とを持ち歩けば,個々の機能を活用することは可能であるが,相互を組み合わせて
それらを複合した機能を得ることができなかった。
本発明は,上記の問題を解決して,これらの個々の機能を複合させた機能を,実用的に
得ることを目的とする(段落【0005)。」】
「これによると,携帯型無線電話装置の現在位置,換言すれば,携帯型無線電話装置を
所持するユーザの現在位置の情報を,ユーザからの指示に従って,ユーザが指定する外部
の携帯型無線電話装置に伝達することができる(段落【0007)。」】
【図1】パーソナルコミュニケータ1の斜視図
(2)上記記載及びその他本願明細書の記載によれば,本願発明は,無線通信手段
を介して公衆通信回線経由で外部装置とのデータ通信等を行う携帯型無線電話装
置,携帯型コンピュータ及びGPS利用者装置の機能を複合させた機能を実用的に
得ることを目的とした発明であって,これらを複合させ,GPS利用者装置により
得た座標データを外部の携帯型無線電話装置に送信することで,ユーザの現在位置
を他者に伝えることができるという効果が得られるものと認められる。
2引用発明の意義
(1)引用例(甲1)には,次の記載がある。
「技術分野〕〔
本発明は,データ通信機能をする情報処理装置に関するものである(1頁左下欄16。」
行∼18行)
「従来の技術〕〔
従来,この種の装置として,CRTの表示部を有しファクシミリ通信機能,ワープロ機
,。」能パーソナルコンピュータのデータ処理機能等の複合機能を有する装置が知られている
(1頁左下欄19行∼右下欄3行)
「発明が解決しようとする課題〕〔
他方,近年では,ラップトップタイプのワープロが普及しつつある。しかしながら,上
述した様な複合装置をラップトップタイプにした場合に,従来の表示構成では表示部を閉
じた状態ではオペレータが表示を見ることができない。特に上述の複合装置では,ファク
シミリ通信を行うので,このファクシミリ通信については常時動作可能な状態にする必要
がある。しかし,従来の表示構成では,表示部が閉じられた状態でファクシミリ通信が行
われると,オペレータが認識できないという問題がある(1頁右下欄6行∼17行)。」
(2)上記記載及びその他の引用例(甲1)の記載によれば,引用発明は,有線
で公衆通信回線に接続され(14頁右下欄8行∼10行,電話機能(12頁右上)
欄14行∼16行,ファクシミリ通信機能,ワープロ機能,ワープロ機能で作成)
したファイルの送信機能(16頁左下欄10行∼14行,パソコン通信機能(1)
2頁左下欄3行∼7行)等の複合機能を有する情報処理装置であって,装置をラッ
プトップ型にすることを前提とした技術であることが認められる。
3取消事由1(相違点1に関する判断の誤り)について
(1)原告は,引用発明の課題は通信手段の無線化とは関係がなく,これを考慮
すると,引用発明について通信手段を無線化する動機付けがない旨主張する。
しかし,原告主張の課題,すなわち,引用例の複合装置をラップトップとした場
合における動作状態の確認に関する課題は,あくまで引用例の特許請求の範囲に記
載された限度での解決課題にすぎず,通信手段を無線化する構成とは次元が異なる
から,無線化の構成を採用することの妨げにはならない。
原告の上記主張は採用することができない。
(2)原告は,審決が,容易想到性の判断において動機付けの根拠や示唆につい
て何ら示さず,阻害事由が見当たらないことのみを理由にして結論を導いたことは
誤りである旨主張する。
しかし,周知例1(甲8)の特許請求の範囲【請求項1】の記載や発明の詳細な
説明段落【0008】の記載によれば「公衆通信回線に無線によって接続され,,
該公衆回線を経由して音声あるいはデータの発信又は受信を行う無線通信手段を備
えた携帯型電話装置」は,本件出願日とされる日(平成5年3月30日)において
周知の技術であったと認められる。
そして,上記2で認定した内容によれば,引用発明は,ラップトップ型を前提と
する複合装置に関する発明であって,ラップトップ型の装置については,一般に持
ち運びによる使用場所の変更も想定されているといえるから,装置の移動・携帯に
関する示唆があるといえる。また,引用発明は,電話機能,パソコン通信機能等の
複合機能を有する装置であって,公衆通信回線を介して音声及びデータの送受信を
行う点で上記周知技術と共通するところ,これらの構成は,公衆通信回線へ接続さ
えされれば機能が発揮されるのであって,接続態様が有線か無線かに関わらないか
ら,接続態様を有線とするか無線とするかは当業者が適宜選択することができる事
項といえる。
したがって,そのような引用発明に上記周知技術を適用して,引用発明の「通信
手段」を「無線通信手段」とし「データ通信機能付電話装置」を「携帯型無線電,
話装置」とすることは,当業者であれば適宜なし得る事項であるといえるのであっ
て,相違点1に関する審決の判断に誤りはない。
(3)原告は,審決が現在の技術水準に基づいて周知技術を認定した旨主張する
が,周知例1(甲8)は,公開日が平成5年2月5日の公開特許公報であって,本
願発明の進歩性判断の基準となる平成5年3月30日より前に公開されたものであ
る。この点に関する原告の主張は理由がない。
4取消事由2(相違点2に関する判断の誤り)について
(1)原告は,審決が相違点2についても容易想到性に関する根拠を示していな
いと主張する。
しかし,上記2で認定したとおり,引用発明は,電話機能,ファクシミリ通信機
,,,能ワープロ機能パソコン通信機能等の機能を複合した情報処理装置であるから
複合させる機能を追加することにより利便性を向上するという課題は,明示されて
いなくても当然に認識される自明の課題であったといえる。また,上記3で説示し
たとおり,引用発明は,ラップトップ型を前提とする技術であって,移動・携帯に
関する示唆があるといえる。
そして,周知例3(甲12)の2頁右上欄1行∼10行の記載や,周知例4(甲
13)の段落【0001【0016】及び【0018】の記載などからすると,】,
音声及びデータの送受信が可能な携帯型無線電話装置に付設されたGPS装置によ
り特定された現在地点の座標を表す座標データを,携帯型無線電話装置の送信デー
タとすることや,座標データを入力する座標データ入力手段を携帯型無線電話装置
に設けることは,本件出願日とされる日(平成5年3月30日)において周知技術
であったと認められる。
したがって,上記のGPS装置に係る周知技術を引用発明に付加して,引用発明
の「データ」を「携帯型無線電話装置の筐体に保持された又は当該筐体外のGPS
利用者装置により特定された現在地点の座標を表す座標データ」に「データ入力,
手段」を「座標データを入力する座標データ入力手段」にすることは,当業者にと
って容易に想到し得たといえるのであって,相違点2に関する審決の判断に誤りは
ない。
(2)原告は,引用発明について,固定電話(有線電話)を前提としており,移
動体となるものではないから,変化しない現在地点の座標を入力することに意味は
なく,引用発明にGPS利用者装置に係る技術を組み合わせることの阻害事由があ
る旨主張する。
しかし,上記2で認定したとおり,引用発明は,ラップトップ型の装置を前提と
しており,ラップトップ型の装置については,これを移動させ,異なる場所に設置
することも予定されているものと認められるから,異なる設置場所の座標データを
送信することの技術的意義はある。原告の上記主張は採用することができない。
(3)さらに,原告は,本願発明における「送信指令のデータ」及び「送信制御
手段が送信するデータ」についても「座標データ」である点で引用発明とは異なっ
ていると主張する。しかし,引用発明に上記GPS利用者装置に関する周知技術を
付加すれば,送信に関係するデータも必然的に「座標データ」となるのであって,
原告の上記主張は採用することができない。
5取消事由3(相違点3に関する判断の誤り)について
原告は,相違点3についても,審決が阻害要因がないことのみを理由に容易想到
性を判断したことは誤りである旨主張する。
しかし,引用発明について複合する機能を追加することが自明の課題であること
や移動・携帯に関する示唆があること,また,携帯型無線電話装置にGPS利用者
装置を付設することが周知技術であることは,上記4で説示したとおりである。そ
して,周知例3(甲12)の2頁右上欄1行∼3行の記載では「移動体」間で所,
在位置の送信を行うこととされているのであるから,GPS利用者装置により求め
られた座標データの送信先を「移動体」すなわち「外部の携帯型電話装置」とする
ことも,本件出願日とされる日(平成5年3月30日)における周知技術であった
と認められる。
したがって,引用発明に上記周知技術を適用して,引用発明の「外部の装置」を
「外部の携帯型無線電話装置」とすることも,当業者にとって想到容易であるとい
えるのであって,相違点3に関する審決の判断にも誤りはない。
第6結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。よって,原告の請求
を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
清水節
裁判官
古谷健二郎

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