弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役2年及び罰金50万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日
に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。
名古屋地方検察庁豊橋支部で保管中の銀色ハードディスク1台(平
成30年領第28号符号1-2)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成25年10月1日から平成29年6月27日までの間,切削工具
等各種機械工具等の製造販売等を目的とするA株式会社の従業員として同社技術セ
ンターB室において勤務し,同社が管理する営業秘密が記録され,同社が管理する
営業秘密記録媒体として構築されたコンピューターネットワーク内のデータベース
にアクセスするための識別符号及び同データベース内に電磁的記録として蔵置され
た同社の営業秘密を閲覧し,ダウンロードするなどの権限を付与されるなどして,
同社から営業秘密を示されていた者であるが,不正の利益を得る目的で,その営業
秘密の管理に係る任務に背き,平成29年2月9日,愛知県豊川市ab丁目c番地
の同社Bセンターにおいて,同社から貸与されていた業務用パソコンを操作して,
あらかじめ同データベースにアクセスしてダウンロードして同業務用パソコンに保
存していた同社の営業秘密である別表記載の製品名Cの製品工作図52件等141
件の図面等の電磁的記録が含まれたフォルダを,同社が管理するサーバコンピュー
タのフォルダ内に記録し,情を知らない同僚が使用する別の業務用パソコンを操作
して,前記141件の図面等の電磁的記録が含まれたフォルダにアクセスし,同フ
ォルダを,同業務用パソコンに接続した被告人所有のハードディスク(名古屋地方
検察庁豊橋支部平成30年領第28号符号1-2)に記録して複製を作成する方法
により,同社の営業秘密を領得した。
(証拠の標目)
記載省略
(法令の適用)
罰条不正競争防止法21条1項3号ロ
刑種の選択懲役刑及び罰金刑を選択
労役場留置刑法18条
刑の執行猶予懲役刑につき刑法25条1項
没収
名古屋地方検察庁豊橋支部で保管中の銀色ハードディスク1台(平成30年領第
28号符号1-2)
刑法19条1項2号,2項本文(不正競争防止法違
反の用に供した物で被告人以外の者に属しない)
(量刑の理由)
本件は,被害企業の従業員であった被告人が,営業秘密である同社が取り扱う
製品の図面データ等141件を不正に領得した不正競争防止法違反の事案である。
本件犯行によって被告人が領得した情報は,被害企業の主力製品の工作図デー
タ等であり,これらが明らかになれば競合他社に利益をもたらし得るものである
から,被害企業にとってその重要性は高いといえる。被告人は,その重要性を認
識しながら,将来自らが事業を行う際,あるいは同業の元同僚から情報提供の依
頼があった際などに役立てたいと考え,アクセスを許可されていたデータベース
から収集してパソコン内に保存してあった上記データを,情を知らない同僚のパ
ソコンを操作するなどして私物のハードディスクに複製し,領得したものであっ
て,その動機は身勝手であり,本件は被害企業の信頼を裏切る悪質な犯行である。
もっとも,本件犯行により被害企業に実質的な損害が生じたと認めるに足りる証
拠はなく,その被害は抽象的なものにとどまっているとみるべきである。
その他の事情についてみると,被告人は,事実を認めて反省の態度を示し,今
後,被害企業から賠償の求めがあればできる限り応ずる旨述べている。また,妻
が被告人を監督する旨証言したことや,被告人には前科前歴がないことなどの事
情も認められ,これらは被告人が再犯に及ばないことを期待させる事情といえる。
以上を踏まえ,被告人に対しては,主文の刑に処してその刑事責任の重さを明
らかにするとともに,この種の犯行が経済的に引き合わないことを示した上,懲
役刑については,その執行を猶予するのが相当と判断した。
(求刑-懲役2年及び罰金50万円)
平成30年5月11日
名古屋地方裁判所豊橋支部
裁判官明日利佳
※別表は添付省略

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