弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主文
被告人を懲役3年8か月及び罰金70万円に処する。
未決勾留日数中120日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算し
た期間被告人を労役場に留置する。
ポリ袋入り大麻草2袋(平成16年押第50号の1及び2),チャック付
ポリ袋入り大麻草1袋(同号の3)及びチャック付ポリ袋入り大麻樹脂1袋(同号
の4)を没収する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(犯罪事実)
 被告人は,
第1 営利の目的で,みだりに,大麻を輸入しようと考え,AことBと共謀の上,
大麻である大麻草約110.99グラム(平成16年押第50号の1及び2は鑑定
残量)を布製CDケース内に隠匿して包装し,平成16年1月21日(アメリカ合
衆国現地時間),これをアメリカ合衆国内から兵庫県篠山市a町b番地所在のC商
店あてに国際スピード郵便として発送し,同月25日(同国現地時間),同国アン
カレッジ国際空港において,D航空第19便に搭載させて同空港を出発させ,同
日,大阪府泉南市cd番地所在のE空港203番駐機場に到着させ,情を知らない
航空作業員をして,同機内から機外に搬出させて本邦内に持ち込み,もって,大麻
を輸入するとともに,同日,同所所在の大阪国際郵便局に到着させ,同月26日,
同郵便局内大阪税関大阪外郵出張所職員の検査を受けさせ,同月29日,日本郵政
公社職員をして,前記C商店に配達させ,もって,関税定率法上の輸入禁制品であ
る前記大麻草を輸入した。
第2 法定の除外事由がないのに,平成16年2月19日ころ,神戸市中央区e町
f丁目g番h号所在のパチンコ店「F」のトイレ内において,フエニルメチルアミ
ノプロパンの塩類を含有する覚せい剤結晶粉末約0.1グラムを水に溶かして自分
の身体に注射し,もって,覚せい剤を使用した。
第3 みだりに,平成16年2月20日午前2時18分ころ,神戸市中央区i通j
丁目k番l号付近路上において,大麻を含有する樹脂状固形物32.647グラム
(平成16年押第50号の4は鑑定残量)及び同乾燥植物細片5.4グラム(同号
の3は鑑定残量)を所持した。
(証拠の標目)
省略
(補足説明)
1 総論
 弁護人は,判示第1の大麻の営利目的輸入罪(大麻取締法違反)及び禁制品輸
入罪(関税法違反)について,①被告人は自己使用目的で大麻を輸入したのであっ
て営利目的で輸入したものではなく,他人に譲渡する場合にも利益を得る意図はな
かったのであるから,営利目的での輸入罪は成立しない,②大麻取締法上の大麻輸
入罪においても,関税法上の禁制品輸入罪と同様に保税地域等税関の支配・管理が
及んでいる地域を経由する場合には同地域外に搬出された時点において既遂に達す
ると解するべきであるところ,本件においては,いわゆるコントロールド・デリバ
リーが行われており,貨物が税関の実質的管理・支配内から搬出されたということ
はできないのであるから,大麻輸入罪及び禁制品輸入罪のいずれについても未遂に
とどまると主張する。
2 大麻輸入罪の営利目的について
 被告人は,アメリカに住むBとの間で,20万円を支払えば,その代金分であ
る4オンス(112グラム)の大麻のほか,代金後払分の8オンス(224グラ
ム)の大麻を合わせた12オンス分を被告人の指定先にアメリカから郵送してもら
う旨を約し,平成15年12月23日に手数料を含めて21万円を振り込んだとこ
ろ,平成16年1月24日ころ,被告人が受領を依頼していたGのもとに4オンス
ほどの大麻が届けられ,翌25日にこれをGから受け取った。そして,これに続け
て,同月29日に同様にして判示第1の大麻がGのもとに配送されたものである。
 また,被告人は,かねてより複数の者らに対して相当量の大麻を有償で譲渡し
ていたところ,被告人から大麻を購入していたHには1000円分上乗せして販売
している旨を告げたことがあり,また,被告人が前記のとおり大量の輸入に係る大
麻を受け取った後である平成16年2月には,IやJに対して1グラム当たり60
00円台で20ないし30グラムの大麻を売り渡した。
 さらに,被告人は,平成15年2月ころに仕事を辞めてからは蓄えや友人の会
社の手伝いなどをして生活していたと述べるが,相当額の借金も抱えていたとする
上,その蓄えについては多くを友人に貸しており,現時点においてすらその半額程
を返してもらっているに過ぎないと言うのであって,平成15年10月ないしは1
1月以降は安定した居住先があったともいい難い状況であり,また,そのような中
で大麻や覚せい剤を購入して使用するなどもしていたのであって,被告人の述べる
生活を前提にすると必ずしも生活に余裕があるとはいえない状況であったものとい
うことができる。
 このように,被告人は,かねてより大麻の有償譲渡を行い,これにより利益を
得ていた様子がうかがわれる中で,必ずしも余裕があるとは言い難い生活状況であ
ったにもかかわらず,相当額を拠出して個人で一時に使用することを主目的とする
にはいささか不自然な量の大麻をアメリカからの輸入という危険をおかしてまで入
手し,あるいは入手しようとし,その後,その購入額と比較すると相当に高い額で
他人に大麻を有償譲渡していたのであって,こうした事情に照らせば,被告人が自
ら財産上の利益を得ることを目的として本件大麻を輸入したことを優に認めること
ができる。
 これに対して被告人は,他人に大麻を譲渡するときには利益を上乗せしておら
ず,本件大麻も自ら使用するために輸入したものであり,前記のIやJに譲渡した
大麻は,輸入したものとは別の100グラム60万円で購入したものである旨を供
述するが,Iらに譲渡した大麻の入手元に関する供述は被告人の公判での弁解を踏
まえて検討してもその変遷経過等からして信用できず,前記の事情に照らせば,利
益を上乗せしていないとの供述も到底信じることはできない。
 そして,その他証拠上うかがわれる種々の事情に照らしても,営利目的を裏付
けこそすれ,これを否定するに足りるものはないのであるから,判示のとおり,被
告人が営利の目的をもって本件大麻を輸入したものと認めた次第である(なお弁護
人は,弁論において営利目的輸入への訴因変更が違法である旨も述べているが,被
告人の公判供述等に照らし検討しても,当該訴因変更請求を違法としなければなら
ないような事情まではうかがわれない。)。
3 大麻輸入罪(大麻取締法違反)が既遂に達しているか否かについて
 大麻取締法上の大麻輸入罪と関税法上の禁制品輸入罪は,同じ輸入に係る罪と
はいえ,立法趣旨や規定の構造も異なり,必ずしも同様に解さなければならないも
のではないところ,空港に着陸した航空機から大麻を取りおろすことにより本邦に
おいて大麻の濫用による保健衛生上の危害が発生する危険が生じているといえるの
であるから,その段階において大麻輸入罪は既遂に達したと解するべきであり(最
高裁昭和58年(あ)第1235号同58年12月21日第1小法廷判決・刑集37
巻10号1878頁),判示第1の大麻輸入罪が既遂に達していることは明らかで
ある。
4 禁制品輸入罪(関税法違反)は既遂に達しているか否かについて
 判示第1の大麻は,共犯者によりアメリカ合衆国から国際郵便によりC商店宛
に発送され,E空港の大阪国際郵便局内大阪税関大阪外郵出張所で開披検査等によ
り大麻であることが確認されたが,神戸税関と兵庫県警察により,いわゆるコント
ロールド・デリバリーを実施することとなり,尼崎郵便局から篠山郵便局を経て,
篠山郵便局員によりC商店に配達されたものである。このような場合,神戸税関職
員により大麻が発見された後も,共犯者の依頼に沿った郵便局員らの通常の業務の
遂行行為によって本件大麻がC商店への配達に至り,本邦に引き取られたものであ
るから,最高裁平成8年(あ)第814号同9年10月30日第1小法廷決定・刑集
51巻9号816頁に照らしても,本件禁制品輸入罪は既遂に達したと認めるのが
相当である。
(適用法令)
罰条
第1の行為
 大麻の営利目的輸入
刑法60条,大麻取締法24条2項,1項
 禁制品輸入刑法60条,関税法109条1項(関税定率法21条1項1
号)
第2の行為覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
第3の行為大麻取締法24条の2第1項
科刑上一罪の処理(第1の罪)
刑法54条1項前段(観念的競合),10条(重い大麻の営利目的輸入の罪
の刑で処断)
刑種の選択第1につき情状により懲役刑及び罰金刑
併合罪の処理刑法45条前段,懲役刑につき刑法47条本文,10条(刑及び
犯情の最も重い第1の罪の刑に加重)
未決勾留日数算入刑法21条(懲役刑に算入)
労役場留置刑法18条
没収大麻取締法24条の5第1項本文(第1及び第3の大麻),関税法118
条1項本文(第1の大麻)
訴訟費用の処理刑事訴訟法181条1項本文
(量刑事情)
 本件は,知人と共謀してのアメリカからの大麻の輸入,覚せい剤の自己使用及び
大麻所持の各事案である。
 大麻の輸入は,それまで大麻の密売等を行っていた被告人が,安くて良質な大麻
をアメリカから仕入れて販売し,相応の利益を得ようと目論んだ上で,他の者に代
金振込用の口座を開設させたり,大麻の受取人にさせたりし,できるだけ自らに捜
査の手が及びにくいようにして敢行したものであって,身勝手で悪質な犯行であ
り,輸入した大麻の量も100グラム余りと少なからぬ量に上っている。
 また,被告人は,20歳ころから大麻を,22歳ころから覚せい剤を使用するよ
うになり,一時これを止めていた時期はあるものの,平成15年2月ころからは再
び使用を開始する中で本件覚せい剤の使用や大麻の所持にも及んだというのであっ
て,違法薬物に対する常習的な関与も顕著に認められる。
 このように違法薬物に自らも染まるのみならず,これを拡散させようとした被告
人の刑責は重いといわざるを得ないが,被告人は自ら使用するために本件輸入大麻
を含む相当量の大麻を輸入しようとしたなどと不自然な弁解に終始している上,違
法薬物にかかわる知人らが周囲に多数いる様子もうかがわれ,今後の再犯も強く懸
念されるところである。
 そこで,輸入された本件大麻は税関通過時に発見され,その後はいわゆるコント
ロールド・デリバリーが実施されたことにより全量押収されていること,被告人が
当公判廷において反省の弁を述べていること,被告人には交通関係の罰金前科以外
に前科がないこと,被告人の父親が当公判廷において今後は被告人を同居させて監
督する旨を誓っていること,かつて被告人を雇用していた被告人の父親の友人が当
公判廷において再度被告人を雇用して監督する旨を誓っていることなど,被告人の
ために酌むべき事情も考慮の上,主文のとおり量刑した。
  平成16年11月24日
    神戸地方裁判所第1刑事部
           裁判官  小倉哲浩

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