弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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      主    文
 原決定を取り消す。
 本件競落は許さない。
 抗告費用は相手方の負担とする。
         事    実
 一 抗告人A代理人は、「原決定を取り消し、さらに、相当な裁判を求める。」
と申し立て、その理由として、つぎのとおり陳述した。抗告人Aは抗告人Bに対し
金六五〇万円を貸し付け、これを担保するため秋田地方裁判所昭和三五年(ヶ)第
八八号不動産任意競売事件の競売物件である別紙目録記載の不動産(以下本件不動
産という。)に順位六番の抵当権を設定している者であるが、同事件の昭和三六年
三月二三日午前一〇時の競売期日に相当価額の競買価額の申出がないときは抗告人
Aみずから競買価額の申出をする必要のあることを考え、友人Cに抗告人Aを代理
して競買価額の申出をなすことを委任し、実印を預託した。そこで、Cは、右競売
期日に競売場所である執行吏D役場に赴き、本件不動産について抗告人Aの名にお
いて四〇〇万円の競買価額の申出をなし、保証として金四〇万円を同執行吏に預け
た。ところが、同執行吏は右競買価額の申出は無効であるというので、Cは裁判所
構内のE司法書士に依頼し、持参した抗告人Aの実印をもつて委任状を作成し提出
しようとしたが、同執行吏はこれをも拒否し、右不動産について三〇〇万円の競買
価額の申出をした相手方を最高価競買人として呼び上げた結果、これにもとづき原
裁判所は相手方に対し競落許可決定を言い渡した。しかしながら、代理人が委任状
を提出し代理人の資格を表示して競買価額の申出をしても、代理人の資格を表示し
ないで本人の名でしても、委任が真実である限りは、両者に区別を設ける必要はな
い。仮に競買価額申出の代理権がなかつたとしても、後に本人によつて追認される
こともあり得るし、追認されないときは、代理人自身の競買価額の申出としてその
義務の履行を求めることもできると思われるから、競買人の資格に制限のない一般
不動産の競売においては代理権の有無を重要視する必要はない。要はできるだけ高
価に売却することが債権者および債務者の利益に合することであるから、競売機関
である裁判所も執行吏もその意図をもつて競売にあたるべきである。しかも、本件
の場合は、抗告人Aの申出価額と相手方の申出価額とは一〇〇万円の相違があり、
債権者および債務者に及ぼす影響が誠に甚大であるから、仮に形式上若干の不備が
あつたとしても、補正できる不備であれば、後に補正させることにして処理しても
よいと思われる。以上の次第で、D執行吏が相手方を最高価競買人としたのは違法
であり、したがつて、同執行吏の処置を支持した原決定も違法である。
 二 抗告人Bは、「原決定を取り消し、さらに、相当の裁判を求める。」と申し
立て、その理由として、つぎのとおり陳述した。秋田地方裁判所昭和三五年(ヶ)
第八八号不動産任意競売事件の昭和三六年三月二三日の競売期日に競売場所におい
て本件不動産について抗告人Aの代理人が抗告人Aの名において四百万円の競買価
額の申出をなし、保証として金四〇万円を執行吏に預けたところ、執行吏はこの申
出を一旦呼び上げ、これ以上の申出はないかと催告し、なければこれを最高価競買
申出とする旨告げた。ところが、相手方は、競売終局三〇秒前にいたり、右競買価
額の申出は本人がしたものではない旨異議を述べたので、執行吏は右代理人に委任
状の有無を尋ねたところ、同人は印鑑持参の代理人であるから、いつでも委任状を
作成提出できると答えたが、執行吏は委任状のない競買価額の申出は不当であると
して、右申出より一〇〇万円も安い三〇〇万円の申出をした相手方を最高価競買人
として呼び上げた。しかし、執行吏は抗告人Aの代理人が四〇〇万円の競買価額の
申出をした際同人が本人であるかどうかを確かめ、本人でなければ委任状の提出を
待ち、もし不備の点があればその補正を命ずべきであるにかかわらず、かような処
置をとらないで、相手方を最高価競買人と呼び上げたのは違法であり、これにもと
づく原決定も違法である。また、右手続は法律の定める売却条件にていしよくする
から、この点からいつても、原決定は違法である。
 三 相手方代理人は、「本件各抗告を棄却する。」との裁判を求め、抗告人等の
主張事実中、Cが抗告人Aを代理して競買価額の申出をなす権限があつたこと、C
が執行吏Dに対し委任状を提出しようとしたが、同執行吏がこれを拒否したことは
否認するが、その余の事実は認めると陳述した。
 四 立証として、抗告人A代理人は、当審証人Cの証言を援用すると述べた。
         理    由
 秋田地方裁判所昭和三五年(ヶ)第八八号不動産任意競売事件の昭和三六年三月
二三日午前一〇時の競売期日に競売場所においてCが本件不動産について抗告人A
の名において四〇〇万円の競買価額の申出をなし、保証として金四〇万円を執行吏
に預けたが、執行吏は同不動産について三〇〇万円の競買価額の申出をした相手方
を最高価競買人として呼び上げ、これにもとづき原裁判所は相手方に対し競落許可
決定を言い渡したことは抗告人Aと相手方との間に争いなく、本件記録によると、
右事件は株式会社秋田銀行の根抵当権にもとづく競売申立によるものであることを
認めることができる。
 抗告人AはCが右競買価額の申出について代理権限を有していた旨主張するの
で、この点について<要旨第一>判断する。担保権実行のための不動産の競売は公法
上の処分であつて、競買価額の申出は訴訟行為に準ずべきものであるか
ら、任意代理人が競買価額の申出をするについては民訴法第八〇条の準用があるも
のと解すべきである。それ故、任意代理人は代理権を証する書面を提出して競買価
額の申出をすることを要し、もしその書面を提出しないときは、代理権を真実有し
ているとしても、執行吏はこれを代理権のない者のした競買価額の申出として処理
すべきである。本件についてみると、Cが、右競買価額の申出の際、その代理権を
証する書面を提出したことはこれを認めるに足りる証拠がないから、同人が抗告人
Aの主張するように代理権を授与されていたとしても、執行吏としてはこの申出を
代理権のけん欠しているものとして処理するのほかはないものといわねばならな
い。
 さらに、抗告人AはCの競買価額の申出に形式上若干の不備があつたとしても、
後にこれを補正さ<要旨第二>せることにして処理してもよいと思われると主張す
る。競売法第三二条第二項において不動産の競売に準用される民訴法第
六七四条第二項は、「第六七二条第一号乃至第八号に掲げたる事項の一あるときは
職権を以ても競落を許さず但……第二号の場合に於ては能力若くは資格のけん欠が
除去せられざるときに限り」と規定しているところからみると、競売法は代理権の
けん欠ある競買価額の申出を必ずしも直ちに排斥することなく、事情によつては、
競落許否の裁判あるまで一時これを許容し追完を認め、その限りにおいては競売手
続における迅速、かつ、正確の要請を後退させる趣旨であることがうかがわれるか
ら、競買価額の申出に代理権のけん欠ある場合においてその補正を命じ一時その申
出を許容するについては民訴法第八七条、第五三条の準用があるものと解する。し
かして、民訴法第五三条の解釈上同条にいう「損害を生ずる虞」はけん欠ある当事
者側に存することを要するものとされているが、担保権実行のための不動産の競売
手続は物的責任の強制的実現の手続であつて、権利主張の当否の判断を審判の対象
とする訴訟手続とはその性質、構造を異にし、利害衝突の関係ある二当事者の対立
的関与を前提としないのであつて、これを従前の競買価額の申出に比し高価ではあ
るが代理権のけん欠ある申出がなされた場合についてみれば、その高価な申出を執
行吏が許容するかどうか、したがつて、より高価に売却されるかどうかについては
売却代金から弁済を受くべき担保権者および配当要求債権者(配当要求をした者を
含む。)ならびに、売却代金に残余があれば、その交付を受くべき競売物件所有者
は利害関係を共通にし、かつ、けん欠ある申出をした者と同一方向の利害関係を有
するから、民訴法第五三条の規定を代理権のけん欠ある競買価額の申出に準用する
にあたつては、「損害を生ずる虞」の有無は、けん欠ある申出をした側についてば
かりでなく、同人と同一方向の利害関係を有する者についてもしんしやくすべきで
ある。
 したがつて、執行吏は、競買価額の申出に代理権がけん欠している場合であつて
も、競落許否の裁判までに補正されることを期待でき、かつ、その申出を一時許容
しなければ遅滞のため前叙の意味における「損害を生ずる虞」があるときは、競落
許否の裁判時を越えない限度で相当の期間を定め補正を命じ、申出を一時許容する
とができる。そうして、一時許容するかどうかは執行吏の裁量に属するが、執行吏
の恣意に委ねられているのではなく、裁量には一定の限界があり、その限界を逸脱
して執行吏が競買価額の申出を一時許容しないときは、裁量権を濫用する違法な処
置であつて、その結果、この申出より低価な申出をした者を最高価競買人と呼び上
げ競売を終局する処分は、最高価競買人と呼び上げてはならない者を最高価競買人
と呼び上げるものであつて、競売法第三〇条、民訴法第六六六条第一項の規定に違
背するものといわねばならない。今本件をみるに、当審証人Cの証言および記録に
徴すると、執行吏はCが本件不動産について抗告人Aの名でした四〇〇万円の競買
価額の申出を一旦は許したが、競売終局予定の直前相手方から右申出をした者は抗
告人A本人ではないとの異議が出たので、Cは、抗告人Aから予め預つていた同人
の実印、同人あての競売期日通知書などを、執行吏に提示して抗告人Aの代理人で
あると主張し、もし委任状が必要であれば直ちに作成、提出する旨を申し出たが、
執行吏はこれを拒否してCの右申出を排斥し、これに次ぐ三〇〇万円の申出をした
相手方を最高価競買人と呼び上げ競売を終局したこと、当時右不動産の売却代金か
ら弁済を受くべき者は抗告人Aを含む六名の抵当権者と交付要求をした秋田県であ
り、その売却代金の残余の交付を受くべき者は同不動産所有者兼債務者である抗告
人Bであることは記録上明らかであることを認めることができる。そうすると、C
は前叙のとおりすでに四〇万円の保証を預託しているほか、委任状を直ちに成、提
出する意思がある旨表明し、その作成、提出の見込の確実性を示すため抗告人Aの
実印および競売期日通知書を執行吏に提示しているのであるから、競落許否の裁判
までに代理権のけん欠の補正を期待できること明らかであり、かつ、四〇〇万円の
競買価額の申出を一時許容しなければ遅滞のため損害を生ずるおそれのあることは
右認定事実から容易に認めることができるから、執行吏において民訴法第八七条に
おいて準用される同法第五三条にしたがい右申出について補正および一時許容の措
置を講ずるに必要な要件事実が存在していたものと認むべく、しかも、同申出が一
時許容されない場合に遅滞のため生ずるおそれのある損害についてみれば、抗告人
Aが競買の機会を失うこと自体により損害を受けるおそれがあることはもちろん、
この申出より一〇〇万円も安い次順位の三〇〇万円で競落されることになる結果、
本件不動産の売却代金から弁済を受けまたはその売却代金の残余の交付を受くべき
右認定の抵当権者、交付要求をした者、競売物件所有者のいずれかに生ずるおそれ
のある消極的損害が合算して一〇〇万円の多額に達すること明白であり、そのこと
は記録上容易に知りうることであるから、執行吏はこの損害の発生のおそれを十分
認識していたものと認むべく、他方右四〇〇万円の申出を一時許容する場合に、万
一代理権のけん欠が補正されない事態が生じたとしても、これにより生ずるおそれ
のある競売の費用の増加および換価の遅延にもとづく損害は、右消極的損害に比
し、きわめて僅少であるというべく、このことも競売の実施にあたる執行吏として
は当然知つていたものと推認される。かような場合には、執行吏が右四〇〇万円の
申出について民訴法第八七条において準用される同法第五三条にしたがい補正およ
び一時許容の措置を講ずることはなに人も等しく期待するところであるというべ
く、それにもかかわらず、執行吏がそのような措置をとることなく、四〇〇万円の
申出を直ちに排斥したのは、著しく不当で公正を欠き、裁量の限界を逸脱する処置
であつて、裁量権を濫用する違法のものと断ずべきである。
 したがつて、その結果、三〇〇万円の申出をした相手方を最高価競買人と呼び上
げ競売を終局した執行吏の処は、競売法第三〇条、民訴法第六六六条第一項に違背
し、これにもとづく原決定は競売法第三二条第二項、民訴法第六七二条第七号に該
当する違法なものであつて、取消を免れないから、右抗告人Aの主張は理由があ
る。
 よつて、抗告人Bの主張に対し判断を加えるまでもなく、原決定を取り消し、本
件競落は許さず、原裁判所においてさらに新競売期日を定むべきものとし、主文の
とおり決定する。
 (裁判長裁判官 林善助 裁判官 石橋浩二 裁判官 佐竹新也)
(別紙)
         目   録
 秋田市a町b番地のc
  家屋番号同所d番のe
 木造亜鉛メッキ銅板ぶき二階建店舗    一棟
   建 坪    二四坪四合四勺
   外二階    二四坪四合四勺
                         以上

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