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平成15年(ネ)第582号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成
14年(ワ)第3275号)(平成15年7月16日口頭弁論終結)
          判    決
       控訴人        A
       訴訟代理人弁護士   淵 上 貫 之
       同          中 條 嘉 則
       被控訴人       農林水産省共済組合
       被控訴人       B
       両名訴訟代理人弁護士 秋 山 昭 八
       同          泉   義 孝
       被控訴人       共立速記印刷株式会社
       訴訟代理人弁護士   津 川 哲 郎
          主    文
      原判決を取り消す。
      本件を東京地方裁判所に差し戻す。
          事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人らは,控訴人に対し,各自174万円及びこれに対する平成14年
2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 控訴人の被控訴人共立速記印刷株式会社(以下「被控訴人共立」という。)
外1名に対する前訴
 控訴人は,別紙第2目録(以下「前訴目録」という。)二記載の書籍,すな
わち別紙第1目録(以下「本訴目録」という。)1記載の書籍(甲1,以下「本件
著作物」という。)の著作権者の一人であり,被控訴人共立及び株式会社大川クラ
フト館(以下「大川クラフト館」という。)が前訴目録一記載の書籍,すなわち本
訴目録3記載の書籍(乙3,以下「前訴書籍」という。)の発行,頒布等の行為
が,控訴人の有する著作権ないし編集著作権(以下「本件著作権」という。)を侵
害するとして,被控訴人共立らに対し,各自,不法行為による損害賠償金180万
円の支払及び差止め等を求める訴訟(東京地裁平成5年(ワ)第15527号書籍
発行差止等請求事件,以下「前訴」という。)を提起した。前訴については,同庁
平成6年(ワ)第19283号書籍発行差止等請求事件及び平成7年(ワ)第27
86号反訴請求事件と併合審理された上,被控訴人共立らの前訴書籍700冊の印
刷,製本行為は,本件著作物の複製権(以下「本件複製権」という。)を侵害し,
同書籍の発行,販売,頒布行為は,本件複製権の侵害行為によって作成された物を
情を知って頒布する行為(以下「知情頒布行為」という。)として本件複製権を侵
害する行為とみなされるとして,控訴人の有する本件著作権の割合100分の4
8.52に基づき,被控訴人共立らに対し,各自,その損害賠償金6万7928円
及びこれに対する平成5年9月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害
金の支払を命ずる控訴審(当庁平成9年(ネ)第1885号書籍発行差止等,同反
訴請求控訴事件,平成10年(ネ)第2451号同附帯控訴事件)の判決(以下
「前訴判決」という。)がされ,同判決は確定した。
2 控訴人の被控訴人らに対する請求の要旨
 本件訴訟において,控訴人は,本件著作物の著作者であり,著作権者の一人
であるところ,本訴目録2記載の書籍(丙5,以下「被控訴人書籍」という。)は
本件著作物の一部を改変,複製したものであって,これらを印刷,出版する行為
は,本件複製権を侵害し,被控訴人書籍を販売,頒布する行為は,知情頒布行為と
して本件複製権の侵害行為とみなされ,また,これらを出版する行為は,本件著作
物の一部(表紙「-いざというときに-」の部分〔以下「副題部分」という。〕及
び「発刊にあたり」の部分〔以下「端書き部分」という。〕)を改変してその同一
性保持権(以下「本件同一性保持権」という。)を侵害し,かつ,控訴人の氏名を
表示せずに本件著作物を公衆に提供する行為としてその氏名表示権(以下「本件氏
名表示権」といい,本件同一性保持権と併せて「本件著作者人格権」という。)を
侵害すると主張して,被控訴人らに対し,各自,その損害賠償金174万円(本件
複製権の侵害に基づく損害144万円と本件同一性保持権の侵害及び本件氏名表示
権の侵害に基づく損害30万円の合計)及びこれに対する平成14年3月6日から
支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。
3 原判決の要旨
 原審は,①控訴人は,本件著作物の著作者であり,著作権者の一人である,
②被控訴人B(以下「被控訴人B」という。)は,平成5年3月当時,農林水産大臣
官房厚生課長であり,被控訴人書籍の端書き部分の文章を掲載した,③被控訴人共
立は,前訴書籍700冊のうち289冊を被控訴人書籍の様式(本訴目録2記載の
様式)に印刷,製本した,④平成5年3月,被控訴人共立は,被控訴人農林水産省
共済組合(以下「被控訴人組合」という。)に対し,上記③の289冊の被控訴人
書籍を1冊2000円,合計57万8000円で売り渡した,⑤前訴判決におい
て,被控訴人共立が被控訴人組合に売り渡したものと認定された289冊(以下,
前訴書籍のうちこの289冊を「前訴289冊」という。)が上記③の被控訴人書
籍であり,これ以外に被控訴人書籍の存在は認められない,⑥被控訴人組合が上記
③の前訴289冊を頒布したことは,控訴人に推認できたから,知情頒布行為によ
る損害について,遅くとも前訴第1審判決がされた平成9年3月31日までに,控
訴人はその損害及び加害者を知っていた,⑦前訴書籍は,その副題部分は,本件著
作物の「-いざというときに-」ではなく「-いざというとき編-」と記載され,
また,本件著作物に掲載されていた「発刊にあたり」という文章が掲載されておら
ず,控訴人の氏名が著作者として表示されていなかったから,上記改変及び氏名を
表示していないことによる損害について,遅くとも前訴第1審判決がされた同日ま
でに,控訴人はその損害及び加害者を知っていたと認定した上,次のとおり判断し
た。
(1)被控訴人共立に対する請求について
 前訴289冊分についての本件複製権の侵害に基づく損害賠償請求は,前
訴判決の前訴289冊分についての本件複製権の侵害に基づく損害賠償請求と訴訟
物が同一であり,前訴判決が認容した部分(前訴判決が前訴書籍700冊分の損害
賠償として認容した6万7928円の700分の289に当たる2万8045円及
びこれに対する附帯金の支払を請求する部分)に係る訴えは,訴えの利益がないか
ら却下すべきであり,その余の請求については,前訴判決の既判力により請求する
ことができず,また,前訴289冊以外についての本件複製権の侵害に基づく損害
賠償請求は,上記⑤のとおり被控訴人書籍は前訴289冊以外には存在が認められ
ないから理由がない。また,端書き部分の改変を理由とする本件同一性保持権の侵
害に基づく損害賠償請求は,被控訴人B名による端書き部分が,他の部分と明確に区
別され,被控訴人Bの氏名を明示して掲載されているから,本件同一性保持権の侵害
ということはできず,前訴289冊分についての副題部分の改変を理由とする本件
同一性保持権の侵害及び本件氏名表示権の侵害に基づく損害賠償請求は,上記⑦の
平成9年3月31日から3年の消滅時効期間の経過及び被控訴人共立の時効の援用
により消滅し,それ以外の部分は,上記のとおり書籍の存在が認められないから理
由がない。したがって,控訴人の被控訴人共立に対するその余の請求をいずれも棄
却すべきである。
(2)被控訴人組合に対する請求について
 前訴289冊分についての本件複製権の侵害に基づく損害賠償請求中,知
情頒布行為を理由とする請求は,上記⑦の平成9年3月31日から3年の消滅時効
期間の経過及び被控訴人組合の時効の援用により消滅し,複製を理由とする請求
は,同被控訴人は購入したのみで,複製をしたとまでは認められず,それ以外の部
分については上記のとおり書籍の存在が認められないから理由がない。また,端書
き部分の改変を理由とする本件同一性保持権の侵害に基づく請求は,上記のとおり
侵害ということはできず,前訴289冊分についての副題部分の改変を理由とする
本件同一性保持権の侵害及び本件氏名表示権の侵害に基づく損害賠償請求は,上記
⑦の平成9年3月31日から3年の消滅時効期間の経過及び被控訴人組合の時効の
援用により消滅し,それ以外の部分は,上記のとおり書籍の存在が認められないか
ら理由がない。したがって,控訴人の被控訴人組合に対する請求をいずれも棄却す
べきである。
(3)被控訴人Bに対する請求について
 前訴289冊分についての本件複製権の侵害に基づく損害賠償請求につい
ては,知情頒布行為を理由とする請求は,被控訴人Bは,公務員であって,その頒布
に関与したとしても,公権力の行使に当たり,その職務の遂行として関与したもの
であるから,個人として損害賠償責任を負うことはなく,それ以外の部分は,上記
のとおり書籍の存在が認められないから理由がない。したがって,控訴人の被控訴
人Bに対する請求をいずれも棄却すべきである。
 4 控訴人の主張
(1)被控訴人書籍(丙5)は,前訴書籍(乙3)と同一ではないから,被控訴
人共立に対する本件訴えが不適法であるとする被控訴人共立の主張は失当である。
  被控訴人共立が取得した前訴書籍700冊は,被控訴人組合に売り渡した
前訴289冊を含め,いずれも乙3の様式のものであり,丙5の様式のものではな
い。
(2)控訴人は,本件著作物(甲1)の著作者であり,著作権者の一人である。
(3)被控訴人らは,控訴人が本件著作物の著作権者の一人であることを知りな
がら,共同して,平成5年3月25日,被控訴人Bを著者,被控訴人組合を発行人と
して,被控訴人書籍1万部を印刷,発行し,被控訴人組合員らに頒布した。
(4)被控訴人書籍は,本件著作物の目次及び本文をそのまま複製したものであ
り,控訴人の本件複製権を侵害するものである。
  また,被控訴人書籍は,副題部分が,本件著作物の「-いざというときに
-」が「-いざというとき編-」に,端書き部分が,被控訴人Bの作成した文書に改
変され,著作者である控訴人の氏名が表示されておらず,控訴人の本件同一性保持
権及び本件氏名表示権を侵害するものである。
(5)被控訴人書籍は,1万部出版され,本件著作物の定価は1冊1440円で
あるから,控訴人の被った損害とみなされる利用料相当額は,発行部数1万に定価
1440円及び利用料率10%を乗じた144万円となる。
  また,被控訴人らによる本件著作者人格権の侵害行為による慰謝料の額
は,30万円が相当である。
(6)被控訴人書籍は,前訴書籍を含め,前訴目録一ないし七記載のいずれの書
籍とも相違するものである。
(7)控訴人は,平成12年9月6日,被控訴人組合の事務取扱者である農林水
産大臣官房厚生課に赴いた際,初めて被控訴人書籍の存在を知ったのであり,3年
の消滅時効期間は経過していない。
5 被控訴人共立の主張
(1)被控訴人書籍は,前訴書籍と同一であるから,控訴人の被控訴人共立に対
する本件訴えは,前訴の既判力に抵触し,不適法である。
  乙3の前訴書籍は,被控訴人共立が取得した前訴書籍700冊のうち,被
控訴人組合に売り渡した前訴289冊を除いた残りの411冊中の1冊であり,丙
5の被控訴人書籍は,被控訴人組合に売り渡した前訴289冊中の1冊であって,
前訴書籍の表紙部分,端書き部分及び奥付部分の原版用フィルムのみを一部変更
(修正)して別途作成し,大川クラフト館から交付を受けていた原版用フィルムの
双方を使用して印刷,製本したものである。
(2)控訴人が,本件著作物について,著作権の一部を有していることは認める
が,著作権全部を有しているものではない。また,本件著作物の端書き部分は,D
の著作に係るものであり,控訴人は,同部分についての著作権及び著作者人格権を
有しない。
(3)被控訴人共立は,平成4年12月ころ,大川クラフト館から,本件著作物
と目次,本文が全く同一の「だれでもできる在宅介護」という題号の書籍1000
冊の注文を受け,これに基づき,うち本訴目録3の様式に印刷,製本した411
冊,同2の様式に印刷,製本した289冊,合計700冊を,その代金として取得
し,同2の様式の289冊を被控訴人組合に売り渡したが,当時,大川クラフト館
が本件著作物の著作権及び著作者人格権を有していると信じていたものである。
(4)端書き部分については,控訴人は著作者人格権を有しておらず,また,他
の部分と明確に区別され,被控訴人Bの氏名が明示して掲載されているから,その変
更を本件同一性保持権の侵害ということはできない。
(5)被控訴人共立が被控訴人書籍を1万部出版したことはない。被控訴人書籍
は,前訴289冊である。
(6)前訴において,被控訴人書籍は証拠として提出されず,被控訴人共立は,
被控訴人書籍の体裁が前訴書籍の体裁と相違することに気付かなかったため,被控
訴人書籍の様式(本訴目録2記載の様式)に印刷,製本した289冊を含めた合計
700冊を,前訴目録一の記載により特定してしまったものである。
(7)被控訴人共立は,平成5年3月ころ,被控訴人書籍を被控訴人組合に販売
し,控訴人は,当時その事実を知っていたから,本訴請求に係る損害賠償請求権
は,平成8年3月31日の経過により3年の消滅時効期間が経過した。
  被控訴人共立は,本訴において,控訴人に対し,上記消滅時効を援用する
旨の意思表示をした。
6 被控訴人組合及び同Bの主張
(1)控訴人が本件著作物(甲1)の著作者であり,著作権者の一人であること
は知らない。
(2)被控訴人らが共同して被控訴人書籍(丙5)を印刷,発行したことは,否
認する。被控訴人組合は,被控訴人共立から,前訴289冊を購入したにすぎな
い。
(3)被控訴人書籍の端書き部分に被控訴人B名の「発刊にあたり」という文書が
記載されていることは認め,控訴人の本件複製権及び本件著作者人格権侵害の主張
は争う。
(4)控訴人の損害の主張は不知ないし否認する。
(5)被控訴人書籍は,前訴289冊である。
(6)被控訴人組合は,平成5年3月ころ,被控訴人書籍を被控訴人共立から購
入し,控訴人は,当時その事実を知っていたから,本訴請求に係る損害賠償請求権
は,平成8年3月31日の経過により3年の消滅時効期間が経過した。
  被控訴人組合は,本訴において,控訴人に対し,上記消滅時効を援用する
旨の意思表示をした。
第3 当裁判所の判断
 1 控訴人の被控訴人共立に対する訴えの適法性について
(1)被控訴人共立は,乙3の前訴書籍は被控訴人共立が取得した前訴書籍70
0冊のうち被控訴人組合に売り渡した前訴289冊を除いた残りの411冊中の1
冊であり,丙5の被控訴人書籍は前訴289冊中の1冊であって,被控訴人書籍
は,前訴書籍と同一であるから,控訴人の被控訴人共立に対する本件訴えは前訴の
既判力に抵触し不適法であると主張する。
(2)前訴判決(甲9)は,被控訴人共立及び大川クラフト館の前訴書籍700
冊の印刷,製本行為は本件複製権を侵害し,また,同書籍の発行,販売,頒布行為
は知情頒布行為として本件複製権の侵害行為とみなされるとして,控訴人の有する
本件著作権の割合100分の48.52に基づき,その損害賠償金6万7928円
及びこれに対する平成5年9月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害
金の支払を認容し,その余の請求を棄却した。
  ところで,前訴書籍は,前訴判決の「書籍一」であり,前訴判決は,同書
籍を前訴目録一記載の書籍として特定(前訴判決6頁2行目ないし3行目)し,同
目録記載のとおり,前訴書籍を,
「題号 だれでもできる在宅介護 いざというとき編
 編集 株式会社大川クラフト館・東京都在宅介護研究会
 発行・印刷 共立速記印刷株式会社
 発行日 一九九三年三月
 (検甲一〔注,前訴提出分〕のもの)」
であると特定している。また,被控訴人共立が,前訴書籍の原本であるとし
て提出した乙3には,表紙の題号として,「だれでもできる在宅介護-いざという
とき編-」と記載され,表紙及び背表紙の名入れはなく,奥付には,
「■監修・協力をいただいた方々
 ●基礎・実践編
 ・・・
 ●介護のこころ・工夫編
 ・・・
 ●いざというとき編
  A 東京都在宅介護研究会代表
 1993年3月 無断禁転載・複写
 編   集 株式会社大川クラフト館・東京都在宅介護研究会
 発行・印刷 共立速記印刷株式会社」
と記載されている。
 他方,被控訴人書籍は,本件訴状によれば,本訴の原告である控訴人は,
「題号    さしのべる手・ふれあう心
       だれでもできる在宅介護-いざというとき編-
 著者    B
 発行者   農林水産省共済組合
 初版発行日 平成5年3月25日」
であると特定し,控訴人が被控訴人書籍の写しであるとして提出した甲2に
は,表紙の題号として,「だれでもできる在宅介護-いざというとき編-」
と記載され,表紙及び背表紙には「農林水産省共済組合」の名入れがあり,
奥付には,
「■監修・協力をいただいた方々
 ●基礎・実践編
 ・・・
 ●介護のこころ・工夫編
 ・・・
 ●いざというとき編
  A 東京都在宅介護研究会代表
 1993年3月25日発行」
と記載されている。そして,被控訴人組合及び同Bが被控訴人書籍の原本であ
るとして提出した丙5は,甲2と,表紙の記載,表紙及び背表紙の名入れ,目次,
本文並びに奥付に至るまで,全く同一であるから,甲2は,丙5を複写したもので
あると認められる。丙5を乙3と対比して検すると,表紙,背表紙及び裏表紙が1
枚のコートした厚紙を折り曲げて形成されている点で同じであるが,丙5の表紙及
び背表紙の「農林水産省共済組合」の名入れは,乙3のものに後から判で押すなど
して付加したようなものではなく,題号等と同様に印刷されたものであって,丙5
の奥付部分も,当該頁のみを後に挿入して作り替えたというようなものでないこと
が明らかである。
 以上によれば,前訴判決が前訴目録一記載の書籍として特定した前訴書籍
は,乙3とは,特定のために引用された題号,編集者,発行・印刷者及び発行日の
すべてが一致するが,控訴人が本件訴状において被控訴人書籍として特定した事項
は,前訴書籍と題号が一致するものの,編集者,発行・印刷者及び発行日の記載は
一致せず,控訴人が被控訴人書籍の写しであるとして提出した甲2も,前訴書籍と
題号は一致するものの,表紙及び背表紙の名入れ並びに奥付の記載は一致していな
いことが明らかである。
 前訴判決は,「書籍一」ないし「書籍七」を前訴目録一ないし七記載の各
書籍として特定し,これらの書籍は,いずれも題号中に「だれでもできる在宅介
護」との部分を有する点において一致するが,題号中のその余の部分(副題部
分),表紙の名入れ,編集者,発行人,印刷者及び発行日等の記載の相違によって
区別している。したがって,前訴判決が,前訴書籍を前訴目録一記載の書籍として
特定している以上,上記のとおり,控訴人が本件訴状において,前訴目録に特定の
ために引用された事項のうち,題号以外の特定事項の記載を異なったものとして特
定した被控訴人書籍を,前訴判決において審理の対象とされた前訴書籍に当たるも
のということはできない。
 被控訴人共立は,乙3の前訴書籍は被控訴人共立が取得した前訴書籍70
0冊のうち被控訴人組合に売り渡した前訴289冊を除いた残りの411冊中の1
冊であり,丙5の被控訴人書籍は前訴289冊中の1冊であって,被控訴人書籍は
前訴書籍と同一であり,前訴において,被控訴人書籍は証拠として提出されず,被
控訴人書籍の体裁が前訴書籍の体裁と相違することに気付かなかったため,被控訴
人書籍の様式(本訴目録2記載の様式)に印刷,製本した289冊を含めた合計7
00冊を,前訴目録一の記載により特定してしまったものであると主張する。しか
しながら,同被控訴人は,前訴289冊が被控訴人組合に売り渡された平成5年3
月当時から,丙5の被控訴人書籍の存在を認識していたことがその主張自体から明
らかである上,前訴において,控訴人の「だれでもできる在宅介護 いざというと
き編」と記載のある書籍についての平成8年11月29日付け文書提出命令の申立
書(甲14)に対するものと認められる,被控訴人共立代表取締役C作成の同年12
月5日付け陳述書(甲13)には,「当社が取得した700冊は,文書提出命令申
立書の『文書の表示』の1乃至4のうちの1の本だけです」と記載さ
れ,上記申立書の「文書の表示」1には,
「題目    だれでもできる在宅介護 いざというとき編
 編集    株式会社大川クラフト館・東京都在宅介護研究会
 発行・印刷 共立速記印刷株式会社
 初版発行日 平成五年三月」
と記載されているのであるから,被控訴人共立が取得した前訴書籍700冊
は,被控訴人組合に売り渡した前訴289冊を含め,いずれも上記様式のものと認
められる。そうすると,丙5の被控訴人書籍が前訴289冊中の1冊であると認め
ることはできず,被控訴人共立の上記主張は,採用することができない。
(3)以上に検討したところによれば,本件訴訟において,控訴人が,本件複製
権の侵害行為を構成する対象書籍であるとした被控訴人書籍は,前訴書籍と同一で
あるということはできないから,控訴人の被控訴人共立に対する前訴289冊分に
ついての本件複製権の侵害に基づく損害賠償請求は,前訴判決の前訴289冊につ
いての本件複製権の侵害に基づく損害賠償請求と訴訟物が同一であるとした上,前
訴判決が前訴書籍700冊分として認容した6万7928円中,その700分の2
89に当たる2万8045円及びこれに対する附帯金の支払を請求する部分に係る
訴えは,訴えの利益がないとして却下した原判決は,誤りというべきである。そし
て,上記訴えにつき,更に弁論をする必要がないときに該当するということはでき
ないから,原判決中訴えを却下した部分は,これを取り消した上,民事訴訟法30
7条本文により原審に差し戻さなければならない。
2 控訴人の被控訴人共立に対する請求について
 被控訴人共立に対するその余の請求について,原審は,①前訴289冊分に
ついての本件複製権の侵害に基づく損害賠償請求中,前訴判決が認容した部分以外
の部分は,前訴判決の既判力により請求することができず,②前訴289冊分以外
についての本件複製権の侵害に基づく損害賠償請求は,被控訴人書籍は前訴289
冊以外には存在が認められないから理由がなく,③端書き部分の改変を理由とする
本件同一性保持権の侵害に基づく損害賠償請求は,被控訴人B名による端書き部分
が,他の部分と明確に区別され,被控訴人Bの氏名を明示して掲載されているから,
本件同一性保持権の侵害ということはできず,④前訴289冊分についての副題部
分の改変を理由とする本件同一性保持権の侵害及び本件氏名表示権の侵害に基づく
損害賠償請求は,平成9年3月31日から3年の消滅時効期間の経過及び被控訴人
共立の時効の援用により消滅し,それ以外の部分は,上記のとおり書籍の存在が認
められないから理由がないとして,請求をいずれも棄却した。しかしながら,上記
①,②及び④の判断は,被控訴人書籍が,前訴書籍と同一であることを前提とした
ものであり,その前提が上記のとおり失当である以上,誤りである。
また,③の判断は,端書き部分が他の部分と明確に区別されていても,同部分は被
控訴人書籍全体についての端書きであると認められるから,上記理由によっては,
その改変が本件同一性保持権の侵害に当たらないということはできず,誤りであ
る。
3 控訴人の被控訴人組合に対する請求について
 原審は,①前訴289冊分についての本件複製権の侵害に基づく損害賠償請
求中,知情頒布行為を理由とする請求は,平成9年3月31日から3年の消滅時効
期間の経過及び被控訴人組合の時効の援用により消滅し,複製を理由とする請求
は,同被控訴人は購入したのみで,複製をしたとまでは認められず,それ以外の部
分については上記のとおり書籍の存在が認められないから理由がなく,②端書き部
分の改変を理由とする本件同一性保持権の侵害に基づく請求は,上記のとおり侵害
ということはできず,③前訴289冊分についての副題部分の改変を理由とする本
件同一性保持権の侵害及び本件氏名表示権の侵害に基づく損害賠償請求は,平成9
年3月31日から3年の時効期間の経過及び被控訴人組合の時効の援用により消滅
し,それ以外の部分は,上記のとおり書籍の存在が認められないから理由がないと
して,請求をいずれも棄却した。しかしながら,上記①及び③の判断は,被控訴人
書籍が,前訴書籍と同一であることを前提としたものであって,上記のとおりその
前提を欠く以上,誤りであり,また,上記②の判断も,上記2の③の判断と同様の
理由により,誤りである。
4 控訴人の被控訴人Bに対する請求について
 原審は,①前訴289冊分についての本件複製権の侵害に基づく損害賠償請
求中,知情頒布行為を理由とする請求は,被控訴人Bは,公務員であって,その頒布
に関与したとしても,公権力の行使に当たり,その職務の遂行として関与したもの
であるから,個人として損害賠償責任を負うことはなく,②それ以外の部分は,上
記のとおり書籍の存在が認められないから理由がないとして,請求をいずれも棄却
した。確かに,公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについて,故
意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国がその被害者に対して
賠償の責に任ずるのであって,公務員個人はその責を負わないものと解すべきであ
る(最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁参
照)が,本件において,被控訴人書籍を被控訴人組合の組合員に頒布する行為は,
それ自体公権力の行使としての性質を有するものということはできないから,上記
①の判断は誤りである。また,上記②の判断は,被控訴人書籍が,前訴書籍と同一
であることを前提としたものであって,上記のとおりその前提を欠く以上,誤りで
ある。
5 以上のとおり,控訴人の被控訴人共立に対する請求中,原判決が訴えを却下
した部分以外の請求並びに被控訴人組合及び同Bに対する請求についての原審の判断
は,いずれも誤りであるから,原判決を取り消した上,控訴人主張に係る控訴人の
有する本件著作権及び本件著作者人格権の割合,被控訴人書籍の印刷,出版及び知
情頒布行為に係る事実等について更に弁論をする必要があるが,これを当審におい
て審理判断することは,当事者の審級の利益を失わせることになる。そして,上記
1のとおり,原判決中訴えを却下した部分は,これを取り消した上,民事訴訟法3
07条本文により原審に差し戻さなければならないところ,その審理は,上記の更
に弁論をする必要がある部分と争点が一部共通であるから,被控訴人共立に対する
請求中,原判決が訴えを却下した部分以外の請求並びに被控訴人組合及び同Bに対す
る請求に係る部分についても,これを原審に差し戻した上,審理させることが,審
級制度の趣旨及び訴訟経済にかなうものと認められる。したがって,同法308条
1項を適用して,これを原審に差し戻すべきである。
 6 よって,原判決を取り消した上,本件を原審に差し戻すこととし,主文のと
おり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
            裁判官   岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

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