弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決(但被告人A、同Bに対する不法入国幇助の点を除く)を破棄す
る。
     本件を原裁判所に差し戻す。
     被告人Cの本件控訴を棄却する。
         理    由
 検察官が陳述した控訴の趣意は原審検察官松尾一次作成の同趣意書に記載の通り
であり、弁護人牟田真(被告人Cの弁護人)が陳述した控訴の趣意及検察官の控訴
に対する答弁は弁護人大曲実形提出の同趣意書並答弁書及自己提出の同趣意書並検
察官提出の控訴趣意書に対する弁護人の主張と題する書面に記載の通りであるか
ら、何れもこれを引用する。弁護人山本彦助(被告人A、Bの弁護人)は検察官の
控訴は理由がないと述べた。
 検察官の控訴趣意第一、二点に付いて。
 関税法第七十四条第七十六条の密輸入罪の着手時期は日本に密輸入する目的を以
て領海外において同条所定<要旨第一>の貨物を積載した時と解すべきであるが同法
第七十五条の逋脱罪は前者とはその保護法益を異にする関係から貨物の
陸揚以前には未だ犯罪実行の着手はないものと解するを相当とする。(但し同条第
二項の予備罪の成立は別論)従つて原判決が同条の未遂罪の成立を否定したのは正
当であるが、起訴状を見ると被告人Cは韓国D港においてE丸に非鉄金属を積載
し、同港を出発し長崎県北松浦郡a町に輸入の上関税の逋脱を図ろうとしたが機関
故障の為下県郡b村F港に寄港したとあつて罪名として関税法第七十五条第二項を
掲げている。従つて訴因中には同罪の予備罪が含まれているのは勿論、右起訴状記
載の犯罪事実を仔細に検討すると右訴因中には同法第七十六条の罪も重畳的に含ま
れていると解すべきである。そうだとすれば原審が、これ等の点に付いて考慮を払
わず「未だ関税法第七十五条第二項の行為の着手の域に至らないものと認む」との
理由を附し、たやすく右訴因に対し無罪の言渡をなし、なお被告人A、同Bが被告
人Cが本邦に密輸入するの情を知りながらEで非鉄金属百五十二梱包を韓国D港か
らF港まで運搬したとの訴因(前記訴因と具体的事実同一)に付いても同一前提同
一理論に基き無罪の言渡をしたのは結局法令の解釈を誤り判決に影響を与えたもの
と云うべく本論旨は理由がある。 同第三点に付いて。
 出入国管理令第六十条で所謂乗員の出国に付、一般乗客と別異の取扱をしている
のは専ら、国際慣行と出入<要旨第二>国管理上の便宜とに基くものであつて、これ
を外にして乗員に特種の特権を認むべき根拠はない。従つて乗員と雖も
出入国港以外の港から出国し、又は犯罪等不法目的の為出国する場合においては右
の特権はなく、かかる場合一般乗客と同様旅券の所持、証印等の手続を履まない限
り乗員と雖も同法第七十一条の罰則の適用あるのは当然である。被告人A、同Bの
両名は元来船員(乗員)ではあるが密輸の目的を以て非出入国港から出国したもの
であるから一般乗客と同様旅券の所持、証印等の手続を経なかつた点に付、前示法
条の罰則に該ること勿論である。従つて右と反対の意見に基き、この点に付、無罪
の言渡をした原判決には判決に影響ある法令解釈の誤りありと云うべく、本論旨も
また理由がある。
 大曲弁護人提出の趣意書第一点牟田弁護人の同第二点付いて。
 被告人Cは旅券又は乗員手帳を所持しないで本邦に入国しようとして本邦に入国
したのであるから入国の地点が最初意図した甲地ではなく乙地であつたとしても又
入国地点の変更が船舶機械の故障によると否とに拘らず不法入国罪の成立すること
は勿論である。従つて本論旨は理由がない。
 大曲弁護人の同第二点に付いて。
 Gは本邦に密入国しょうとして本邦である長崎県下県郡b村F港に上陸したもの
であるから元来の目的地が本邦内の他の地点であつたか否かに拘らず不法入国罪の
成立すること明であり、従つて又これを幇助した被告人Cに同幇助罪の成立するこ
と勿論である。従つて本論旨も理由がない。
 牟田弁護人の趣意書第一点に付いて。
 所論のように仮にCはGの不法入国を希望していなかつたとしても、とにかく同
人が不法に本邦に入ることを知りながら自己の船舶に乗船せしめ本邦に上陸させた
以上不法入国帯助罪の成立すること勿論である。従つて本論旨は理由がない。
 右両弁護人の同各第三点に付いて。
 本件は前記の理由により原審に差し戻さるべきであるからして量刑不当の主張に
対する判断はできない。
 以上の理由により刑事訴訟法第三百九十七条に則り、原判決(前同)を破棄し、
同法第四百条本文により本件を原裁判所に差し戻す。
 被告人Cの控訴は同法第三百九十六条に則り、これを棄却する。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長判事 下川久市 判事 青木亮忠 判事 鈴木進)

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