弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、本訴につき、上告人らの被上告人B1に対する不当利得金の
返還およびこれに対する遅延損害金の支払の各請求を棄却した部分、ならびに、反
訴につき、被上告人B1の上告人A1に対する原判決添付別紙物件目録(一)の建
物部分の明渡および賃料相当の損害金の支払の各請求を認容した部分を、いずれも
破棄する。
     前項の各部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     本件その余の上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は、上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人大崎孝止の上告理由第一点について。
 原判決が適法に確定したところによると、(イ)被上告人B2は、被上告人B1
からその所有にかかる原判決添付物件目録(三)記載の宅地一〇三坪四合三勺九才
(以下「本件土地」という。)を賃借し、その地上に同目録(一)記載の家屋一棟
建坪三五坪六合六勺(以下「本件家屋」という。)を建築所有し、これを上告人A
1に賃貸中、昭和二三年二月初め頃、自分が当時上告人A2に賃貸していた別の家
屋を同人に明け渡させる緊急の必要が生じたため、上告人A1において本件家屋の
半分を明けてそこに上告人A2が移転居住することを上告人らに求め、その代償と
して本件家屋を上告人両名に贈与する旨を申し入れたところ、同月八日上告人両名
は右申入を承諾し、その頃上告人らは右約旨を実行したこと、(ロ)右贈与に際し、
これに伴う本件家屋の所有権移転登記に要する登録税その他の費用は、上告人らに
おいてこれを負担することとし、これを被上告人B2に対して支払うまでは右登記
を行わない旨を約したこと、(ハ)前記贈与契約により、本件家屋の所有権は上告
人両名に移転しているにもかかわらず、被上告人B2としては、右のように登記を
留保したことをもつて、登録税その他の登記費用の支払があるまで所有権の移転を
留保した趣旨に考えていたこと、(二)前記のように、本件家屋が上告人両名の所
有となるや、上告人らは本件家屋について各所有部分を区分するとともに、その敷
地たる本件土地についてもその使用部分を区分したが、その後間もない頃(ただし、
昭和二四年一月二四日よりは以前)、被上告人B2も、自分が責任を持つからと口
添して被上告人B1と交渉した結果、本件土地につき上告人らにおいて被上告人B
2に引き続き本件建物所有の目的をもつて被上告人B1から建物の各所有部分に応
じて区分賃借する旨の契約が成立し、とくに、上告人A2の右賃借について被上告
人B2が保証人となつたこと、(ホ)上告人らに所有権移転登記がなされるまでの
間の本件家屋に対する固定資産税等の公課は被上告人B2に対して賦課されるので、
右税金相当額の金員を上告人らにおいて同被上告人に支払うことにし、本件家屋の
賃料としては、上告人らは何人に対してもこれを支払わないことになつたこと、(
ヘ)被上告人B1は、本件土地賃貸借契約を締結して以来三回ほど上告人らとだけ
交渉して地代の値上をしてきたこと、(ト)ところが、前記贈与契約締結後九年有
余を経たにもかかわらず上告人らにおいて前記約定にかかる登記に要する登録税お
よびその他の費用を提供せず、かつ被上告人B1に対する本件土地の地代を滞るよ
うなこともあつて、昭和三二年六月被上告人B2において、上告人らの本件土地賃
借の際被上告人B1に対して責任を負う旨言明するとともに上告人A2のために保
証人となつていた関係上、合計一〇、〇二〇円(上告人A1の使用部分については
昭和三一年一〇月分から、上告人A2の使用部分については同三二年二月分から、
いずれも同三二年六月分までのもの)の延滞地代を上告人らに代つて被上告人B1
に支払うに至つたようなことから、被上告人B2は、上告人らにはもはや右約定の
登記費用提供の意思がないものと判断し、かつ上記(ハ)におけるような見解から、
本件家屋はなお自己の所有に属するものと考えていたので、その所有を継続して上
告人らのために迷惑を受けることを続けるよりも、他に売却するにしくはないと考
えた結果、それらの見解ないし衷情を訴えて、被上告人B1に本件家屋の買取方を
求めたので、これを信じた被上告人B1も、多年本件家屋が上告人らの所有にかか
るものと信じてきたのは誤りであつたかと驚くとともに、被上告人B2に同情した
結果、昭和三二年六月一八日本件家屋を同人の申出のままの代金一一万円で買い受
け、同日その所有権移転登記を了したものであること、以上の各事実が認められる
というのである。
 思うに、民法一七七条にいう第三者については、一般的にはその善意・悪意を問
わないものであるが、不動産登記法四条または五条のような明文に該当する事由が
なくても、少なくともこれに類する程度の背信的悪意者は民法一七七条の第三者か
ら除外さるべきである(最高裁昭和二九年(オ)第七九号、同三一年四月二四日第
三小法廷判決、民集一〇巻四号四一七頁参照)。しかし、本件においては、原判決
認定の前記事実関係からすれば、被上告人B1は、本件家屋が被上告人B2から上
告人らに贈与された事実を前提として積極的に上告人らと本件土地の賃貸借契約を
締結し、爾来九年余にわたつてその関係を継続してきた等前示(イ)ないし(ヘ)
記載の事実があるとしても、被上告人B1において被上告人B2の言を信じた結果
同人に同情して本件家屋を買い受けるに至つたものである等前示(ト)記載の事実
を考え合せれば、被上告人B1をもつていまだ民法一七七条の第三者としての保護
に値しない背信的悪意者とすることはできないと解するのが相当である。されば、
被上告人B1が本件家屋についての上告人らの所有権取得登記の欠缺を主張するに
つき正当な利益を有する第三者にあたるとした原判決は、結局において正当であり、
論旨援用の判例も本件と事案を異にして適切でない。原判決には所論の違法はなく、
論旨は採用するを得ない。
 同第二点について。
 原判決が確定した事実によると、上告人らと被上告人B1との間の本件土地につ
いての所論賃貸借契約は、右土地上に上告人らが本件家屋を区分してそれぞれ所有
することを目的としたものであるというのであるから、上告人らが右家屋の所有権
取得をもつて被上告人B1に対抗することができなくなつたとすれば、他に特段の
事情の認められない本件においては、右土地賃貸借契約は目的の不能により終了し
たものと解するのが相当である。また、不動産の二重譲渡がなされた場合において
は、一方の譲受人に対する譲渡人の債務は、特段の事情のないかぎり、他の譲受人
への所有権移転登記が完了したときに履行不能となるものと解すべきところ(最高
裁昭和三〇年(オ)第七二〇号、同三五年四月二一日第一小法廷判決、民集一四巻
六号九三〇頁参照)、本件において、原判決が認定した事実によれば、上告人らが
本件家屋につき所有権取得登記をしないうちに、被上告人B1において被上告人B
2からの売買に基づく所有権移転登記を完了したというのであるから、被上告人B
2の上告人らに負担していた贈与に基づく所有権移転登記義務が履行不能によつて
消滅したものとした所論原判示は、正当としてこれを是認すべきである。論旨は、
いずれも、理由がない。
 同第三点、第四点について。
 不動産の賃措人が賃貸人から該不動産を譲り受けてその旨の所有権移転登記をし
ないうちに、第三者が右不動産を二重に譲り受けてその旨の所有権移転登記を経由
したため、前の譲受人たる賃借人において右不動産の取得を後の譲受人たる第三者
に対抗できなくなつたような場合には、一たん混同によつて消滅した右賃借権は、
右第三者に対する関係では、同人の所有権取得によつて、消滅しなかつたものとな
ると解するを相当とする。
 本件において、前示上告理由第一点についての判断説示に掲記した原審認定の事
実関係に照らすと、昭和三二年六月一八日被上告人B1が本件家屋を被上告人B2
より買い受けてその旨の所有権移転登記を経由した時から、本件家屋のうち少なく
とも上告人A1の占有部分(原判決添付物件目録(一)の部分)についての同人の
賃借権は、被上告人B1との関係においては、消滅しなかつたものとして取り扱う
べきであつて、結局、被上告人B1は上告人A1に対する右賃貸人たる地位を当然
承継したものと解すべきである。
 しかるに、原審は、前記事実関係を認定しながら、上告人A1は被上土告人B2
より本件家屋の贈与を受けたことによつて同人との間の本件家屋賃貸借は混同によ
つて終了したから、被上告人B1が本件家屋の所有権を取得したことによつて該家
屋に関する賃貸借を承継するような余地は全くないものであると判示し、被上告人
B1の上告人A1に対する本件家屋のうち同人の占有部分に対する明渡および右部
分に対する賃料相当の損害金の支払を求める本件反訴請求を認容している。もつと
も、被上告人B1は、第一審以来、同人が昭和三二年六月一八日本件家屋を被上告
人B2より譲り受けて家屋賃貸人たる地位を承継したが、その後、上告人A1の家
賃不払に基づき該賃貸借契約を解除した旨を主張しているのに対し、かえつて、上
告人A1は、本件家屋の所有権取得のみを主張して被上告人の右主張を争つている
ことは記録上明らかであるが、上告人A1において原審で主張した事実関係からし
ても、また原審が認定した前記事実関係からしても、被上告人B1が前記のように
法律上当然に賃貸人たる地位を承継したものと解されるから、結局において、原審
にはこの点に関する法令の解釈適用を誤つたか、もしくはこの点について当事者に
なすべき釈明義務を怠り、その結果審理不尽ないし理由不備の違法を犯したものと
いわなければならない。そして、論旨のいうところ必ずしも明瞭ではないにしても、
原判決に右違法があるとの主張を包含する趣旨と解せられ、したがつて、右論旨は
理由があるものというべきであるから、原判決中被上告人B1の上告人A1に対す
る前記反訴請求を認容した部分については、その他の論旨についての判断をまつま
でもなく破棄を免れない。そして、前示事情からすれば、この点につきなお審理判
断を要するものと認められるから、右部分につき本件を原審に差し戻すことを相当
とする。
 つぎに、上告人A2が本件家屋のうち同人の占有部分(原判決添付物件目録(二)
の部分)については、被上告人B1の本件家屋の所有権取得以後なんらの占有権原
もないものとした所論原判示は、前示原判決認定の事実関係のもとにおいては正当
として是認すべきであり、被上告人B1において、所論のように、上告人A2に対
する賃貸人たる地位を承継した旨を自から主張しているとしても、右はいわゆる権
利自白にすぎないから、それによつて裁判所が拘束されるいわれはないし、その他
の上告人A2に関する論旨も、いずれも、独自の法律的見解に立脚して原判決を非
難するにすぎないから、採用に値しない。
 同第五点について。
 原判決が確定した事実によると、被上告人B1が昭和三二年六月一八日本件家屋
を被上告人B2より買い受けた後、上告人らに対し本件家屋の各占有部分に応ずる
所論賃料の支払を催告したところ、上告人らは、本件家屋の賃料として支払うべき
筋合ではないが賃料不払等とこじつけて家屋明渡の訴訟を起された場合の防禦方法
として支払をなすものであることをとくに表示したうえで、被上告人B1の要求す
る金額(昭和三二年六月一八日以降昭和三三年六月末日までの分として、上告人A
1において一箇月一、三九〇円の割合による合計一七、二八〇円、上告人A2にお
いて一箇月一、二七一円の割合による合計一五、八〇一円)を支払つたものである
というのである。
 しかるに、原判決は、別に上告人A1が本件家屋の贈与を受けたことによつて、
本件家屋の賃貸借関係は混同により消滅し、被上告人B1が右家屋を買い受けた後
もこの法律関係は変らないものと認定し、上告人らには所論賃料支払義務がなかつ
たことを前提としながら、被上告人B1が本件家屋の賃料名義で上告人らから支払
を受けた前記金員を不当利得として上告人らに返還すべき義務があるとみたところ
で、上告人らも被上告人B1に対し同額の損害賠償義務があるのであつて、しかも
本件においては、被上告人B1は上告人らに対しこの損害賠償義務の履行を求めて
いないので、かかる場合には、正義と公平を基調とする不当利得制度の律意に照ら
し、上告人らに不当利得返還請求権がないものと解するのが相当であるのみならず
上告人らの支払つた前記金員については、同人らは民法七〇五条によりその返還を
求めることができないものというべきであると判示していることは、所論のとおり
である。
 しかしながら、右判示にもあるとおり、被上告人B1は、上告人らが賃料名義で
支払つたのと同じ期間につき同額の賃料相当の損害金の請求権があることについて
は、なんらの主張も請求もしていないのに、正義と公平を基調とする不当利得制度
の律意だけから、ただちに右のような結論を導き出すことは到底首肯しうるもので
はない。また、前示事実関係のもとにおいては、上告人らは被上告人B1に対し、
賃料支払の義務はないが訴を提起されることを慮つて支払う旨留保の表示までして
いるのであり、このように債務の不存在を知つて弁済したことも無理からぬような
客観的事情の存する場合には、民法七〇五条は適用されないものと解すべきである
(最高裁昭和三〇年(オ)第八四七号、同三五年五月六日第二小法廷判決、民集一
四巻七号一一二七頁参照)。したがつて原判決は、明らかにこの点で法令の解釈適
用を誤つているものといわなければならない。
 以上の理由から、原判決中上告人らの被上告人B1に対する本訴不当利得に関す
る請求を排斥した部分を破棄し、右部分についてもさらに審理のため(なお、上告
理由第三、四点についての上記説示参照)本件を東京高等裁判所に差し戻すことが
相当である。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に
従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
 石坂修一裁判官は定年退官につき合議に参加しない。
         裁判長裁判官    横   田   正   俊

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