弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人洪性模ほかの上告受理申立て理由第4について
1本件は,上告人が,上告人及び被上告人を含む7名を債権者,Aを債務者,
宝塚市を第三債務者とする大阪地方裁判所堺支部(以下「堺支部」という。)平成
19年(リ)第129号配当等手続事件につき同年3月28日に作成された配当表
(以下「本件配当表」という。)の変更を求める配当異議事件である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)アBは,平成16年2月23日,堺支部に対し,Aを債務者,宝塚市を第
三債務者とし,請求債権及び差押債権を次のとおりとする債権差押命令を申し立
て,同月24日,同命令が発令された。
(ア)請求債権大阪法務局所属公証人C作成の平成14年第777号金銭消費
貸借契約の執行力ある公正証書正本に記載された元金,利息及び遅延損害金並びに
執行費用合計5510万8326円
(イ)差押債権違法な仮処分命令の申立て等を理由とするAの宝塚市に対する
損害賠償債権(以下「本件損害賠償債権」という。)のうち上記請求債権の金額に
満つるまでの部分
イBは,平成17年3月30日,堺支部に対し,Aを債務者,宝塚市を第三債
務者とし,請求債権及び差押債権を次のとおりとする債権差押命令を申し立て,同
月31日,同命令が発令された。
(ア)請求債権上記公証人作成の平成16年第1015号債務承認履行契約の
執行力ある公正証書正本に記載された元金及び遅延損害金並びに執行費用合計73
96万7393円
(イ)差押債権本件損害賠償債権のうち上記請求債権の金額に満つるまでの部

ウBは,平成17年5月13日,堺支部に対し,Aを債務者,宝塚市を第三債
務者とし,請求債権及び差押債権を次のとおりとする債権差押命令を申し立て,同
月17日,同命令が発令された。
(ア)請求債権上記公証人作成の同年第246号債務承認履行契約の執行力あ
る公正証書正本に記載された元金及び遅延損害金並びに執行費用合計4630万9
304円
(イ)差押債権本件損害賠償債権のうち上記請求債権の金額に満つるまでの部

エ上告人は,その後,上記アからウまでのBの差押債権者の地位を承継した。
オ上告人は,平成17年12月21日,堺支部に対し,Aを債務者,宝塚市を
第三債務者とし,請求債権及び差押債権を次のとおりとする債権差押命令を申し立
て,同日,同命令が発令された(以下,アからウまで及びオ記載の各債権差押命令
の各申立てを「本件各申立て」といい,本件各申立てに基づく各債権差押命令を
「本件各差押命令」という。)。
(ア)請求債権上記公証人作成の同年第638号債務承認履行契約の執行力あ
る公正証書正本に記載された元金及び遅延損害金並びに執行費用合計786万41
20円
(イ)差押債権本件損害賠償債権のうち上記請求債権の金額に満つるまでの部

(2)上記(1)アからウまで及びオ記載の各公正証書正本(以下「本件各債務名
義」という。)は,元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容
とするものであったが,堺支部では,第三債務者が遅延損害金の額を計算する負担
を負うことのないように,債権差押命令の申立書には,請求債権中の遅延損害金に
つき,申立日までの確定金額を記載させる取扱い(以下「本件取扱い」という。)
をしていたことから,本件各申立てにおいても,B及び上告人は,本件取扱いに従
って,請求債権中の遅延損害金を本件各申立てのされた日(以下「本件各申立日」
という。)までの確定金額とした。
(3)債権者である上告人及び被上告人を含む7名の間で,本件損害賠償債権に
対する差押えの競合が生じ,宝塚市が,民事執行法156条2項に基づき,本件損
害賠償債権の全額である4億8693万8104円を供託したことから,堺支部に
おいて配当手続が実施されることになった。
(4)堺支部は,上記配当手続の配当期日(以下「本件配当期日」という。)を
平成19年3月28日と指定し,上告人は,同月23日,堺支部に対し,本件各差
押命令につき,いずれも本件配当期日までの遅延損害金の額を記載した各計算書
(以下「本件各計算書」という。)を提出した。
(5)堺支部では,本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者が,
配当手続において,配当期日までの遅延損害金の額を記載した計算書を提出した場
合であっても,申立日の翌日から配当期日までの遅延損害金の額を配当額の計算の
基礎となる債権額に加えないで,上記債権者の配当額を計算する運用(以下「本件
運用」という。)をしていたことから,堺支部の裁判所書記官は,同月28日,上
告人の配当額について,本件各申立日の翌日から本件配当期日までの遅延損害金の
額を配当額の計算の基礎となる債権額に加えない本件配当表を作成した。
(6)上告人は,同日,本件配当表に記載された上告人の債権額及び配当額につ
いて不服があるとして,配当異議の申出をし,同年4月3日,本訴を提起した。
(7)上告人は,本件各申立てにおいて,本件取扱いに従って,請求債権中の遅
延損害金を本件各申立日までの確定金額としていても,本件損害賠償債権に対する
差押えの競合が生じ,本件各申立日の翌日から本件配当期日までの遅延損害金の額
を加えた本件各計算書を提出したのであるから,上記遅延損害金の額を配当額の計
算の基礎となる債権額に加えて計算された金額の配当を受けることができると主張
している(以下,この主張を「本件主張」という。)。
3上記事実関係の下において,第1審は,本件主張を採用して,被上告人の配
当額を減額し上告人の配当額を増額するように本件配当表を変更することを求める
上告人の請求を一部認容したが,被上告人がこれを不服として控訴した。原審は,
本件運用が実務上定着している現時点において,本件主張を採用すると,配当期日
までの遅延損害金の額を記載した計算書を提出しなかった他の債権者と,これを提
出した上告人との間で,不公平が生ずることになるなどとして,本件主張を排斥
し,上告人の請求を棄却した。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)金銭債権に対する強制執行は,本来債務者に弁済すれば足りた第三債務者
に対して,差押えによって,債務者への弁済を禁じ,差押債権者への弁済又は供託
をする等の義務を課すものであるから(民事執行法145条,147条,155
条,156条参照),手続上,第三債務者の負担にも配慮がされなければならな
い。債権差押命令の申立書に記載する請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定
金額とすることを求める本件取扱いは,法令上の根拠に基づくものではないが,請
求債権の金額を確定することによって,第三債務者自らが請求債権中の遅延損害金
の金額を計算しなければ,差押債権者の取立てに応ずべき金額が分からないという
事態が生ずることのないようにするための配慮として,合理性を有するものという
べきである。そして,元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内
容とする債務名義を有する債権者は,本来,請求債権中の遅延損害金を元金の支払
済みまでとする債権差押命令の発令を求めることができ,差押えが競合するなどし
て,配当手続が実施されるに至ったときには,計算書提出の有無を問わず,債務名
義の金額に基づいて,配当期日までの遅延損害金の額を配当額の計算の基礎となる
債権額に加えて計算された金額の配当(以下「債務名義の金額に基づく配当」とい
う。)を受けることができるのであるから(同法166条2項,85条1項,2
項),本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者は,第三債務者の負
担について上記のような配慮をする限度で,請求債権中の遅延損害金を申立日まで
の確定金額とすることを受け入れたものと解される。
そうすると,本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者であって
も,差押えが競合したために第三債務者が差押債権の全額に相当する金銭を供託し
(同法156条2項),供託金について配当手続が実施される場合(同法166条
1項1号)には,もはや第三債務者の負担に配慮する必要はないのであるから,通
常は,債務名義の金額に基づく配当を求める意思を有していると解するのが相当で
ある。
したがって,本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者について
は,計算書で請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額として配当を受ける
ことを求める意思を明らかにしたなどの特段の事情のない限り,配当手続におい
て,債務名義の金額に基づく配当を求める意思を有するものとして取り扱われるべ
きであり,計算書提出の有無を問わず,債務名義の金額に基づく配当を受けること
ができるというべきである。
(2)前記事実関係によれば,B及び上告人は,元金及びこれに対する支払済み
までの遅延損害金の支払を内容とする本件各債務名義に基づき,本件各申立てをし
たが,本件取扱いに従って,その請求債権中の遅延損害金を本件各申立日までの確
定金額としていたところ,本件各差押命令の差押債権である本件損害賠償債権に対
する差押えの競合が生じ,第三債務者である宝塚市は,民事執行法156条2項に
基づき,本件損害賠償債権の全額を供託したというのである。そして,更に前記事
実関係によれば,上告人は,本件配当期日までの遅延損害金の額を記載した本件各
計算書を提出したというのであるから,前記特段の事情のないことが明らかであ
り,上告人は,本件各債務名義について,債務名義の金額に基づく配当を受けるこ
とができるというべきである。
そうすると,本件主張は採用されるべきであり,これと異なる原審の判断には,
判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
(3)以上によれば,論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れ
ない。そして,前記説示によれば,本件主張を採用して,上告人の請求を一部認容
した第1審判決は,正当であるから,上記部分につき被上告人の控訴を棄却するこ
ととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官近藤崇晴)

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