弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えのうち,別紙2授業目録記載の授業をする地位にあることの
確認を求める部分及び別紙3物件目録記載の研究室を使用する地位にあ
ることの確認を求める部分をいずれも却下する。
2原告が,平成28年3月24日付けで被告がした,原告に授業を担当
させず,幼児教育学科事務のみを担当させる旨の業務命令に従う義務の
ないことを確認する。
3原告が,平成28年3月24日付けで被告がした,別紙3物件目録記
載の研究室の明渡しを命じる業務命令に従う義務のないことを確認す
る。
4被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する平成28年5月2
6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の
負担とする。
7この判決は,第4項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1原告が,被告の開設する岡山短期大学において,別紙2授業目録記載の授業
をする地位にあることを確認する。
2原告が,平成28年3月24日付けで被告がした,原告を授業の職務から外
し幼児教育学科事務に職務内容を変更する業務命令に,従う義務のないことを
確認する。
3原告が,別紙3物件目録記載の研究室を使用する地位にあることを確認する。
4被告は,原告が別紙3物件目録記載の研究室を使用することを妨害してはな
らない。
5被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成28年5月26日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6原告が,平成28年2月22日付けで被告がした,別紙3物件目録記載の研
究室の明渡しを命じる業務命令に従う義務のないことを確認する。
7原告が,平成28年3月24日付けで被告がした,別紙3物件目録記載の研
究室の明渡しを命じる業務命令に従う義務のないことを確認する。
第2事案の概要等
1本件は,被告の設置する岡山短期大学(以下「本件短大」という。)の准教
授である原告が,被告に対し,
①別紙2授業目録記載の各授業(以下「本件各授業」という。)をする地
位にあることの確認(第1第1項。以下「本件確認の訴え1」という。),
及び,②被告が平成28年3月24日付けでした,原告に授業を割り当てず,
学科事務のみを担当させる旨の平成28年度の事務分掌に基づく業務命令
(以下「本件職務変更命令」という。)に従う義務がないことの確認(第1
第2項)を各求め,
①別紙3物件目録記載の研究室(以下「本件研究室」という。)を使用す
る地位にあることの確認(第1第3項。以下「本件確認の訴え2」という。),
及び,②被告がした,本件研究室の明渡しを命じる旨の業務命令(以下「本
件研究室変更命令」という。)に従う義務がないことの確認(第1第6項及
び第7項)を各求めるとともに,③原告が本件研究室を使用することについ
ての妨害予防(第1第4項)を求め,
本件職務変更命令は,原告に対するパワーハラスメントであり,被告が,
原告に対し,退職強要目的で本件職務変更命令及び本件研究室変更命令を行
ったこと並びに隔離・仲間外し・無視等を行ったことなどはいずれも違法で
あるとして,不法行為に基づき,慰謝料500万円及び弁護士費用相当損害
金50万円の合計550万円及び遅延損害金の支払(第1第5項)を求める
という事案である(金員請求に関し,遅延損害金の始期は,不法行為日後であ
る平成28年5月26日(平成28年5月24日付け訴えの変更申立書送達日
の翌日)であり,利率は民法所定の年5分の割合である。)。
2前提事実
当事者等
ア原告は,昭和40年1月1日生まれの女性であり,本件短大の専任准教
授である。
イ被告は,教育基本法及び学校教育法に従い教育を行うことを目的として
本件短大を設置運営する学校法人であり,被告の理事長及び本件短大の学
長は,A(以下「A学長」という。)である。
本件短大の概要等
ア本件短大は,幼児教育学科(以下「本件学科」という。)を設置する入
学定員100名,専任教員14名(教授7名,准教授3名,講師4名)の
短期大学である。本件学科の教育目標としては,①21世紀を生きる幼児
達が日本国民であるとともに「地球市民」であるよう教育指導するに,ふ
さわしい資質能力,②外国語によるコミュニケーション能力やコンピュー
タの活用能力,③幼児教育者としての使命感,幼児の成長及び発達につい
ての精深な理解,幼児に対する教育的愛情,教科などに関する専門的知識,
広く豊かな教養,そして,これを基礎とした実践的指導力,④幼児の発達
段階に鑑みて,家庭教育と幼稚園教育及び保育所との連携を十分に図るこ
とができる資質能力をそれぞれ有する保育者の養成が掲げられている。
本件短大の学生は,本件学科の教育課程を履修することにより,卒業と
同時に,保育士及び幼稚園教諭二種免許状の資格ないし免許を取得するこ
とができる(乙5,14)。
イ本件短大においては,学長の下に,教授会,FD(Facultydevelopment)
会議(以下「FD会議」という。)等が組織されており,教授,准教授,
講師の全ての教員が,教育・研究のみならず,全学的な教学マネジメント,
アドミッション・オフィス,入学前指導,新入生歓迎行事,私立大学教育
研究活性化設備整備事業,自己点検・評価報告,就職指導,生活指導,紀
要制作,卒業アルバム制作,シラバス制作,発表会,文部科学省免許更新
講習,倉敷市大学連携事業,救命救急講習,学友会事務運営,オープンキ
ャンパス実施,スイーツカフェ開催,行事記録,ボランティア指導,時間
割・試験日程作成及び試験監督,学外実習,子育てカレッジ事務局等の学
科事務を,本来的な職務としてそれぞれ分担している(甲15,乙17参
照)。
原告は,平成11年9月1日,被告との間で大学教員契約を締結し(以下
「本件教員契約」という。),本件短大の講師として採用された後,平成1
9年4月1日,本件学科の専任准教授に任じられたが,いずれの辞令にも科
目の限定は付されていなかった(甲2,3)。原告は,これまで,本件短大
の本件学科において,一般教養科目の生物学及び専門教育科目の環境(保育
内容),教職実践演習,卒業研究(A)(B)(以下,一括して「卒業研究」
という。),卒業予備研究等の科目を担当してきた。
原告は,遺伝性疾患である網膜色素変性症(以下「本件疾患」という。)
に罹患しているが,同疾患は,長い年月をかけて網膜の視細胞が退行変性し,
主に進行性夜盲,視野狭窄,羞明を認める病態のものである。
原告は,近年まで,夜盲及び視野狭窄は認められたものの,中心性視力は
維持され,文字の判読は可能であった。しかし,原告は,従前,事実上補佐
してもらっていた女性事務員が退職する予定となったことに加え,近年,本
件疾患が進行し,文字の判読が困難となったため,平成26年度以降,私費
によりB(以下「B」という。)を補佐員とし,その後は同人による視覚補
助を得て授業活動及び研究活動に従事していた。
被告は,平成28年2月5日開催のFD会議において,本件学科において
新たに教員を採用し,これまで原告が行ってきた授業を担当させる方針を固
め,同月24日開催の教授会の審議を経て,同年3月24日開催の新年度準
備会議において,同年度における授業計画及び事務分掌を正式に決定した
が,そこでは,原告は授業を担当せず,学科事務のみを担当することとされ
ている。
原告は,平成25年以降,本件研究室を使用していたところ,被告は,上
記⑸の決定に伴い,平成28年3月24日頃,原告に対し,研究室を本件研
究室からキャリア支援室に変更する旨指示したが,この研究室の変更につい
ては,これに先立つ同年2月23日,本件学科のC教授(以下「C教授」と
いう。)からも,電子メールで指示されていた。
3争点
本案前の答弁に係る争点
ア本件確認の訴え1につき,確認の利益があるか
イ本件確認の訴え2につき,確認の利益があるか
本案に係る争点
ア原告が本件各授業を担当する地位を有するか(就労請求権の有無)
イ本件職務変更命令の適法性
ウ本件研究室変更命令の適法性
エ原告が本件研究室を使用する地位を有するか
オ原告が本件研究室を排他的に使用する権利を有するか
カ被告が本件職務変更命令等をしたことが原告に対する不法行為を構成す
るか
4争点に関する当事者の主張
本件確認の訴え1につき,確認の利益があるか(争点⑴ア),及び原告が
本件各授業を担当する地位を有するか(就労請求権の有無)(争点⑵ア)に
ついて
〔原告〕
准教授は,学校教育法92条7項により,学生を教授し,その研究を指導
し,又は研究に従事するものとされており,憲法上学問の自由が保障されて
いることからしても,本件短大の専任准教授である原告には,当然に,授業
をする地位が認められる。また,本件教員契約には,原告が本件各授業を担
当する旨の合意が含まれていると解されるから,原告の授業をする地位は,
本件教員契約に基づくものであるともいえる。
そして,授業をする地位からは,授業計画を自ら立案する権利など様々な
権利が派生する。その地位確認は,本件の諸紛争を解決するのに有力かつ適
切な方法といえるから,本件確認の訴え1には確認の利益がある。
〔被告〕
大学においては,大学の自治の一環として,大学側に教育課程の編成や授
業計画の策定に係る広範な裁量権が与えられており,個々の教員に対しては,
教授会の審議等を経て策定された授業計画に基づき授業担当を割り当てるこ
とになる。また,本件教員契約に原告が本件各授業を担当する旨の合意は含
まれていない。したがって,具体的な授業の割り当てを受けていない原告に,
一方的に授業を行うことができる実体法上の地位は存在しない。
また,授業をする地位から他の権利が派生することもない。授業をする地
位の確認は,単なる債権の確認であり,そのような権利があるのであれば給
付請求によって実現されるべきものであるから,確認の利益を欠く。
本件確認の訴え2につき,確認の利益があるか(争点⑴イ),原告が本件
研究室を使用する地位を有するか(争点⑵エ),及び原告が本件研究室を排
他的に使用する権利を有するか(争点⑵オ)について
〔原告〕
ア学問の自由を制度的に保障するため,大学設置基準36条1項及び2項
は,「大学は,その組織及び規模に応じ,研究室等を備えた校舎を有する
ものとする」こと,及び「研究室は,専任の教員に対しては必ず備えるも
のとする」ことを定めている。また,短期大学設置基準28条1項及び3
項にも同趣旨の規定が存在する。したがって,本件教員契約には,研究室
を提供する旨の合意が含まれているというべきである。被告が,その合意
に従い原告に本件研究室を与えたからには,別の研究室を与えて原告が承
諾した場合を除き,原告から本件研究室を取り上げることはできない。ま
た,原告は,善意無過失で平穏に本件研究室を占有しているところ,退職
勧奨としての業務命令は不法行為というべきであるから,原告は,人格権
に基づいて本件研究室の明渡しを拒むことができる。
イなお,被告が原告の本件研究室を使用する地位を認めていない現状下で
は,仮に,妨害予防が認められたとしても画餅に帰すおそれがあるから,
本件確認の訴え2には確認の利益がある。
〔被告〕
学校教育法施行規則142条2項及びこれに基づく短期大学設置基準28
条3項が,短期大学に対し,教育・研究を職務とする専任の教員の研究室を
必ず備えることを義務付けているのは,飽くまでも利用者である学生に対し
良質な教育役務を提供することに主眼があり,教員の研究の便益に資するこ
とを直接の目的とするものではない。むしろ,大学の研究室は,格別の合意
や取決めがない限り,専任教員が労働契約上負担する教育・研究債務の履行
に必要な範囲で,事実上,使用が許されているにすぎないと解するのが自然
である。かかる債務の履行を離れて,一般的に専任教員が研究室を使用する
権利などおよそ存在しないというべきである。
本件職務変更命令の適法性(争点⑵イ)について
〔原告〕
ア本件職務変更命令は,原告の職務内容を変更するものであるから配転命
令に該当するところ,大学教員には職種上,教育・研究に職務を限定する
との職務限定合意が認められるし,本件教員契約上も,原告には上記職務
限定合意が認められるから,原告の同意なくされた本件職務変更命令は,
無効である。
また,この点を措くとしても,本件職務変更命令は業務命令権を濫用し
てされたものであるから,無効である。
イ被告は,原告の能力は准教授に本来要求される水準に達しておらず,改
善の見込みもなかったと主張する。しかし,被告が実施している学生に対
する授業アンケートの結果をみれば,原告の授業が学生から支持されてい
たことは明らかであり,環境教育に関する研究を継続的に行っていたから,
突如として授業担当を外される業務上の必要性はない。
被告は,原告が担当していた環境(保育内容)の授業につき,平成2
6年度以前,原告が動植物の飼育・栽培あるいはこれに関連する授業を
組み込まなかったと主張する。確かに,平成25年頃の学科会議におい
て,原告の環境(保育内容)の授業で植物栽培又は動物飼育を行うこと
ができないかが検討されたことはあったが,このときは,原告は視覚障
害が進行していたのに,被告の支援が行われていない状況であったこと
から,授業に組み込むことができなかったのである。しかし,原告は,
平成26年4月1日以降,自費で補佐員を雇用することが認められ,視
覚補助を得られることとなったから,平成27年度から環境(保育内容)
において,ミニトマト栽培及びサツマイモ栽培を取り入れ,成果を上げ
ている。
また,そもそも保育所保育指針及び幼稚園教育要領(以下「保育所保
育指針等」という。)は,保育園及び幼稚園の指導方針を定めたもので
あって,保育士及び幼稚園教諭を育成する教育機関における教育内容を
定めたものではない。したがって,保育所保育指針等は,本件短大を含
む教育機関に対し植物栽培や動物飼育の実習を行うことを義務付けるも
のではなく,実際にも実施している大学はまれである。
学生の私語,無断退出,遅刻及び予習の確認やそれらに対する注意な
どは,被告が視覚補助者を配置するなどの合理的な配慮をすれば解決可
能である。なお,原告は,平成25年度に学外の友人に環境(保育内容)
の試験の採点を依頼したことがあったが,その後,補佐員を雇用するこ
とで解決しており,原告の試験の採点や成績評価にずさんな点はない。
被告は,平成27年度の卒業研究における学生からの苦情申立て(以
下「本件苦情申立て」という。)を本件職務変更命令の理由として指摘
する。
しかし,本件苦情申立ての背景には,原告が補佐員に他の授業のため
の作業に従事してもらい,卒業研究の授業を補佐員なしで行っていたこ
と,同授業は学生の自主性を重んじていたし,また,原告自身,平成2
7年度はサツマイモ栽培の準備に時間をとられたことから,卒業研究の
研究成果として行う発表会の事前準備が十分にできず,さらに,平成2
7年度は2年生の相互の人間関係が良好でなかったこともあり,卒業研
究の準備がなかなか進まなかったということがある。本件苦情申立てに
つき,原告は,平成28年1月,改善すべき点を被告に申告した上,学
生に謝罪しており,今後は,補佐員をティーチングアシスタントとする
ことなどで解決できる。
なお,平成27年度の卒業研究における学生の不満は,被告が一部の
学生のみを対象として聞き取り調査を行い,学生の単なる不満を恣意的
に切り出したものである。時期的にも,学生個々人が学業や人間関係,
就職に不安定要素を抱える時期のものである上,そもそもそれらの不満
は,原告の専門分野と関連が薄いから,それらが原告に授業を担当させ
ない理由になるものではない。
ウ本件職務変更命令は,本件短大の専任准教授という地位にある原告に,
学科事務のみを担当させるものであるが,その扱いは事務職員と同じであ
り,屈辱的でさえある。本件職務変更命令は,原告に対し精神的苦痛を与
え,教員生命を奪うほどの著しい不利益を与えるものであり,原告を自主
退職に追い込もうとする違法な退職勧奨の意図が含まれていることがうか
がわれる。
エ平成28年4月1日に施行された,障害を理由とする差別の解消の推進
に関する法律(以下「障害者差別解消法」という。)8条1項は,「事業
者は,その事業を行うに当たり,障害を理由として障害者でない者と不当
な差別的取扱いをすることにより,障害者の権利利益を侵害してはならな
い。」と定め,同条2項は,「事業者は,その事業を行うに当たり,障害
者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場
合において,その実施に伴う負担が過重でないときは,障害者の権利利益
を侵害することとならないよう,当該障害者の性別,年齢及び障害の状態
に応じて,社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をする
ように努めなければならない。」と定めている。障害者の雇用の促進等に
関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)36条の3も,「事業
主は,障害者である労働者について,障害者でない労働者との均等な待遇
の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となって
いる事情を改善するため,その雇用する障害者である労働者の障害の特性
に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備,援助を行う者の配置そ
の他の必要な措置を講じなければならない。ただし,事業主に対して過重
な負担を及ぼすこととなるときは,この限りではない。」と定めており,
事業主に対して合理的配慮の提供をすることに努力を尽くすべきことが義
務付けられている。
しかし,被告からは,かかる合理的配慮の提供は全くなされていない。
むしろ,被告は,原告に対し,視覚障害のためできないことを本件職務変
更命令の理由として並べ立てて,原告の課題をいかに克服すべきかを検討
するといった対応を放棄してしまっているが,このような被告の対応は,
正に原告の視覚障害を理由とする差別にほかならず,障害者差別解消法の
趣旨に逆行するものである。
〔被告〕
ア原告は,本件職務変更命令を配転命令と理解するようであるが,本件職
務変更命令は,飽くまでも教員が行うべき本来的職務のうち,単に担当授
業のみを免じ,研究及び学科事務に集中させるというものに過ぎず,所属
部署の変更を伴うものでも,本来的職務とは異質な,別の負担をかけるも
のでもない。
したがって,本件職務変更命令は配転命令には該当しないし,次のイ以
下のとおり,もとより業務命令権の逸脱,濫用も認められない。
イ平成26年度以前の授業の内容
本件短大は,保育士及び幼稚園教諭の養成機関として,通達及び実際
上,保育所保育指針等の教育指針に準拠した教育を実施することが強く
要請されている。原告が主に担当してきた環境(保育内容)は,保育所
保育指針等における「環境」の教育的狙いを踏まえた計画・実践を行い,
上記狙いを達成するための力となる基礎的知識・技術を獲得することを
目標とする科目である。保育所保育指針等には,環境(保育内容)の領
域において,「身近な動植物に親しみを持ち,いたわったり,大切にし
たり,作物を育てたり,味わうなどして,生命の尊さに気付く」(保育
所保育指針第三章1(二)ウ(イ)⑦),「身近な動植物に親しみをもって
接し,生命の尊さに気付き,いたわったり,大切にしたりする」(幼稚
園教育要領第2章「環境」2⑸)とあるから,環境(保育内容)として
は,動植物の飼育・栽培あるいはこれに関連する授業を何らかの形で授
業計画に組み込むことは必須であり,これを欠落することなどあり得な
い。しかし,原告は,動植物の飼育・栽培を扱った経験がなく,平成2
1年度以降,これを全く取り入れることができなかった。すなわち,原
告の授業には,保育所保育指針等が「環境」の領域について要求する範
囲をカバーできていないという致命的な問題があった(乙10,23,
24,28,32,33,35,54,56,57,64)。
また,原告の授業内容は,環境設定の指導や理論的フィードバックが
全くなされないまま,単なる「遊び」や「ゲーム」で構成されていたこ
とから,保育理論・幼児教育理論の実践というよりも,文字どおり「幼
稚園の授業そのもの」とでもいうべきものであった(乙23,11頁以
下)。平成26年度,原告の環境(保育内容)の授業中,受講生の一人
が「ストロー笛をピーッと鳴らせて聞かせ,それが鳴らせた人は教室か
ら退出してもよい。」といった演習内容がばかばかしくなり,教室から
飛び出したというのは,正しくその一例である(乙64,3頁以下)。
原告は,授業の進行をほとんど学生任せにしていた上,注意・指導を全
く行わなかったため,原告の授業においては,雑談,読書,睡眠,無断
退出等が横行するなど,いわゆる「学級崩壊」同然の事態が生じており,
原告の授業を参観した他の教員が,異口同音に「授業中に学生が遊んで
いても注意できない」「学生の反応の確認ができず授業として成立して
いない」といった問題点を繰り返し指摘しても(乙25~27,29~
32,35),原告の授業が改善されることはなかった。
さらに,原告は,試験の採点も明らかにずさんであり,平成25年7
月31日には,被告の個人情報管理責任者の承認を得ることのないまま,
定期試験の採点支援を学外の「友人」に依頼することがあり,結果とし
て,学生の答案という極めて機微な個人情報を部外者に開示してしまう
という事態まで生じさせていた(甲13,乙59)。
ウ平成27年度の授業の内容
前記のとおり,原告の授業には,もともと問題なしとしないものがあ
り,これまで度重なる指摘・指導がされてきたが,見るべき改善がない
ままであった。
すなわち,平成27年度からは,環境(保育内容)において,「ミニ
トマトの栽培」や「サツマイモの栽培」がようやく授業計画に組み込ま
れたものの(乙14,34),原告自身には作物栽培の経験が全くなか
ったことから,結局,授業内容としては,学生が十分な学習効果を上げ
るには程遠いものであった(甲17,乙44,58,65)。
また,その他の授業内容についても,それまでと同様,およそ短期大
学生向けとは思えない,単なる「遊び」や「ゲーム」に終始し,時には,
およそ授業内容と何ら関係のないバスケットボール等をするなど,手抜
きといわれても仕方のないものであった(乙38,47,64)。
さらに,原告が学生に対し注意・指導を全く行わないことも相変わら
ずであり,受講生の中には,授業中に菓子等(時にはカップラーメン)
を食べる者さえいる状況であったが,原告は,これを黙認・放置するば
かりか,あまつさえ授業中に,自ら学生に菓子を配ったりする有様であ
った(乙38,40,47,64)。
かかる原告の授業に不満を持った卒業研究の受講生の一人(以下「本
件受講生」という。)が,平成27年11月,「毎回,鬼ごっこやかく
れんぼなどをして遊ぶばかりで,自分がイメージしていた授業内容とは
異なる」といった強い苦情を申し立て(本件苦情申立て),また,本件
受講生を含む特定のクラスの学生全員が,平成27年12月18日の授
業をボイコットするという事態まで発生した(乙38,47)。
エ被告は,上記のような事態を憂慮した結果,平成28年1月6日に開催
された教授会で,上記問題につき協議した上,事実関係を調査することと
し,同月8日,本件受講生以外の複数の受講生4人からヒアリングを行っ
たところ,おおむね本件苦情申立てのとおりの事実関係であることが確認
された。また,同月6日及び同月14日の2日にわたり,原告から弁解を
聴取するとともに,同月13日には原告から始末書及び反省文が提出され
たが,原告の弁解や改善提案によれば,原告の准教授としての資質や授業
の質が今後改善される見込みは乏しいものと考えられた。
そこで,被告は,本件学科において新たに教員を採用して,これまで原
告が行っていた授業を担当させる方針とした。もっとも,被告は,原告が
視覚障害者であることから,雇用の確保・労働条件の維持を最優先する必
要があると考え,また,かねて原告からは,非常勤講師になるよりは学科
事務を担当する方がよいと聞いていたこともあり,もっぱら原告には遂行
可能な学科事務を担当させることとし,職位・給与の異動は特に行わない
ことにした。
オ本件職務変更命令は,上記のような経緯,判断に基づくものであり,業
務命令権の行使に何らの逸脱・濫用はない。これをまとめると,次のとお
りである。
本件短大は,保育士,幼稚園教員といった専門職を養成する性格の強
い学校であるから,その教員は,保育所保育指針等に即した教育課程に
沿った内容の授業を行い,一定の水準を確保することが最低限要請され
るところ,原告は,視覚障害以前の問題として,動植物の飼育・栽培と
いう保育士や幼稚園教諭にとって必須の事項につき,満足のいく授業を
行うことができなかった。まずこの一事をもってしても,原告は,教員
としての最低限の教育能力を欠いていると言わざるを得ないし,研究実
績は,環境(保育内容)を担当するには不十分である。
また,視覚障害が一定の影響を及ぼしていると考えられる授業内容・
運営の点に関してみても,原告は,学生が将来,保育所保育指針等に即
した教育・保育をできるようになるための方法論につき十分に教授がで
きないばかりか,原告のクラスは,結果的に「学級崩壊」同様の状態で
あった。そして,被告からの再三の指導や指摘によっても何らの改善が
見られなかったのであるから,原告が准教授に本来要求される水準の能
力を有しておらず,かつ,今後の改善可能性が乏しいことは厳然たる事
実である。仮に,このまま原告に授業を担当させ続けるとすれば,厚生
労働省を始めとする監督官署の調査・指導などが実施され,最悪の場合,
授業のやり直しすらあり得たから(乙61,67),原告に授業を担当
させないこととした被告の判断は正当である。
原告は,障害者差別解消法及び障害者雇用促進法に基づく合理的配慮
に言及するが,そもそも,原告が主に授業を担当していた環境(保育内
容)の教育目標や内容は,極めて実践的な性格を有しているから,単な
る座学ではあり得ない。かかる授業を効果的に行うためには,教員と学
生との双方向的・非言語的コミュニケーションが必要不可欠である。教
員には,演習における諸活動を通じ,学生に表れる細やかな表情や,ニ
ュアンスに富んだ行動を注意深く観察しつつ,それぞれの学生の感じ方
や理解度を把握し,しかる後に,諸活動の持つ意味合いを理論的にフィ
ードバックするという一連の実践的かつ高度な営みが要求される。そう
すると,視覚補助者を付けることによって問題を解消することは不可能
又は著しく困難といわざるを得ず,原告の授業にみられる問題は,合理
的配慮の提供では解決できない。
本件職務変更命令は,教員が行うべき本来的職務のうち,単に担当授
業のみを免じ,研究及び学科事務に集中させるものに過ぎず,原告に対
し,教員の本来的職務とは異質の負担を新たにかけるわけではなく,何
らの減給を伴うものでもない。原告は,今後も引き続き自由に研究活動
を行うことが可能であるし,各種学科事務も大学運営にとって極めて重
要でやりがいのある業務といえる。原告の自己実現という観点からして
も,原告が被る不利益は必要最小限度にとどまるということができるし,
退職勧奨を意図したものではない。
本件研究室変更命令の適法性(争点⑵ウ)について
〔原告〕
ア本件短大には,本件研究室以外にも空き室となっている研究室があるか
ら,研究室の割り当てを変更する理由はない。視覚障害のある原告として
は,本件研究室内に存在する資料備品等の位置を全て記憶して授業準備及
び研究活動に従事しているから,本件研究室にある資料備品がキャリア支
援室に移動され,かつ,別の教授とキャリア支援室を共同使用することと
なれば,原告の活動は著しく困難となる。
イ移動先として指示されたキャリア支援室は,廊下側にガラス窓が設置さ
れており,廊下を行き来する学生,教職員から丸見えの状態である。視覚
障害のある原告が,廊下に立つ者がガラス窓を通してキャリア支援室内を
見ていることを視覚で認識することは困難であるから,原告としては常に
外から覗かれているとの意識を抱かざるを得ない。本件研究室変更命令は,
単なる研究室の移動などではなく,その実質は,原告から研究室を取り上
げることを目的とした命令である。
ウなお,被告は,本件研究室をD講師に割り当てるために本件研究室変更
命令を出したと主張するが,C教授からの電子メールによれば,本件研究
室はE専任講師(以下「E講師」という。)に割り当てることを予定して
いたのであるから,被告の主張は後付けの理由というほかない。
〔被告〕
ア被告としては,新たに採用したD講師に新たな研究室を提供する必要が
生じたことから,研究室の配置換えを行うこととし,その結果,D講師に
は,同人が授業を行うB棟408号室から近い本件研究室を割り当て,原
告には,キャリア支援室を割り当てた。D講師に対しては,授業終了後,
学生からの質問等に適時に対応できる本件研究室を割り当てること,及び
原告に対しては,学生の窓口的機能を有し学科事務に至便であるキャリア
支援室を割り当てることは,いずれも至極合理的である。
イキャリア支援室は,その構造・機能上,研究室として利用することが十
分可能であって,実際,F教授(以下「F教授」という。)は,キャリア
支援室を主たる研究室としていたが,そのことで何らの支障もなかった。
しかも,キャリア支援室は,ドアからわずか数歩で避難経路に接続してい
る上,外部からの見通しも良く,他の教員も在室しているなどの特性を有
しており,本件研究室変更命令は,視覚障害者である原告に対する合理的
配慮という意味でも相当である。
ウそもそも,大学は,その限られた経営の資源を全学的にいかに配分する
か,換言すれば,どの教員にいかなる研究室を備えるかについて,施設管
理権・業務命令権に基づく広範な裁量権を有していると解される。したが
って,研究室の配置換えなどは,教員が通常甘受すべき一般的不利益にと
どまるというほかない。
被告が本件職務変更命令等をしたことが原告に対する不法行為を構成す
るか(争点⑵カ)について
〔原告〕
ア本件職務変更命令は,原告を授業から外し,主任教授の監督の下で学科
事務のみを担当させるものである。本件職務変更命令は,業務上の合理性
がないのに,能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事
を与えないことに該当するから,典型的なパワーハラスメントに該当する
ものである上,その実質は,違法な退職勧奨といえる。
イ本件研究室変更命令は,そもそも必要性が乏しいものである上,キャリ
ア支援室は,入り口に大きなガラス窓が設置され,室内の様子が廊下から
丸見えであり,視覚障害のある原告としては,常に外から覗かれている意
識を抱かざるを得ない。このような状況に原告を置くことは,原告に対す
る精神的な攻撃である。原告は,本件研究室内の私物を全て撤去し,キャ
リア支援室には持ち込まないよう指示されたが,デジタルデータの読み上
げソフトをインストールした私物パソコンを持ち込めないと,原告が仕事
を遂行することは,ほぼ不可能となる。
ウその他,学科会議においては,学長,教授,准教授,講師の順に着席す
るのが通常であり,本件職務変更命令以前は,准教授である原告も,本件
学科の全体会議において,教授及び准教授が並ぶ中に席を定められていた
が,最近では,講師より末席の図書館司書の隣に座るよう指示されている。
また,卒業式のリハーサル及び退職教員への記念品贈呈のセレモニーに原
告が参加しようとした際,他の教員が移動介助をしようとしたところ,C
教授が「いけない。」と制止したことから,その後,原告は,これまで日
常的に行われてきた同僚からの移動介助を受けることができなくなった
し,これまでは,新入生オリエンテーション等の行事のときには会場にお
いて学科業務に当たっていたのに,平成28年度は研究室待機を指示され
た。このように,被告は,原告の行事への参加を拒み,原告が学生や他の
教員と接触することを妨害している。なお,原告に対しては,昨年度まで
は教授会の議事録等が電子メールで配信されていたが,平成28年度は送
られてきていないし,形式的な審議が終わって原告が帰った後,原告不在
のまま他の教員のみで会議をしている。
エ上記のとおりの被告の行為は,退職強要を目的とした,A学長を中心と
する継続的かつ組織的なパワーハラスメントであるから,原告に対する不
法行為を構成する。
オ被告は,本件やその保全事件等で,原告が教員としての適格を欠くなど
の陳述書を作成するよう教員に指示してこれを作成させ,提出し,原告の
裁量の範囲内である点,介助者を適切に配置すれば生じない点,視覚障害
故に原告が至らない点などを過剰にあげつらって原告の尊厳を傷つけた。
カ原告は,上記不法行為により深刻な精神的苦痛を受けたものであり,こ
の精神的苦痛を慰謝するには少なくとも慰謝料500万円が認められるべ
きであり,弁護士費用は50万円が相当である。
〔被告〕
原告の主張アないしカは,否認ないし争う。本件職務更命令及び本件研究
室変更命令に業務命令権の濫用はない。本件研究室変更命令に当たり,被告
が撤去を指示した「私物」とは,およそ教育及び研究には必要がないと思わ
れるごみや,がらくたの類のものであって,ノートパソコンではない。
全体会議等の席順は,原告が合理的配慮を要求してきたため,その一環と
して,原告の席を,できる限り安全で移動しやすい位置としたに過ぎない。
新入生オリエンテーション時,原告に対し研究室待機を指示したのは,当日
欠席者に対応するためであり,待機を指示されたのは原告だけではない。当
日欠席者に対応することは,学科事務の一環である。平成28年度は,個人
情報保護の観点から議事録は総務課に備え置くこととし,電子メールでの配
信は行わないようにしたため,原告にも配信しなかっただけであり,FD会
議後に開催されていたのは,授業・学科事務を担当する教員による専門部会
であるから,原告に出席の必要はなかった。
また,訴訟等で提出した陳述書等は,作成した本人がありのままを述べた
にすぎず,原告の尊厳を傷つけるものではない。
第3当裁判所の判断
1前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ
る。
原告は,昭和59年4月に日本大学農獣医学部農芸化学科に入学し,同学
部卒業後,同大学大学院農学研究科農芸化学専攻博士課程に進学し,平成2
年に農学修士を取得した後,臨床検査試薬メーカー研究所勤務,国立遺伝学
研究所研究生を経て,岡山大学大学院自然科学研究科生物資源科学専攻博士
課程に進学し,博士論文「タバコ培養細胞におけるアルミニウム障害ならび
に防御機構に関する研究」により,平成11年3月農学博士号を取得した(甲
23,65)。
原告は,平成11年8月頃,当時の岡山大学大学院の担当教授から本件短
大において生物学の教員を募集している旨の情報を得て,A学長と面談し,
同年9月1日,被告との間で,原告が被告の専任講師として勤務する旨の本
件教員契約を締結し,同年10月の後期から生物学及び環境保全学の授業
を,翌年度前期から環境(保育内容)の授業を担当するものとして,本件短
大の講師に任じられた。
原告は,その後,本件短大において,一般教養科目の生物学及び専門教育
科目の環境(保育内容),教職実践演習,卒業研究,卒業予備研究等の科目
を担当してきた。(甲65,乙94,原告本人)
原告は,平成19年4月1日,本件学科の専任准教授に任じられた。
原告は,遺伝性疾患である網膜色素変性症(本件疾患)に罹患しており,
近年,本件疾患が進行し,文字の判読が困難となった。そのため,原告は,
平成25年7月31日に実施した環境(保育内容)の試験の採点支援を学外
の知人に依頼したところ,被告の個人情報管理責任者の承認を得ることなく
個人情報を部外者に開示したとして,学内で問題となったことがあった。
A学長は,平成26年1月9日,これまで原告の視覚補助を事実上担当し
ていた女性事務職員が近々離職することとなった等の理由から,原告に対し
退職勧奨をしたが,原告が,視覚補助のための補佐員を私費で付けることを
提案したため,平成26年度以降も引き続き原告に授業を担当させることと
した。その際,A学長は,学生から苦情が出た場合は授業を担当させ続ける
ことはできない旨釘を刺した。(乙54,60)
原告は,上記補佐員として,岡山県視覚障害者センターで点訳のボランテ
ィア活動をしていたBを採用することとした。
Bは,平成23年頃まで東京においてシステム開発,各種ISOマネジメ
ントシステムの構築・運営に関わる仕事をしてきたが,退職後,岡山に戻り,
岡山県視覚障害者センター等において点訳その他のボランティア活動に従事
していた。(甲95,証人B,原告本人)
Bは,平成26年3月22日,被告に対し,要旨,次のとおり記載がある
誓約書(以下「本件誓約書」という。)を提出した。なお,本件誓約書は,
原告がドラフトを起案し,A学長に見せた上,指摘された修正点を踏まえて
作成したものであった。(甲12,原告本人,A学長本人)
ア出学・帰学時にはM棟受付にて必ず来館記録をし,学内では来館証を身
につける。
イ学内では原告准教授の指示に従い,視覚的補助を行うため,やむを得な
い事情(トイレ,出・帰学時など)を除き原告准教授から離れて単独での
行動はしない。
ウ原告准教授の視覚的補助として学生課題などの対面朗読を行う場合は必
ず原告准教授の研究室内で行い,研究室外への持ち出しはもちろん内容の
口外も一切行わない。
エ学内へは視覚的補助の道具などの必要最低限の物のみを持ち込むこと
とし,それ以外の物を持ち込まない。
オ資料の音声化などの作業でパソコンなどの機器を使用する場合は原告
准教授が準備する物を使い個人所有の物は一切持ち込んだり使用したりし
ない。
カ原告准教授が何らかの事情で研究室を一時的に不在にしている時は,研
究室にて待機し,勝手な行動はしない。
キ原告准教授の視覚的補助に徹し,学内では教職員や学生との不用意な関
わりを慎む。また学生の個人情報に関わることのみならず学内にて知り得
た情報は全て許可なく学内外で公表および口外しない。
平成26年度以降,Bが行った原告の視覚補助の内容は,おおむね次のア
及びイのとおりであり,Bは,原則として週2日のそれぞれ5時間,本件短
大において原告の視覚補助を行っていた。原告は,私費でBを補佐員として
雇用するに当たり,毎月約4万5000円を支払っていた(甲10,証人B,
原告本人)。
ア研究室における援助
文書のレイアウト調整,印刷物の確認,パワーポイントの資料作成,手
書き文書,印刷物等の記録内容の確認(テキスト化あるいは代読),年休
届等の書類の手書き代行,出席・試験評価作業,評価内容のマークシート
への転記代行,シャトルカード(学生と教員との間の連絡カード)の学生
のコメントの読み上げ及びコメントの記入等
イ教室における援助
原告が点呼する際,学生の出欠状況を確認して座席表に記入すること,
プリントの配布及び回収,パワーポイントの操作,板書の消去,シャトル
カードの個人別配布,演習における道具の準備及び片付け等
平成26年6月28日,教員による授業参観後のミーティングが行われた
が,ここで,原告が担当した環境(保育内容)の授業内容につき,保育所保
育指針等の内容に即し,動植物の飼育・栽培を盛り込むべきであることが指
摘された。そこで,原告は,平成27年度の環境(保育内容)の授業に,ミ
ニトマトとサツマイモの栽培を取り入れた。(乙32,33,35,証人G,
同F,同C,原告本人)
なお,この点については,平成26年度より前から指摘があり,本件学科
内で検討されたことがあったが,その時点では,原告は,動植物の飼育・栽
培を授業に取り入れることは無理である旨回答していた(乙28,原告本人)。
原告の平成27年度における担当授業は,一般教養科目の生物学並びに専
門教育科目の環境(保育内容)(2年生前期),教職実践演習(2年生後期
・オムニバス講義),卒業研究(A)(環境・2年生前期),同(B)(環境
・2年生後期)及び卒業予備研究(B)(環境・1年生後期)であったところ
(1週間当たり4コマ),それら科目の概要は,次のとおりであった(甲3
0ないし36(枝番号を含む。),乙11ないし13,43,原告本人)。
ア生物学
(教育目標)
生物・生命科学に関する基礎知識・教養を身につける。特に保育・幼児
教育現場で出会う生物に関する知識や教養を深める。
(学生の学習成果)
専門的学習成果として,生物学・生命科学について,①生物体のなりた
ち(構造としくみ),②生命活動の維持(生活様式),③生命の連続性(進
化と適応)からとらえ,基本的用語や特に身近な動植物に関する理解,知
識を得ること,生物学・生命科学の知見から科学的・客観的思考力・判断
力をつけることを,汎用的学習成果として,生物学に代表される自然科学
の内容に触れることにより,論理的思考力・表現力を養うことを目指す。
(授業計画)
主に講義により授業を進めるが,内容理解を深めるために適宜VTR利
用や模擬体験的演習活動を行う。
全15回の授業のうち,1回目は授業の進め方の説明と生物の定義につ
いて,2回目ないし14回目は,生態を構成する化学物質,生物の基本単
位・細胞,多細胞生物への成り立ち,生物の体の構造や生命維持の工夫,
細胞を増やす仕組み,次世代を生み出す仕組み,親から受け継いだ情報の
使い方,生態系・生物たちのつながりを講義する。15回目は,これまで
の復習と試験に対する諸注意を行う。
イ環境(保育内容)
(教育目標)
保育所保育指針等における「環境」の教育的狙いは「周囲の様々な環境
に好奇心や探究心をもってかかわり,それらを生活に取り入れていこうと
する力を養う。」であるから,保育所保育指針等に記載されている内容を
踏まえた計画・実践を行い,このねらいを達成するための力となる基礎的
知識・技術を獲得することを目標とする。
(学生の学習成果)
専門的学習成果として,①身近な自然・地域に興味・関心を持ち,豊か
な感性や表現力とともに地域への愛着を育む活動を計画・実践するための
基本となる手法を獲得すること,②物の性質や数量などを活用して,子ど
もの好奇心・探求心や主体性・意欲を育む保育活動の計画・実践に関わる
基本的な手法を獲得すること,③栽培を通して成長の過程や命の大切さに
気づき,責任ある行動を育む保育活動の計画・実践に関わる基本的な手法
を会得すること,④主に野外・園外活動における安全管理に関わる基本的
な知識・方法を習得することを,汎用的学習成果として,保育者として子
どもの手本となるだけでなく,人的環境として子どもの環境の一部である
ことを自覚し,子どもにとってより良い環境となるよう努める信念・態度
を獲得することを目指す。
(授業計画)
演習形式での授業であり,自然遊び・科学遊び・室内ゲームの演習によ
り,3~5歳児に対する自然や地域・物的環境を活用した保育活動の手法
を,危険予知トレーニングの演習により,安全・安心な活動を行うための
環境づくりや準備に対する考え方・方法を学び,植物の栽培活動・記録を
通して,幼児期の飼育・栽培活動の計画・運営に関する基礎的知見を得,
0~2歳児にとっての環境について講義し,特に人的環境としての保育者
の役割を学ぶ。
1回目は導入及び保育所保育指針等についての講義,2回目に飼育と栽
培Ⅰトマト,3,4回目に身近な自然を用いた遊びⅠ・Ⅱ,5回目に野外
・園外での保育活動における安全管理,6回目に「春のお散歩マップ」を
作る,7回目に乳幼児期における自然体験,8回目に小テスト実施,8回
目ないし10回目に科学遊び実践ⅠないしⅢ(Ⅰはストロー笛,Ⅲはシャ
ボン玉遊び),11回目に小テスト実施と保育活動における科学遊び,1
2回目に飼育と栽培Ⅱサツマイモ,13,14回目に室内ゲーム実践Ⅰ・
Ⅱ,15回目に幼児における環境教育を取り扱う。
ウ教職実践演習
(教育目標)
教員として求められる4つの事項(①使命感や責任感,教育的愛情等に
関する事項,②社会性や対人関係能力に関する事項,③幼児児童生徒理解
や学級経営等に関する事項,④教科・保育内容等の指導力に関する事項)
について,これまでの授業や教育実習を通した学びを振り返り,幼稚園教
諭になる上で自身の課題を自覚し,不足している知識・技能を補い,定着
を図ることによって,教職生活を円滑にスタートできる力を身につけるこ
とを目標とする。
(学生の学習成果)
専門的学習成果として,教育目標に掲げる4つの事項について知識や能
力を獲得し,姿勢や意見を形成することを,汎用的学習成果として,保育
者としての使命感や社会の一員として求められる倫理観や価値観を獲得
し,他者との豊かな人間関係を養うことを目指す。
(授業計画)
教員として求められる4つの事項について,グループ討議・模擬実践・
事例研究などを通して総合的に学ぶ。また,幼稚園の教育現場との連携を
図り,幼稚園教諭による講演・ディスカッションを実施する。4名の教員
がオムニバス形式で担当するが,ティーム・ティーチングの方式で行う。
また,入学時からの履修カルテに基づき必要に応じて補完的指導を行う。
原告が担当する5回目では,他の3名の教員と合同で,幼稚園教諭によ
る講演とその後のディスカッションを行い,8回目ないし12回目では,
他の教員と合同で,昨年度の合同発表会のVTR視聴と「指導計画に基づ
く学級活動模擬実践媒体の作成」の演習活動とグループ討議を行い,13
回目では,他の3名の教員と合同で,合同発表会「模擬実践の講評,自己
・相互評価」を行う。
エ卒業予備研究及び卒業研究
(授業内容)
卒業予備研究(B),卒業研究は,幼児教育学科のなかでも中核となる
科目のなかから,主として専任教員が各自の専門分野に関して,演習形式
によって開講する。卒業予備研究(B)は1年次後期に開講され,2年次
前後期の卒業研究によって完成されるもので,その成果は,2年次後期の
研究発表会において発表する。
原告の卒業研究は,環境に関するものであり,平成27年度は,卒業研
究として,11月に「子供といっしょに発表会」という,幼稚園児を呼ん
で学生らが作成したゲーム及びクイズで遊ばせるというイベントを行い,
13名の学生が,4つのグループに分かれてそれぞれゲームの準備をした。
原告は,平成27年度,環境(保育内容)の授業についてはBの視覚補助
を受けたが,卒業研究については,その間,Bに研究室で別の作業に従事し
てもらうなどし,視覚補助を受けずに授業を行った(甲17,19,乙41,
原告本人)。
平成27年11月,卒業研究の学生である本件受講生が,概要「毎回,鬼
ごっこやかくれんぼなどをして遊ぶばかりで,自分がイメージしていた授業
内容とは異なる」「授業中に,毎回お菓子を食べることもおかしいと感じて
いる」「お菓子だけでなく,授業中に教室でラーメンを食べていて,教員も
それを注意しない」との本件苦情申立てをした。
本件苦情申立てを受け,C教授らが,同年12月24日,卒業研究を受講
していたある学生からヒアリングをしたところ,その概要(以下「本件ヒア
リング概要」という。)は,次のとおりであった。
「絶対に毎回お菓子を食べる。いつもゼミは,『遊ぶ』か『お菓子を食べ
る』。原告先生は毎回,『今日は何がやりたい?』と聞く。外で鬼ごっこを
したり,学校内のあちこちを使ってかくれんぼ,体育館でバスケットボール,
ドッジボールなどをした。体育館でもお菓子を食べた。・・・ゼミに入った
意味がないと思った。・・・いつも遊ぶばっかりしていて,『子どもといっ
しょに発表会』の前になって急に,11月頃から発表会の準備を始めた。準
備に入ると,今度はお菓子だけではなく,3組の子たちが『お腹が空いた』
と言って,購買でラーメンを買ってきて,ゼミの教室で食べ始めた。・・・
リハーサルの時も,最悪の雰囲気だった。冷戦状態だった。お互いがコソコ
ソ言うだけで何も進まない。空気は最悪。いつも仕切っている3組の学生は,
オペレッタのリハーサルや練習があるため,その場にいなかった。これまで
の間に準備を何もやってないから,ツケがきた。・・・みんなイライラを原
告先生にぶつけるが,学生は納得しない。そんなこともあってか,発表会当
日は子どもがあまり来なかった。子どもが来ても,環境設定がちゃんとでき
てなくて,コーナーのやり方とか,子どもに教えるのをうまく説明できなか
った。12月18日(金)4限のゼミは,クリスマス会をすると言われた。
授業に出る意味がないと思ったのでボイコットした。」(乙38)
平成28年1月6日,本件短大の教授会において,A学長が,本件苦情申
立てにつき,大至急,本件学科として内容を確認するとともに,対応を検討
するよう指示したところ,同日,C教授らが原告から事情聴取を行った。
これに対し,原告は,「ラーメンは気がつかなかった。」「教室は飲食厳
禁なのに,B408で何も食べていなかったかといえば,そのことについて
は,5限があるのでポリポリお菓子を食べているのを黙認していた。」「学
生のペースに任せているのは確かだと思う。今年の学生は確かにスタートダ
ッシュが遅かったので,コーナー遊びの内容については私の方から指導した。
去年の学生とはだいぶ違う。去年は前期から話し合いをしていた。10月に
かくれんぼとかをしているのは,1年生との関係づくりでやっていたこと。
グループワークに分かれた時に,1年生と2年生が一緒に作業できるように
ということで,関係性づくりでかくれんぼとかをやっていたので,そこで環
境設定の振り返りをしましょうとか,そういうことは確かにしていなかっ
た。」「(あなたがお菓子を持ってきたのは何回くらいか,という質問に対
し)2回か。前期を含めると3回か。畑作りをした時に,学生たちが『こん
なに暑い中で畑仕事を頑張ったんだから,先生,何か』と言われたので,そ
れで『お疲れ様』と『実習行ってらっしゃい』でお菓子をあげたのと,後期
になってから1回,芝生で遊んだ後に交流会をした。後は,クリスマス会を
した時に,『クリスマスプレゼント』と言って私の方から飴をあげたりとか
はした。」「楽しい雰囲気をつくろうと思って,特に4月とか10月の人間
関係づくりをまずしようとするのが全面に出てしまって,学びの部分が見え
ないというか隠れてしまっていると思う。」などと説明した。(乙39)
C教授らは,平成28年1月8日,卒業研究のその他の受講生4名に対し,
「お菓子を食べたか」「ラーメンを食べたか」「担当教員は知っていたか」
「担当教員は注意したか」「卒業研究『環境』で学んだこと」についてヒア
リングをしたが,各学生の説明を総合すると,概要,本件苦情申立てのとお
りであった。ある学生は,ラーメンを食べていたことを担当教員は知ってい
たかという質問に対し,「原告先生も知っていた。『匂うなぁ』と先生も言
っていたから。」などと話した。(乙40)
原告は,平成28年1月8日の4限の卒業研究の授業において,C教授立
会いの下,概要,次のとおりの説明をした上で,学生らに対し謝罪した(甲
17)。
ア教室内での飲食について注意しなかった,また教員がお菓子を配る場面
があったことについて
「教室内飲食厳禁」の学則を守るように指導しなかったことは,子ども
達のお手本となる保育者を養成する教員として問題ある行動であった。今
年度はサツマイモ栽培のための畑作業を手伝ってもらったとの感謝の気持
ちから,お菓子を準備したが,飲食する場合は学生ホールなど飲食を許可
された場所ですべきであり,そうしなかったことは教員として不適切であ
った。
イ遊んでばかりで何を学んでいるのか分からないとの点について
活動のねらいが伝わっていないのは私の指導の至らなさと痛感してい
る。子ども達の主体性や意欲を育むために「環境(保育内容)」でも話し
たように「楽しさは学ぶ力」が大切だと思っているので,私が何かやらせ
るのではなく学生自身がしたいことから活動が発展していくと良いと思っ
ていた。集団遊びによる人との関わり・周囲への興味を育む活動を考える
基にしてほしいとの考えがあったからだ。しかし,そのような意図が伝わ
っていなかったのは私の力不足であったと感じている。その原因として今
年度はじめて取り組んだサツマイモ栽培のための畑作業があると思ってい
る。私自身が畑作業が円滑にできるかどうか不安を抱えていて,みんなに
対して余裕のなさから活動の意図を十分伝えきれていなかった。
ウかくれんぼやバスケットボールで単位評価しているのかという点につい

この質問に対する答えは「いいえ」である。前期は例えば畑作業をした
時の報告をしてもらった。後期は子どもといっしょに発表会の計画書や振
り返りシートを書いてもらった。これらの報告や記録を中心に評価してい
る。
原告は,平成28年1月13日,A学長に対し,「私は,平成27年度『卒
業研究(A)(B)』において,教室内で飲食している学生に注意をせず,
学則遵守の指導を怠りましたことは不適切であったと反省いたします。今後
は,学内出入を許可いただいた補佐員による教室内での学生状況把握によ
り,『教室内飲食厳禁』の学則遵守の指導に努めて参ります。」と記載した
始末書(甲16。以下「本件始末書」という。)を提出した。
また,原告は,同日付けで,A学長に対し,「(8日の授業で)学生達に
話したことを実現させていくために,来年度以降は授業内の学生状況把握を
目的に補佐員を同行しての授業運営を行います。また今年度はサツマイモ栽
培初年度による心の余裕のなさが授業内容に対する学生不満を生み出したと
反省しており,来年度は畑作業について今年度反省を踏まえて早めに計画し,
卒業研究の中で畑作業以外の活動を充実させたり,活動意図が学生にわかる
やすく伝わる工夫をしていくよう努めます。」と記載した反省文(甲17)
を提出した。
A学長は,平成28年1月14日,原告と面談し,要旨,本件始末書には,
飲食してはいけないのに飲食したから反省すべきだということが書かれて
いるが,補助者を付けて2年目で,どうしてこういうことが起きているのか,
学生からクレームが出たら終わりだと以前から話していたはずである,授業
の中で飲食しながら授業を行ったということは,学則違反というものではな
く,教員としての資質の問題ではないのか,などと話し,退職勧奨をした(乙
41)。
平成28年2月5日開催のFD会議において,平成28年度の事務分掌案
として,新たに教員を採用し,同教員にこれまで原告が行ってきた授業を担
当させる方針が確認された。被告は,同月24日開催の教授会の審議を経て,
同年3月24日開催の新年度準備会議において,本件学科において新たな教
員としてD講師を採用し,これまで原告が行ってきた環境(保育内容)及び
教職実践演習の授業を担当させることとし,原告には授業を担当させず,学
科事務のみを担当させる旨の平成28年度における授業計画及び事務分掌
を正式に決定し,その頃,原告に伝達した(本件職務変更命令)。また,被
告は,同日,平成28年度における授業計画及び事務分掌に伴い研究室の配
置換えを行い,原告については,本件研究室からB棟3階にあるキャリア支
援室に移動させることにした(本件研究室変更命令)。なお,原告は,研究
室の変更につき,これに先立つ平成28年2月23日,C教授から,電子メ
ールでも指示されていた。
2本件確認の訴え1につき,確認の利益があるか(争点⑴ア)について
ア原告は,学校教育法92条7項により,准教授は,学生を教授し,その
研究を指導し,又は研究に従事するものとされている上,憲法上学問の自
由が保障されていることからしても,本件短大の専任准教授である原告に
は当然に授業をする地位が認められるし,本件教員契約にも原告が本件各
授業を担当する旨の合意が含まれている旨主張する。
イ前記1⑴ないし⑶によれば,原告は,平成11年3月,岡山大学大学院
自然科学研究科生物資源科学専攻博士課程において農学博士号を取得した
後,同年9月1日,被告との間で本件教員契約を締結し,本件短大本件学
科の講師に任じられたこと,原告は,その後,本件短大本件学科において,
生物学,環境(保育内容),卒業研究等の各科目を長年担当し,その間,
平成19年4月1日には,本件学科の専任准教授に任じられたことが認め
られる。
また,証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件短大の教
員となった後,「幼児を対象とした環境教育プログラムに関する研究」「保
育者養成課程における体験学習的環境教育の試み」「スクールインタープ
リターによる校庭での自然体験型環境教育活動⑴⑵」「体験型学習におけ
る人的環境についての研究」等の研究報告を行うなど,環境教育を実践す
るための人的環境に関する考察を中心に研究活動を行っており,最近では,
障害の有無に関わらず,地域の子ども達が通う保育現場で活用できるユニ
バーサルデザインの環境教育教材・プログラムの研究を行っていることが
認められる。
ウ本件短大は,学校教育法の適用を受ける短期大学であるが,短期大学は,
深く専門の学芸を教授研究し,職業又は実際生活に必要な能力を育成する
ことを主な目的とする大学である(学校教育法108条1項ないし3項)。
また,准教授は,学生を教授し,その研究を指導し,又は研究に従事する
ものとされている(同法92条7項)。
エ上記ウのような大学の目的や教員の職務の性質に加え,上記イのとおり
の原告の経歴,本件短大における職歴,研究活動等に照らせば,原告が本
件短大で教授・指導することは,原告が更に学問的研究を深め,発展させ
るための重要な要素といえるから,原告が,本件短大において環境等の自
己の専門分野等につき学生を教授,指導する利益(以下「本件利益」とい
う。)を有することは否定できない。
しかしながら,大学は,その設置目的を実現し,学問的研究成果を広く社
会に提供することが求められるが,本件短大は,保育士及び幼稚園教諭の養
成機関と位置付けられており,本件学科の教育目標としても,幼児の発達段
階に鑑みて,家庭教育と幼稚園教育及び保育所との連携を十分に図ることが
できる資質能力を有する保育者の養成が掲げられている。そして,本件短大
を設置・運営する被告としては,本件短大において研究・教育に従事する多
数の教員による研究,教授・指導等を組織化し,かつ,これらの教員の提供
する役務を合目的的に管理・統括することが必要であり,そのため,本件短
大においては,教授会が審議して意見を述べ,これに基づき学長が教育課程
の編成をする(学則26条)こととされている。
このようなことからすれば,原告に大学教員としての研究及び教授・指導
の利益が認められるとしても,上記のような組織・目的を有する本件短大に
おいては,自ずから制約があるというべきである。そして,平成28年度に
ついては,後述のとおり,原告の職務分担について問題がないとはいえない
としても,上記の手続に従い前記1のとおり決定されたのであるから,上
記のような手続を何ら経ていない原告が,当然に本件各授業を担当すべきも
のとはいえず,したがって,原告は,未だ,本件各授業を担当する具体的な
権利,利益を有するものとは認められない。また,本件教員契約においても,
原告が担当すべき具体的な授業は何ら定められていないのであるから,これ
に基づく具体的な権利,利益を有するとも認められない。
以上によれば,平成11年9月,原告が被告との間で本件教員契約を締結
して本件短大の教員となった後,長年にわたり生物学,環境(保育内容)等
の授業を担当してきたこと等の事情を考慮しても,原告が,本件短大におい
て本件各授業をする具体的な法的権利,地位を有するものとまでは認められ
ない。
よって,原告の上記主張は理由がなく,本件確認の訴え1は,訴えの利益
を欠くものとして却下すべきである。
3本件確認の訴え2につき,確認の利益があるか(争点⑴イ)について
原告は,研究室を必ず備えるべきことを定めた大学設置基準等の定めによ
れば,本件教員契約には,研究室を提供する旨の合意が含まれているという
べきであるから,原告としては本件研究室を使用する地位を有すると主張す
る。
しかしながら,被告に,大学設置基準等の定めにより大学に課せられた研
究室の設置義務があるとしても,被告は,施設管理権を有し,上記2⑵のと
おり,研究・教育に従事する多数の教員の提供する役務を合目的的に管理し
統括する必要があることからすれば,大学教員において,研究室の設置を受
けることができるとしても,ある特定の研究室を排他的に使用する法的権
利,地位があるとまでは認められない。
よって,原告の上記主張は理由がなく,本件確認の訴え2は,訴えの利益
を欠くものとして却下すべきである。
4本件職務変更命令の適法性(争点⑵イ)について
前記1及び弁論の全趣旨によれば,本件職務変更命令は,教員が行うべ
き本来的職務のうち,担当授業を免じ,研究及び学科事務に集中させるもの
であって,原告に対し,教員の本来的職務とは異質の負担を新たにかけるわ
けでもなく,何ら減給等の不利益を伴うものでもないことが認められる。原
告は,本件職務変更命令は配転命令であり,職務限定合意がある原告が同意
しない限り効力を有しないと主張するが,このような本件職務変更命令の内
容にかんがみると,原告の主張は採用できない。
しかし,前記2のとおり,原告が本件利益を有することは否定できない
ことによれば,業務上の必要性が存しない場合,不当な動機・目的をもって
された場合等客観的に合理的と認められる理由を欠くときには,本件職務変
更命令は権利を濫用するものとして無効になるというべきである。
そこで検討すると,まず,被告は,本件短大は,保育士及び幼稚園教員と
いった専門職を養成する性格の強い学校であるところ,原告は,視覚障害以
前の問題として,動植物の飼育・栽培という保育士や幼稚園教諭にとって必
須の事項につき,満足のいく授業を行うことができなかったから,教員とし
ての最低限の教育能力を欠いていると主張する。
しかし,保育所保育指針等は,飽くまでも保育所及び幼稚園における保育
又は教育方針を定めたものであり,保育士等を養成する大学に対し,必ず保
育所保育指針等を網羅的に授業に取り入れることまでを要請したものではな
いと解される。環境(保育内容)の授業において動植物の飼育・栽培を取り
入れるべきではないかという点は,平成26年より前から本件学科内で指摘
があったが,原告は,その時点では,授業に取り入れることは無理であると
答えた。しかし,原告は,平成26年6月28日,教員による授業参観後の
ミーティングにおいて,保育所保育指針等の内容に即し,動植物の飼育・栽
培を盛り込むべきであることが改めて指摘され,この時点においては視覚補
助が得られていたことから,平成27年度の環境(保育内容)の授業に,ミ
ニトマトとサツマイモの栽培を取り入れたことは前記1⑼で認定したとおり
である。被告は,平成27年度の環境(保育内容)で取り入れられたサツマ
イモ等の栽培が不十分であったと主張し,証人Fは,同年度,環境(保育内
容)で収穫したサツマイモは本当に小さくて,こういう小さい芋を作るのは
逆に難しいのではないかなどと証言するが,動植物の飼育・栽培は,飽くま
でも子どもに「身近な動植物に親しみを持ち,いたわったり,大切にしたり,
作物を育てたり,味わうなどして,生命の尊さに気付く」(保育所保育指針
第三章1(二)ウ(イ)⑦)ことを涵養させ得る保育者等を養成するために行う
ものであり,収穫そのものが目的でないと解されるから,その成果は収穫の
多寡で計られるものではなく,平成27年度の環境(保育内容)で取り入れ
られたミニトマト及びサツマイモの栽培が授業内容として不十分であったと
はいえないし,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。また,被告と
しては,全学的な教育の質保証の体制を構築していると主張するところ,本
件学科のFD会議,教授会等においては,学生の学習成果,教育の方法・実
践,学生のニーズの点検・評価と,評価に基づく改善・充実を図るためのP
DCAサイクルが実施されており(乙3の3),教員個々が自己点検シートを
持ち寄って,授業内容につき問題はないか,FD活動に十分活かせているか
等の検討,また,各科目の定期試験問題の相互検討等が行われているところ
である(乙25,28等)。また,本件学科においては,平成21年度から
教員による授業相互参観が行われるようになり,教員相互で授業を参観した
上,担当教員に関する項目として,「担当教員は授業の準備を十分にしてい
たか」「授業の進め方(進度,ペース)は適切であったか」「授業内容は明
確であったか」等,また,学生に関する項目として,「学生は積極的に興味
や関心をもって授業に参加しているか」「学生は授業中には授業をさまたげ
るような私語を慎んでいるか」等の項目につき5段階評価を加え,それらを
踏まえ,授業参観による教育内容改善の取組として,FD会議等において,
教員各自の改善計画につき議論,検討が行われていることが認められる(乙
26,27,32,35)。そうすると,仮に,平成27年度の環境(保育
内容)で取り入れられたミニトマト及びサツマイモの栽培に何らかの不十分
な点があったとしても,それは,本件学科内で行われているこのような教育
内容改善のための各種取組の中で検討を重ね,是正されていくべき事柄であ
り,直ちに教員として最低限の教育能力を欠くことにはならないというべき
である。
ア次に,被告は,原告の授業内容は,環境設定の指導や理論的フィードバ
ックが全くなされず,単なる「遊び」や「ゲーム」で構成されていたこと
から,保育理論・幼児教育理論の実践というよりも,文字どおり「幼稚園
の授業そのもの」とでもいうべきものであったと主張する。
しかし,前記1によれば,原告が授業を担当していた環境(保育内容)
は,保育所保育指針等における「環境」の教育的狙いが「周囲の様々な環
境に好奇心や探究心をもってかかわり,それらを生活に取り入れていこう
とする力を養う。」であるから,保育所保育指針等に記載されている内容
を踏まえた計画・実践を行い,このねらいを達成するための力となる基礎
的知識・技術を獲得することを目標とする演習形式での授業であるが,そ
こでは,自然遊び・科学遊び・室内ゲームの演習により,3~5歳児に対
する自然や地域・物的環境を活用した保育活動の手法を,危険予知トレー
ニングの演習により,安全・安心な活動を行うための環境づくりや準備に
対する考え方・方法を学ぶことが期待されているのである。また,卒業研
究は,幼児教育学科のなかでも中核となる科目のなかから,主として専任
教員が各自の専門分野に関し,演習形式によって開講されるものであり,
原告の卒業研究は,環境に関するもので,平成27年度は,卒業研究とし
て,11月に「子供といっしょに発表会」という,幼稚園児を呼び,学生
らが作成したゲーム及びクイズで遊ばせるというイベントを行うというも
のであった。
そうすると,原告の授業が「遊び」や「ゲーム」で構成されていたとし
ても,直ちにこれが問題ということではなく,仮に,学習効果に乏しい面
があったとすれば,それは,環境設定の指導や理論的フィードバッグに不
十分な点があったことが理由と考えられるが,そうだとしても,これまで,
本件学科のFD会議,教授会等において,この点が正面から指摘され,検
討対象となった形跡は見当たらない上,そもそも原告は,平成11年9月,
被告との間で本件教員契約を締結して本件短大の教員となった後,長年に
わたり生物学,環境(保育内容)等の授業を担当し,平成19年には被告
により本件短大の准教授に任じられたものであるから,これは,被告が原
告につき准教授としての資質,能力があると判断したことの証左である。
さらに,これまでの教員同士による授業参観の内容や,学科教員会議での
検討内容等を踏まえても(乙26ないし28),視覚障害以前に,原告の
資質,能力に根本的な問題があることを指摘された形跡や,それをうかが
う事情は見当たらないし,本件学科内で実施されている授業アンケートの
結果からも(甲62),原告の授業は学生に一定程度支持されていたこと
が認められるから,原告の授業内容が,単なる遊び等であったとはいえず,
学生が学習成果を上げるのに不十分な内容であったとは認められない。
イところで,平成27年11月,卒業研究の学生である本件受講生が,概
要,「毎回,鬼ごっこやかくれんぼなどをして遊ぶばかりで,自分がイメ
ージしていた授業内容とは異なる」「授業中に,毎回お菓子を食べること
もおかしいと感じている」「お菓子だけでなく,授業中に教室でラーメン
を食べていて,教員もそれを注意しない」との本件苦情申立てをしたこと
は前記1⑿のとおりであるところ,証拠(乙38,39,41,原告本人)
及び弁論の全趣旨によれば,同年度の卒業研究においては,授業中に,鬼
ごっこやかくれんぼ,体育館でバスケットボールやドッジボールをするな
ど,中には卒業研究の内容とは直接関係が乏しいと思われるゲームをする
ことがあったこと,その意図を計りかねるなどして,これに不満を持つ学
生が複数人いたことがそれぞれ認められる(そして,それらの学生は,1
2月18日4限のゼミは,クリスマス会をすると言われたが,授業に出る
意味がないと思ったので,ボイコットした。)。
しかし,前記1⑿で認定したとおりの本件ヒアリング概要の内容及び原
告本人の供述によれば,平成27年度の卒業研究においては受講生間の人
間関係に難しい面があったこと(本件ヒアリング概要によれば,当時,卒
業研究のメンバーは冷戦状態で,最悪の雰囲気だったという。)を踏まえ
ると,原告は,卒業研究の開始に当たり,まず1年生と2年生との関係づ
くり,人間関係づくりをしようと考え,授業においてドッジボール等をさ
せたものと認めることができる。前記1で認定したとおりの卒業研究の
内容からしても,学生間の団結力が必要であるといえるから,そのような
卒業研究において,原告が,まず人間関係づくりのため学生にドッジボー
ル等をさせることにはまったく理由がなかったとはいえず,このことから
直ちに原告の准教授としての能力,資質に問題があるということはできな
い。
さらに,被告は,原告の授業においては,雑談,読書,睡眠,無断退出等
が横行するなど,いわゆる「学級崩壊」同然の状態が生じており,受講生の
中には,授業中に菓子等(時にはカップラーメン)を食べる者さえいる状況
であったが,原告は,これを黙認・放置するばかりか,あまつさえ授業中に,
自ら学生に菓子を配ったりする有様であったと主張し,証拠(乙38,39,
41,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,多かれ少なかれ,原告の授業
には上記のような実態があったことが認められる。
しかし,授業中の飲食の点については,前記1,のとおり,原告は学
生らに対し謝罪し,A学長に対し本件始末書を提出するなどして再発防止を
誓っているところであり,改善が見込めないとはいえない。その他の雑談,
読書,睡眠,無断退出等の点については,そもそも事理弁識能力が備わって
いるはずの短大生の上記のような問題行動につき,その全てを原告の責めに
帰すことは適切ではない。また,原告は,平成27年度につき,卒業研究に
ついては補佐員の視覚補助なしで授業を行い,環境(保育内容)については
視覚補助を得て授業を行っていた(前記1⑾)ところ,補佐員のBは,被告
に対し本件誓約書を提出していたこともあり,Bが,授業中に授業以外のこ
とをしている学生を直接注意したり,そのような学生がいることを授業中に
原告に伝え,指示を仰ぐことは自制していた(証人B)(この点,本件誓約
書の内容は前記1⑺のとおりであったから,Bが学生に直接注意したり,学
生に問題行動があることを原告に伝え,指示を仰ぐことが必ずしも禁じられ
ていたということはできないが,Bが自制していたことは認められるし,B
としても,ボランティアとして点訳の経験はあったが,これまで視覚補助を
した経験はなかったから(前記1⑹),対応にちゅうちょするところがあっ
たであろうことは容易に推察されるところである。)が,平成28年度以降
は,私費とはいえ全ての授業につき補佐員の視覚補助を受けて授業を行う意
向を示していたのであるから(前記1),今後,原告が卒業研究を含む全
授業につき視覚補助を受けるとともに,被告と協議するなどして,有効,適
切な視覚補助の在り方に改善すれば,原告の授業の一部にみられた学生の問
題行動については対応可能と認められる。証拠(乙32)及び弁論の全趣旨
によれば,平成26年度の環境(保育内容)については,教員相互の授業参
観後のミーティング等において,授業開始直後や終了間際,学生達がざわつ
いて落ち着きがない,授業最初から最後まで緊張感を持てるような指導が必
要という指摘や,遅刻や私語に対する注意がない,特に遅刻については理由
を聞くなどのその場での指導が重要等の指摘がされており(乙32),また,
F教授は,平成26年5月頃,原告に対し,授業中に学生が教室から抜け出
して携帯電話を操作しており,教室に戻るよう指導したが,補佐員がどの程
度役に立っているのかと思ったなどとのメールを送信していることがそれぞ
れ認められる(乙29)。しかし,本件学科内で,学生の問題行動につき,
全体としてどのように指導していくか,あるいは,原告に対する視覚補助の
在り方をどのように改善すれば,学生の問題行動を防止することができるか
といった点について正面から議論,検討された形跡は見当たらず,むしろ,
望ましい視覚補助の在り方を本件学科全体で検討,模索することこそが障害
者に対する合理的配慮の観点からも望ましいものと解される。
被告は,原告は試験の採点も明かにずさんであるとか,平成25年7月3
1日には,被告の個人情報管理責任者の承認を経ることのないまま,定期試
験の採点支援を学外の「友人」に依頼することがあり,結果として,学生の
答案という極めて機微な個人情報を部外者に開示してしまうという事態ま
で生じさせていたと主張するが,後者の点は解決済みの問題であり,前者の
点につき,これを認めるに足りる的確な証拠はない。
以上によれば,被告が本件職務変更命令の必要性として指摘する点は,あ
ったとしても被告が実施している授業内容改善のための各種取組等による
授業内容の改善や,補佐員による視覚補助により解決可能なものと考えら
れ,本件職務変更命令の必要性としては十分とはいえず,本件職務変更命令
は,原告の研究発表の自由,教授・指導の機会を完全に奪うもので,しかも,
それは平成28年度に限ったものではなく,以後,原告には永続的に授業を
担当させないことを前提とするものであるから(乙54,A学長本人,弁論
の全趣旨),直ちに具体的な法的権利,地位とまでは認められないにせよ,
原告が学生を教授,指導する本件利益を有することにかんがみると,原告に
著しい不利益を与えるもので,客観的に合理的と認められる理由を欠くとい
わざるを得ない。
そうすると,本件職務変更命令は,権利濫用であり無効と解するのが相当
であるから,原告には本件職務変更命令に従う義務はないと認められる。
5本件研究室変更命令の適法性(争点⑵ウ)について
大学教員において,ある特定の研究室を排他的に使用する法的権利,地位が
あると認められないことは前記3で認定・説示したとおりであるが,本件研究
室変更命令がされた経緯及び証拠(乙54,A学長本人)及び弁論の全趣旨に
よれば,本件研究室変更命令は,今後,原告には授業担当を免じ,研究及び学
科事務に集中させる旨の本件職務変更命令を前提としたものであると認めら
れるところ,同命令は権利濫用であり,無効と解すべきことは前記4で説示し
たとおりである。
加えて,証人Fの証言によれば,F教授は,従前,キャリア支援室を研究室
として使用していたことがあったが,キャリア支援室を使用しながら別の研究
室も与えられており,当該別の研究室から備品等を全てキャリア支援室に移す
ことは不可能であったというのであるから,原告も,キャリア支援室のみを研
究室として使用することは困難であると認められる。
以上によれば,本件研究室変更命令は,本件職務変更命令と密接不可分な業
務命令として,また,使用困難な研究室への変更として,客観的に合理的と認
められる理由を欠くものであって,権利濫用であり無効と解すべきであるか
ら,原告には本件研究室変更命令に従う義務はないと認められる。
なお,本件研究室変更命令は,本件職務変更命令に伴うものであるから,そ
の発令日は平成28年3月24日付けと認めるのが相当である。
6原告が本件研究室を排他的に使用する権利を有するか(争点⑵オ)について
原告は,善意無過失で平穏に本件研究室を占有しているところ,退職勧奨と
しての業務命令は不法行為であるから,原告は,人格権に基づいて本件研究室
の明渡しを拒むことができると主張するが,大学教員において,ある特定の研
究室を排他的に使用する法的権利,地位があるとは認められないことは前記3
で認定・説示したとおりである上,人格権に基づき原告が本件研究室を排他的
に使用する権利が基礎付けられるともいえない。
よって,原告の上記主張は理由がない。
7被告が本件職務変更命令等をしたことが原告に対する不法行為を構成するか
(争点⑵カ)について
前記4及び5で認定・説示したとおり,本件職務変更命令及び本件研究室
変更命令は,いずれも権利濫用であり無効と解すべきところ,原告は,これ
により平成28年度,授業をすることができず,したがって,更に学問的研
究を深め,発展させることができず,本件利益が侵害されたのであるから,
原告に対する不法行為を構成するというべきである。そして,この不法行為
は,本件利益が准教授である原告にとって重要な意義を持つところ,原告に
授業を全く担当させないものであるし,前記5のとおり事実上使用が困難と
認められる部屋を研究室とするよう命ずるものである。また,被告の報告書
(乙54)によれば,被告は,原告に,本件職務変更命令後の担当事務とし
て,本件学科全教員で分担している事務処理の中から手伝いが可能な作業の
分担を考えているとしており,また,その作業も,質的判別を伴うものでは
なく,量的な情報を基にした整理や数値情報の検出などをさせることを意図
していたと認められ,そのことを文部科学省に報告するとともに(乙54の
証拠説明書参照),対外的にも,平成28年度の被告のパンフレットの教員
紹介欄から原告を外すなどしていることが認められる(乙2)。そうすると,
本件職務変更命令及び本件研究室変更命令が,本件利益を侵害するものであ
るというだけでなく,上記のような被告の対応により,原告は精神的苦痛を
被ったというべきである。これを慰謝するには,慰謝料として100万円の
支払を認めるのが相当であり,本件事案の性質,内容,認容額等にかんがみ
れば,弁護士費用相当損害金としては10万円と認めるのが相当である。
原告は,本件職務変更命令の実質は,違法な退職勧奨であると主張するが,
被告は,職位・給与の異動は行わないことにしたことが認められるから,本
件職務変更命令の実質が直ちに違法な退職勧奨であったとまでは認められ
ない。
また,原告は,退職強要を目的として,原告に対する隔離,仲間外し,無
視等の人間関係からの切り離しがあったと主張するが,いずれもこれを認め
るに足りる証拠はない。証拠(甲28,29,81,82,乙2)及び弁論
の全趣旨によれば,本件後,本件学科の会議等において原告の席順が変更さ
れたこと,電子メールでの教授会の議事録等の配信が停止されたこと,新入
生オリエンテーション等の学科行事において原告が研究室待機を指示された
こと,FD会議後の会議に原告が参加していないことなどが認められるが,
それらは,いずれも一応の理由を有するもので,不当な目的によるものと断
定することはできない。卒業式のリハーサル及び退職教員への記念品贈呈の
セレモニーに原告が参加した際,他の教員が移動介助をしようとしたが,C
教授が「いけない。」と制止したことがあった(原告本人,証人C)。しか
し,証人Cの供述によれば,その発言は咄嗟に出た個人的なものであったこ
とが認められ,退職強要を目的とする被告による人間関係からの切り離しの
ためのものであったとはいえない。
さらに,被告は,本件訴訟において,被告の主張と同旨の被告の教員らの
陳述書を多数提出している(乙56ないし60,64,65,67)が,そ
の内容は,原告を不当に貶めるものとまでは認められないから,上記各陳述
書を提出した行為が,不法行為に当たるとはいえない。
⑶したがって,原告の不法行為に基づく損害賠償請求は,110万円の支払
及びこれに対する不法行為日の後である平成28年5月26日(平成28年
5月24日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所
定年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり,その余は理由
がない。
第4結論
よって,原告の本件訴えのうち,本件各授業を担当する地位にあることの確
認を求める部分及び本件研究室を使用する地位にあることの確認を求める部
分は,いずれも不適法であるから却下することとし,本件職務変更命令及び本
件研究室変更命令に従う義務のないことの確認請求並びに不法行為に基づく
損害賠償請求のうち110万円及びこれに対する平成28年5月26日から
支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分はいずれも理由が
あるから,この限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第1民事部
裁判長裁判官善元貞彦
裁判官松永晋介
裁判官武田夕子
別紙2
授業目録
1一般教養科目
生物学
2専門教育科目
環境(保育内容)
教職実践演習
卒業予備研究(環境)
卒業研究(環境)
以上

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