弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 原判決中被上告人らの上告人A1に対する更正登記手続請求及び上
告人A2信用組合に対する右更正登記手続についての承諾請求に関する部分を次の
とおり変更する。
     1 上告人A1は、第一審判決別紙物件目録一記載の各物件に関し、被
上告人B1に対しては持分二一分の七について、同B2及び同B3に対しては各持
分二一分の四について、いずれも真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記
手続をせよ。
     2 上告人A2信用組合は、被上告人らに対し、第一審判決別紙物件目
録一記載の各物件について奈良地方法務局昭和五四年八月一五日受付第三一四二〇
号をもってされた根抵当権設定登記を、上告人A1の持分についての根抵当権設定
登記に改めるとの更正登記手続をせよ。
     二 上告人A1の右登記手続請求以外の請求に関する上告を却下する。
     三 訴訟の総費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 一 上告代理人宮崎乾朗、同板東秀明、同田中英行、同大石和夫、同玉井健一郎、
同辰田昌弘、同関聖、同塩田慶、同松並良、同河野誠司、同水越尚子、同下河邊由
香の上告理由について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属す
る証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実に基づい
て原判決の違法をいうものであって、採用することができない。
 二 職権により、被上告人らの上告人A1に対する更正登記手続請求及び上告組
合に対する右更正登記手続についての承諾請求について判断する。
 1 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。(1)第一審判決別
紙物件目録一記載の各物件(以下「本件物件」という。)は、昭和五四年当時、D
の所有に属するものであった。本件物件については、同年七月二六日受付により、
同日売買を原因とするDから上告人A1に対する所有権移転登記がされている。し
かし、実際には、Dと上告人A1との間には、本件物件について売買契約又は贈与
契約は締結されていない。(2)本件物件については、その後の昭和五四年八月一
五日受付をもって、債務者を上告人A1、根抵当権者を上告組合、極度額を三〇〇
〇万円などとする根抵当権設定登記がされている。(3)Dは、昭和五九年九月一
一日に死亡し、相続及びその後の持分譲渡により、本件物件について、いずれも同
人の子である上告人A1がその二一分の六の持分を、被上告人B1が二一分の七の
持分を、その余の被上告人らがそれぞれ二一分の四の持分を取得した。
 2 本件において、被上告人らは、上告人A1に対しては、Dから上告人A1に
対する右所有権移転登記について、これを昭和五九年九月一一日相続を原因とし同
上告人及び被上告人らの各持分を右のとおりとする所有権移転登記に改めるとの更
正登記手続をするよう求め、上告組合に対しては、右更正登記手続について承諾を
するよう求めているところ、原審は、Dと上告人A1との間において売買契約又は
贈与契約が締結された事実は認められないとして、これらの請求を認容した。
 3 しかし、被相続人の生存中に売買を原因として相続人の一人に対する所有権
移転登記がされた場合、被相続人の死亡後に、右登記を相続を原因とするものに改
めるとの更正登記手続をすることはできないものと解すべきである。けだし、右登
記がされた当時被相続人は生存中で、同人につき相続が開始することがあり得ない
のは明らかであり、右更正登記手続は、帰するところ、実体法上は生ずることのな
い物権変動を原因とする登記を行うものであって、これを認めることはできないか
らである。
 4 しかしながら、記録によれば、本件において、被上告人らは、登記簿上は上
告人A1の単独所有に係るものとして権利関係が表示されている本件物件につき、
被上告人ら各自の現在の持分に応じて右表示を是正するよう求めているにほかなら
ず、その請求が意図するところは、上告人A1に対する関係では被上告人ら各自の
持分についての真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続を、上告組合
に対する関係では本件物件全部についての根抵当権設定登記を上告人A1の持分に
ついての根抵当権設定登記に改めるとの更正登記手続を、それぞれ求めていると解
することができ、右各請求はいずれも理由があるものというべきである。したがっ
て、原判決中上告人A1に対する更正登記手続請求及び上告組合に対する右更正登
記手続についての承諾請求に関する部分は、主文第一項に記載のとおり変更すべき
である。
 なお、原判決中右登記手続請求以外の請求に関する部分について、上告人A1は
上告理由を記載した書面を提出しないから、同上告人の右部分に関する上告は、不
適法として却下することとする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    元   原   利   文
            裁判官    金   谷   利   廣

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