弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 A1電気鉄道株式会社上告代理人中筋義一の上告理由第一点(イ)、(ロ)、及
び同会社上告代理人中江源の上告理由第一点一、二について。
 所論は、原審が、源泉徴収票の記載及び遺族補償の金額から、Dの給与は日額二
五〇円として計算されていたものであることを認めながら、右は税務署に対する関
係における金額であるとし、他の証拠によつて右金額を上廻る給与の額を認定した
のは採証法上の違背または理由不備の違法があるのみならず、右認定は経験則に違
背するものであつて、いわゆる闇の給与を公認することとなり、脱税その他の社会
悪を助長し、雇傭関係における給与体系を混迷せしめ、ひいては労働法令上の法秩
序を破壊せしめる結果となるおそれがあるから、所得税法ないし労働者災害補償法
の解釈適用を誤つた違法があるというにあるが、源泉徴収票の記載及び遺族補償の
金額から逆算された所得者の給与の額は、給与額を認定する上の一資料たるに過ぎ
ず、証拠によつてこれと異る金額を認定することは何ら違法ではなく、この様に認
定したからといつて何ら所論の様に社会悪を助長するものではない。むしろ、所得
税の対象となした帳簿上の給与が、真実の給与と一致しない場合、源泉徴収票等か
ら逆算された額をこえる給与の支払が違法なのではなく、所得税の過小徴収の方が
違法なのであるから、その過小徴収額にもとづいて給与を認定することこそ避けな
ければならないのである。しかして原審挙示の証拠から所論指摘の原判示部分を認
めるに十分であるから、原判決に採証法上の違背、乃至は経験法則の違背ありとい
うことはできず、その他所論の如き法令の解釈を誤つた廉はない。また裁判所は、
証拠を排斥するにつき逐一その理由を示す必要はないから、原判決に理由不備の違
法ありということもできず、所論は理由がない。
 上告代理人中筋義一の上告理由第二点について。
 死者の活動年令期の認定は経験則にもとづく認定であり、乙第三号証ノ二の生命
表記載の有限平均余命の数値は、その性質上一般平均人としての有限的活動年令期
を示したものであること所論のとおりであるが、右数値は死者の活動年令期の確定
が一般的には困難であるとの事実に鑑み、活動年令期を六〇才までと仮定してこれ
を算出したものであるから、具体的な個々の場合において、特段の事情をも排斥し
て右数値が確定的なものとなるという積極的な意味を有するものではなく、裁判所
は、右生命表の数値如何にかゝわらず、死者の経歴、年令、職業、健康状態その他
諸般の事情を考慮して、自由な心証によつてその活動年令期を認定し得るものと解
すべきであるところ、原判決挙示の事実から、Dの活動年令期を六三才迄と認定し、
これに応じた可動年数の期待値を算出することも首肯できないことはないから、原
判決に経験則違背の違法ありということはできず、所論は理由がない。
 上告代理人中筋義一の上告理由第三点及び上告代理人中江源の上告理由第三点に
ついて。
 所論は、Dの本件貨物自動車乗車の行為は、昭和二二年内務省令第四〇号道路交
通取締令の規定に違反するものであるから、本件事故発生につきDにも過失がある
ものといわなければならないのに、Dに過失がないとしたのは、右道路交通取締令
及び民法七二二条の解釈適用を誤つたものであるのみならず、過失相殺の主張の判
断に際し、事故発生後の損害拡大の防止についての過失につき、その判断を遺脱し
た違法があるというのであるが、事故発生についての被害者の過失もまた損害の発
生を予見するか、または予見し得べかりしことを必要とするものと解すべきところ、
本件においてはDの乗車に際して、衝突事故の発生という事実は一般的に予見し得
べかりしところではなく、かつ又Dの乗車が、前記道路交通取締令三六条二項、三
八条の二に違反する行為であつたとしても、右法条は、これに違反する行為が、た
だちに自動車の衝突事故を惹起するおそれのあることを想定して設けられたものと
はいえないから、右法条違反の行為の故をもつて、ただちに本件衝突事故発生につ
きDに過失があつたものということはできない。しかしてDが、本件事故発生と同
時に即死したものであることは当事者間に争いがないから、損害が拡大したことに
対するDの過失を考える余地はない。よつて原判決には所論の如き法令解釈の誤り
及び判断の遺脱はなく、所論は理由がない。
 上告代理人中筋義一の上告理由第四点について。
 所論は要するに、本件衝突事故当時の被害者Dの立場、乗車位置等からすれば、
当然電車の進行を発見し、その事実を運転者に告げ危険防止の措置をとることがで
きた筈であるのに、これらの措置をとらなかつたこと、しかしてそれが同人の飲酒
による結果であることを理由として本件事故発生につきDにも過失があつたと主張
し、Dに過失を認めなかつた原判決を非難する。成程原審は、所論指摘のような事
実を認定してはいるが、それだからといつてただちに当時Dが酒に酔つていなかつ
たならば、本件事故を未然に防ぎ得たということはできないし、そもそも所論の如
き場合、Dについては過失の前提となるべき注意義務の存在を認めることができな
いから、原判決に所論の違法があるとはいえない。所論は理由がない。
 同第五点について。
 しかしながら原審は、証拠によつて、上告人A2貨物運輸株式会社はE蒲鉾工業
組合F支部から委託を受けて、かまぼこをFから大阪まで運送することとなつたも
のであり、被上告会社は右貨物の荷受機関にすぎず、右貨物自動車を同組合の専用
使用に供したものでもないとの事実を認定した上、Dの上告人A2貨物運輸株式会
社の運送に対する指揮監督の地位を否定したものであつて、右判示は首肯するに足
りる。所論はひつきよう原判示に沿わない事実を前提として原判決を攻撃するもの
で採用できない。
 上告代理人中江源の上告理由第二点について。
 労働基準法は、同法七九条に基き、使用者が遺族補償を行つた場合において、補
償の原因となつた事故が第三者の不法行為によつて発生したものであるとき、使用
者はその第三者に対し、補償を受けたものが、第三者に対して有する損害賠償の請
求権を取得するか否かについて何ら規定してはいないが、右のような場合において
は、民法四二二条を類推して使用者に第三者に対する求償を認めるべきであると解
するのが相当であるから、これと同趣旨に出た原判決は誠に正当であつて、所論の
違法ありとはいえない。
 A2貨物運輸株式会社上告代理人中塚正信の上告理由第一点ないし第三点につい
て。
 所論はいろいろと云うが、結局、上告会社A2貨物運輸株式会社は貨物運送が専
門かつ唯一の事業であつて、人は乗車させないのが事業の執行態様であるところ、
Dは運転者からその乗車を拒絶されたにもかゝわらず、ことさらに乗車したもので
あり、また仮に当時の運転者Gが右乗車行為を許したとしても、それは運転者が地
位権利を濫用してDの個人的利益を図つた行為であつて上告会社の事業執行そのも
のでもなく、これと関聯して一体をなし不可分の関係にたつものでもなく、従つて
Dの死亡は右上告会社の業務執行と原因結果の関係がないのに、原審が右上告会社
に民法七一五条の適用を認めたのは違法であるというに帰着する。しかしながら、
被用者が使用者の業務を執行中、第三者と意を通じてこれを事業執行の為の行為圏
内に入らしめ、そのために後に被用者の故意過失に因り第三者に損害を生じた場合
であつても、その第三者の圏内立入りが、被用者との個人的な関係に基づくもので
なく、被用者による使用者の業務の執行の一部あるいはその延長もしくはそれとの
密接な関係に基づくものと認められるときは、使用者は民法七一五条の責任を負う
と解するのを相当とするところ、本件事故発生当時貨物自動車の運転者G及びHの
両名がかまぼこを運送していたのが右上告会社の事業の執行であつたこと、右両名
が右上告会社の被用者であつたこと、Dは当時積荷の荷受機関である被上告会社の
集荷課長であつたこと、従つてDは―運送についての指揮監督の地位にこそなけれ
―貨物自動車に便乗していないと荷物の受渡しに不都合であるとの理由で運転者G
の承諾を得てその傍の座席に乗車することになつたものであること、以上の確定事
実によれば、Dが本件貨物自動車に便乗するに至つたのは運転者との個人的関係に
基づくものではなく、むしろ運転者による上告会社の業務の執行との密接な関係に
基づくものであつたと見るべきである。従つて右上告会社は、本件事故によるDの
死亡につき、損害を賠償すべき義務がある。この点で原判決が、「本件事故は、右
上告会社の自動車運転手の事業執行中に発生したものであるから、Dの乗車行為が
事業の執行に関係なくなされたものかどうかを問う必要はない」旨判示したのを非
難する第二点論旨は相当であるが、いずれにしても右上告会社が民法七一五条によ
る損害賠償の責を負うとする結論に変りはなく、原審の法令解釈の誤りは、判決主
文に影響を及ぼすものではないから、結局右論旨は採用することができない。なお
第三点所論指摘の原判決の判示部分は、事故発生当時の運転者がHであることを判
示したもので、Dの乗車当時の運転者がHであることを判示したものでないこと明
らかであつて、右は原判決の誤解に基づくものである。また、所論各引用の判決は
すべて本件に適切でない。よつて所論はいずれもその理由がない。
 同第四点について。
 本件記録中には、所論指摘の各供述及び書証の記載の存することは所論のとおり
であるが、本件の如く自動車運転者を雇入れて貨物運送の事業を営む者は、被用者
の選任監督につき高度の注意義務が要求されるべきところ、本件においては、所論
の事実があるからといつてそれだけでは右会社が運転者Hの選任監督につき相当の
注意をなしたものとは認められないし、その他記録上相当の注意をなしたことを認
めるに足る証拠は存しない。また、所論は本件は、相当の注意をなすも損害が生ず
べかりしときに該当すると主張するが、相当の注意をなすも損害が生ずべかりしと
きとは、使用者が注意をなさなかつたことと、損害の発生との間に因果関係のない
場合を意味するものであるところ、本件事故発生については、使用者たる前記上告
会社の注意の欠缺と損害の発生との間に因果関係がないとはいえないから、右主張
は理由がない。よつて所論は採用することができない。
 同第五点について。
 不法行為における被害者の過失を斟酌すると否とは裁判所の自由裁量に属するこ
とである(最高裁昭和三四年一一月二六日第一小法廷判決判例集一三巻一二号一五
六三頁参照)のみならず、本件において原審は被害者Dに過失のあつたことを認定
していないし、その認定は、上告代理人中筋義一の上告理由第三、四点についての
べた如く首肯し得るものであるから、原審が賠償額算定について所論の事実を斟酌
しなかつたからといつて所論の違法があるとはいえない。
 同第六点について。
 しかしながら原審認定のような諸事情のもとにおいては、Dが満六三才に達する
まで一ヶ月一万二千円の収入が継続するものと認定するのは首肯し得ないことでは
ないから、右認定が実験則に違背しているものということはできず、所論は理由が
ない。
 同第七点について。
 しかしながら所論の指摘する原判示部分は、直接被上告会社が代位によつて取得
すべき債権額の認定に使用されたわけではなく、Dの賃金額を認定判示するに当つ
てのあらずもがなの措辞に過ぎず、その点につき所論のような瑕疵があつたとして
も原判決に影響を及ぼすものでないこと明らかである。所論は採用できない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で主文
のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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