弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却
する。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、
被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠の提出、援用および認否は、控訴代理人
において当審証人Aの証言を援用したほか、原判決の事実摘示(ただし、原判決五
枚目表四行中「証人B」は明白な誤記であるから、これを「証人B」と訂正す
る。)と同一であるから、これを引用する。
         理    由
 控訴人は、原審が控訴人・被控訴人間の秋田地方裁判所大曲支部昭和三四年
(タ)第三号離婚等、反訴昭和三六年(タ)第三号離婚等訴訟事件についてした離
婚請求および財産分与請求の認容等を内容とする判決に対し、<要旨>控訴をもつて
財産分与請求に関する部分の取消のみを求める。かような控訴を不適法とする見解
がある。しかしながら、人事訴訟手続法第一五条第一項は、離婚の訴と財産
分与請求とが密接な関係を有するところから、離婚の訴において当事者である夫婦
の一方から財産分与の申立があつた場合には、本来家事審判事項に属する財産分与
の請求の当否を、離婚の訴と同じく訴訟手続により、かつ、離婚の訴と同一の手続
で審理、判決して同時に解決すべき旨定めるもので、離婚訴訟の係属はこれと同一
訴訟手続で財産分与請求を審理、判決するについての適法要件をなすが、同一当事
者間における離婚請求および財産分与請求についてなされた一個の認容判決に対し
財産分与のみを不服とする控訴が提起された場合でも、同判決中離婚請求に関する
部分は、独立して確定することなく、控訴審に移審し、附帯控訴により現実に控訴
審の審判の対象となる可能性をも有し、財産分与請求に関する部分と同一時期に確
定することになるから、これにより右適法要件はみたされるものと解するのが相当
である。したがつて、前叙の本訴および反訴についてなされた一個の判決中財産分
与のみを不服とする本件控訴は適法であるといわねばならない。
 そこで、被控訴人の財産分与請求の当否について判断する。まず、当事者双方の
資産をみるに、公文書であることにより成立を認めうる乙第三号証の一、二、原審
における控訴人本人尋問の結果および被控訴人本人尋問の結果(第一、二回)を総
合すると、控訴人は昭和三一年七月か八月頃被控訴人の肩書任所に家屋および敷地
を代金三〇万円で買い求め、代金は同人の父から贈与を受けた約二七万円に自分の
手持金三万円を加えて支払い、その所有権を取得したが、婚姻破綻後である昭和三
四年七月頃これを他に売却したこと、被控訴人には資産というべきものはないこと
を認めることができ、原審および当審証人Aの証言中右認定に反する部分は措信で
きず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。被控訴人は右売却は仮装譲渡で
あると主張するが、その証拠はなく、また控訴人は右売却は借財返済のためのもの
であると主張するが、これに符号する当審証人Aの証言はたやすく措信できず、他
に右主張を認めるに足りる証拠はない。そうすると、特別の事情の認められない本
件の場合には、右売却代金は三〇万円以上であり、控訴人は現在もこれと同等の経
済的価値を保有しているものと推定するのが相当である。つぎに、婚姻中における
被控訴人の協力の程度をみるに、公文書であることによつて成立を認めうる甲第一
号証、原審証人Cの証言(第二回)によつて成立を認めうる乙第一号証、原審証人
Cの証言(第一、二回)、原審における控訴人本人尋問の結果および被控訴人本人
尋問の結果(第一、二回)を総合すると、控訴人と被控訴人とは昭和三〇年一一月
二〇日結婚式を挙げ、事実上の婚姻生活に入つたが、控訴人は失職中であつたため
父D方の農事の手伝をなし、被控訴人は理容師の免許を活用して父C方で理髪業を
営み、控訴人からなんらの仕送りをも受けることなく、自活してきた。昭和三一年
七月か八月頃双方とも前記家屋に移り住み同居生活を始め、被控訴人はここでも引
き続き理髪業を営み、控訴人はその頃一流の漁業会社に船員として就職した。その
後、被控訴人は、控訴人の留守を守りながら、長男E(昭和三一年九月七日生)を
養育し、理髪業による収入と控訴人から昭和三一年九月から同三三年七月までに送
金または交付を受けた約一五万円とをEとの生活費にあてたほか、右家屋を理髪店
に改造する費用七万三千円もこれから支出したことを認めることができるから、婚
姻生活にかける被控訴人の協力の程度は大きく、ことに、家庭生活の経済的基礎は
大部分被控訴人の財産取得能力に依存していたものといわねばならない。当事者双
方の生活状態および将来の見通しは、前掲乙第一号証、原審証人Cの証言(第二
回)、原審における控訴人本人尋問の結果および被控訴人本人尋問の結果(第二
回)によると、被控訴人は現在も依然として肩書住所でEを養育しながら、理髪業
を営んでいるが、その収入は従前に比し減少し、しかも早晩営業の場所を他に確保
しなければならない立場にあること、控訴人は前記会社に勤務し、昭和三四年五月
ないし七月当時は毎月給与収入から一万五千円を父Dあてに送金していることを認
めることができ、現在における控訴人の送金能力は右をかなり上回るものと推認さ
れる。以上の事情に本件婚姻破綻の経過および原因(この点は原判決五枚目表八行
から六枚目七行までの原判決理由記載と同一であるから、これを引用する。ただ
し、原判決五枚目裏一行中「同B」を「同B」と訂正する。)その他一切の事情を
総合し、控訴人をして被控訴人に財産分与をなさしめるべきであり、かつ、その額
は金二〇万円をもつて相当と認める。
 よつて、右と結論を同じくする原判決は相当であつて本件控訴は理由がないか
ら、民訴法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 林善助 裁判官 佐竹新也 裁判官 篠原幾馬)

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